National Panasonic RQ-554
5 Band Radio Cassette Recorder
(197x) |
RQ-554は1970年代中盤の普通のラジカセ。
他の多くのモデルと違うのは、短波を1.6〜30MHzフルカバーしていることと、
短波チューニング操作がしやすいようにファインチューニングコントロールを持っていること。
当時大流行となった短波受信ブームに乗る形で世に出たモデルです。
クリーム色フェイスの大型横行きダイヤルが特徴的です。
当時の私はこのダイヤルになんともレトロな印象を受けたのですが、
ほかの方はどうだったのでしょうね。
モダンなデザインと感じた方もおられたのでしょうか。 このラジカセ、雑誌記事で見たことはありましたが、 当時すでに RF-2200 を使っていたし、 受信機と録音機は別の機械であるべきとも思っていましたし、 なによりこのモデルは短波を聞くための基本性能が特段優秀というふうでもなかったので、 ほとんど興味はありませんでした。 でもこれを今年2024年にリユースショップの店頭で見かけたとき、 当時を懐かしんで楽しんでみてもいいかなという気になりました。 たぶん、やっぱりどこか、気になっていたんでしょうね。 50年もの間。 RQ-554は、自分が中学入学のときに買ってもらった低価格FM/AMラジカセRQ-542と基本的に同じカセットメカニズムを持っています。 細部は改良されているようですが。 操作ボタンが懐かしいです。 中学時代はRQ-542でNHKラジオの続基礎英語とラジオ英語会話を録音し、 キュー&レビュー機構を駆使して聴きまくりました。 あまりに酷使したのでヘッドを2回、モータを2回、ピンチローラーアセンブリを1回交換してもらいました。 有料の英会話スクールには通ったことはありませんが、 シリコンバレー駐在のお声がかかったのも、 その後の国際開発チームリードの職をどうにかこなせたのも、 National MAC RQ-542のおかげと思っています。ものすごく感謝。 ということでACプラグを差し込んでテスト開始。 まずはラジオタイランドを聞いてみましょう。 ラジオは各バンドとも動作しています。 動作はしていますが、いろいろダメなので楽しめそうです。 帯域幅が広すぎるだけじゃなくてオシレータプルインが酷いように思えます。 この対策は、できたとしてもけっこう大変かも。 またこのラジオ、短波帯では過大RF入力にとても弱いと見えます。 外部アンテナ端子は壊れている (取り除かれている) ので、 ロッドアンテナにクリップで外部アンテナをつなぐと、混変調しまくって使い物になりません。 ミキサのトランジスタが劣化しているということもあるかもしれませんね。 テープトランスポートは動作していますが、 テープの音は出ないし、内蔵スピーカの音質もかなり悪いです。 ダイヤルフェイスに白色LEDが組み込まれているところを見ると、 前オーナーは近年いろいろいじったのかもしれません。 そのへんを見るのも楽しみです。 2024-05-11 RQ-554 購入 |
|
RF-554のキャビネットを開けてサービスベンチに載せました。
作業開始。
まずはフレンドシップラジオで再度受信テスト。
いやーこれはひどいな、
番組を楽しむような感じではありません。 |
|
RQ-554で短波10.000MHzを受信すれば局部発振器の発振周波数は10.455MHzになるので、
それをFRG-7 USBモードで受信してみましょう。
ピーという音が聞こえるはずで、その周波数が多少ふらつくのはまあ予想できます。
しかし聞こえてきたのはあまりにも奇妙な信号。
局発波形がこれだけひどいのであれば、短波が聞こえていること自体が奇跡と思えます。 RQ-554に短波は3バンドありますが、 SW2 (3.9MHz〜12MHz) で ダイヤルを高くしていくと7MHzあたりから局発の発振波形が乱れはじめます。 12MHzあたりではもうめちゃくちゃ。 これはSW2バンドに固有の問題ということではなくて、RF入力の強さに関係しているようです。 SW3バンドで22MHzにセットしているとき、RFに22MHzの強信号を入れると同じ現象が起きます。 つまり 局発がRF入力に激しくプルインしているのですね。 局発の信号が本来あるべき単一スペクトラムではなく、 周波数ドメインでスペクトルが広がってしまうので、 受信機としては見かけ上の選択度が広がってしまい、つまり近接周波数の混信が入ってきてしまうわけです。 復調音質がひどいのも説明がつきます。 2024-06-09 局発波形が乱れていることに気がつく |
|
局発トランジスタを2SC2669Yに交換してみました。
さらに周囲の電解キャパシタもいくつか新品交換。
