NoobowSystems Lab.

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Echophone Commercial
EC-1A

General Coverage
Shortwave Communications Receiver
(1946)




    As the WW2 ended, Hallicrafters introduced Echophone EC-1A as an entry level shortwave receiver. Its unique band spread dial layout as well as its circuit design to provide low cost yet best performance, was definitely the predecessor of popular Hallicrafters S-38 series.

    Little is described in books or on web pages regarding the difference between EC-1A and EC-1B, however, the band spread mechanism is completely different. EC-1A uses combined variable capacitor while EC-1B uses slug movement control in the local oscillator coil. S-41W/G is same as EC-1B, and S-38 uses EC-1A type. EC-1A has minimum friction and therefore the dial operation is quite smooth.

    Although the radio cannot be classified as a high performer, it plays incredibly well and is my most favorite receiver to enjoy relaxed listening time.



Echophone EC-1A

    第2次世界大戦直前の1941年、ハリクラフターズ社は低価格の短波帯受信機 エコーフォン・コマーシャル モデルEC-1 を発売しました。 本体のどこにもハリクラフターズの名前は見えません。 1935年にエコーフォン・ラジオ社がハリクラフターズ社に合併されて以来数年ぶりに、 エコーフォンのブランドが市場に復活したことになります。 EC-1は第2次世界大戦中も生産が継続された唯一の短波ラジオだといわれています。 EC-1は軍のモラール・ラジオとして多くが戦地に赴きました。

    第2次世界大戦終戦に伴いハリクラフターズ社は軍用無線機の生産ラインをピースタイム転換し、 民生用短波受信機の生産を再開します。 最初の製品の一つとして、1945年11月に エコーフォンEC-1A が発表されました。 EC-1と同じく、製品のどこにもハリクラフターズ社の名前は見られませんが、 広告の下に小さくハリクラフターズ社の「エコーフォン事業部」の製品であることが示されています。

    EC-1AはEC-1を改良・再設計した後継機であり、 価格は29ドル95セント。 EC-1Aの実際の発売開始は1946年はじめ頃であったとみられます。

    EC-1Aで導入された特徴的なバンドスプレッド・ダイヤルのレイアウトや、 性能をなるべく犠牲にせずにコストダウンを図ったその基本設計は、 その後 マイナーチェンジ機EC-1B や、フェイスリフトモデル ハリクラフターズ スカイライダー・ジュニア S-41G/W を経て、1946年中ごろにはエントリー・レベルの受信機の傑作 ハリクラフターズS-38シリーズ に受け継がれることになります。






回路構成

    EC-1Aの回路は、 家庭用ラジオの標準的な平凡なAC/DCセット(日本でいうトランスレス) のシングルスーパーヘテロダイン構成になっており、 いわゆる5球スーパーにBFO発振管を追加した6球式です。 使用している真空管も当時のアメリカの一般的なラインアップになっています。

使用真空管と回路構成
12SA7 メタル管:周波数変換用7極管 局部発振・周波数変換
12SK7 メタル管:リモートカットオフ5極管 中間周波数増幅
12SQ7GT GT管:双2極・高μ3極管 検波・初段低周波増幅
12SQ7GT GT管:双2極・高μ3極管 BFO / ANL
35L6GT GT管:ビーム出力管 低周波出力
35Z5GT GT管:2極整流管 整流

    周波数変換管は最新鋭の12SA7ペンタグリッドコンバータ管。 EC-1の6極3極複合特殊管6K8に比べてさらに安定した短波帯の動作が期待できます。 ハリクラフターズ社の製品で6SA7が採用されたのは1939年から。 翌1940年のスーパースカイライダーSX-28にも6SA7が使われています。 1940年から1945年まではEC-1ただ1機種を除き実質的に民生向け短波ラジオは生産されませんでしたから、 一般ユーザやアマチュアに6SA7/12SA7が使われ始めたのは1946年から、ということになります。

    中間周波数は455kHzです。 少ない増幅段で最大のゲインを稼ぐため、 伝達ロスの少ない中間周波トランスが用いられています。

    AGC電圧は12SQ7のダイオード部を用いたAM検波回路で生成され、 中間周波増幅管12SK7のコントロールグリッドのバイアス電圧を制御します。 周波数変換管12SA7にはAGC制御は掛けられていません。 これは短波帯での動作を安定にする方を優先したのでしょうけれど、 12SK7 1本だけでは良好なAGC制御を得るには明らかに不足で、 受信信号の強度によってしばしばボリュームつまみを操作することになります。




