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Nikko STA-301

Solid State Stereo Receiver
(1971)



Nikko STA-301


25年間の懸案課題

    勤務先から原則出社禁止の指令が出た2020年03月27日から早くも1年以上経ちましたが、 コロナ禍は収束するどころか悪化してきているようですね。 今年のゴールデンウィークも基本は引きこもりかな。

    2021年の今年は1月2月の アップルII、 3月の ソニーTC-K333ES-G 3ヘッドカセットデッキ と、懸案のまま10年近く着手できていなかった大物修理に取り掛かれて、それぞれ良い成果が出せました。 そこで4月は、故障してから25年経ってしまった 日幸電子301 ソリッドステート ステレオレシーバ の修理に着手します。





    おそらく1996年、シリコンバレーのスワップミートでたぶん5ドルかそこらで買ったこれは、 最初はクパチーノのガレージラボのオーディオとして Noobow8000 Intel 80486DX-80MHz MS-DOS / Windows3.1Jコンピュータ につないで使っていたのですが、 じきにアンプが壊れて片チャネルの音が出なくなってしまいました。 設備も資材もろくになく、なにより知識も経験も乏しく、修理の試みは失敗しました。

    アンプ部は壊れてしまいましたがチューナとしては生きています。 サンノゼのよりひろい一戸建てに引っ越してからは、 PC用のパワードスピーカと組み合わせて冷蔵庫の上に置き、ヨメがキッチンラジオとして使っていました。

    ブランド価値もない壊れた古い低価格機、帰国に際して捨てても良かったのですが、 船便の荷物に入れその後ずっと保管しておいたのは、 いつか直してやる、という想いを引きずっていたからでした。 あれから25年、いよいよ長年の懸案課題に挑戦します。


2021-04-22 修理開始






日幸電子 STA-301

※ (このセクションは作業終了後に改めて書き直しています: 作業時には知らなかったことも含めています)

    日幸電子 STA-301は全トランジスタ式ステレオFMレシーバです。 FMステレオ & AMチューナを内蔵しており、スピーカを接続すればFMラジオのステレオ音楽が楽しめます。 通常はレコードプレーヤを接続し、またテープデッキも追加接続してステレオシステムを構築します。

    バス・トレブルのトーンコントロールのほか、ラウドネススイッチを持っています。 ラウドネススイッチをONにすると、ボリュームコントロール位置が低いときに低音と高音が増強され、 小音量時もバランスの取れた音を楽しめます。

    ファンクションスイッチはAM - FM STEREO - PHONO - TAPE - AUXの5つのポジションがあります。 このうちTAPEポジションは、ヘッドアンプを内蔵していないテープデッキ、 いわゆるテープトランスポートを接続したときのポジションであり、 デッキの再生ヘッドの微弱な信号をそのまま本機に接続します。 通常のヘッドアンプ内蔵型(ライン出力型)のテープデッキの場合は、TAPE MOMI. スイッチを下げてテープを再生します。

    チューナのダイヤルは糸掛けの横行きダイヤルで、動作時はランプで内部照明されます。 FM受信時もしくはAM受信時はそれぞれ紫色・緑色のインジケータが点灯します。 FMステレオ信号を受信しているときは、赤色のステレオインジケータが点灯します。 メータはチューナの受信信号強度を示します。

    本機はFM AFC回路は有しておらず、よってAFCスイッチは持っていません。



    リアパネルにはレコードプレイヤー/テープデッキ/その他機器を接続するためのRCAピンジャックが用意されています。 このうち"TAPE"はアンプを内蔵していないテープトランスポートの再生ヘッド接続用であり、 アンプを内蔵していてラインレベルの出力信号を出す通常のテープデッキを接続するときは、 "TAPE MONI."ジャックに接続します。 本機はテープデッキ接続用にDINテープデッキコネクタも持っています。

    スピーカは通常のスピーカターミナルのほか、RCAジャックで接続することもできます("NIKKO SPEAKERS"ジャック)。

    FMアンテナ平行型フィーダで接続します。 AMアンテナは水平面に90度回転可能なバーアンテナのほか、外部アンテナ接続ターミナルも用意されています。

    背面パネル右側には、過電流時に回路を切断するサーキットブレーカーが3つ設けられています。 ひとつはAC電源を切るもの、 のこり2つはパワーアンプのDC電源ブレーカで、右チャネルと左チャネルにそれぞれ用意されています。


    ところでインターネットでNIKKO STA-301の画像を検索して眺めてみると、 NIKKO STA-301の情報を掲載されているオーディオの足跡さんのページ を含めて、コントロールの配置違いのバリエーションがあることに気がつきます。 ラボの301ではファンクションスイッチは上段右側に位置していますが、 これが下段左から3つめの位置にあるものがちらほら見受けられます。 ラボの301実機を見るとファンクションスイッチ周辺はかなり複雑でスペースを占有していますので、 この位置を変えるとなると内部構造の大掛かりな変更が必要なはず。 実際、ファンクションスイッチが下段にあるモデルは、 とても同じモデル番号を持つとは信じられないほどにその内部構造とリアパネルレイアウトが異なっています。 ファンクションスイッチ下段のモデルでは電源トランスの一部がリアパネルから飛び出ているという異様さ。

    筐体構造の完全再設計を同番で行うというとんでもないこのランニングチェンジ、 どちらが前期でどちらが後期モデルなのでしょうか?

    ファンクションスイッチ下段モデルではチューニングつまみシャフトに大きなフライホイールが取り付けられているところをみると、 チューニングつまみに重厚かつ滑らかさを求め、 かつボリュームつまみは大きく目立つ位置にあったほうが好まれるという市場調査を反映しての設計変更だったのかもしれません。 ファンクションスイッチ下段モデルは、 電源トランスの取り付け以外にもなんとなく内部レイアウト・リアパネルレイアウトの無理矢理感が感じられます。 ファンクションスイッチ上段モデルではリアパネル上部に開けられたベンチレーションスリットの近くにパワートランジスタヒートシンクが位置していますが、 ファンクションスイッチ下段モデルではパワートランジスタヒートシンクは筐体内の隅にあり、自然対流放熱の面でかなり不利になっているはずだ、とか。 確証はないものの、ファンクションスイッチ下段モデルのほうが後期型なのだろう、と推測します。

2021-08-15 このセクション追記





内部を観察する

    ケースを開けて、中を観察。 誠実な造り、というのが第一印象です。 プリント基板上の4個のU字型放熱器にTO-220パッケージのパワートランジスタが取り付けられており、 そのうち1個は欠品、1個は仮付けされています。 故障した当時、きっとパワートランジスタに違いないと考え、 手持ち品に交換を試み、直らず、断念したんだったね。

    写真右側に見えている長いシャフトはFUNCTIONスイッチ、つまり入力セレクタのロータリースイッチです。 右側の下にあるのは FM / AMチューナーモジュール。 電源トランスには日幸電子のマークが入っており、質のよさそうな外観です。

    写真下側に4つ並んでいるのはおそらくFMの中間周波トランスでしょう。 まだ小型化がさほどには進んでおらず、どことなく真空管時代の部品の雰囲気が残っています。




    2個残っているトランジスタはおそらくオリジナルのものでしょう。 部品番号は消えかかっていて判別できません。 最初が "X" で始まっているようですが、どうやら2Sで始まるJEDEC品番は持っていないようです。

    3本の足の中央のピンはコレクタで、 短く切られています。 コレクタはメタルタブからネジで基板に電気接続されています。

    ただ、これが製造当初のものであるとも断定はできないかもしれません。 なにしろ本機を買ったのはエレクトロニクススワップミート - ハムフェアの数倍の規模が毎月開催されるという夢のようなシリコンバレー - で買ったものですから、前オーナーがいじり倒していたとしても不思議ではありません。 トランジスタのメタルラジエータタブはマイナスねじで取り付けられていますが、 日本製のこの機械はほかのすべてのねじはプラスみぞです。 ここだけマイナスねじを使う必要性はないので、 アメリカに渡ってきてから修理が入った、と見る方が正しそうな気がします。

    取付穴レイアウトは、本来はTO-3パッケージを取り付けることを前提に作られています。 2N3055あたりに変えてみるのも面白いかもしれません。





    プリント基板は4枚あります。

    写真右側の大きなものがアンプボードで、 イコライザアンプ、トーンコントロールアンプ、メインアンプが載っています。

    左側は2枚が接する形で配置されており、 写真上半分がAM/FMの中間周波増幅段、下側がFMステレオ検波。

    電源を入れてみると、25年前の記憶通り、アンプは動作せず。 しかしチューナは動作しているようす。 リアパネルのTAPE RECジャックをヤマハA-501のAUX INにつないで音声出力をスピーカで聴けるようにしてみると、 FM / AMともに動作していることが確認できました。 AMはとても感度よく、安定しています。 エスケイ電子 C'z Kit TW-172D で発生したFMステレオ信号を受信してみると、 FMはいちおうステレオで受信できていますが、セパレーションも音質もいまひとつだし、 FMに切り替えた直後に大きなザーッというノイズが出て数秒で通常の局間ノイズになるあたり、 どこかに異常が出ていそうです。


