NoobowSystems Lab.

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National NC-57

General Coverage
Shortwave Communications Receiver
(1947)



ナショナルの思い出

    父が学生のころ学んでいたラジオ工學教科書が家にあって、小学4年生の私はそれを読んでエレクトロニクスを学び始めました。 電子工学の基礎と鉱石ラジオにはじまって並3・並4ラジオ、最後は5球スーパーの動作を詳細に解説したその本は、 当時すでにトランジスタの時代になっていて時代遅れの内容であることは自分でも理解していましたが、 それでも繰り返し繰り返し一生懸命勉強していました。

    真空管の原理、3極管の動作まではすんなりと理解できましたが、 スクリーングリッドの動作の理解は小学4年生には無理でした。 それでもそういうものものがある、 仕組みはよくわからないけれど自分でラジオを組み立てるなら説明書や本をしっかり読んで回路図通りにきちんとつながなくてはならない・・・ ということはわかりました。

    戦後間もなくの粗末な紙に印刷されたラジオ工學教科書での学びが、 食べ物もろくに買えなかった困窮時代を生き残ってその後自立して生活していくために役に立ったのは間違いありません。

    そんなラジオ工學教科書は高校生時代にいつのまにか家人に捨てられてしまいましたが、 裏表紙に掲載されていたモノクロ写真の「12球スーパー受信機」の写真はいまでも印象に残っています。 「現代最新最高の受信機」という趣旨の写真だったのでしょうけれど、 真空管5本あれば高性能なラジオが作れるのに12球も使うだなんて無駄な機械なんじゃないの? などと思っていたものでした。 ただ中央に大きなつまみがついているだけでことさら「凄さ」を感じさせる外観でもありませんでしたし。 それが有名なNational HRO 5A1受信機だったのだ、と気づいたのはそれから25年も経ってからでした。





    このページをご覧になっている方にはいまさらの説明は不要でしょうけれども、 いちおう説明させておいていただくならば、 マサチューセッツ州に本拠を置くNational Radio Companyは1914年に部品製造業としてスタートし、 1930年代にはラジオ受信機の回路構成・機械構造を大きく変えることとなった高名なHRO受信機を送り出しました。

    大戦期に数多くの優秀な軍用機材を製造したのち、 戦後 ナショナル社は民生用短波ラジオやアマチュア無線機市場に数々の製品を送り出しました。 しかし、社風だったのでしょう、いつもどこか保守的な製品ラインナップはコンシューマ市場では他社の後塵を浴びる位置にいました。 1964年のソリッドステート・デジタルリードアウト機HRO-500は革新的な受信機でしたが、 時すでに遅し、市場を奪い返すことはできず、HRO-600を最後に消滅しています。

    輸出を始めた松下電器が日本国内で浸透していた「ナショナル」ブランドを使えずに 「パナソニック」を使わざるを得なかったのはこの「本家」ナショナルがあったからなのですが、 本家ナショナルは1970代にはほとんど衰退してしまったのに対し島国ナショナルはそれから少なくとも60年、 世界のブランドとして愛されてきたというのはご承知の通り。





    National NC-57は1947年発売のゼネラルカバレージ通信型短波受信機です。 真空管を9本使った、高周波1段・中間周波増幅2段のシングルスーパーヘテロダイン方式であり、 中波帯の0.5MHzから上はなんと54MHzまでを5バンドでカバーします。

    ナショナルといえばHROやAGSといった当時最新最高峰の短波受信機を送り出してきたメーカーですが、 1930年代にはSW-3といったアマチュア向けの低価格レシーバもラインアップにありました (低価格といってもやはり裕福な方たちしか手にできなかったようですが)。 Nationalは第2次世界大戦が終了して民生用・アマチュア向けマーケットに再参入するにあたり実用的な性能を持ちつつも低価格な受信機をオファーする必要があると判断し、 回路構成的には冒険していない、ごくオーソドックスな高1中2シングルスーパーのNC-57を発売しました。 当時のマーケットにおいては 戦前機ハリクラフターズS-20Rスカイチャンピオン をモダンにリパッケージしたハリクラフターズS-40が直接のライバル機にあたります。

    NC-57発表の半年後には、ナショナルはよく似た外観ながらさらに回路を簡素化したNC-33を発売しています。 NC-33は完全にエントリーモデルの位置づけで、 6球のトランスレス構成になっています。 当時の販売価格からするとNC-57の値段は現代の13万5000円程度、 入門機のNC-33は8万5000円、といったところでしょうか。 NC-33は ハリクラフターズS-38シリーズ ほどには安くなく、 しかし上級感に満ち溢れたエントリー機、 といったところだったのでしょう。





    このNC-57はフォロワーさんのご紹介で、さるベテランさんの所有コレクションを譲っていただきました。 超弩級の当時最新最高峰のすごいキカイをお持ちの方ばかりのこの界隈、 でも私は当時の子供が憧れた、ショーウインドウに飾られたドリームマシンのほうが好きだったりするからね。 それを手にするために雨の日も凍てつく日も夜明け前から毎日毎日新聞を配っていた、 あの情熱が好きだったりするから。 オファーのあったほかの何台ものすごいマシンではなく、私はNC-57をいただくことにしました。

    到着したNC-57は一見してよく整備されたことがわかる綺麗さ。 きっときれいに鳴ってくれるでしょう。 コロナ禍のなか夢と時空の部屋はホームオフィス室として大改装中、 配送段ボール箱のまましばらく保管扱い。

2020-04-13 NC-57 到着


    夢と時空の部屋の整理が進んでラックに置けるスペースができたので、 NC-57を取り出しました。 丁寧に別梱包された真空管を取り付けて電源を入れてみると、 あれれ、フルレストア済を予想したのに、北京放送が蚊の鳴くような声でかすかに聞こえるだけ。 これは楽しみだ。 作業待ち機としてラックに置きました。