    ロータリースイッチによる3バンド切り替えで、550 kHzから30MHzまでをカバーします。 バンドスプレッド用のバリコンはメインバリコンと一体で、 ごくオーソドックスな糸掛け方式で左右のチューニングつまみから駆動されます。 一体式バリコンの2本のシャフトに直接指針を取り付けるために、 後のS-38シリーズにつながる特徴的な「分度器2つ」ダイヤルが生まれました。

    短波帯はわずか2バンドにしか分割されていないため、 メインチューニングつまみをごくわずか動かしただけで周波数は大きく変化しますが、 品質の高いバリコンのせいかバックラッシュはほとんどなく、きわめて快適に操作できます。 上部から豆電球でお世辞程度の明るさで照らされるダイヤル目盛りには、海外/アマチュア/航空機/船舶などのバンドが表示されています。 アマチュア無線バンド表示を注意深く見ると、21MHz帯がないことに気がつきますね。

    電源スイッチはボリュームコントロールと兼用です。

    フロントパネル下側の4つのスライドスイッチは次のような機能を持っています。

C.W./A.M. AM受信とCW(と、当時はほとんど無かったSSB)受信の切り替え。 CWポジションするとBFO発振管のカソードが接地されてBFOの発振が始まり、 またAGC制御ラインが接地されて受信機はフルゲイン固定になります。
NOISE LIMITTER ON/OFF ノイズリミッタのON/OFF。ですがほとんど効果は感じられません。
PHONE/SPEAKER 内蔵スピーカと、背面のヘッドホン出力の切り替え。 ハイインピーダンスのヘッドホンを使用します。
STANDBY スタンバイスイッチ。 となりに置いた送信機で送信するとき、このスイッチで受信機の動作を一時停止します。 内部的には中間周波増幅管のカソードを切り離しています。 この受信機にはトランシーブ動作用のコネクタはありません。




    Entire shortwave spectrum is covered by only 2 bands. Although the slightest touch of the main dial causes a large frequency change, the EC-1A's smooth dial mechanism gives a pleasant time of searching the signal with the band spread.


    キャビネットは堅牢かつシンプルなスチール製で、資料によれば本来はグレーに塗装されています。 このラジオはトランスレス式のため、内部シャーシは電源プラグのどちらかのピンに接続されており感電の危険があります。 そこで内部シャーシと外部キャビネットは電気的に絶縁されています。 取り外し式の背面パネルには一般的な家庭用ラジオにみられるインターロック機構はついていません。 そのためパネルを外したままシャーシを触ると感電してしまいます。

    シャーシ背面左側から順にアンテナターミナル、 となりのゴムブッシュは前のオーナーが開けた穴を利用した外部スピーカ引き出し、 真ん中がオリジナルのヘッドフォン端子。 一番右は電源ケーブル、そのとなりがBFO周波数調整トリマ。





カリフォルニア暮らしのはじめての短波ラジオ

    1994年11月にシリコンバレーに渡ったとき、 ケンウッドTS-60と東京ハイパワーのトランスバータを持参しました。 当時はパソコン通信時代、インターネットでは商用ウェブサイトもほとんどない状態でしたので、 日本語のラジオニュースを聴くなどというのは夢のまた夢。 TS-60とトランスバータでNHKの国際放送でも聴こうと思っていたのです。 しかしトランスバータはアマチュアバンドにチューニングされているので、 親機のTS-60の受信周波数範囲が広くても6MHz帯も9MHz帯も感度はとても低く、 結局のところは ソニーICR-4800 を使っていました。

    当時シリコンバレーでは、 フットヒル・カレッジの駐車場でラジオ・エレクトロニクス・コンピュータ系のフレアマーケットが毎月開催されていました。 日本のハムフェアの5倍はあると思われる規模のマーケットが毎月あるわけで、 出品されていたのは文字通りのジャンク品が大半でしたけれど、まるで天国でした。 最初に買ったのがテーブルトップ真空管ラジオ。 簡単な修理で鳴りだしたそのラジオで、 ぜんぜん聞き取れないニュース番組を何とか聞き取ろうと努力していました。 その次に買ったのが、いかにも素人細工で塗りなおしましたという風情のこの短波ラジオ。 直してNHKの日本語ニュースが聴こうと思ったのです。

