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Lafayette 80-in-1
Electronic Project Kit

Export Version of Gakken "Mykit 80"



30年前の記憶

    家に帰るまで待ちきれず、朝に郵便局で引き取ったこのキットの箱を会社の駐車場で開けたとき、 もう30年もの間アクセスさせることのなかった記憶が強烈なフラッシュバックとなって蘇ってきました。 心の片隅で埃をかぶっていたバックアップテープが引っ張り出されて、主記憶にロードされていきます。 ブルーのシャーシ、木製のトレイ、透明なカバー、それぞれの部品とその配置、 ガルバノメータにカーボンマイク、そしてマニュアル。 英語で書かれていることを除けば、レイアウトもイラストもまったく当時のままです。 さらにこのキットと過ごした日々が色鮮やかに思い出されたのです。 建て替えられる前の古い家。 なかなか動作しない苛立ち、 良好なアースを得ようとしてバラの垣根の湿った地面に五寸釘を刺した肌寒い曇り空の早朝。 初めてイヤホンから聞こえてきたラジオ。それを自分のことのように喜んでくれた父親。 陽射しの暖かいガラス戸の縁側で大きな音で鳴る2石ラジオを一緒に聴いていた祖母。 外れてしまった006Pの電池ホックの線を半田付けしてくれた町の電子機器工場のおばちゃん。 分解して部品を転用したさまざまなプロジェクト。 電流を流しすぎて煙を出し、へにゃへにゃに溶けてしまったガルバノメータ。 慣れない半田こてでのやけどのひりひりした痛み。

    記憶の再ロードは昼休みの終わりを知らせるチャイムで中断されるまで続きました。



学研マイキット80

    このページを読んでいる人でこれを知らない人はいないだろうし、 少なくともエレクトロニクスエンジニアと称している日本人で、学研マイキットを知らない人間は絶対にモグリだと強く信じています。 が、不幸なことに知らないままに来てしまった人のために簡単に説明しましょう。

    学研マイキットは、主として小・中学生向けのエレクトロニクス学習教材です。 プラスチック製のボードの上にトランジスタや抵抗、コンデンサといった電子部品が取り付けられていて、 その端子にはスプリングがついています。 これらのスプリングを付属のビニール線でつないで電子回路として組み立てます。 この方式により、半田こてなどの工具を一切使用することなく、 ラジオやアンプ、発振器、アラーム装置などさまざまな回路に組み立てて実験することができます。 このキットにはテキストブックとしても優れたマニュアルが付属しており、 回路図、回路の動作原理、接続順序や改良のヒントなどが紹介されています。

    ここにある Lafayette 80-in-1 Electronic Project Kit 、日本名 学研マイキット80 の場合、80種類の回路の実験ができます。

    学研マイキットには、搭載されている部品の数と回路例の数によりマイキット80やマイキット100などがありました。 マイキット80は手ごろな価格のモデルであったと記憶しています。 当時、友人が持っていたマイキットの上位モデルはスーツケース型のケースで、 きちんとした電流計やICによるアンプなどがあり、うらやましがったものです。

    同様なキットに学研電子ブロックがあります。 ビニール線でつなぐ代わりに部品が入ったブロックを組み合わせて完成させていく電子ブロックは組み立ても容易で、 人気もありました。が、配線の自由度が限られるためにオリジナル回路を作ったりいろいろ実験したりするのには不向きで、 学習教材としてよりオモチャの感が強くなってしまっています。 こちらは近年復刻版が販売されたので楽しまれている方も多いと思います。






Lafayette 80-in-1

    すでに書いたようにLafayette 80-in-1 は学研マイキット80の輸出仕様です。 Lafayette社は当時全米に数多くの販売店をもち、 カタログ販売にも強いエレクトロニクスショップ チェーンでした。 1960年代は主として日本製のラジオ、オーディオ、 アマチュア無線やCB機器などがLafayetteブランドで販売されていました。 アメリカに輸出したいが販売チャネルのない多くの日本メーカーは、 Lafayette社のOEMという方法で海外進出を果たしました。 ケンウッド社もそうした会社の一つ。