2021-04-23 FM/AMチューナ機能テスト開始





    FM/AMチューナボードをテストしていて、 チューナボードの電源電圧が当初9Vだったものが徐々に低下していく異常に気がつきました。 とりかかりに、本機の電源回路を調べました。

    背面パネルにはサーキットブレーカが3つあります。 1つはトランス1次巻線に入っており、 ほかの2つはそれぞれメインアンプの右と左チャネルに給電しているようす。

    上掲底面写真の中央下側にある小さいボードは定電圧電源回路になっていて、 FM/AMチューナボードはこのボードから電源を受けています。

    全体としては、電源トランスからのAC電圧はアンプボード上にあるダイオードで整流され、 写真中央最下部の電解キャパシタで平滑された後、4系統に分配されています。

  • 1. アンプボード上のイコライザアンプとトーンコントロールアンプ回路
  • 2. 安定化電源回路を介してFM / AM受信回路
  • 3. 背面パネルのサーキットブレーカを介してアンプボードの右チャネルパワーアンプ
  • 4. 背面パネルのサーキットブレーカを介してアンプボードの左チャネルパワーアンプ





  •     低価格機だからと言えばそれまでですが、 電源トランスのサイズに比べるととても小さい電源整流ダイオードや、たった1つしかない平滑電解キャパシタがとても頼りなく見えます。 もちろんイコライザアンプ / トーンコントロールアンプ / パワーアンプの初段プリアンプは、 それぞれにローカルな電源デカップリングと平滑キャパシタを持っていますけれど、 プリアンプ系の電源が安定化されていないというのは、 はたしてこんなものでいいんでしょうかといった感じがします。

        チューナボードの電圧不安定は、どうやらアンプボードのどこかが異常に電流を喰っているようす。 サーキットブレーカを介して給電されている右と左のパワーアンプへの電源線を取り外したら、 整流ダイオード直後の電源電圧はDC44Vで安定 (ただし当然リップルは有り) しており、 チューナボード電源回路の出力はDC12Vできれいに安定しています。

        チューナボードの電源は正常に動作しているわけですが、 FMチューナはときたま突然無音になる場合があります。 はて? 局発が停止しているのかな? でもこの頻度は徐々に減り、そのうち発生しなくなってしまいました。


    2021-04-24 メインアンプ部電源切り離し / FM受信停止故障は自然治癒






    FMステレオインジケータ

        本機のカタログを見ますと

    「ステレオ-モノの自動切換式FMマルチプレックス回路を採用しており、ステレオ放送を受信すると自動的にステレオシグナルインジケーターが点灯します。」

    と書かれています。 ところが本機ではステレオインジケータランプが切れていました。 これを直さぬことには1971年の喜びは味わえませんね。

        ボード上の回路を追うと、 19KHzに同調したトランスでFMステレオパイロット信号を取り出し、 それをダイオード検波してDC電圧にしてトランジスタ2SC968のベースに入れています。 パイロット信号レベルが高まるとトランジスタがONし、ステレオインジケータランプが点灯する仕組みのようです。 2SC968は壊れていないようです。

        手持ちの豆電球をつないで試してみると、 強力なFMステレオ信号を受信するとランプは点灯しますが、 信号のない局間周波数でもランプが点灯してしまいます。

        19kHzトランスの2次側を オシロスコープ で観てみると、 外部アンテナとしてビニール線をつないでいる状態では、 局間周波数でもさまざまなデジタル機器から出ているノイズを受けてしまい、 ノイズフロアが爆上がりしてしまいます。 19kHzトランス2次側に漏れ出たノイズをダイオードが検波すると結構なレベルに達してしまい、 ステレオパイロット信号だとみなしてしまうといった具合です。

        そんなわけなので、いまのところこれは正常な動作なのだと思っておきましょう。 テストしているうちにFMが突然無音になる症状はすっかり出なくなりました。 チューナはここでいったん作業終了にして、メインアンプの作業に移りましょう。

    2021-04-25 FMステレオインジケータランプ断線を確認



    スピーカを新調する

        夢と時空の部屋では、購入後18年経つ アイワXR-FD55 とその付属スピーカを使っています。 このアンプをテストするとなると、そのスピーカ以外には低価格の小型スピーカしかありません。 ちゃんとしたスピーカを買いたいなあ。 思いがけずの臨時収入があったし、 お誕生日プレゼントもおねだりしなかったから、いいよね。

        スペース制約からコンパクトブックシェルフになるけれど、 去年買ったDeli Spectre2はやはり小さすぎて低音は不足だったから、 今回は16cmウーハの品物にしよう。 注文した翌々日には、Wharfedale Diamond 225が届きました。 初鳴らしは Sony TC-K333ESGカセットデッキ Yamaha A-501プリメインアンプ という、 なんとも時代錯誤な構成。 それでもさすがに、16cmウーハは豊かな低音を出してくれます。 復調なったK333ESGで、カセットテープとは思えない良い音でひとしきり大音量でジャズアレンジを楽しみました。

        日幸301のテストには、このワーフェデールスピーカとヤマハA-501を使います。

    2021-04-26 Wharfedale Diamond 225 新品購入




    パワーアンプ修理開始

        チューナ部のどこかまだ不調な部分は後回しにして、アンプ部の修理に取り掛かります。

        Audio Technica AT-MX33ミキサ を経由したNoobow9100Fコンピュータのアナログオーディオ出力を日幸301リアパネルのAUXジャックに入れ、 301の内部から取り出した信号をヤマハA-501に入れて、ワーフェデールでモニタ。

        どのみちパワートランジスタは一部欠品していますのでまずはパワートランジスタを取り外しました。 前回修理作業の際に取り付けた引き出し配線もいったん除去。

        まずはTAPE RECから取り出した信号をA-501につなぎ、音楽を聴きながら作業。 TAPE RECの出力にはボリュームコントロールもラウドネスもトーンコントロールも利かないことから ここは入力信号がただ単に入力切替えロータリースイッチを通って出ているだけだと思ったのですが、 301の電源を切ると一呼吸おいてから音が消えます。 あれえ? AUX -> TAPE REC間にはバッファアンプが入っているみたいだ。

    2021-04-27 アンプ部修理開始





        メインアンプ基板の表裏の写真を撮って、パターンを追い、 回路図を書き起こしてみます。 スピーカ出力からファイナル出力トランジスタ、ドライバ段と遡っていって・・・あれれ? なにか変だぞ?

        本機は電源電圧DC44V単電源で、出力段とスピーカの間は電解キャパシタで結合された、SEPP - Single Ended Push Pull - 回路です。 それならばパワートランジスタは上流のプッシュ側がNPNパワートランジスタ、 下流のプル側がPNPパワートランジスタなはずですが、 基板半田面のパワートランジスタピン部に銅箔で示された "E" "B" のマークをもとに回路図を描いてみると、 プル側もNPNトランジスタのようです。

        ドライバ段まで書いてみると、なるほどこれならプル側にNPNトランジスタを使っても動作する仕組みになっている。 しかし変だなあ、これじゃあコンプリメンタリ構成になっていないじゃないか。

        正直にお話しすると、私はこの回路図を自分で書いてみるまで、 プッシュもプルもNPNパワートランジスタを使った回路を見たことがなかったのです。 調べてみるとこれは Quasi-Complementary - 準コンプリメンタリ回路と呼ばれる方式で、 1960年代後半から1970年代初頭にかけて標準的に使われていた回路のようです。 当時はトランジスタの製造技術が発展途上で、 性能の良いPNPのパワートランジスタを作ることができませんでした。 そのため、上流プッシュ側はNPNドライバトランジスタとNPNパワートランジスタを組み合わせたダーリントン・ペアを使い、 下流プル側はPNPドライバトランジスタとNPNパワートランジスタを組み合わせたジクライ・ペアを使ったのです。 ダーリントン・ペアは中学生の頃から知っていたつなぎ方ですが、 ジクライ・ペアというつなぎ方は初めて知りました。

        この回路構成はQuasi-Complementaryと呼ばれるほか、"Pseudo-Complementary" - 「偽コンプリメンタリ」とも呼ばれるそうで。 プッシュとプルの動作が完全に対称とはなりませんから理想とは言えないわけで、 より本音に近い呼び名だとは思いますが、製品のカタログに「偽コンプリメンタリ回路採用!」とは書けませんよね。

        NPNとコンプリメンタリなPNPパワートランジスタがつくれるようになった1970年代中盤には準コンプリメンタリ回路は姿を消し、 それ以降は「純」コンプリメンタリなSEPP構成になります。 だからわたしがトランジスタオーディオアンプの回路を雑誌で読むようになった頃には準コンプリメンタリ回路を目にすることはなかった・・・ ということだったようですね。 言い訳ですけれど。

    (この段階では回路図はパワー段とドライバ段までしか描けていませんでした。 右の回路図は後の作業が進んで全体が判明し描き上げたものです。)





    メインアンプ初段増幅回路

        リアパネルのAUXジャックから入れたオーディオ信号は、 ボリューム調整やラウドネス処理やトーンコントロールを受けた後にメインアンプ基板の"M IN" 端子に入ります。 メインアンプの初段増幅回路の回路図を描いてみると、 回路はシンプルな、トランジスタ1石のエミッタ接地増幅回路です。