    フットヒル・カレッジのフレアマーケットで手に入れたとき、 これがエコーフォンであることを認識して買ったのか、 それとも正体不明の低価格機と思って買ったのか、 このセクションを書き直している2023年の今となっては記憶がありません。 このページを最初に書いたのは1998年だから、そのときはなにか覚えていたのでしょうけれどね。 ダイヤル盤に見えるECHOPHONEの文字を見て当時普及し始めていたYahoo!やInfoseekか何かで調べて正体を知ったのではないかなと思います。

    ともかくこのラジオはブルーメタリックにリペイントされており、 本来エコーフォンのロゴがあるべきところには、なんとSONYのネームプレートが貼り付けられていました。 全てのコントロールにはテープライターのテープが貼り付けられていました。 バンド切り替えつまみはオリジナルではなくサトーパーツ製の矢型つまみに交換されていました。 シャーシは銀色スプレーでサビ隠しがされていました。

    外観は素人加工されてしまったこのEC-1A、電気的には問題がなく、すぐに動作を開始しました。 ボリュームのガリもありません。 入手時の唯一の問題はバンドスプレッドが約3分の1の範囲しか動作しなかったことでしたが、 これはスプレッドバリコンのローターが曲がっていたのが原因で、曲げ直して修復。





    第2次世界大戦直後の設計製造で、高周波増幅段をもたず、中間周波増幅がただ1段のみ。 高性能であるはずがありません。 が、それらのことを考えると逆にこのラジオが極めて高品質・高性能であることがわかります。 感度自体は高いとはいえずAGCの効きも不十分なため、 電波の強弱にあわせて頻繁にボリュームを調整する必要がありますが、 それでもわずか数メートルのビニール線を天井に這わせただけのアンテナでBBCやドイチェ・ヴェレが聞こえてきます。 感度は18MHz以上では急激に悪化するようで、 27MHzのCB無線帯ではほとんど無音状態になります。

    選択度や安定度は適度で、アマチュア無線受信には能力不足ですが、 国際放送に対しては充分実用的といえます。 周波数直読は完璧に困難ながら、同調操作がきわめてスムースなので、バンド内を「探る」楽しみを十分に堪能できます。 明確なイメージ混信があり、時としては本来の周波数より強く聞こえたりすることもあります。

    独立した真空管で発振されるBFOの出力は不足気味で、 至近距離にあるアマチュア局の強力な信号に対しては復調が困難です。 この場合はアンテナ・アッテネータを使用する必要があります。 またSSB復調は、ブロードな選択特性と逆サイドバンド混信のため、当然ながら本格的通信機のようには行きません。

    オーディオ出力は充分で、キャビネット上部のスピーカを大音量で駆動することができます。 音質は比較的乾いた感じで、通信機風と言ったら分かりやすいでしょうか。 この音質はもっぱら薄いスチールキャビネットと内蔵スピーカに起因するもので、 オーディオ用のコンパクトブックシェルフスピーカを接続したところ落ち着いた音となり、 リラックスして国際放送を楽しめます。

Sound Clip of EC-1A ( WAV format, 678KB )




    その後リヴァモアのフレアマーケットで MFJ社製の受信用アンテナチューナー・プリアンプ を手に入れることができ、 屋外に張った簡単なビニール線アンテナと組み合わせて、 ラジオ・ジャパンの日本語ニュースとBBCワールドサービスがほぼローカルAM放送なみに聞けるようになりました。 すぐそばにコンピュータがあるものの、 アース端子をコンピュータのケースとキャパシタを介して接続したところコンピュータノイズの影響もほとんどなくなり (トランスレス方式であることを考えると結構危険ですが)、実に快適です。

    こうしてEC-1AはNoobowSystems Lab.クパチーノ研究所時代の後期とサンノゼ研究所時代の大半の間、 ガレージラボのメイン受信機になりました。 渡米後1年半ほどたってからでしょうか、クパチーノ研究所時代のある日、 EC-1Aから聞こえてくるニュース番組のアナウンサーに妙に訛りがあることに気がつきました。 こんな人をアナウンサーにするなんて変だなあ、と一瞬思い、そしてすぐにそれがBBCであることを思い出したのです。 あ、これがイギリス英語ってやつなのか!!