2020-09-18 NC-57 火入れ 感度が非常に悪い 修理待ち扱い ラックに配置






    私にとってとても手の届かないほうのドリームマシンであった コリンズ51S-1 の修理が一段落して実用機復活と相成ったので、 つぎは1947年のクリスマスに多くの子供のドリームマシンであったはずのナショナルNC-57の修理に取り掛かりましょう。 これも早いものでラボにやってきてからもうすぐ2年になります。

    以前は北京放送がかすかに聞こえたはずだけれど、 ハムと、ボリュームのガリと、ときおりの異常発振音のほかは何も聞こえず、完全無感状態です。 ボトムカバーを外してみると、おお、すべてキャパシタ類が交換されている。 はんだ付けもきれいだし、私のようなありあわせNOS部品ではなくて、 SPRAGUE製をはじめとして機器の年代に合った良質な部品が使われています。 ここまで丁寧にサービスが入っていながら完全無感とは、 いったいどうしたんだろう。

    あ、ひとつペーパーワックスキャパシタが残っている。 先代の見落としか、さもなくば指先が届かないところだから作業しないままにしたのか。 ここは要注意。

2022-03-31 サービス開始 ほとんど無感


    ところでこのNC-57、先代によってリペイントされています。 オリジナルはややくすみ気味のグレーですが、 本機はすこし水色がかった、ごくわずかにグリーンっぽくもあるライトグレー。 ちょっと違うかなあ感がわずかにありますね。 塗り替えようと思うほどの違和感はないのでこのままに。






使用真空管

DESIGNATION (*1) TUBE TYPE FUNCTION
V1 6SG7 RF Amplifier
V2 6SB7-Y Converter
V3 6SG7 1st IF Amplifier
V4 6SG7 2nd IF Amplifier
V5 6H6 2nd Detector & AVC / ANL
V6 6SN7-GT/G 1st Audio Amplifier / CWO
V7 6V6GT/G Audio Output
V8 5Y3GT/G Rectifier
V9 0D3 / VR-150 Voltage Regulator

*1: Tube designation is for reference; National manual and circuit diagram does't have tube numbering.
NOTE: 6SL7-GT/G is used as V6 in NC-57B.




無感の原因

    まずは低周波出力段をテスト。 出力管6V6GTの各ピン電圧は正常です。 カソードバイパスも先代によって交換されていますから心配はないでしょうね。

    おあ? これは面白いな、 NC-57ではAF GAINポテンショメータ - 要するにボリューム - は、初段低周波増幅段と音声出力段のあいだに設けられています。 ふつうはAM検波段と初段低周波増幅段の間にあるものですけどね。 いままで考えたことはありませんでしたけれど、 この両者、それぞれどういう長所短所があるかな? あ そうか、 S-20Rスカイチャンピオン ではプレイスルー問題で悩んでいたけれど、 初段と電力増幅の間にボリューム入れれば確実に音量をゼロに絞れるね。

    (後日訂正: AF GAINのつなぎ方が実機とサービスマニュアルとで異なっています)

    オーディオプレイヤーからの音声信号を6V6GTのグリッドに注入して、 またAF GAINポテンショの上流側に注入して、 どちらもいい感じでスピーカから音が出てきました。 音声出力段は正常です。

    つづいて初段低周波増幅段 - これは6SN7GT双3極管の片側が用いられています - のグリッドに音声信号を注入してみると、 これもいい感じで鳴り出しました。 しばらくBGM機として楽しみます。

    電源スイッチ兼AF GAINのポテンショメータはガリがあります。 まあこれは当然としても、 このつまみ、操作感がとんでもなくひどい! 内部に砂が入り込んでいるのではないかと思うほどに、 つまみを回すとジャリジャリゴリゴリしています。 内部にDeOxIt Faderを注入できるような開口部はないので (取り外さない限り)、 シャフトにわずかに注油してくるくるしつこく回したらガリは解消し、 また操作感も多少はマシになりました。 けれどこのポテンショメータは折を見て分解清掃注油するか、 あるいは交換してしまいましょう。

    本機ではスピーカも出力トランスも交換されています。 ネットでNC-57の写真を眺めると、 スピーカは交換されているものが目につきます。 オリジナルのスピーカはボイスコイル断線などの故障が多発した、ということなのでしょうか。 本機のスピーカは年代的には新しいもののようですが、 プレススチールのキャビネットに取り付けられたその音は良いとは言い難く、 いかにもラジオ然とした音です。

    NC-57フロントパネルのPHONESジャックはアッテネータなしのスピーカ出力直結タイプなので、 簡単に外部スピーカをつなげられます。 ワーフェデールで聴いてみると充分にいい音。

    フロントパネルには3段階のトーンコントロールがあり、 これは6V6GTのプレートをキャパシタでシャントして高音を落とすものですが、 キャパシタが交換されていることもあって効きは良好。 ローカルAM局で音楽を楽しむならHIGHで、 通常の短波受信はMIDで、 電信受信時はLOWでそれぞれ具合がよさそうな感じです。




    RF GAINもガリがありましたので接点復活剤をと思いましたが、 ありゃ、これは開放型のレオスタットだぞ? しかもフルゲインのあたりで白い火花が飛ぶのも見えました。 マジか。

    このレオスタットは接点復活剤をうすく塗ったら接触不良はほぼなくなったとみえてノイズは出なくなりました。 あれ? でもまてよ、 これが接触不良になったときにノイズが出るということは、 受信機は完全故障しているのではなくて、 RF段の信号は少なくともAF段まで届いているということかな? それとも電源配線経由でノイズが聞こえるだけなのかな?





