NoobowSystems



Sanwa U-70D
MultiTester (1976)
SERIAL:U5F-0013880

エンジニアの仲間入り

    小学校たぶん5年生かそこらのころ、親父に秋葉原につれていってもらって自分のお小遣いで買ったのが、小さなテスタ。 エレクトロニクスの世界に入るためにまず最初に手にしなければならない必須アイテムです。 本格的なモデルに手を出すほどの勇気もお金もなかったので、選んだのは廉価なもの。 ピンジャックがいくつも並んでいて、プローブを差し変えることによってレンジを切り替えます。
    家に帰り使い始めてみると、何か変なことに気がつきました。 なにもつないでいないときはメータ指針は一番左側にいるはずなのに、左から3割程度までしか戻らないのです。 なにしろテスタを手に取るのも使うのも初めてだったのでこういうものなのかと思いましたが、 説明書をなんべん読んでも、そんなことはあるはずがないのです。 不良品をつかまされたんだ!

    買ったお店は計測器専門店ではなく、ワゴンセール的な怪しいお店に並べられていたものでした。 一目で壊れているとわかる現品を、お店の人はいたいけな小学生に忠告することもなく売ったわけです。 大人にだまされた悔しさと、期待を裏切られた失望とで、11歳の私はほとんど泣き出しそうになりながら、 そのテスタを思いきりひっぱたきました。 すると・・・そのショックでメータは正しくゼロ点に戻ったのです!!

    中学一年生の秋の1976年09月30日、親父に付き添ってもらって上京し受験した蒲田での電話級国家試験の帰りに秋葉原に立ち寄り、 本格的テスタを買ってもらいました。 店頭のショウケースに並ぶテスタの中から選んだのは、サンワU-70D。 すっきりしたクリーンなデザインが気に入った、というのが選択の理由でした。 今取り扱い説明書をみると8-76の文字が読めますので、発売されたばかりの新製品だったのだろうと思います。

    U-70Dを買ってもらってそう経たないころから、親父は若かったころから抱えていた病気に加え二交代勤務で体を壊し、 後になって思いあたったのですがおそらくは勤務していたバッテリー会社で知らないうちに受けた鉛中毒によって神経を冒され、 長い病床生活に入ってしまいます。
    10数年の後にひっそりとこの世を去るまで、彼は父親として家族にほとんど何もしてくれませんでしたが、 しかし親父が買ってくれたU-70Dは親父の代わりに私に多くのことを教えてくれました。

    というわけで、元気だった親父が最後に私に買い与えてくれたU-70Dは私の宝物であり続けています。 1995年にマウンテンビューのハルテック・エレクトロニクスでサープラス品のシストロン・ドナー製デジタルマルチメータを25ドルで買ってからは ほとんどの計測はそちらを使うようになりましたが、 動きのある電圧の変化の様子をみるにはやはりアナログメータの方がはるかに優れています。
U-70D

読みが変だ

    2008年02月、 Softbank Toshiba X01T のUSBポート消費電流を測ろうとして、 U-70Dの直流電流測定値が不正確であることに気がつきました。 買って30年も経っていれば無理からぬことですが、上記のような理由もあり、とてもポイと捨ててしまうわけには行きません。 もちろん今ではアナログテスタなぞ高級モデルであってもためらわずに買える経済力を手にしましたが、そういう問題でもないのです。 ここはぜひ自力で修理して見せなくては。

    中学生のときにもU-70Dは1回壊してしまい、説明書にあるとおりの補修抵抗をサンワに注文し、 自分で修理したことがあります。 でもさすがに30年前の製品ではサービスパーツは供給してくれないだろうなあ。

    所詮はアマチュアなので、我がラボの計測器はどれも国際標準からのトレーサビリティを持っていません。 校正しようにもどれを基準にして良いものやら定かではありません。 ラボの在庫部品にバンドギャップ方式のボルテージリファレンスIC、リニアテクノロジLT1029があります。 このICは製造時に基準出力電圧が±0.2%にプリトリムされていますので、これを基準にする方法もあるでしょう。 アマチュアの測定には十分な精度です。あとで小さな基板を使って手軽な基準電圧ユニットをつくっておこう。

U-70D Circuit Diagram

比較測定結果

    菊水のPAB32-2A型安定化電源装置についているデジタル出力電圧計の読み値と、 秋月のデジタルマルチメータP-10型の読み値は誤差1%以内でよい一致を示しました。 そこで、P-10の精度は満足できるものと仮定して、今回はこれを基準に使ってみます。

    まずは電圧の読みを見てみましょう。 秋月のデジタルテスタとU-70Dを並列につなぎ、安定化電源装置の電圧を変化させて読み値を比較してみると、 DCV 50/10/2.5/0.5Vの各レンジでいずれも-4%の誤差がありました。 真値10.0VのときU-70Dは9.6Vを示し、真値2.5Vのとき2.4Vを示します。
    U-70Dの取り扱い説明書をみると、DCVレンジでの許容差は「最大目盛値の±3%以内」とあります。 私のU-70Dの現状の精度は規格外ということになりますが、新品でもそもそも±3%程度でしかないわけですね。

