Lafayette HA-55A
Aircraft Receiver
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ラボには仕掛りのプロジェクトが山積みだというのに、またもや買ってしまったのはLafayetteの航空無線用受信機。
広帯域受信が可能なハンドヘルド・トランシーバを売ってしまったのでエアバンドが聞けるラジオが欲しかった、
というのは理由になるけど、それなら着手してからもう4年になろうとしている
Ramseyのキット
を完成させるほうが先じゃないの? まあ本来の目的から逸脱することにこそ趣味の意義があるわけで、 などと訳のわからないことをつぶやきつつ、新しい(古い)ラジオをいじりだすわけです。 このページは今朝までその存在を知らなかった Lafayette HA-55A をいじりながら、 その記録として書いています。 本機に関して情報をおもちの方はぜひご一報ください。 Lafayette社は1921年に設立され、1950年代・60年代を通じて数多くのアマチュア向け受信機を送り出してきたものの、 主として海外の低価格製品のOEM販売であったので、どのモデルも性能的には良い評価を得ていません。 60年代の同社のモデルは実は日本のトリオ、現在のケンウッド社の設計製造であり、 したがって日本製アマチュア向け受信機の性能・品質が米国製を追い越す以前の時代であったと言えます。 |
リヴァモアのスワップミートで入手したHA-55Aは、外観は良好で内部もほぼオリジナルと見受けられました。
真空管受信機としてはコンパクトで、カラーとスタイルから判断して1964ないし1968年頃のモデルと推定します。
フロントパネルには電源スイッチ兼用ボリュームコントロール、スケルチコントロールそしてチューニングつまみ、
フロントファイヤリングスピーカとヘッドホンジャックが配置されています。
ダイヤル目盛りは108Mcから136Mcとなっており、VHFエアバンド全域をカバーしています。
受信モードは当然AMのみ、シャーシ背面には電源ケーブルと、ネジ止め式のアンテナターミナル。
さっそく電源を入れ、フットヒル・スペシャルの144MHz帯用Jポールアンテナをつないだところ、 ローカルFM局の混信のほかオークランド広域管制の交信がかすかに受信できました。 しかし感度はお世辞にも良いとは言えません。 私のラボはサンノゼ・インターナショナル・エアポートから約10マイル程度の位置にあり、 エアバンドでは感度がけっこう悪かったハンドヘルド機とラバーダック・アンテナでもSJCのATISが受信できましたし、 マウンテンビューのモフェット・フィールド(NASAのAMES研究所に付帯する飛行場) の自動天候観測システムの放送も聞けたのですが、HA-55Aでは全く入感しません。 これがこのラジオの実力なのでしょうか? |
で、さっそくカバーを開けて中を見てみました。
ご覧の写真は清掃前に撮影したものです。
年代相応の埃が堆積していますが、そのほかには大きな問題はなさそうです。
真空管が8球使用されており、B電源の整流には
シャーシ下面
のシリコン・ダイオードが用いられています。
ダイヤル盤すぐ裏の小さい金属管
はトランジスタではなく、ニュービスタと呼ばれるVHF帯増幅用の真空管、6CW4です。
おそらくRFアンプでしょう。
6CB6と12AT7の部分でダブルスーパーヘテロダインを構成しているものと推定していますが、はたして・・・・?
