プロトタイピングボードとコンポーネントのセット、という推測は当たっていましたが、
残念、付属しているコンポーネントはちょっと少なすぎ。
デジタルロジックもオペアンプもないし、ラジオ用の部品もありません。
ちょっと寂しいね。
スピーカのかわりに付属しているのは圧電サウンダ。
マニュアルには圧電サウンダに振動板を取り付けて音を大きくする工夫について書かれています。 この商品は Conrad真空管ラジオキット と同様に ミュンヘンのFranzis Verlag GmbH社 [外部リンク] による製品。 メタルカンパッケージやマニュアルにはConradのロゴが入っていますが、 付属している電流計にはFRANZISのロゴが誇らしげに入っています。 |
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ラボには
Elenco Precision
[外部リンク]
のブレッドボードModel 9425がありますし、
Maxitronix 500 in One Electronic Lab
もありますし、
部品も十分にそろっていますから、
このキットの内装パッケージを開封して使う必要はほとんどありません。
未開封のまま取っておいてたまにニマニマしましょう。
楽しみなのはマニュアル。
マニュアルはすべてドイツ語で書かれていますが、回路図はエレクトロニクスエンジニアの共通言語。
はて、どんな回路ができるかな、なにかドイツ風なものがあるかな。 マニュアルの章構成は、いくつかの回路をひとつにまとめて実験テーマがつけられ、合計で102の実験テーマが掲載されています。 掲載されている回路図はすでに記したように合計で218回路。 テーマはカテゴリ分けされてはおらず、ずらりと並んでいるだけ。 試したい実験を探すのはちょっと苦労します。 マニュアルの構成で残念なのは、各実験のページには回路図がなく、回路図は巻末にまとめて掲載されていること。 解説文と回路図を交互に見るのがとても大変です。 この辺のユーザーインターフェイスの不親切さ・気配りのなさはヨーロッパ文化の伝統ですかね。 ページレイアウトはそこそこきれいなのですけどね。 他のどのエレクトロニクス実験キットとも同様に、マニュアル冒頭の実験は抵抗の直列接続・並列接続とかの基本中のキホンで占められています。 掲載されている実験を回路原理の種類で分類するのはちょっと手間ですが、 目についたものであとで参考にしたいものを以下に書き出しておきましょうか。 動作原理が同じでほとんどバリエーションに過ぎない回路をそれぞれ独立した回路としてカウントするのはこの手のキットの常ですが、 それにしてもね・・・というものもあります。
アナログ原理回路
遅延回路
2.31 Quiztimer
トランジスタ2石を使った簡単なOFF遅延回路。 スイッチをONにすると即座にLEDが点灯しますが、 スイッチをOFFにしてもトランジスタのベースに入れられた電解キャパシタが充電されているために、 それが放電されるまでの間は回路はONを維持するのでLEDは点いたまま、 すこし時間がたつと消える、というものです。 簡単な原理ですが、十分に応用可能。 YAMAHA TDM850のウインカーポジションライトコントローラ のディレイドゲートの原理もこれと同じです。 LEDのONとOFFの境がはっきりするように、トランジスタ2石をダーリントン接続して増幅度を稼いでいます。
2.60 Einschaltverzögerung
トランジスタ2石を使った簡単なON遅延回路。 スイッチをONにするとトランジスタのベースに電圧がかかりますが、電解キャパシタと充電電流制限抵抗のためにベース電圧はすぐには上がらず、 ある時間がたった後にトランジスタがONするという趣向です。 スイッチをOFFにするとキャパシタの放電抵抗のためにトランジスタは即座にOFFになります。 この回路もLEDのONとOFFの境がはっきりするように、トランジスタ2石をダーリントン接続しています。
デジタル原理回路
シュミットトリガ
2.27 Schmitt-Trigger
トランジスタ2石によるシュミットトリガ。 動作状態を確認するためのLEDドライバトランジスタを加えて3石の実験回路。 部品点数も多くないし、便利そうな回路です。 入力電圧は外部から入れます。 そういえばこのキットにはポテンショメータが付属していません。 ポテンショメータを使わずにこの回路の動作を試してみるのは面倒です。 ポテンショメータ付けてくれればよかったのに。
