Go to NoobowSystems Lab. Home

Go to Back To Life Again

Collins 75S-1

Amateur Band Shortwave Communications Receiver
(1958)




Collins 75S-1



コリンズ!

    技術的にはいまだにラジオ小僧の私がコリンズについてあれこれ書くのは、おそらくバチ当たりですし、失礼だと思われます。 が、受信機の技術史で避けては通れない、名声をはせたコリンズの受信機にどうしても触れてみたくなってしまいました。 真空管時代の受信機の最高峰はR-390/R-390Aということになるのでしょうが、 ラジオというより精密機械に近いR-390Aはその重量をさておいても私には手が出せそうにありません。

    で、手に入れたのが75S-1。 あまりにも有名な、コリンズSライン! このすばらしいデザインの受信機が自分のラボにあるのは、全く夢のようです。






受信機の概要

    コリンズ75S-1は10本の真空管と4本の半導体ダイオードを使用したアマチュアバンド用の受信機であり、 基本的にコリンズ32S-1送信機とペアにしてトランシーブ構成にして使用します。 水晶発振による第1局発、PTOによる第2局発で構成されたいわゆるコリンズ・タイプのダブルスーパーヘテロダイン構成であり、 水晶発振BFOとあいまってウォームアップ後のドリフトは100Hz以内という高い安定度を得ています。

    第1中間周波数は3.055MHzを中心にした±100kHzのパスバンド。 第2中間周波数は455kHzで、SSB受信時にはコリンズ メカニカル フィルタが挿入されます。 独立したAGC検波、SSB/CW用プロダクト検波回路、S/N比の良い3極管による初段周波数変換など、まさにリファレンス機とよべる構成です。 操作はきわめてシンプルで、やたらとつまみの並ぶ同時期の ハマーランドHQ-170 と好対照です。

    いっぽう増幅段の数だけ単純にみれば高周波1段・中間周波2段であり、特に強烈な印象を与えるものではありません。






動作チェック

    完動品、とのことで買ったこの75S-1、軽い汚れと目立たない傷程度で、 パーフェクトではないにせよ外観にはほぼ問題ありません。 電源ケーブルも付属しており、受信機はすぐに動作し始めました。 が、問題点もまたすぐに見つかりました。 SSBの受信があまりうまく行かないのです。

    75S-1は、AM/LSB/USB/CWの受信モードスイッチ(EMISSIONスイッチ)を持ちます。 入手したこの受信機にはオプションのCW用メカニカル フィルタは組み込まれていないので、CWポジションでは動作しません。

    AM受信は、おそらく正常だろうと思われる性能。 しかしLSBモードあるいはUSBモードにすると、受信音量がかなり小さいのがまず気になります。 AMモードではAFゲイン20%程度で十分な音量なのに、SSBでは70%以上に上げなくてはなりません。

    これが仮に正常であったとしても、SSBの音質が相当悪いことも明らかです。 信号が強い場合、たとえばS9程度振れている局の場合、まるでBFOが効いていないかのようにモゴモゴ言ってしまいます。 このときRFゲインを絞ると、かなりはっきり聞き取れるようになります。 また、この不具合の程度はAFゲインの位置によっても変化します。

    アマチュアバンド専用機なのにSSBが満足に聴けないとあっては、ほぼ使い物になりません。 仕方がないので、しばらく7MHz帯のラジオ韓国の日本語放送と、3.8MHz帯のアマチュア局のAMのQSOを楽しむことにします。 (アメリカではHF帯のAM局がそれなりの数運用しており、皆自慢のマイクと無線機でAM運用を楽しんでいます。 その音はどの局も実に美しく、あらためてAMの魅力を実感させられます。)





内部を観察

    キャビネット上部のボンネットを開けてみると、少し埃がたまっているものの、状態は良好。 使用されている真空管のブランドはまちまちで、いくつか交換されているようです。 中央にオプション取り付け用のスペースが確保されているため、内部は案外さみしく見えます。 ネームプレートのシリアルナンバーは120。 かなりの初期型といえるでしょう。

