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Yaesu Musen FRG-7

Shortwave Communications Receiver
(1976)




Yaesu Musen FRG-7



選ばなかったY字分岐

    友人が買った ICF-5800 の性能の高さをまざまざと見せつけられ、 それでもあきらめずに RF-877 を使い続け、 毎朝暗いうちに起きて牛乳配達に励んでとうとう手にした RF-2200 。 10/2kHz直読可能・選択度切り替え機能は強力な武器でした。

    その時はすでに引っ越して遠くに行ってしまった友人、ヤツは ICF-5900 に買い替えるかなと思っていたら、彼が選んだのは 八重洲FRG-7。 同社のFT-101ラインのデザインスキームを受け継ぐ通信型受信機です。 本気だな、と思うと同時に、 R-300でもSSR-1でもなくてFRG-7を選んだ友人はやはり「分かってる」んだなと感じられ、 そんな友人を持ったことをこっそり誇りに思っていたりもしました。

    私はというとやはり実際に電波を飛ばしてみたいという想いが強く、 夜明け前の配達を続けて中学1年で電話級を取得し IC-502 で開局へ。 Y字分岐のすぐ先にあったFRG-7への道は通らなかったのです。





未だ見ていない世界

    2019年07月20日、所用で某県某市へ。 市内で数時間待機する必要があり、どこかのカフェにでも入って本でも読んでいようか。 あ、でもさっき通ってきたところにリサイクルショップがあったね。

    思いのほかいろいろ強く興味を引く品物が置いてあったそのショップ、 しかし買うのは何か一つだけと奇妙な自制心が働いて、 それならやっぱりこれだ、 ここで見送ったら絶対後悔する。

    ジャンク扱いだけれど外観極上、値段は納得のいくもの。 毎日広告の写真を眺めていた日々から43年。 ラボにやってきたFRG-7はまるで新参者の印象はなく、 むしろおかえりなさいという感じ。 それにしてもこいつはハンサムだなあ!

    電源を入れるとダイヤル盤のランプが暖かく燈りました。 実機は過去一度も触ったこともなかったのですが、 FRG-7はワドレーループ方式、 MHzダイヤルを回してワドレーループがロックするとLOCKランプが消える。 中学1年生の記憶は思い出す必要などなく残っていました。 そしてMHzダイヤルを回すと・・・ 赤色LEDはどうやっても点灯したまま。 ボリュームをフルに上げるとかすかに無信号ノイズが聞こえ、 MODEスイッチをLSBに切り替えるとSSB受信時に独特のサーッという音になります。 おそらく第2中間周波・第3中間周波・BFO・検波・低周波増幅の各段はおそらく動作しています。 しかしLOCKランプは消えない。 ということは、FRG-7自慢のワドレーループが死んでいる。

    外観極上の、ワドレーループが死んだFRG-7。 これ以上に素晴らしいコンディションは考え付きません。 別の道に入ってしまった中学1年のY字路分岐。 このFRG-7との旅は、入ることのなかったY字分岐に入り、 いままで見ることのなかったワドレーループの世界を楽しむ旅になるはずです。 これは楽しみだ!

    でもまあ、あわてることもないでしょう。 順番からいったら、修理しかかりで放置している 八重洲FR-50 をひととおり仕上げる方が先ですね。 FRG-7はホコリがつかぬようソフトクロスを掛け、 ラックのサービス待ち機の仲間入り。

2019-07-20 FRG-7購入 ワドレーループ動作せず故障を確認 修理待ちキューに追加


Yaesu Musen FRG-7




八重洲無線 FRG-7

(このセクションは修理作業を進めたあとに振り返りのまとめとして書いています。書きかけ。)

RF UNITボード

    メインシャーシに取り付けられた2枚のプリント基板の一つが、RF UNITです。 このボードには、プリセレクタ・高周波増幅段・第1周波数変換段・第2局部発振周波数発生器・第2周波数変換段が設けられています。 大雑把に言えばこのボードは、アンテナからの信号を増幅し、3MHz〜2MHzの第2中間周波数として出力するのが役目です。






いよいよY字分岐の先へ

    コロナ禍2年目、夢と時空の部屋の整理を続ける中、床置き放置品を優先にと思い SONY DoDeCa Horn CD CFD-500 の電源が入らない故障を修理しようとしたものの、調査中に動作しはじめ、 原因追及できず。 内部清掃してケースを閉じたら、症状再発。 一気にやる気がなくなりました。 アイワTPR-840 ほどではないにしろ、 ラジカセはほんと修理しにくいねえ。 次は整備しやすそうな構造のもの、かつチャレンジしがいのあるものをいじりたいなあ。

    2021年8月、 100MHzを観測可能なデジタルストレージオシロスコープ は完全稼働状態になったし、9月には 0.01Hzを測定できるユニバーサルカウンタ の修理にも成功して、いつでも使える状態になりました。 この二つは、それとはっきり意識して修理したわけではありませんでしたが、 考えてみるとFRG-7修理の前準備として作業したようなものです。 準備はできた。 いよいよ43年前のY字分岐に立とう。 FRG-7、修理開始。

    電源を入れると、フロントパネルのダイヤル照明ランプが点灯しますが、 MHzダイヤルつまみを回しても赤色LEDのLOCKランプは消えません。 自慢のワドレー・ループが動作していないのは明らかです。 ボリュームつまみをフルに上げても、わずかなヒスノイズが聞こえるだけ。 これは2019年の入手時と同じ。 すぐにケースを開け、 回転ワークテーブルに載せました。



    外装はとてもきれいで使用感もわずかですが、中もとてもきれいです。 目視で気づくような異常もありません。 トランジスタ機だからということもありますが、 内部コンポーネントの配置は整然としていて、 ワイヤーハーネスは少なく、 整備性はとても良さそうです。



    FRG-7のオーディオアンプはAN214ひとつによるICパワーアンプ。 AMダイオード検波、あるいはリングダイオードによるプロダクト検波の出力が、 3段切り替えのパッシブトーンコントロールを通過した後にICパワーアンプに加えられます。