電源回路
バッテリモニタ
2.17 Aktiver Batteriemonitor
ポータブル機器のバッテリ電圧チェックに便利なバッテリモニタ。 トランジスタ2石を用いています。 回路番号42の場合、8.5V以上でLEDが点灯、7.0Vから8.5Vの間でLEDが点滅、7.0V以下でLED消灯になります。 ショットキーダイオードBAT85にわずかな順方向電流を流し、そのときの順方向電圧を判断の基準に用いています。 この用途のために作られた、より正確に動作する小さなICが上市されていますが、 この回路を使うのも楽しそう。 電圧安定化回路 (「ディスクリート・ツェナーダイオード」)
2.20 Variable Zener-Diode
トランジスタ2石と抵抗3本が、全体としてあたかもツェナーダイオードのようにふるまう回路です。 部品点数は増えますが、適当なツェナーダイオードがないときは役に立つかもしれません。 トランジスタのベース-エミッタ間電圧が一定となる性質を利用しているわけですが、 温度特性となるとはたしてどんなもんだろう、試してみようかな。 設定電圧の違いは抵抗値設定値の違いで、仕組みは4つの回路とも全く同じ。
2.99 Aktive Zener-Diode
トランジスタ2石と抵抗3本が、全体としてあたかもツェナーダイオードのようにふるまう回路・・・ あれ? なんだか覚えがあるな、えっと・・・やっぱり。 回路番号47から50までのと同じ理屈じゃないか。 回路図を左右鏡像反転にしてぱっと見には違うように見せたつもりなんだろうけど、 だまされないよ。 この動作原理で7回路も稼いだってわけだね。 低電圧安定化電源回路
2.26 Niedrige stabilisierte Ausgangsspannung
トランジスタ3石を使った、低電圧のシリーズパス型安定化電源回路。 ツェナーダイオードの代わりにトランジスタの接合電位を基準にしています。 手ごろなツェナーがないときに使えるでしょう。 最初の2つは9V電池から1.5Vまたは2.4Vを生成し、3つめの回路は1.5Vの電池から1Vを生成しています。 DC-DCアップコンバータ
2.25 Aktiver DC-DC-Wandler
220μHをエネルギーストレージインダクタとして使った、トランジスタ2石のDC-DCアップコンバータ。 最大で実に75Vまで昇圧します。 この実験をするため本キットの10μFの電解キャパシタは、耐圧16V品と耐圧160V品の2種類が付属しています。 この5つの回路は実はすべて同じで、負荷に何をつなぐか (電流計をつなぐか、LEDをつなぐか、またLEDの電流制限抵抗をいくつにするか、あるいは何もつながないか) だけが異なります。 これらを異なる回路としてカウントするのは限りなく黒に近いグレーのように思えますが。 定電流回路の応用: ツェナーダイオードテスタ
2.19 Zener-Dioden-Messgerät
このツェナーダイオードテスタは、トランジスタ2石を使った簡単な定電流回路の応用。 ツェナーダイオードに定電流を流し、そのときのツェナーダイオード両端の電圧を電圧計で測ります。 1.5Vから4.7Vまで対応できる回路と4.7V以上のための回路が紹介されており、これらは定数違いで、定電流設定値を変えてあります。 簡単な回路だけど、ジャンクボックスにあるダイオードのなかからツェナーを探し出すには便利と思います。 ひとつ作っておくと便利かな。
オプトエレクトロニクス
ソーラーライト
2.9 Solarleuchte
本キットに付属している太陽電池を使った、簡単なソーラー照明を3題。 最初の回路番号23は太陽電池でLEDを点灯させるもの。 次の24番はニッケル水素2次電池を使い、昼間は太陽電池で充電しつつ光らせ、夜はニッケル水素電池で光らせるもの。 3つめの回路は昼間はニッケル水素電池に充電するだけでLEDは光らず、暗くなって太陽電池が発電しなくなるとLEDが点灯するという仕組み。 光検知回路
2.22 Lichtempfindlicher Schalter