    おそらく100時間以上使用した後しだいにハム音が大きくなってきたので、底板をはずして再びチェック。 電源平滑用のブロック電解キャパシタは、前のオーナーによって最近の単体電解キャパシタと交換されていました。 整流管と出力管周辺のペーパーキャパシタ何個かを新しいものに交換したところ、皆無とは言えないものの、 ほとんど無視できるまでにハムは低減しました。同時に、痛みかけていたAC電源コードを新品と交換。 2ピンのACプラグを、極性に注意して接続しました。

    その後しばらく使用していたらミキサーの12SA7がヒータ断線。マウンテンビューのHaltekで買った中古球と交換。

    現時点での問題はペイントだけで、いつかリペイントにチャレンジしようと思っています。 オリジナルのグレーに戻すのが正統的ですが、明るいアイボリーにしてみるのもいいかな、などとも考えています。 コントロールは市販のインスタント・レタリングで済ませるとして、フロントパネル上部のEchophoneのロゴはどうしよう。 手元の資料に拡大図はあるので、なんとかこれを再現したいなあと考えています。






ガレージより狭い

    1999年04月、日本に戻ってきたときの第1研究所はサンノゼ研究所のガレージより狭く、 わかってはいたもののすごく情けない思いでした。 最初の1年、EC-1Aは コリンズ51S-1 と並んでラックにいました。 当初日本語ニュースを聞こうとして買ったラジオですが、 日本に帰ると英語ニュースをかけっぱなしで聴きたくて、 BBCやVOAを聞いていました。 使用過程で整流管の35Z5GTのヒーターが断線してしまったので、 在庫の新品に交換して即修理完了。

    HA-230 につづき CRV-1/HB の修理が終わると、 ラックのスペースの関係からEC-1Aは引退して段ボール箱に収容、 保管品の扱いに。

    1999年から2002年は消え去った夢への未練に苦しめられる日々、 2003年からは育児と重度の産後鬱患者のケアに加え無理難題の続く仕事の重圧とで日々生きつづけるのが精いっぱいの日々が続きました。 2008年05月にNoobowSystems中央研究所が落成すると、EC-1Aは他のいくつかのラジオとならんで玄関のラックに収容。 2010年には第3研究所との毎週末往還生活でラジオをいじる時間もあまりとれず。 EC-1Aは電源を入れられることもなく、 だけれどいつかリペイントしてやろうね、というのは見るたびに思い続けていました。







(ここで23年間のブランク)


25年間の課題

    2020年に入り中央研究所での活動時間がとれるようになり、 長い間の懸案事項・課題にひとつひとつ着手できるようになりました。 2023年1月、骨董品屋さんのジャンク位置で GRS-6改造機 を入手。 簡単に動作チェックを行いましたが、 ちょっと待って、5球スーパーいじるならこっちの方が先でしょ? 1995年からずーっと、いつかリペイントしてやろうって思い続けてきた、 シリコンバレーの4年間を共にした、ぼくの英語リスニングの恩師。

    夢と時空の部屋のワークベンチにEC-1Aを置き、 包んであったビニール袋を開けると、 古い真空管ラジオの匂いがふわっと広がりました。 このラジオは入手して以降、ウエスで乾拭きくらいはしたけれど、 内部の水拭き清掃は行った記憶がありません。 古い真空管ラジオ特有の匂いは、たいていは付着したタバコの香料が加熱されて香りだすものですからね。

2023-01-28 EC-1Aサービス開始





シャシー清掃

    今回の作業は外装再塗装を行うつもりですので、 まずはキャビネットからシャシーを取り出して内部・外部の清掃から始めます。

    EC-1Aのフロントパネルスイッチやポテンショメータやロータリースイッチはすべてキャビネットのフロントパネルに固定されます。 なので、取り外すためにはポテンショメータとロータリースイッチのナットを外し、 スライドスイッチを取り付けているビス-ナットを8組外す必要があります。 そんなに苦労はしませんが、めんどいね。

    シャシーを取り出してよく見てみると、内部はかなり汚れが進行していました。





    長年の堆積した汚れよりも、 シャシーとシャシー上の金属部品の表面に発生した白い析出物が目立ちます。 とくにバリコンが、タバコのヤニ汚れもあいまって可哀そうなありさま。 本当なら取り外して超音波洗浄機に入れたいところですがそこまではせず、 アルコールと綿棒と軽いヤスリ掛けでちまちまと。





