エコーフォン コマーシャル EC-1は、ハリクラフターズ社の設計・製造になる低価格ブランド、エコーフォン シリーズの第一作です。
GT管とメタル管による6球のシングルスーパーヘテロダインで、3バンド切り替えにより中波帯から30MHzまでをカバー。
CWを受信するためのBFOと微調のためのバンドスプレッド チューニングを持ちます。
電源トランスを持たないAC-DC電源方式。
バンドスプレッド バリコンはメインバリコンと一体になっており、バンドスプレッドダイヤルは左右に動く横行きスケールです。 周波数変換はペンタグリッド コンバータではなく、 特殊な構造をした3極・6極複合管の12K8 が使用されています。 EC-1はかなりの台数が生産されたと思われますが、低価格機であったたため、 あるいはおそらく軍のモラールラジオとして使われたためか、現在では程度の良い個体は少ないようです。 ラボの個体ではフロントパネル上部にECHOPHONEのデザインロゴがシルク印刷されていますが、 現存するEC-1の多くはデザインロゴではなく、操作つまみ機能名表示のレタリングと同じ大きさのタイプセットが使われています。 QST誌のエコーフォンの広告にデザインロゴが登場するのは1945年1月号。 それと同時期から製品にもロゴが使われ始めたのだとすると、 ラボの個体は1945年製造の、ほぼ最終型だといえそうです。 EC-1は大戦の終了とともにEC-1Aとして再設計されます。 より低コスト化するためにバンドスプレッド ダイヤルが分度器二つスタイルとされ、 周波数変換はより高性能で安定なペンタグリッド コンバータ管に改められます。 |
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長い間の課題だった
エコーフォンEC-1Aの整備・リペイント作業が完了
したので、
これまた長い間の課題だったEC-1の復活作業を開始しようか・・・
そういえばEC-1はどこに行ったのだろう。 探すこと小一時間。 課題リストの中で優先順位は低い方だったので、 キャビネットが分解されたままのEC-1は 夢と時空の部屋で一番奥まったところの段ボール箱にひっそりと眠っていました。 保管中のホコリの追加堆積は無し。 いかにもガラクタの様相は入手時そのままです。 フロントパネルのスライドスイッチはすべてフロントパネルにリベットで固定されています。 なので、キャビネットからシャシーを取り出すためにはこれらのリベットをすべて破壊しなくてはなりません。 あるいはスイッチの配線をいったんすべて切り離すか。 入手時はこのラジオは修理ではなく完全分解してリビルドしようかと考えていましたが、 リベットの破壊は面倒なので、いつも通りの修理作業に方針を切り替えます。 予防保全の意味合いも込めてシャシー下面の素子は新品または新古品に交換、 シャシーとキャビネットは軽清掃にとどめて、 入手時の状況のまま、 トップパネルの塗装剥がれもタッチせず、にします。 ただし、ダイヤルベゼルは代替品を作ってあげるようですね。 きちんと鳴るようにしてあげよう、という方針。 2023-02-10 作業開始 |
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キャビネット内部に追加されている、
だけど使われていない緑色の長い巻線抵抗を最初見たときはなんともまあヘンテコな改造をされたものだなあと思いましたが、
シャシーから引き出されてる、途中で継ぎ足された電源ケーブルを見て気がつきました。
そうか、この巻線抵抗は・・・ AC230Vで動作させるためのドロッピングレジスタらしい。 EC-1Aの広告には要望に応じてAC230V対応仕様が注文可能と書かれているものがありました。 ひょっとしてこの個体はAC230V仕様で、当初はヨーロッパACプラグがついていたのかもしれません。 だとするとこれは、ヨーロッパ戦線に赴き、ドイツの無条件降伏のニュースをリアルタイムで聴いたのでしょうか。 それともその直後に、終戦処理のために渡欧した軍人あるいは政府関係者が携行していったものなのかもしれません。 バリコンとダイヤルメカニズムは幸いに損傷はなく、軽清掃で使用可能です。 |
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入手直後は本機には改造が入っていると考えましたが、
電源ケーブルのつなぎ直し以外はほとんどノーマルに見えます。
電源平滑電解キャパシタが交換されていないところを見ると、
