Lafayette HE-80
General Coverage
Shortwave Communications Receiver (1964) |
1950年代後半、アマチュア無線の通信方式としてSSBが急速に普及していきます。
SSBには高い周波数安定度をもつ受信機が不可欠であり、
受信機の性能は感度や選択度ばかりではなくて混変調特性や高いイメージ排除性能、
良好なSN比、さらにはSSBの特性に合ったAGC特性などといった項目が重要視されるようになっていきます。
こうなるとシングル スーパーヘテロダインのゼネラル カバレージ機では満足できる性能を得るのが次第に困難になり、
メーカー製・自作機ともアマチュアバンド専用のクリスタル フィルタつきダブルスーパーヘテロダイン機が主流になっていきます。
一方日本のアマチュアは新しい時代の受信機は1963年のスターSR-600まで待たねばなりませんでした。 高一中二シングルスーパーの Lafayette HA-230 (トリオ9R-59) ではやはり、SSBの受信はかなりの困難が伴いました。 Lafayette HE-80 (トリオJR-60) は同じようなシングルスーパーのゼネラル カバレージ機ですが、 放電安定管と局発バッファによる安定度の向上、SSB/CW用プロダクト ディテクタの採用、SSB時も使えるQマルチなど、 HA-230の上位機種として性能向上が図られています。さらに50MHz帯を受信するためのクリスタル コンバータを内蔵し、 FMの受信も可能、100kHzクリスタル キャリブレータも内蔵するなど機能強化も行われています。 これらの改善がはたしてどの程度の効果をもたらすか? HA-230の修理が完了してほぼ2年、ラボに兄貴分のHE-80がやってきました。 2001-03-20 HE-80 発注 $77.78 2001-04-20 HE-80入手 |
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Lafayette HE-80は真空管を14球使用した、
高一中二シングルスーパーヘテロダイン方式のゼネラルカバレージ短波受信機です。
中波帯1バンド、短波帯3バンドおよび内蔵クリスタル コンバータによる50MHz帯の5バンド構成。
大型の横行きダイヤルの下半分はアマチュアバンドにキャリブレートされたバンド スプレッド ダイヤルです。 HE-80は日本のトリオによる設計・製造で、同社JR-60の輸出仕様です。発売は1964年前期。 1964年12月には 後継機HA-225 にバトンタッチしています。 HA-225はHE-80に対して外観はほとんど変わりないものの、中波帯の代わりに長波帯が受信できるよう変更され、 かつ内部的にいくつかの改善を受けています。 なおHE-80のごく初期ロットは6mバンドではなく2mバンド用のクリスタル コンバータを内蔵しており、 日本国内向けのJR-60と同じ塗色とつまみ形状をしていたようです。 |
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Lafayette HE-80 には真空管が14球使用されており、
Lafayette HA-230 (TRIO 9R-59) の9球に比べると内部はさすがに上級機の風格が漂います。
14球のうち2球は6m(50MHz)帯用のクリスタル コンバータ、1球は電圧安定管ですから、
HA-230に比べて回路機能の実質として増えたのは2球。
これらはBFO/Qマルチの独立とプロダクト検波の追加に使用されています。
したがって、受信機の骨格としてはHA-230/9R-59と変わらない高一中二のシングルスーパーヘテロダインです。 12本の真空管を動作させる電源回路は、HA-230に対して強化されています。 整流管はHA-230の5Y3-GTに対してHE-80では6CA4を使用。 一見GT管の5Y3-GTの方が大きくてパワーがありそうですが、 最大出力電流は5Y3-GTの125mAに対して6CA4は180mA。 ミニアチュア管なのに大容量なのです。 ただし190VのB巻線を二つ持つ電源トランスにはDC110mAの表示があり、 6CA4をオーバーロードさせうるものではなさそうです。 1960年代初頭の他の通信型受信機を見ると、中型機では5Y3-GT、 大型機では200mA以上取れる大型管の5U4-Gまたは5U4-GBが定番で、 すこし時代が進むとシリコンダイオードを用いた電源回路となります。 したがって、6CA4を使っている受信機というのは珍しいものといえます。 HA-230ではAC100VとAC110Vの切替スイッチがありましたが、 HE-80では省略され110V巻線に直接接続されています。 今後は日本国内で使うことを考えるとAC100V巻線につなぎなおすとよいでしょう。 電源電圧変動に強くするため、HE-80では放電安定管0A2(VR-150)が採用されています。 一方、HA-230で採用されていた大技、局発管ヒータの常時通電はHE-80では行われていません。 |
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例によって回路図が入手できるまでの間、低周波段からいじり始めます。
本機はスピーカを内蔵しておらず、リヤパネルのネジ止め式スピーカ ターミナルにスピーカを接続して使います。
コモン グラウンドと8Ωそして500Ω出力端子の3つのターミナルがあります。
いつものテスト用小型ブックシェルフは8Ωなのでコモン グラウンド"G"と8Ω端子に接続します。 AF GAINコントロールは通常のボリュームで、ここからの信号はまず6AQ8の片側で初段低周波増幅され、 ついで6AQ5で電力増幅され、出力トランスを経てスピーカを駆動します。 フロントパネルのヘッドフォンジャックはスピーカとの切替え式で、抵抗等は入っていません。 リアパネルにはレコーディング ジャックが用意されています。 ここには初段低周波増幅段の出力が出ています。 ボリュームのホット側に音声信号を注入してみると、低周波段には問題があることがすぐにわかりました。 音は出ますが、トータル ゲインは低く、また中高音がかなり減衰してしまっています。 ちょうど効きのよいトーン コントロールで目いっぱい高域を絞った感じで、通信型受信機とはいえこれでは困ります。 まずは出力管6AQ5のカソード バイパスとプレート バイパスをチェックし、新品に交換します。 