    DCV250/1000Vレンジでは試していませんが、50/10/2.5/0.5Vのどのレンジでも誤差は同じように-4%ですから、 これを是正するためには、DCV0.5Vレンジの倍率抵抗であるR13 (8Ω)、 あるいはメータ直列調整抵抗(個体選別調整)R16のいずれかを合わせこめばいいことになります。
    DCVレンジ以外でも-4%の誤差があるなら個体選別調整抵抗R16をいじるべきだし、 DCVレンジだけが-4%を示すのならR13 8Ωを微調整すべきだと思います。

    次は電流の読み。 U-70Dと秋月P-10、さらに抵抗器1本を直列につないで電流を流し、読みを比較してみます。 結果は右表。 やはりU-70DのDC500mAレンジは大幅に狂っています。 DC50mAの+9%というのも修正するべき狂いです。
    一方、DC2.5mAレンジの-4%というのはDCVレンジと同じで、メータ個体調整抵抗で合わせこむべきでしょう。

    秋月P-10はフロントパネルには最大200mAと書かれています。 実際にはもっと測れるようですが、壊してしまいそう。

    上記測定の後にP-10と横河電機2011型精密級電流計の比較も行いましたが、P-10と2011の読み値は±0.5%の良い一致をみました。
U-70D Range U-70D Readout P-10 Readout U-70D Error
(approx.)
DC2.5mA 2.38mA 2.47mA -4%
DC50mA 50.0mA 46.0mA +9%
DC500mA 140mA 60.7mA +131%
DC500mA 225mA 100mA +125%
DC500mA 453mA 200mA +127%

Meter readings between the suspicious U-70D and maybe correct Akizuki P-10, indicating huge error in U-70D's higher DC currect range. Meantime the error at the DC2.5mA range suggests that this 4% is caused by the meter adjustment which must be performed individually to a particular unit.

故障箇所

    回路図を読むと、DC500mAレンジ用分流抵抗 R22 1Ωの抵抗値が大きくなっているのだろうと思われます。 おそらく2.25Ω程度になっているのでしょう。 これはまずまちがいなく私のミスユース・・・ DC500mAレンジでメータを振り切る過大な電流を流し続けたために抵抗が焼損してしまったものと思われます。 無理しちゃいけないよな。

    DC50mAレンジのときはR22に直列に9Ωが入ります。分流抵抗の設計値は1+9=10Ωですが、これが11.25Ωになっているわけで、誤差は+12.5%になるはず。 ただしメータ個体調整のずれ分の-4%をひいて+8.5%になるでしょう。 実測した+9%はとても妥当な値、といえます。 つまり、R22を正常な1Ωに交換すれば、DC500mAレンジもDC50mAレンジも正常になるはず。

    1Ωの分流抵抗に直流1Aを継続的に流したとすると、この抵抗は1Wの熱を出します。 オリジナルのR22が何ワットクラスなのかわかりませんが、安全のため2Wクラスの1Ω酸化皮膜抵抗器に交換しておけば良いのではと思います。 ラボにはちょうどよい在庫がありませんので次のお買い物のついでに。

    メータ個体調整の選別抵抗R16は、説明書によれば1.33〜1.41kΩが使われます。 私の個体はあと4%ほど多く針を振らせたいので、高めの抵抗を並列に追加すれば良いでしょう。
    現在の抵抗が1.38kΩだとして、これを1.38÷1.04=1.327kΩ程度にすれば良いわけです。
    1.04/1.38 = 1/1.38 + 1/x
    X = 1.38/0.04 = 34.5kΩ
    33kΩを使えば良いでしょう。これはさほど精度は必要ないのでラボ在庫の炭素皮膜でよいと思います。
U-70D R22

R22を交換

    ポゴのリクエストで東京タワー見物に出かけたついでに秋葉原に立ち寄り、ラジデパで酸化皮膜抵抗を買いました。 R22を1Ω 1% 2W品に交換。取り外したR22をP-10で測定してみたら、2.3Ωと表示されました。ほぼ正解。また、R16に33kΩを並列に入れました。 P-10との比較結果は以下。

U-70D Range U-70D Readout P-10 Readout U-70D Error
(approx.)
DC2.5mA 2.4mA 2.51mA
DC50mA 48.2mA 50.0mA
DC500mA 195mA 199.9mA
DC0.5V 0.485V 0.505V -4%
DC2.5V 2.44V 2.502V -3.5%
DC10V 9.75V 10.00V -2.5%
DC50V 31.3V 32.43V -3.5%
Rx1 42 41.5
Rx10 680 682
Rx100 5.2k 5.19k
Rx1000 50k 48.8k

    電流指示はほぼ正常となりましたが、押し並べてメータ指示が低めという傾向は改善されていません。 ・・・そりゃそうだ、R16だけがメータの感度を支配しているわけじゃないんだよな。 R16の抵抗値を4%動かせばよい、という前述の計算はまるきりナンセンスでした。