    低周波段は正常ですので、ついで検波段・中間周波増幅段に進みます。 SIGLENT SDG2122Xシグナルジェネレータで455kHzの信号をつくり 第2中間周波増幅管6SG7のコントロールグリッドにキャパシタを介して注入すると、 100mVp-p程度の信号レベルでフルクワイエットな良好な復調ができます。 第2中間周波増幅段出力の中間周波トランスの同調点は460kHz程度にあって調整は狂っているようですが、 とりあえず増幅段も中間周波トランスもAM検波段も正常動作しているようす。 ノイズリミッタ回路が誤動作しているふうもありません。

    さらに一段上流に移り、第1中間周波増幅管6SG7のコントロールグリッドに455kHz信号を注入してみると、 あれ? 信号レベルを1Vp-pほどに上げてようやく受信できます。 どうやら第1中間周波増幅段が増幅動作をしていないようです。 真空管が切れているのか、 中間周波トランスが断線故障しているのか? トランスの故障だとすると修理は難儀するだろうなあ。





    6SG7のピン電圧を測定してみると、 プレート電圧は250Vで、 カソード電圧はRF GAINフルゲイン時に0V、 ゲインを絞ると電圧は上がって絞り切りで250Vになります。 これは正常に見えますが、 しかしスクリーングリッド電圧はわずか3Vしかありません。 サービスマニュアルによると設計上のスクリーングリッド電圧は60V。 あきらかに異常です。

    電源を切ってスクリーングリッド抵抗の抵抗値を アナログテスタ で測ってみると、案の定、抵抗値は∞Ωでした。 見つけた!




    スクリーングリッド抵抗は470kΩ。 切れた抵抗を取り外し、 新品在庫の1/2W品に交換すると、 第1中間周波増幅管グリッド入力10mVp-pで十分すぎるほど強力に復調できました。 シグナルジェネレータを10.0MHz出力にしてNC-57のアンテナ端子につなぎ、 バンドCにセットしてダイヤルを10MHzに合わせると、いい音で受信できています!! 直った!

2022-04-01 第1中間周波増幅管スクリーングリッド抵抗断線故障 新品交換 受信動作開始



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謎のホイッスル

    ロングワイヤーアンテナをつないで、ナマの短波を受信してみます。 バンドCの7MHzあたりの感度は充分に良好です。 コリンズ51S-1 などはプロフェッショナル機ゆえアンテナは正しくインピーダンス整合が取られたものをつなぐことが前提とされていて、 ランダムロングワイヤーでは感度が得られず、外付けのアンテナチューナーが欠かせませんでした。 NC-57にはフロントパネルにアンテナトリマつまみがあり、 いい加減な長さのロングワイヤーアンテナでも最良の状態にマッチングできます。 これはカジュアルな短波リスナーにとってありがたい装備。

    7MHzバンドでダイヤルを回してみると、でも、ありゃりゃ、 こりゃダメだ。 まるで再生式受信機のように軽く自己発振してしまっていると見えて、 チューニングを取るときにピューピューとホイッスル音が出てしまっています。 7MHzアマチュアバンドのSSBも、BFOを動作させていないのに音声が復調されてしまっています。 FT8もCWもBFOなしで復調されてしまっており、かつとても酷い音。 増幅段に正帰還をかけて無理やり感度を高めた自作3球スーパーじゃあるまいし。 モードスイッチのショートか何かでBFOが動作しっぱなしになっているのかとも思いましたが、 そのようなことはありませんでした。 なにがこれを引き起こしているのだろう?

2022-04-01 内部自己発振現象を確認


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中間周波トランス調整

    ちょっと試しただけでも選択度はこのクラスにしてはかなり悪いことが明らかでしたし、 またすくなくとも3番目の中間周波トランスのピークは460kHzあたりにあって調整が狂っているのは確実だったので、 自己発振の問題は後回しにして、中間周波トランスの調整を行います。

    シグナルジェネレータで455.0000kHzをつくり、 キャパシタを介して3連バリコンのコンバータ出力のステータに注入。 AM検波出力を オシロ で観測。 T3 -> T2 -> T1 の順で、下流から上流に遡る順序で、 中間周波トランスのスラグコア位置調整ネジを回し、検波出力のピークを取っていきます。

    結果、各トランスの調整はどれもかなり狂っていました。 3つのトランスにそれぞれ2つのコア、計6つの調整があるわけですが、 回さずに済んだのはひとつだけ。 ほかはかなり調整点が狂っていました。 調整後はAM検波出力は大幅にアップしました。

    シグナルジェネレータを外して実アンテナをつないでみると、 感度は上がっているし、選択度は明らかにシャープになりました。 そしてそればかりではなく・・・ 自己発振によるホイッスル音もすっかり消えています。 RF GAINをフルにすると出ていたモーターボーティング様の低速異常発振も出なくなりました。 受信機の動作はすっかり安定しています。 やったね!

2022-04-01 中間周波トランス調整で内部発振症状は消失



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50MHzが聞こえる

    NC-57の凄いところは全5バンドで最高周波数を扱うバンドAは35〜54MHzをカバーしていることで、 6mのアマチュアバンドを受信できます。 メインダイヤルはバンドAには、50〜54MHzの部分がアマチュアバンドとしてマークされています。

    とはいえ1947年の設計、 VHF専用設計ならばともかく、 中波0.5MHzからカバーするマルチバンドコイルパック構造でそんな高い周波数なんか本当に受信できるのかなあ?

    いままでの目黒MSG-2161とは違って新しいシグナルジェネレータ SIGLENT SDG2122Xは120MHzまで出力できるので、 試しに50.0MHzをアンテナ端子に注入してみました。 すると、おお、ちゃんと受信できている。 ただし周波数ドリフトは大きくてさほど経たずにダイヤルはずれてしまうし、 復調音質もよくありません。 信号として与えているのは無変調無音のキャリアだけですが、 不安定にピーっといった音がスピーカから出てきます。

    これはバリコンとコイルパック、とくにその中のバンドA用発振コイルのマイクロフォニックでした。 スピーカから音が出るとその機械的振動がバリコンやコイルパックに伝わり、 局発周波数を変化させて復調音声出力電圧の変化となってスピーカを震わせ・・・ というフィードバックができます。 つまり、ハウリングが発生するのです。

    外付けスピーカを使うことで、ハウリングは大きく低減できます。 それでも50MHzでは筐体をそっと叩く程度の振動がスピーカから音となって出てきてしまいますし、 復調音にはわずかにピー音が含まれます。