    シャーシ底面 の程度も良好。 一見するにユーザの改造は見当たらず、全てのキャパシタはおそらくノーマル品です。 配線はすっきりと美しい仕上げで、製造品質の高さがうかがえます。






プロジェクト・リストに追加

    と、ここまで調べて、日本帰国のために75S-1は再びパッキングされました。 症状から見て、問題はプロダクト・ディテクタとBFO周辺にあると思われます。 BFO用のクリスタルを除けば特殊な部品はなさそうで、 さらに不具合はLSBでもUSBでも発生していたことからクリスタルはOKでしょう(あるいは2つのクリスタルが両方ともダメ?)。 したがってまず疑われるのはプロダクト・ディテクタ管のカップリング・キャパシタのリーク。

    うまくすれば、ジャンク箱の中の部品だけで何とかなるでしょう。 仕掛かりプロジェクトのリストに、75S-1を追加です。






なんでこんなことが

    日本に帰国してはや1年。 狭いラボのワークベンチに75S-1を乗せ、電源を入れると・・・ あれぇ、全く受信できません。 太平洋横断の船旅の途中で壊れちゃったかなあ。

    ボンネットを開けて中を見てみると、第2中間周波増幅管 6BA6(V5) の頭部にぽっかりと穴があいています。 どうやら輸送時に中に同梱しておいた電源ケーブルのコネクタがぶつかるか何かでクラックが入ってしまったのでしょう。 クッション材も入れておいたのになあ。

    まったく不思議なのが、割れて空いてしまった穴のガラスの破断面の一部が、 いちど融けたかのように角が取れて滑らかなのです。 どうしてこんなことが起こるんだろう。

    とにかく6BA6の中古球に入れ替えると、75S-1は動作し始めました。 Sメータのゼロ点が狂ってしまったので簡単に再調整しました。

    感度は実に良好で、目黒MSG-2161シグナル・ジェネレータの出力を最低の-9dBμに絞っても信号が確認できます。 このため逆に、アパートのベランダビニール線アンテナでは一面ノイズの海。 SSB/CW受信の安定度は文句なしですが、入手直後に観察された不具合もそのまま。

2000-04-29 1年ぶりに通電 6BA6破損交換 Sメータ調整 SSB受信音量過小問題発生確認






原因を推定する

    さあどこから調べようかな、としばらく動作させていたら、いつのまにか調子が良くなってしまいました。 AMでもLSBでも音量はほぼ変わらず、AF GAINコントロール位置約10%程度で部屋で聞くのに十分な音量です。

    一度正常になるとその後しばらく安定してはいますが、翌朝はしばらくの間再発したので、不具合は確かに存在しています。 EMISSIONスイッチを切り替えたとたんに直ったり再発したりすることがあるので、 ロータリー・スイッチの接触不良というのは非常にありえそうです。 EMISSIONロータリー・スイッチの機能を調べてみましょう。

EMISSIONスイッチのセクション スイッチの機能
S6/S7 受信モードによって、455kHzのフィルタを切り替えます。 第二周波数変換管の出力が、AMでは中間周波トランス、LSB/USBではメカニカル・フィルタ、 CWではオプションのメカニカル・フィルタを通過するように切り替えています。
このセクションの接触不良であれば、LSB/USBで感度が悪いということは起きるでしょうが、 AF GAINコントロールの位置によって復調音が変わってくるというようなことはないはずです。
S8A AMモードの時はダイオード検波管の出力を、それ以外ではプロダクト検波管の出力を初段低周波増幅管に接続します。
LSB/USBの音が小さい原因として十分にありえます。 しかし、RF GAINコントロールの位置によって症状が変わるということを説明できないような気がします。
S8B LSBモードの時にはVFOユニットに周波数シフト電圧として-30Vを、それ以外では+130Vを印加します。
故障すれば受信周波数が変動したりホップしたりするでしょうが、復調音質には関係ないはずです。
S9 BFO回路に使用する456.350と453.650kHzの水晶発振子を切り替えます。 AMモードのときはBFO管のグリッド-65Vまで落としてカットオフさせます。
BFO出力低下によるSSB復調不良は可能性大ですが、 AF GAINコントロールの位置で症状が変わることを説明できないと思います。
S11 モードを切り替える瞬間にスピーカからポップノイズが出ないよう、 各モード位置の中間で一瞬スピーカ出力端子をグラウンドに落とします。
これはあきらかに今回のトラブルには無関係です。