    受信機のバックグラウンドヒスノイズは聞こえるのでオーディオ段は正常と思われますが、 まずは何はともあれの最初のステップ。 ボリュームコントロールのホット側にラインレベルのオーディオ信号を注入して、 オーディオ段の様子をみます。 うん、ハムもノイズもなく顕著なひずみもなく、 正常と思える音量でフロントパネルの楕円型スピーカから音が出てきました。 オーディオ段に問題はないようです。

    フロントパネル楕円スピーカの音質は当然ながら口径なりの音しか出ませんので、 リアパネルの外部スピーカジャックにワーフェデール ダイヤモンド225をつないでみました。 ライン入力を直接入れているわけですが、 低域・高域は適度に減衰されていて、AMラジオ以上FMラジオ以下の音です。 用途目的を考えれば変なところはありませんね。 むしろ適切なチューニングです。

    フロントパネルのRECORDINGジャックはボリュームコントロールポテンショのホット側から抵抗1本を介して取り出しているだけなので、 オーディオ段をテストするにはここからオーディオ信号を入れればいいねと思ったのですが、 試してみるとひどくひずんだ音になってしまいます。 はてこれはどうしてだろう。





    FRG-7のオーディオアンプでジャズアレンジを聴きながら各部を観察。 内部にホコリは溜まっていますが、 破損や焼損は見られず、サビや腐食もほとんどなく、 保存状態は良好です。 オーナーはタバコは吸わず、毛足の長い絨毯が敷かれた部屋で暮らしていたようですね。 経済的にゆとりがある家庭の中学生だったのでしょうか。 妬ましいなあ。

2021-09-25 FRG-7修理開始 オーディオ段の正常動作を確認






ワドレーループを学ぶ

    私はFRG-7の実機を触ったのはジャンク品扱いのこれを買った2019年が初めてでしたし、 ワドレーループの原理は本で概要を読んだくらいのもので、なにやらドリフトをキャンセルする回路らしい、 くらいの理解でしかありません。 どうしてワドレーループが周波数ドリフトをキャンセルできるのかを具体的には説明できないし、 なんだかとても複雑な機構なのだ、くらいの認識です。 幸いにオペレーションマニュアルと回路図が入手できましたから、 それを読んでワドレーループをゆっくり勉強していきます。

    回路図を読むと、あれ? 予想していたことと違う。 フロントのLOCKランプは、 「回路内の周波数の関係が、ドリフトをキャンセルするためのフィードバックループの制御可能範囲内に入った」 のような意味なのだろうと長く・・・中学1年のころから・・・ 思っていました。 しかし回路図では、 LOCKランプは単純に第2局部発振周波数のレベルがある程度以上になると消えるように作られています。 LOCKランプが消えないということは、 52.5MHz 第2局部発振周波数信号が生成できていないということです。

    第1局部発振周波数はOSC UNITと名付けられたVFOのトランジスタ1石で発振されていて、 第1周波数変換段に送られています。 いっぽうその周波数はなんだかややこしくて複雑な回路にも送られていて、 HG UNITと呼ばれる発振器からの信号とミックスされ、 その出力が第2局部発振周波数として出力される仕組みになっています。 どうやらこのややこしい部分がワドレーループの中核部に違いない。 そして、このややこしい部分が第2局部発振周波数を作れずにいるわけだ。

    この「ややこしい部分」をじっくり読み進めました。 HG UNITという名称はハーモニック・ジェネレータの意味らしく、 1MHzとそのn次高調波 (ただし3MHz〜32MHzだけ出すようなフィルタ入り) を出力しています。 いっぽうOSC UNITは単なる1石VFO。 この二つの信号が、プリミキサに入ります。

    プリミキサの実体はSN76514バランストミキサです。 なるほど、であれば、 OSC UNITの出力周波数をfLO1と書くことにすると、 バランストミキサの出力には fLO1±3MHz / fLO1±2MHz / fLO1±3MHz ・・・ fLO1±32MHz 、 の周波数成分が含まれることになります。

    バランストミキサの出力は、3段構成の増幅回路に入ります。 この増幅回路は入力・2つの段間・出力のそれぞれに2つの疎結合IFTがあり、 合計で8つのコイルが使われています。 ここがセレクティブ・アンプリファイヤで、 様々な周波数成分が含まれているバランストミキサから52.5±0.1MHzの成分だけを取り出して増幅し、 第2局部発振周波数として出力します。

    つまり第2局部発振周波数が出力されるということは、 第1局発周波数が52.5±0.1MHz±nMHz (nは3〜32の整数) になっている、ということです。

    そしてフロントパネルのLOCKランプが消えたということは、 第2局発周波数が生成できているということと同時に、 第1局発の周波数がそういう周波数の範囲に入っている、 ということを意味します。

    さあ、そうなると、LOCKランプが消えないということは、

  • 第1局発 (OSC UNIT)が出力できていない
  • ハーモニック・ジェネレータが出力していない
  • バランストミキサが動作していない
  • セレクティブアンプが出力していない
  • LED消灯制御回路が壊れてLEDを消せずにいる

  • のどれかだ、ということになります。 なので、これらのひとつひとつが正しく動作しているのかどうかを確認していくようでしょう。

        LOCKランプ制御回路が故障していてランプを消せずにいるのであれば、 ランプは点灯したままでも何かしらを受信できるはず。 受信機は全く無感ですから、LOCKランプ制御回路はとりあえずシロだと考えます。

        ところでアレだな、 ワドレー"ループ"っていう割には、 回路のどこにもフィードバック制御ループなんてないんじゃん。

    2021-09-25 ワドレーループの動作を学ぶ





    ハーモニックジェネレータ

        ハーモニックジェネレータユニットの出力信号を見てみます。 ここが発振していなければ第2局発信号は生成できませんから。

        テクトロニクス2230デジタルストレージオシロスコープ をつないでみると、 リンギング状の振動を伴った1MHzのパルスが見えました。 む、ここは肩がなだらかになった矩形波のようなものだろうと推測したのですが。 ここの正常な波形がどのようなものかを記した資料を持っていないので、 この波形で良いのかどうかの判断がつきません。 いっぽう周期は正確に1μ秒なので、 1MHz基準周波数水晶発振子と水晶発振回路 - FRG-7マニュアルではシンセサイザ・オシレータと呼ばれています - は動作しているようです。