    1960年代の終わり、ついに人類は月着陸の夢を果たしました。 宇宙に心ときめかせる子供にとってエレクトロニクスは時代の先端技術であり、 だから人工衛星が描かれたパッケージは本当に魅力的であったに違いありません。 このキットで学び、やがて大人になって本当に人工衛星を設計するようになった人もいるはずです。






使用コンポーネント

    左上にはキャパシタが6つ。 100pF / 0.001μF / 0.01μF / 0.2μFのセラミックと、3μFおよび100μFの電解キャパシタ。

    いちばん左側の黒い平坦なものは太陽電池。 その隣はフェライトバーアンテナで、入手時はご覧の通りコアが外れていました。 これはすぐに修復できました。

    バーアンテナの隣に1N60ゲルマニウムダイオード、その右に高周波用PNPゲルマニウムトランジスタ、2SA52。 高周波系の部品は左寄りに配置されていて、 とくにラジオを作る場合に回路図に近い実体配線が可能になるよう工夫されています。

    中央上部はSFチックな作りのガルバノメータ。 赤いプラスチック製のカバーの中には豆電球が入っています。 カバーの上には方位磁針があり、 それを取り囲む形で配置されている青プラスチック枠に巻かれたコイルに電流を流すと方位磁針の針が振れます。 メータの性能としては芳しくありませんが、 電磁気学の基礎を学ぶという点では一般的なメータよりも価値があります。





    右上は抵抗器が100Ω/ 1kΩ/ 5kΩ/ 10kΩ/ 50kΩ/ 250kΩの6本。 抵抗器の下は山水ST-32相当の低周波出力トランス。 その下に006P 9V電池と 単3電池2本のホルダ。

    写真で006P電池スナップに隠れそうに見えているのが低周波用PNPゲルマニウムトランジスタ、2SB56。

    ガルバノメータの下には1回路2接点のメカニカルリレーがあります。

    単3電池ホルダは液漏れのため痛んでいます。





    配線が済んだら上半分には透明カバーをかけ、その手前のコントロール部でオペレーションします。 この操作コンソールはかっこいいね!

    左側の赤いターミナルはアンテナ、アース、およびカーボンマイクをつなぐためのもの。 実際には配線部のスプリングと直結しているだけなので、どのような用途にも使えます。

    白いつまみはラジオ用の単ポリバリコン。 黒い矢型つまみは50kΩのポテンショメータ。





    操作コンソール右側には、モールス符号が示されたラベル、簡単な作りの電鍵、 そしてスピーカおよびイヤホン接続用ターミナル。

    付属品はダイナミックスピーカ、クリスタルイヤフォン、 カーボンマイクロフォン、配線用とアンテナ用のビニール線。






2石ラジオを作る

    それでは、私の大のお気に入り、 マイキット80のラジオ回路の中で最も複雑で高性能な2石ラジオに30年ぶりにチャレンジしましょう。

    8歳の子供にゲルマラジオより複雑な回路の動作が理解できるはずがなく、 最初にチャレンジした当時はひたすら配線順序の指示どおりに線をつなぐだけでした。 今では多少なりとも賢くなったので、配線順序ではなく回路図を見ながら配線していきます。

    回路構成はダイオード検波、低周波2段増幅でスピーカを駆動します。 マイキット80には低周波出力トランス(山水ST-32相当)はあるものの、段間結合トランスはありません。 このため初段低周波増幅と電力増幅の間はキャパシタカップリングです。 それぞれの抵抗値が各1本しかない抵抗器で実現するため、バイアス回路も簡便なものになっています。





    配線が完了したら、さあ、電池をつないでテストしてみましょう。 006P 9V電池の在庫を切らしていたので、ニッカド電池8本で代用します。 わがラボではベランダに出ない限りどんなラジオを使っても室内での受信は不可能。 そこで、数日前から動作させっぱなし・音楽かけっぱなしにしているRamsey AM-1 AMトランスミッタの信号を受信しましょう。 アンテナ端子に長いビニール線をつなぎ、床に伸ばします。