        しかしどうやら、このステージで早くも故障しているらしく、 トランジスタのコレクタにはオーディオ信号が出ていません。

        使われているトランジスタは懐かしの2SC945。 トランジスタの端子電圧を測定してみると、 どうもコレクタ電流が全く流れていないものとみえます。 それも左右とも。

        もしこれが最初の故障の原因だったとすれば、 パワートランジスタを交換したって直るわけはないですね。 1996年当時はたぶん左チャネルの音が出なくなってアンプとして使うのはあきらめたわけですが、 その後チューナ部だけでキッチンラジオとして使っているうちに右チャネルも壊れたのか、 それとも26年間の保管の途中で経時劣化故障したのか。

        2SC945は新品在庫がありました。 トランジスタを交換すると、お、きちんと増幅しだしたぞ。 しかし、左チャネルの出力はきれいな音ですが、 右チャネルの出力は音が悪いです。 どうも初段に続くドライバ段で、左右のチャネルでなにか違いがあります。

        初段の入力カップリングと出力カップリングの電解キャパシタを左右とも交換しました。 けれど状態は変わらず。 初段とドライバ段を切り離し、 初段アンプ出力を外部アンプ (ヤマハA-501) につないでスピーカで音楽を聴きながら調べを進めます。


    2021-04-28 メインアンプ初段左右トランジスタ 2SC945 新品交換 初段動作開始





    右チャネル下流ドライバ

        まずは右チャネルを先に直すことにします (修理開始時の写真を見ると1996年当時に修理を試みたのは左チャネルのパワートランジスタだったのですが、 この時点ではなぜか右チャネルが壊れていたものと思い込んでいました)。

        プリドライバとドライバが正常動作していれば、 プッシュとプルの中点電圧 - スピーカ出力ラインの電圧は、電源電圧DC44Vの約半分、 だいたい20V程度になるはず。 でも中点電圧は大きく外れています。 この電圧はボード上のトリマポテンショで調整できるようになっていますが、いくら回してもダメ。

        いろいろ調べて試し、下流側ドライバとして使われている2SA539トランジスタを新品交換したら、 20V前後の中点電圧が得られ、トリマポテンショの調整に応答するようになりました。 また、オーディオ信号にきちんと応答して、中点電圧を中心に±18Vまでもスイングしています。

        使ったのは在庫の小信号PNPトランジスタの中から選んだ2SA953。 コレクタ電流を300mA流せる、オーディオアンプドライバ用に意図されたトランジスタです。 ただしデータシートを見るとコンプリのNPNトランジスタは用意されていないようですね。 全体が動作し始めたら、実用に向けてはコンプリメンタリペアのトランジスタに交換するべきでしょう。


    2021-05-01 右チャネル下流ドライバ 2SA539 を 2SA953に新品交換 ドライバが反応し始めた





    燃えた!!

        ドライバ段が動作し始めたので、 いよいよパワートランジスタをつないで試してみましょう。 一発であっさり動作開始! になったらうれしいなあ、 それともそれじゃやっぱりつまらないかなあ、 などと考えながら電源を入れてみると、 中点電圧は安定せず、 バイアスも正常にかかっておらず変な挙動。 まあ、そうくるよね。

        パワートランジスタを取り外し、いろいろ試していたら・・・ パチッという音がして、その直後にもくもくと煙が出始めました。 おわあ。


    2021-05-01 発煙事故




        いろいろ試してなかなかうまくいかず、さらには燃えたとあってはもうギブアップしようかと思いましたが・・・ それではこの先死ぬまでずっと、 たかがトランジスタアンプ1台直せなかったという負けの記憶を負って生きることになってしまいます。

        ゆっくり休んで気力をチャージし、復旧作業を開始。 煙を吐いたのはドライバ上流の2SC2458のエミッタ抵抗150Ω、トランジスタも割れています。 150Ωの隣の3.3Ωも部分的に熱損傷が見られます。 となると、3.3Ωと直列になるバイアスダイオードもダメでしょう。

        1/2W~1W級の150Ωは未使用品ですが古い真空管用のものしか在庫がなく、それを取り付け。 3.3Ωも在庫がなく、10Ω 1/8W品を3個並列接続。 トランジスタは2SC815のところに2SC2458GR、Q4 2SA539のところに2SA953を入れました。 選択の理由は単に在庫の中から適当に。 バイアスダイオードは在庫品のシリコンダイオードから適当に2本。

        燃えたとき何をしていたかというと、上流パワートランジスタを浮かせ、 下流側パワートランジスタだけをつないでいました。 しかしおそらくバイアスポイントがずれていて、下流パワートランジスタが大きくONになったものの、 上流側はパワートランジスタがないので大電流はすべてドライバトランジスタに流れ、 トランジスタを焼いて内部ショート状態、そのエミッタ抵抗150Ωも燃えた、ということでしょう。 もうひとつのエミッタ抵抗22Ωは、取り外して単品チェックしたところ外観に異常はなく、 アナログテスタ実測で抵抗値22Ωを示していたので、続投。

        ドライバ段は発煙事故の直前の状態まで復活したので、パワートランジスタは電流ブーストしてくれません。 パワートランジスタを2SC4935に交換してテスト継続。 しかし状況は変わらず、 ドライバのバイアスが浅すぎる症状です。 試しにバイアスダイオードを3本にしてみたら電力増幅し始め、スピーカから大きな音が出るようになりました。 が、バイアスは深すぎ、 パワートランジスタには大きなアイドル電流が流れています。


    2021-05-02 発火損傷個所 復旧


        バイアス深度を変えられるように、 ダイオードをトランジスタ1個で置き換えてみたら、 適切なバイアス深度が得られ、パワーアンプとしてはいい感じで鳴りはじめました。 が、サーマルカップリングしていないのでアイドル電流はさほど経たないうちにどんどん増え始め、 バイアス浅くするとアイドル電流はクロスオーバーひずみが出まくるまでに落ちてしまいます。 さらに、ドライバ段の上流と下流のトランジスタがコンプリメンタリでないものを使っているために、 プッシュプルの動作点が対象になりません。

        うまくバイアス点を出せない問題のほかに気がついたことが、かなり大きなヒスノイズ - FMラジオの局間ノイズのようなホワイトノイズ - が出ていること。 はたしてこれは何だろう。


    2021-05-03 右チャネルドライバ バイアス点出し試行






    左チャネルドライバ

        右チャネルはパワートランジスタのコレクタを浮かせ、 いったんドライバ段までにしておきます。 いっぽう左チャネルもドライバ段が故障しているので、 ここで左チャネルのドライバ段にフォーカスを移します。

        左チャネルドライバの中点電圧は電源電圧の約半分あたりにいるべきですが、3V程度でしかありません。 ドライバ下流側トランジスタQ4 2SA539を新品の2SA933ASに交換したら、 おおむね期待される電圧で動作し始めました。

        ドライバ段はオリジナルでは2SC815と2SA539のコンプリメンタリペアが使われていますが、 手持ち部品の都合で、この先は2SC1740Sと2SA933ASのコンプリメンタリペアを使うことにします。


    2021-05-04 左チャネルドライバ 2SA539デバイス故障を確認 2SA933ASに交換 左チャネルドライバ段動作開始





    バイアスダイオード

        左チャネルドライバがおそらく正常に動作しだしたと思われるので、 左チャネルに使われているバイアスダイオードにアナログテスタをあててフォワード電圧を調べてみると、 あれれ? 1本が0.7V、もう1本が1.28Vを示しています。

        実は右チャネルのバイアスダイオードも、1本が0.6Vちょっと、1本が1.2Vちょっとを示していました。 焼損事故によってこのダイオードも焼いてしまったためだと思っていたのですが、 そうではなく、もともと2種類のダイオードが使われて - 実質ダイオード3本相当が使われていたもののようです。 そこで捨てずにとってあったケシ粒のように小さなダイオードを仮付けで右チャネルに戻してみました。 すると、右チャネルのバイアスもおそらく正常な値になり、 左右チャネルでバイアス深度がほぼ同じになりました。


    2021-05-05 バイアスダイオード復旧


        しかしパワートランジスタをつないでみると相変わらずに不安定で、 過電流保護ブレーカが作動してしまいます。 サーマルカップリング不足だけでは説明できない何かが残っています。 うーん。

        右チャネルはバイアス不安定のほか、左に対してハムが大きい、ホワイトノイズが大きいという問題を抱えています。






    ホワイトノイズ

        現段階で、左右のドライバ段が動作しています。 パワートランジスタはつないでいませんが、 ドライバ中点、つまりスピーカ出力ラインにはしっかり音声出力が出ています。 もちろん出力インピーダンスは高いので、スピーカをつなぐとごく小さい音しか出ません。 ここからヤマハA-501のAUXに入れ、モニタしながらテストしています。

        で、気になるのが、右チャネルのホワイトノイズがとても大きいこと。 現代のオーディオ機器では音楽信号がないときにノイズが聞こえるだなんてことは全くなくなってしまいましたが、 1970年代のオーディオではわずかにヒスノイズが聞こえるくらいは当たり前のことでした。 でも、右チャネルのほうが明らかにヒスノイズが大きい、のは変だよね。

        ボリュームつまみを一番絞ってもノイズは出続けているので、これはパワーアンプ由来のノイズだろうと思っていました。 初段プリアンプ、プリドライバ、コンプリメンタリペアのドライバ。 ノイズはどこから出ているのだろう。 あるいはバイアス生成のダイオードかもしれないな。

        しばらくいろいろ試しているうちに、 バランスつまみを左いっぱいにすれば右のヒスノイズがほぼ無音に近くなることに気がつきました。 ええ? ということは、ヒスノイズはメインアンプ起源ではないということ?