        パルス状部の振幅は60mVp-p。 1:10プローブが負荷になってしまい低く見えているのかもしれませんが、 これは低すぎやしないのかなあ。 ハーモニックジェネレータ出力はそのままSN76514バランストミキサICの5ピン、 ローカルオシレータ入力ピンに入ります。 76514の普通の使い方ならここの振幅は300mVとかのはずなので、60mVp-pは低すぎるような気がするのですが。

    2021-09-25 ハーモニックジェネレータ出力波形を観察






    第2IF以降は正常

        いきなり故障の核心を追及する前に、どこは正常なのかも調べないといけませんね。 目黒MSG-2161シグナルジェネレータで2.750MHz 50%変調AM 40dBμの信号をつくり、 IF-AFボードの第2中間周波数に入れてみます。 すると、メインダイヤル250kHzの位置で正常に音が出てきました。 Sメータも振れています。 第中間周波段以降の全段は正常に動作していると判断していいでしょう。

        ここからは2.5MHz注入でジャズアレンジを聞きながらの作業にします。

    2021-09-25 第2IF以降の全段の正常動作を確認





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    52.5MHzセレクティブアンプとLOCKインジケータ回路

        プリミキサSN76514が壊れていて、 第1局発信号とハーモニックジェネレータの出力をミックスした信号を作れずにいるのかもしれません。 それならプリミキサ出力の代わりに、 第2周波数変換段に外部から52.5MHzを注入してみたらどうだろう。

        試してみようと思いましたが、ラボには52.5MHzの安定した信号を発生できるシグナルジェネレータはありません。 でも52.5MHzというのは6メーターバンドのアマチュア帯ですから、 50MHz帯で運用できるトランシーバにダミーロードでもつないで送信してやればよさそうですね。 安定かつ正確に52.5MHzでキャリアを出せる機材として、 IC-7000M / IC-702MK2GM / TS-60D それにIC-551Dがあります。 あ、でも無変調FMでもいいならIC-T90もあります。 これが一番手軽ですね。

        試しにローパワー出力にセットしたIC-T90で52.5MHzでカーチャンクしてみたら、 おお、すぐ近くのFRG-7のLOCKランプが、 何もつないでいないのに消える!

        これは、IC-T60で送信した52.5MHzの電波がセレクティブアンプに飛び込んで増幅され、 LOCK LED制御回路を駆動したことを意味します。 どうやらセレクティブアンプは動作していると見えます。

    2021-09-25 セレクティブアンプの動作を確認



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    受信できている!

        何の気なしにMHzダイヤルつまみを回したら、 隣に置いてあったIC-T90がザザッと反応しました。 IC-T90は52.500MHzに合わせてあります。 これは? あっ、FRG-7の第2局発の52.5MHzの漏れ放射をIC-T90が受信したんだ! FRG-7は自力で52.5MHzを生成できている!!

        ということは・・・ FRG-7のMHzダイヤルは28MHzにセットされています。 シグナルジェネレータで28.900MHz AM 50%変調 60dBuの信号をつくりFRG-7のアンテナ端子に入れると・・・ LOCKランプは点灯したままなのにもかかわらず、 FRG-7は28.900MHzを受信し始めました!!

        LOCKランプが消灯しなければワドレーループはロックしておらず、 だから全く受信なんてできないものだと思い込んでいました。 そうではなく、 LOCKランプが消えないということは第2局発の信号強度が十分ではないということであって、 第2局発信号がまったく生成できていないというわけではないのです。

        ・・・このFRG-7は死んではいない。 ただ、弱っている。 とても、弱っている。

    2021-09-25 受信動作していることを確認



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    第1局発出力を調べる

        第2局発信号強度が弱いのは間違いがありません。 第2局発52.5MHzが十分な振幅を得られない原因として考えられるのは、基本的には

    1) 第1局部周波数発振器 (MHzダイヤルで周波数可変) の出力が弱い
    2) ハーモニックジェネレータ (HGユニット) の出力が弱い
    3) プリミキサ (SN76514 ダブルバランストモジュレータ) が劣化している
    4) セレクティブアンプのゲインが不足している

    のどれかであるはずです。 すでにOSC UNITの第1局発は発振していることをオシロスコープで確認してはいましたが、 ここをきちんと見てみます。





        MHzダイヤルの位置で第1局発出力レベルがどう変わるかを見てみました。 結果は右表。 MHzダイヤルが20MHz以上にあるときは第1局発は実用的な出力を出していますが、 16MHzあたりから、周波数が低くなるほど発振出力は下がっていきます。 12MHzではほとんど発振停止状態になり、受信機は機能を停止してしまいます。

        最初電源を入れて試したときはこの受信機は「何も聞こえない」ものと判断してしまいましたが、 正確には「15MHz以下で感度を失う」のです。 20MHz以上には強力な短波放送局はいませんから、 受信できるかどうかを試したときには25MHzとか28MHzとかにはダイヤルを合わせてもみなかったのです。

        いやでもまてよ、この手の症状、記憶があるなあ・・・ いまから24年前、 SBE SB-34バイラテラルトランシーバ がこの症状 - VFO発振停止 - を示していました。

    2021-09-26 OSC UNITが低いMHzポジションで発振停止に陥ることを確認






    OSC UNIT

        これは、第1局部周波数発振器の出力が弱くなっているのか、 それともその信号を受ける第1周波数変換段あるいはプリミキサの負荷が重くなりすぎて出力電圧を吸い込んでしまっているのか。 第1局部周波数発振器はMHzバリコンに直接取り付けられたOSC UNITとして実装されており、 その出力は短い同軸ケーブルでRF UNITボードに伝えられます。 この同軸ケーブルをRF UNIT側で切り離してみても、 OSC UNITの出力はMHzダイヤル位置が低くなると発振停止に至ってしまいます。 問題は、OSC UNIT側にある。