このキットには光を検出するためのものとして太陽電池とフォトトランジスタが付属していますが、 それに加えて緑色LEDも光検出デバイスとして用いられています。 普通のLEDにデジタルポケットテスタをつないで電圧を計ってみると、光を当てるとたしかに電圧が発生していることがわかります。 ガラス封止の普通のシリコンダイオードも同じことで、 LEDやダイオードに光が当たると電圧が起きる というのは 案外忘れてしまっていることかもしれません。 これら3つの回路は基本的にすべて一緒。 光センサからの微弱な電圧を2石ダーリントンで直流増幅して、赤色LEDを点灯させています。
発振回路
無安定マルチバイブレータ
2.6 Doppelblinker
「エキサイティングなダブルウインカー」と「退屈なダブルウインカー」。 定番の無安定マルチバイブレータの登場、 赤色LEDと緑色LEDが交互に点灯します。 これらふたつは抵抗の定数違いで、それぞれ繰り返し周波数が2Hzと0.5Hz。 これなら「赤が長い信号機」とか「青が長い信号機」とかであと2つくらい回路数を稼げるのでは。
2.8 Blinkendes Fahrradlicht
この2つも無安定マルチバイブレータ。 自転車のテールランプやヘッドランプへの使い道を想定しています。
2.14 Akustischer Durchgangsprüfer
無安定マルチバイブレータの発振周波数を音声周波数に設定して圧電サウンダで音を出せるようにしておき、 応用したものがここにある2題。 ひとつは導通テスタ、もうひとつはダイオードテスタ。 どちらかの向きだけで音が出れば正常、というわけです。 無安定マルチバイブレータはシンプルな回路ですが、さまざまな応用が可能です。
2.34 Nebelhorn
霧笛のような音を出す回路、という趣向。
2.35 Moskitoscheuche
超音波で本当に蚊が寄り付かなくなるものなのか個人的には経験はありませんが…。
2.40 Lautes Nebelhorn
こちらは無安定マルチバイブレータの後にトランジスタで増幅して大きな音で鳴るようにした霧笛ブザー。
2.41 Kopf oder Zahl
スイッチで無安定バイブレータの発振を開始したり停止したりできるようにしておけば、 コイントスゲームができあがります。 回路番号96は赤と緑のLEDでコインの裏表を模し、回路番号97では可動コイルメータが振れているかゼロかで示します。 「丁か半か」はドイツ語では「頭か数字か」と言うんですね。 なるほど、現代のユーロのコインも片側には人物の頭が、反対側には数字が書かれています。
2.70 Einfacher Signalinjektor
シグナルインジェクタは「信号注入器」。 信号を回路に入れて、その反応を調べる動作テストのための簡単な装置です。 ここで示されているのは無安定マルチバイブレータを使った発振周波数2kHzの矩形波発振回路。 基本周波数は2kHzで低周波ですが、矩形波には無数の高調波スペクトルが含まれていますから、 低周波回路だけでなくて高周波回路のテストにも使えます。 ラジオ修理に際してシグナルインジェクタとペアで用いられるシグナルトレーサは 回路番号145 に掲載されています。
2.87 Akustischer Durchgangsprüfer
マニュアルも終盤にさしかかってなんとか全200回路越えを目指そうとしたのか、 またまた導通テスタの登場。 無安定マルチバイブレータを使って圧電サウンダを鳴らしますが、 圧電サウンダの接続をテストリードとしておいて、導通があれば音が出るという趣向。 こちらの回路は常時発振動作をしていますから、回路番号36のほうが電池が長持ちしてよいかも。 あるいは逆に、回路番号36では0Ωに近くない場合でも音が出てしまうかもしれないので、 確実な低抵抗であることをチェックしたかったらこちらのほうがいいか。 目に優しいLED点滅回路
2.28 Augenfreundlicher Blinker
トランジスタでLED点滅回路を作るなら無安定マルチバイブレータ回路が定番だと思いますが、 ここで示されているのは「目に優しい点滅回路」。 トランジスタ2段の増幅回路にフィードバックを掛けた低速の発振回路で、 正弦波に近い発振動作をします。 このためLEDはパッとついたり消えたりするのではなく、 ぽわっと明滅を繰り返します。 クリスマスイルミネーションなどに似合うでしょうね。 この回路のままでは電源投入から点滅開始までちょっと時間がかかるので、 用途によってはブートアップの工夫が必要かも。 弛張発振回路: パルスジェネレータ