    こう見ると単純なスイッチの接触不良よりもむしろ、 スイッチ切り替えがきっかけとなって別の不安定なトラブルが出たり消えたりするのだ、と考えられます。

    障害箇所の切り分けを行うため、正常時と故障時とでBFOの出力に違いがあるかどうか見ることにします。 75S-1のシャーシ上には、BFO TESTと表示されたRCAジャック(J3)が用意されています。 ここにはBFO管のプレートから0.01μFを介してBFO出力信号が出ていて、 ここからさらに別の0.01μFを通じてプロダクトディテクタ管6U8A三極管部のカソードにつながります。 ここの信号をオシロスコープで見ながら、故障が再発するのを待ちます。 トラブル中もBFOの動作は安定しているだろう、と現時点では予想しています。 つまり、BFOは安定動作していて、 プロダクトディテクタのプレート回路に入っているキャパシタがリークしているのではないかと推定します。






修理不要?

    ところが・・・不具合はすっかり消えてしまいました。 BFOの出力は絶えず安定していて、すべての動作は正常です。 3日間電源を入れずにおいた後も不具合は再現しません。 おそらく電源を入れて使用しているうちにキャパシタが復活してしまったのでしょう。

    見事に動作し、使用に支障をきたすようなトラブルもなく、清掃したくなるような汚れもない、 とあっては Restoration Project になりません。 「あ~あ、コリンズ直っちゃったよ」とヨメにいうと、 「それなら困った顔しないわよ、フツーの人なら」。 そりゃそうだよなあ。 トラブルすら自己修復する、これがコリンズの凄さなんでしょうか?

2000-05-05 SSB受信音量小さい問題 自然治癒



> 次の作業・・・ ハマーランドHQ-170


(ここで21年間のブランク)


はやくも21年経過

    2021年10月、 八重洲FRG-7 の修理が一段落。 調子よくFT8を受信しているFRG-7を見て、 高一中二みたいな太古の真空管式受信機ではFT8のような新時代の短波帯デジタル通信受信は無理だよなあ、 と思いました。 受信周波数が時間とともにどんどんずれて、 しょっちゅうダイヤルを調整しなおさなければならないような安定性では安定したデジタル受信ができるはずがありません。

    あ、でもまてよ、真空管式受信機とひとくくりにしてはいけない。 コリンズ、あいつらは別物だから。

    ということで、75S-1をラックから降ろし、電源を入れます。 でも、前回電源を入れてからすでに21年経っただなんて本当? だれか嘘だと言って・・・。 キッチンのすぐそばに位置する中央研究所のメインワークベンチのラックに鎮座していた75S-1は、 実際フロントパネルのコントロール類が油埃汚れでべとついていました。 それに・・・ 全く何も聞こえません。

2021-10-19 21年ぶりに通電 何も聞こえず






オーディオ段は正常

    ボンネットの中を見ると、うーん、入手時はもっときれいだったはずだけどなあ。 さすがに2年間カバーもかけずにラックに置いておいただけでは、 これだけのホコリとキッチンのオイルミスト汚れを受けてしまうのですね。 うん? ひとつだけ管頂部のゲッターが薄い真空管があるぞ。 以前の6BA6の時みたいにどういうわけかガスが抜けてしまったのかなあ?

    これはV7 6AT6です。 双2極・高μ3極複合管で、AM検波・AGC検波ならびに初段低周波増幅を行います。 基本的には家庭用5球スーパー受信機で定番の12AT6と同じ回路構成ですね。

    ゲッターが薄くなるほどにガスが入ったのならヒータは焼き切れてしまうはずですが、 内部のヒータはあたたかくほのかな光を放っています。 少なくともヒータは断線していません。

    まずはオーディオ段から。 AF GAINポテンショメータのホット側にオーディオラインレベルの信号を入れると、 75S-1は鳴り出しました。 オーディオ段は正常な様子です。 AF GAINポテンショに接点復活剤を噴射してくるくる回し、 ガリも解消。