    シャシーは入手時にすでにシルバーでリペイントされていました。 本格的にレストアするなら完全分解してシャシー単体での塗装剥がし・研磨・再メッキとなるのでしょうが、 コンクールに参加しようというつもりもないし高値で売ろうと思っているわけでもないので、 水ぶき・アルコール拭きで清掃しました。 ひととおりシャシー上面の清掃は完了、こんなもんでいいでしょう。

    ダイヤルメカニズムは、糸掛けのテンションも含めて実用に支障がないので、 水ぶきとダイヤルシャフト部への注油のみ。





    ACプラグを差し込み電源ON。 EC-1Aは目立つトラブルもなく動作し始めました。 ハムは皆無ではないものの問題となるレベルではなく、 各バンドとも動作。 ただしダイヤル位置での感度ムラはそれなりにあります。

    EC-1Aはトランスレス機であり、シャシーはACプラグのどちらかいっぽうに接続されています。 触れれば感電する危険性があるので、作業するときは検電ドライバーで触れて電圧が来ていないことを毎回確認します。 実際のところラボの作業環境ではシャシーに触れても感電することはないのですが、 絶対確実というわけではないので、検電ドライバーは欠かせません。

    パイロットランプは切れていました。 はて、いつから切れていたんだっけ。 #47のランプに交換して回復。

    シャシー形状はごらんの通り、 左右の折り曲げ部の高さがなく、 そのまま作業台に置こうとすると部品が直接台に当たってしまいます。 だから写真の中ではポリプロピレンケースを使って台にしているのですが、 回路点検作業をするにはどうやって作業しようかな。 結局これはキャビネットに組み込んで作業するのが一番簡単でしょうね。

2023-01-28 シャシー上面清掃完了






IFT調整

    オーディオ段もAGCも正常に動作しているようだったので、 中間周波トランスの調整を行います。 シリコンバレーにいたときは感度良く鳴っていたので中間周波トランスの調整はしなかったように思います。 このEC-1Aを買ったときはシグナルジェネレータなんて1台もなかったし、 その後買った ヒースキットのシグナルジェネレータ はおもちゃ同然で正確な発振周波数は知ることができなかったし、 ようやく デジタル周波数カウンタ付きシグナルジェネレータ を買ったのは日本への帰国日が決定した頃でしたから。

    さて、EC-1Aの中間周波トランスは、 上部にふたつのトリマキャパシタをもつC同調型。 μ同調型のようにシャシーを横倒しにしてシャシー上面と下面で交互に調整しなくても良いので作業はしやすいですね。 SIGLENT SDG2122Xシグナルジェネレータで455kHzをつくって注入し、 IFTの調整。 調整ずれはそれなりにあって、結果としてIF出力は倍以上になりました。 やったね。

    本機に使われている2個の中間周波トランス、 よく見るとアルミシールドケースの角部のアールが違いますね。 生産ロットが違うのか、それともサプライヤが違うのか。 終戦直後半年もたたずに生産再開された製品です、 多少の混乱があったとしても不思議ではありません。

2023-01-29 中間周波トランス調整






高域シャント

    いったんキャビネットに組み戻して、電気的なテストと整備を行います。

    シリコンバレーのガレージでEC-1Aを使い続けていたのは、 小型の外部スピーカにつないだ時にとてもリラックスできる音質だったからでした。 で、いまシグナルジェネレータの外部AM変調機能を使ってEC-1Aで音楽を聴くと、 高域がかなりカットされています。 強力な局のニュース番組にはいいけど、 音楽を聴くにはAMといえどもう少し高域を伸ばしたいなあ。

    調べてみると、出力管35L6GTのプレートに入ったキャパシタが、 設計値0.02uFのところ0.068uF品に交換されていました。 これを交換したのは1998年ころの自分なのですが、 はたして当初から0.068uFが装着されていたのかどうか。 たぶんショップに0.02uFの在庫がなくて、 あまり深く考えずに0.068uFを使ったんじゃないかな。 かつ、このキャパシタは35L6GTのプレートとカソードをつなぐものですが、 カソードではなくてシャシーグラウンドにつながれていました。 これは自分のミスなのか、それとも何か試した結果なのか。 とにかくこのキャパシタが大きすぎて、 35L6GTプレート出力の高域成分を大きくシャントしていました。

