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National DU-440

Desktop All Wave Radio Receiver




National DU-440



手作りラジオの部品代のお礼に

    小学4年のとき、 同級生のひとりがラジオづくりに興味を持ったので、 自分の持っている部品をいくつかあげて、彼がゲルマラジオだったか何かを作るのを手伝ってあげました。 部品代に、と彼がくれたのがこのラジオ。 もちろんゴミ置き場行きの運命だったのを持ってきてくれたのでしょうが、 あげた部品の値段に比べればなにかすごく恐縮してしまって、 でも彼はすごくうれしそうだったから、こちらも喜んでいただくことにしました。

    当時すでに ナショナルクーガNo.7 を使っていましたからラジオを聞くためにこの古ぼけた真空管5球スーパーを使うことはほとんどありませんでしたが、 わたしにとっては願ってもない機材。

    クーガNo.7にはCWやSSBを受信するためのBFOがありません。 7MHzのアマチュア無線バンドには多くのSSB局が聞こえていましたが、 モガモガ言うだけで何を話しているのかは聞き取れなかったのです。 そこで、この真空管ラジオをもらってすぐに、すでに雑誌で読んで知っていたワザを試しました。 つまり、この真空管ラジオのダイヤルを、クーガNo.7で受信している周波数より455kHz高い位置にセットするのです。 するとこの真空管ラジオの中ではスーパーヘテロダインの局部発振器がダイヤル周波数よりも455kHz低い周波数で発振していますから、 その信号がラジオ本体からほんの僅か漏れ出ます。 真空管ラジオをクーガNo.7に近づけ、 クーガNo.7で聞こうとしている7MHzのSSBアマチュア局の周波数と真空管ラジオの局発漏れ信号の周波数を合わせて - 正確に言えば1kHzとかの違いを持たせたうえで重ね合わせることによって、 SSB局の音声が復調できるのです。

    とても微妙なダイヤル操作が必要だったし、不安定だったし、 音も良くはなかったのですが、 しかしそうでなければ全然聞き取れないアマチュア無線局の話がはっきりと聞き取れたのです。

    小学5年で牛乳配達のアルバイトを始め、ローンを組んで ナショナルRF-2200 を買うまで、 7MHzのSSB電話を聞くためにはこの真空管ラジオが欠かせませんでした。

    このラジオ、正直言って特にお気に入りというほどのことはなかったのですが、 社会人になって独身寮時代の部屋の写真を見ると、棚の上にこのラジオが見えます。 部屋でこれでラジオを聞いていた記憶はないのですが、 なんだかんだ、身近に置いてあったんですね。

    2021年03月末。 夢と時空の部屋の整理を進めて、段ボール箱の詰め替え作業をしていて、DU-440が出てきました。 よし、簡単に清掃と点検をしてやろうか。 来週1週間の在宅勤務は、この真空管ラジオでジャズアレンジでも聴きながらにしよう。

2021-03-29 ナショナルDU-440 メインテナンス作業開始





    ラジオは、自分が覚えていてるのと同じように動作し始めました。 ボリューム一体の電源スイッチをかちりと入れると、右上のパイロットランプが赤くぱあっと光りますが、 すぐに消えてしまいます。 1分間ほど待つと、ランプが再びゆっくりと光りはじめ、 微かなブーンという音とともにラジオが聞こえ始めます。

    バンドセレクタスイッチもボリュームコントロールも、また同調つまみも、当初は接触不良がありましたが、 10分かそこらでほぼ気にならない程度に回復しました。 そうそう、こういう感じだったね。

    ボール紙製のはめ込みバックパネルを取り外して、中身を見ます。 小学生のころ、このラジオを分解した記憶はありません。 もっと酷い状態のラジオはバラして遊んでしましたが、 これは稼働状態だったので手を付けず。 内部のホコリは、昭和30年代から溜まってきたものなんでしょうね。 ま、まずは清掃してあげよう。

    回路はフラットシャシーにコンパクトに組み上げられています。 オーディオ出力トランスはスピーカマウント。 黄色と赤色のケーブルは、したがってオーディオ出力管のプレートの配線。 触れば間違いなく電撃が来ますね。 怖い怖い。

    下部中央に見えるのはピックアップ接続ターミナル。 レコードプレーヤをつなぐところです。




    底面には回路図が貼られています。 最終検査者は権田さん。 はて、サインは直筆なのだろうか。 印刷ということもないでしょうし、ハンコには見えないので肉筆なのかもしれません。 なかなかかっこいいサインです。

    回路はこれはもうド定番のMT管5球スーパーですね・・・って、ちょっとまって、50C5? 35C5じゃなくて? これは日本製のラジオだよなあ?