        OSC UNITの電源電圧は設計値9V。 実測してみると、8.89Vで安定しています。 電源は正常です。

        OSC UNITはトランジスタ1石による発振回路で、 経時変化で劣化しそうな素子はトランジスタくらいなものです。 トランジスタを交換してみましょう。

        いよいよ分解を伴う作業開始。 Sメータを外し、メインダイヤルドラムを外し、 MHzバリコンからOSC UNITを取り外します。





        使われていたトランジスタは2SC1923でした。 回路図では2SC784(O)なのですが、 これはランニングチェンジでしょうかね。

        ラボの在庫部品をみると、う、しまった、 高周波用に適した小信号トランジスタがない。 みな低周波あるいはローパワースイッチング用ばかりです。 在庫の中でトランジション周波数fTが高くてCOBがさほどには大きくないものを選び、 これを試そう、たった1本しかない2SC3068。

        トランジスタを交換し、OSC UNITをMHzバリコンに取り付け、 電源を入れてみると、 おお! MHzダイヤルの全域で発振しています。

        発振出力は400mVp-pほど。 オリジナルの2SC1923はMHzダイヤルの高い位置ならば500mVp-p越えで発振していたので、 それに比べると低いです。 が、300mVp-pあれば正常に動作するふうだったので、 今回はこのトランジスタでいきます。




        ただ、予期してはいましたが、MHzダイヤルの目盛りが大きく狂ってしまいました。 交換したトランジスタのベース・コレクタ間容量が大きいために起きたのはおそらく間違いありません。 信号の電圧が低いせいかSC-7202ユニバーサルカウンタで周波数を測ることができないので、 実際に受信できている周波数を知るためにシグナルジェネレータのダイヤルをガリガリ回します。

        MHzダイヤルは、 実際に3MHzロックのときMHzダイヤル目盛りは5.5MHz、 23MHzロックのときMHzダイヤル目盛りは30MHzです。 ずいぶんずれたなあ、 今や23MHz以上は受信できなくなってしまいました。

        さらにいろいろ試して、FRG-7から7MHzのアマチュアバンドが聞こえてきました!!

    2021-09-26 OSC UNIT Q201 2SC1923 を 2SC3068に交換 全域受信動作開始



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    MHzダイヤルを調整する

        MHzダイヤルのアライメントを取りました。 オペレーションマニュアルの記載内容をよく読まずにふんふん言いながら作業。 シグナルジェネレータで3.5MHzを出して3MHzセット位置をT201で合わせ、 29.5MHzを出してTC201で合わせ込み。 いい感じに合わせ込むことができました。

        後になってからマニュアルを読むと、3.5MHzでT201、27.5MHzでTC201を合わせるように指示されています。 まあほとんど正解だったね。

        LOCKランプは相変わらず消灯しませんが、 MHzダイヤルが合えば受信音が聞こえてきますので、 外部の計測器の助けを借りずに目的周波数に合わせることができます。

        今夜FRG-7で聴くのは9.795MHzのKNLSアラスカの英語番組。 調子よく受信できています。

    2021-09-26 OSC UNIT MHzダイヤル目盛アライメント実施






    HG UNITを点検する

        OSC UNITの発振出力はたぶん設計よりも低いままではあるものの、 とりあえず全周波数範囲で安定して動作しています。 つぎはハーモニックジェネレータユニットを見てみます。 現時点で52.5MHzの局発周波数は生成できているので動作してはいるわけですが、 出力が低すぎるような気がします。

        HG UNITは、シャシー下面でRF UNITから最大限遠ざけて設置されています。 ここでは1MHzとその高調波を意図的に発生させているわけですから、 その信号が受信信号系に飛び込んでしまってはいろいろ問題になるので、 十分に配慮されている、といったところでしょう。




        シールドケースで厳重に密閉された基板はきれいで、部品にも異常は見られません。 内部で劣化しそうな部品はトランジスタくらいなものですが、 1MHzを発振するシンセサイザ・オシレータに使われているトランジスタのコレクタ電圧は、 電源電圧を大きく超えて20Vp-p近くでスイングしています。 発振振幅は十分に思えます。




        シンセサイザ・オシレータが大丈夫なら、 つぎは1MHzから高調波を発生されるハーモニック・ジェネレータ。 これは1N60ゲルマニウムダイオード2本で構成されています。 この部分の波形はどのようなものが正しいのか、オペレーションマニュアルには書いてありません。 が、FRG-7ファンのブレテンボードにほとんど同じ波形の管面写真が掲載されていました。 おそらく本機のこれも正常なのでしょう。

        残るは、高調波の中から3〜32MHzの成分だけを取り出すフィルタですが、 ここは劣化したり調整がずれたりはしなさそうな作りなので、 故障はないはずだと考えます。

        すると、HG UNITは現時点の状態が正常なのだろう、と思われます。

    2021-09-27 HG UNITを点検 正常と判断する





    LOCKインジケータレベルを調整する

        52.5MHz局発出力レベルはいまだ低いのでなにか問題があるのは間違いがないのですが、 現状でMHzダイヤル操作して第1局発がロックしたときに時にLOCKインジケータが消灯するようにVR102を調整しました。 MHzダイヤル位置が高いほど第2局発振幅は弱くなるので、 MHzダイヤルを29MHzにセットした状態で調整します。

        オリジナル調整位置が赤油性ペンでマーキングされていたので、出荷時に戻すのは簡単ですし、 出荷時からどのくらいずれているのかがわかります。 ずいぶんずれているなあ、 本来はもっと第2局発が強いはずなんだ。

    2021-09-27 LOCKインジケータレベル調整





    Sメータを調整する

        Sメータの調整具合をみてみます。 オペレーションマニュアル記載の調整手順では、 アンテナ端子に100dBuの信号を入れ、 SメータがフルスケールになるようにVR401を調整しろ、とあります。

        MSG-2161の最大出力99dBuをFRG-7実機に入れてみると、 おおむねフルスケールになります。 おそらくSメータ周りは出荷時以降の劣化故障はなさそうです。 しかしシグナルジェネレータ出力を40dBuにしたときはメータの指示はS=9を超えています。