        本機では、ボリューム調整とラウドネス補正を受けた音声信号はトーンアンプに入って音質補正され、 次いでバランス調整ポテンショに入り、そこからメインアンプの入力に伝えられます。 ボリュームつまみの位置によらずヒスノイズの大きさは一定で、バランスつまみでほぼ無音になるのですから、 ヒスノイズはトーンアンプで発生しているのは間違いがありません。 となると・・・

        トーンアンプは、トランジスタ1石でできています。 フィードバック素子やポテンショメータがホワイトノイズを出すというのは考えにくいですね。 すると。

        ものは試し、で、トーンアンプトランジスタ2SC458を新品の2SC1740Sに交換したら、 ヒスノイズは大幅に減少し、ほぼ期待されレベルになりました。 トランジスタの素子が劣化してノイズを出すようになってしまっていたんですね。

        右チャネルの耳障りなヒスノイズが大幅に小さくなったら、 今度は左チャネルのヒスノイズのほうがずっと大きく聞こえます。 ので、左チャネルの2SC458も2SC1740Sに交換。 こちらもヒスノイズは右と同等レベルに小さくなりました。

        なお2SC458は端子配列がBCEなので、2SC1740Sに交換するときは取り付け向きが反対になります。


    2021-05-05 トーンアンプトランジスタ 2SC458 左右 素子劣化によりヒスノイズ発生 新品2SC1740Sに交換






    右チャネルドライバ動作開始

        右チャネルは ハムが出る / バイアスバランスがとれない / オーディオゲインが低い と、明らかに何かがおかしいのですが、 その原因がわかりません。 なんだか間違い探しの様相を呈してきました。 左チャネルは正常に動作していて、右はヘン。 右と左で明らかに違うのに、どこが違うのかわかりません。 もはやかたっぱし作戦に移行しつつあります。 プリドライバQ2は2SC1740から2SC815に戻したけど変わらず。

        もうギブアップと感じるたびに休憩を入れて、 違う視点でいろいろ試しつづれます。 そのうちドライバ下流側トランジスタのベース-エミッタ接合がいつの間にか壊れちゃってたことに気がつきました。 テスト中に破壊しちゃったんでしょうね。 ドライバ上流トランジスタのエミッタ抵抗は発煙事故で焼いてしまったので真空管用の古い在庫品を使ったのですが、 おそらく部品が古くてはんだがうまくリードに乗っていなかった、というのも原因でした。 バイアスダイオードはいったん0.6Vを2本でも試しましたが、やはり1.8V必要なようです。

        ようやく・・・といった感じで、右チャネルドライバは予期される動作をし始めました。


    2021-05-06 右チャネルドライバ動作開始


        プリドライバとバイアスダイオードとドライバは協調して動作する必要があり、 何かの故障が別のところを壊してしまうことがあります。 ステップバイステップのトラブルシューティングでは必ずしもうまくいかず、 いままでの私のワザでは通用しないという感じでした。

        予防保全と左右バランス確保のため、左右チャネルとも以下の部品交換を実施。

  • 初段-プリドライバカップリングを新品バイポーラに (両端電位差設計値が1V以下のため)
  • 初段電源平滑を47uF50WV新品に
  • 中点電圧ブートストラップ 100uF50WV新品に
  • プリドライバエミッタバイパスを33uF16WV新品に

  •     交換してハム過大が直ればしめたものだなと思いながら作業しましたが、 どれも特段の変化はありませんでした。む。






    パワーアンプ動作開始

        ドライバ段は狙い通りの電圧と波形を示しているので、 これでパワートランジスタを取り付ければばっちり動作開始! ・・・というのを期待しましたけれど、 やはりそうはうまくいかず。 パワートランジスタをつないで電源を入れたら、 ドライバの下流側Q4 2SA933が吹き飛んでしまいました。 まだなにかおかしいところがあります。

        調べると、テスト用に使っていた2SC4935パワートランジスタがプッシュ側プル側ともにコレクタ-エミッタ觀ショート故障していました。 テスト中のどこかで飛ばしてしまったのでしょう。 熱暴走してしまったのかもしれません。 まったく、何個トランジスタをとばせば気が済むんだ。 そろそろトランジスタの在庫が尽きてきたよ。

        新しい2SC4935に交換し、ヒートシンクに取り付け、 バイアスダイオードをサーマルカップリングさせ、 アイドル電流を電流計でモニタしながらテスト開始。 スピーカがパワフルに鳴り出しました!!

        4時間以上安定してテスト用KLHスピーカで鳴っているので、 ワーフェデールにつなぎなおしてテスト継続。 BGM用としてなら実用レベルだけれど、聞き込み用途には音質はいまひとつ。 ひきつづき調査要です。 メインアンプボードにはNFB入力用と思われるパターンが用意されているけれど使われた形跡はありません。 NFBを掛ければ音質はよくなるかな?


    2021-05-08 パワーアンプ動作開始


        現時点での課題は以下。

  • プリアンプ起源または回り込みによるハム混入あり
  • プリアンプ起源のホワイトノイズあり
  • バランスを左右いっぱいにしたときに発振気味の動作

  •     メインアンプのゲインが思いのほか高く、 室内作業BGM用だとボリュームつまみは10%ほどしか上げられません。 かつこの状態だと、バックグラウンドのヒスノイズとハムが気になりすぎます。 NFBをかけてメインアンプのトータルゲインを落とすか、メインアンプ入力段にアッテネータを入れるか?

        トーンアンプとイコライザアンプ用の電源平滑電解キャパシタ計3個 いずれも220μFを新品交換しました。 プリアンプ起源のハムは少し減った気がする・・・程度。 匡体内配線で誘導しているのかなあ。





    ネガティブフィードバック

        本機のパワーアンプでは、 スピーカ出力から初段プリアンプトランジスタのエミッタにネガティブフィードバックがかけられています。 フィードバックループは3.3kΩの抵抗1本だけ。 パワーアンプ回路が正常に動作しだしたので、 NFB配線を元に戻します。

        効果は明確で、パワーアンプのトータルゲインはかなり低下してしまいましたが、 それゆえにプリアンプ由来のホワイトノイズは大幅減、 ハムも低減。 室内で静かにBGMを流す程度のボリューム位置ではノイズもハムも気にならなくなりました。 音質も大幅改善。 ハイハットシンバルはすっきり気持ちよくスピード感が出ていますし、 低域も滑らか、中域のきしみ・にごり感もひっかかり感もなくなりました。 いい感じです。

    2021-05-08 NFBを有効化 フィードバック抵抗 3.3kΩ+10kΩ
    2021-05-13 NFBフィードバック抵抗を 3.3kΩのみ (当初設計) に

        実をいうと、アンプ基板上のNFBリターンのパターンにははんだが盛られた形跡がなかったので、 この個体ではNFBは実際には配線されていなかったのだろうとしばらくの間思いこんでいました。 そうではなく、 リターンは基板パターンのターミナル部ではなくて、パターンの途中にはんだ付けされていたのですね。 当初1996年の修理の時にNFB取り出し側の配線をいったん外しており、 今回修理を始めたときに宙ぶらりんの配線はテスト信号を注入するための仮付けワイヤだろうと思って、 ワイヤを取り外していたのでした。 作業着手前の写真を見直していてそれに気づきました。

        スピーカで聴く限りヒスもハムも低減されましたが、 ヘッドフォンで聞くとはっきりとわかります。 本機のヘッドフォンジャックはスピーカ出力から抵抗を介して引き出していますので、 抵抗をすこし高くしてやるといいかもしれません。








    Zobelフィルタ

        トランジスタSEPPアンプの回路例を見ると、ほとんどすべての回路例のスピーカ出力部に、 小さなキャパシタと低抵抗を直列にしたものが取り付けられています。 基板の隅で小さくて目立たなかったのですが、本機にもこのキャパシタと抵抗が取り付けられています。

        これはZobelフィルタと呼ばれ、SEPP回路の安定動作のために欠かせないものであるとのこと。 SEPPの出力段はエミッタフォロワになっているので、容量性の負荷がつながると高周波領域で発振動作をしてしまうことがあるとのこと。 Zobelフィルタを取り付けておけば、そのカットオフ周波数以上ではアンプの出力をショートすることになるので、 異常発振動作を防ぐことができます。 301実機では、0.047μFと4.7Ωの抵抗が使われています。 計算してみると、カットオフ周波数は720kHzですね。 この時代の市販SEPPオーディオアンプはだいたいこの程度の周波数にカットオフを設定しているようです。


    2021-05-09 Zobelフィルタの実装を確認







    イコライザアンプIC

        本機をテストし始めてすぐに気がついたことではありますが、もういちど入力ソース切り替え回路周辺を調べて・・・ こいつあ驚いた、このアンプはAUX入力のときもイコライザアンプを通している!

