NoobowSystems Lab.

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Sony ICF-5900W

General Coverage Portable Shortwave Receiver
The Masterpiece of Japanese Portable in the Middle 1970s


Sony ICF-5900W Front View


The SONY ICF-5900W

    このページを見ているあなたに、このラジオの紹介は不要でしょう。 これは海外向けのWモデル。 海外ではスカイセンサーという名前は使われていないようです。 FMバンドは88から108MHzまでをカバー。

    小学生のころ、何ヶ月も毎朝牛乳配達をして貯めたお金で、さて買うのは クーガ2200 かスカイセンサー5900か。 この女性を妻にするべきかどうか、は、あれほど悩まなかったような気がします。 で、クリスタルマーカとバンドスプレッドの5900に対し、2段階減速周波数直線ダイヤルの2200。 結局メカ的に高度に思えた2200を選んだのでした。

    2200はそれこそ思いっきり使い込んだのですが、やがていくつかのトラブルに見舞われます。 もっともつらかったのが、自慢の直ダイ・メカのバックラッシュ。 うっかりダイヤルにショックを与えてしまったのが原因でしたが、 それ以降わずかにダイヤルを動かしただけで1kHz程度周波数が変動するようになってしまいました。 こうなると使っていていやになってしまいます。 もう一つは、7MHzのSSB受信時に不要側波帯ばかりきこえて、肝心の側波帯がとても感度が悪かったこと。 今ならどうにか修理できそうなものですが、11歳の子供にはどうしようもありませんでした。

    その後は当時のお決まりのコース− 免許を取って6m SSBにオンエア です。 いまあの2200はどこにあるのだろう。

    ともかくも、あの衝撃的なデビュー --- スカイセンサークラブ会員に白黒の生写真と性能特性図をダイレクトメールで送るという演出 --- から実に25年たって、私は晴れて5900のオーナーになりました。 昔よっぽどカタログを眺めていたのでしょう、UPSで届いた5900を手にすると、 あたかも自分の昔のラジオが戻ってきたような気さえしました。





25年後の疑問

    ICF-5900は上級DXerにとってみればほとんどオモチャなのでしょうが、 70年代中盤のラジオ小僧にとってみれば間違いなく憧れの機械でした。 で、そんなラジオ小僧はダブルスーパーってなんだかすごいんだぞ程度の知識しかなかったわけです。 あれから25年が経ち、中年ラジオ小僧がいまワクワクしながら5900の回路図を読み始めるのです。

    ICF-5900のウリの一つは短波帯ダブルコンバージョンであるということ。 で、まずは中間周波数はいかに? という疑問です。 答えは第一中間周波数が10.7MHz、第二中間周波数が455kHz。 あれあれ、10.7MHzとは普通のFMラジオと同じです。 5900の短波ダイヤルを見ると、10.7MHz付近はSW1とSW2の間のバンドギャップになっていて、 受信できないことがわかります。

BAND COVERAGE
SW1  4MHz - 10MHz
SW2 11.750MHz - 20MHz
SW3 20MHz - 28MHz
MW 530kHz - 1600kHz
FM 88MHz - 108MHz


    古くからあるバンドスプレッド (たとえばメインバリコンに並列に小さなバリコンを入れる方式) では、バンドスプレッドの効きは受信周波数によって変わります。 そのため、バンドスプレッドダイヤルの目盛りは短波帯の一部分しか較正できません。

    5900のバンドスプレッドでは、メインダイヤルがどこにセットされていても ±125kHzの一定したカバーをもっています。 スムースな減速ドライブと10kHzごとの目盛りにより、10kHz直読が可能になりました。

    これはどのようにして達成されているのでしょうか? コンスタントバンドスプレッド構成の答えはプロックダイアグラムの中にあります。




5900の広告にあるキャッチフレーズ。

回路構成

第1周波数変換と増幅

    内蔵ロッドアンテナもしくは外部アンテナ端子から入ってきた高周波信号は、 メインダイヤルによりチューニングされるアンテナ回路を通り第1周波数変換段に導かれます。 このラジオにはいわゆる高周波増幅段というものはありません。

    このミキサはバランスドタイプのものであり、2つのトランジスタが使われています。 この方式では、局部発振周波数信号の中間周波数段への漏れを最小限にすることができます。 ここには各バンドおよびメインダイヤル位置によってきまる第1局部発振周波数信号が注入され、 目的の信号は第1中間周波数10.7MHz前後に変換されます。

    10.7MHzの第1中間周波信号は次いで第1中間周波増幅トランジスタ2SC1908で増幅されます。 このトランジスタの入出力にはそれぞれセラミックフィルタが入っていますが、 実はこのステージはFM受信時にも第1中間周波増幅段として動作します。 ということはこれらのセラミックフィルタの通過帯域はFM受信用のものが使われているわけで、 短波受信のための選択度確保には全く寄与していません。

    5900の正しい使用法を考えてみれば、 メインダイヤルは250kHzおきの位置にクリスタルマーカでセットされるわけですから、 受信したい実際の信号は10.7MHz±125kHzの範囲内にあることになります。 したがって第1中間周波増幅段のセラミックフィルタは少なくとも±125kHzを通過させなければならないことになります。 (使用されている10.7MHzフィルタは、理想的な「フラットトップ」なフィルタ特性を持っているわけではありません。 これが、バンドスプレッド ダイヤル位置によって感度がばらつく原因となっています。 これは、本稿の後半で再度触れます。)


ICF-5900W Block Diagram


第2周波数変換と増幅

    増幅された10.7MHz±125kHzの信号は、第2周波数変換段に入ります。 ここに注入される第2局部発振周波数が、バンドスプレッドダイヤルによって可変されるのです。 なるほど、これならバンドスプレッドの効きは使用バンドやメインダイヤルの位置に影響されません。 発振回路はバッファ アンプなしのトランジスタ1石でできていて、 局部発振コイルに並列に入っているのがバンドスプレッドバリコンというわけです。 クリスタル マーカ スイッチをONにするとバンドスプレッドバリコンは切り離され、 代わりに半固定のトリマが接続されます。 これによりバンドスプレッドダイヤルの位置によらずキャリブレーションが行えるようになっています。

    第2中間周波数変換段からは、10.7MHz±125kHzの目的信号と、 バンドスプレッドダイヤルによって決まる第2中間周波数との差が、 セラミックフィルタ内蔵の中間周波トランスを通過し455kHzとなって取り出されます。 第2中間周波信号は、トランジスタ1石と本機唯一のICからなる第2中間周波増幅段で増幅されます。