    このハウリングのひどさ、復調音のピー音混入は、バンドAでも40MHzあたりにまで下げるとかなり軽減されます。 50MHzはいちおう受信できるけれど、感度は良くないし周波数は安定していないし、復調音質も悪く、 「いちおう受信はできる」といった程度の性能。 それでも戦後まもなくの1940年代終盤、 6mに出ようとして送信機を手作りしたはいいけれど何MHzの電波が出ているのか皆目見当がつかない・・・ というふうだったでしょうから、 出ている電波が50MHzなのか50.5MHzなのか51MHzなのかが分かるだけでも素晴らしいことであったはずです。

    50MHzはどうにか受信できましたが、ダイヤル最上限の54MHzでは全く無感でした。 コイルパック部の再調整や手入れで、はたして54MHzを受信できるようになるものなのかどうか。

    ともあれ短波帯上限の30MHzを越えて50MHzまで受信できているのは、 ひとえに周波数変換段に使われているペンタグリッドコンバータ 6SB7Yのおかげでしょう。 6SB7Yは、1938年発表のメタル管ペンタグリッドコンバータ 6SA7の後継として、 VHF受信機に使われることを意図して開発されたメタル管です。 6SB7Yは、アメリカのFMバンドである88〜108MHzを中間周波數10.7MHzに変換するコンバータとして用いられました。 当初からVHF専用に設計製作されたチューナに使われるのであれば、54MHzなどはなんということはありません。 6SB7Yは1946年発表。 1947年モデルのNC-57にとっては、「最新鋭の高性能真空管を使用!」だったのでしょうね。

2022-04-01 50MHz受信テスト






よろよろしながら

    7795kHzのJMHが強力に聞こえていたので受像してみました。 画像は鮮明ですが、スキャンが左から右に進むにつれて、 途中で明るくなって、つぎに最初より暗くなっていますね。

    これはNC-57の復調周波数ドリフトの影響。 現状ではNC-57は数分間のうちに復調周波数が100〜200Hzほど上がったり下がったりします。 気象ファクシミリは2300Hzを白レベル、1500Hzを黒レベルとしてモノクロ画像を送出しているので、 受像中に復調周波数が変動すると明るさの調子が変わってしまうわけですね。 後半は手動でダイヤルを合わせなおして受像しました。

2022-04-01 ファクシミリ受像テスト





おじいちゃんしっかりして

    NC-57は1947年の高1中2ですよ、51S-1でも苦労していたFT8の復調ができるはずがない。 FAXの受信画像を見てもそれは明白。 FT8が要求する周波数安定性は、1940年代には不可能だったこと。 でもまてよ、 ハリクラフターズS-20Rスカイチャンピオン では実質的に不可能だったけれど、 NC-57は放電安定管を持っているんだぞ? 周波数変換管と高周波増幅管のスクリーン電圧を安定化すれば復調周波数はかなり安定する、 というのは CRV-1/HB でも体感したよね? NC-57ならすこしは行けるんじゃないのかな?

    BFOピッチコントロールを調整してセンターでゼロビートがとれるようにし、トライ開始。 7.041MHz USBのFT8信号が一番よく聞こえるようにダイヤルを合わせ、 ファンクションスイッチをCWOポジションに。 チューニング補助のために、シグナルジェネレータで7.0745MHzに注入してある信号が3.5kHzで復調されるようにBFOピッチを合わせます。 BFOピッチコントロールは反時計方向でUSB受信側になります。

    CWOポジションではBFOが発振すると同時に、AGC回路が停止し、 受信機はフルゲインになります。 NC-57のCW受信はAM検波回路にBFO信号を注入する方式なのでAGCは切る必要があるわけですが (さもないとBFO信号に反応してAGCが感度を下げてしまう)、 入力信号がBFO信号に対して強すぎると復調できませんので、 歪なくうまく復調できるまでRF GAINを下げます。 うまくいった! WSJT-XソフトウェアがFT8のデコードを始めました。

    予想通りに復調周波数のふらつきはひどいもので、 安定した受信は不可能。 しかし15秒間のタイムフレームのあいだに運よく周波数変動が少なかったときは、 けっこう多くの数の局が復調できています。 プロダクト検波を持たない - よって復調歪が大きいはずの古典的なBFO注入型AM検波回路でも、 そこそこはFT8復調できるのですね。 基準の3.5kHzを示すスペクトログラムの連続線が右に左にふらふらするのを見ながら、 おじいちゃんしっかりして! と声をかけながらデコード画面をしばらく眺めていました。

2022-04-02 FT8受信テスト





    OD3 VR150の5ピン、プレート電圧をデジボルで測定してみました。 読み値は150.6Vで、数秒程度の短期間の電圧変動は±20mVほど。 15分ほどのうちにデジボル読み値は150.7Vとちょっとに。 データシートをみると0D3の電圧安定度は4Vと書かれています。 取り出す電流値が大きく変化すればそのくらいは変わりうるということなのでしょうけれど、 その程度の変動はあるということですね。






コイルパック再調整にトライ

    7MHz帯 9MHz帯など 各国際放送バンドは感度良く受信できるのですが、 バックグラウンドノイズはとても少ないです。 これはある意味とても快適なのですが、 しかし感度が今一つ出ていないことでもあります。 なのでコイルパックの再調整を試みました。

    各バンドともメインダイヤル指示は受信周波数に気持ちよいほどにぴったりで、 局部発振回路のトラッキングはパーフェクトな状態です。 しかし1st DetectorセクションとRFセクションの調整は、 いじってもはっきりとした改善にはなりません。 現状がベストな状態なのかなあ。

    1st DetectorセクションのバンドCのトリマは、 雲母板絶縁フィルムが破れたためなのか、 黒くて薄いゴム様のシートが使われています。 先代 (何代のオーナーの手を経たのかわかりませんけれど) も調整を試みていたようです。 現状でいったん満足して、作業を中断します。

2022-04-09 コイルパック調整トライ 状況変わらず






ポップノイズとオーディオ段

    ボリュームを絞り切っているときにポッ・・・ポッ・・・と、不定間隔でちいさなポップノイズが出ていることに気がつきました。 スピーカから音が出ているときは気づかない程度の音量です。 交換しそびれのペーパーキャパシタかな?