(後日訂正:シングルスーパーでした) 12AT7と12AX7はヒータのセンタータップを用いて、パラレル接続で6.3Vで点火されているようです。 ニュービスタを除いたすべての管は正常に点火しており、 またニュービスタも暖かくなるので、真空管はとりあえず正常なように思われます。 ただし6CB6、12AT7および12AX7についてはアメリカ製およびドイツ製が使われており、 交換されたのではないかと思われます。もしかしたら代替球になっているのかもしれません。ほかの球は松下製です。 |
底面パネルの取り付けネジと、おそらくあったはずのゴム足がなくなっていました。
手持ちの新品ゴム足を取り付け、シャーシ下面のほこりとクモの巣を払ってパネルを閉めました。 セーフ・ウォッシュを使って、シャーシ上面をざっと清掃。 真空管は柔らかい布で汚れを落とし、フロントパネルとノブは台所用洗剤で清掃。 当初動作時に出ていた、古い真空管ラジオ独特の埃のにおいが取れました。 気が付いたのが、小さな黒い斑点のようなものがシャーシ内部に数多く付着していること。 洗剤では取れないのですが、柔らかいプラスティック・ドライバでこすると溶けたゴムのようになり、 こすると取れるようになります。 これの正体は不明ですが、ひょっとしたらなにかの虫の糞かも。 いずれにせよ全て除去するには相当の根気がいりそうです。 |
さて最大の疑問は、このラジオの性能はこの程度なのか?ということです。
2時間ほど連続でオークランドを受信してみたところ安定度はかなり良いように見受けられますが、いかんせん感度が。
整備・調整すれば本来のパフォーマンスが取り戻せるのか、はたまたこれがベストなのか。
いくらLafayette の評判が芳しくなかったからとはいえ、もう少し鳴って欲しいところです。
ろくな計測器もないので、判断できません。さあ、次のステップは? |
回路図が手に入るまでのあいだ、少しずつ調べてみることにしました。
手始めに電源整流回路と低周波段の配線を追いかけてみます。
6AL5 双2極管で検波が行われ、その出力の音声信号は 12AX7 双3極管の第1セクションのグリッドに印加され、ここで低周波増幅が行われています。
プレートから取り出された信号は電源スイッチ兼用のボリューム・コントロールのホット側につながります。 ボリューム・コントロールのワイパーは 6AR5 のコントロール・グリッドに印加され、低周波出力増幅されます。 出力トランス2次側にスピーカとヘッドフォン端子がつながっています。 12AX7 の第2セクションはどうやらスケルチ回路となっているようです。 現代風のスケルチでは音声信号が出る・出ないがはっきりしていますが、本機のスケルチは明確なON/OFFをしません。 が、これが正常なのか今一つはっきりしません。 ともあれ、無信号時に出るであろうバックグラウンド・ノイズが全くないので、現状の性能が本来の姿でないのは明らかです。 なぜならこれではスケルチなどそもそも必要ないからです。 12AX7 のグリッドにCDプレーヤの音声信号を注入してみると、 きちんとスピーカから音が出ます。 ただしトータルゲインは今一つで、ボリューム・コントロールを最大にしてもやや大きめの音でしかありません。 スピーカが小型なことを差し引いても、性能が低下しているのではないかと思われます。 スピーカはフロント・パネルにラバー・ブッシュでマウントされ、 また高周波段が実装されているサブ・シャーシはこれまたラバー・ブッシュでフローティング・マウントされています。 ハウリング防止対策であると思われます。 しかしすべてのラバー・ブッシュはすでに完全に硬化しきっていますので、大きな音が出るようになったらブッシュを交換しなくてはなりません。 逆に言えば現状ではハウリングを起こすほどの音量が得られていないわけです。 |
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どうやらこのラジオはシングルコンバージョンのようです。
であれば、中間周波数として10.7MHzが使われているのではないかと思われました。
アメリカのFM放送バンドの上限は108MHzであり、
本機のダイヤルにして118MHz以下にはFM放送のイメージ混信が聞こえることからも推測できました。
(サンフランシスコ・ベイエリアではFM放送は88MHzから108MHzまで、ほぼ空きチャンネルなしでひしめき合っています。
このため、本機のダイヤルのほぼ半分はFM放送のイメージ混信だらけという状態。) 短波受信機 エコーフォンEC-1A を10.7MHzに合わせ、アンテナリード線を本機の検波段付近に近づけると案の定、中間周波数信号の漏れが受信できます。 こうして受信すればシステム全体としては実に14球ダブルスーパー(!?)。 オークランド・センター管制がはっきり、しかもエコーフォン自慢の良い音で聴くことができます。 中間周波増幅は2本の6BA6で行なわれています。 中間周波段とその前段では、見る限りすべてセラミック・キャパシタが使われています。 低周波段では0.001μFから 5μFまですべてチューブラ型。 セラミック・キャパシタは劣化が少ないとされていますから、 キャパシタの劣化による性能低下があるとすれば検波段以降に集中しているはずです。 |
手始めに低周波出力段のキャパシタを見てみます。
出力管6AR5 のカソード・バイパスとして5μFが使われています。
まずこれを取り外してテスタを当ててみたら・・・全く針が振れません。いきなりビンゴ!?