    短波受信時の選択度確保は、したがって第2中間周波増幅段の前後のフィルタおよびトランスにすべて依存しています。 この増幅回路は中波受信時にも使用されますが、FM受信時にも10.7MHzの中間周波増幅段として動作します。 この場合は信号は中間周波トランスではなく、並列に入った10.7MHzのセラミックフィルタのほうを通過します。



Transistors used in ICF-5900W
Desig. Transistor Function
Q1 2SK42 FM RF Amplifier
Q2 2SC930 FM Mixer
Q3 2SC668 FM Oscillator
Q4 2SC1908 FM AFC
Q5 2SC668 SW 1st Mixer
Q6 2SC668 SW 1st Mixer
Q7 2SC710 MW Oscillator, SW 1st Oscillator
Q8 2SC1908 FM IF/SW IF1 Amplifier
Q9 2SC1908 FM IF Amp / SW 2nd Mixer
Q10 2SC1908 SW 2nd Oscillator
Q11 2SC1908 FM/MW IF Amp / SW IF2 Amp
Q12 2SC1363 Meter Amplifier
Q13 2SC710 BFO
Q14 2SC1363 AF Amplifier
Q15 2SC1363 AF Amplifier
Q16 2SC1429 Power Amplifier (push-pull)
Q17 2SC1429 Power Amplifier (push-pull)
Q18 2SC710 500kHz Oscillator
Q19 2SC710 Freq. Divider
Q20 2SC710 Freq. Divider
Q21 2SA677 Voltage Regulator
Q22 n/a n/a
Q23 2SC1363 Voltage Regulator
Q24 2SC1363 Voltage Regulator
Q25 2SC1363 SSB/CW Pre amp
Q26 2SC1908 Local/DX Select
Q27 2SC1908 MW Mixer
IC1 CX075 FM/MW IFAmp / SW IF 3 Amp
トランジスタの番号の振り方は何かを物語っているようです。 なぜQ22がないのでしょう? 安定化電源回路は当初は4石で構成されていたのでしょうか? なぜ中波ミキサはQ27なのでしょうか? ひょっとすると最初の構想では別のトランジスタを中波ミキサとしても機能させようとしていたのでしょうか?



セラミックフィルタ

    5900の受信機としての面白さは、第1中間周波段に10.7MHzのセラミックフィルタを使用していることです。 一般的なFMラジオ用として使われているコンポーネントを使うことによって、 直材費を下げることが期待できます。

    これらのフィルタの中心周波数は、部品ごとにばらつきます。 5900では3個の10.7MHzセラミックフィルタが使われているので、 ある個体に使われる3つのフィルタの中心周波数はなるべく近くする必要があります。

    ソニーの生産ラインでは、セラミックフィルタの中心周波数を7つのランクに分け、 選定組付けを行っていたようです。 それぞれのセラミックフィルタには中心周波数を示すカラーコードがつけられています。 生産時にそのユニットのために選ばれた中心周波数はプリント基板半田面に貼られたカラーコードラベルで示されており、 一台のユニットにはラベルと同じカラーコードのフィルタが使われなくてはなりません。

    私のユニットには赤ラベルが貼られており、フィルタの頭には赤いマーキングがあります。 したがって生産時に10.70MHzが中心周波数として選定されたことがわかります。




ICF-5900W 10.7MHz IF Frequency Selection
Color Code Specified Center Frequency
Green 10.61MHz
Black 10.64MHz
Blue 10.67MHz
Red 10.70MHz
Orange 10.73MHz
White 10.76MHz
Yellow 10.79MHz


検波回路

    第2中間周波増幅段を出た信号は実に3つの検波回路に同時に導かれます。 3つとはそれぞれFM検波、ダイオードによるごく普通のAM検波、およびBFOを持つプロダクト検波回路です。 バンド セレクタがFMにセットされているときはFM検波の出力、 MWもしくはSWにセットされていてBFOがOFFのときAM検波回路出力、 BFOがONのときにはプロダクト検波回路の出力が選択されて低周波増幅段に導かれます。 プロダクト検波回路の出力にはプリアンプが配されており、AMとSSBとで音声レベルが異ならないように配慮しています。

    5900ではAGC電圧は独立した整流回路により発生されます。 したがってBFOスイッチがONであっても通常どおりAGCが動作します。 逆にいえばAGCの時定数はAM受信時もSSB受信時も同じです。

    AGC電圧はさらにトランジスタ1石のメータアンプで増幅され、Sメータを振らせています。


SENSスイッチ

    5900にはDX/LOCALの2ポジションを持つSENSスイッチがあり、 強力な信号を受信するときに感度を下げることができます。 当初これはアンテナ回路に入った単なるアッテネータであろうと思いましたが、実はもう少し凝っています。

    アンテナ同調回路と第1周波数変換回路との間に感度切り替えトランジスタ(シャントトランジスタ)が配置されています。 通常シャントトランジスタは開放状態にあり、受信機感度は高いままです。 SENSスイッチをLOCALにするか、あるいはクリスタルマーカをONにするとシャントトランジスタのベースに電圧がかかり、 シャントトランジスタが導通状態になります。 結果としてアンテナからの入力信号は大部分がグラウンドに落とされ、受信感度が低下します。

    この構成は、潜在的な故障をもたらします。 もしシャントトランジスタがショート故障を起こすと、 DX/LOCALのいずれの場合でも感度が低いままとなってしまいます。 私の個体は大丈夫でしたが、もしDX/LOCALとで感度に差がないなら、 シャントトランジスタQ26の故障を疑うべきです。


クリスタルマーカ

    メインダイヤルを正しく250kHz間隔にあわせるためのクリスタルマーカは、 500kHzの水晶発振子と3つのトランジスタで構成されています。 このうち2石のトランジスタが周波数ディバイダとして動作し、250kHzの信号およびその整数倍の高調波を作っています。 発振出力はアンテナ入力に注入されます。 この回路はクリスタル マーカスイッチをONしたときにのみ電源が供給されるようになっています。

