Hallicrafters S-41G "SkyRider Jr."
Shortwave Communications Receiver
(1946) |
性能的に大したことがない低価格モデルを発売してしまうと、
高性能受信機で名高いハリクラフターズのブランドイメージを壊しかねない・・・・
大衆・入門者向けの安価な6球スーパーに、ハリクラフターズは自社ブランドを一切入れず、
エコーフォンEC-1
として発売しました。 実際ユーザーはそれがハリクラフターズの設計であり、 ハリクラフターズの生産ラインで作られていることを知っていました。 だから戦争が終わって エコーフォンEC-1A が発売されると、 子供たちが一生懸命貯めたお金でなんとか買うことのできたエコーフォンは結構な数が売れたのです。 実際エコーフォンEC-1Aは予想以上に高性能を発揮しましたが、 しかし多くの子供はハリクラフターズの名前に憧れていました。 それに応えて、ハリクラフターズはエコーフォンEC-1Bの塗色を変え、 ハリクラフターズS-41として再デビューさせたのです。 しかも憧れの名前、"スカイライダー"を冠して。 S-41スカイライダー・ジュニアには、 写真にあるグレイとワインレッドのツートンカラーのGモデルと、ホワイトのWモデルがありました。 S-41Wはつまみの形がエコーフォンあるいはS-41Gとは異なっており、 生産量も少なく、現在ではコレクターズ・アイテムとなっています。 もうひとつ面白いのはその型番です。 ハリクラフターズの受信機はS-またはSX-につづく数字がほぼ開発の一連番号になっていますが、 エントリー機の大ヒットモデル S-38 シリーズが発表されたのはS-41の後のことなのです。 S-38の開発がスタートしていたもののその発売までの間をつなぐモデルとして、 エコーフォンEC-1Bのフェイスリフトモデルで繋ごう・・・ と急遽企画されたとかそういう話なのでしょうか。 |
|
長きにわたった
CRV-1/HB Reincarnation 2
の作業を一段落させ、
スチールラックに乗せて、
さて、次はこれを整備しよう。
軽整備だけで大丈夫なはずの、スカイライダー・ジュニア。
最後に通電してから23年近くの時間が経ってしまいました。 2024-02-12 整備開始 |
|
|||
フロントパネルのダイヤルグラス (透明プラスチック製) はややくすんできているので作り替えも考えましたが、
本機は外装も軽く清掃するにとどめ、
また内部もヘンにいじらず、
なるべくオリジナル状態を維持する方針にしましょう。 リアパネルはご覧の通りのボール紙製です。 |
|
|||
まずはメインテナンス前の状態を見ておこうと思いましたが、
あれあれ、電源コードが酷いことになっている。
これは即使用禁止ですね。
まずは電源コードを交換しないと。 |
|
|||
内部は修理改造の形跡はありません。
電源平滑キャパシタの交換は必要でしょうね。
電源コードを新品在庫品 (ただし1970年代のもの) に交換しました。
今回は日本仕のACコードなので極性がぱっと見にはわかりません。
ちょっと望ましくないなあ。
そうはいっても日本製のトランスレスラジオと同じなわけですけれどね。 電源を入れてみると、 予想に反して性能はおおきく劣化していました。 2024-02-12 電源投入 初期チェック 調子よくない |
|
音量が小さいのはもう原因は明白だよ。
音声出力管35L6GTのカソードバイパスの電解キャパシタの配線を切り離し、
10μFの新品電解キャパシタを取り付けました。
しかし音量は変わりません。
あれえ? ボリュームコントロールに音声信号を注入してテストしてみましたが、 音量はとても小さいです。 出力管のプレートバイパスもグリッドカップリングもリークしていませんし、 グリッドリークもカソード抵抗も10%ほどの抵抗値変化はあるものの音量が下がるような異常ではありません。 これは初段低周波増幅管12SQ7GTのプレートバイパスキャパシタのリークでプレート電圧が落ちいているかな? マルチメータで電圧を見てみると、案の定プレート電圧はとても低くなっています。 しかしプレートバイパスを切り離してもプレート電圧は低いまま。 |
|
|||
さらに調べると、B電圧がたったの14Vしか出ていません。
これはやばい、どこかのキャパシタのリークでB電圧が落ちているんだ。
発火発煙の危険があるぞ。
しかししばらく動作させていても焦げ臭いにおいがするわけでもないし、