        今回はオペレーションマニュアル記載の方法ではなくて、 f=3.500MHzでシグナルジェネレータ出力40dBu (=100μV) のときにS=9となるようにVR401で調整を取り直しました。

    2021-09-27 Sメータ調整 40dBu=S9






    第2局発はひきつづき弱い

        シグナルジェネレータの3.500MHzを受信中。 第2局発52.5MHz、つまりセレクティブアンプの出力の振幅は200mVp-pしかなく、 オペレーションマニュアルによればここは500〜600mVになるとのことなので、 明らかに弱いです。 局発が弱いと感度が上がらないでしょうからね、 受信機としては安定に動作しているのですが、 ベストパフォーマンスには至っていないはずです。 ひきつづきの調査と対応が必要。

        メインダイヤルが500kHzのとき、 第3局発 (メインダイヤルVFO発振出力) は2.955MHzになるはずですが、 実測してみると 2.9584kHz。 8kHzほどずれていますね。

    2021-09-27 第3局発の周波数を測定









    セレクティブアンプは改造されている?

        OSC UNITに使われていたトランジスタは顕著な性能劣化を示していました。 ひょっとするとセレクティブアンプのトランジスタも同様な劣化を示しているのかもしれません。 ひととおりは動作していると思われるセレクティブアンプですが、 よく見てみることにしました。

        RF UNIT基板には半田面にいくつか部品が手付けされていることは開けたときから気がついていましたが、 これらの追加部品はセレクティブアンプ回路に集中しており、 オペレーションマニュアル掲載の回路図には記載されていません。 これらはどういった経緯によるものなのでしょうか?

        八重洲によるランニングチェンジかもしれないし、 八重洲のサービスブレテンに従った改造なのかもしれないし、 SIG機関紙に掲載された改造事例を取り入れたものかもしれないし、 この個体の前ユーザによる研究改造なのかもしれません。 当時を知らない私には判断がつきません。 ちょっと調べた範囲ではこの部分の改造がユーザコミュニティ内で常套のものとして行われていたようには見えません。

        まずひとつ、 T110の本来空きピンをGNDに落としている56kを切り離してみました。 するとTP110の52.5kHz出力は1/3に落ちて受信機感度は下がってしまいました。 いったん元に戻し、もうすし観察を続けることにします。

    2021-09-28 抵抗切り離しトライ





    セレクティブフィルタを調整する

        セレクティブフィルタ - セレクティブアンプの怒涛の8連トランスを調整してみました。 オペレーションマニュアルには通過帯域を100kHzとるように調整手順が指定されています。 この通過帯域は、運用中のOSC UNITの発振周波数つまり第1局発周波数の変動量よりは広く取っておく必要があります。 もし同調がシャープすぎて通過帯域が狭いと、 第1局発がその範囲を超えてドリフトしてしまったときに感度が急激に下がってしまうこととなってしまいます。

        ともあれまずは8つすべてのトランスを52.500MHzにピークを取ってみました。 結果、23.5MHz受信時の第2局発52.500MHz出力は300mVp-p以上出るようになりました。 通過帯域が狭すぎるようなことはなく、実用上問題ないと思われます。

        これにあわせてLOCKランプレベルを再調整しました。

    2021-09-28 セレクティブフィルタ調整





    セレクティブアンプの改造を原状復帰する

        T110のトランス巻線のNCピンを56kΩでGNDに落とす改造、 抵抗を切り離したら第2局発出力が弱くなった・・・のは、切り離したらトランスの同調が狂うからゲインが落ちるわけですね。 抵抗を再度切り離してT110トランスを調整してみると、抵抗がついていた時よりも第2局発が高まります。

        なので今夜は、T110 / T112 / T114のNCピンをGNDに落としているいずれも56kΩの抵抗を3本とも浮かし、 8個のトランスの再調整を行いました。

        結果、MHzダイヤルの位置にもよりますが、 25%〜50%もの出力アップになりました。 MHzダイヤルが5MHzのときに振幅は最大になり、 このときTP110における第2局発出力は580mVp-pになりました。 おおむねマニュアルに書かれている通りの振幅レベルが得られたことになります。 よし、しばらくこれでいこう。

        あわせてLOCK LEDランプ消灯レベルの再調整、MHzダイヤルのキャリブレーション、 2.500MHz第2中間周波数トランスのピーク出し。 受信機は安定して動作しており、 いまや RF-2200 が逆立ちしてもかなわない性能が出ています。

        しかしこのトランスピンのGND落とし改造は何のためだったのでしょう。 第2局発信号が弱くなってしまうというデメリットを甘受してでも得られたものは何だったのでしょうか・・・ しばらく使っていけばそのうち見えてくるものでしょうか。

    2021-09-29 セレクティブアンプ T110 / T112 / T114 のNCピンのGND落とし抵抗を切り離し 再調整




    MHz Dial 2ndLO Amplitude
    mVp-p
    Before Unmod
    2nd LO Aplitude
    mVp-p
    After Unmod
    Ratio
    29 170 260 +53%
    20 320 430 +34%
    10 370 510 +38%
    5 420 580 +38%
    3 420 520 +24%



    BFOのドリフトを測定する

        BFOのスタートアップ周波数ドリフトを測定してみました。 岩通SC-7202ユニバーサルカウンタ は、ゲート時間を10秒にセットすればミリヘルツの単位まで測定できます。 修理できてよかったなあ。

        今回はLSBモード、設計狙い値457kHzのドリフトを測定しました。 結果は右グラフ。 電源ON直後はするする周波数が動きますが、 およそ10分で変化傾向は安定。 以降はゆっくりと変化していきます。 室温は29.1℃( AppleII Plus の本体内部に設置した温度計の表示) で60分間測定しましたが、 このあと目標温度26℃でエアコンを作動させたら、 BFOの周波数はものの10分間で350Hzほど下がりました。 可能な限り安定した受信がしたければ、 運用開始の2時間ほど前からエアコンもFRG-7も電源ONして温度をなじませておくのがよさそうですね。