    当時と同じく、一発では動作しませんでした。 せっかちな私はたいてい、1本やそこら配線し忘れるのです。 再チェックして、ああ、これを忘れてた。 で、まだ動作せず。 これも当時といっしょで、スプリングにビニール線を挟み込む時の接触不良が結構あるのです。 クロームめっきでもされていればいいのですが、スプリングは表面が酸化して接触不良に悩まされることになります。 このキットは30年前のものですが、スプリングは案外良好な状態を保っています。今後 しまうときは全体をビニール袋に入れ、シリカゲルでも放り込んでおきましょう。 あちこちつついて、やったあ、音が出てきました。

    2石といっても本機で作れるのはこのような簡便なもの。 同じ2石でもレフレックス構成にして倍電圧検波を使い、段間トランスを使えば感度が見違えるほど良くなる、 と当時本で読んで、 ホーマーのキット を買うためにお小遣いを貯め始め、町の電気屋さんで買った半田こてを使う練習に励みだしました。






ランプ点滅回路を作る

    せっかくいい音で鳴るようになったラジオをバラし、今度はランプ点滅回路を作りましょう。 これも当時のお気に入り。 いいオヤジになった今でもピカピカ光るランプは大好きです。

    回路はトランジスタ1石とリレーを使用。 抵抗を通じてコンデンサをチャージし、ある程度チャージが進むとトランジスタがONしてリレーが入ります。 リレーのNO接点がつながると、コンデンサの両端が抵抗でショートされ、 わずかな時間の後にトランジスタがOFFします。 これが繰り返されるというしくみ。 この動作原理の理解は、水飲み鳥の動作原理と同様、子供には難解なものでした。 トランジスタとリレーの駆動には9V電池を、 またリレーのNC接点には3V電池で点灯するランプを入れておきます。

    実際に作ってみるとデューティ比が今ひとつだったので、抵抗を適当に入れ替えて カラータイマーのようにうまく点滅 するようになりました。

    9V電池でリレーを駆動すると当然電池の消耗は激しく、 当時はその頃のお小遣いからすれば安くない電池を心配して長時間は眺められませんでした。 だからこの回路の次のチャレンジは、AC100VからDC9Vを作る電源装置でした。 電源トランスと整流ダイオードそれに平滑コンデンサが入っていそうなポンコツテレビやラジオがないかゴミ置き場をチェックし、 母親には夕月かまぼこが食べたいとお願いするわけです。





もう一回勉強しなおそう

    エレクトロニクスの魅力は、なんと言っても組み合わせの妙。 たかがトランジスタ2個と一握りの部品。 それらを組み合わせることによって、80ものさまざまな回路が作れるのです。 楽しみながらエレクトロニクスの基礎を学べるこのキットで、もう一度勉強しなおすことにします。 なにしろ当時はただ線をつないでいただけでしたから。

    でもこんな楽しいものを知らないなんて、今の子供はかわいそうだなあ!! で、この手のキットはもうどこにもないのかと思ったら、実は現在でも健在。 ちょっとさがしてみてください。あるところにはあるんですよ、 500回路もできるモデル が!! それも案外安いし。 日本語マニュアルつきもあります。 ああ、欲しくなってきたぞ。






祝 復刻!!!

    学研マイキットが復刻されました!! それも当時高くて買ってもらえなかったスーツケース型の、ICとメータがついたマイキット150です!!!!

    キットは発注後わずか2日で届きました。 部品点数もぐっと増え、いくつかのコンポーネントをモダナイズされたこのキットならさらに高度な実験ができるはず。 さあて、なにかマニュアルにないモノを作ってみたいなあ・・・ 60年代のレトロな雰囲気の残るマニュアルを眺めていて、 私にとって最も重要な装置が掲載されていないことに気がつきました。

短波ラジオがない!!

    同調コイルは手作りする必要がありそうですが、 再生検波+ICアンプの構成をとれば、そこそこの選択度をもち、 スピーカで海外放送を聞けるだけのゲインは稼げそうです。 配線が長くなりがちなマイキットではストレー容量の問題から安定な短波ラジオを作るのは結構チャレンジかもしれません。 でも一番の問題は、ラボの主任研究員に邪魔されずに開発できる時間が取れるかどうか。 さあ、これは夏休みの宿題だな。