が、変化がありません。 次に6AQ5のグリッド電圧を測定してみると、あれあれ、10V近くもプラスの電圧がかかっています。 これではせっかくカソード抵抗で作ったバイアス電圧も無駄になってしまいます。 原因はカップリング キャパシタのリークで、6AQ8のプレート電圧が6AQ5のグリッドにかかってしまっていたためでした。 0.01uFのフィルム品に交換すると、グリッド電圧はほぼ0V。再生音は高域がかなり伸びるようになりました。 初段低周波増幅管6AQ8に進みます。 プレート電圧を測定してみると、わずか35V程度しかかかっていません。これでいいのかなあ。 B電圧は135Vほどかかっているので、220kΩのプレート抵抗で100Vの電圧降下があることになります。 プレート電流は45mAも流れていることになり、ずいぶん流れすぎなような気がします。 カソード パイパスのキャパシタは10μFで、これを交換したらカソード電圧が約0.6Vから約1Vにアップ。 リークしていたのでしょう。 周波数特性も大幅に改善され、シンバルやハイハットのさわやかな高音が自然に聞こえています。 6AQ8のグリッドはボリューム コントロールのワイパー端子にシールド線で直結されており、 固定されたグリッド抵抗はありません。 ボリューム コントロールのホット側に直流電圧がかかれば、グリッド電圧が影響してしまうことになります。 はて、これでいいのかな。 キャパシタ交換で高域もよく鳴るようになったしゲインも向上しましたが、いまひとつ音質がよくありません。 ラジオ受信であれば実際には気がつかないでしょうが、 CD品質の音声信号を注入してテストしてみるとどうにも気になってしまいます。 バスドラムのような大振幅の信号の際に背景の高域成分が濁ってしまう、といえばよいのでしょうか。 所詮は通信型受信機のアンプですから高品質なオーディオを求めるのはお門違いというものですが、 ちょっとだけ回路を変更してみることにします。 まず、入力信号をボリュームから取り出すところに0.1μFをいれて直流阻止します。 代わりに6AQ8のグリッド抵抗として220kΩを入れます。 プレート抵抗を220kΩから100kΩに下げ、カソード抵抗を1.5kΩから1.3kΩにします。 この抵抗は1kΩと300Ωの直列とし、10μFのバイパスキャパシタは1kΩだけに並列に入れ、 300Ωに出力トランスの2次側から取り出した信号を3kΩの抵抗を介して接続し、ネガティブ フィードバックさせます。 NFBのため低周波段全体としてのゲインは低下しましたが、 バスドラムで背景の高音が濁る現象はほぼ気にならなくなり、FM音楽を聴く程度であれば満足できる音質になりました。 短波を聴くのなら申し分ないレベルです。 受信がきちんとできるようになったらシャント キャパシタでも入れて、高音を適当に減衰させるとよいと思います。 意図して高域を減衰させるのと、故障していて高域が伸びないのと、いったいどう違うんだい? と聞かれるとちょっと考え込んでしまいますが・・・・。 AF GAIN および RF GAIN のポテンショメータは、それ自体にはガリはありません。 セーフティウォッシュを使う必要はなく、少し使っただけでスムースな調整ができるようになりました。 2001-04-22 低周波段修理 NFB追加 |
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低周波段がとりあえず完調といえる状態になったので、信号が強まると音が消える原因を調べてみましょう。
HE-80ではAM受信時は6AL5によるダイオード検波回路が、SSB/CWの時は6BE6によるプロダクト検波回路が使用されます。
トラブルはFUNCTIONスイッチがAMの時もSSB/CWの時も発生しています。 本機にはANLが装備されており、ファンクションスイッチをANLポジションにするとANLが有効になります (SSBの時はANLは使えません)。 今回のトラブルはANLを使わない状態で発生していますが、AM検波回路とANLは同じ6AL5に同居しているので、 ANLがどういうわけか効いてしまっていてオーディオ信号をクリップしている、という説もありえます。 が、これはプロダクト検波回路を使ったSSBモードでも発生していることから可能性は低そう。 配線を追うと、最後の中間周波トランスの2次側から取り出された中間周波数信号はマイカ キャパシタを介して6AL5のAM検波ダイオードに入り、 さらに別のキャパシタでプロダクト検波管に入力されています。 どちらかが調子が悪くて他方に悪影響を及ぼしている可能性もありますので、 まずはプロダクト検波管への入力キャパシタを切断しました。 しかし状況は変わりません。 AM検波ダイオードの出力信号をオシロで見てみると、たしかに検波はされていますが、 強信号のときに波形のピークがクリップされてしまい、さらに信号が強まるとオーディオ出力は無音になります。 これは、音声信号の負のピーク(キャリヤの振幅が最も小さくなる瞬間)でさえクリップ レベルに達してしまい、 もはや音声成分が残らない状態になってしまっているのです。 正のピークもクリップ レベル以下に収まるような弱い信号、あるいはゲイン コントロールを絞れば、復調音声は正常になります。 それでは中間周波段、特に2段目の6BA6が飽和しているのでしょうか。 これはありえそうです。事実、2段目の6BA6のプレート電圧をオシロで観測してみると、 強信号のときに確かに変調のピークがクリップされています。 どうやら問題は検波段より前のようです。 AGCはそれなりに発生しているし、各部の電圧レベルも正常。真空管を交換しても症状は変わりません。 2段目の6BA6のスクリーン バイパスとカソード バイパスは0.01μFのディスク セラミックで、これはあまり痛みそうにありません。 念のためAGCフィルタ キャパシタ0.05μFを含めて新品のSprague製およびNichicon製フィルムに置き換えてみましたが、 症状は変わりません。 第2段の6BA6のプレート出力のAC成分はおおむね30Vp-p以上振ることができず、波形は確かに飽和しています。 しかし中間周波増幅段にも検波段にも明らかな異常はありません。 これはわからない! あちこちつつきまわしましたが、どうにも理解できません。 |
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コイル セクションの各コイル、トリマ、およびすべてのネジ固定部は生産時にゆるみ止めの白いペイントが塗布されています。