    オーディオ出力管6V6GTのグリッド波形を見てみると、ここにポップノイズが乗っています。 実機の配線を追いかけると・・・あれれ? どうやらこの実機は、サービスマニュアルの回路図とは回路が違っているようです。 回路図ではAF GAINポテンショは初段低周波増幅と電力増幅の間に入れられていますが、 実機では初段のプレートと出力管グリッドは0.01uFのキャパシタで接続。 出力管のグリッドには470kΩのグリッドリーク抵抗が入っています。

    先代が回路をコンベンショナルなものに改造したのかとも思いましたが、 回路図にはないグリッドリーク抵抗はおそらく生産当時のものと思われる古いソリッド抵抗です。 生産時からこの回路だったと考える方が自然です。

    さてポップノイズですが、 低周波増幅管のB電源 - プレート抵抗の手前の段階ですでに、 ±4V程度のパルス状に入っていることがわかりました。 はてこれは電源回路に起因するのか、 それとも商用電源ラインですでにそんなノイズが乗っているのか? ノイズはいつの間にか出なくなってしまったので、調査は中止です。

2022-04-11 ポップノイズ原因調査 オーディオ段回路構成がサービスマニュアルと異なることに気づく






音量低下の原因は

    数時間連続で動作させていると、いつのまにか音量が小さくなっている現象に1週間ほど前から気がついていました。 いったいなにがこれを引き起こしているんだろうね。

    と、本日その原因が特定できました。 SIGLENT SDG2122Xシグナルジェネレータ のバグ でした。

    SDG2122Xのリアパネルには外部変調入力BNCジャックがあり、 AM変調を外部変調モードにセットしてリアパネルから音声信号を入れれば、 音声変調のかかったAM信号を生成できます。 内部変調のときは変調度を120%まで可変設定できるのですが、 外部変調のときは変調度設定によらずいつもおなじ程度で変調がかかります。

いま内部変調の変調度をたとえば50%にセットして、その後外部変調にしてAMを発生させているとき、 PARAMキーを押して周波数設定画面にし、ジョグダイヤルで周波数を変化させると、 その操作と同時に、外部変調の変調度も50%になってしまい、 変調が浅く - したがってテストしている受信機の音量は小さくなってしまうのです。

    この状態でMODキーを2回押してAM変調を止めて無変調にし、 再度MODキーを押してAM変調を有効にすると、 もともとの100%変調度になり、受信機からの音量は元に戻ります。

    これは明らかなプログラムのバグ、 もしそうでなければUI要求仕様のバグです。 いずれにせよ動きが分かってしまえば対処は簡単。 AM変調度を通常は100%にセットしておけば、 周波数変更と同時に変調度設定が適用されても、おなじ100%であるので、 まったく問題なく使えます。

    SIGELNTのウェブサイトに行ってみると、2122Xの更新用ファームウェアは掲載されていません。 障害報告をして、アップデートファームでももらおうか。 でもそれならまずはユーザ登録だな。

2022-04-13 SIGLENT SDG2122Xのバグに気がつく






中間周波トランス再調整

    現状この受信機はバックグラウンドノイズが静かすぎて、まだいまひとつ感度が出きっていない気がします。 AGCの効きもいまひとつだし。 先週一週間使っていて、まだ中間周波トランスの調整が不完全みたいだから、再調整しよう。

    周波数変換管6SB7-Yの第3グリッドにシグナルジェネレータの455.0kHzをセラミックキャパシタを介して注入。 上流からひとつずつ調整していきます。 先週 Lafayette HE-80 の修理記録を読み直して、 この受信機も先代が2つある同調点の偽のピークに合わせてしまったのではないか? と疑っての再調整作業です。 なので今回はトランスのコア調整ねじを全範囲で動かし、 どのコイルも同調点は一つしかないことを確認しながら作業しました。

    結果として、偽のピークに騙されたということはなかったようですが、 私の前回の調整作業もどこかで間違っていたと見えて、 受信機全体のゲインは電圧比で数倍にアップしました。

2022-04-15 中間周波トランス再調整





RF段スクリーングリッドバイパス

    ひきつづき、あわてずにチェックを続けましょう。 今日は高周波増幅段のチェックからスタート。 あれ? ひとつキャパシタが交換されず古いままのが残っている。 アンテナトリマの裏に隠れているから先代は見逃したのかな? いやでもこれは100pFのマイカだから交換不要と判断したのでしょうね。

    回路図と実機配線を見比べていて、気がつきました。 高周波増幅管6SG7のスクリーングリッドバイパスキャパシタが、 回路図ではグラウンドに落とされているのに、 実機ではカソードに落とされている。

    キャパシタ交換作業時に先代が配線ミスしたのかなと思いましたが、 手持ちの資料を調べてみるとスクリーングリッドキャパシタをカソードに落としている事例が見つかりました。 1940年代〜1960年代の真空管受信機のほとんどが、 スクリーンキャパシタはグラウンドに落としているのですが、 ナショナルNC-125ではカソードに落としているのです。 NC-125はNC-57より数年後の機械。 うちのNC-57はランニングチェンジでカソード落としに変更されたのでしょうか、 それとも先代が改造したのかな?

    ところで右の写真をよく見ると、 真空管ソケットはシャシーにリベット止めですが、 ソケットの金属フランジはシャシーにはんだ付けされています。 ソケットとシャシーの接触抵抗が表面酸化で高くなってしまうのを見越した処置なのでしょうね。

    高周波増幅管の電極電圧は正常に思えますが、 いっぽうでカソード抵抗R2は本来220Ωのところが290Ω、 スクリーン抵抗R5は本来1kΩのところが800Ωと、 20%を超える特性外れを示していましたので、新品に交換しました。

2022-04-16 高周波増幅管カソード抵抗R2 / スクリーン抵抗R5 新品交換






AGCを調べる

    AGCの効きの悪さを調べるため、 最終の中間周波トランスに取り付けられている2.2MΩのAGCフィルタ抵抗R19をチェック。 実測は2.3MΩだったので正常と判断、交換せず。

    2番目の中間周波トランスに取り付けられているR16は470kΩ品ですが、 実測は620kΩ。 大きく特性変化してしまっています。 この抵抗は第2中間周波増幅管6SG7のグリッド抵抗。 この抵抗が高くなってしまうと、AGCの効きが悪くなってしまうのでしないでしょうか?