    実際の夏休み2日目はあまりの暑さに外に出る元気もなく、 エアコンの効いたばあちゃんの家でポゴがお昼寝しているわずかなスキに、マイキット150で勉強。 富岡のラボと異なり木造の家なので、送信所からは100km離れていますが、 鴨居に這わせたワイヤーアンテナだけでダイオードラジオが動作しました。 ついでトランジスタ検波、ダイオード検波+低周波1石、1石レフレックス+倍電圧検波、 ダイオード検波+低周波2石と、感度や選択度の違いを楽しみました。 しかしマイキット80の当時と同様、NHK東京第1東京第2以外は聞こえません。 短波ラジオを目指す前にまず、TBSラジオを受信することを目標にすべきです。

    マイキット150はマイキット80に比べても筐体が大きく、 また部品のレイアウトが必ずしもラジオ回路に最適になっていないので、 配線長がどうしても長くなってしまいます。 自己流で配線したダイオード検波+低周波2石では、 低周波アンプのモーターポーティングが止まりませんでした。 マニュアルの結線順序に従って最初から配線しなおすと、安定して動作します。 これはトランジスタのエミッタからコモングラウンドに戻る配線の取り回しが特にキモでした。 全体の配線長は長くなってしまうものの、バッテリー近くに一点アースすると安定します。 中波ラジオでもこの調子ですから、短波ラジオはさらに難しそう・・・。






オーディオ レベルメータ

    マイキット80ではほぼ実用性がなかったのが、オーディオ レベルメータ。 マイキット80のガルバノメータは方位磁針の周りにコイルを配置したもので、 メータのゼロ点あわせはつまりマイキット本体を南北に向けること。 この面倒を甘んじたとして、メータの感度は悪く、応答速度は遅く、 なにしろダンピングがほとんど効いていないので動きのある電圧を測定するのはほぼ不可能でした。 マイキット150にはメータがなんと2つもあるので、これを使ってオーディオ レベルメータを作ってみます。

    オーディオ レベルメータが出てくるのは、

  • No.070 IC式高感度音量計
  • No.092 VUメーターつきアンプ

  • の2つ。 いずれも入力信号をICオーディオアンプ モジュールで増幅し、 その出力をダイオードで半波整流してメータを振らせます。

        これらを参考にして作ってみたのが右の回路。 ライン レベルの入力に対してだいたいフルスケールが得られます。

        オリジナルのNo.070回路では、 パワーアンプ出力電圧がシリコンダイオードの電位障壁0.6〜0.7Vを超えないと応答しはじめません。 このため、小さい音量のときはメータはあまり振れず、ある程度の音になると急に振れ出す感じになり、実用性はいまひとつ。 これを解消するために、電位障壁の低いショットキー・ダイオードを使いました。 もしシリコンダイオードしかないなら、 ダイオードのアノード側を15kΩ〜20kΩ程度で吊って0.4V程度のバイアスをかけても概ね同じ動きになります。 メーターに並列に入っている470Ωは信号がなくなったときの戻りをすばやくするつもりでしたが、 マイキットのメータであればこの470Ωがなくてもさほど違いはありません。







    (ここで23年間のブランク)


    小学生の夢を追う

        その後結局電子工学を系統だててきちんと学べる学校には進めなかったし、 職業も電子通信関係には進みませんでした。 でも何だかんだ言ってマイキット80で学んだエレクトロニクスの基礎知識と経験を生かして今の職業につくことができ、 メシを食い家族を養い家を建てて定年までやってこれたわけですから、 マイキット80はコドモのオモチャなどではなく、間違いなく私の恩師でした。

        で、そうだった、マイキット80の説明書には書かれていない何かを作ってみたい、が当時の夢だったんだよなあ。 その20年後にシリコンバレーに渡り、 まだ世の中の人が見たことのない、人々の暮らしを変える製品を創る仕事に携われたわけですが、 そういえば「マイキット80で」説明書に書かれていないものを作るというのはまだ達成できていないなあ。

        なので今回、 マイキット80で短波ラジオを作る! を目標にして小学生の夢の続きにトライしてみます。 より具体的なサクセスクライテリアとして

    マイキット80でラジオタイランドを聞く

    をゴールとします。 短波用のコイルは自作して追加、 またいくつかの部品は追加することになるでしょうけれどね。

        最後にこのキットをいじったのは2001年10月。 まずは23年前の記憶を呼び起こすためのリハビリとして、 1石トランジスタアンプをつくり、 つぎに定番の2石トランジスタラジオを配線します。 富岡はAMラジオの微弱電界地域ですが、 9mロングワイヤーアンテナとMFJ-16010ランダムワイヤアンテナチューナをつなぐと、 音は小さ目ながら2石トランジスタラジオは鳴りだしました。