コイル セクションと中間周波トランスの調整部の白ペイントは割れており、ユーザーが再調整を試みていることがわかりました。
本当に正しく調整されているか確認した方がよさそうです。
コイル セクションの再調整は音消えが直ってからにすればよいので、まずは中間周波トランスの再調整を行いましょう。 局部周波数発振管6AQ8を抜き、混合管6BE6の第3グリッド(ピン7)にシグナル ジェネレータからの455kHzを注入します。 AGC電圧をデジタル マルチメータで読めるよう接続し、さらに今回は2段目の中間周波増幅管6BA6のプレート信号もオシロでモニタします。 調整をとってみると、3つある中間周波トランスはどれもきちんとピークが取れていました。 ところがいろいろ試しているうちに、奇妙なことに気がつきました。 1段目と2段目の6BA6の個々の動作を調べようとしたときです。 1段目の6BA6のコントロールグリッドにシグナル ジェネレータを接続し、プレートの波形をオシロで観測すると、 当然のことながらジェネレータの周波数を455kHzにしたときにプレートの信号が最大になります。 2段目の6BA6でこれを試すと、もちろん455kHzジャストで最大のプレート信号になりますが、 約370kHz程度にももうひとつピークがあるのです。それも455kHzの時よりはるかに大きな出力レベルで・・・・! 2段目の6BA6の前後の中間周波トランスががぜん怪しくなってきました。 どうなっているのだろう? コイルの導通やショートをチェックしつつ、思いきって各コアをぐるぐる全範囲で動かしてみます。 どのトランスもピーク出力を得られる調整ポイントは2箇所あります。 最終の中間周波トランスについて、先ほどまであわせられていたピークとは別のピークを見つけて最大点を探してみようとしたら・・・・ 検波段入力信号波形がオシロの管面から飛び出してしまいました! これだっ!! 調整後の検波段入力レベルは、いままでの10倍をはるかに超えています。 |
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以前のオーナーが中間周波数トランスの再調整を試みたとき、誤って455kHzではない別のピークにあわせてしまったのでしょう。
最終の中間周波トランスは上側コイルも下側コイルも誤調整されていました。
6BA6の出力は検波段に伝わる前に大きくロスされ、したがってAGCはあまり効かず、
6BA6はハイゲイン状態を余儀なくされて結果的にオーバーロードになっていたものと思われます。
結局、強い信号での音消え現象の修理は調整ドライバー1本だけで済んだわけです。 音消えが解消されただけでなく、受信機の感度ももちろん大幅アップ。 すでに5球スーパーでは逆立ちしてもかなわない性能が出ています。 夜の国際放送バンドは、どこも放送局で埋め尽くされています。 最初のうちはボリューム コントロールをフルにしても弱々しい音しか出なかったのに、 今度はつまみを最小にしてもかすかに音が残ってしまう、という逆のトラブルが発覚しました。 とりあえず喜んでおきましょう。 2001-04-29 中間周波トランス調整 感度・選択度大幅に改善 |
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まだコイル パックの調整は行っていませんが、どの程度の感度が出ているのだろうと思い、アンテナ端子に接続したシグナル ジェネレータの出力を絞ってみました。
すると、10dBμあたりからバックグラウンドノイズに埋もれてしまい、信号が判別できなくなってしまっています。
わがラボのアンテナとノイズ事情は劣悪なので、どのみちふだん受信するのは強力な放送局だけです。
が、この性能はちょっと納得できないものがあります。感度が悪いというより、ノイズがとても目立つのです。 アンテナを外してみても、スピーカからはザーッといったホワイトノイズ的な音が絶えず出ています。 これはいったいどこから来るのだろう? 高周波増幅管6BA6を抜いても変わらずに音は出つづけているので、受信機由来のノイズであることがはっきりしました。 ほぼ同じ回路構成のHA-230やCRV-1/HBに比べても、現在のノイズレベルは大きいように思えます。 さらに局発管を抜いてみても、ノイズレベルは変わらず。 この受信機にはFM受信ポジションがあります。 ノイズはFMラジオの無信号ノイズに似た音色なので、FM受信機能が悪さをしているのかもしれません。 6mコンバータ ボードの6BL8も抜いてみましょう。 ええっ、まだ出てる。 それじゃQマルチの6AQ8。うう、変化なし。 じゃあ、これが? 周波数変換の6BE6。 ノイズは消え、かすかな誘導ハムだけになりました。 じゃ、要するにコンバータノイズなの? |
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別の中古の6BE6を挿してみると、ノイズはオリジナル球と同様に出ています。
真空管そのものの問題ではないようです。
ノイジーな球として定評のあるペンタグリッド コンバータ 6BE6 ですが、はて、こんなにノイジーだったっけ。 各ピンの電圧測定結果は表のとおりで、正常なように思えます。 6BE6の第1およぴ第3グリッドへの入力配線を切ってみたら、ノイズは多少減りましたが、やはり無視できないレベルです。 プレート端子から最初の中間周波トランスへの配線をいじるとわずかにレベルが変化します。 ここにはQマルチへの接続があり、これを切り離すと多少改善されます。 が、これを切ってしまってはHE-80の存在意義がなくなります。 |
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結局これは「正常な」コンバータ ノイズのようです。
となると、改善するにはペンタグリッド コンバータをやめて3極管ミキサーにでも改造するしかありません。