    クリスタル マーカスイッチレバーは内部ではスライドスイッチを動かしており、 ひとつのレバーアクションで複数のことを同時にこなします;
  • クリスタルマーカ発振回路に電源を供給します。
  • ロッドアンテナおよび外部アンテナ端子を切り離し、外来信号を抑えます。代わりにマーカ出力が接続されます。
  • 感度切り替えトランジスタをONにして、受信感度を下げます。これはDX/LOCALスイッチをLOCALにしたのと同じ動作です。
  • BFOスイッチがOFFポジションであってもBFOをONにし、AM検波ではなくプロダクト検波回路の出力が低周波段に導かれます。 これによってマーカ信号がビート音を伴って聞こえるようにしています。 またプロダクト検波出力にはアッテネータが挿入され、ビート音の音量を適度なものに抑えています。
  • バンドスプレッドバリコンを半固定のトリマで一時的に置き換えます。 これによりバンドスプレッドをいちいち0に戻す必要を排除しています。


低周波増幅と出力

    FM検波回路、AM検波回路あるいはプロダクト検波回路の出力のどれかが、 ボリュームコントロールを通って低周波増幅段に入ります。 トランジスタ2石で増幅された音声信号は、 最後に入出力トランスをもつプッシュプル出力回路で増幅され、内蔵スピーカあるいはイヤフォンを駆動します。

    トレブルコントロールは、ボリュームコントロールに取り付けられたシンプルなシャントタイプです。 バスコントロールは低域の負帰還量を調整することによって周波数応答を変化させています。


安定化電源回路

    電池3本で動作する5900の電源電圧はしたがって4.5V。 高性能ポータブルであるためには、電源電圧の変動あるいは電池の消耗に対する考慮が必要です。 5900はトランジスタ3石からなる安定化電源回路をもち、2.0Vの安定化電源電圧を生成しています。 この電圧は電源電圧変動に影響されやすい以下の回路に給電されます。
  • クリスタルマーカ発振回路(マーカON時のみ)
  • FM用局部発振回路(FM時のみ)
  • AM用第1・第2局部発振回路(AM時のみ)
  • AM第1ミキサ(AM時のみ)
  • BFO発振回路(AM時でBFOスイッチONもしくはマーカON時のみ)

    上記以外の回路には内蔵電池あるいは外部電源ジャックからの電圧がそのまま使用されます。 言い換えれば本機には過電圧保護あるいは逆接防止回路は用意されていません。

    外部DC電源ジャックはアウター ポジティブ/センター ネガティブで、 外部電源使用時は安定化した4.5Vを供給します。
    EXT TIMER INジャックはPOWERスイッチに直列に接続されています。 プラグが差し込まれていないとき、電源はPOWERスイッチのみでON-OFFできます。 プラグを差し込むと、受信機はこのプラグにつながれた外部スイッチでON-OFFできます。





いつもそばに

    私の5900Wは、入手時は多少汚れているだけでさほど問題はありませんでした。 たったひとつの欠点は電池カバーが失われていること。 まあ、机に置いて使う分には見えないし。 ポップアップアンテナもダイヤルライトスイッチも健在で、これはいまではラッキーな部類です。 ボリュームには多少のガリがありますが、修理といったほどの作業は必要ではないようです。

    が、よく調べると、メインダイヤルに500kHz近い周波数ずれがあることがわかりました。 これではクリスタル マーカで校正するどころではありません。 ケースをあけ、フィルムダイヤルユニットをいったん取り外し、WWVを受信しながら、 正しい周波数がくるようにダイヤル ユニットを取り付け直しました。 このラジオは何回も開けられた形跡がありますので、前オーナーが狂わせてしまったものと思われます。 が、経年変化による周波数ずれの可能性もあり。

    もう一つの問題は、バンドスプレッドダイヤルの高い側で感度がかなり低下すること。 どうもこれは5900に共通する問題のようで、今後作業が必要なようです。

    うまく受信動作してはいますが、実際に使ってみると、AGCの時定数がかなり早くてフェーディングがかなり気になります。 また、プラスチックケースのために外来雑音の影響を大きく受けてしまいます。 私の現在の目的はBBCワールドサービスをリラックスして聴くことですので、 残念ながら エコーフォンEC-1A +プリアンプ+外部スピーカの座を揺るがすことはできませんでした。

    とはいっても、そばに置いておくだけでなぜか安心するこのラジオ。 すこしずつ、きれいにしていくことにしましょう。

    ここでクイズ。 何に使うの?と誰しも考える、本体下部のものさし。 米国仕様では、これは
  • 日本と同じセンチメートル単位のものさし。実用価値完璧にゼロ。
  • さすが米国、インチ単位のものさし。実用価値は日本仕様と同じくらい低い。
  • 現地時間とグリニッジ時間の換算。 イースタン・タイム、セントラル・タイム、マウンテン・タイム、アリゾナ・タイム、 パシフィック・タイム、アラスカ・タイム、ハワイ・タイム、そしてそれぞれのデイライト・セービング・タイム (適用されるところのみ)のスケールが付属しており、貼り替えて使った。極めて便利。
のどれでしょう。 写真を良く見てね。

1999-01-25 ICF-5900W使用開始






スカイセンサーの内側

    ICF-5900Wは夢破れたプログラマーといっしょに日本に帰ってきました。 それから3年が経ち、日本の文化と暮らしにすっかり戻れました。 そろそろ5900の整備を始めましょう。 全般整備、そしてバンドスプレッド端での感度低下が直せるとよいのですが。

    5900のカバーを外すのは簡単です。 すべてのコンポーネントはメインシャーシに整然と取り付けられています。 5900のメインシャーシの形状は5800よりもシンプルで、 隅部には面取りがされていて金型寿命も長くなっているものと思われます。 プラスチック成型品の量産性について何か学んだのかもしれませんね。

    使われているスピーカは直径10cmのもので、プラスチック製フロントパネルに糊付けされています。 フロントパネルを水洗いするためにスピーカを外したところ、 コーンエッジに砂がいっぱいついているのを発見しました。 どうやら前オーナーはこのラジオを砂浜か、砂漠で使っていたようです。

    紙エポキシ片面基板は、安物の風情です。 筐体のビビリ音を低減するためにあちこちにスポンジが貼られており、 これまた安物の印象を強めています。 しかしソニーは責められるべきではないでしょう。 所詮5900は、低価格・大量生産の民生品なのです。