どれかの部品が異常発熱しているようすもありません。 当然電源平滑キャパシタのリークが考えられますが、 平滑キャパシタを新品に暫定交換しても状況変わらず。 それに、B電源回路から負荷を切り離してみても電圧は低いまま。 なんと、整流管35Z5のカソードの電圧がそもそもちっとも上がっていないのです。 35Z5GTのヒータはきちんと点火しているのに、内部抵抗がとても高くなっていて、 プレート電流がちっとも流れないのです。 そんなことってあるのだろうかと思いながら35Z5GTを在庫の中古管に交換してみたら・・・ B電圧が95V出ました!! 切り離した配線を復旧すると、 S-41Gは大きな音で外部入力のテスト信号を鳴らし始めました。 |
|
|||
35Z5GTの交換で、受信回路全段も動作を開始しました。
受信動作は良好。
バンド3も正常に動作し、
1946年2月発売の78年前のボーイズ・ラジオとは思えない良好さで 9.940MHz ラジオタイランドも聞こえています。 でもねえ、ヒータが正常に点火しているのにプレート電流が少ししか流れだないだなんてどういう理屈なんだろうねえ。 カソード劣化によるエミッション低下というのが普通の回答なのでしょうけれど、 トランスレス機で使われる35Z5は比較的早くヒータ断線してしまうタマですから、 カソードのエミッション低下が起きるほど長時間動作し続けたとも思えず。 戦後間もなくの生産機ゆえ真空管の品質不良だった、とかいうことなのでしょうか? それにしても、原因調査中に新品交換してしまったものの、 オリジナルの電源用平滑電解キャパシタは78年経っても動作していたわけで、驚異です。 2024-02-13 整流管35Z5を交換して動作開始 |
|
今夜はラジオタイランドを聞きながらAGC電圧を観測してみます。
時定数は適切に思えますし、AF成分もよく抑えられています。
強い局だと-6V以下に下がりますから、感度はけっこう出ているとみていいでしょう。 周波数カウンタは12SA7のカソードに接続して局発周波数を表示させています。 ラジオタイランドは9.940MHzですから、局発周波数はそれより455kHz高い10.395MHzになるはず。 ご覧の通り実測値は10.390MHzなので、 現時点で中間周波トランスは450kHzあたりに調整されているようですね。 |
|
|||
モードスイッチを "CODE" に切り替えて7MHzの電信を受信してみました。
BFOも動作しています。 チャープは感じられませんが、 BFO動作時はAGCは切れてしまうので強力な信号の時はBFOが負けてしまいます。 本機にはゲインコントロールもアッテネータもありませんから、 信号が強すぎる時は短いアンテナに切り替えるとかアンテナ入力にアッテネータを入れるとかの工夫が必要です。 CW復調音は濁っていますが、これは電源ハムの影響でしょう。 選択度は混んでいる7MHzの電信には絶対的に不足 --- これは致し方ありませんね。 2024-02-14 BFOの動作を確認 |
|
1週間 BGM機として1日16時間使用し、ノイズ発生などの異常はなく、動作は安定しています。
なので本日、軽くBFO周波数の微調をして - ほとんどいじる必要はありませんでした - 、
整備完了ということにします。 まったく、 23年前に 「したがってこのラジオは軽整備程度で十分、ということになります。」だなんて書いたのはどこのどいつだよ。 けっこうな時間と工数を費やしたぞ。 でもまって。 原因調査に時間と工数を費やしたのであって、 修理として行ったのは0.02μFのモールドマイカキャパシタ交換と、2本の真空管の交換だけ。 予定外だったのは電源ケーブル交換くらいのものでしょ。 最初から分かっていたなら、 やはり軽整備だけで済んだんだよ。 確かにその通りで、電源平滑のブロック電解キャパシタをはじめ、 劣化で交換が必要だったのはキャパシタ1本だけ。 信じられないほどにキャパシタが良好な状態を維持していた個体でした。 まあもっともそれらもこの先使用数10時間で劣化するでしょうから、 予防保全として交換した作業は無駄ではありませんけれどね。 そう、良好な状態といえば、 本機はバンド切り替えのロータリースイッチもボリューム調整用のポテンショメータも接触不良やガリがなくて、 良好な状態を維持していました。 なにがこの個体の保存状態の良さに聞いていたんでしょうね。 ともかくもS-41Gスカイライダー・ジュニア、 ハリクラフターズの名に恥じない高性能ボーイズ・ラジオとしてしっかり復活しました。 2024-02-23 整備完了 |
|