いつかトライしてみましょう。 コンバータ ノイズへの最も有効な対策は、入力レベルを上げてノイズレベルを上回るようにすること。 で、安直に、高周波増幅管6BA6へのAGC制御をやめて常時フルゲイン動作に変更してみました。 中程度の強度で入感している信号についてはS/N比が向上したように感じられます。 極端に強い半島や大陸からの信号ではオーバーロードが感じられますが、必要であればRFゲインコントロールを絞れば済みます。 し、この改造は抵抗1本の接続先を変えただけですから、いつでもノーマルに戻せます。 AGCをかけないのなら、高周波増幅にあえて6BA6リモート カットオフ管を使う必要はありません。 1950年後半から60年代のQSTの記事等を見ると、6DC6や6AK5のようなシャープ カットオフ管を使う例が多くみられます。 リモート カットオフ管の混変調特性の悪さが嫌われているためのようです。 6BA6の代わりにと同一ピンアサインであるシャープ カットオフ管6AU6を使ってみると、 良好に入感している国際放送の場合はバックグラウンド ノイズが少なくなって聴きやすいように思えます。 正確なところは不明ですが・・・。 |
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本機のSメータは、第2中間周波増幅管6BA6のカソード電位の変化を読む形式になっています。
メータの基準電圧は同じ6BA6のスクリーン グリッド電圧を抵抗とゼロ点調整ポテンショメータで分圧して作られています。 HA-230では第2中間周波増幅段はAGC制御を受けないのでSメータは第1中間周波増幅管6BA6のカソードに接続されています。 HE-80では第2中間周波増幅段もAGC制御を受けます。 一方、HA-230ではフロントパネルのIF GAINコントロールは第2中間周波増幅管のカソード抵抗を変化させるのでゲインを落とすとSメータのゼロ点が変化しますが、 HE-80のRF GAINコントロールは第2中間周波段には影響しません。 このためゲインを落とすと、ゼロ点は変化せずにメータの振れだけが低下します。 HE-80のメータはHA-230と同様な縦振れのラジケータです。 電源OFF時および無信号時は針は下側にあり、信号強度が上がるにつれ上側に振れていきます。 この挙動はHA-230とは正反対です。ゲインを絞ったときの動きとともに、このHE-80の挙動の方が私個人としては好みです。 本機ではメータ自体も周辺回路も正常に動作しています。 が、高周波増幅段を常時フルゲインにしたため、同じ信号強度でもAGC電圧はぐっと上がってメータ はほとんど振り切りっぱなし状態になってしまいました。 メータ ゲインを落とすため、メータに直列に入っている1.5kΩに2.2kΩを追加したところ、シグナル ジェネレータ出力40dBμで大体S9を指示するようになりました。 良好に入感しているVOAやBBCではほぼ上限、目盛りにして+40dBあたりを指しますが、 非常に強力な信号でも振り切ってしまうことはありません。 アクセサリとしてちょうどよいレベルだと思います。 |
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コイル パックの再調整を行ったところ、各バンドのダイヤルほぼ全域で良好な調整結果が得られました。
ダイヤル目盛りも結構正確で、なにより短波帯の感度は素晴らしいものがあります。
近所迷惑なほどの音量を出すことができ、あるいはRF GAINを絞りきった位置でさえVOAが聞こえつづけるほど。
ラジオたんぱがかろうじて聞こえていた当初に比べれば、驚異的な復活といえます。 バンド セレクタをいちばん右側に回せば、6mクリスタル コンバータが動作を開始します。 6m専用アンテナ端子(日本でいうM型コネクタ)にベランダ アンテナをつないでみると、何かのノイズが受信できています。 50MHz台をきちんと発生できるシグナル ジェネレータは持っていないので正確なテストはできませんが、 25MHzの第2高調波が受信できているのでクリコンは動作しているのでしょう。 ケンウッドTS-60Dを引っ張り出してダミーロードでもつないでみれば、もうすこしマシなテストができるかもしれません。 |
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SSBおよびCWを受信するためのBFOは、初段低周波増幅と兼用の双3極管 6AQ8 の第1セクションで構成されています。
ファンクション スイッチをSSB-CWにセットすると、3極管のカソードがロータリー スイッチによりグラウンドに落とされ、
BFOは発振を開始します。
発振出力はグリッド(ピン7)から取り出され、プロダクト ディテクタを構成している 6BE6 ペンタグリッド管の第3グリッド(ピン7)に直接注入されています。
ここの信号を見ると、BFO非動作時はほぼ0Vですが、動作時は約-50Vを中心にプラスマイナス40V、
ピーク・トゥ・ピークで80Vもの発振出力になっています。
波形はきれいな正弦波で、オシロで見る限りは安定しています。 BFO発振周波数はずいぶん狂っていたようです。コイルを調整し直したらSSB/CWがクリアに受信できるようになりました。 ゆっくりとした周波数ドリフトはありますし、シャーシを揺さぶると周波数が変化するものの、 信号強度や電源電圧に起因した周波数変動はなく、安定しています。 この安定度はHA-230ではとても得られなかったものです。 しかし、BFOピッチ コントロールでたとえば相手局のゼロビートを取ろうとするとき、 言い換えればBFOの周波数と入力キャリア周波数が近いか等しいとき、復調音の音量が低下し、 かつ歪っぽくなってしまいます。 ちょうど信号が引きずり込まれてしまっている感じ。これが本調子なのでしょうか。 6BE6の第3グリッドに注入されたBFOの出力は、第1グリッドにも現れてしまっています。 この信号がAM検波回路に入り込み、検波されてAGC電圧を発生させてしまっています。 その強度はおおむねS9程度で、メータは振れたままになっています。 このため中間周波段のゲインはかなり低下してしまいます。 弱い信号を受信するためには、やはりAVC-MVCスイッチをMVCにして手動でゲイン調整を行う必要があります。 すると今度は、RF GAINコントロールの位置によってわずかな周波数変動が発生します。 これを補正するためにBFOピッチあるいはバンド スプレッドを再調整することになります。 シングルノブでの快適チューニングは現時点ではあいかわらず夢のままです。 |
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夕方の7MHzのSSBを受信すると、上から下から遠慮のないQRMに悩まされます。
ここは自慢のQマルチの出番。ところが、Qマルチは全く応答しません。