    キャパシタに直列に抵抗を入れて、高域シャントの量を調整してみます。 結果、3.3kΩを直列に入れたときに音楽を聴くのにちょうどいい具合となりました。

    でもこの高域を大きくカットした音で私はBBCニュースを毎晩聞き、 「リラックスできるいい音」と感じていたわけです。 今回の変更は私にとってのこのラジオの美点を損なってしまうことになります。 そこで、フロントパネルのNOISE LIMITERスイッチを流用して、 スイッチ操作で3.3kΩ両端をショートするようにしてみました。 "NORM"ポジションで音楽番組にちょうどいい音、 "HI CUT"ポジションでニュース番組にちょうどいい音、 ということですね。

    "HI CUT"ポジションにすると、10kHzとなりの局があるときに発生する10kHzのビート音はかなり減衰されます。 隣接局のビート音が小さいというのも私にとっての「リラックスできる音」の理由だったのかもしれません。

    この改造でEC-1Aが本来有していたNOISE LIMITERは効かなくなってしまったわけですが、 この回路はBFO管12SQ7の2極管部を使ってAM復調信号レベルの大小にかかわらず大振幅をクリップするシンプルなもの。 もとよりほとんど効果がありません。 効かなくしても実際には全く困りません。

2023-01-30 出力管高域シャントを調整 NOISE LIMITERスイッチをTONE CONTROLスイッチに変更改造






大音量時オーディオひずみ対策

    ↑ のムービーの中でも見て (聞いて) とれますが、 ボリュームを大きめにしたときの低域のひずみが顕著です。 もちろん35L6GT ビーム出力管1本のA級シングルアンプで出力トランスも小ぶりなものですからそんなに大出力は出ないとはいえ、 もうすこしがんばってもらいたいところ。

    最初は初段低周波増幅管12SQ7のグリッドバイアス不足かと思いました。 12SQ7のカソードは接地されており、グリッドリーク抵抗10MΩでグリッドバイアス電圧が生成され、 その値は-1Vほどでした。 しかし調べてみるとここは問題ではなく、 むしろ出力管35L6GTのグリッドバイアス不足であることがわかりました。

    35L6GTのカソード抵抗は150Ωで、カソード電圧は5Vあります。 つまりグリッドバイアスは-5Vです。 これに対し強力な信号の場合はボリュームを上げるとグリッド入力振幅は±5Vを越えてしまい、 ここから顕著なひずみが発生し始めます。

    カソード抵抗の増大を試すと、270Ωにした時がベストな結果となりました。 それ以上にしてもカソード電圧はたいして上がらず、 パワー的にも音質的にも劣化していきます。

    CBA-1000のオーディオアンプのときに作った、47uF電解キャパシタがパラにつながった270Ωがありましたので、 これを使います。 カソードバイパスは前オーナーによって交換修理されており、 おそらくそれはまだ容量低下はしていないと思うのですが、 そこに47uFをパラにつないだ格好です。

    結果としてひとまわりひずみが出始める音量が大きくなりました。 静かな部屋で聴くので大音量は必要ありませんが、 音楽を聴くときにバスドラムやベースの音圧が高いソースでも安心して聴けますのでマル。

2023-01-31 出力管35L6GTのカソード抵抗を270Ωに変更 カソードバイパスキャパシタ47uFを追加


    なおこの作業の後に Echophone EC-1 を修理していて気がついたのですが、 EC-1では出力管35L6GTのカソードはB電源から5kΩで釣り上げられていて、 プレート電流によるカソード電圧発生を補う形となって、 十分なグリッドバイアスが得られるようにしています。 いっぽうこのために5kΩの抵抗は常時2ワットの電力を消費します。

    この上ないシンプルな部品追加で出力管の能力を引き出そうとしている・・・わけですが、 たかだかグリッドバイアスを高めるだけのために2ワット喰うとはなんとも不経済な設計ですね。

2023-02-22 コメント追記






コンポーネント交換とトラッキング調整

    使われているソリッド抵抗は、 S-38C と同じく、ほとんどが15〜20%以上の抵抗値増大を示していました。 変化が10%以上のものは交換してしまいます。

    12SA7ペンタグリッドコンバータ管の第1グリッド、 すなわち局発グリッドの抵抗は、 22kΩ装着のところ実測32kΩまで上がっていました。 交換後、それまでは28MHz以上で発振停止してしまっていたところが30MHzでも安定して発振しており効果あり! と喜んだのですが、 これはちょっとぬか喜びだったかも。 トラッキング調整の具合やアンテナ負荷によって局部周波数発振回路の動作は影響を受けるらしく、 抵抗交換後も条件によっては27〜28MHz程度以上で発振停止することがあります。