受信動作開始 SSB受信不良修理

    全く何も受信できないのはEMISSIONスイッチとBANDスイッチの接触不良でした。 接点復活剤を使ってスイッチをカチカチ回すにつれ、 コリンズは次第に調子を取り戻し、受信動作し始めました。

2021-10-20 EMISSION / BANDスイッチ接点洗浄 受信動作開始


    21年前に確認できていた故障 - SSBでの復調レベル低い - がひきつづき発生していることもわかりました。 プロダクト検波管のカソード電圧を測定するために オシロスコープ とデジボルをつないでいろいろ調べていると、 つないだプローブを軽く引っ張ると カソードに重畳しているBFO信号振幅が突然高まり、 同時に受信音量が大きくなることがわかりました。 お、これは真空管ソケットの接触不良だったか?

    真空管を抜いてみるとピンには顕著な汚れやサビはなく、 また真空管ソケットに接点復活剤をかけても状況は変わらず。 さらによく見てみると、これだあ! プロダクト検波管のBFO信号入力用セラミックキャパシタのリードワイヤが、 真空管ソケットのセンターピンに接触していました。

    セラミックキャパシタの足を曲げて接触を回避すると、 プロダクトディテクタは安定してSSBを受信し始めました。 工具さえ不要な修理! しかしまあ、この故障は1999年3月に気がついて以来、 修理に22年を要したことになります。 なんとも。

2021-10-20 SSB受信不調 修理完了






6AT6は正常

    ゲッターが消えてしまっている6AT6は無条件で交換してしまおうと思ったのですが、 真空管の在庫を入れた段ボール箱はずいぶん奥まったところに入っていて、 引っ張り出すのはかなり億劫。

    6AT6を引き抜いて布で汚れを落として見てみると、 なあんだ、ゲッターは管頂ではなくて管側面に施されているんですねこの管は。 実機の動作はAM検波もAGC動作もオーディオ段も正常と思われるので、 この6AT6も正常でしょう。 交換はせずに続投。

2021-10-25 6AT6点検






Sメータ調整

    電源投入時、真空管が温まるまでの間Sメータは振り切れます。 これは正常な挙動。 しかし真空管が温まると、メータはマイナス方向に大きく逆振れしています。 信号はそれなりの感度で受信できているのですが、メータはマイナスから動こうとはしません。

    調べてみると、Sメータゼロ点調整ポテンショメータの接触不良でした。 接点復活剤を使ってくるくる何回も回して、復活。

    Sメータのゼロ点を調整しました。 シグナルジェネレータ40dBuでS=9を示すように合わせます。 ジェネレータ出力を60dBuに上げると、メータは60dBを示します。 おお、さすがだ。

2021-10-25 Sメータ指示不良修理 ゼロ点調整






メインダイヤルの周波数ズレ

    次第に調子を取り戻してきた75S-1、 でもどうやらメインダイヤルの目盛りがずれているみたいです。 シグナルジェネレータを使って調べてみると、 0~200kHzのメインダイヤル位置によらずおおむね7~8kHzほどずれています。 8kHzのズレはFRG-7ならダイヤルのひと目盛り以下でしかありませんが、 75S-1のメインダイヤル1目盛りは1kHzです。 8kHzのズレというのは右の写真でわかるようにとても許容できないズレです (写真では7.000MHzを受信中。ダイヤルは0に合うべきですが8になってしまっています)。

    この傾向はどのバンドでも同じなので、 VFOの発振周波数がずれてしまったのでしょうね。 ダイヤル位置によらずおおむね一定のズレということは、 VFOの直線性には問題がありません。 マニュアルにあるとおり、ダイヤルとVFOシャフトを固定しているいもネジを緩め、 ダイヤル位置をずらせばOKです。

2021-10-25 KC DIAL目盛りズレを確認





    ところがこのいもネジを緩めるための適切な工具がありません。 精密ドライバでなんとかなるかなと思ったのですがうまくいかず。 無理に回してねじを痛めてしまうのは避けなくてはなりません。 コリンズのメインテナンスについて書かれた本を読むと、 「コリンズを整備するならブリストルレンチを揃えておけ、Weller Xcelite 99PS60Nが定番」 とあります。 買っておこうと思って調べたら、安心できるショップでは海外からの取り寄せで1万以上もします。 うーん、代替品で試してみようかなあ。