SELECTIVITYコントロールを反時計いっぱいにするとスイッチが切れてQマルチは停止状態になり、このとき受信機は正常に動作しています。
が、スイッチを入れると感度はとたんにガクリと下がり、SELECTIVITY およびFREQUENCY の つまみをどういじっても変化がありません。
Qマルチはサブシャーシ上に組まれており、Qマルチ用コイルがあります。
このコイルのコアをどういじってもやはり変化がありません。
Qマルチ管6AQ8のヒータは正常に点火しているのですが。 依然として回路図は入手できていません。 サブシャーシをひっくり返せば配線を追えるとは思いますが、HA-230のQマルチとほぼ同等だろうと仮定して、 Qマルチ管の電圧を測定してみましょう。
( *1: 少し時間がたってから測定したので電圧が高めです。 ) ( RFゲイン コントロール反時計いっぱいで測定。これらの電圧はRF GAINコントロールの位置で変化します。) SELECTIVITYポテンショメータは、Qマルチ管のカソード抵抗3.3kΩに直列に入っています。 つまみを反時計いっぱいで抵抗値は最大となり、Qマルチ管の動作感度は最低になります。時計方向に回すと、カソード抵抗は3.3kΩだけになります。 このときのカソード電圧が2.45Vなので、3.3kΩのカソード抵抗には約0.74mA流れていることになります。 これはプレート電流と等しいはずです。 またこのとき、22kΩのプレート抵抗の両端の電位差は16Vであり、したがってプレート電流は約0.72mAとなり、 抵抗値の誤差を考えれば結果が合います。 それでは、Qマルチ管は増幅動作をしているのでしょうか。 HA-230の場合はSELECTIVITYつまみを時計方向いっぱいにすれば回路は発振状態になりますが、 このQマルチは発振するふうではありません。グリッド廻りの回路に違いがあるのでしょうか。 再度Qマルチコイルのコア位置調整を行ってみたら、今度は受信音量が変化します。お、動作しているみたいだぞ。 シグナル ジェネレータからの455kHz注入ではうまく調整が取れなかったので、実際の信号を受信しながら調整してみました。 なぜか最初のトライではうまくいかなかったのですが、単なる調整不良だったようです。 Qマルチを使えば国際放送受信時に隣接局との10kHzビートをかなりのところまで低減できます。 さらにHA-230とは異なり、本機のQマルチはSSB/CWモードでも利用できます。 混雑する7MHzのSSBやCWで試してみると、確かに混信低減に効果があります。しかし効きはいまひとつ。 QマルチをBFOとしても使うHA-230と異なり、発振しはじめるまでフィードバックを強めないように設計されているのかもしれません。 カソードの固定抵抗3.3kΩにさらに10kΩをパラに追加し、発振状態にまでフィードバックを上げられるようにしてみました。 フィードバック直前ではかなりシャープにはなるものの、十分満足できるものではありません。 SSBの受信音質もかなり歪っぽくなります。 やはりこれはQマルチの限界、すなわち鋭いピークとなだらかなスカート特性に起因する限界なのでしょう。 でなければ、Qマルチが真空管1本とコイル1個で簡単に実現できるときに、 あえて低い周波数での中間周波トランスをずらりと並べてみたり、 クリスタル フィルタやメカニカル フィルタを使ったりはしないでしょうからね。 ともあれQマルチは復活。HA-230/9R-59に対して大きなアドバンテージです。 |
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プロダクト検波回路は IF信号にBFO信号をヘテロダインし、差信号として音声を復調します。
根本原理としてはスーパーヘテロダインの周波数変換回路と同じと考えることができます。
真空管受信機のプロダクト検波回路では、3極管を3つ使ったもの(1949年にM.G Crosby氏により特許)、
あるいはペンタグリッド コンバータ管を使ったものが多く利用されています。 Single Sideband for the Radio Amateur に掲載されている6BE6を使用したプロダクト検波回路の例を見ると、 BFO出力はキャパシタを介して第1グリッドに注入されており、その振幅は10V程度にせよ、とあります。 また左図は電波技術誌に掲載されていた例ですが、これでもBFOは100pFを介して第1グリッドに、IFは第3グリッド注入。 Radio Handbook 16th Edition の"DX Communications Receiver"ではBFOは第1グリッドに10pFを介して注入、注入レベル調整ポテンショもついています。 QST誌1963年3月号のW6TC/SKによる入門者向け自作機 HBR-8でも、 BFO出力はトリマ キャパシタを介して6BY6の第1グリッドに注入しており、このトリマを出力の歪が最も少なくなる点に合わせよ、とあります。 いずれの例をみてもBFOはペンタグリッド管のオシレータ グリッドである第1グリッドにキャパシタを介して注入されており、IFは第3グリッド。 しかもBFO注入レベルが復調歪に影響するとされています。 これに対してHE-80では、BFO信号をダイレクトに6BE6の第3グリッド(7番ピン)に注入しています。 しかもその振幅は80Vp-pもあり、RCA Receiving Tube Manual(RC-25)で推奨されている第3グリッドの動作電圧-1.5Vに対してずいぶん違うように思われます。 この設計理由はいったい何なのでしょうか。 [21年経ってようやく理解できました・・・2022-06-11 リンク先に続く] |
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オリジナルの回路でいろいろいじっても復調音質不良は一向に改善されないので、