    2021-10-02 BFO周波数ドリフトを測定






    メインダイヤルノブ

        メインダイヤルノブにはスピナーシャフトがついていて早回しを可能にしていますが、 スピナーの回転は渋くて早送り操作が不快でした。 ノブを外してスピナーシャフトのスクリューを外し、 清掃と注油。 あわせて、くすんでいたノブ表面をコンパウンドで磨きました。 ノブはきれいになって、早回しも快適になりました。

        外装や内部の汚れは作業をしながら少しずつ清掃を進めています。 受信動作が次第に調子よくなっていくとともに、見た目もしだいにきれいになっていきます。

    2021-10-02 メインダイヤルノブ清掃 スピナーシャフト分解注油






    セレクティブアンプの改造はおそらく八重洲によるもの

        RF UNITの基板を観察し、 セレクティブアンプの6本の半田面手付け抵抗、 残りの3本がどのような考えなのかを見てみました。

        2本の6.8kΩは、トランジスタQ107とQ108のベースをグラウンドに落としており、 これらは回路図にR136とR137として描かれています。 しかしプリント基板には実装のための穴は開いておらず、シルクもありません。 プリント基板ができあがった後に設計変更で追加されたものでしょう。

        小さい100kΩは、トランスT113に入れられています。 これは回路図にはありません。 同様の抵抗がR135として回路図に描かれており、 こちらは基板にパターンとシルクが入っており、実際に100kΩ抵抗が実装されています。 しかし回路図にあるR134 330kΩは、基板にパターンと穴とシルクはあるものの、 部品は実装されていません。

        回路図のセレクティブアンプ部に使われている抵抗の追番を追ってみると、 どうやらこれら3本の抵抗は初期設計に対して後で追加されたものであることが推測できます。 R134とR135は基板アートワークに間に合ったものの、R134は結局実装されず、 トランジスタのベースを落とすR136とR137は基板設計には間に合わず手付けに。 そしてT113の100kΩは回路図にも反映されず、手付け。

        量産初号からこうなっていたものか、 それとも量産途中にランニングチェンジされたものなのかは判断ができませんが、 これらの抵抗は本機個体が製造されたときに取り付けられたものなのだろうと思われます。



        3つのトランスのNCピンをグラウンドに落としていた56kΩの抵抗も回路図には掲載されていません。 しかしながら使われている抵抗器は R136 / R137 と同じ形状のものですから、 この無名の3本も生産時に取り付けられたもののように見えます。

        ということで、T113の100kΩと R136 / R137は、そのままの状態としました。

        そうだとしても不思議なのは、 セレクティブアンプのトランジスタ3つのエミッタ回りに手はんだが入っていること。 これはおそらく製造過程ですでに部品実装されたRF UNITボードに対して、 ベースプルダウン抵抗の追加と同時に、 エミッタ抵抗やエミッタバイパスキャパシタの変更が手作業で行われたのでしょう。

        さてそうなると --- これらがすべて八重洲が意図した改良なのだとすると、 T110 / T112 / T114のNCピンをGNDに落とす3本の56kΩも、 何らかの改善の意図をもって取り付けられたもの。 これらがついているとセレクティブアンプの出力が下がってしまうのでいまはいったん切り離していますが、 製造時はこれらが取り付けられていても十分な第2局発出力が得られていたはずですから、 第2局発出力が低い原因はまだどこかにあるはずです。

        いちばん可能性が高いのは、手持ち品に交換したOSC UNITのトランジスタ。 これを高周波用のトランジスタに交換すれば、もともとの設計狙い通りの第1局発強度が得られて、 第2局発もそれにあわせて高くなるはずです。

        やっばりトランジスタを買ってもういちど交換しよう。

    2021-10-03 セレクティブアンプ半田面の手付け抵抗は八重洲によるものと推測






    理想的な選択度特性

        短波を調子よく受信できるようになってすぐ、この受信機が同じ時代のポータブル短波ラジオや、 それ以前の真空管式通信型受信機とはっきり違う点に気がついていました。 切れが良い!!

        放送局にダイヤルを合わせる時、 まるでFMラジオであるかのようにセンターのどんぴしゃポイントはとても緩くて広く、 わずかにダイヤルを左右に回してもさほどには音量が変わりません。 が、そらに回すと、いきなりストンとその局が聞こえなくなります。 10kHz隣の近接局はほとんど気にならないほどにカットできます。 この点だけでも、ポータブルトランジスタラジオには戻る気になりません。

        この美点を可視化すべく、 シグナルジェネレータを使って選択度特性を測ってみました。 RF UNITボードのAGC電圧をデジタルマルチメータで測定し、 15.000MHz 40dBu (S=9) の信号を受信し、そのときのAGC電圧 5.98V をメモしておきます。 ついでシグナルジェネレータの出力周波数を少し動かし、 シグナルジェネレータの出力をどのくらい上げればセンター同調時と同じAGC電圧になるかを記録しました。

        結果は右グラフ。 フラットなトップと鋭いスカート特性を持っているのが明らかです。 同じグラフに RF-2200 の測定値も書き込んでみましたが、 全く勝負になりませんね。

        通過帯域幅は、国際短波放送を聞くのに最適な帯域幅といえます。 いっぽうこれは理想的なSSB受信には広すぎますから、 当時は多くの人がフィルタの改造を試みたわけですね。 ナローフィルタをオプションで用意するくらいしても良かったのかもしれません。

        大口径外部スピーカを使えばFRG-7は明瞭かつ聞きやすくて疲れず国際放送を楽しめますが、 この帯域幅のために受信音はラジオというよりは通信型受信機然とした音になります。 まあ通信型受信機なので当然ではありますが。 昼間の中波AM放送のように近接混信がなくて強力な信号であれば、 RF-2200のワイドポジションのほうがニュースも音楽もずっと良い音で楽しめます。

    2021-10-12 選択度特性を測定






    SメータとAGC

        FRG-7のSメータがラジケータなのは、3つの水平ドラムダイヤルと印象を合わせるため、 あるいは左側に2つのドラム、右側にフロントファイヤリングスピーカを配置すると、 Sメータの置き場がなくなったから・・・あたりの理由なのでしょう。 けれど、当時の私にとっては、そして今の私にとっても、 これはけっこう痛いマイナスポイントです。 受信機には、大型のSメータがあるべきだ。