    キャパシタについては、電源平滑と出力管カソードバイパスに用いられていたブロック電解キャパシタは以前のオーナーによって交換されており、 出力段まわりとシャシー-キャビネット接続キャパシタ合計3個はサンノゼラボ時代に交換しました。 そのほかのキャパシタはすべてオリジナルで、 けれどどれも正常に動作しているように見えます。 生産後77年も経っているというのに!

    敬意を表してそのままにしようかなとも思いましたが、 明確な障害になるほどではない性能低下が起きているかもしれないし、 安心のためにもワックスペーパー/ワックスマイカモールドのキャパシタは交換することにします。

    ひとつずつテストしては交換しまたテストを・・・を繰り返しながら、 あわせてトラッキング調整を行います。 中波帯のバンド1と、2MHz〜8MHzをカバーするバンド2に関しては局発のパディングトリマがあってシャシー上面から調整します。 バンド3にはパディングはありません。

    調整は比較的スムースに・・・と思いきや、 アンテナ端子につないであるものの影響を受けて局発周波数が変動したり、 ダイヤル目盛の直線性がうまく取れなかったり、 バンド全域でフラットな感度を得るのは無理だったり、 イメージ信号に合わせて調整を取ってしまったり。 さらには局発廻りの部品を交換したために調整点が狂ったりと、 数日間 毎日トラッキング調整を繰り返すこととなりました。

2023-01-29 トラッキング調整 以降数日間再調整を繰り返す





BFO調整

    BFOの発振周波数は10kHz以上もずれていました。 周波数カウンタ を併用しながらBFO出力を455kHzに調整しました。

    内蔵BFOでFT8が受信できるかなと試してみましたが、 局発周波数の短時間でのふらつきがとても大きく、 ただの1回もデコードできませんでした。 どうしてだろうなあ、 局発に関しては方式的にS-38Cとほとんど変わらないはずなのに。

2023-01-31 BFO調整


    そのあと気がついたのですが、この受信機はアンテナ負荷の変化やボディエフェクトによって局発周波数が明らかに変動します。 ここになにか、EC-1Aに対するS-38Cでの改良点があるのかもしれません。






リペイント

    トラッキング調整は再チャレンジの必要が残っていますがそれ以外は一通りの整備が済んだので、 リペイント作業に取り掛かります。 まずはフロントパネルのダイモ・テープライターのラベル剥がし。 接着剤が固まってしまい、アルコールで溶かしながら1時間近くの清掃作業。

    ついでアイボリーのラッカースプレーで塗装。 小傷隠しも兼ねて何回も重ね塗りし、きれいに仕上がりました。 キャビネットカラーが明るくなったら、 ダイヤル盤が暗く見えてしまいますね。

    ダイヤル盤グラスは透明プラスチック板で、オリジナル品だと思います。 前オーナーによる引っかきキズがあったのでプラスチッククリーナーで研磨。 キズは残っていますが、まあまあきれいに仕上がりました。 しかしこの透明プラスチック板、 77年前の製品とは信じられないほどにゆがみがなく、 また黄ばんでもくすんでもおらず、すっきりと透明。 1945年にこういう材料を民生向け格安機につかうほどにアメリカの工業は進んでいたのですね・・・。

    塗装表面は乾燥していたのでキャビネットを組み立てましたが、 やはりそのうち部屋がペンキ臭くなってしまいました。 数時間は部屋の窓を閉められず。 幸いに翌日はもうニオイは出なくなりましたけどね。

    さあて、次のチャレンジはフロントパネルのレタリングとECHOPHONEのロゴ入れだ。

2023-02-04 キャビネット塗装






謎の発信音

    こりゃあ奇妙な現象だ。 まあこういう古いラジオいじっていると原因不明・正体不明の怪奇現象に遭遇することは珍しくありませんけれどね。 ボリュームを目いっぱい絞っているのにわずかに受信音がするパススルー現象、 このEC-1Aでもほんのわずかにあります。 ほぼ気にならないレベルですけれどね。 ところが今回は、 ボリュームを目いっぱい絞っているのに、 わずかにピーッという発信音が間欠的に聞こえます。 音はかなり正弦波に近い澄んだ電子音。

