Kenwood KR-9340 は、4チャネルステレオ・レシーバです。
と書いただけでわかってしまったアナタはもう50代ですね?
注: 2008年現在。
オーディオ装置としての「レシーバ」とは、1つの筐体にFMチューナとアンプを組み込んだ製品をさし、 通常スピーカとレコード・プレーヤを接続してシステムを構成します。 1970年代の初めに、オーディオ界に巻き起こったのが4チャネル旋風です。 ステレオ装置は通常2個のアンプとスピーカで左右別々の音を再生し、臨場感を出しています。 4チャネルは前後左右4つの音を記録・再生することにより、さらに臨場感を高めようというものでした。 当時は4チャネルにあらずんばオーディオにあらず的に、メーカー各社の開発・販売競争が繰り広げられたのです。 スピーカは単に部屋の隅に4つ置けばいい、アンプは4つ並べれば済む。 問題はソースです。 テープデッキはすでに2チャネル往復方式でしたから、ヘッドを換えてやれば4チャネルの録音再生は可能。 でも、4つの音をどうやってレコードで再生するのか? たった1本の針で4チャネルを記録・再生し、なおかつそのレコードは従来の2チャネルプレーヤでも再生できる。 そんな技術がいくつもあらわれ、しかし統一規格ができないうちに、オーディオメーカー各社は新製品を市場に送り出しました。 そんな中のひとつがこのレシーバです。 ファンではあっても、決してオーディオマニアではないわたしがこのレシーバを手に入れたのは、 別にそんなたいそうな理由があるわけではありません。 夕食後に数時間をPCの前で過ごすわたしは、サウンドブラスタのライン入力を切り替えたり、 差し込むだけでスピーカの音が切れるヘッドホンジャックが欲しかっただけでした。 そこで、ポンコツのオーディオアンプを手に入れて、改造してスイッチボックスにしようと考えていました。 ですからある日、フットヒル・カレッジのフレア・マーケットで投げ売りされていたこのレシーバを見たとき、 すぐに買うことにしたのです。
「ああ、こいつは4チャネルだけど、1つのチャネルがこわれてて音が出ないんだ。」 「でもいいよ、2つ鳴れば充分だしね。」 「ここに全く同じモデルからはずしたスペアパーツがある。組み合わせれば、直るかもしれない。」 「じゃあ、どうしてそうしなかったの?」 「えらく面倒くさかったからさ。そうそう、オリジナルのマニュアルと、カタログもついてるぜ。」 「そりゃいいね。」 |
オリジナルのマニュアルの冒頭、"KR-9340 FEATURES" にはこう書かれています。 1: KR-9340はレギュラー・マトリクス (RM)方式とSQ方式のデコーダを内蔵しており、 RMとSQの両方の方式によるレコード、テープ、そしてFM放送を、4つのスピーカによる美しいクアドラフォニック・サウンドで再生します。 2: KR-9340は4つの広帯域・低雑音のセミ・コンプリメンタリ・ダイレクト・カップル方式パワーアンプを採用し、 スムースで音質の良いアンプ動作を確保しています。出力は8Ω・20-20000Hzにおいて各チャネル40ワットです。 3: 4つのチャネルのレベル調整に便利なよう、4つの出力レベルメータを装備しています。 メータ・レベル・スイッチで20デシベルぶんメータ感度を下げることができるため、小出力から大出力まで対応します。 4: トーン/バランス/ボリュームの各コントロールは、4チャネルをさまざまな音楽ソースと設置環境に対応できるよう設計されています。 5: MPXセクションにはダブル・スイッチング・デモジュレータ (DSD) が採用されています。 DSD方式はキャリアのリークを防ぎ、最高の音質を確保します。 6: このレシーバにはFM検波出力ジャックが装備されており、将来4チャネルディスクリート方式のFM放送が現実のものとなったときにも対応できます。 7: 背面パネルにMICジャックがあり、マイクロホンを接続することができます。 8: 2台のテープデッキを接続でき、2台同時録音が可能です。さらに、ダビング中にスピーカからFM放送やレコードを聴くことができます。 |
外観はほとんど痛んでいないこの高級レシーバをラボのベンチに持ち込んでみると、