        いまだにそういう感覚の人はほかにも大勢いらっしゃるのでしょうね。 フロントパネルの大型カラーLCDに、 テスタのように数多くのスケールを書き込んだアナログメータをグラフィックス表示する最新型無線機・・・ は、ナンセンスだと思いつつ、でも魅力的に見てしまう自分がいます。



        小学生のころは、Sメータが元気に振れる受信機が感度が良いのだ、と思っていました。 そうではなくて、Sメータは信号強度を表示する装置なので、 同じ信号なら受信機によらずにSメータは同じ値を示すべき。 感度のよい受信機とは、Sメータがちっとも振れていないのにはっきりと聞こえる受信機、 ということなのです。

        FRG-7のマニュアルには、100dBuの信号を入れてメータがフルスケールになるように調整しろとあるのですが、 これだとかなり景気良いSメータになってしまいます。 ので、信号源出力が40dBuのときにS=9となるように調整した、 というのはすでに書きましたね。 このときの、信号源出力と、FRG-7のSメータの読みの関係をプロットしてみました。 結果は右。

        40dBuのときにS9に合わせたわけですが、60dBuを入れるとメータ指示はS9+10dBになります。 受信機が飽和するほどに強い100dBu (S9+60dB) を入れて、ようやくS9+20dBの読みになります。 メータがS9+20dBを超えることはありません。 簡便な回路構成の受信機のSメータなど、まあこんなものなのでしょうね。




        AGC電圧は、第3中間増幅後段の出力を専用のダイオードD401 1N60FMで検波し直流電圧レベルにしたあと、 トランジスタQ407 2SC372Yで生成しています。 SメータはこのAGCアンプトランジスタのエミッタ電圧を測定しています。 つまりSメータレベルの調整トリマは、 単にメータの振れ感度だけを調整しているのではなくて、 AGC電圧レベルを調整しているわけですね。

        RF UNITボードのAGC電圧入力点にデジボルをつないで、 シグナルジェネレータ出力とAGC電圧の関係を見てみました。 無信号時はAGC電圧は高くて9.7V程度。 入力信号が強くなると4V程度にまで下がっていきます。 このAGC電圧は、高周波増幅段、第2中間周波増幅段そして第3中間周波増幅初段に加えられ、 大入力時に受信機のゲインを下げています。

        無信号から信号源出力が20dBuになるまでAGC電圧は変化せず、 受信機はフルゲインで動作しています。 信号源40dBuでS9にメータを調整したとき、AGC電圧はおおむね6Vになっています。

    2021-10-13 AGC電圧変化傾向を測定






    メインダイヤルの感度ムラ

        7MHzのCWがなにか元気がないのには気がついていましたし、 9.950MHzあたりもなんだか静かです。 これはメインダイヤル位置での感度差が結構あるな?

        いくつかのMHz設定でメインダイヤル位置による感度の違いを測定してみました。 AGC電圧が6.0V (おおむねS9) になるために必要な入力レベルをプロットしたものです。 結果は右。

        MHz設定によって感度はばらついていますが、 メインダイヤル位置による感度変化の傾向はMHz設定によらずほぼ同じです。 多少グラフが凸凹しているのは、 使ったシグナルジェネレータ 目黒測器MSG-2161の出力が1dBu刻みでしか調整できないからです。





        MHz設定ごとの測定値の平均値をとって最良点を0dBとしてグラフを書き直してみると、 右図のようでした。 メインダイヤル中央の500kHz位置が一番感度が良く、 両端では感度が大きく低下しています。 メインダイヤル000kHz位置では実に18dBも感度が落ちてしまっています。

        これは第2中間周波数段IFTの調整の狂いですね。 3MHz〜2MHzの1MHz帯域を増幅しバンドパスで通過させるところが、 2.5MHzでは感度が良いけれども、 3.0MHzや2.0MHzなど両端では感度が落ちているわけです。

        ここの調整手順はマニュアルに記載があります。 それに従ってやってみよう・・・ん? トラッキング調整って書いてあるぞ?




        回路図を読み直して、理解できました。 第2中間周波数段は、1MHz帯域のバンドパスではなくて、 入力側の中間周波トランスも出力側の中間周波トランスも、 メインダイヤルで回される3連ギャングバリコンで可変同調されているのです。

        そうか、FRG-7の第2中間周波数増幅段とそれにつづく第3周波数変換段は、 ちょうどふつうの高周波1段増幅つきシングルスーパーヘテロダイン受信機の高周波増幅段ならびに周波数変換段と同じ構成になっているんだ。 だから3連ギャングバリコンが使われているし、 トラッキング調整が必要なんだ。

    2021-10-14 メインダイヤルの位置による感度ばらつきを測定





        マニュアルの通りに、TC401とTC402で7.1MHzを最大ゲインに、 T401とT402で7.9MHzを最大ゲインに。 これを調整の不要がなくなるまで反復します。

        結果、メインダイヤル位置による感度ばらつきは4dB以内に収まりました。 ちょっと攻めすぎちゃったかな? ダイヤル両端での感度は10dB程度改善しましたが、 中央位置での感度は6dBほど落ちてしまいました。 メインダイヤルの位置によって、Sにして2程度のばらつきが残っていることになります。 まあ、このへんで良しとしましょう。

    2021-10-15 第2中間周波段トラッキング調整実施





    受信周波数帯による感度ばらつき

        受信周波数帯ごとの感度を測定してみました (メインダイヤルは500kHz位置固定)。 短波帯両端の1MHz帯と29MHz帯を除けば、 1マイクロボルト以下の感度が出ています。 アンテナをつなげば10マイクロボルトじゃきかないほどのノイズがありますから、 いまの受信環境では受信機の性能としては申し分ない、と言えます。 4.0MHz〜11.0MHzのバンドCは特に高感度になっています。