2002-03-22 整備開始






メインダイヤルの精度を点検する

    ダイヤルユニットを機械的に再調整したあとで、シグナルジェネレータを使って目盛の精度の確認を行いました。 結果はこちら。

SW1 SW2 SW3
Dial Setting Actual Reception Frequency Error Dial Setting Actual Reception Frequency Error Dial Setting Actual Reception Frequency Error
4.000MHz  4.035MHz +35kHz 12.000MHz 12.035MHz +35kHz 20.000MHz 19.970MHz -30kHz
5.000MHz  5.045MHz +45kHz 13.000MHz 13.040MHz +40kHz 21.000MHz 21.005MHz +05kHz
6.000MHz  6.045MHz +45kHz 14.000MHz 14.010MHz +10kHz 22.000MHz 21.975MHz -25kHz
7.000MHz  7.060MHz +60kHz 15.000MHz 15.035MHz +35kHz 23.000MHz 22.995MHz -05kHz
8.000MHz  8.060MHz +60kHz 16.000MHz 16.070MHz +70kHz 24.000MHz 24.025MHz +25kHz
9.000MHz  9.020MHz +20kHz 17.000MHz 17.085MHz +85kHz 25.000MHz 25.080MHz +80kHz
10.000MHz 10.030MHz +30kHz 18.000MHz 18.020MHz +20kHz 26.000MHz 26.030MHz +30kHz
--- --- --- 19.000MHz 18.970MHz -30kHz 27.000MHz 27.000MHz +00kHz
--- --- --- 20.000MHz 20.010MHz +10kHz 28.000MHz 28.020MHz +20kHz

    なかなかよい精度を示しています。 誤差が125kHzに近くなると、クリスタルマーカにメインダイヤルを合わせる際に隣に合わせてしまう間違いを招きますが、 最大誤差は約80kHzでした。 パーフェクトではありませんが許容範囲でしょう。





バンドスプレッドの位置による感度のばらつき

    バンドスプレッドを高い位置 (+125kHzに近い) にすると、感度が明らかに低下します。 この現象は生存している5900ではよく起きるトラブルです。 私のユニットでの調整前の成績は以下のようです。

Band Spread Dial Position (kHz) Reception Frequency (MHz) SG output for "S=6"
- 125 14.125 19 dBu
- 100 14.150 19 dBu
-  75 14.175 16 dBu
-  50 14.200 16 dBu
-  25 14.225 16 dBu
    0 14.250 15 dBu
+  25 14.275 17 dBu
+  50 14.300 19 dBu
+  75 14.325 27 dBu
+ 100 14.350 29 dBu
+ 125 14.375 32 dBu

    バンドスプレッドが+50kHzのあたりから感度が悪化し始めています。 一番高い+125kHzでは、実に17dBuもの悪化が観察されました。 これは第1中間周波数段のフィルタの中心周波数が経時劣化し、 +125kHzあたりがフィルタの肩にかかってしまっているためだと思われます。 これを回避するためには再調整が必要です。





SSBとCWの受信

    BFOスイッチをONにして、14MHz帯のアマチュアバンドを聞いてみましょう。 日本の平均的アパートの劣悪な受信環境にあって、 プラスチックケースの受信機では近くのコンピュータノイズやモニタノイズを受けてしまい、 チューニングメータは半分以下には落ちません。 でも今夜は、何局かのパワフルなDX局がCQコンテストを連呼しています。 SSB受信音はクリアですが、CW受信ではわずかなチャープがあります。

    周波数安定度はSSBやCW受信には不足で、 ゆっくりしたドリフトがあり、ピッチを保つためには10分かそこらごとにダイヤルを合わせなおす必要があります。 この低価格な受信機では「ハンズフリー」受信は不可能ですが、 1950年代の中級クラスの真空管式通信型受信機でもやはり同じように不可能だったのですから・・・。

    周波数ドリフトの傾向は右のようでした。 測定条件は;
  • 室温 17℃ 電池動作
  • 受信周波数; 15.000MHz BFO=ON
  • シグナル ジェネレータ側でゼロビートとなるようにトラック。
    支配的なファクターは室温の変化でした。 デスクランプの電球を受信機の背面に近づけてキャビネットを暖めると、 周波数ドリフトは極めて顕著です。 この受信機はプラスチックキャビネットにしてはボディエフェクト対策がよくできています。 キャビネットを揺らすと周波数も変動しますが、 机の上において使うなら問題なし。

    総じて、SSBやCW受信には不満がありますが、 業務無線やアマチュア無線の世界を覘くには十分なものです。


ICF-5900W
Frequency Drift Measurement Result
Elapsed Time Frequency Drift
00 min  0.0kHz
02 min -0.5kHz
04 min -0.9kHz
06 min -1.0kHz
08 min -1.2kHz
10 min -1.2kHz
12 min -1.3kHz
14 min -1.4kHz
16 min -1.6kHz
18 min -1.6kHz
20 min -1.8kHz
30 min -2.4kHz
40 min -2.6kHz
50 min -3.3kHz
60 min -3.6kHz
70 min -4.3kHz



イメージレスポンス

    フィリピンの局が14MHz SSBでCQコンテストをコールしているのを聞きながら、 シグナルジェネレータを使用してイメージレスポンスの様子を見てみました。

    ジェネレータの出力が20dBuのとき、5900のチューニングメータが6を示します。 結果、3つの周波数がイメージレスポンスとして見つかりました; -10.7MHz (84dBu), -227kHz (79dBu) それに +889kHz (88dBu) です。 "()" はチューニングメータが6を示すために必要なジェネレータの出力を示しています。

    -227kHzの妨害が最も顕著ですが、それでも60dBuは抑圧できています。 その価格を考えれば、5900のイメージ抑圧はいい線いっているのではないでしょうか。 "SW Dual Conversion System"は確かに効果ありです。





オーバーロード

    バンドスプレッドのカバー範囲内に極端に強力な局 (80dBu以上) がいるとき、 受信機全体の感度は大幅に低下してしまいます。 10.7MHzの第1中間周波段がオーバーロードしてしまっているのでしょう。

    これは5900が本質的に持つ弱点です。 希望する周波数の±125kHzに北京放送がいないことを確認しながら使わなければなりません。

    また、外部プリアンプを使うと5900のダイヤルは一面幽霊で埋め尽くされてしまいます。 NoobowSystemsの貧困なアンテナシステムはベランダから突き出したわずか1.5mのホイップと、 MFJ-959B アンテナチューナ/プリアンプです。 普段はプリアンプはフルゲインのままにしてありますが、 5900の場合はプリアンプのゲインをかなり低下させておく必要があります。