    回路図はすべて英語表記。 電源電圧はAC110V。 検査サインはローマ字の筆記体。 このナショナルのラジオ、ひょっとして米国向けの輸出仕様なんじゃないの?

    そうか、だからこのラジオはスイッチを入れて鳴り出すのにすごく時間がかかるんだ。 いくら真空管だからって時間かかり過ぎと思っていたけれど。 使われているのはヒータ12V球が3本に35V球に50V球。 足し算すれば121V。 それを100Vで動作させているのだから、ヒータの温まりが遅いのはそりゃあ当然だよね。 で、ということは、出力管を50C5じゃなくて35C5に差し替えれば、調子は絶対によくなるはずだね。





    ボール紙製はめ込み式バックパネルはこの時代の低価格家庭用ラジオの定番。 電源電圧AC110V〜125Vの表記があります。 やはり輸出仕様ですね。

    小学生の頃は気がつきませんでしたが、 この時代、アメリカ製デスクトップラジオのバックパネルは同じようなボール紙製でしたが、 バックパネルの裏にループコイルが設けられていて、 弱電界地域でない限りは外部アンテナを張る必要はありませんでした。 し、電源を入れたまま内部シャシーに触れると感電する可能性があるトランスレス方式ラジオでは、 バックパネルを取り外すと電源が切断される安全機構が入っていました。

Zenith Moel F510Fの例

    このナショナルラジオではそういった仕組みはありません。 当時の米国のステート・オブ・ジ・アートに追いついていなかったのか、 はたまた特許のライセンスが支払えずに取り付けられなかったのか。 ループコイルアンテナは特許の関連という可能性もありますが、 安全機構に特許をつけて独占化することってできたんでしたっけ?

    あれ、それとも、ループアンテナコイルを持つのはBC帯専用モデルだけで、 オールウェーブモデルではループアンテナコイルは持っていなかったんだっけ? ちょっとわからなくなってしまいました。 マニアの方なら即答できるのかな?




    シャーシを取り出し、清掃しながらテストをします。 ひどい汚れですが、発錆はほとんどなく、ウエスと綿棒と洗浄液で清掃作業を進めます。

    まずは定番で低周波回路のチェックからと思い外部オーディオ信号をピックアップ端子につないでみたのですが、 強烈なハムが乗ってしまい、断念。 トランスレスゆえにシャーシ電位、つまり回路のグラウンド電位はACで思いっきり振れてしまうので、 外部機器とつなぐとモロにハムとなってしまうわけですね。 もちろんキャパシタを入れて直流電圧は遮断していますが、低域をおもいっきりカットでもしない限り実用になりません。 バッテリ駆動のウォークマンならなんとかなるのかな。

    出力管50C5のプレート電圧、カソード電圧、グリッド電圧の実機計測値はいずれも正常と思える値。 エミッションは正常だし、グリッドバイアスも正常だし、 カソードバイパスのリークもないし、 カップリングキャパシタのリークもありません。 AGC電圧の動き具合も正常。





    中波・短波2バンドの同調・アンテナコイル。 ひどい汚れです。 取り外して超音波洗浄したいところですが、 洗浄液を浸けた綿棒でふき取るにとどめます。

    シャシー単体状態でテストするとラジオ受信時にわずかに正帰還発振が起きています。 どこかに不調箇所があるかな、とも思ったのですが、 これはテストのために長めのワイヤを継ぎ足してスピーカをつないでいるため。 延長したのはスピーカケーブルではなくて、出力管のB電源配線なわけです。 プレートラインをひょろひょろ長く伸ばしたら、そりゃいろいろ問題出てくるよね。 1960年の松下CRV-1/HB では出力トランス抱き合わせ型スピーカを使う設計でしたけれど、 それは通信型受信機としてはイケてない、ということでもあります。