    いままではアンテナ入力が20mVp-pを越えて高まってもスピーカ出力は頭打ちにならず音量が上がり続けていましたが、 470kΩの新品に交換後は10mVp-pあたりでスピーカ音量に変化がなくなります。 おお、AGCの効きが良くなった。

    それでは、と、第1中間周波増幅管6SG7のグリッド抵抗をみてみます。 コンバータ出力の中間周波トランスに取り付けられている470kΩは実測683kΩでした。 これもずいぶん変わっている。 新品交換しました。 試してみると、アンテナ入力7mVp-pでスピーカ出力は頭打ちとなり、 AGCの効きがさらに良くなったことが確認できました。 やったね。

2022-04-16 第2中間周波増幅管グリッド抵抗 / 第1中間周波増幅管グリッド抵抗交換 AGCの効きが改善した





周波数変換段

    ついでコンバータ管6SB7-Y周辺の点検。 このペンタグリッドコンバータ管の第2・第4グリッド、 つまり局部発振回路のプレートと周波数混合回路のスクリーングリッドは、 放電安定管でつくられた安定なDC150Vがスクリーン抵抗を通じて与えられています。 スクリーン抵抗は3.8kΩ品ですが実測は4.12kΩ。 ぎり10%の変化なので今回交換は見送りました。

    コンバータ管のプレートは安定化されていないB電源が与えられ、 プレート抵抗は1kΩ品のところ実測1.1kΩ。 まあこれも今は交換しなくてよいでしょう。 6SB7-Yのプレート電流はデータシート記載のEp=250V Es=100V時に3.8mA、 という記載とほぼ変わらない実測値でした。 問題ないとします。

    コンバータ管第1グリッドのグリッドリーク抵抗R7、 回路図では47kΩで、実機では22kΩが取り付けられており、その実測値は30kΩ。 あれれ、また実機と回路図とで素子定数が違う。 新品の22kΩ品に交換しましたが、 なにか動作が変わったふうではありません。

2022-04-16 コンバータ管グリッドリークR7交換


    この機械のカーボンソリッド抵抗はずいぶん特性変化が出ちゃっているんですね。 ほかも調べると、 第2中間周波増幅管6SG7のスクリーン抵抗が2.2kΩのところ3.4kΩ。 これも交換。






NC-57Bじゃん

    AF GAINのポテンショメータのつなぎ方について、 NC-57のバリエーションモデルNC-57Mの回路図ではAM検波段直後になっていることに気がつきました。 NC-57Mは1950年〜1951年のモデル。 それではうちのNC-57は途中でランニングチェンジを受けた後期型なのかな?

    さらに調べると、おおお? どうやらうちのは1947年式の初期型NC-57ではなくて、 1951年にマイナーチェンジを受けたNC-57B らしいです。 いまさらそれに気がつくなんてアレだけれども、 本体のどこにもそんなこと書いてないんだよ?

    実際、NC-57B (と思われる) の回路図は、素子定数を含めてわがラボの実機と合致しています。 でもなあ、マニュアルの回路図にもNC-57"B"とは書かれていないし、 図面のリビジョン番号も記載されていないし、もちろん改訂日付のようなものもないし、 適用シリアル番号レンジのような記載もありません。 技術的には一流だったのでしょうけれど、 構成管理プロセスとか変更管理プロセスとか、 開発プロセスについてはこの会社はダメダメだったのではないかなあ。 そんな仕事していたら、そのうちアポロ13号の第2液体酸素タンクが爆発しちゃうよ?

    落ち着いて初期型NC-57と後期型NC-57Bの回路図を比較してみると、 あれあれ、けっこう細かいところが違っています。

  • 初段低周波増幅+BFO管が、初期型では6SN7-GT、後期型では6SL7-GTが使われています。 両者のピン配置は同じですが、6SN7-GTがMedium-Mu管であるのに対し、 6SL7-GTはHi-Mu管。
  • AF GAINポテンショメータは、初期型では初段低周波増幅管と音声出力管の間に入っていますが、 後期型ではAM検波段直後・初段低周波増幅の前、つまり一般的な、コンベンショナルな構成に変えられています。
  • AF GAINポテンショメータ接続の変更を受けて、 後期型では音声出力管6V6GT/Gのグリッドにグリッドリーク抵抗が入っています。
  • 音声出力管6V6GT/Gのプレートフィルタキャパシタが、後期型では削除されています。
  • 初期型のトーンコントロールは6V6GTのプレートをキャパシタでシャントする方式ですが、 後期型では出力トランス1次巻線両端をキャパシタでシャントする方式に変更されています。(2022-04-20追記)
  • アンテナコイル2次巻線の片側はグラウンドに落とされますが、 後期型ではEバンド (中波バンド)だけ、2次巻線にAGC電圧が加えられています。 この変更の意味はなんなのだろう? アンテナコイル2次側は高周波増幅段にはキャパシタカップリングされているので、 直流電圧を掛けてもなんの変化も起きないはずなのですが・・・。
  • アンテナコイル同調キャパシタのバンドごとのパディングの入れ方が、かなり違います。
  • 高周波増幅管6SG7のスクリーングリッドバイパスキャパシタは、 初期型はグラウンドに落とされますが、 後期型ではカソードに落とされています。 この方法のメリットは何だろう?
  • HFオシレータ (局発) コイルに入ったキャパシタのつなぎ方が、かなり違います。
  • 6SB7-Yコンバータ管の第3グリッド - RF信号入力 - には初期型では直列に抵抗が入っていますが、 後期型では入っていません。