音質

    これはとても不思議なことなのですが・・・私の5900は良好に動作しているはずなのに、 なぜか音声が不明瞭なのです。 音量も十分、めだった歪みもないし、トーンコントロールも全く正常。 なのにニュース番組を聴くと、 アナウンサーの言ってることを聞き取るためにはボリュームをやや上げ気味にしないといけないのです。 これはラジオの故障ではなくて、そういった音質、というか音の性格なのでしょう。 それともフェーディンク歪のせい? まったく理由がわかりません。





回路調整

    5900をベストな状態に持っていくためには、実に多くの調整を必要とします。 調整を試みようとするなら、ぜひサービス マニュアルを入手してください。 ネットでコピーサービスを見つけることができるはずです。

    5900の調整に関する以下の記述はあくまで私の試みであり、その正しさを保証するものではありません。

    5900の調整項目を右に示します。うへぇ。

    リアパネルにある小さな調整用カバーはネジを緩めると外すことができます。 このカバーの下に6つのトリマがあり、 第1局発と第2局発の調整を行うことができます。 しかし大半の短波帯の調整を行うには、リアパネルを取り外す必要があります。 完全な再調整を行うには、フロントパネルも取り外さなくてはなりません。

    ラボのユニットではバンドスプレッドが高い位置にあると感度が低下する問題があります。 この理由は第1中間周波数のセンターがずれたものと推測しました。 このユニットのプリント基板には赤ラベルが貼ってありますので、製造時の中間周波数は10.70MHzでした。



  • SW 1st Local Oscillator alignment
  • SW 2nd Local Oscillator alignment
  • Shortwave 1st Mixer alignment
  • Shortwave tracking alignment
  • MW tracking alignment
  • MW Local Oscillator alignment
  • MW/SW 2nd IF alignment
  • BFO alignment
  • Marker alignment
  • FM tracking alignment
  • FM Local Oscillator alignment
  • FM IF alignment 1
  • FM IF alignment 2


  • MW/SW 第2中間周波数調整

        最初のステップは、短波用第2ミキサの直後にあるIFT-3が正しく調整されていることを確認することです。 第2中間周波数の設計値は455kHz (英国仕様では468kHz) です。 IFT-3は、小さなスイッチボードの下に隠れています。 シャーシからスイッチボードを取り外せば、村田製作所製 RFT455 中間周波トランスのふたつのコアにアクセスできます。 第2ミキサのコレクタ出力にシグナルジェネレータをつなぎ、 455kHz で30%のAM変調をかけた信号を、出力レベル30dBuで与えます。

        ピークをとるためには黒いコアをわずかに回す必要がありました。 黄色いコアについては、ジェネレータの信号ではピークを見つけることができませんでした。 そこでジェネレータを外し、バックグラウンドノイズが最大になるように再調整を行いました。




    SW 第2局部発振回路調整

        第2ミキサは、第1中間周波数を第2中間周波数に変換します。 第1中間周波数を10.70MHzと仮定すると、バンドスプレッドが0にセットされているときに、 第2局部発振回路は [ 10.7 + 0.455  = 11.155 ] MHz を発振しなくてはなりません。

        第2局部発振回路の出力に周波数カウンタをつなぎ、出力周波数を測定してみました。 バンドスプレッドが0のとき、局発周波数は 11.1098MHz でした。 11.1098 ひく 0.455 を計算すると、10.6548MHz となり、これが現在セットされている第1中間周波数です。 しかしこの測定は不正確でした。 周波数カウンタをつないだことにより、局部発振周波数が影響を受けてしまうからです。





        次に、周波数カウンタは外し、シグナルジェネレータを第1ミキサの出力であるIFT-2に接続しました。 バンドスプレッドを時計方向いっぱい、および反時計方向いっぱいにセットし、 シグナルジェネレータの出力周波数を可変して、実際に受信されている中間周波数を計ってみました。

        どうやら第1中間周波数のセンター値は、10.70MHzではなくて10.663MHzになっているようです。 センター値が本来の値に比べて約40kHzほど低いため、バンドスプレッドの上端で感度が低下しているのでしょう。


    Bandspread Position 1st IF frequency actually received
    Full CounterClockwise (-150kHz) 10.812MHz
    Full Clockwise (+150kHz) 10.513MHz
    XTAL Marker switch engaged 10.663MHz



        すでに行ったバンドスプレッド位置による感度ばらつきの測定結果から、 私のユニットでは第1中間周波数のセンターを10.750MHzあたりにずらす必要があるものと思われます。 シグナルジェネレータを10.600MHzにセットし、バンドスプレッドを時計方向いっぱいの+150kHzにセットします。 この状態で L21 - 第2局部発振コイル - を回して、シグナルジェネレータの信号が受信できるようにします。

        これはやり過ぎであることがすぐにわかりました。 バンドスプレッドの低いほう、-150kHzの位置での感度が悪くなりすぎてしまったのです。

        2回目の試みは、中心周波数として 10.720MHz を狙います。 ジェネレータを 10.570MHz にセットし、L21を回し調整を取ります。 次にジェネレータを10.870MHz にセットして、バンドスプレッドを反時計いっぱいの -150kHz にし、 CT-11 - 第2局発のトリマ - を回して、ジェネレータの信号が受信できるようにします。 今度は、+150kHzでの感度は-150kHzよりも低くなりました。

        3回目は、中心周波数として 10.730MHz を狙います。 +150kHzの位置で 10.580MHzが受信できるようL21を調整、 そして-150kHzの位置で10.880MHzが受信できるようにCT-11を調整。 この結果、上と下の端での感度低下の程度がほぼ等しくなりました。 バンドスプレッドが0kHzの位置での第1中間周波数を確認したところ 10.728kHz で、ほぼ狙い通りといえるでしょう。 これで第2局部発振回路の調整は終わりです。

        L21 と CT-11 の調整はとてもクリティカルでした。 ごくわずかに回すだけで、数kHzは動いてしまいます。 この2つの部品の経年変化のために第2局部発振周波数がずれてしまったのかもしれません。