    発注した翌日に届いたビットツールを使って試してみると、 このネジは菊型ビットではないことがわかりました。 138ピース入りのツールのビットをいろいろ試したら、 2番の一文字ビットで回せることがわかりました。 締め付けはきつかったので、昨日精密ドライバで試したときは固くて緩められなかっただけだったみたいです。





    ねじを緩められれば作業は簡単。 ダイヤル中央の100kHz位置で目盛りを合わせました。 ダイヤル両端の0と200kHz位置では0.7kHz程度のズレが出てしまいますが、 十分に実用範囲内なので、VFOのリニアリティ調整は行わず、調整完了としました。

    可能な限りのリニアリティ調整をしたとしてもダイヤル全域でひと目盛り1kHzの半分の精度でぴったり合わせるというのはなかなか困難なこと。 75S-1のダイヤルにはヘアラインの位置を左右に調整できる小さなつまみがついています。 内蔵100kHzクリスタルキャリブレータをONにし、 メインダイヤルの0 / 100 / 200 位置のうち目標周波数に一番近い位置を選んでキャリブレータ信号にゼロビートを取り、 ヘアラインを合わせれば、 0.2kHz程度の精度で周波数を読むことができます。 すごいね。 右の写真は7.074MHz USBのFT8を受信しているところ。 目盛りがぴったり合って気持ちいい!

2021-10-26 ビットツール購入 KC DIAL目盛り合わせ






サイドバンドシフト量調整

    75S-1のVFOにはサイドバンド周波数シフト機能があり、 LSBのときとUSBのときとでVFO発振周波数をシフトさせます。 これは共振回路に入った小さなトリマキャパシタを、 電圧制御のスイッチングダイオードで有効にしたり無効にしたりすることによって行います。 調整がうまくいっていれば、LSBでゼロビートを取ったVFO位置で、USBでもゼロビートになります。

    試してみるとほんのちょっとゼロビート位置がLSBとUSBとでずれていましたので、 オペレーションマニュアルの手順にしたがって周波数シフト用トリマC308を調整しました。 結果、LSBとUSBでのゼロビートダイヤル位置がぴったり同じになりました。 いい感じ。

2021-10-26 VFOサイドバンド周波数シフト量調整






FT8で世界中を同時に受信する

    というわけで、生産から63年が経過した真空管式受信機は、 快調に最新のデジタル通信モードであるFT8を受信しています。 一度ダイヤルをセットしてしまえば、 コンピュータの画面に世界のあちこちからの信号が表示されます。 使っているのはたかが数メートルのビニール線アンテナだし環境ノイズもひどいからそんなに大したところは聞こえてこないけれど、 それでも東ヨーロッパからシベリアから中国大陸、東南アジア諸国、アラスカ・アメリカ西海岸・ロッキー山脈からの信号がつぎつぎに。 たった3kHzの帯域幅の中で短い送信タイムフレームに世界のあちこちからの信号が同時に入ってきて、 それらが一斉に表示されるというのはほんと面白いね。






1958年のテクノロジー

    3.620MHzでファクシミリ信号が強力に入感していたので、 ファクシミリデコーダをNoobow9100Fにインストールして受信してみました。

    Wikipediaを読んで今知ったのですが、 気象庁の遠洋船舶向け気象無線ファクシミリサービスが開始されたのは1958年、 この75S-1が発売されたのと同じ年だったのですね。 受信機も通信形式も1958年のテクノロジーは、 コンピュータの画面に小笠原に接近している台風の様子を描きだしました。

    モノクロのこんな低画質の画像を1枚伝送するのに20分近くかかります。 それでもテレビも見えずラジオも聞こえず短波だけが頼りの大洋の真っただ中、 この天気図が手に入るだけでどれだけ航海士の救いとなったことか。