    それなら現物合わせと行きましょう。 R16に並列に50kΩのポテンショメータを入れ、電圧の読み値が正確になるような抵抗値を探します。 当然DCVの各レンジでわずかに最適値が異なりますので、最もよく使うDC10Vレンジを合わせこむことにします。 10.0Vを与えて、DC10Vレンジで正確にフルスケールを指示させるには、

    ・・・と書いて、最適値を見出し、再度比較計測を行ってその記録を書き留めて一休みした後に、 Softbank Toshiba X01T がクラッシュ。 約1時間の実験結果メモは保存されないまま失われてしまいました。 ええ、そうですとも。 こんな低品質のソフトウェア製品に貴重なプライベートタイムを使った実験の結果を書き込んでいたワタシがバカでした。 一気にやる気がうせて作業中断。
U-70D R22 Replaced

The actual resistance of the original R22 measured 2.3 ohm, which should be 1 ohm. After replacing the R22, the DC500mA reading became much more accurate, while the approx. -4% low meter reading still omnipresently existed.


作業再開

    なんだかんだで半年が経ち(時の経つのは早いなあ・・・)、気を取り直して作業再開。 U-70Dをあけると、R16には2kΩ5パーセント品が並列に入っていました。 改めてP-10との比較測定を行った結果は以下。

U-70D Range U-70D Readout P-10 Readout U-70D Error
(approx.)
DC2.5mA 2.5mA 2.39mA +4.6%
DC50mA 50mA 47.8mA +4.6%
DC500mA 200mA 188.7mA +6.0%
DC0.1V 0.049V 0.0748V
DC0.5V 0.5V 0.479V +4.4%
DC2.5V 2.5V 2.458V +1.7%
DC10V 10.0V 9.90V +1.0%
DC50V 33.0 32.71V +0.9%
Rx1 50 53.5
Rx10 500 517
Rx100 5.0k 5.0k
Rx1000 50k 50.6k

    DC500mAレンジはかえって読みが5%まで高くなってしまいました。ちょっとオーバーコレクションだったようです。 DC10Vレンジでの最適値に一番近い固定抵抗として2.0kΩを選んだのですが、 各レンジにはそれぞれの分圧抵抗・分流抵抗による誤差があるので、全体最適を目指すべきでしょう。

U-70D Interior View

作業再開

    つぎにR16に並列に6.8kΩを入れてみました。
U-70D Range U-70D Readout P-10 Readout U-70D Error
(approx.)
DC2.5mA 2.5mA 2.49mA +0.4%
DC50mA 50mA 49.8mA +0.4%
DC500mA 200mA 198mA +1.0%
DC0.1V 0.0985V 0.0889V +11.0%
DC0.5V 0.5V 0.497V +0.6%
DC2.5V 2.5V 2.516V -0.6%
DC10V 10.0V 10.12V -1.2%
DC50V 30.0V 30.39V -1.3%
Rx1 52 54.6
Rx10 465 470
Rx100 5.0k 5.05k
Rx1000 50k 49.5k

    こんどは概ね良好な結果になりました。 専用ジャックを使う0.1V/50μAレンジの誤差は大きいままです。 R21を合わせ込めば改善されるはずですが、 20kΩ/Vのアナログテスタではどのみちかなりの低インピーダンス回路でないと正確な計測値は得られません。 このへんを精度よく測定したいならデジタルマルチメータにお願いすべきでしょう。

R16 Meter Adjust Resister

Adding a 6.8kΩ resister in parallel with R16 made the overall accuracy satisfactory. DC0.1V range still shows large error. Even if further adjustment is made, however, accurate reading can be obtained only when the target circuit impedance is very low. If accuracy is needed in such case, a digital multimeter will be called anyway.

極性反転スイッチ

    U-70Dには極性反転スライドスイッチがあり、 マイナスの電圧を測ったりダイオードの極性をチェックするときなどに赤・黒のプローブを入れ替えずに スイッチ一つでメータの振れを反転することができます。 回路図を見ればわかるとおり、このスイッチはテスタ内部のメータのプラス・マイナスを入れ替え、 同時に電池のプラス・マイナスを入れ替えます。

ソニー スタジオ1980のサービス作業中にU-70Dの指示がおかしいことに気づきました。 どうやら極性反転スイッチを反転側にしたときに接触が悪くなっているようです。 接点洗浄スプレーをスライドスイッチ内に噴射して、数十回カチカチやって、回復。 この接点洗浄スプレーは樹脂部に着くと滑りを悪くしてしまう性質があるようで、 スイッチの操作タッチが重たくなってしまったのはちょっと残念。

2020-10-11 極性反転スイッチ接触不良手入れ






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Mar. 09, 2008 Page Created on Toshiba X01T Word Mobile 6.0.
Mar. 11, 2008 Added current measurement. Written on X01T.
Mar. 24, 2008 Replaced R22, current reading became accurate.
Sep. 14, 2008 Page converted to HTML by xyzzy.
Sep. 20, 2008 Meter adjustment resister is now 6.8kOhm, satisfactory accuracy obtained.
Jul. 30, 2009 Reformatted. Adapted Japanese text rendering behavior of Google Chrome 2.0.
Oct. 11, 2020 Updated. Polarity switch contact cleaned. [Noobow9100E @ L1]