サンタクルーズのハムクラブで「アマチュア無線、アメリカと日本の違い」
なる講演をやったときのギャラとしてもらったジャンクパーツボックスの中から中古品のスプラグ社製のものを取りだして使用してみたところ、
スピーカからの音が俄然大きくなりました。 気をよくして、低周波増幅管12AX7 のカソード・バイパスキャパシタを交換。やはり容量は5μF。 こちらには100V耐圧のスプラグ社製NOS品(New Old Stock の略で、いわゆる新古品です)を使用。 スピーカの音はさらに大きくなって、今やフルボリュームでは近所迷惑になりそうな音量です。 実際にオークランドを受信してみると、ボリューム70%程度で十分な音量が得られます。 し、バックグラウンド・ノイズも聞こえます。 また同調周波数によってはスピーカの音によるハウリングが起こるようになりました。 ローカル局受信なら十分に実用になるレベルまで性能が改善されました。 ふたたび教訓。 電解コンは全て交換せよ。 結局低周波段と検波段に使われているチューブラ型キャパシタをすべて交換。 カソード・バイパス・キャパシタの時のようなドラマティックな変化はありませんでしたが、 全体的な感度は明らかに向上。いまやフルボリュームにすると、 NOOBOW8000コンピュータのディスプレイから出るノイズがうるさいほどの音量で聞こえます。 スケルチを使う必要性がようやく出てきました。 アンテナをつながない時のホワイトノイズはかすかな程度です。 検波段以前を調整するかなにかで、もう少し感度が上げられるのではないかと思われます。 またアンテナをつながないでいても、何個所か特定の周波数でハウリングのような大きな音が出ます。 どうやら寄生発振しがちな周波数があるようです。 面白いのは134MHz付近で145MHz帯のローカル・リピータのイメージ混信があること。 変調はもちろんFMなのですが、ナローデビエーションのためかきれいに復調されます。 音は手持ちの日本製2m受信機能付き430MHzハンドヘルド機よりもはるかに良好なほど。 低周波段の修理により全体的な感度は大幅に向上したものの、 まだサンノゼ・インターナショナルのATISは聞こえません。 ラボにはシグナル・ジェネレータのような気の効いたものはないので、 受信テストは実際の航空無線を受信するほかありません。 が、当然のことながら夜もふけるとサンノゼやサンフランシスコに離発着する便も減りますから、通信も減ります。 ATISであれば常時送信されていますから、受信テストにはもってこいなのですが。 安物でもいいからジェネレータが欲しいなあ。 Lafayette HA-55A Sound Clip (MP3 : 489KB) |
さて、今度はニュービスタ管6CW4の周辺を見てみました。
6CW4 は高μ3極管で、RCA Receiving Tube Manual (1966) によればこの管は、
テレビやFMラジオなどの高周波増幅段としてカソード接地で用いられる、とあります。
配線を追いかけると、アンテナ端子の信号は同軸ケーブルで 6CW4 の直近に導かれ、
キャパシタとコイルからなるフィルタを通ってグリッドに加えられます。グリッドにはバイアス抵抗はありません。
カソードはシャーシに落とされており、
プレートの信号は 10pF のキャパシタを介して6CB6シャープカットオフ5極管のコントロール・グリッドに伝えられます。
当初6CB6と12AT7とで周波数変換を行っているのではと思いましたが、これは高周波増幅段でした。
6CB6 は
ハリクラフターズSX-96
でも高周波増幅管として用いられています。 そこで6CW4をバイパスして、アンテナ線を直接 6CB6 のコントロール・グリッドに接続してみました。 ここにもバイアス抵抗はなく、直流的にはグラウンド電位です。 結果は・・・なんと6CW4を通したときと感度が変わりません。 6CW4はきちんと増幅しているのでしょうか? |
6CW4をソケットから取り外し、
真空管テスタ
でチェックしてみました。
するとヒータは通電しているし、エミッションレベルも正常です。
ただしこのテスタもまたLafayette製。十分に使い込んでもいないので、テスタ自体が正常なのかは今一つ疑問。
まあとりあえず6CW4自体は正常であると見ましょう。
6CW4のプレート動作電圧はRCAマニュアルによれば70V。
本機では60Vですのでやや低めといえます。 ところが気になったのが真空管の温度。 テスタの電源を切った直後の6CW4は、指では触れないほど熱くなっています。 RCAのマニュアルには動作中は135℃にも達するとありますから、これ自体は異常ではありません。 しかしHA-55Aに戻して電源を入れてみると、温度は上がるものの熱くて触れないような温度ではありません。 すぐ隣の6CB6のヒータは正常な明るさで点灯していますので、ヒータ電源電圧に異常はないはず。ではなぜ? |
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最初書き起こしてみた回路図
を見直してみるに、グリッドが直流的に浮いているなんてどう考えても変です。
もう一度、6CW4のピン配置を再確認して回路を追いかけてみると・・・ 大間違い!