状況にほとんど変化なし。 2024-06-13 局発トランジスタを交換 変化なし ついで混合トランジスタを2SC2669Yに変えても目立った変化はありません。 トランジスタ劣化ではなかったということですね。 局発には関係ないとわかりつつ、 なんかもう理屈なしで片っ端から電解キャパシタを新品交換してしまいました。 おそらく録音系のキャパシタ一つを残して全交換。 これはもう知性の敗北ですね。 結果としてオーディオ出力の音質は間違いなくよくなったので、 完全な無駄ではありません。 2024-06-14 AM混合トランジスタを交換 ほぼすべての電解キャパシタを交換 AM混合トランジスタの直近にもうひとつトランジスタがあります。 ひょっとしてAMミキサはバランスト型の回路なのでしょうか? ありえなさそうだなあと思いつつ、 でも念のためにトランジスタを新品交換してみましたが、 状況変わらず。 局発の純度低下は、アンテナが短ければ発生しません。 現状このラジオはロッドアンテナよりも長いアンテナをつなぐととたんに調子が悪くなります。 ラインオフ時からこういうものだった、という話なのでしょうか。 いったん調査の手を休め、 AMとFMの中間周波トランスを調整。 うまくピークが取れました。 |
|
17.880MHzのCRIポルトガル語番組をRQ-554で聞きます。
この番組、ポルトガル語プログラムのはずなのですが、
ニュースもトークもなく、
ずっと音楽を掛けています。
朝の0800JSTからと0900JSTからは同じ内容で、
さらには今年の4月からずーっとおんなじ番組を毎日繰り返しています。
番組編成の予算が底をついたのでしょうか。
でもそのなかにとても素敵な ― 風神録道中曲ですって言われたら信じてしまいそうな ―
曲があって、はてこれは何という曲なのだろう。 17.880MHzを受信するときは、 普通のラジオなら局発周波数は18.335MHzのはずです。 FRG-7でRQ-554の局発の漏れを受信してみると、たしかに18.335MHzの信号が受信できます。 しかしこのとき局発はやっぱり9.167.5MHzを発振しています。 やはりAMミキサは局発信号の2倍高調波周波数で周波数変換しています。 これはRQ-554の設計の狙いなのでしょうか? 松下製の短波トランジスタラジオでほかにもこういう例ってあったりするのでしょうか? 局発の周波数ドリフトを低減するため、 SW3では本来の局発周波数の半分の周波数を発生させておき、 混合段直前で周波数ダブラで周波数を倍にしているとか? まさかね? 局発を逓倍している例としたら、 弊ラボの機器の中では Sideband Engineers SB-34 の第3周波数変換があります。 第3局発の原発振は456kHzの水晶ですが、 USBモードの時はダブラ―とトリプラーで6倍の2738.2kHzをつくり、 LSBモードの時はダブラ―2段で4倍の1825.5kHzをつくっています。 結果、第3中間周波段ではUSBもLSBもサイドバンドは同じ向きになるので、 1つのコリンズ メカニカルフィルタでUSBもLSBも対応できるという工夫。 追確認しておきましょう。 RQ-544のSW3バンドで24.000MHz AM信号を受信します。 このときの局発周波数は ユニバーサルカウンタ での実測値は12.227.5MHzです。 この倍の24.455MHzと入力信号24.000MHzの差分に変換されて455kHz中間周波が得られています。 動画中で使っているテスト音源は、 OrangeCoffeeさんのアルバム "The Lounge Map 1 - morning coffee set" からトラック6、 「NJG」(原曲:「サニールチルフレクション」)。 現時点での結論は、 「RQ-554のSW3はそういうもの」。 でもこのために、SW3では局発基本波周波数±455kHzの信号も弱いながら聞こえてしまうので、 SW3バンドでは、ほかの受信機では聞こえない信号がいっぱい聞こえます。 このラジカセは、当時の販売価格を見ると、RF-2200よりも6000円も高かったのです。 カセットがあるから単体ラジオよりも高くなるのは当然だとはは思いますが、 それにしてもRF-2200よりも高いのにこの性能だなんて、 もしこの個体の現状が出荷時の性能だとするならば、 強烈に残念なお買い物ということになってしまいます。 やはりちょっと考えにくいですね・・・ |
|
RQ-554メインボードの半田面には、
多くの部品が手付けで追加されています。
量産試作基板で問題が見つかったものの、
日本国内の短波ブームが続いているうちの市場投入日程を優先するあまり、
基板変更する時間的余裕がなくてそのまま量産開始されたのではないでしょうか。
回路の動作性能的に多少不本意な部分があっても、
抜本的な対策がなされずに目をつぶって量産Goをかけてしまったのかもしれません。 ぶつぶついいながら、短波SW2バンドの局部発振回路とAM混合回路を中心に基板パターンを追い続けます。 このモデルの基板は部品面に厚膜抵抗がプリントされた両面パターンなので、 回路を追いかけるのはけっこう大変です。 それで・・・これは? ほう・・・NSBとな?・・・ふむふむ。 |
|
|||
こ・・・これか?