このラジオは1960年代以降は全く使われずに納屋で保管されていたのでしょう。 シャシーの内部は、直前まで作業していたEC-1Aとほとんど変わりません。 使われている配線材はビニール被覆電線ではなくて絹巻電線。 使われている部品もほとんど一緒。 どのコンポーネントがどんな機能なのか、 すぐに理解できます。 よく見るともちろん違いもあって、 まず気がつくのはアンテナコイルと局部周波数発振コイルのシャシー内配置角が違いますね。 EC-1のほうがシャシーに対して整列していて端正な配置ですが、 EC-1Aは見た目の端正さよりもバンドセレクタロータリースイッチとの配線がより短くなるように工夫された、 ということでしょう。 ひとつだけある大きめの青色の抵抗、 これは電源ドロッピングだと思うけれど、 EC-1Aとは違っているなあ。 |
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まず最初に周波数変換用の
12K8 3極6極複合特殊管
のヒータを点検します。
ラボには12K8の在庫はないので、
もしこれが切れていたら代替品が入手できるまで作業は保留となってしまいます。
安定化電源でヒータ電圧を加えると、
データシート記載の定格通りのヒータ電流が流れます。
よかった、切れていない。 しかし12K8、上市が1938年で、この球は遅くても1944年末頃生産でまだ戦時中のはずなのだけれど、 緑色のシルク印刷が鮮やかですね。 戦時中生産、なんですよ? 他の球も点検しましたがすべてOKでした。 |
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入手時には電源整流管35Z5GTが失われていました。
きっとほかのラジオの35Z5GTが切れたので部品取りにされたのでしょうね。
35Z5GTなら在庫が何本かありますので探してみると、
最初に見つかった球はヒータが断線していました。
2個めの球は正常。
これを使おう。
ただしこの球はガラスエンベロープとベースの接着が外れかかっていたので、
隙間に接着剤を流し込んで処置。 2023-02-11 35Z5GT 在庫球を使用 |
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シグナルジェネレータにオーディオ信号を入れてつくった18MHz AMで小音量で一日ジャズアレンジBGM機として楽しみました。
一日動作させての周波数ドリフトは27kHz。
かなりの変動ですが、
1時間ウォームアップすればその後の変化はAM受信であればまあなんとか実用になるレベルです。
し、動作そのものは安定していて、
不安定なノイズの発生や不規則な周波数ホップはないしゲインは安定しているので、
ラジオを聴く楽しみをスポイルするようなものではありません。 が・・・曲によって低域の音が濁ります。 EC-1Aよりも明らかに音が悪い。 600Hzあたりより低い成分が強い楽曲を聴いた時に音の濁りが顕著です。 小音量で発生していますから、 オーディオ信号レベルが低周波段のグリッドバイアスを超えたためのクリッピング歪ではありません。 EC-1はノイズリミッタ回路は持っていませんからそのせいではないし、 ノイズリミッタがない分AM検波段のAC負荷は軽く、 音質的には有利なはず。 だし、AM変調を浅くした信号でも低域の濁りは発生しています。 検波段でもなさそうです。 はて、なんだろうね。 オシロスコープ であちこち見てみると、 歪は周波数変換段で発生していることがわかりました。 12K8のスクリーングリッドの電源平滑が不十分で50Hzのリップルが乗っており、 このリップルに合わせてミキサのゲインが変化してしまっていると見えて、 ミキサ出力の455kHz中間周波信号に50Hzで振幅変調がかかってしまっています。 あるいは、12K8の3極管プレート電源も同様に平滑不足で局発信号レベルが50Hzで変化していて、 そのために455kHz出力に50HzのAMがかかっているのかもしれません。 どちらにせよ結果として音声信号の低域成分にこの50Hzが重畳し、 音が濁ってしまうのでしょう。 ふむ、AMラジオの音質劣化は周波数変換段でも発生するんですね。 2023-02-15 低域ひずみの原因は周波数変換段 ところで右の写真、下側の50Hz波形のトレースが太いのは、 このオシロ - テクトロニクス2230 の問題。 内部インバータ電源回路の平滑が劣化してきていて、 どの入力レンジにしても同じくらいの20kHzのリップルが見えてしまっています。 この傾向は次第にひどくなってきていて、 電源投入して内部が暖まってくるまではとくに大きくなってしまっています。 あらたな修理ネタ。 |
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軽くシャシー上面を清掃。
シャシーをキャビネットから外さず、ダイヤル機構も分解しなかったので細部には指が届きませんが、
まあこんな程度、という感じで仕上がりました。 2023-02-16 シャシー上面を清掃 |
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