        プリセレクタや第1中間周波増幅段の再調整でさらに感度を上げられるかもしれませんが、 現状では異常とは思えませんので、今回はいじらずにおきます。

    2021-10-16 受信周波数による感度ばらつきを測定






    バッテリコンパートメントを清掃

        FRG-7は本体内に単1乾電池8本を装着するバッテリコンパートメントを持ちます。 これを使って移動受信運用をした人はさして多くはなかっただろうとは思いますが、 便利な機能には違いありません。 移動運用のための工夫といえば、 FRG-7にはこの時代の他のデスクトップ型アマチュア無線機と同様、 ケースサイドにはキャリイングハンドルが、 またキャリイングハンドルと反対の側面には床に置くためのゴム足がついています。

        バッテリコンパートメントのつくりは少量生産品のそれで、 プレス板金と流通品のバッテリホルダそれにコネクタで作られています。 本機のバッテリコンパートメントにはおそらく標準付属のものと思われるアンテナ用ビニールワイヤもいっしょに入れられていました。 バッテリホルダには液漏れの形跡はありません。 バッテリコンパートメントそのものがほとんど使われたことがなかったのかもしれません。

        バッテリコンパートメントと電源トランスの間にはシールド板が設けられていますが、 これは電磁シールドというよりも、 コンパートメントを開けたとき装置内部に指が入ってしまい、 電源トランスの1次側ターミナルに触れてしまう感電事故を防ぐための対策だったのではないかという気がします。

    2021-10-17 バッテリコンパートメント清掃






    入らなかったY字路は

        LOCKインジケータレベル調整トリマの位置が入手時からかなりずれているのは、 2.5MHz 第2局発レベルが製造時よりもずいぶん低いことを示しています。 OSC UNITの第1局発トランジスタ2SC1923を2SC3068に交換して動作し始めたFRG-7ですが、 このトランジスタが当初設計にいまひとつフィットしておらずに局発出力が不足しているのがおそらく理由のひとつでしょう。 劣化していた2SC1923と同じトランジスタがセレクティブアンプにも3本使われていますので、 同様に劣化し始めているのかもしれません。 これらをより性能の良い高周波トランジスタに交換して、 と思ったのですが、 現状調子よく動作しているので、ここでいったん作業完了とすることにしました。 シンプルグリーンとお湯で洗ってすっきりしたケースに組み戻し、完成。

        感度・選択度・音質・安定性・イメージ抑止・近接波抑圧の性能は十分出ており、 短波放送はもとよりアマチュア無線の受信もかなりのところまでやってのけます。 CW受信には選択度が不足、でもこれは設計意図通りの性能ですから、無理な改造をしようとは思いません。 この数日、FRG-7は当時は想像もつかなかった通信モード FT8 で、 わずか数分間の間にシベリア・中国・韓国・香港・インドネシア・シンガポール・モンタナ・ロサンゼルスを受信しています。

        感度はとても良いものの、現状の不満点は、コンバータノイズが大きいこと。 40dBuつまりS9の十分に強い信号でも、受信音には明らかなヒスノイズが入ります。 短波放送の番組をゆっくり楽しみたくて完全にクワイエットな受信とするためには、 信号レベルは60dBuを要します。 コンバータノイズが大きいのはトリプルスーパーヘテロダインの本質的な欠点ではありますが、 トランジスタを交換してワドレーループ局発信号レベルを高めたらコンバータノイズは減るだろうか? これはそのうちに試してみたいところ。

        雑誌の広告を眺めるだけで中学1年生がついに手にできなかったFRG-7。 当時は3万4800円のRF-2200を買うのが精いっぱいだったもんね。 さらに2万5000円も高いFRG-7にはとても手が届かなかった。

        RF-2200は悪くない選択だったけれど、 今なら中学1年の自分にアドバイスするかもしれない。 あと数ヶ月がんばって、FRG-7にしろ。 本物は、違うぞ。

    2021-10-19 作業完了




    > 次の修理・・・ コリンズ75S-1



    春になったので第1局発トランジスタ交換

        2022年暮れから2023年初頭は、 夢と時空の部屋の暖房として 51S-1 を連続動作させて暖房代わりにしていました。 冬の間エアコンを暖房運転させる必要はなくて快適でしたが、 春になって温かくなってきたので51S-1は止め、 トランジスタ機に入れ替えましょう。 そう思ってICOM IC-706MKIIGMでFT8を受信していたのですが、 この小型無線機、受信しかしていなくてもときおり冷却ファンが回り、 昼間のホームオフィス中は案外に騒々しくて不快です。 KOSMOS 70 Yarhre Radionmann いじりの手をいったん止め、 FRG-7に入れ替えよう。

        FRG-7入手時の故障の原因は第1局発のトランジスタ2SC1923の劣化で、 2021年9月の修理ではよい高周波トランジスタの在庫がなくてありあわせの2SC3068を使いました。 このトランジスタはおそらく用途にあまり適しておらず発振出力は弱く、 そのため第2局発信号レベルも不十分でした。 代わりになりそうなトランジスタは昨年2021年9月に買ってありましたから、 交換作業を始めましょう。

    2023-04-15 第1局発トランジスタ交換作業開始





        使うのは2SC2669-Y。 交換してみると、よしよし、第1局発の出力は約2倍になりました。 この結果、セレクティブアンプ出力の第2局発出力もかなりアップ。 LOCKインジケー消灯レベルを調整してみると、第2局発の出力は工場出荷時よりも強力になったことが確認できました。

        トランジスタ交換に伴い第1局発ダイヤル、つまりフロントパネルのMHzダイヤルも再び大きく狂いましたので、 再調整。 簡単かつスムースにMHzダイヤルを合わせ込めました。




        夢と時空の部屋のオーディオパワーアンプは CBA-1000 が動作しはじめてからずっとそれを使っているので、 日幸電子STA-301 をラックから降ろし、代わりにFRG-7を組み入れます。 配線の引き回しも整理して、 コリンズ51S-1と八重洲FRG-7を簡単に聴き比べできるようにセットアップしました。 さあFRG-7、サイクル25でにぎやかになってきたハイバンドのFT8に一晩中聞き耳を立てておくれ。

    2023-04-15 作業完了 FRG-7をラックに組み込み






    > 次の作業・・・ KOSMOS 70 Yahre Radiomann



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