Toshiba RP-1600F
"TRY X 1600"
Shortwave Receiver
(1975) |
いきなりやってきたブームの中、飛ぶように売れているナショナル・クーガとソニー・スカイセンサーを見て、
上層部は一日も早い対抗機の市場投入を命令したのかもしれませんね。
けれどもそれまでの深夜放送リスナー向けトランジスタラジオを一足飛びに本格的な短波受信に使えるモデルに仕立てるのはさすがに開発期間が足らなかったのでしょう。
であれば既存のモデルに最小限の装備追加で短波向けをアピールするしかない。
そして高性能・高機能を売りにできないのであれば、
小学生のお年玉とお小遣いではなかなか手が届かない2万円超のモデルではなく、
多くの子供に手が届く低価格を目指そう。
東芝TRY-X 1600ではそんな標品企画戦略が立てられたのかもしれません。 1975年デビューのTRY X 1600は1万5500円という低価格ながら内蔵キャリブレータと較正可能なバンドスプレッドダイヤルリングをもち、 国際放送バンドでの周波数読み取り精度を高めました。 先行のの大人気機種である クーガ115 も スカイセンサー5800 も、 短波ダイヤルの周波数読み取り精度は100kHzといったところでしたから、 TRY-X 1600のダイヤル読み取り機構は明らかなアドバンテージでした。 しかし短波帯は12MHzまでしかカバーしておらず、 外部アンテナ端子を持たず、 BFOも装備していないとあっては本格的に短波を楽しみたいと考えるユーザの注目を得ることはできませんでした。 当時すでに クーガNo.7 を使っていてステップアップを考えていた私にとっては、 TRY X 1600は一度も購入検討候補には上がりませんでした。 いっぽう実際の市場はシリアスな短波フリークよりはカジュアルな深夜放送リスナーのほうが多かったでしょうから、 低価格な1600はむしろそういったカジュアルユーザに歓迎されたのだろうと思います。 1600のデビューと前後して スカイセンサー5900 が登場し、 短波ポータブルはダブルスーパーヘテロダインと10kHz直読の時代になりました。 1600が周波数読み取り精度を誇れた期間は無きに等しいものだったわけです。 1976年、短波帯フルカバーのBFOつき大型機TRY-X 2000が登場しましたが、 シングルスーパーヘテロダインと相変わらずのダイヤルリングではデビューする前から旧世代機でした。 魅力的な外観を持つTRY X 2000、もし3年早くデビューしていたら・・・と思いますが、 東芝という巨大な企業の家電部門には時代を先取る冒険を良しとするという文化はなかったのだろうな、 と思います。 |
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2000年、職場の仲間から彼が高校時代に使っていたというラジオをまとめて買い取った時、
TRY X 1600も含まれていました。
これはすごく汚れてて程度悪いので、オマケとして差し上げます。
いらないなら捨てますから・・・という彼に、
いやいやそれはさすがにもったいない、ありがたくもらうよ、
ということでこのラジオがラボにやってきました。 とはいえ、憧れたモデルでもなく、 事実すごく汚れていて、スイッチは1つ折れているしロッドアンテナ先端も失われているし、 1600唯一の自慢の短波ダイヤルリングはアルミ母材が修復不能にサビていてみすぼらしいコンディション。 はてどうしたもんかいなと考え込んでしまいました。 2000-10-18 入手 |
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捨てる前に中くらい見ておこうかと思いケースを開けます。
押し入れの中ではなくて屋外の物置小屋に放置されていたのでしょうね、
雨水にさらされたことはないようですが、内部もみすぼらしく汚れています。 このラジオは電源トランスを内蔵しています。 ポータブルラジオなんだから電源トランスは内蔵せずにACアダプタを使うようにすれば軽くなっていいのにな、 と思います。 ポータブル機は実際のところ屋外で使われることは少なく、 たいていは受験生の机の上にある、ということを理解した上での製品仕様なのでしょうか。 それともACアダプタよりはトランスを内蔵した方が低コストでできたのかもしれません。 オーディオパワーアンプは入力トランスと出力トランスをもつ、 トランジスタ2石によるプッシュプル。 オーディオプリアンプにICが使われていますね。 フロントパネルには誇らしげにIC-FETのシルクが印刷されています。 FMフロントエンド〜FM検波段は中央付近のシールドボックスに入ったFMモジュールとして作られています。 ともかくも電源トランス周りには腐食等はなさそうなのをみてACコードをつなぎスイッチを入れてみると、 なんにも反応がありません。 ああ、電源トランスが逝っちゃているのか。 ならば乾電池のターミナルにみのむしクリップで直流電源を給電してみたら・・・ やはりウンともスンともいいません。 これはもう廃棄処分だなあ・・・。 |