2.21 Akustische Wellness - Uhrenticken
回路番号51は1秒に1回、回路番号52は1秒に2回のティック音を出す回路。 トランジスタ2石にフィードバックを掛けたパルス発生回路で、圧電サウンダを鳴らします。 それぞれ振り子時計のような、また置時計のような音で心休まる・・・かもしれない、 と書かれています。 今年の秋口からの私のストレス要因は本当に酷くて、トランジスタ2個でどうにかなるようなものではないのですが、 こんなものにもすがりたいという気持ちです。 2.39 Blitzer 回路番号51/52と大して変わらない弛張発振回路で、LEDをストロボライトのようにごく一瞬点灯させます。 93と94は定数違いで、それぞれ1秒に1回点灯と、3回点灯の違い。
2.36 Metronom
UJT1石でつくる弛張発振器・・・といっても、ユニジャンクション・トランジスタって使ったことなかったなあ。 その頃近くにそんなもの売っているお店はなかったからね。 そんな化石のようなデバイスの実験をしていまさらどんな価値があるんだろうと思ったりしますが、 きっとこのキットを企画開発した人の子供の頃の思い出が詰まっているのでしょう。 この回路ではPNPとNPNのトランジスタを組み合わせてひとつのUJTとみなしています。 発生したパルスは圧電サウンダで聞きます。
2.76 Nadelimpulsegenerator
トランジスタ2石によるパルス発振回路。 定数違いで6つもの回路数を稼いでいます。 発生したパルスは圧電サウンダで聞きます。 これもやはりオシロスコープを使って、パルスの波形を実際に見てみたくなるでしょう。 LC発振回路
2.83 LC-Generator
トランジスタ1石によるコルピッツ発振回路で、150kHzならびに450kHzを発振します。 150kHzを発振しているかどうかなんてどうやってテストするのよと思うかもしれませんが、 ヨーロッパのポータブルラジオは長波(LW)が聴けるものが多いんです。 450kHz発振のほうは、うまくすれば普通のAMスーパーヘテロダインラジオの中間周波飛び込みとして受信できるかもしれませんね。 ラジオに妨害を与えてしまうかもしれないこの周波数の電波を出すのは禁止されているはず・・・とかは気にしないでおきましょう。 このキットに付属しているインダクタには中間タップはありませんから、ハートレー発振回路の実験はできません。 CR位相型発振回路
2.72 Einfacher RC-Sinusgenerator
トランジスタ1石によるCR位相型発振回路。 3つの回路はCRの値違い。 コレクタから電解キャパシタで低周波信号を取り出し、圧電サウンダを駆動します。
増幅回路
エミッタ接地増幅回路
2.92 Klasse-A-Endstufe
とても基本的なエミッタ接地トランジスタ増幅回路はマニュアルの最後のほうになってようやく現れます。 出力はコレクタからキャパシタで取り出し、圧電サウンダで聞きます。 回路につけられたタイトルは「A級出力段」ですが、 A級とは何のことかは説明されておらず、B級やC級も動作点の話も出てきません。
2.13 Antennedverskärker
長波・中波ロングワイヤーアンテナ用プリアンプ。 いかにもそそられるタイトルですが、 実態はひどく原理的なトランジスタ1石のエミッタ接地増幅回路。 もちろんインピーダンスマッチングのような特別な工夫があるわけでもありません。 まあ新品で買えば100ドル以上もする MFJ-959B アンテナチューナー・プリアンプ もアンプ部はこれと一緒だし、しょっちゅうお世話になっていたんだから、試さないうちに笑い飛ばすのは失礼というものです。 回路番号35のほうは短いワイヤーアンテナ用のもので、 高いインピーダンスのアンテナからの信号をNチャネルFETのソースフォロワで受けてからNPNトランジスタのエミッタ接地で増幅します。 このあたり簡単だから試してみようかな、案外実用性あるかも。 キャパシタ結合2段増幅回路: シグナルトレーサ
2.69 Signalverfolger