    75S-1背面のCW SIDETONEジャックは、 送信機と並べてトランシーブ動作させる際にCWサイドトーン信号を入力して、 75S-1につないだスピーカから聞こえるようにするためのものです。 このジャックは実はAF GAINのポテンショメータのホット側にキャパシタを介してつながっているので、 75S-1の受信中はここにボリューム位置によらず一定音量の音声信号が出ています。 このジャックをPCのアナログオーディオライン信号入力に直接つなぐだけでFT8もFAXもでコードできて、 とても便利。

    その一方、ここから音声信号を取り出すと、75S-1スピーカからの音量はかなり小さくなります。 AM検波ダイオードからの音声出力ですから、ドライブ能力は十分とは言えませんね。






アンテナ端子

    75S-1のアンテナジャックにはRCAジャックが使われています。 受信機だし短波帯だしそれで充分はあるのですが、 ちょっと拍子抜けな気がしますね。

    問題は、複数あるRCAジャックのうちこのアンテナジャックだけがとても緩くて、 しょっちゅう接触不良を起こすのです。 センターピンの挟み込みが弱いばかりでなく、 グラウンド側の外周径もほかのジャックに対してわずかに細くなっている様子。 これ、なんでなんだろう。

    ジャックそのものを交換したいところですが、 ジャックはシャーシにリベット止めで取り付けられているので、 リベットをドリルで揉んで取り外す必要がありますし、 なにしろこのジャックのシャーシ内部側は配線が他の真空管受信機では考えられないほどに配線が密集しているのです。 とても気軽に交換できるものではありません。

    交換したくないのであればシャーシ内側でこのジャックのセンターピン受け金具を軽くラジオペンチで締めようと思ったのですが、 工具などとても届きません。 ので、電源コネクタを取り外して、できたスペースからラジオペンチを入れて作業しました。

    問題はこの電源コネクタを元に戻す作業で、 対角2箇所で止めているビスはシャーシ内側にナットをかけねばならず、 そのナットを取り付けようにも指先すら入らず。 1時間以上も悪戦苦闘して、最後は先が曲がったピンセットとビニールテープを組み合わせて、 ようやく組付け完了。 75S-1のこの付近のシャーシ内部の混雑具合と整備性の悪さには閉口しました。

2021-10-27 アンテナジャックピン受け部かしめ作業






フロントパネルクリーニング

    本機はフロントパネルもシャーシも、入手時はさほど汚れていないように思えたのですが、 じっくり見るとずいぶんとヤニで汚れています。 1960年代はみんなタバコ吸ってたからね。 不思議じゃありません。

    シャーシ上面は作業しながらちまちま清掃してきたのですが、 今夜はフロントパネルを清掃。 取り外してたっぷりのお湯とシンプルグリーンと行きたいのですが、 パネルを知り外すのはかなり面倒そうだったので、 ノブだけ外してシンプルグリーンフォームで拭き掃除。

    写真は右半分だけ作業したところ。 写真でもはっきり違いが判りますね。 シンプルグリーンをかけるとノブからも黄色く汚れた洗剤がポタポタと。 組みあがった75S-1はシャキッとしました。 気持ちいいね。






さすがの安定度

    1958年、同時期の他社モデルに比べてコリンズが圧倒的に優れているのが周波数安定度でしょう。 この時代の真空管受信機の受信周波数は10分かそこらで、 ものによっては数分のうちに動いてしまい、しょっちゅうダイヤルを微調整する必要がありました。

    75S-1は第1局部発振周波数は水晶発振、BFOも水晶発振とし、この2つの周波数変動をほとんど無視できるものにしています。 残る第2局部発振周波数はLC同調によるVFOでありここがいちばん周波数変動の原因となりますが、 ここを受け持つコリンズ70K-2 オシレータ ユニットは、 当時の最高レベルの安定度を達成しています。

    75S-1のVFO周辺回路には6U8A 双3極管の片側の3極管を使ったカソードフォロワバッファがありますが、 これはVFOユニット出力を隣に置いた32S-1送信機に供給するときに使うもので、 75S-1を受信機単体で使う場合はこのカソードフォロワはなんの役もしません。 70K-2 オシレータ ユニットの出力はバッファなしで直接第2周波数変換管6U8A第1セクションのカソードに注入されています。 さらにこの受信機には定電圧放電管など電源電圧安定化のための仕組みを持っていないことを考えると、 このオシレータ ユニットがいかに完成度の高い、優れた基本性能を持つものであるのかがわかります。