        本機のレコード再生時のRIAAイコライザアンプには、日幸電子自製のオーディオリニアICが使われています。 このイコライザは、テープトランスポート接続時にはNABBイコライザとして動作します。 しかしそういった微小信号増幅とイコライザ処理だけではなくて、 AUXからのライン入力のときやFM/AMラジオ受信時も、 いったん入力信号レベルをアッテネータでフォノカートリッジレベルまで下げておいて、 周波数特性をフラットにしたうえでこのICでラインレベルまで増幅しています。 なんとまあ、それほど自社製ICを使いたかったのでしょうか。

        FUNCTIONスイッチ、 つまり入力セレクタのロータリースイッチは配線数がやたら多く、 CRのフィルタネットワークみたいなものが載ったサブ基板が直付けされています。 このロータリースイッチは入力に応じてアッテネータを入れてレベルをフォノカートリッジ相当に合わせ、 またイコライザの時定数を切り替えています。 そりゃあ複雑になるよね。

        それなりに高い信号レベルが得られている場合でもわざわざアッテネータで信号レベルを下げ、 フラット特性にセットしたイコライザアンプで増幅してレベルを戻しているということは、 わざわざノイズを追加して歪を加え周波数特性を乱し位相遅延を招いていることになります。 まあ、その割には結構使いものになってるんじゃん、というところでしょうか。

        とにかく、交換部品など入手できそうにないこの日幸電子カスタムICが壊れていないのは幸いなことです。

    2021-05-09 イコライザアンプ周り観察





    [このセクションは後日追記したものです]

        前述のようにSTA-301ではAUXの信号もFM/AMの受信音声も日幸NA-90003リニアICで増幅されていますが、 背面パネルTAPE MONI.ジャックからの信号はNA-90003を通らず、直接トーンコントロール回路に入ります。 フロントパネルのTAPE MONI.スイッチは回路的には、 トーンコントロール回路入力信号としてNA-90003出力を選ぶか、背面TAPE MONI.信号を選ぶかを切り替えている形になります。 よって、もしAUXからの信号がうまく鳴らないけれどもTAPE MONI.ジャックに入れた信号は正常に鳴るという事象が発生したら、 それはNA-90003内部故障を含むイコライザアンプ段の故障の可能性が高いということになります。

        ネットに日幸STA-501Sの回路図があるのを見つけました。 型番からすると301よりも上級機の位置づけにあるものと思いますが、 2SA49 / 2SB54 / 2SB56 といったゲルマニウムトランジスタが使われていたり、 パワーアンプにドライバトランスが使われているところを見ると、 STA-301よりも設計世代は古いようです。 いっぽうで301とほぼ同じ設計と思われる部分も多く、 参考になります。

        STA-501Sにも日幸NA-90003 ICが使われていて、内部等価回路図が掲載されています。 お、これは助かった。 NA-90003の内部回路を清書したものを右に示します。

        内部はシンプルな2石トランジスタ増幅回路です。 回路資料には抵抗やキャパシタの定数だけでなくトランジスタの型番も"2SC1845"とはっきり示されているところを見ると、 これは「2SC1845相当」ではなくて、実際に2SC1845を含むディスクリート素子を結線し、 それを樹脂で固めただけの「集積回路」なのかも知れません。 プリント基板の実装面積を減らして小型化に寄与するのは間違いはないですし、 なにしろ「自社開発のICを採用」という宣伝文句が使えますからね。 このNA-90003がそういう「モールド回路」なのかどうかは・・・ 中を割ってみたいなあ。

        ともかく、この回路図があればNA-90003が内部故障してしまっても代替品を手作りでこしらえることは可能。 とても有益な情報です。

    2021-08-15追記 NA-90003 内部回路 回路図起こし






    アンプボードの小型電解キャパシタ全数交換

        原因不明のもうひとつの現象が、電源投入時に必ず左チャネルのほうが先に音が出ること。 ポップノイズ低減回路みたいな工夫があるのかもしれませんが、 なぜ右と左とでコンマ何秒かの時間差がある理由がわかりません。 ひょっとしたらと思い、しかしここではないはずと思いながら、 残りの電解キャパシタを全部新品に交換しました。 が、変化なし。 ま、連休の課題は成功裏に一段落、としておいていいかな。

    2021-05-09 アンプボード上の小型電解キャパシタを全数新品交換






    右パワーアンプが飛んだ!!

        週末の作業でパワーアンプは復活、月曜の今日は301でジャズアレンジを静かにかけながら在宅勤務。 ところがお昼休み明け業務再開して間もなく・・・

    ブウン!!

    という音がして、直後にカチン! と。 うわあ、またブレーカが飛んじゃったよ。

        夜に調べてみると、右チャネルのパワートランジスタ2SC4935がプッシュ側・プル側ともに、コレクタ-エミッタ間がショート状態になっていました。 プリドライバか、あるいはドライバが壊れて、ベースに大電流が流れてしまったのでしょうか。

        初段プリアンプを除いて、右チャネルのトランジスタを一斉に新品交換します。 パワートランジスタは2SC4935の在庫が1個だけになってしまったので、2SC4793を使います。 期せずして、左右チャネルのパワートランジスタが同じタイプになりました。

        トランジスタを新品交換しただけでは、また同じ症状が起きて吹き飛んでしまうかもしれません。 交換作業中に、パワートランジスタのエミッタ抵抗0.47Ωや、ドライバ段の抵抗が焼けたりしていないか、 抵抗値をアナログテスタでチェックしました。 異常はないようです。 バイアスダイオードの順方向電圧もいままでどおりを示しています。 トランジスタ以外に、怪しいところは見つかりません。

        左チャネルを組んだ時はパワートランジスタはシリコンサーマルグリスで放熱器に取り付けましたが、 右チャネルは仮組のつもりだったのでグリスは塗っていませんでした。 これが原因だったのかもしれません。 今度はきちんとグリスを塗って組み付けます。

        今度飛ばしたらほんとうに替えのトランジスタの在庫がないので、 再び右チャネルパワーアンプ電源に電流計を入れて、アイドル電流をモニタしながら動作再開。 その後16時間、アイドル電流は20~30mA程度で安定しています。 直ったと判断してよいでしょう。

        今回のブローの原因は、パワートランジスタのヒートシンク取り付けが不適切だった可能性が一つ、 そしてもうひとつの可能性は、プリドライバトランジスタ。 なんだかんだ入れ替えて組付け直したオリジナルの2SC815を使っていました。 このトランジスタが突発的なオープン故障を抱えていたのだとすれば、 突然ドライバ段とパワーアンプ段が吹き飛んでしまう機序は説明がつきますね。 いまは確定ができませんけれど。

    2021-05-10 右パワーアンプ故障発生 出力段パワートランジスタ2個 ショート故障
    2021-05-11 右パワーアンプ プリドライバ/ドライバ/パワートランジスタ 新品交換 動作再開






    基本設計

        日幸301実機の回路調査・回路図作成と、それを基にした修理作業は一段落ついてアンプ機能はいい感じで動作していますが、 すぐ脇の本棚にRCA Transistor Manualがあることに気がつきぱらぱらめくってみると、 おやあ、回路例のセクションにあるこのアンプは・・・ 日幸301とほとんど同じだ。

        違う点としては、パワートランジスタのエミッタ抵抗1Ωをバイパスする形で配置されたダイオード。 これは大パワーのとき - エミッタ抵抗両端の電圧が0.6Vを超えるとき、すなわち (エミッタ抵抗は1Ω品なので) エミッタ電流が600mAを超えるとき、エミッタ抵抗をバイパスして最大パワーを出しやすくするため、 と説明されています。 でもまあ、それではこのエミッタ抵抗が本来持っているデバイス動作安定化の機能も失くしてしまうわけで、 あまり褒められた工夫ではないような気がします。

        このRCA Transistor Manual SC-12は、1966年発行。 この回路はトランスレスの単電源準コンプリメンタリSEPP方式ですが、 ほかのオーディオアンプの回路例はいずれもドライバ - パワーの段間はドライバトランスを用いていて、 出力トランスを用いたプッシュプルも掲載されています。 1960年代後半は、大電力増幅回路はトランジスタにはまだ荷が重く、 また真空管回路の設計思想からトランジスタならではの回路に移行していく時代だったのでしょうね。






    FMチューナ続き

        起動時の右チャネルからの一瞬のハムと、右チャネルがゲインが低い問題、 さらに右チャネルの高域の伸びが不足している感じは続いていますが、 とりあえずは昼間1週間安定して動作しています。 ので、テストのフォーカスをFMチューナに戻します。

        FM受信が突然無音になり、しばらくして突然直る問題は、すっかり出なくなってしまいました。 無音になるのは局発の発振停止だろうかとも思い別の小さいラジオで局発の漏れを聞いてみようとしたのですが、 チューナモジュールはシールドケースに入っているためか、うまくいきませんでした。 現時点では、自然治癒として調査は止めます。