    写真に見えているCR-60という部品、これは何だろう。 これは底面の回路図に描かれていて、 抵抗器1本とキャパシタ3本を一体化した、いわば集積回路です。 12AV6の検波・AVC電圧発生・初段低周波増幅回路に使われる部品を一つにまとめ、 かつとても薄く作ることによって、 製造の省力化と回路サイズのコンパクト化を実現しています。 このラジオはICを使っているよ、と言っていいですか?





    使われている真空管はいずれも松下製でしたが、12BA6だけはナショナル英字ロゴマーク入りでした。 はて、敗戦国の島国ナショナルが 本家ナショナル から商標に関して訴えられたのはいつのことだったんだろう。




    ときおり動作させながら清掃・点検作業を進め、 ひどい汚れはおおむね落ちました。 新品同様の輝き、には遠いですが。

    結果、感心したことに、このラジオは故障と呼ぶような故障あるいは劣化はまったくありません。 トランスレス5球スーパーならだいたいこんなもの、といった程度の感度と分離が得られています。 ハムの程度もこんなもの、だし、音質は良好。 そしてなにしろ短波受信の安定性も優れています。 1970年代後半の家庭用トランジスタラジオのほうがよっぽどドリフトするよ。

    トラッキングに関してはやはりパーフェクトとはいいがたく、11MHzバンドでの感度低下ははっきりしています。 7MHz帯・9MHz帯ではいい感度が出ているので、5球オールウェーブとしては優秀なもの。

    電源平滑2個と出力管のカソードバイパスには電解キャパシタが使われており、 これらあわせて3つの電解キャパシタは1つのブロック電解キャパシタとして実装されています。 実際の容量は測定していませんが、実用上顕著なハム発生もなければリークもなく、 ラジオはきちんと動作しています。 電解キャパシタの新品交換くらいはすることになるだろうと思いながら作業を始めましたが、その必要性は全くありません。 すくなくとも製造されてから少なくとも60年は経っているのに、ですよ? あらためて松下の品質に脱帽。




    ケースをさらに分解し、クリーム色のダイヤルバックパネル、透明ダイヤルカバー、飾りバンドをお風呂場で暖かいお湯とシンプルグリーンで洗浄。 しゃきっとした見た目になりました。 直方体ではなくてわずかにW字をしたケース外観は、 当時のアメリカ文化の影響だろうか。

    横行き糸掛けダイヤルのポインタを組み付け時に通すため、ダイヤルバックパネルにはポインタと同じ形で穴が開いています。 これはデザイン的に大きなマイナスです。 ポインタを通した後にフタをするとか、 もうすこし何か工夫できなかったものかね。

    さて当初目的の、ジャズアレンジを真空管ラジオで聴きながらおしゃれに在宅勤務、は実現なりませんでした。 背面PU端子ではハムが出てしまうし、 夢と時空の部屋にあるシグナルジェネレータではいい音でAM変調を掛けることができません。 音の良いAMジェネレータを用意する必要があるな。 次の課題です。

    そうだ、このモデルが輸出用だったのだとして、北米仕向けだったのだろうか? もしそうであれば、冷戦真っただ中の時代、 ダイヤルにCDマークがあるはず。 しかしこのラジオのダイヤルにはCDマークは入っていません。 だとすると、アメリカではないAC110V圏仕向けだったのでしょうか。 それとも、輸出用として企画したのだけれどCDマークを入れなかったためにアメリカで売ることができず、 それゆえ不良在庫となって日本国内に格安で出回った? バックパネルに見える DU-440 H/J の型番は、 ひょっとして香港仕向けを意味していたりする?

    それにそもそも、小学4年生のときのクラスメイトの家になぜこのラジオがあったのか。 お父様が海外駐在帰りだったりしたのだろうか? 今となっては答えを知るべくもない疑問、なのかな。

2021-03-31 ナショナルDU-440 清掃点検 完了


National DU-440




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