思い切って右の図にあるような方式に変更してみました。 455kHz IF は従来どおり100pFを介してAMダイオードに接続し、 ここから47pFセラミックを介して6BE6の第3グリッドに印加します。 ここにはグリッド抵抗として100kΩ、またそれに並列に50pを入れてあります (これらはオリジナルの第1グリッドに入っていたものをそのまま使用) 。 BFOは今までどおり6AQ8のグリッドから取り出していますが、 47pFのセラミックを介して6BE6の第1グリッドに注入。 ここにはグリッド抵抗として22kΩを入れました。 上記の回路例ではカソード バイパスは10μFが入っていますが、 "Single Sideband for the Radio Amateur"記載の回路例では0.01〜0.1μFとなっています。 HE-80実機では10μFのケミコンと0.1μFのセラミックがパラに入っています。 この10μFチューブラ型ケミコンはリークがかなりあったのでSpragueの未使用品(でもかなり古い)にしてみました。 この定数で動作させ第1グリッドにオシロをあてると、グリッド電圧の平均値は-11.5V、BFO振幅は17Vp-p程度です。 また第3グリッドをオシロで見ると、455kHzのBFO信号が2Vp-p程度出てしまっています。 6BE6のスクリーン電圧は68V程度で音声信号が5Vp-p程度重畳しており、 またプレート電圧は55V程度をベースに復調信号とBFO信号が上乗せされた形になっています。 カソード電圧は0.83Vで、カソード抵抗は100Ωですから カソード電流は約8.3mA。 この状態での動作結果は・・・ドラマチックな改善ではありません。 BFO周波数が中間周波数とほぼ同じになっている状態での感度と了解度は明らかに向上しましたし、 したがってBFOピッチコントロールでの調整もずっとやりやすくなっています。 復調音質もかなり改善されていますが、オーバーロードによる歪が明確です。 これはRFゲインを落とせば改善されます(中間周波段でのオーバーロードの可能性も残っています)。 SSB受信時には10kHzを超えるようなヒス音がかなり耳につきます。 ので、お手軽に低周波段の入力部に0.022μFをバイパスとして追加し、高域をすこし減衰させました。 |
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プロダクト検波管6BE6を抜いておいても、BFOピッチコントロールをセンターにしたときにSメータが大きく振れます。
第2中間周波増幅管6BA6のプレート信号を見てみると、ここですでにBFOの455kHzが重畳していることがわかりました。
BFO信号は6BE6の第1グリッドから第3グリッドへ抜けてAM検波ダイオードへ戻るほかにも、
おそらく中間周波段に直接飛び込んでいるようです。
このため、BFOピッチをセンターにするとAGCがかかって受信機全体のゲインが低下してしまうのです。 さあて、どうすれば回り込みを低減できるかなあ? いろいろとSSB受信機の製作例をしらべてみると、あれれ、 プロダクト検波回路を持つ受信機はほぼ例外なくBFOは専用のシールド ケース内に収納されてサブシャーシとして実装されています。 BFO出力はシールド線でプロダクト検波管まで導かれているほか、なかにはB電源などのワイヤの出入り口に貫通キャパシタを使っている例もあります。 どれも回り込みを嫌ってのことのようです。 つまり、HE-80の改善は大改造が必要ということに。ああ。 BFOをしっかりシールドするのは、BFO出力の中間周波段への飛び込みを減らすほか、発振した455kHzの高調波が高周波段に飛び込むのも防止します。 HE-80とほぼ同じ構成を持つ後継機HA-225ではBFOはやはり6AQ8で低周波増幅と兼用ですが、 6AQ8とBFOコイルはしっかりサブシャーシ上に取り付けられています。 結局、HE-80はSSB受信機としては研究不足、発展途上のモデルだったといえます。 |
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残念、現状ではAM復調音質不良問題が解決できておらず、国際放送を楽しむことができません。
感度は素晴らしいのに。他のHE-80/JR-60でもやはり音質は悪いのでしょうか、それともこの個体に特有の故障?
もう少し勉強してから再トライすることにします。
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時は流れて2022年。
SBE SB-36
の作業をしようと思ったものの電源ケーブルが見当たらず、
あちこち探すうちに出てきたのがHE-80のつまみでした。
当のHE-80はといえば、ぷちぷちに包まれて棚の上に長期放置。
たぶん第1研究所から中央研究所に引っ越す時からずっとこのままだったのでしょう。
よし、つづきをやろう。
Lafayette HE-80、修理再開です。
ぷちぷちで包んでいたから長期保管の間は汚れはたいして進行しなかったはずですが、
ということは2001年当時は清掃作業はほとんどしなかったんだね。 2022-06-04 HE-80 作業再開 |
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このページを読むと、前回当時は電源のブロック電解キャパシタは交換せずに済んでいたようですね。
最後の作業から少なくとも16年の長期保管後は、
さすがにそうはいきませんでした。
電源を入れたら大きなハム。
電源トランスB巻線電圧を平滑する2個の40uFを、
新品の400WV 47uFキャパシタに交換。
オリジナルのブロックキャパシタは取り外さずに残しておきました。 これで大きなハムはすっきり消えましたが、 ジャリジャリといった感じのノイズがボリュームを絞った状態でも出続けています。 初段低周波増幅管6AQ8のプレートフィルタC50 3uFを NOS品の4.7uFに交換しましたが、ノイズは消えません。 でもいろいろ調べていくうちにふっとノイズは消えてしまいました。 うう、ゴーストか。 正体は判明しないまま。 小さいながらはっきりとハムはまだ聞こえます。 定電圧放電管入力側平滑の20uFも47uF新品に交換しましたが、 変化はありませんでした。 2022-06-06 ハム発生 電源平滑キャパシタ交換 1stAFプレートフィルタ交換 |
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HE-80は米国仕様なので、電源はAC117V仕様です。
使われている電源トランスT01-92Aの1次巻線には117Vタップと110Vタップがあるので、
つなぎ換えてAC100V仕様に変更しました。 2022-06-06 AC100V仕様に変更 |
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あちこちの接触不良が直って受信動作を始めたHE-80、
あれ?