    Center Frequency 10.70MHz Standard setting Before alignment 1st attempt 2nd attempt Alignment complete
    Target center frequency 10.700MHz ------ 10.750MHz (+50kHz) 10.720MHz (+20kHz) 10.730MHz (+30kHz)
    Target frequency Bandspread at +150kHz 10.550MHz 10.513MHz 10.600MHz Peak by L21 10.570MHz Peak by L21 10.580MHz Peak by L21
    Target frequency Bandspread at -150kHz 10.850MHz 10.812MHz Not adjusted 10.870MHz Peak by CT-11 10.880MHz Peak by CT-11
    Actual receprtion frequency at 0kHz ------ 10.663MHz (-37kHz) Not measured Not measured 10.728MHz
    Result ------ Sensitivity low at +150kHz side Sensitivity low at -150kHz side Sensitivity low at +150kHz side Both side identical




    マーカー調整

        第2局部発振回路の調整が済んだら、マーカー調整を行わなくてはなりません。 これには2つの調整項目があります。 一つめは、実際のところバンドスプレッド置換トリマの調整です。 二つめは、マーカー注入レベル調整。

        すでに記したように、XTAL MARKERスイッチがONのとき、 バンドスプレッド バリコンはトリマ キャパシタによって置き換えられます。 そこで、トリマ キャパシタの容量が、バンドスプレッドが0にセットされているときと全く同じになるように調整します。 この調整は、CT-12トリマを回すことによって行います。 この調整を行うときは、フロントパネルを組み付けて、 バンドスプレッドのダイヤル リングが取り付けられていなければなりません。

        バンドスプレッドを0kHzの位置にし、BFOをONにしてシグナル ジェネレータを第1中間周波数にセットします。 ジェネレータの出力周波数を、5900の受信音がゼロビートになるようにセットします。
        ジェネレータの周波数はそのままにして、XTAL MARKERスイッチをONにします。 CT-12トリマを回し、ジェネレータ信号の受信音のゼロビートをとります。 これが正しくできれば、バンドスプレッドが0kHzとのき、 XTAL MARKERスイッチがONでもOFFでも全く同じ周波数が受信できているはずです。

        次はマーカ注入レベルの調整。 5900の受信周波数を28MHzにセットして、XTAL MARKERスイッチを入れ、 マーカ信号を受信しているときのチューニングメータの振れが5ないし6になるようにCT-13を回します。 私のユニットでは15MHzでちょうどよい S=5程度でしたので、この調整はスキップしました。



    "XTAL MARKER" スイッチ。

    チューニング インジケータの指針は電源がOFFのときに右に位置します。 これは一般的なメータの動きとは反対。
    筐体上部の小さな黄色いスイッチを押すとダイヤル照明が光りますが、 明るさはまったくのジョーク。


    短波第1局部発振回路調整 (ダイヤルスケール調整)

        さあ、第2局部発振周波数は新しい第1中間周波センター周波数にセットできましたし、 バンドスプレッドダイヤルも調整が完了しました。 つぎは第1局部発振回路を調整して、メインダイヤルのスケールを合わせこみます。

        シグナルジェネレータをアンテナ端子につなぎ、バンドセレクタをSW1にします。 ジェネレータ出力を4.0000MHzにし、メインダイヤルを4MHzにセット。 この状態でL12を回し、ジェネレータ信号が受信できるようにします。 ついで、ジェネレータを 9.500MHzにし、メインダイヤルも 9.5MHzに。. CT-8 を回して、ジェネレータ信号が受信できるようにします。 この手順を数回繰り返し、4MHzと9.5MHzでのダイヤル目盛が正確に合うようにします。

        同様の手順で、SW2とSW3バンドについても図に示した調整ポイントについて作業を行います。

        この調整は実にスムースにいきました。






    パーフェクトなダイヤル

        ダイヤルスケール調整の結果、ダイヤルの読み値の精度はほぼパーフェクトになりました。 これで、お気に入りの放送局の送信が始まるその瞬間を受信することができます --- 5900の世界にようこそ!

    MOVIE CLIP: Tune to VOA at 15.150MHz

    マーカーを入れ、15.250kHzにゼロビートをとり、マーカーをOFFします。 つぎにバンドスプレッドを-100kHzの位置に合わせれば、 15.150kHzのVOAが聞こえてきます。
    あなたが完璧主義者でない限り、正確なゼロビートをとる必要はありません。 どのみちスプレッド ダイヤルに1kHzかそこらの誤差が存在するからです。

    MOVIE CLIP: Tune to WWVH at 15.000MHz

    ハワイのWWVHがずばり15.000MHzのダイヤル位置で受信できています! マーカーのゼロビートをとるときにバンドスプレッドを0kHzに戻していないことに注目してください。 これはバンドスプレッドの置換トリマが正しく調整されている証拠です。




    SW1 SW2 SW3
    Dial Setting Actual Reception Frequency Error Dial Setting Actual Reception Frequency Error Dial Setting Actual Reception Frequency Error
    4.000MHz  3.991MHz -09kHz 12.000MHz 11.997MHz -03kHz 20.000MHz 19.996MHz -04kHz
    5.000MHz  5.012MHz +12kHz 13.000MHz 13.009MHz +09kHz 21.000MHz 21.033MHz +33kHz
    6.000MHz  6.010MHz +10kHz 14.000MHz 13.985MHz -15kHz 22.000MHz 22.006MHz +06kHz
    7.000MHz  7.036MHz +36kHz 15.000MHz 15.016MHz +16kHz 23.000MHz 23.022MHz +22kHz
    8.000MHz  8.044MHz +44kHz 16.000MHz 16.056MHz +56kHz 24.000MHz 24.049MHz +49kHz
    9.000MHz  9.018MHz +18kHz 17.000MHz 17.078MHz +78kHz 25.000MHz 25.079MHz +79kHz
    10.000MHz 10.039MHz +39kHz 18.000MHz 18.023MHz +23kHz 26.000MHz 26.010MHz +10kHz
    --- --- --- 19.000MHz 19.003MHz +03kHz 27.000MHz 27.009MHz +09kHz
    --- --- --- 20.000MHz 20.033MHz +33kHz 28.000MHz 28.015MHz +15kHz

        再調整にはまだ改善の余地があるように思われるかもしれませんね。 でも私がこの受信機を使うとき、たいていダイヤルを上から見下ろすような位置に設置しており、 ダイヤルを合わせるときにいちいち目線をダイヤルと水平な位置まで下げるようなことはしません。 そのため意図的に20kHzほどずらしてあり、私にとってこれがベストなのです。