        FMチューナのテストは エスケイ電子 C'z Kit TW-172D で行います。 まずは切れてしまったステレオインジケータランプの代替。

        FMチューナボードはDC12V安定化電源回路から給電されていますが、 ステレオインジケータランプの電源は電源トランスを整流平滑したリップルありDC44Vから、 470Ωを介してとられています。 代わりの電球をと思いましたが、 手持ちの麦球はオリジナル品よりも電流を喰うらしく、 いろいろ試しているうちにランプ駆動用トランジスタを飛ばしてしまいました。 コレクタ-エミッタ間が常時導通になってしまっています。

        とりいそぎ2SC1740Sに交換しましたが、 はて、ここはどうしよう。 ランプを駆動するために、コレクタ電流がもっととれるセミパワートランジスタにしないといけません。 LEDにしてもいいのですが、 1970年代初頭の機械ですから電球の明かりで行きたいですね。 それに、電球を単にLEDに交換するだけだと、 パイロット信号が受信できていないときもLEDはうっすら光って見えます。 電球の場合は電流が少ないときは光らないから気にならなかった、 のでしょうかね。 それともランプ駆動トランジスタ以前の部分もいじり壊しちゃったのな。

    2021-05-15 ステレオインジケータ駆動用トランジスタ 不注意で焼損


        12V球を2本直列にして点灯するにしても、 電流が流れすぎる球だと、 ドライブトランジスタもそうですが、 DC44Vから電圧を落とすための抵抗の発熱も大きくなってしまいます。 調べは進める必要がありますが、LEDだと消灯させるのにひと工夫が必要かなあ。

        本機のフロントパネルのダイヤル盤は、電源トランスのランプ点灯用巻線からのAC電力で点灯しています。 FMあるいはAM時は、それぞれFMランプ・AMランプが点灯します。 これらのランプも電源トランスのランプ巻線からの駆動。 ああ、そうか、ステレオインジケータランプもトランスのランプ巻線で点灯させればいいんだ。 でもランプ点灯用巻線とアンプ電源巻線をアイソレートされたままで点灯制御させるには・・・ ひと工夫要るなあ。 リレーを使う方法もあるけど、点灯-消灯がはっきりしちゃうし、 ヒステリシス持たせないと点灯-消灯の境目で暴れちゃうだろうしなあ。

        そもそも局間ノイズ部でも19kHzトランス2次側には結構なレベルのノイズが出ていてステレオインジケータが点灯してしまうという問題は依然残っています。 まずはこっちの対策が先だなあ。 そうか、これはひょっとしたらどこかが故障していてこういうことになっているのかもしれないぞ。 やはりステレオインジケータランプの駆動方法は後回しにして、 FMチューナがそもそも正常なのか、ちゃんと調べるべきです。






    そもそもどうしてステレオで聞こえるの

        これまた正直に言うと、 わたしはFMステレオがどうしてステレオで聞こえるのか、なんとなくでしかわかっていません。 で、本機のパワーアンプ部の回路ととても近い回路が掲載されていたRCAトランジスタマニュアルを見ると、 FMステレオデマルチプレクサの回路も載っています。 完全に同一とは言えないものの、かなり近そう。 これを参照しながら、日幸301実機の回路を学んでいくことにします。

        まずはセパレーションの悪さ。 これは予想通り、いじりはじめた初期に19kHzトランスの調整を狂わしてしまったことが原因でした。 再調整を行ってみたら、完全とは言えないものの、左右ははっきりと分離されました。

    2021-05-16 19kHzトランス再調整 FMステレオセパレーション正常化






    音の悪さはトランスミッタのせい

        テストを兼ねてFMステレオでBGMをずっとかけ続けていて、奇妙なことに気がつきました。 いい音で楽しめる曲もあるのですが、妙に音が悪く感じられる曲もあります。 明らかに音が悪い曲の場合でも、 19kHzトランスのコア位置をずらすとかなり低減されます。 しかしそれではステレオセパレーションがかなり悪化してしまいます。 音質とセパレーションの妥協点をみつけて調整するしかないのだろうか。 1971年のFMチューナというのはこの程度のものだったのだろうか。

        しばらくして気づきました。そういうことなのかもしれない。 音が悪く感じられるのは、高域が伸びているレコーディングの曲だ。

        テストに使っているトランスミッタは、エスケイ電子TW-172D FMステレオトランスミッタです。 2500円の低価格キットですから音が悪くてもまあ不思議ではないのですけれどね。 このFMトランスミッタ、オーディオ入力の直後にちゃんとプリエンファシス回路を持っているのですが、 ハイカットフィルタは持っていません。 それが原因なのかも。

        そこで中央研究所1階のメインワークベンチで使っている 目黒MSG-2161標準信号発生器 を、2階の夢と時空の部屋に移動しました。 きちんしたシグナルジェネレータでテストしてみるべきです。

        するといきなり、奇妙なことに気がつきました。 FMステレオ受信音の、右と左が入れ替わっている!

        これは19kHzトランスの再調整で直りました。 TW-172Dのときは右と左が入れ替わるだなんてことはなかったのに、 いったいどういうわけなんでしょうね。 そもそも19kHzトランスの調整でステレオの左右が入れ替わってしまう理由もわかりません。 けれど、これは要するに38kHzサブキャリアの位相が180度反転してしまうということですよね。 そう考えると、なんとなくではありますが、トランスの調整でそうなることが理解できそうな気がしてきました。

        さて特定の楽曲での異常音ですが、顕著な例が見つかったのでTW-172Dと目黒MSG-2161で比較してみました。 ムービーではTW-172Dが88.8MHzで、102.5MHzで目黒が送信しています。 TW-172Dでは聞くに堪えない異常音が出ていますが、 目黒では大丈夫。 もっともこのテストでは目黒はプリエンファシスを掛けていないので、いっそう差は明らかになっているはずです。

        CDの上限16kHz目いっぱいまで高域を含む楽曲をTW-172Dに入れて日幸301で受信すると、 日幸301は高域音声信号を19kHzパイロット信号と誤認して、サブキャリア周波数が乱れ、 異常復調してしまうのです。 これを防ぐためには、 TW-172Dに12kHzあたりにカットオフ周波数を持つハイカットフィルタを追加する必要がありますね。


    2021-05-20 特定の楽曲での異常音はTW-172Dトランスミッタに起因するものと判明

        翌日は一日MSG-2161でFM信号を出し、FMでBGMを聴きます。 朝 日幸301の電源を入れてから30分ほどの間は、結構頻繁にチューニングつまみを触る必要がありました。 受信周波数102.5MHzでは、温度による局発ドリフトが結構あるようです。

        本機のFMチューナにはAFCスイッチはありませんし、 センターディビエーションメータも装備されていません。 神経質にチューニングしたいユーザは不満を感じるでしょうね。





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    テスト曲は C-CLAYSさんのアルバム「幻想天舞」 からトラック3、 美有耳虚無頭さんの"Keep On Loving You"、原曲は「リーインカーネイション」、ご存じ魅魔様テーマ。

    代替ステレオインジケータ回路検討開始

        代替ステレオインジケータの構成を検討するために、19kHzトランスとバランストダブラ周辺をちょこちょこ。 19kHzトランス2次側は信号受信時に19kHzが6Vp-pほど出ており、 多少の負荷をつないでも乱れることはありません。 ここから信号を取り出そう。

        右のオシロの波形、下が19kHzトランスでの19kHzパイロット信号、 上がそれをバランストダブラで周波数で倍にした38kHzサブキャリア信号。 サブキャリア波形が1つおきに波高が違うのは、 バランストダブラの2個のダイオード出力に違いがあるため。 これはなんでだろう。

    2021-06-03 ステレオインジケータ用パイロット信号取り出し方法検討


        目黒MSG-2161を使えばFM音質は良好かと言いわれればそんなことはなく、 曲によってやはりシンバル/ハイハットの音がとても不自然になるものがあります。 これが1971年製の低価格チューナの実力なのでしょうか。 代替ステレオインジケータ回路のテストをするためバランストダブラ周辺をいじったのが悪かったのかもしれません。 週末金曜日 2021-06-04 は朝から一日中、FMで聴いていたBGMの音質がひどくて、 これではステレオインジケータ回路ができ上ったらそれ以上はFMを使うことはないのだろうかな、と、 敗北感に襲われてしまいました。

        この音質不良は、夕食後に19kHzトランスをむ再調整したところ以前のような実用レベルの音質に戻りました。 やはり半田ごてを当てたりなんだりでどこかが変化してしまうのでしょう。 とりあえずまだ望みは捨てないでおきます。

    2021-06-04 FM音質不良 19kHzトランス再調整





        FMステレオ復調波形を、スピーカ出力ターミナル部で観察してみました。 写真右。

        テストオーディオ信号1kH正弦波zのとき、明らかな19kHz成分の重畳が見られます。 オーディオ信号10kHzでは低い周波数に不要成分が出て波形がうねりだしているのがわかり、 14kHzではもはやまったく正弦波ではなくなり広帯域にスペクトルが広がり始めています。 これでは高音域の再生音は悪いわけですよね。 どうしてこうなるんだろう?