2001年当時の作業記録には「AM復調音質悪い」とあるけれど、
そんなに悪いものでもないよ? AF GAINポテンショメータ部に入れてあった改造 ― DC阻止キャパシタ追加と、高域シャントキャパシタ追加 ― は外して元通りにしました。 スピーカ端子から初段低周波増幅入力への軽いNFB追加は、 音質改善の効果がみられるのでそのままとしました。 室内でなら十分に音量が得られます。 2022-06-06 改造2箇所をリバート |
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さっそく7.074MHzのFT8を受信してみました。
お、けっこう受信できるぞ。 SSB-CWポジションにし、AGCを切り、RF GAINをつまみの50%ほどにまで絞った状態。 感度を上げると強力な信号が入ってきたときに音声が歪んで復調できなくなるので、 かなり下げないといけません。 HE-80はプロダクト検波回路を採用しているため、 SSB-CW受信時でもAGCを使うことができます。 しかしAGC ONではAGC電圧に応じてわずかに復調周波数は変動してしまうので、 FT8受信時はAGC OFFにせざるを得ません。 放電安定管のご利益でしょう、 電源電圧に起因するとみられる変動はあまり見られません。 しかし局発の周波数は室温にとても敏感です。 いまはキャビネットから取り出しているから、空気流にも敏感。 梅雨に入った初日の今日は肌寒く、 エアコンなしで扇風機だけ。 ワークデスクで作業している自分の体を動かすと、 扇風機の風の流れ具合が変わって、周波数が変動します。 それよりも困るのは、筐体への機械的振動にもとても敏感なこと。 貧乏ゆすりはもちろん、 デスク天板上に手を置く程度のわずかな振動で、復調音はピュルピュルと振れてしまいます。 戦前機 ハリクラフターズS-20Rスカイチャンピオン でもこんなことはなかったよ。 FT8受信はやはりなかなかにチャレンジングですが、 それでもプロダクト検波はBFOをツイスト注入するタイプのAM検波回路に比べれば復調音質が良いのは明らかですね。 2022-06-06 FT8受信を試す |
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2001年当時、
シグナルジェネレータの25MHzの第2高調波が受信できたので6mクリスタルコンバータが作動していることは確認できていました。
今回は50MHz帯を正確に発振できるシグナルジェネレータがあるので、
46〜54MHzバンドの受信機能と、
JR60の特徴の一つであるFM受信機能を試してみます。 バンドセレクタスイッチの接触不良を接点復活スプレーで修正しただけで HE-80はシグナルジェネレータの52.000MHzの信号を受信しはじめました。 ダイヤルは52.2MHz付近にあります。 0.2MHzほどずれているようです。 受信動作は安定しておらず、なにかの拍子によく聞こえたり聞こえなくなったりします。 いろいろ調べてみたら、バンド5の局発トリマCO6を割り箸で軽くつつくと受信感度が顕著に変わります。 どうやらピストントリマの調整ネジ部が接触不良を起こしているようです。 ネジ部に接点復活スプレーを噴いてネジをくるくる回しているうちに接触は回復し、 割り箸でつついても変化せず安定して受信できるようになりました。 |
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FM受信時は信号にダイヤルをゼロインさせると音声出力はとても小さくなり、
センターからすこし2〜3kHz程度高くあるいは低くずらしたところで音量・音質ともに最良になります。
信号信号が強いと復調音声のひずみが目立ちます。
RF GAINで信号強度を落としてやればOK。 シグナルジェネレータの設定は、FM周波数偏移を1kHz程度にしたときに音質・音量のベストバランスになりました。 ±3kHzまで偏移させるとおそらくIFTのパスバンドスロープのかなりの範囲を使ってしまい直線性が落ちるので音質が悪くなってしまうのでしょうね。 アマチュア無線のFM電話では最大周波数偏移は±5kHzということですから、 実運用では音質はかなり悪化してしまうでしょう。 でもね、実運用? いまどき50MHz FMだなんてはたして受信して楽しむほどのトラフィックがあるのだろうか。 2022-06-07 FM受信機能テスト |
Click here for movie on site |
2001年04月に本機HE-80を入手してはや21年、
今回初めてFM受信機能をテストし、FMでBGMを流して数日間聞いていたわけですが、
そういえばFM検波回路がどんなものなのかはほとんど気にかけていませんでした。
というより、50MHz帯が (少数のパイオニアさんたちではなく) 一般のアマチュアに使われ始めたごく初期のことだし、
FM検波回路なんてどうせ簡便なスロープ検波に違いないと思い込んでいました。
実際、2日前にFM受信機能を試したときはいかにもスロープ検波のダイヤル反応具合でした。
でもさあ、FMのときはBFOが止まった状態でプロダクト検波管6BE6を通しているんだね。
このとき6BE6は単に電圧増幅管として動作しているんだよね? 夜遅く第3研究所で回路図を眺めていて、ふっと気がつきました。 6BE6ペンタグリッドコンバータ管の第1グリッドにFM変調のIFを入れて、 第3グリッドにはBFO用の455kHz共振回路がつながったままになっている・・・ これはクワドラチャ検波回路になってるみたいだぞ? そうか、だからHE-80のプロダクト検波は、 通常の第1グリッドにBFO・第3グリッドにIFを入れる使い方ではなくて、 第1グリッドにIFを入れ、第3グリッドにBFOを入れているんだ! SSB-CW時はBFO発振管を動作させて第3グリッドに455kHzのBFO発振器出力を強制的に注入し、 FM時は第3グリッドにつながったままになっているBFO共振回路をクワドラチャ共振回路として使って6BE6を自励ロックドオシレータ動作させているんだ! プロダクト検波回路になんのひとつの追加部品も必要とせずにFM検波回路としても使う・・・ なんという合理的な設計! そしてそれに気づくのに自分は21年を要したという情けない話。 |
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でもまてよ、ということは・・・