        コイルパック内の変更はかなりややこしく、 性能改善の努力なのではないかと思います。

    2022-04-17 初期型・後期型の回路を比較してみる






  • 間違ってた

        アライメントしっかり取ったつもりなのに、バンドCのダイヤルが狂ってます。 なんでだろうね、ボケていたのかね。 なので再調整します。

        結果、見事に間違えていました。 NC-57は周波数の高いバンドAとバンドBではロワーサイドインジェクション、 バンドC/D/Eではアッパーサイドインジェクションで動作します。 けれど、バンドCをロワーサイドインジェクションにしてしまっていました。 局発のトラッキングを取り直し、 コンバータ段・RF段のトリマとコイルも調整。

        この再調整前はバンドCの低い方、5MHzあたりでとても感度がよく、 半面高い方の10MHzとか12MHzとかでは今一つでした。 再調整後は5MHzあたりの感度は落ちてしまいましたが、 10MHz近辺の感度は上昇。 バンド全域の感度ばらつきが大幅に減りました。

    2022-04-18 バンドC 再アライメント





    トーンコントロール

        初期型NC-57と後期NC-57Bとでトーンコントロールの方式が違うことに気がつきました。 初期型は音声出力管6V6GTのプレートをキャパシタでグラウンドにシャントするのですが、 後期型では音声出力トランスの1次側巻線両端をキャパシタでシャントする方式になっています。

    プレートをグラウンドに落とす方式だとキャパシタに250Vの高圧がかかるので、 もしキャパシタがパンクすれば発煙事故につながります。 出力トランスの両端をシャントするのであればキャパシタにかかる電圧は低くて済みますから、 そのほうがいろいろと良さそうですね。

        でもウチのラボの実機を見てみたら、 あれ? 初期型のプレート-グラウンドシャント方式になっています。 なんなんだよ。 具合よく動作しているからいいんだけどさ。

        トーンコントロールの3ポジションロータリースイッチはウェハが一部破断しています。 そのうち完全に破損しそうな状態。 なにかプラスチック板を追加して補修しましょうかね。

    2022-04-20 トーンコントロール回路が初期型方式であることに気がつく / ロータリースイッチウェハ破損に気づく






    バンドAの周波数安定性

        12〜35MHzをカバーするバンドBは予想以上に周波数安定度が良いのですが、 35〜54MHzをカバーするバンドAとなるとどうか? 当時の普及価格帯のモデルですからね、受信できるだけで凄い!という状況だったのでしょうけれど。 54MHzでは内部帰還が増えて復調音質はかなり悪化してしまうので、 良好に受信できる50MHzで安定度を見てみました。

        シグナルジェネレータで50,000MHz AM 1mVp-pをつくってアンテナ端子に入れ、 朝一番のNC-57の電源を入れて受信開始。 そこからの受信周波数の変化を、シグナルジェネレータ側の周波数を変化させて追っていきます。 周波数変化はとても大きいので、 試験の周波数分解能はは1kHzで。 結果は右図。

        電源投入直後は1分もすると同調ずれで聞こえなくなるありさま、 30分経ったあたりで変化は収まってきて、 1時間経ったあたりでようやく、5分間ダイヤルを触ることなく聞こえ続けている的状態に。 このとき受信周波数は電源投入直後に比べて90kHzも変化しています。

        2時間経過後は1時間に4kHz程度の変化が続きます。 これは室温変化の影響でしょう。 ウォームアップは最低でも30分、せめて1時間は行いたい・・・というところでしょうか。

        周波数ドリフトは酷いものの、感度はさほどに悪くなく、 復調品質は案外に良好でした。

    2022-04-22 50MHzの周波数安定性を見る






    ほかにもいろいろ

        他のソリッド抵抗も抵抗値が変化してしまっているものが多いです。 10%以上の変化を示しているものは新品交換することにします。

        6SL7GTのBFO用3極管グリッド抵抗、22kΩのところ44.3k。 BFO動作に顕著な変化はなし。 オシロで事前に波形や電圧を見ていれば違いに気がついたかもですけれど。

        6SL7GTの初段低周波増幅3極管のカソード抵抗、2.7kΩが3.2kΩ。 普通に使っている範囲では違いは判らず。

        6V6GT音声出力管のグリッドリーク、470kΩのところ573kΩ。 変化わからず。

        ANLのリミッタフィルタ抵抗、1MΩのところ600kΩ。 もともとANLは使っていませんけれども。 AM復調音質への変化には気づかず。

        高周波増幅管6SG7のグリッド抵抗、これはAGC電圧を印加するためのものですが、 150kΩのところ170kΩ。 これを150kΩの新品に交換したところ、 受信信号が発振気味になってしまいました。 あれ? この抵抗は高めになっている方が発振止めの効果があったのかな。 180kΩの新品にしてみましたが、やはり発振症状は止まりません。 この作業でほかに影響を与えてしまったところは・・・ 抵抗交換作業のためにすこし部品位置を指で曲げて変えたプレートバイパスキャパシタを元に戻したら、 発振は止まりました。 なるほど、プレートバイパスキャパシタとグリッド抵抗のわずかな位置関係で正帰還ループができてしまっていたのか。 高周波段は神経質ですね。 グリッド抵抗は150kΩ新品にしました。 AGCの効きがすこしですがさらに良くなり、いい感じ。

        周波数変換管6AB7-Y 第1グリッド抵抗 33Ωのところ37Ω。 33Ωの新品に。 ここは1/4W抵抗器を使ってしまいましたが、 1/2W抵抗のほうが良かったかな。 耐電力の観点ではなくて、リード線が太いから、という意味で。 局発の動作にこれといった変化は見られず。

        これでおおむね半数の抵抗器を交換したことになります。 こんな様子ですから予防保全の意味で残りのものも交換してしますのも手ではありますが、 私がやっているのは「修理」なので、 明らかな交換の必要がないものまで交換するのはちょっと違うかななどと思ったり。 それに、この抵抗の抵抗値が倍になったり半分になったりしたら何が起きるかな? そもそもそれはどうしてその抵抗値が選ばれたのだろう? などと考えながら作業するのが楽しいので。