    それではさぞかし70K-2オシレータ ユニットはすごい回路なんだろうと思いきや、 回路的には6AU6 5極管を1本使っているだけのシンプルなもの。 回路は決して奇抜でも複雑でもない、それでいて非常に高い基本性能を出すというのは、 これぞ技術の粋、と思わずにいられません。

    ということで、75S-1の周波数安定度のスペックにある「ウォームアップ後100Hz以内」を実測してみることにしました。 受信機を28.600MHz USB受信にセット、シグナルジェネレータで28.600MHz無変調信号を出力。 受信機の電源を入れ、真空管が暖まって受信動作を開始したらただちに28.600MHzにゼロビートをとり、 時間経過とともにシグナルジェネレータ側で周波数を微調し、ゼロビートをトラックします。

    結果、受信動作開始後12分でゼロビート周波数は28.599.6MHzまで変化し、そこで安定しました。 0.4kHzほど変化したことになります。 電源投入からの変動はわずかそれだけ、ということです。 AM受信ならば「朝になって電源スイッチを入れたら昨日の晩聞いていた局がそのまま聞こえている」わけです。

    受信周波数の変化は続いているのですが、 ラボのシグナルジェネレータ、目黒測器MSG-2161は周波数設定は0.1kHzステップが最小で、 かつ出力周波数は±100Hz程度でふらつくことがあります。 なのでこれ以上の測定には精度が不足。 しかしラボには1MHz以上の周波数を高精度に発振できるシグナルジェネレータはありません (さすがにそろそろ一台欲しくなってきましたね)。

    そこで今度は別の方法を試しました。 75S-1の受信周波数を15.000MHz USBにセット、内蔵100kHzクリスタルキャリブレータをONにして、 オーディオ出力ビートが1000Hzになるようにメインダイヤルを合わせます。 オーディオ出力を 岩崎通信機SC-7202ユニバーサルカウンタ につないで、オーディオビート周波数の変化を読み取っていきます。 この手順で、75S-1電源投入後30分経過した時点から測定記録を開始。 結果は右。

    30分経過 (電源投入から1時間経過) の時点までに、ビート周波数は120Hzほど変化し、 その後は逆方向に変化しています。 電源投入して1時間経ってからの周波数変化は100Hz程度だ、ということですね。 スペック通り、といえそうです。 このくらいのわずかな変化になってくると、室温変化の影響が見えてくるようでしょう。

2021-10-30 受信周波数ドリフトを測定






作業完了

    シンプルグリーンフォームとお湯で洗ってさっぱりしたケースに組み込んで、 作業完了。 しかしまあ、何度でも言っちゃうけれども、 Sラインはハンサムだなあ!!


2021-10-31 ケース洗浄 組付け 作業完了






> 次の修理・・・ ハリクラフターズ S-20R スカイチャンピオン


Go to Radio Restorations
Go to NoobowSystems Lab. Home

http://www.noobowsystems.org/

Copyright (C) NoobowSystems Lab. San Jose, California 1999
Copyright (C) NoobowSystems Lab. Tomioka, Japan 2000, 2002, 2006, 2021, 2025.

1999-02-07 Page created.
2000-03-04 Revised.
2000-04-29 Revised. (Powered on after 1 year of blank, the SSB volume problem disappeared while checking.)
2000-05-05 Revised. (Cannot reproduce the problem. Receiver healed itself.)
2002-07-27 Revised.
2002-08-26 Reformatted.
2006-03-15 Reformatted.
2021-10-19 Servicing started.
2021-10-21 Updated. [Noobow7300A @ Wakura, Ishikawa Pref.]
2021-10-28 Updated. [Noobow9100F @ L1]
2021-10-29 Updated. [Noobow9100F @ L1]
2021-10-31 Updated. [Noobow9100F @ L1]
2022-11-24 Added name tag. [Noobow9200B @ L3]
2025-03-03 Converted to UTF-8. [Noobow9100F @ L1]