このHE-80では、2001年にいじっていた当時プロダクト検波管の使い方が腑に落ちなくて、
第1グリッドと第3グリッドを入れ替える改造をしてあります。
だから現状でこのHE-80は、
本来の設計意図に反してFMのクワドラチャ検波は動作しておらず、
古典的なスロープ検波として動作しているのです。
↑ にあるFM受信テストのビデオ
は、
HE-80の本来の姿ではないということになります。 このページの上のほう ― 2001年当時の作業ログ を読むと、 プロダクト検波管のつなぎ方を標準的なものに変更する改造をしたらゼロイン近辺での動作が安定し、 BFOピッチコントロールの効きがスムースになり、 復調音質が改善した、とあります。 第1グリッドにIFを入れるHE-80でのプロダクト検波の使い方は、 標準的な方法に比べるとわずかばかり性能が劣るということなのでしょうか。 そして本当にそうなのであればHE-80は、 つまりトリオJR-60は、 FM受信機能を持たせるために、SSB-CW受信性能をすこしばかり犠牲にしている と言えてしまうのでしょうか? いまではこの受信機で50MHz FMを受信するニーズはほとんどありません (ここ西上州で、50MHz FMのトラフィックははたして今もあるのでしょうか?)。 であれば、私は FM受信性能よりもSSB-CW受信性能を優先し、 6BE6をプロダクト検波動作に専念させる改造を施したのだ と言えるということになります。 2022-06-09 FM検波回路の設計意図を (ようやく) 理解 |
Disabling Quadrature Detection in FM mode, Applying "standard" 6BE6 Product Detector connection |
クワドラチャ検波についてはネット上に文献も数多くありますから詳細・正確にはそちらに委ねるとして・・・
1950〜1960年代の家庭用テレビのFM音声検波に多用された回路です。
代表的なものとして、この用途を意図して設計された7極管 6DT6を使ったものがあります。
6DT6はペンタグリッド・・コンバータ管であり、
その第1グリッドにFMの中間周波信号を入れます。
管内の電子流量は第1グリッドの電圧によって変化し、
第3グリッド付近にスペース・チャージが形成され、
結果として第3グリッドには第1グリッドの信号と同じ周波数で位相同期した電圧が誘起されます。
ここで第3グリッドに中間周波數のセンター周波数に同調した共振回路を接続しておくと、
第3グリッドは自励発振し始めます。
この動作からこの回路はロックド・オシレータとも呼ばれます。 ロックド・オシレータの位相は第1グリッド電圧に対して90度遅れています。 第3グリッドには入力信号に対して90度、つまりベクトル的に直角な信号が生まれるので、 これをクワドラチャ・グリッドと呼びます。 入力信号は音声信号に呼応して周波数が逐次変化しています。 入力信号とクワドラチャ・グリッドの信号の位相差は、 したがって音声信号レベルに呼応しています。 二つの信号の位相差に応じて真空管のプレート電流が変化しますが、 プレート電流の変化はすなわち音声信号の変化と同じになっているわけなので、 結果としてプレートから音声信号を取り出すことができます。 この方式では、真空管を少なくとも2本必要としていたリミッタ+レシオ検波方式に対して真空管1本で実現できるので、 セットの低コスト化・小型化を実現できます。 いっぽう復調音質やAM抑圧性能などの点からは必ずしもベストとは呼べないため、 音質を重視したFMチューナでは採用例は少ないようです。 周波数変換用7極管である6BE6もロックド・オシレータ管6DT6と同じ構造なので、 6BE6でロックド・オシレータ動作させてクワドラチャ検波を行うことが可能です。 ただしFM検波器の性能としては6DT6に劣ります。 ゲーテッドビーム管6BN6 は、真空管の構造は全く違うものの、 クワドラチャゲートをロックドオシレータ動作させてクワドラチャ検波を行うという点では同じであり、 よって回路図上では6BN6もペンタグリッドコンバータ管と同じ記号で表現されます。 2022-06-11 クワドラチャ検波の原理を復習 |
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21年のブランク後にHE-80を使ってみると、AM復調音質はさほど悪いとは思えません。
こんなもんじゃないのかなあ。
でもしばらくBGM機として使っていて、見えてきました。
なるほど、AM変調度が浅いうちは良好に復調できるのだけれど、
変調度が50%を超えるあたりから歪の兆候が見えてきて、
変調度80%あたりでひずみが明確になります。
目黒MSG-2161はAM変調は50%までしか深くできないので問題ないのですが、
SIGLENT SDG2122Xを使って100%まで変調を深くするとはっきりわかります。
短波の国際放送局ではたいてい深い変調で放送していますので、
音質の悪化がはっきりわかる、ということのようです。
実際、
HA-225
をいじっていた2002年当時も「変調が深いときに音質が悪い」と書いていますから、
これは故障ではなくて、JR-60の基本設計の実力なのでしょう。
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100%変調のときのIF波形とAM検波ダイオードの波形を見ると、
きれいに半波整流されているべきなのに振幅が大きいときに逆側にも信号が出ていて、
また振幅ゼロのときのレベルもシフトしているように見えます。
AM復調出力の頭打ちはIF振幅がゼロのときに発生しています。
このあたりが原因なのでしょう。
しかしどうしてこのようなことが起きるのか。
この先はいろいろ手を入れて調べていくことになりそうです。 HE-80はプロダクト検波回路を改造してしまいましたが、 いろいろいじるならHA-225でやろうと当時から思っていましたので・・・ キャビネットやシャシー上のクリーニングは未実施ですが、 調子よく鳴っているHE-80は一段落させて、 つぎはHA-225を引っ張り出すことにします。 2022-06-13 作業終了 |
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先にHA-225でいろいろいじってみよう。
HE-80には課題がまだまだ残ってます。
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