        一方で商業スムースジャズアルバムをかけてみると、 とても気持ちよくてリラックスして楽しめます。 商業スムースジャズアルバムでは、 尖り感を抑えてリラックスして聴けるよう、高域をなだらかに落としているんですね。






    ステレオインジケータ回路試作

        19kHzトランス2次側に出ている信号をダイオードでDCにしただけだと、パイロット信号と近いレベルで局間ノイズを拾ってしまいます。 そこで、19kHzトランス2次側の信号を19kHzバンドパスフィルタを通してみます。 バンドパスフィルタは TW-172Dで作ったものと一緒。 20mHと3300pFの並列です。 バンドパスフィルタは帯域外をバッサリというものではないので、 ゲルマニウムダイオードで整流した電圧は曲間ノイズ時も結構ありますが、 良好に受信できているパイロット信号とはどうにか区別がつきそうです。

        つぎにこのDC電圧をuPC277コンパレータで基準電圧と電圧比較。 uPC277はオープンコレクタ出力なので、これでマイクロメカニカルリレーを駆動します。 ランプ点灯電源は電源トランスのランプ点灯用6.3V巻線から取りました。 リレーですから、チューナボードDC12V電源とアイソレートされます。

        ブレッドボードで作ってみた回路を試すと、 パイロット信号を受信したときにリレーがカチリと動作します。 リレー駆動音ははっきり聞こえますが、 実用上は頻繁に選局はしないし、ケースカバーを閉めれば音も小さくなるでしょうから、 まあ大丈夫でしょう。

        ランプは手持ちの6.3V 150mA品を使います。 2個パラで使うとON/OFFでほかのランプの明るさがはっきり変わってしまうので、1個だけにします。 うまい取り付け方法を考えないとね。

        コンパレータの入力電圧が緩変化となるよう電解キャパシタを入れていますが、 実際にチューニング動作を試すと、やはりON-OFF境界でリレーは暴れます。 コンパレータにヒステリシスを持たせなければなりません。 回路計算は明日以降に。

        まずはステレオインジケータランプを点灯させることを試みているわけですが、 コンパレータ出力で同時にオリジナルのランプドライバトランジスタを駆動すれば、 FM MPXデコーダのステレオ受信-モノラル受信を切り替えられます。 このためにはON-OFFのロジック反転が必要ですが、 uPC277はパッケージにコンパレータ2個入りですから、もうひとつのコンパレータを使えばいいですね。

    2021-06-05 ステレオインジケータ回路試作




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    FM送信側で工夫してみる

        誤解していました。 目黒MSG-2161の外部変調入力端子には、15kHzローパスフィルタは入っていません。 実際、MSG-2161をモノラルFMモードにして19kHz正弦波を外部変調入力端子に入れると、 日幸301のステレオインジケータが点灯します。 15kHzを超える音声信号はそのままMPX信号に入っていくので、 日幸301のようなシンプルなMPXデコーダではサブキャリアが乱れて正常な復調ができなくなるのです。

        本機日幸301は1971年発売のモデルとのことですが、 1972年にはモトローラMC1310ステレオデモジュレータICが開発され、 簡単かつ低価格でサブキャリア周波数をPLL生成できるようになり、 1970年代中盤のFMチューナではPLL MPXがスタンダードとなりました。 そうなると「特定の同人アルバムが正常に復調できない」問題は、 1970年代初頭のFMチューナに共通する問題点なのかもしれません。

        であれば、1971年製のチューナで同人アルバムを楽しみたければ、 対策はFM送信機側で14kHz以上のオーディオ信号をカットすることに尽きる、ということでしょう。

        いっぽう本機のFMステレオ音質不良問題、 なんとなく38kHzサブキャリアの注入電力不足なのではないかという気もしています。 38kHzトランスの波形を観察していると、 強いハイハットなどで異常音が発生する瞬間は、 サブキャリア振幅がゼロになっているのです。

        であれば、音声信号の14kHz以上をカットするほかに、 変調度を下げることで軽減もできるわけです。 そこでMSG-2161のFM変調度を、パイロット変調度は最大の15%とし、 コンポジット変調度を75%まで下げて運用してみます。 効果は確かにあって、ハイハットでの音飛びは気にならなくなりました。 半面、当然ですがいままでよりもボリュームつまみの位置を高くしなくてはならず、 そのためにラウドネスの利きが一回り弱くなります。

    2021-06-06 FM送信側を工夫してみる






    開発中止

        ここで奇妙なことに気がつきました。 ボリュームを50%以上にあげると - ふだん室内で聴く音量よりもずっとボリュームを上げると - 再生信号が2~3Hz程度で大きく上下し始めるのです。 ボリュームをさらに上げると上下幅はとても大きくなり、 パワーアンプの最大スイングにまで達している様子。 当然スピーカにとってもヤバい状況。

        これはボリュームを絞ると収まります。 どこかでなにか負帰還ループができてしまっているのでしょう。 調べてみると、問題発生中は、FMチューナボードの安定化されたDC12Vが幅にして0.2V~0.5Vほども変動してしまっています。 チューナの電源電圧が変動し、 局発周波数が変動し、 それゆえFM検波出力にその変動が出て、 パワーアンプをドライブし、 オーバーパワーになって電源電圧が変動してしまう。

        しかし調べていくと、やはりどこか何か変です。 いろいろ試すと、試作テスト中のステレオインジケータランプドライバ回路の電源を切り離すと問題は起きないことがわかりました。 試作ボードがなにか悪さしていることは間違いがなさそうだけれど、 でも電源電圧を下げてしまうような過大電流なんか流れていないはずなのに。 ともかくどこかで何かとんでもない間違いをしてしまっていることは確かなので、 いったん試作ブレッドボードは切り離しました。

        でもなあ、なんかめんどくさくなっちゃったな。 FMステレオ復調の音質はどうにも今一つで、 AMラジオよりははるかにいい音ではあるけれど、BGM用としても常用する気にはなりません。

        1971年だなんてこんなもんだったんだよということにして、 FMステレオ復調の改善はあきらめて、これで修理完了ということにしちゃおうかね。

    2021-06-21 ステレオインジケータ回路開発中止






    オリジナルに戻す

        半分敗北感を覚えながら試作ステレオインジケータランプドライバ回路のブレッドボードを取り外し、 ステレオデモジュレータボード上の配線を復旧します。 オリジナルのステレオインジケータランプドライバトランジスタのベース抵抗は・・・ あれ、1kΩはボードから完全に除去されてる。 そう、外付けボードからこのトランジスタのベースに電流を流し込もうとしていたんだから。 外した抵抗はどこに置いたっけ。 まあ、新品を取り付けておけばいいね。

        オリジナルと同等の豆電球はやはりラボ在庫にはなくて、 たくさんある豆電球では電流が流れ過ぎて680Ωの電圧降下抵抗が焼けるし、 ランプドライバトランジスタもワンランクパワーのあるものに変えないといけません。 それも面倒になったので、もういいや、豆電球の代わりに赤色LEDを光らせることにしよう。 本機のステレオインジケータの豆ランプは光るためだけではなくて、 光っていないとき - モノラル受信時は38kHzアンプトランジスタとバランストデモジュレータのダイオードのうち2本に逆バイアスをかけて動作を停止させる役割をも持っているので、 LED+1kΩを3並列、さらに300Ωを並列につなぐことにします。 試すと、受信信号が弱いときはスピーカから出るホワイトノイズはセンターに定位してモノラルになっています。 オッケー。

        今まで通りにシグナルジェネレータの信号を入れてFMステレオで音楽をかけると・・・ あれ? あれれ?

    なんか、音がいいぞ。





    いままでのことはすべてなかったことにしてください

        なんで? どうして? 高域の音が自然に、きれいに出ています。 Noobow9100FのWinAmpでの12kHz以上カットのイコライザ設定をフラットにしてもOK、 MSG-2161との間に入っているAudio Technica AT-MX33のTREBLEコントロールを40%ほど上げてもOK。 さらにはMSG-2161のコンポジット変調度を100%に上げてもOK、 ジャズアレンジが綺麗に鳴っています。

        これはと思い幻想天舞のリーインカーネイションをかけると・・・ああ、この曲はやっぱりだめだ。 夢をみているのではないみたいですね。 しかし間違いなく、これなら日常BGM使用に満足できる音質。 いったいどういうわけなんだろう?