        感度はとてもよいのですが、所詮はプラスチックボディのポータブルなので、 コンピュータノイズやモニタノイズを受けてしまっています。 そのため了解するためには信号は周囲のノイズよりも10dBは強くなくてはなりません。 もしどうしようもないほど外装が痛んだ5900があったなら、 その基板をスチール製のキャビネットに入れて、通信型受信機に仕立て上げたら楽しいでしょう。



    バンドスプレッドには2種類のダイヤルスケールがあるようです。 この個体は後期生産型で、0kHzの位置には "0/.250/.500/.750" と示されています。 初期型のスケールは -125 から +125 の表示になっています。



    バンドスプレッド位置による感度ばらつき - 再調整後

        チューニングメータが"S=6"を示すために必要なシグナルジェネレータの信号レベルを、 いろいろなバンドスプレッド位置について計りました。

        結果をここに、再調整前のものと一緒に示します。 グラフは第1中間周波数をずらした効果をはっきりと示しています。 感度ばらつきがなくなったわけではありませんが、 その分布傾向は以前よりもずっとよいものになっています。 感度悪化の最大は8dBuで、以前の17dBuに対して大幅改善できました。

    Bandspread Position (kHz) Reception Frequency (MHz) Before Alignment After Alignment
    SG Output for "S=6" (dBu) Variation (dBu) SG Output for "S=6" (dBu) Variation (dBu)
    -125 14.125 19 +4 23 +8
    -100 14.150 19 +4 20 +5
    -75 14.175 16 +1 20 +5
    -50 14.200 16 +1 20 +5
    -25 14.225 16 +1 17 +2
    0 14.250 15 0 17 +2
    +25 14.275 17 +2 15 0
    +50 14.300 19 +4 15 0
    +75 14.325 27 +12 16 +1
    +100 14.350 29 +14 18 +3
    +125 14.375 32 +17 22 +7

    2002-03-25 整備完了





    > 次の修理・・・ ラファイエットHA-225


    (ここで22年間のブランク)


    第3研究機主力機として

        コロナ禍で大幅に稼働率が落ち、機材等も削減した第3研究所ですが、 いつでも使える短波ラジオは置いておきたいですね。 いまは RF-877 を使っていますが、 シグナルジェネレータもないので待ち受け受信はやはり困難。 ダイヤル読み取り精度の良い5900Wを実用配備しましょう。 それに先立って動作チェックを。 整備したのが2002年ですから、 もう22年も経っています。

        ポテンショメータのガリやスライドスイッチの接触不良等は当然のように出ていましたが、 ちょっといじっている間に復活してきました。 ひととおりは動作しています。

        2チャネル出力のシグナルジェネレータで 15.100MHz AM と 100.00MHz FMのテスト信号をつくり、 テストラン。 テスト音源はZephill さんのアルバム "Thank You" (2017年) からトラック2 「千里結言」(原曲:「遠野幻想物語」)。

    2024-06-01


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        ダイヤル確度はばっちり。 最近よく聞いているラジオタイランドは9.385MHzなのでバンドスプレッドの端になってしまいますが、 感度低下も気になりません。

        AM復調音質も良好。 生産後50年近く経ちますからオーディオ周りの電解キャパシタ交換くらい必要だろうと思っていたのですが、 いまのところ全くその必要を感じません。 5900とほぼ同世代の CF-1980 ではかなり音質が悪化していてリキャップを行いました。 5900Wで気にならないのは使われているキャパシタのサプライヤ違いのためでしょうか? それともやはりリキャップしたら音質は見違えるのかなあ?

        5900は第1中間周波数が10.7MHzのダブルスーパーヘテロダインなのでイメージ混信に強いのはやはり美点ですね。 8MHz帯の漁業無線聞く時も9MHz帯の強力な国際放送の信号の混信はありません。



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        ラボの ICF-5800 で起きていたようなひどいチャープは感じられません。 CWの受信トーンはきれいです。

        復調周波数は1分以内の短い時間でけっこう不安定に動きます。 FT8受信はキツそうですね。

    2024-06-01



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        いや、そんなことはないですね。 パーフェクトとはいかないけれど、けっこうFT8もデコードできます。 スペクトログラム右側に見えている点線はシグナルジェネレータで出しているパイロット信号。 ほぼきれいな直線になっています。

        しかし一晩40mFT8を連続受信させたら、 翌日朝には受信周波数が1.3kHzほど下がっていました。 まあこのクラスではそんなもの、なのでしょう。

        ときおり短波の受信感度が断続的に低下することがありますが、 これはバンドセレクタスイッチの接触不良であるようす。






    第1ミキサを眺める

        5900の短波第1混合段はバランストミキサ回路が使われています。 1石ミキサだった5800に対して大きな進化ですね。 回路基板にはミキサのバランスを調整するトリマも用意されています。 とりたてて問題に気がついていないので再調整はしていませんが、 経時変化でバランスが狂うことはあるのでしょうか?

        ソニーのSENSスイッチは中波だけでなく短波の時にも使えるのはうれしいですね。 AM SENSスイッチがLOCALのとき、 または X-TAL MARKERスイッチがONのときにトランジスタQ26がONになり、 アンテナ入力をグラウンドに逃がして受信機の感度を落とします。 高周波増幅段を持たない (よってRF同調が1段しかない) 5900では、 AM SENSをLOCALにしてRF入力シャントトランジスタをONするほうが聞きこごちが良くなることはけっこうありますね。

        この回路なら影響は出なさそうに思えますが、 現実にAM SENSをLOCALにすると第1局発の周波数が200Hzほど動きます。 5900の第1局発はトランジスタ1石でバッファアンプは入ってないけれど、 入れたらよくなるかなあ? 試す気はありませんけどね。






    復調ピッチが不安定

        変だな、FT8を聞いていた時は復調ピッチは安定していたのに、 いまVOLMETを受信してみたらピッチの変化が明確です。 当時のこのクラス、 SSBが聞けるというだけで大満足だったりしましたからこの程度なのかもしれませんが、 いやいや、それじゃFT8聞いていた時にピッチが安定していたのは何なのよ。 どこかに周波数の不安定な変動を引き起こしているトラブルがありますね。



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    不安定な周波数変動の原因を探る

        SSB/CW受信時の不安定な周波数変動の原因をさぐってみます。 シグナルジェネレータで10.100MHz 無変調の信号をつくってBFOをONにした5900で受信します。 それと同時に、5900から漏れ出る第1局発周波数20.8MHzを FRG-7 のUSBモードで受信します。 この2つのオーディオ信号をミキサでミックスし、 Noobow9100Fコンピュータに入れ、WSJT-Xのスペクトログラムで周波数の変動具合を観察します。

        右に示すスクリーンショットで1000HzあたりのがFRG-7の受信音 (=5900の第1局発信号)、 1400Hzあたりのが5900の受信音 (BFO ON)です。

        見てすぐわかるように、 5900Wの復調音スピーカ出力の周波数がふらついているときも、 5900Wの第1局発周波数はぴしっと安定しています。

        これは予想外、5900の第1局発は想像以上に安定している!