    2024-07-05 2石トランジスタラジオ



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    50年後に気づいたトラップ

        今回2024年、マイキット80を使い始めて、やはり当初なかなかうまく動作しませんでした。 たかだか1石A級オーディオアンプなのに。
        あちこちいじる中気がついたのが、本体前面操作パネル左右にあるターミナル。 よくよく見ると、本体のスプリングとシャシー裏で電気的につながっているターミナルのナットは沈み込んでいて、 筐体プラスチックに埋もれてしまっています。 赤いターミナルキャップ側はプラスチックのみで、 金属雌ネジも座金もありません。

        そう・・・スピーカワイヤなどをこのターミナルにつなぐとき、 しっかりネジ部に巻き付けないと、 ワイヤーを挟んで赤いキャップ部を締め付けて固定しただけでは電気的に接続されないのです。

        当時いろいろやってうまくいかないことが多かったのはこれが原因だったというのもあっただろうなあ。 マイキット80いじり始めたころはそれ以外の何もなく、 系統だったトラブルシューティングの道具も、そして当然知識も技術もありませんでしたからね。






    初の海外受信

        マイキット80には3uFと100uFの2個の電解キャパシタが使われていますが、 これを新品交換しました。 すると2石ラジオは大きく感度アップ。 ボリュームを20%程度の位置にしただけで静かに部屋で聞くのに十分な音量でスピーカが鳴りますし、 さらには北京放送も聞こえてきました。 当時はNHK第1・第2以外は聞けた記憶はないなあ。 私にとって初の、マイキット80での海外局受信です。

    2024-07-06 電解キャパシタ新品交換



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    短波が聞こえる! いっぱい聞こえる!

        マイキット80のバーアンテナコイルの代わりに、2バンド真空管ラジオ用のコイルを使ってみました。 すると、おお! 短波が聞こえます。 いろいろ、いっぱい聞こえます。 気象ファクシミリも聞こえます。 全部一緒に聞こえます!

        まあそれはそうですね。 ゲルマラジオと変わらない単同調では、 短波に必要な選択度は得られません。 アンテナはアンテナチューナを介して同調コイルに直接接続しているので、 アンテナチューナも同調回路の一部となってしまい、 アンテナチューナの操作で受信周波数が大きく変わります。

        これは、 台湾製の低価格短波ラジオキット CIC 21-020 と全く同じで、 「短波を聞く」ことはできたわけですが、 短波ラジオとして機能しているとはとてもいえません。 短波ラジオとして必要な選択度を得るには、 やはり再生回路はどうしても必要でしょう。

    2024-07-06 短波が聞こえた



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    2石トランジスタラジオを仕上げる

        マイキット80の2石ストレートラジオ、音質がとてもいいです。 ヘテロダインノイズも当然なく、選択度が甘くて復調音の高域が自然に伸びているからなのですが、 ラジオ深夜便がFMかと思うほどいい音で聞けます。 なので、再生式に作り替える前に、 コイルをマイキット80のバーアンテナコイルに戻して、 2石ラジオをもう少し楽しみます。

        マイキット80のバリコンとバーアンテナコイルでは、 同調周波数が高くなりません。 高くてせいぜい900kHzといったところ。 TBSラジオが聞こえないのはこの辺りが原因ですね。 周波数を上げる接続方法を試しましたが、 感度が出なかったり、分離が大幅に低下してしまうなどします。 1000kHz以上を聞くためにはコイルまたはバリコンの改造あるいは工夫が必要に思います。

        2SB56シングルのA級パワーアンプは矩形波信号で歪が大幅に増えてしまいますが、 出力トランス1次側に0.1uFを入れることによりかなり改善できました。 高域の伸びは落ちちゃいますけれど。

        初段2SA52のコレクタ抵抗を10k->5kに変更してゲインアップ、 さらに電力増幅2SB56のベース抵抗を50k->100kに変更。 これにより、9mロングワイヤでNHK東京ラジオ第一がボリューム位置10%で無歪最大出力が出るようになりました!

