小学生のとき、現在は音信不通の友人が使っていたのがICF-5800。
あるとき彼が私の家に遊びに来て、私の
パナソニックRF-877
と並べて受信性能を比較してみたのです。
RF-877は家人が買ったものを半ば自分のものにしていて、
それが短波受信を主眼に設計されていたものではないことは自分では理解してはいましたが・・・・
その性能差は小学生にも明らかでした。
RF-877では隣りの中国語放送をどうしても除去できないのに、
ICF-5800ではKGEIサンフランシスコの日本語放送がまるでローカル局のようにクリアに聞こえてきたのです。 なにかRF-877に勝てることはないかと思い、 RF-877のポップアップ・ジャイロアンテナとICF-5800のポップアップ・ロッドアンテナではどちらが上に乗せた消しゴムを高く飛ばせるか競争しましたが、 これも僅差で敗北。 国際放送のゴールデン・バンド、15MHz帯が受信できないというのは致命的でしたが、 他は努力で何とかしてみようとその夜もRF-877に向かい合いました。プアーな選択度は耳で補い、 2段変速チューニングの代わりは大径チューニングつまみと指先で補う。 BFOの代わりは近くに置いた もらい物の5球スーパー の局発。 アルゼンチン放送の初受信は彼とICF-5800に持っていかれてしまいましたが、 努力の甲斐あってかその後はさほど引き離されずに喰らいついていました。 とはいうものの、ICF-5800は私にとって実に憎いライバル。 |
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見まがうことのない精悍なマスクのICF-5800がラボの仲間入りをしました。
フロントパネル左下のSONYのエンブレムが欠品しているほかは外観上の大きな問題はありませんが、
薄汚れていていかにも元気がなさそう。
電池を入れて電源スイッチを入れてみると、AMもFMも感度良く受信できますが、音はひどく割れています。
パワーアンプ部の故障のように思われます。
さらに打撃的なのは、自慢の2段変速チューニングの動きが極めて悪いこと。
ダイヤルは重く、かつダイヤル位置によって重くなったり軽くなったりします。 このままではすでにラボでメンテナンスを受けた同世代のモデル、 パナソニックRF-1150 に太刀打ちできません。 回路図等の技術資料がないので再調整などは保留するにしても、 ダイヤルの動きと音割れはなんとか修理しなくてはなりません。 情けないライバルの姿は見たくないものです。 |
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Portescap vibrograf B200
の修理の途中ですが、注文した部品が届くまでの間、
さほどには場所を取らないラジオでBGMを聴こう。
取り出したのはICF-5800。
前回サービス時に清掃してポリ袋に入れておいたので、
きれいな状態を保っていますね。
うーんやっぱりこのラジオはハンサムだ。 と思ったら、あああ! 乾電池入れたままだった。 当然のごとく液漏れ。 でもさほどにはひどい状態ではなくて、 電池ターミナルの表面は傷んでしまいましたが、 続投は可能。 外部電源ケーブルを用意して、 安定化電源装置 で DC6Vを与え、久しぶりに電源ON。 ボリューム類やバンドセレクタの接触不良は出ていましたが、 じきに回復。 スカイセンサーは調子よく鳴りだしました。 |
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問題点を認識してから22年も経っているだなんてね。
なんだかね。
つい先週までいじってたような気もするのだけれどね。
そんなことを考えながら、キャビネットを開けます。 この時代のトランジスタラジオはたいていそうですが、 AM受信回路とFM受信回路がなるべく共通に使えるように工夫されています。 一つの部品をAMでもFMでも使うことによって部品点数を減らし、 コストを下げ、回路基板を小型・軽量化し、消費電力も減らす。 コンシューマ向けポータブルラジオに求められる技術なわけですし、 回路図を読むとその工夫と努力に感銘します。 いっぽうでAMとFMの回路機能の双方を同時に最適化するのはやはり困難です。 多少のコスト増も許され、装置の小型軽量化や消費電力の制約がないならばAM用とFM用とで回路を独立にし、 それぞれに最適な設計が楽になり、よって確実な回路になります。 しかしポータブルラジオは商品意図ゆえの設計制約を宿命として持たされているわけですね。 最大限の努力が払われた回路は、受信機の性能としては必ずしもベストなものにはなっていないのが普通でしょう。 |
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5800の場合、AMの局部周波数発振器はトランジスタ1石。
このトランジスタはFM受信時は中間周波第1増幅段として動作します。
AMの局発出力はトランジスタ1石のエミッタフォロワでバッファされますが、
このトランジスタはFM受信時は中間周波第2増幅段として動作します。
AMの周波数混合はトランジスタ1石。これはAM専用です。
この構成ゆえ、局部周波数発振器もバッファも設計に無理がある、のかもしれません。 AM局発バッファトランジスタQ5 (2SC710) のエミッタから短いリード線を引き出し、 バッファ出力での局発周波数を オシロスコープ と 周波数カウンタ で見てみましょう。 |
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右の写真/ムービーは、9.940MHzのラジオタイランドを受信中の局部発振信号。