これはグリッド接地回路なのでした。 最初グリッドと思い込んでいたピンは実はカソードで、
単なるセラミック・キャパシタだと思い込んでいたのが実は68Ωの抵抗とキャパシタが一緒になった部品だったのです。 これで納得、グリッド接地にすれば3極管の欠点であるグリッド−プレート間の静電容量によるフィードバックの心配がなくなり、 高い周波数でも安定な動作が期待できます。 そのかわり、カソード接地ほどのゲインを稼ぐことはできません。 6CW4ニュービスタを使ったグリッド接地型プリアンプについては、QST誌1963年05月号42ページにW1REZによる解説があります。 この記事には、 6CW4のグリッド接地では入力インピーダンスがとても低いから入力トランスを配置して2次コイルでタップダウンするのが一般的である、 と書かれています。 HA-55Aでは入力トランスではなく、アンテナ端子そのまま。 よって接続するアンテナはインピーダンスが低くなくてはなりません。 長さも適当なビニール線アンテナでは高インピーダンスとなってしまい、ニュービスタプリアンプとのマッチングがうまく取れず、 よって性能が出ない・・・プリアンプ後に直接つないだほうがむしろ感度がよい、ということなのでしょう。 |
Lafayette のマニュアルなら無い物はない、と豪語する manualman 氏に HA-55A と HA-63A のマニュアルを頼んでみると、
1週間しないうちにきれいにコピーされバインダに綴じられたマニュアルが届きました。
もちろん回路図つきです。 で、さっそく実機と比べて見てみると・・・使われている真空管が違う! 日本製でない真空管はもしかしたら代替球かも知れないという当初の推測は、全部ではないものの当たっていました。 |
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むむ、さらなる疑問が! これらの真空管はピン互換ではありません。
このマニュアルが古くて実は後期ロットからのランニングチェンジがあったという可能性もありますが、
実機で使われている管が日本製ではないところを考え合わせると、
前のオーナーは何らかの理由で、たとえば手持ち球を使うためとか、あるいは性能向上のために、内部配線の改造を行ったものと考えられます。
改造は、これらの管に付いていた埃や汚れの具合から、かなり以前に行われたと思われます。
し、オリジナル球はいずれも広く使われていた球ですから、真空管の入手困難のために行われた改造とも思えません。 あらためて 6CB6 と 12AT7 の周辺を観察すると、確かに手を加えた形跡があります。 半田の光り具合が違っていたり、リード線が途中で継ぎ足されていたりします。 ソケットターミナルの何本かにはおそらく工場生産時の赤マジックインキによるチェックが入っているものの、それがないものもあります。 ユーザの手による改造があった、と結論できるでしょう。 さてこうなると、この改造の意図とその妥当性が気になります。 第2高周波増幅も周波数変換も今のところ動作していますし、改造のメリットが大きいのであれば、 あえてそれをオリジナルに戻す必要もないでしょう(私は何がなんでもオリジナル、といった考えではありません)。 逆に今起きているFM放送の強烈なイメージ混信の原因がこの改造にあるとすれば、元に戻す意義があります。 ううむ。 ところで低周波増幅とスケルチ用の 12AX7、これは単に交換されていただけのようです。 ジャンク屋でスペア球でもないかと探してみましたが、全然見当たりません。 それもそのはず、どうもこの管はオーディオマニアに人気がある球のようです。 私は真空管オーディオに詳しくはないのですが、特に欧州製の管でマーキングがきれいなものはかなりの値段で取り引きされているようです。 日本製の球は比較的安いようですが・・・。 |