臓物を取り出してスイッチボックスにするにはあまりにも惜しくなりました。できることであれば直してみようか・・・。 保管状態は良好なように見えたので(中には長い間雨ざらしになっていた物を買わされてしまうこともある)、 用心しながら電源を投入。黒いダイヤルパネルに美しい青緑色で周波数目盛りが浮かび上がりました。 煙は出なかったものの、全く動作している様子もなし。FMにセットして短いアンテナ線をつなぎチューニングつまみを回してみると・・・空回り。 で、まずは外れていたダイヤルドライブの糸の掛け直し。 どうやら先人は、中をいじろうとしてダイヤルドライブコードをはずしたものの、修理できずあきらめてほったらかしにしたようです。 資料もないのであれこれトライしながらどうにかコードを掛け直すことができました。 高級機らしいフライホイールの手応えを感じながらチューニングつまみを回すと、自照式の周波数指針がスムースに動きます。 が、やはり全く動作しません。 つないだスピーカやヘッドホンからは、かすかなノイズすら聞こえてきませんし、 AM・FMの両方でダイヤルをどこにあわせてもSメータが全く振れません。 これはたぶん電源回路の故障−だとすれば、比較的簡単に修理できるかもしれません。 全くエンジンがかからない、というのは、アイドリングが安定しないのよりは普通簡単に直るものです。 まずはざっと内部を観察してみました。 現在のオーディオセットにくらべずっと部品点数が多く、何枚ものボードで構成され、相互に複雑にワイヤーで接続されています。 たかだかFMチューナと4つのアンプにこの回路! 販売価格がうなづけます。 逆に、今のオーディオセットがICあるいはLSI化によっていかに部品点数削減・小型化・ローコスト化されたかをあらためて感じました。 事実、見たところこのレシーバ本体には一つもICが使われていないようなのです (CD-4ユニットには謎のモジュール部品が使われています)。 これはわたしのようなアマチュアにとって、大抵の部品は手に入るかあるいは代替品を見つけることができるわけで、喜ばしい限りです。 このレシーバの内部は一見複雑に見えるものの、 実は理路整然とブロック構成されており、相互接続にコネクタを使用していることとあいまって、整備性はかなり良さそうです。 |
苦労してパワー・アンプを修理したのに、
それを使わずPC用スピーカの内蔵アンプを使っているというのはどう考えてもマヌケです。
このPC用スピーカは一応2ウェイのバスレフになっていて、安物のポケットラジオ的スピーカよりずっとまともなのですが、
音楽を楽しむにはどうにも役不足です。ここのところ大きな買物もしていなかったし、いっそスピーカを・・・。
そういえば私は今までスピーカ(だけ)をお金を出して買ったことはなかったのです。
初めて買うスピーカ・・・私はヨメさんをつれてサニーベールのFry'sに行きました。 高級品を買うつもりもないけれど、せっかくだから永く使えて日本にも持って帰れそうなもの。 コンパクトなのは今流行のホームシアター用のコンパクト・スピーカとスーパーウーファー。 でも、ここが私の偏屈なところで、やっぱりシンプルに左右2個がいいなあ。 インド人の店員さんにしつこく頼んで試聴時のボリュームをできるかぎり下げてもらって (大音量ならたいていのスピーカはいい音がします。が、実用的に小音量でバランスの良いものが欲しかったのです。)、 結果気に入ったのが BOSE 501 SeriesV の背高なモデル。 ウーファーはエンクロージャーの中に隠れていて、中低音は背面ダクトから放射されます。 なによりフットプリントがコンパクトだし、この先もし子供ができた時も、かわいい指でコーン紙をつんつんされる心配もありません。 これにしよう・・・今買えば今夜はボーズで音楽が聴ける・・・ とはやる私を抑えるようにヨメさんが、「ギルロイのボーズのアウトレットにいけばきっと安く買えるよ。」 ボーズのアウトレットには、期待通り同一モデルのリファブリック品がありました。 一度返品された製品なので外箱は汚れていますが、スピーカ本体はファクトリーで再チェックされた上に保証付き。 Fry'sよりもずっと安く買うことができました。 リビングのワークステーション両脇において、試しにPCを操作してみてびっくり。 Windows95の標準サウンド設定でエラー時に出る「ジャン!」の音が、低音が豊かなために「ザン!」と聞こえます。 冨田 勲の「惑星」を聴くと、今までのスピーカでは聴くことのできなかった低音がしっかり再生されます。 う〜ん、安くないお金を払っただけはある! スピーカといえばゴミ置き場のテレビから外すしかなかった貧乏ラジオ小僧が今やボーズ! 人間まじめに働いていればやがては報われるものだなあと思った日でした。 100ドルちょっと払えば最新のドルビー・レシーバが買えるとは知りつつも、 自分が苦労して修理した当時の最新レシーバで聴く音楽はまたいいものです。 せっかくCD-4ユニットがありながらもレコード・プレーヤもレコードもないため、 当時の最先端オーディオ・テクノロジを試すことができません。 ドルビー・プロ・ロジックか何かで得られた4チャネルのソースをCD-4にエンコードする装置が簡単に作れればいいのですが。 といっても、酔狂以外の何者でもないですが。 |