    2024-06-04





        つぎに5900Wから漏れ出る第2局発信号 11.055MHz をFRG-7で受信してみます。 右図のだいたい1000Hzの線がそれで、 だいたい1400Hzの線は5900Wのオーディオ出力。

        5900Wの復調音の周波数が変動したときも5900Wの第2局発の周波数は安定しています。 ただし変化率一定のゆっくりした周波数ドリフトはありますが。

        2.0V安定化電源回路の出力電圧がふらついたためならば、 第1局発も第2局発もふらつくはずです。 それがないのだから、消去法で、周波数不安定の原因はBFOだ、となります。

        ではBFOの発振トランジスタ、あるいは周辺素子の劣化でしょうか? いや、それよりももっと可能性の高そうなのが、 BFOスイッチの接触不良。 対応策としてBFOスイッチをかちゃかちゃやってみると・・・ どうやらこれだったようですね。 受信周波数は安定しました。

        ところで今回のこの実験で、第1局発よりも第2局発のほうがドリフトが大きそうだというのは思ってもみなかった発見でした。 なにか簡単に試せるドリフト低減の方法はないでしょうかね。






    ざんねん 採用されなかったね

        ICF-5900Wでラジオタイランドを聞きながら、 今年の4月に発売された大型本 Deyan Sudjic 編 "Analogue | A Field Guide" のICF-5900Wのページを眺めます。 この本はロンドンのDesign Museumの元ディレクターによる、 アナログ時代の各種コンシューマ向け製品 - 電話機、ラジオ、テレビ、オーディオ、カメラなど・・・の写真集。 プロダクトデザインのエポックとなったさまざまな美しい製品が解説とともに掲載されています。

        この本の1970年代のラジオのセクションには、スカイセンサー世代が親しんだモデルが並びます。 1970〜1980年代は日本製品が先端プロダクトデザインとして世界中で愛されていたことがわかります。 インダストリアルデザイナーの地位が確立していたのでしょうね、 欧米の著名なモデルにはデザイナーが誰であったかも記されていますが、 日本製品ではほとんどデザイナーの名は記されていません。 5500あたりで確立し、 CRF-320で一つの絶頂を迎えたスカイセンサーのデザインムーブメント。 多くの人を魅了したそのデザイナーが誰であったか、もっと知られてもいいと思います。

        この本は基本的にはインダストリアルデザイン/インダストリアルアートとしてのプロダクトカタログであり、 それぞれの製品の特長や当時の市場の背景なども解説されていますが、 技術的な記述には不適切なものもあります。 著者は クーガNo.7 GX600 (RF-1150) のジャイロアンテナは短波を受信するためのものと勘違いしているようですし、 ICF-5900Wの解説で「この製品がどのようにマーケティングされたかを考えれば、 BFOスイッチはたぶんとんでもなく余計な機能だった」とあるのには思わず吹き出してしまいました。

        それはともかく、スマートフォンの普及がこれらの工業製品をほとんど駆逐してしまったのは残念です。 20世紀に大きく花開いた美術の一分野を滅ぼしてしまったのですから。

        実はこの本の編集者からNoobowSystems Lab.あてに、 スタジオ1980 ほか数機種の画像提供の打診があったので、 みんなラックから出てきていそいそとお化粧し、写真再撮影して送ったのでした。 撮影ブースとかは使わなかったしレフ板も不完全だったから、 見栄えがイマイチで採用されなかったんでしょうね。 期待したから、ちょっと残念。

        この本、1960年代のコンシューマエレクトロニクス製品はレトロフューチャーな各種のテレビが登場しますが、 同時代のラジオやオーディオ機器はわずかしか出てきません。 たしかにその時代のラジオで美しい魅力的なモデルというのはそう多くないですね。 1960年代は低価格な (しかし美しくない) 日本製機器が台頭して欧米のメーカーは苦境に立たされ・・・ という時代だったのだろうかなと思います。







    ノイズだらけの夜空

        第3研究所に持ってきた5900Wで9.385MHzのラジオタイランドを聞きます。 屋外アンテナもなく数mと離れていない隣部屋からのノイズも否応なく浴びて。 モジュレーションハムは酷いし混信妨害もあるし信号も弱いし、 内容は了解できるけれど番組を楽しむ気分にはなれません。 やっぱり短波を楽しむにはアンテナと受信環境ですねえ。 それでも自信を持って待ち受け受信できる、という点で5900Wはきっちりいい仕事をしています。

        1422kHz アール・エフ・ラジオ日本でも音質は良好、低域歪は感じられません。 しかしRF-877と全く同様に、ひどいモジュレーションハムを受けています。 これはおそらくあの施設 ― たぶん強力な磁界を出しているはず ― の影響なんだろうなあ・・・ バーアンテナの向き (=受信機の設置向き) を調整してハムをヌルアウトできます。 こんな時はクーガNo.7のジャイロアンテナは強力な武器ですね。 すると、ひょっとして第3研究所には RF-2200 のほうが適しているのかな?

        シリコンバレー在住中にICF-5900Wを買ったときは、 これを日本に持って帰ったらFMは楽しめないなあと思っていました。 それがまさか「スカイセンサー5900じゃあ FM補完放送は聞けないよねえ」 なんてマウント取りできるようになるだなんてねぇ。 しませんけどね。

    2024-06-07 第3研究所で稼働開始






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    1999-01-26 Created.
    1999-02-16 Revised.
    1999-02-17 Revised.
    2000-05-15 English version.
    2001-12-15 Relocated to wind.ne.jp.
    2002-02-13 Revised.
    2002-03-02 Revised.
    2002-03-21 Added transistor list.
    2002-03-24 Shortwave alignment performed. Sensitivity at +125kHz improved.
    2002-03-25 Corrected typo, revised.
    2002-05-05 Revised. Added EXT POWER IN description.
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