        マイキット80のマニュアルの回路では、 ダイオード検波の直後に入っているボリュームがダイオード負荷になっています。 このボリュームは50kΩ品で、ダイオードのAC負荷としては重すぎるように思われたので、 高い負荷抵抗を試してみました。 けれど復調音質はむしろ悪くなります。 マイキット80にある部品を使う限り、 マニュアル掲載のオリジナルの回路がいちばん音質が良いです。

        マイキット80 2石トランジスタラジオはこれで完成にしましょう。 右の動画では、693kHz JOAB / 594kHz JOAK / 500kHz SGテスト信号 を聞いています。 マイキット80のアンプで小型ブックシェルフスピーカを直接駆動。 2石ストレートとしては音量はたっぷりで、音質は良好、 またきれいに分離できています。

        シグナルジェネレータによる500kHz AMのテスト音源はDDBY @d_bizen さんのアルバム "バーテンダーレイム4" からトラック2 「Time Left」(アレンジ: Fさん) (原曲:「Highly Responsive to Prayers」)。

    2024-07-10 2石トランジスタラジオ最終バージョン



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    再生回路にトライ

        2石トランジスタラジオ回路をバラしてまっさらにし、 再生回路を組み込み始めます。

        参考文献から都合の良さそうな回路を探し、 PNPトランジスタ用に回路を変更します。 初段トランジスタ2SA52にはセンタータップ式フィードバックコイルでポジティブフィードバック増幅させ、 AM検波はゲルマニウムダイオードを使用、 2SB56で低周波増幅することにします。 低周波1段増幅ではスピーカを駆動するパワーはありませんので、 オーディオ出力はTAPCO MIX60ミキサのマイクロホン入力に入れて増幅した後に 6CL6シングルステレオアンプでブックシェルフスピーカを駆動します。

        フィードバック量調整は2SA52のエミッタに入れたポテンショメータで。 文献の回路例では100kΩVRを使っているのですが、 マイキットの50kΩVRで行きます。 ポテンショメータを0Ωにするとトランジスタのエミッタが回路GNDに落ちてフルゲインで動作、 抵抗値を高めるとトランジスタの効きが落ちていく仕組みです。

        再生増幅段を安定に動作させるためにはかっちり安定した電源電圧が欲しいところですが、 が、マイキット80には定電圧を作るためのシリコンダイオードもツェナーダイオードもありません。 そこで緑色LEDをひとつ追加して、LEDの順方向電圧をつかって1.9Vを得ました。 マイキット80の時代はLEDが市場に出回る前なのでちょっとチートではありますが、 まあご勘弁。

        こんなの簡単だよ・・・といいたいところですが、 なかなかうまく動作せずに試行錯誤。 マイキット80のバーアンテナコイルを使って中波帯で自励発振するところまでは確認できるのですが、 再生回路は期待されるほどのゲインは稼げていない様子。

    2024-07-12 再生増幅回路方式 トライ開始






    それではまず最初のニュースでぇす!

        真空管2バンドスーパー用のコイルそのままではうまく再生動作させるのは無理があるようです。 まあそうだよね。コイルを巻きましょう。

        家の中を見回して、これがいいや。 乾いて使えなくなったスティックのりのプラ筒。 バラして中身を取り出して清掃し、穴をあけて空芯ボビンにします。 Φ1mmほどのエナメル被覆導線を巻いて、10ターン-タップ-5ターン。

        このお手軽小学生工作コイルとマイキット80のバリコンで、 6〜12MHzあたりに同調できるようになりました。 しかし期待する再生動作をしてくれません。 多少のフィードバックはしてくれているようですが、 自己発振にまでは至らず。 短波帯に必要に選択度が得られません。 右の動画でマイキット80のポテンショメータは反時計いっぱいになっていますが、 これが初段トランジスタフルゲインの設定。

        それでも夜になったら短波がいろいろいっしょくたに聞こえます。 そしてこれは・・・

    それではまず最初のニュースでぇす! ラジオタイランドが聞こえました!