5800は中間周波数455kHzのアッパーインジェクションですから局発周波数は本来は 9.940 + 0.455 = 10.395 MHz になるべきですが、10.3978MHzあたりにいますね。 中間周波フィルタと中間周波トランスのセンターピーク調整が2.8kHzほどずれているようです。 中間周波数のずれはともかく・・・ これは22年前に局発の漏れ信号を別のラジオで受信して確認していましたし、 すでに受信音ビート周波数の変動をスペクトログラムで見ていましたから分かっていたことではありますが、 やはり局発バッファトランジスタのエミッタ出力で周波数は数100Hzのオーダーで細かく変動してしまっています。 エミッタフォロワのエミッタ平均直流電圧は0.7V程度で信号強度によらずぴったり安定しています。 発振波形もきれいですね。 エミッタフォロワとミキサをつなぐキャパシタがリークしている、というようなことはなさそうです。 容易に想像されることですが、 信号強度による局発変動はダイヤルの上端、各バンドの最高周波数側で顕著です。 ラジオタイランドの9.940MHzはバンドSW1の上限10MHzに近いので、一番影響を受けやすくなっています。 |
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さあて、どういう理屈で発振周波数が信号強度の影響を受けるのだろう。
5800のAMミキサはAGC制御を受けていますから、 信号強度が変わるとAGC電圧が変わる → ミキサトランジスタQ4のベース電圧が変わる → Q4のベース-エミッタ容量が変わる → エミッタフォロワQ5のベース-エミッタ容量を経由してオシレータコイルの負荷が変わる → 局発周波数が変わる とかでしょうか? |
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Q4 AMミキサトランジスタの劣化を疑ってみます。
ソニーの2SC710は故障が頻発しているとも聞きますし。
これを手持ちの2SC2669-Yに交換してみました。
残念、状況は全く変わりません。 これはたぶんシロと思いつつも、 Q5 AM BUF/FM 2nd IF AMPの2SC710も2SC2669-Yに交換。 変化なし。 AM受信もFM受信も、 感度も安定度も何も変わったようには見えませんので、 交換したままとします。 Q6 AM OSC / FM 1st IF AMPも2SC710です。 今回の事象はこのトランジスタの不良で起きているのではないと思われるので、 このトランジスタには手を付けないでおきます。 |
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というわけで状況は全く変化がありません。
シグナルジェネレータで0.5Hzの振幅変調を掛けた信号を受信させてみると、
ご覧の通り。
これではSSBもCWもまともに受信できません。
つぎはやはりミキサにAGCを掛けるのをやめてみるか。 2023-03-15 AMミキサトランジスタとAM局発バッファトランジスタを2SC2669-Yに交換 変化なし |
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AMミキサトランジスタにAGCを掛けないように改造してみました。
ミキサのベースにAGC電圧を与える抵抗R27 75kΩの足を1本浮かせてAGC電圧を切り離し。
コレクタとベースの間に180kΩを、
ベースとグラウンドの間に33kΩを入れました。
ミキサのコレクタ電圧は4.7Vなので、
これでベース電圧は0.72Vで固定になります。 試してみると効果は明らか。 信号強度に応じてわずかに周波数変動は残っていますが、 CWもSSBもこれなら実用になるでしょう。 でもねえ、AGC電圧印加を止めればがっちり安定すると思ったのに、 まだ残っているんだねえ。 RF入力信号に応じてベース - エミッタ間の静電容量が変化してしまっているのでしょうか。 今回はここで妥協しますが、 さらに改善するとしたらオシレータ - バッファアンプ間をつなぐキャパシタ C51 0.01uFと、 バッファアンプ - ミキサ間のC52 0.01uF をそれぞれ容量を下げれば、 ミキサトランジスタの接合容量変化の影響を減らせるかもしれません。 でもその分ミキサへのLO入力レベルが落ちるから、 オシレータの出力レベルを高める工夫が必要になるかも。 でもそうするとLOが別なところに飛び込むトラブルが出たりして・・・ それを防ぐためにLOをシールドで囲む必要が出てきたりして・・・ 泥沼が待っているのかもしれません。 2023-03-16 ミキサトランジスタからAGC電圧を除き固定バイアス化改造 かなり効果あり 完全ではない |
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ICF-5800は、AM受信でBFO ON時はFM中間周波第5増幅と兼用の2SC710でプロダクト検波をさせています。
しかしCWもSSBもFT8も復調品質は明らかに悪いです。
これもスカイセンサー5800なんてこんなものなのか、それともこの個体はどこか調子が悪いのか。
なにか簡単な手当てで改善できないものでしょうかね。 |
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おまけ。1975年10月の日付のあるカタログです。 いつになってもワクワクしますねえ。 |
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