試してみます。
アンテナRF入力: 9.385MHz AM 90% mod S9+20dB相当、
混合段への局発入力レベル: 400mVp-p。 いままでとは大違いの局発出力レベル、 60dBμ相当の強信号でも破綻せずにしっかり聞こえているぞ! テスト音源はSJV-SCさんのアルバム "DIVIT" からトラック5、 「ブクレシュティの人形師」(原曲: 「ブクレシュティの人形師」。 2024-06-15 SW2不調の原因に気づく |
|
判明!!
SW2の局発レベルが明らかに低く不安定だったのは、
結局自分の理解不足でした。 このラジオにはNSBクリスタ用ジャックがあるのですが、 キャビネットからメインボードを取り出すときにジャック配線は切り離していました。 しかしこのジャックは、NSBクリスタを使わないときはジャック内でショートされるようになっていたのです。 その代替ショート処理を行わずにテストしていたのが原因でした。 NSBクリスタはSW2の局発発振コイル2次側のローサイドに挿入されます。 クリスタを使わないときは、コイル2次側ローサイドが0.01uFのキャパシタを介してグラウンドに落ちます。 クリスタ配線がオープンになった場合であっても、 2次側ローサイドは1kΩでGNDに落ちているので、 発振が止まることはありませんでした。 しかし発振出力が大きく低下していたのです。 だから回復方法は簡単で、NSBクリスタジャック配線をつなげば正常になります。 しかしもうNSBクリスタなんて使うことはないし (持ってもいませんし)、 局発発振コイルの配線が筐体内で長く引き回されているのは不安定動作の原因になるかもしれません。 そこで本機ではNSBクリスタジャックは廃止し、 SW2局発発振コイルL4の2次側ローサイドは、SW1やSW3の発振コイルと同様に最短距離でGNDに落とすことにしました。 2024-06-16 SW2局発波形異常はNSBクリスタジャックをオープン状態で使っていたためと判明 作業ミス |
|
RQ-554内蔵AC100V電源ユニットの平滑キャパシタを交換しておきます。
現時点でAC電源ハムは皆無ですから必要は出ていませんけれど。 本体内蔵のAC電源ユニットのプリント基板は複数の海外仕向けに共通に作られていますが、 "LAMP"と書かれた出力ランドが用意されています。 商品企画の初期段階ではダイヤルランプも装備予定だったけれど、 コスト低減のために省かれた、のでしょうか。 |
|
テープトランスポートは正常に動作し始めましたが、
スローなピアノは鬼門です。
フラッタがひどくて、音楽を楽しめたものではありません。
テスト音源は ついったー東方部さんのアルバム "Further Current" からトラック3 「幽霊楽団 〜 Phantom Ensemble」。 おそらくベルトは前オーナーによって交換されているものと思います。 すこし緩すぎるのでしょうか。 モータ接続コネクタが除去されて直接はんだ付けされているところを見ると、 モータは他機種からの移植かもしれません。 ヘッドは予期される程度に摩耗していましたが、 アジマス調整を行って高域はすこし改善されました。 現状ではオートストップ機構は効きません。 それにしてもこのカセットドア、テープが全然見えませんね。 これはかなり不便なはず。 モータープーリーにゴムがひどくこびりついていたので、 これがフラッタの原因かと思いました。 しかし残念、清掃してもほとんど変わりませんでした。 ベルトを自由長Φ80mmの新品に交換してみましたが、 きつすぎてモータが回り始めないことがあります。 入手時に使われていたベルトはΦ90mmほどと思いますが、 それではちょっとテンションが低すぎます。 すると本来のベルトはΦ85mmなのでしょうか? いろいろいじってはみましたが、 フラッタの原因はどうやらキャプスタン軸受けのガタのようです。 これは直せませんねえ。 カセット部の完全復調は今回断念。 将来いつの日にか再挑戦したいです。 2024-06-30 カセットテープトランスポートの回復は断念 |
|
最終組付け前に再度トラッキング調整を実施しました。
調整はスムースで、短波ダイヤルは各バンドともぴったり合わせ込めました。 2024-06-30 トラッキング調整 |
|
RQ-554、屋外ロングワイヤーとアンテナチューナでは入力過大でひどい混変調、
かといって室内ホイップアンテナでは室内のノイズに負け気味。
そこでひとつ奇妙な実験をしてみましょう。
外部アンテナを使い、RQ-554のアンテナ端子の手前にポテンショメータを入れて可変アッテネータにする作戦。
在庫部品で適当なものを探したら、
このハムバランサがちょうどよい具合です。
ハムバランサって・・・ご記憶の方いらっしゃいますか? |
|
|||
結果はなかなかに意外。
ポテンショメータの設定位置を変えると、アンテナからの信号が強まったり弱まったりするだけでなくて、