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    2SA52では無理みたい

        「ラジオタイランドが聞こえた」ものの、 あの混信ではとても放送を楽しむことはできませんね。 「ラジオタイランドが聞こえる」というのと「ラジオタイランドを聞ける」というのは違いますよね。 現状の選択度は単同調のゲルマラジオ並みでしかありません。 やはり何としても再生回路を動作させなくては。 いろいろといじってみましたが、しかし、いっこうに再生回路は自己発振に至りません。

        マイキット80に使われている高周波用トランジスタ 2SA52が壊れかかっているのかなあ。 ユーザがどんな配線でできてしまうマイキットでは、 理屈を分かっていない子供 ― 当時の自分自身を含む ― がいろいろヘンテコなことをしてしまうものですし。 でも2石トランジスタラジオでの初段低周波増幅器としてはこのトランジスタはうまく動いていましたから、 壊れていることはないでしょう。 ひょっとしたら、2SA52では短波帯動作は無理なのかなあ。





        東芝2SA52はもともと中波AMポケットラジオの周波数変換用トランジスタとして推奨されていました。 遮断周波数fabはわずか7MHz・・・ だから2MHzあたりまでの動作はできるとしても、 短波帯では性能は大きく落ちるのかもしれません。 同時代の東芝トランジスタでも、2SA51は高周波増幅用とされ、遮断周波数が倍になっています。 2SA51だったならうまくいくのかな?

        マイキット80の時代、2SA52はすでに登場後10年以上が経過していたわけです。 このトランジスタがマイキット80に使われたのは、 当時2SA52はすでにフェードアウト期にあって価格も十分下がっていたから、 という理由なのでしょうね。 どのみちAMワイヤレスマイク以上の周波数を取り扱う気もなかったわけですから、 それで良かったのでしょう。 それとも2SA52の性能が良くなかったから短波ラジオはマイキット80のマニュアルには取り上げられなかった、とか?




        まあ物は試し、在庫部品の中から2SA953 PNP型シリコントランジスタをひとつ取り出し、 2SA52の代わりに使ってみます。 2SA953はデータシートによるとオーディオアンプのドライバ用を意図したもの。 オーディオ用といいながらもユニティゲイン周波数は100MHzもありますから、 高周波特性は2SA52とは雲泥の差。 小さいながらVCEOが-60Vあり、車載コントロールユニットの外部インターフェイス回路などにも使いやすい汎用トランジスタ、 というところでしょう。

        マイキット80のオリジナルは2SA52のままにしたかったので、交換するのではなく、 ペットボトルのキャップとみのむしクリップリードを使って、ガルバノメータの上にマスキングテープで取り付け。 スティックのりコイルとあわせて、いかにも小学生の工作で、いい感じでしょ?

        そして、どうやっても自己発振にまで至らなかった再生増幅回路は、 2SA953を使ったら一発できれいに発振しはじめました!




        スティックのりコイルにアンテナコイルを追加して巻きました。 アンテナ負荷が同調周波数に影響を与えてしまう程度が減って、動作が安定しました。

        アンテナコイルにシグナルジェネレータでつくった信号を入れ、 再生増幅回路の選択度をテストしてみます。 いまマイキット80の同調周波数は9.400MHzになっています。 シグナルジェネレータの出は数を変化させると、 15kHz離調でかなり減衰しています。 これなら賑やかな夜の41メーターバンドもイケそうです。

        テスト音源は 東京アクティブNEETsさんのアルバム"東方爆音ジャズ7 花"から 「肆【フラワリングナイト 〜紅霧夜華2014」(原曲:「フラワリングナイト」)。 すっげえかっここいい!! 超絶ピアノが凄い!!