1999年、KR-9340は太平洋を再び渡り、生まれ故郷日本に帰ってきました。
ゴージャスな高級レシーバは、とたんに狭くなったリビングでしばらくわれわれを楽しませてくれましたが、
またまたハム音が大きくなってしまいました。
クパチーノ/サンノゼ研究所時代と異なり、狭いワークベンチではKR-9340の大きな筐体をいじるのはとても大変。
そのためリビングのメイン アンプの座はこれまた年代物のアイワTPR-840に譲り、
KR-9340はハム音の修理をしないまま第2研究所で長期仕掛かりプロジェクト扱いになってしまい現在に至っています。
ゆったり作業できるワークベンチ、4つのスピーカを置けるリビング・・・ ああ、夢だなあ。 |
9年間のアパート暮らしに終止符を打ってどうにか落成相成ったNoobowSystems中央研究所は、
ワークベンチは前より広く、スピーカを4つ置けるリビングもあるはず・・・なのに、
以前よりひどくなった感さえあります。
ジャンク機材類はカリフォルニアから帰った頃の約3倍程度にまで増えており、
第2研究所に長期保管してあった機材類を搬入したらあっというまに満杯、
さらに片づける時間もないまま。 転居後3ヶ月の間スピーカもアンプも設置できないままでいたNoobow9100コンピュータですが、 LM386N-3を使ったミニミニアンプ を用意してやっと音楽を楽しめるようになりました。 しかし最大出力700mWのポータブル機器用パワーアンプICではさすがに音量を上げての再生は困難。 そこで第2研究所から引き揚げてきたKR-9340の修理を始めることにしました。 最初の修理が完了してからすでに12年、 最後に使用を停止してからでさえ7年経っています。 ホントに早いなあ。 KR-9340はまるきり機嫌が悪くて、まともに動作しませんでした。 いろいろいじるうちに音が出始めましたが、 スピーカ切り替えスイッチの接触不良はしつこくON-OFFを繰り返してもなかなか改善せず。 フロントパネルを取り外してスイッチ内部に届くことを祈りながらSafeWashを噴射したら、 じきに回復しました。 メタルボタンをもつプッシュスイッチはいかにもトリオ製品。 TS-820 とも同じかなと思いましたが、比べてみるとちょっとKR-9340のボタンのほうが大きめです。 KR-9340の場合はフロントパネルに並んだボタンは、 すぐ裏の基板上に取り付けられた松下製のオルタネート プッシュスイッチを動かしますが、 これらのプッシュスイッチはいずれも接触不良を示していましたので、 スピーカ切り替えスイッチと同様にSafeWashをスプレー。 ほぼスムースな動作になりましたが、 どのスイッチも時折操作してあげないとまた接触不良になってしまうでしょう。 ずらっと並んだプッシュボタンのなかでいまではほとんど必要ないのが、LOWとHIGHのフィルタスイッチ。 HIGHフィルタは傷の増えたレコードのスクラッチノイズを低減するため、 LOWフィルタは反ってしまったレコードを再生するときにレコードの回転周期に同期した超低音を低減するためのものです。 LOWフィルタは何とかなっても、HIGHフィルタを入れると高音域はAMラジオ以上FMラジオ以下程度にまで減衰されてしまい、 とてもHi-Fiとは言えなくなってしまいます。 サンプリング時に音楽情報の一部が必ず失われてしまうCDと違ってアナログレコードにはすべての情報が残されている、 だからいい機材を使えばレコードはCDより必ずいい音がするはずなのだ・・・と、 いまでもアナログレコードの音を追求しておられる方々がいらっしゃいますし、 強烈な慣性モーメントをもつターンテーブルがあったりします。 しかし当時は、こんなフィルタを使いたくなるほど、針先からのスクラッチノイズは悩みの種でした。 4チャネルステレオは、回路技術だけでなく、高度なレコード再生技術も要求しました。 CD-4方式ではリアチャネル情報は30kHzのサブキャリアで変調されています。 よって4チャネルを再生するには、可聴周波数帯を大きく超えて50kHzまで再生可能なレコード針、カートリッジ、 伝送ケーブルそして専用設計されたヘッドアンプが必要でした。 しかし現実には、こんなHIGHフィルタが欲しくなるほどに高音域はスクラッチノイズによる妨害を受けます。 サブキャリアとそれにより変調を受けたリア信号を安定に復調するのは、 理論的には可能であったとしても、 一般家庭用のビニール盤アナログレコードでは至難のことだったのでしょう。 |
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