アンテナチューナ内部のコイルと受信機アンテナコイルとの結合の度合いが変わるのでしょうね、
隣の周波数が強く聞こえてきたり、あるいは目的の信号だけがすっと浮かび上がったりします。
なんだか理屈が良くわからないものの、
いろいろいじってうまいセッティングが見つかれば、
内蔵ホイップアンテナでは無理だった快適なリスニングができます。 2024-07-01 |
|
小学生の私が初めて聞き始めた頃の短波は、
摩訶不思議なことばかりでした。
奇妙な音があちこちで聞こえるだけでなく、
ピューピューと音の高さが変化するビート音がよく聞こえていたし、
あるラジオで放送局が聞こえる周波数でほかのラジオでは全く聞こえなかったり、
聞こえるはずのないものが聞こえてくることも多かったです。
まるで妖怪にからかわれているかのような感覚でした。 あれから50年が経ち、すこしは理屈がわかってきたら、 あの頃の不思議が説明できるようになってきました。 説明できるようになってしまうと、 それらはもはや怖い妖怪でも幽霊でもなくなってしまいました。 あのころぼくをからかって遊んでいた妖怪たちは、もうここにはいない。 不思議は不思議のままにしておいたほうが良かったのかもしれません。 今夜の妖怪。 RQ-554のダイヤルを9.195MHzに合わせる -> 何も聞こえません。 つぎに、 シグナルジェネレータで9.195MHzの無変調キャリアをアンテナに入れる -> なぜか9.650MHzの朝鮮中央放送が聞こえます。 AM混合段に入ってきた9.195MHzのキャリアと9.650MHzの朝鮮中央放送がミックスされ、 差の周波数455kHzが中間周波段に出ていくわけですね。 |
|
|||
いま9.385MHzを受信しようとすると、局部発振器の発振周波数は455kHz高い約9.840MHzになります。
このとき9.840MHzに強い局がいてアンテナから混合段に入ってくると、
強い局の9.840MHzと局部発振器の約9.840MHzがミックスされて、
この2波の差の周波数がビート音として聞こえます。
この手のトランジスタラジオでは入力信号の強度変化(=AGC電圧の変化)に応じて局部発振器の発振周波数は多少ふらつきます。
このため、Sメータの動きに合わせてピューピュー音程が変わるビート音になります。 実験してみましょう。 9.385MHzのラジオタイランド日本語番組を受信しているときに、 アンテナ端子にシグナルジェネレータでつくった9.843MHzを注入します。 分かりやすいように、9.843MHzの信号は3秒ON 3秒OFFのバースト信号としてみました。 結果は右の動画。 3秒おきに3kHzのビート音が、不安定なピッチで聞こえています。 ということで、RQ-554でラジオタイランド 9.385MHzを聞こうとするときは、 9.840MHzのベトナムの声がビート発生の原因になります。 幸いにA24の番組プランではこの2局は同時には放送されませんが、 もし9.840MHzでベトナムの声が同時に強力に届いていたら、 RQ-554はこの2局を同時に聞けるよくばりラジオになるかもしれません。 これはつまり、アンテナ回路から混合段に入ってきた信号のうち、 差の周波数が455kHzの関係にある2波はすべて聞こえてしまうということです。 いまや夜の9MHz帯は9.3〜10.1の広い範囲で強力な局がたくさんいますから、 RQ-554にとって現代の短波はかなり厳しいということになります。 2024-07-02 |
|
とまあ、現状でこのRQ-554は短波ラジオとしてはいくつもの問題を抱えていて、
常用機とするにはいささか厳しいものがあります。
これらはRQ-554がラインオフしたときから抱えている弱点なのかもしれないし、
あるいはこの個体のどこかに劣化故障がある可能性は残っていますね。
基板部品面に形成された厚膜抵抗が破損しかかっているとか、
スルーホールのビアが切れかかっているとか。
SW3の局発が普通の半分なのはなぜかという疑問と並んで、
ひょっとしたら、です。 でも大入力による混変調や周波数関係でのビートやイメージ妨害がない条件であれば、 このラジオはいい音で番組を楽しめます。 右のムービーではシグナルジェネレータから4.800MHz 4mV 100%AMを入力、 外部アンプ+外部スピーカ使用。 テスト音源は 舞風さんのアルバム"東方幽靜響"からトラック4、 「夜桜街道 〜instrumental〜」 (原曲: 「死霊の夜桜」 「ゴーストリード」) 涙を誘う美しいアレンジです。 これで今回のRQ-554作業は完了とします。 リユースショップでの購入金額分はたっぷり楽しむことができました。 昔懐かしい妖怪が跋扈する短波の世界に戻りたかったら、RQ-554のスイッチを入れることにします。 2024-07-04 作業完了 |
|