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        ポテンショメータの接続は反時計いっぱいで再生トランジスタはほとんど動作せず、 時計回りに回していくと再生動作が強まる配線に変更しました。 また同調操作をしやすくするために、 大型のフランジ付きつまみをマイキット80のチューニングダイヤルつまみに両面テープで取り付けました。

        夜19時30分、9.965MHzで聞こえているHope Radio Angel 5 - パラオからの福音放送に合わせてみました。

        どうやら現状で、初段再生増幅回路は正帰還量をふやしていくと増幅度が増すというよりも、 選択度がシャープになっていくという感じで動作しています。 右の動画の通り、再生なしでは近接周波数の混信が明確で、 肝心の目標局は全く聞こえません。 が、ポテンショメータを回して強めていくと、 同調回路のQが高まっていき、 混信が減って目的周波数が浮かび上がってきます。

        さらに正帰還量を増していくと自己発振状態になって、 音質が悪化し、 やがては聞こえなくなってしまいます。

        再生式受信機で短波放送を聞くためには、この再生量の調整 ― 自己発振直前のポイントを探して合わせる ― が大切です。



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    ラジオタイランドが聞ける! きれいに聞ける!

        再生増幅回路が動作し、短波放送を聞くために求められる選択度が得られるようになったので・・・ ラジオタイランドがきれいに聞こえます! 目標達成!!



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    ダイヤル合わせは職人芸

        とまあ、今回の目標は達成できたわけですけれど、 希望の放送局にダイヤルを合わせるのは至難の業。 シグナルジェネレータの助けなしに行うのはそれはもう大変でしょう。

        右の動画では、シグナルジェネレータで9.385MHzをつくり、 受信用9mロングワイヤーアンテナにリード線を巻き付けてルースカップルで注入しています。 見つけやすいように、プーップーッという信号音でAM変調を掛けてあります。

        再生を弱くして選択度を広くしておき、 シグナルジェネレータのパイロット信号が見つかったら再生をひとまわり強くしてさらに精密にダイヤルを合わせ・・・ を何べんか繰り返します。 最後はほんとうに微妙な調整。 減速機構なしのダイヤルでは、息を止めての作業です。 気合を入れすぎると酸欠で失神するかも。

        目標信号が強力ならばよいのですが、 さほどには強くない場合は、 近接局の周波数に引っ張られて同調周波数がズレてしまいます。 混信を減らすには再生量をもっと増やす必要がある、 でも再生量を増やすと近接信号に持っていかれる (プルインする) ときの変化も大きく。

        再生式はオペレータのワザと忍耐を要求する回路ですね。


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    世界中が聞こえる

        いちおう完成の目を見たので、本機マイキット80 2石再生式短波受信機の回路図を描いてみました。 いやーほんとに簡単な回路だわ。

        回路は講談社ブルーバックス 手作りラジオ工作入門 西田和明 著 2007年 ISBN978-4-06-257573-7 を参考にしました。

        この受信機は再生式ですから、 正帰還量を増して自己発振領域にわずかに入ったポイントに調整すれば、 CWやSSBの復調も可能です。 実際、本機で7MHzのFT8のデコードもできました。 ただし復調音質は悪く、 トーンの周波数は信号強度の影響を受けて変化してしまいますし、 微弱な信号でも自己発振するほどに正帰還量を増やしておくと強い信号が入ってきたときに発振しすぎてしまうし、 そうならないように帰還量を減らすと弱い信号が復調できません。 「CWやSSBも聞ける」のは「使い物になる」のとは違いますね。

        外部機器の助けを借りることにはなりますが、 CCW/SSBあるいはFT8の復調時には外部発振器でキャリア周波数を生成し、 アンテナに注入してやればきれいに安定して受信することができます。 本機マイキット80再生式短波ラジオでも、 シグナルジェネレータを併用すればFT8がきれいにデコードできます。 それも、たかだかこんな簡単な回路で、とは信じがたいくらいに、 マイキットが反応しています。





        なので、マイキット80 FT8マラソンを始めました。 5日間 7.074MHz FT8を聞き続けた結果、 アジア、オセアニア全域、中東イスラエル、ヨーロッパはドイツ、 北米西海岸、中米メキシコ、南米ブラジル・アルゼンチン が聞こえていました!

        南極大陸は・・・こりゃFalse Decodeでしょうね。 ほかにもいくつか、データ処理上のミスが含まれたりしますが、 それでもよく聞こえているもんだなあ。 廃物利用のスティックのり手巻きコイルと50年前の子供向け教材キットが、 地球の裏側からの電波に反応しているというのはほんと感慨深いです。

    2024-07-19 FT8マラソン継続中






    つづく・・・

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    2006-04-01 Added audio level meter by MyKit 150.
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