        しばらく考えて、説明がつきました。 本体側ステレオインジケータランプドライバトランジスタがONしていなかったのです。

        ブレッドボードの代替ステレオインジケータランプドライバが動作しはじめたら、 ランプ点灯だけではなくてステレオ-モノラルの動作切り替えも行うつもりでいました。 本体側ステレオインジケータランプドライバトランジスタのベース抵抗は切り離し、 プリント基板半田面に空中配線でベース抵抗をつなぎ、ブレッドボードにつなぐ予定だったのに・・・ そうしていなかったのです。

        本体側ステレオインジケータランプドライバトランジスタのコレクタにはランプを経由したDC44Vはつないでいなかったので、 ステレオ-モノラル切り替え回路はモノラルモードにはならず、 ステレオ動作はしていました。 しかし本体側ステレオインジケータランプドライバトランジスタはONしていなかったので、 38kHzトランス2次側センタータップは設計通りにはGNDに落ちず、余計な抵抗を介してGNDに落ちていました。 さらにその抵抗の一つは38kHzアンプ&リミッタトランジスタ2SC373のエミッタ抵抗なので、 エミッタ電圧ぶんセンタータップの電圧も上がってしまいます。 これではバランストデモジュレータのダイオードに予期せぬバイアス電圧がかかり、 狙った通りには動作しないはずです。

        さらに、いやむしろこちらの方が支配的だったのかもしれませんが、 38kHzアンプ&リミッタトランジスタ2SC373のエミッタがしっかりグラウンドに落ちておらず、 サブキャリア振幅が狙いよりもずっと小さかったのです。

        そんなわけで、強制モノラルモードには入っていなかったものの、 バランストデモジュレータの動作も完全ではありませんでした。 このためにFMステレオの復調が本調子ではありませんでした。 これはとくに高音域で明確で、FM受信音質不良を招いていたのです。

        ということで、3週間前の2021-06-03にFMステレオ代替回路のトライを始めて以来、 この状態だったのです。 音が悪いとか1971年製ではこんなものだったのかとかなんだとか・・・ ごめんなさい、 ぜんぶ自分の作業ミス・勘違い・思い込みでした。 すべてなかったことにしてください。

    2021-06-24 FMステレオ音質不良は作業ミス






    サブキャリア振幅増強の試み

        ゴキゲンになったFMステレオデモジュレータですが、 リーインカーネイションでの復調異常はなくなってはいないので、 その理由をもう少し調べてみます。

        オーディオエディタを使い、 演奏時間4分09秒の「リーインカーネイション」から復調異常が起きている部分を切り出してみます。 変な音を立てながら作業し、もっとも顕著に症状が出る部分を1ms - 1000分の1秒ほどの一瞬 - 切り出すことができました。 この音を連続再生し、FMステレオチューナで聴き、 その時のバランストデモジュレータ入力波形をオシロスコープで見てみると、 ご覧のように、サブキャリア振幅が0にまで落ちています。

        「リーインカーネイション」が激しく歪むのは、 楽曲の一部に左右の信号が大振幅で逆位相になっている部分を含むからです。 同じような音の傾向を持つ楽曲を手持ちライブラリの中から探してみたら、 トッド・ラングレンのアルバム"No World Order"から「Property 1.0」 がまさにそれでした。 激しくひずみまくってしまいます。

        シンプルにマイク2本でステレオ録音した音、 あるいは複数のマイクの信号をミキサでミックスしただけの「スタジオ録音の生演奏」であれば、 ここまで激しい大振幅逆位相音は発生しません。 シンセサイザ音楽が登場したのは1970年代半ば。 この日幸301が発売された1971年、すべての音を人工的に発生させたシンセサイザ音楽というのは存在しなかったのです。 だから、1971年発売の製品では大振幅逆相信号による復調困難は問題とはならなかったのでしょう。

        1971年は、冨田勲がMoogIIIを手に入れた年。 そして1974年に発表されたのが、 アルバム「月の光」。 その中の代表曲である Clair de lune - 月の光 (「ベルガマスク組曲」第3曲) / クロード・ドビュッシー作曲 / 演奏:冨田勲 は、左右のスピーカの幅をはるかに超えて音場が拡がる、とても美しい曲。 それは、ステレオ信号に逆位相成分がたっぷり含まれていることを意味します。 この曲は301ではどう聞こえるだろう?

        自分のライブラリのなかからこのアルバムのCDをMP3にリップしたファイルを見つけて再生してみて、思い出しました。 もともとこの曲は、このレコードの中での録音レベルがとっても小さいんだ。 高校生のときに友人が買ったこのアルバムをカセットテープに録音させてもらったとき、 この曲がとくに録音レベルが低く、テープヒスが目立つことになっていました。

        この曲のレコード上での録音レベルがとても低いのは、 そうか、当時のオーディオ機器では大振幅逆位相の再生がうまくできないものが多かったからかもしれない。

        301に限らず当時のほかの多くのFMステレオチューナでは大振幅逆位相をうまく扱えなかったのかもしれないし、 針が大きく上下することになる逆位相ではレコード再生もいろいろ難しいことがあったのでしょう。 だからやむを得ず、カッティングの段階でレベルを大きく下げていたのではないでしょうか。

        日幸301が発売された翌年、モトローラは第2世代のFMステレオデモジュレータIC、MC1310を発売します。 このICを使えばパイロット信号に正確にPLL同期したサブキャリア信号を受信機側で簡単に生成することができ、 正確なステレオ復調ができます。 「大振幅逆相信号をうまく扱えない」問題は、1973~1974年にはMC1310によってあっけなく解決された、 のでしょう。

    2021-06-25 復調異常時のサブキャリア波形観測


        さて、そんな発展途上のFMステレオチューナである日幸301。 サブキャリア振幅を高めればこの傾向を抑えられるかなあ? 現状でサブキャリア振幅は2.5Vp-pあります。 ここで38kHzアンプトランジスタのエミッタ抵抗に並列にバイパスキャパシタを入れてみます。 2SC373のエミッタ抵抗は2.2kΩですが、 ここ1kΩと0.002μFを並列に追加すると、 サブキャリア振幅は5Vp-pまで高まりました。 しかし・・・L-R成分もまた同じ比率で大きくなってしまい、 大振幅逆位相の復調異常の傾向には変化がありませんでした。 しゅん。 この回路方式ではこんなもん、なのでしょうかね。

    2021-06-26 サブキャリア振幅増強 効果なし


        後日追記。 この時代のFMステレオデマルチプレクサはこんなもん、 ということはやはりなさそうです。 1962年モデルのアメリカSherwood社初の真空管式FMステレオチューナー ではリーインカーネイションを見事に美しく再生しましたから。 いくら本機が日本製の格安モデルといっても、 こんなひどい現象では市場には出せなかったはずです。 やはり回路のどこかに、当初設計から外れた劣化箇所があるはずです。 ステレオデマルチプレクサの4本のゲルマニウムダイオードのどれかが素子劣化しかけて、 特性バランスが崩れている…というのはありそうな話ですね。

    2022-02-02 ノート追記






    ステレオインジケータLED化

        感染拡大開始から1年半経過、 2021年の夏はデルタ株が急速に広がり、 いままでにない事態。 誰とも会わず山の中でおにぎり食べるだけなら全く心配はないとは分かっていても、 今年の夏休みはどこに出かける気もしません。 うつうつした長期休暇、 今日はブレッドボードで仮接続していたステレオインジケータの正式組み込みを行います。

        ラボにはちいさなインジケータ用赤色LEDが何千本も在庫がありますが、 豆電球ほどの光量はありません。 そこで チャールズ・バベッジ号 に使っていた100円LEDテールランプ ― 正確に言うと2個買ったうちのストック在庫 ― を分解し、使われていた高輝度赤色LEDを、 取り付けられていたプリント基板とともに取り出して使うことにしました。 ハックソーで基板をLED3個分だけ切り出し、 これまたジャンクユニバーサル基板から切り出した基板に組み上げ、 インジケータランプAssyを作りました。




        それなりに考えて寸法出したつもりだったのに、 取付穴位置は実機とうまく合わず、 LED取り付け高さはフロントパネルの赤色レンズの位置よりも高くなってしまいした。 70点、ってところかな。 相変わらず、こういうのはヘタクソです。

        それでもとにかく、ステレオ信号を受信するとぽわっと赤ランプが光る機能は復活しました。

    2021-08-14 ステレオインジケータLED版 実装






    常用配置

  • 電源投入時に右チャネルパワーアンプから一瞬ハム音が出る
  • 右パワーアンプのほうがゲインが低くバランスつまみを20%ほど右にセットする必要がある
  • 電源投入してからFMが安定受信するまで2秒ほどホワイトノイズが大きく出る
  • FMの受信感度が低いように思われる
  • FMステレオで左右が大振幅で逆相となっている信号の復調が正常にできない
  • オリジナルノブは2つ欠品している - 4つ揃えたいところ

  •     ということで課題は残っていますが、 FMステレオ受信はほとんどの音源で十分に楽しめるし、 AUXからライン入力を入れれば実用上の問題はなし。 なにしろ効きが強いラウドネススイッチのおかげで、 ワーフェデールの16cmウーファからはたっぷりぶ厚いベースが響きます。 なので、ここでひとまず作業終了にしましょう。 プリアンプ・メインアンプに使われている電解キャパシタは結果としてすべて新品交換しましたが、 電源平滑の電解キャパシタとスピーカ出力DCブロッキングは、 意外と劣化の様子を示していないので、50年前のオリジナル品の続投で行きます。

        内部ワイヤを整理し、取り外していたシールドプレートを元に戻し、ケースカバーを取り付けて清掃。 夢と時空の部屋のスチールラックに組み込みました。 在宅勤務ほぼ100%の今、 ホームオフィスになった夢と時空の部屋で、 文字通り朝から晩まで頑張ってもらいましょう。

    2021-08-14 作業終了 常用開始





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