ラジオ修理に便利なのはシグナルインジェクタとシグナルトレーサ。 テスタに加えてこれらがあればかなりのところまで故障個所を追い詰められます。 シグナルトレーシングの考え方 はラジオやオーディオばかりではなくてコンピュータプログラムのデバッグにも自動車やモーターサイクルの修理にも極めて有効。 エンジニアならば誰しも、教わらなくても経験を積むうちに自ずと学んでいくことでしょうが、 最近の新入社員エンジニアが必ずしもこういった能力を身につけてはいないことが多くなってきているのは、 自分でいじったり試したりできるシンプルなメカに触れる機会が減っているからなのでしょうかね。 この回路はトランジスタ2石によるシグナルトレーサ。 要するに単なるキャパシタカップリング2段のエミッタ増幅トランジスタアンプで、圧電サウンダで音を聞きます。 回路番号146は2段アンプの出力をショットキーダイオードとキャパシタで直流にし、信号レベルをメータで読んでいます。 ということはそのままオーディオレベルメータとして使える回路。 入力にダイオード検波回路を追加してやればAMラジオの中間周波段あるいは高周波段まで遡れて便利だと思いますが、 そこまでは説明されていません。 この次には 回路番号147 に簡易シグナルインジェクタが掲載されています。 2段直結増幅回路
2.18 Zweistufiger NF-Vorverstärker
NPNトランジスタ2石による、2段直結オーディオプリアンプです。 はて、2石直結回路はほかの電子実験キットでは取り上げられていなかったような気がします。 EL500 のマニュアルにはありませんね。 他はどうだったっけかな。
2.24 Sturmdetektor
こちらはストーム・ディテクタ --- 雷雨検知器 --- と称していますが、単なる2石のオーディオアンプ。 「この回路は増幅度が2,000倍あり、かすかな電磁パルスにも反応するので遠くの雷の放電パルスを音として聞くことができる」 と説明されています。 確かに最近はAMラジオで雷の音を聞いたことがないというエレクトロニクスエンジニアも多くなっていますので、 こういったキットで電磁気の基本を体験するというのは貴重な学習機会だろうと思います。 この回路は回路番号44の2石アンプと基本的に同じ直結2段アンプですが、よりゲインが稼げるように初段のエミッタはグラウンド直結にしています。 RIAAイコライザとローノイズプリアンプ
2.29 RIAA-Entzerrer
あれまあ、この手のキットにRIAAイコライザがあるとは。 トランジスタを3つ使っており、部品点数もそれなりに多く、 本機マニュアルに掲載されている回路の中ではかなり高度な部類に属します。 AIWA TPR-840 も Kenwood KR-9340 も壊れちゃっているから、 たまにはレコードが聴けるよう、ひとつ作っておこう。 マニュアルの回路では圧電サウンダで聞きますが、 スピーカがそれじゃあイコライザが利いてるかどうかなんて分かんないんじゃないのかな。 さらに回路番号71では、 高音質ながら出力電圧がとても低いMC型カートリッジを使うときのために、 RIAAイコライザの前段に置くプリアンプが用意されています。 シンプルなエミッタ接地増幅回路ですが、 NPNトランジスタを2つパラに接続してローノイズ化を図っています。 この実験では例によって出力を圧電サウンダで聞きます。 MCカートリッジを圧電サウンダで聞く、というのはやはりどんなものなのかなとは思いますがねえ。 効果のほどはともかく、 単に音が大きくなりましたね的な実験ばかりのこの手のキットにしてはローノイズということに言及した実験は目を引きます。 プッシュプル増幅回路
2.51 Eisenloss Gegentakt-Endstufe
トランジスタ3石のシンプルなプッシュプル・オーディオアンプ。 NPNトランジスタ1石で初段増幅した後、圧電サウンダをNPNとPNPのトランジスタでプッシュプル駆動します。 クロスオーバ歪低減のためにプッシュプルのベース電圧はダイオード2本の順方向電圧降下を使ってバイアスを作っています。 タイトルは「トランスレス・プッシュプルアンプ」ですが、 なにしろ本キットには低周波出力トランスは付属していないので、 トランスレス構成にせざるを得ないのは当然です。 マニュアルには「MP3プレーヤを入力につなげば圧電サウンダで大きな音で聴ける」とあるだけで、 回路の動作原理には触れられていません。 学習キットなのだからダイオードは何のために入っているのかの説明は欲しかったところです。 高入力インピーダンス増幅回路