        何も考えずすべて分解しコンポーネントを新品に交換するというのは修理ではなく「リビルド」です。 結局のところ私は新品同様のNC-57が欲しいのではなくて、 調子が悪い機械がしだいに元気を取り戻していくその過程を楽しんでいるわけですね。






    BFOの安定度

        FT8復調周波数の変動は電源電圧変動による局発 - HFオシレータの発振周波数の変動が支配的なのは確実ですが、 BFO発振周波数の安定具合も見ておきます。 BFO発振管 6SL7の片側プレートに10xプローブをつなぎ、 岩通SC-7202 で周波数を見てみました。 結果は右のムービー。 下のオシロで見ているのは第2中間周波増幅管プレート波形。

        動画を撮影した2分間での周波数変動は5Hzといったところ。 発振管プレート電圧はVR150で安定化された150Vが供給されているのですが、 Hzオーダーのふらつきは残ってしまうのですね。

    2022-04-24 BFO周波数変動を観察



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    異常発生

        これで一通り完了、と思ってボトムカバーを取り付けてしばらくALL JAコンテストを聞いていたら、 突然CWの受信ピッチが狂いました。 感度も大きく低下しています。 えっ何が起きたの? と思っているうちに元に戻りました。

        でもそのうち同じ症状、 しだいに頻度が増してきて、しょっちゅう発生するようになってしまいました。 ボトムカバーを取り付けて通常姿勢にしボンネットを閉じると温度上昇でなにかトラブルが起きるのだろうか。

        ボンネットを開けて中を覗いてみると、あれ? 放電安定管が点いたり消えたりしている!

        OD3/VR150のソケットの接触不良かと思いましたがそうではありません。 ではVR150が不良になって放電点弧しなくなっちゃったのかな? もし放電できなくなると、 内部のDC150V安定化電源ラインの電圧はB電圧の230V近くまで上がってしまうはずです。 まずは150Vラインの電圧を測ってみるようでしょう。

        NC-57はリアエプロンにアクセサリーソケットを持っています。 これは外付けSメータをつないだりするためのものなのですが、 ソケットには150V電源ラインも出ています。 ここの電圧を見てみると、 トラブル発生時には150Vであるべき電圧が70V以下にまで落ちています。 変だな、放電が消えるのにアノード電圧がそんなに落ちるだなんて。 それでは手前のB電源ラインはどうだろう? これもアクセサリーソケットに出ています。


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        230VあるべきB電圧は、トラブル発生時にはやはり70V以下に落ちていました。 すると原因がありそうなのは電源トランス、整流管、平滑キャパシタ、チョークコイル、 シリーズドロップ抵抗・・・それに、パワーセレクタプラグ。

        調子が良かった後ボトムカバーを取り付けて通常姿勢に置きなおす途中で、 そういえばパワーセレクタプラグのジャンプワイヤを指先でいじった記憶がある。

        トラブルが発生しているときにジャンプワイヤに力を加えたら、 その瞬間に動作は正常になりました。 どうやらこれのせいだったようです。 そういえば ハリクラフターズS-20Rスカイチャンピオン が最初電源が入らなかったのも、 これとほとんど同じプラグのジャンプワイヤの接触不良でした。 単純な作りの部品ですが、 接触不良は発生しやすいのでしょうか。

        その後6時間、安定して動作しています。 直ったとしてよさそうですね。

    2022-04-24 電源電圧異常 パワーセレクタプラグ接触不良 修正






    南太平洋もカリブ海も南アフリカも

        今日は電源電圧の変化が少ないからなのかどうか、 とても調子よくFT8が復調できます。 バンドBの14MHzでも動作は安定しており、 かつてないほどに - 多くの局がデコードできています。 東南アジア各地はもとよりユーラシア大陸、南西太平洋ニューカレドニア、カリブ海のグアテマラからも。 さらに夜が更けたら・・・南アフリカも聞こえた!!

        スペクトログラムの右に見えている連続した平行線は目黒測器MSG-2161シグナルジェネレータで印加している14.0775MHzの標識信号なのですが、 ジェネレータ出力は最低の-9dBμ。 ざっと0.35μVということになります。 NC-57は要するに高1中2でしかないのですが、 こんな微弱な信号も受信できています。 完調になった、と言ってよさそうですね。

        RF GAINの調整は復調周波数の安定度にけっこう関係していそうに思えてきました。 ほんのすこしゲインを上げるとはっきりと周波数が不規則にこまかく変動し始め、 ゲインを絞るととたんに周波数が安定したりします。 信号レベルはとても微弱なはずなのですが、それでもオシレータプルインが起きるのでしょうか? それともレオスタットを使ったRF GAIN調整回路が原因だったりするのでしょうか?

    2022-04-22 14MHz FT8を受信





        ということで今回はここまで。 すっかり黄ばんだダイヤルディスクの新規自作はいつかそのうちのお楽しみに。 ダイヤルメカニズムはまれにバンドスプレッドの引っ掛かりが出ますが通常は支障はなく、 ダイヤルコードのテンションはしっかりしていて、 バックラッシュは皆無ではないもののSSB同調も問題なくこなせるスムースさを持っています。 とんでもなく酷かったAF GAINつまみのジャリジャリ感もいまはどうにか我慢できる程度になりました。 トーンコントロールウェハの補修も含め、 お楽しみにとっておくことにします。

        71歳のおじいちゃんはサイクル25を楽しんでるみたいだな・・・ 時計もてっぺんを回り、アムステルダムやデュッセルドルフが聞こえ始めました。 今夜は夜通し、朝まで聞いてみるかい?

    2022-04-24 作業完了






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    2022-04-23 Updated. [Noobow9100F @ L1]
    2022-04-24 Updated. [Noobow9100F @ L1]
    2022-11-24 Corrected typo. [Noobow9200B @ L3]
    2023-06-14 Corrected typo. [Noobow9200B @ L3]