    この現象は2023-02-06の1730JST頃から出始めました。 発信音は出たり消えたり、また複数の周波数が出ます。 ちょうどFT8の受信音のようなサイクルですが、 ひとつの音の周波数は出ている間は変わらず、 出たり消えたりするサイクルはFT8の運用タイムフレームとは非同期。 これはなんだろう? いろいろい試してみると、

  • ボリュームを上げても音量は変わらない。
  • STANDBYポジションにすると、音は消える。
  • 内蔵スピーカでも外部スピーカでもほとんど同じ。
  • BFOスイッチをONにしても発信音は変わらない。
  • となりで動作しているCBA-1000 非線形検波器の電源を切っても症状は変わらない。
  • ここのところ24時間連続動作させている51S-1のRF GAINを絞っても症状は変わらない。
  • アンテナ端子につないだアンテナやシグナルジェネレータを切り離しても症状は変わらない。
  • アンテナ端子をショートしても症状は変わらない。
  • どのバンドでも、どのダイヤル位置でも症状は変わらない。

  •     発信音はその出たり消えたりする周期や周波数の安定度、また複数の周波数が聞こえることから、 EC-1A内部の何らかの異常発振とは思えません。 たぶん外来信号なのでしょう。 上記列挙した試行から、 外来信号がボリュームコントロール以降の低周波増幅・出力段に飛び込んでいるものと思われます。 AC電源ラインに低周波領域の信号が重畳しているのかな。 トランスレスのEC-1Aは電源ラインからのノイズに弱いのは分かっていますし。 でもそれなら、どうしてSTANDBYポジションにして中間周波増幅管を止めると音も止まるのだろう?

        このかすかな発信音は、夕食をいただいて1945に戻ってみると消えていました。 なんだろう、夕方この時間に強くなる電波があるのかな? それともこの時間帯にAC電源ラインに混入してくる - たとえばわが家か隣家の炊飯器とか電子レンジとか?

    2023-02-06 奇妙な発信音に気がつく


        その後1週間ジャズアレンジBGMマシンとして使いましたが、 夕方になっても、また夕方以外の時間も、 奇妙な発信音は1回も観察されませんでした。 電源ライン経由での混入だと思うのですが、 ほんとなんだったんだろうねえ。 ともかくEC-1A本体の問題でないことは確実なので、 よくある奇妙な体験談としてissue closeにすることにします。






    これがいまのぼくのせいいっぱい

        最近はインクジェットプリンタで印刷できるデカール用紙というものがあるそうで試してみようかと思ったのですがチャレンジする若さが足らず・・・ 結局透明フィルムにインクジェットプリンタで印刷して貼り付け。 近くで見るとフィルムがはっきり見えて素人細工バレバレですが、 まあいいんじゃないのかな。 1995年にフレアマーケットでこれを買ったとき以来ずっと思い続けていたリペイント作戦、 28年経ってようやく完遂しました。

        クパチーノラボでのはじめての真空管短波ラジオとして実使用していたときは調子よく鳴っていたので整備は不要と思っていたのですが、 それから27年の間に少しずつ学び身に着けた知識と設備で作業を始めてみると、 やはりいろいろ整備すべきことがありました。 IFT調整とトラッキング取り直しで感度も選択度も明らかにアップ、 出力管カソードバイアス変更で無歪出力もアップ、 シャントキャパシタチューニングでシリコンバレー時代に楽しんだ落ち着いた音とより音楽に適した音質に切り替えられる機能を装備。 しかもキャパシタ交換作業を進めるにつれ少しずつ音がくっきりしっかりしてきました。

        局発とBFOの安定性が今一つでCW/SSBの復調音質が悪くてさらなる改善が望まれますが、 いっぽうでおそらく今すでに本来の性能が出ているのだろうと思えます。 なにしろ当時SSB電話通信は事実上存在していなかったのですから。 なので、この部分を追求するのはやめておきます。

        サービス完了して、すっきりしたカラーリングでしっかりきちんと感度よく、 いい音で鳴ってくれているエコーフォン。 サービスした甲斐がありました。

    2023-02-10 サービス完了






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    1998-10-31 Revised; Added link to taihoh's page, thanks!
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