2.61 Rauscharmer hochohmiger Eingangsverstärker
初段をNチャネルFETで受け、次いでPNPトランジスタで増幅したアンプ。 「入力インピーダンスが十分に高いので、入力端子に指で触れるとノイズやバズ音が聞こえる」 と解説されています。 タイトルにはローノイズと謳われています。 この入力段は、実はこの後に出てくる回路番号137のミキサー入力回路と同じ。 ダーリントン増幅回路: オーディオミキサー
2.67 Mischpult
オーディオミキサ用の入力段回路と出力段回路が紹介されています。 回路番号137は入力段で、複数の入力チャネルそれぞれにNチャネルFETをもち、出力を束ねて混合しています。 ただし本キットにはNチャネルFETはひとつしか付属していないので、 実質的にこの実験を行うことはできません。 回路番号138はトランジスタ2石をダーリントン接続したオーディオアンプ。 実験では圧電サウンダで出力を聞きます。
オーディオアクセサリ
VUメータ
2.12 Peak-VU-Meter
いやまさか、いきなりピークレベルメータだなんて期待してはいけません。 この2つのオーディオレベルメータは、ひとつはLED式、もうひとつは電流計を振らせますが、 オーディオ信号をダイオードで整流したあとにトランジスタ1石で増幅しているだけ。 ダイオードの直後に電解キャパシタが入っているので応答が遅くなり、 何もなければメータが機械的に反応できないようなインパルス入力であっても応答できる、 というもの。 ですが当然、メータの読みはインパルスの高さを正確に表示するわけではありません。 普通にオーディオレベルメータとタイトルが付けられているなら、 トランジスタ1石で実験する定番の回路のひとつとしてごく自然なものなのですが。 整流用のダイオードには普通のシリコンダイオード1N4148を使っていますので、 信号レベルが低い時のメータ感度が悪いという欠点も残っています。 ハイパスフィルタ
2.15 Hochpass
ハイパスフィルタの実験。 何ということはない、エミッタ接地1石トランジスタアンプの入力端子に直列に小さめのキャパシタが入っているだけ。 3つの回路はキャパシタの容量違いです。 ラジオかオーディオプレーヤなどからの音声信号を本機に入れ、 トランジスタのコレクタからキャパシタを通じて取り出された音声信号で圧電サウンダを駆動します。 でもなあ、圧電サウンダではどのみち低音など出るわけはないから、 そもそもハイパスを通しているような音しか出ないんじゃないのかな。 オーディオリミッタ
2.23 Symmetrischer NF-Begrenzer
トランジスタ2石を使ったオーディオリミッタです。 実験のためには外部からオーディオ信号を入れます。 出力はキャパシタを介して圧電サウンダを鳴らしています。 む、これは便利そうだ。 私は複数の国が参加する国際電話会議に毎日のように参加していますが、 独自規格のIP電話から接続した拠点だけが音声レベルが極端に大きく、 いつも耳を傷めながらの会議になっています。 この回路を使えば多少は緩和されるかも。 まあ仮に音声レベルが一定していたとしても、耳が痛い話ばかりしているのですけれど・・・。 あるいは、 自作VUメータアンプ に付け加えて、 オーバーロードでもメータが振り切れないようにすることもできるな。 メータアンプなら多少音質が劣化しても関係ないし。 これは試す価値あり、です。 電子ボリューム2題
2.43 Elektronisches Potenziometer
NPNトランジスタ1石による低周波アンプですが、 エミッタ抵抗の代わりにNチャネルFETが入っていて、 FETのゲートに負の直流電圧を加えることによりアンプのゲインを変化させることができます。 マニュアルによれば制御電圧0Vでゲインは約10倍、 -5Vの制御電圧を加えると100分の1まで減衰させるとのこと。 回路の最大出力は0.5Vとも書かれています。 このキットにはポテンショメータがついていないので、制御電圧は乾電池を使って-1.5V, 3V, -4.5Vで試してみろ、 とマニュアルには書かれています。 キットについている単3電池ホルダは2本用なので、 -4.5Vを作りたければ電池ホルダを追加するか、電池に直接セロハンテープか何かでリード線をつなぐことになるでしょう。 これもポテンショメータが付属していれば簡単に実験できるのにね。 でもあれか、ポテンショメータが付属しているのならわざわざ電子ボリュームをつくる動機もなくなるか。
2.55 Elektronisches Potenziometer
なんで2.43とひとまとめにしなかったんだろう、実験テーマ数を稼ぎたかったのかなと勘ぐってしまいますが、 これも電子ボリューム。 トランジスタアンプのゲインを可変にする回路番号100とは異なり、 こちらは分圧抵抗の下側をNチャネルFETにしただけの簡単なものです。 制御電圧0Vで約100分の1に減衰、制御電圧-5Vで2分の1に減衰される、とあります。 取り扱える最大出力は1Vまで。 フェーズシフタ
2.74 NF-Phasenschieber
トランジスタ1石によるフェーズシフタ。 3つの回路はRの値違い。 信号は外部から入れ、外部に取り出します。このキット単体だけでは実験できません。 位相がどのようにずれているかを知るにはやはりオシロスコープが欲しくなるでしょうね。
ラジオ受信機
AMラジオ
2.66 Einfaches AM-Radio
あれ、よく読んだらAMラジオの回路がある。 バリコンは付いていないのに・・・? 回路図では同調コイルとして220μHのインダクタを使っていて、それに並列につながるキャパシタC1には本文参照と書かれています。 マニュアルを読むと、バリコンを手に入れて使うのがよいが、ないならキットについているセラミックキャパシタを並列直列いろいろ組み合わせてみろ、 きっと近場の放送局が大きな音で聞こえるだろうと書かれています。 なるほどね。 回路はトランジスタ3石。 ダーリントン接続して増幅度を稼いだ初段でトランジスタ検波し、 次段で低周波増幅して圧電サウンダを鳴らします。 どんな感じだろうね。 さらに読むと、「ドイツではこういった放送局がまだまだあるが、 オーストリアでは残念なことにもうなくなってしまった」と書かれています。 知らなかったのですが、戦争によって破壊され、戦後国土を分割統治されたオーストリアでは、 国土の大半が山岳地帯ということもあってラジオ放送の大半がFMで、 AMは冷戦時代のプロパガンダ放送の色が濃く、冷戦終結とともに放送終了。 1997年に再開局し、少数民族向けプログラムとユーゴ紛争時に戦地向けに放送していたウィーンの1476kHz送信機も2009年1月1日に停波。 もうオーストリアにはAM放送局はないとのことです。 これはオーストリアの子供はゲルマラジオを作る楽しみはもう味わえないということだし、 手作りラジオはまずAMからとはいかない国があるってことです。 それにおそらく・・・AMラジオがそのまま戦争の記憶に結びついている人々もきっと大勢いるということなのでしょう。
2.100 Detektorempfänger
マニュアルも終わり近くになって、突然ラジオ受信回路の再登場。 日本なら「鉱石ラジオ」とか「ゲルマラジオ」とか呼ばれるものは、 ドイツ語では"Detektorempfänger" --- 「検波受信機」というわけですね。 回路番号212は同調回路もなく、アンテナの信号をただショットキーダイオードで検波してピエゾサウンダを鳴らします。 もちろん複数の放送局を選ぶ能力はありません。 AMラジオ送信アンテナあるいは航空無線標識ビーコン送信アンテナの近くまで行かないと試せないんじゃないかと思います。 まあ 1920年代前半だったならばこのような回路が研究されていた わけですけれど。 「改良された検波受信機」。 並列同調回路の働きによって、複数の電波の中から目的の信号だけを選択して聞くことができます。 確かにこれは革新的な進歩だ!! 回路は代表的なゲルマラジオのそれ。 回路番号141のラジオと同じく、セラミックキャパシタを一生懸命組み合わせて選局します。 その名の通り、アンプ付きゲルマラジオ。 前述回路番号213のゲルマラジオの音声信号を、NPNトランジスタ1石によるシンプルなエミッタ接地増幅回路で増幅し、 圧電サウンダを鳴らします。 同調キャパシタの選定がうまくいったとすれば、これならしっかり鳴ってくれるでしょう。 これでラジオ回路はおわり。 ドイツ人の好きな再生式 は出てきませんでした。 バリコンもポテンショメータも専用同調コイルもなくては無理ですからね。 |
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