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実装はセンターフレームにフロントパネルとリアパネルがつく形態。 折れたレバーのスイッチはFM AFC / MW DX-LOCALスイッチです。 まあこのスイッチは頻繁には使わないからこれでもいいでしょう。 スイッチ自体が固着してしまい、動かそうとしたらレバーが折れたということのようです。 トーンコントロールはキャパシタシャント式。 ボリュームポテンショメータとトーンコントロールポテンショメータが並んでいますが、 これ以上に簡略化はできません的な風情。 |
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ダイヤル減速メカニズムは糸掛け式。
途中に入ったプーリーからギア駆動でムービングフィルムシャフトを回します。
サブシャーシにすべての部品が取りつけられており、本体の組立性は良かったでしょう。 しかしダイヤルコードの取り回しを見ると、 はたしてこれでいいのか? と思ってしまいます。 途中に2箇所、 アイドラプーリーもなしにコードがサブシャシーを擦って這いまわされているところがあります。 既存のコンポーネントででっち上げたのか、 初期設計で気づかなかった設計ミスを修正する時間がなかったためか。 前オーナーが一度分解して正しく組み戻せなかったのかもしれませんけれど。 バリコンを回すホイールとバリコンシャフトは二面取りされたシャフトがホイールにはまり込むだけの簡単な造り。 締まりばめでさえなく、ここで明らかなシャフトのバックラッシュが発生しているはずです。 この2つを見るだけで、この受信機に深夜放送ラジオ以上の何かを期待してはいけないことがわかります。 |
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ムービングフィルムダイヤルの目盛りは当時のポータブルラジオの平均的なものですね。
アマチュアバンドのバンド表示が入っていないのは、BFOを持たない本機ではある意味妥当なところでしょう。
そういえばスカイセンサー5900のメインダイヤルにもアマチュアバンドの表示はなく、
しかしクーガ2200にはしっかり入っているということにいま気がつきました。 当時のラジオはこんなもの、 短波の目盛りからは100kHz台ですら読み取れません。 だから代わりに0-100のスケール目盛りを読んで、自分で較正表をつくって50kHz前後くらいまでは合わせていたものでした。 けれどTRY-X 1600、このスケール目盛りの振り方じゃそれもできません。 国際放送など自分では聴かないようなデザイナーやエンジニアたちの作品だったんだね。 さらにこのダイヤル、ムービングフィルムとダイヤルグラスの間隔がありすぎて、 ダイヤルグラスに引かれたポインタラインとの視線誤差が大きいのです。 「短波重視」はなにも回路構成とか機能がどうのとかいう前にこういう部分の使い勝手の気配りが求められるのですが、 残念、東芝は分かっていなかった。 フィルムダイヤルの裏側には透明プラスチックのライトガイドがあり、 メインダイヤルとチューニングインジケータは1個の麦球で照らされます。 明るさは推して知るべし、ですが。 |
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スピーカもホコリまみれ。
でもエッジが破れているといったことはなく、きちんと鳴ります。
フロントパネルに取り付けられているスピーカのメイン基板との結線はピンコネクタが使われていて、
工具なしで取り外せるのは親切。 |
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できる限りのコスト削減を狙ったことがわかるのがダイヤルライトスイッチ。
打ち抜きプレスのスイッチ板で、接点はごく普通のネジの頭。
接続は目玉ラグ。
こりゃチープだわ。
操作感など期待してはいけません。
しかしこういった工夫で、小学生のおこづかい貯金で手に入る製品を提供してくれていたのだ、
ということです。 このラジオは深夜放送リスナーに必要だった大切な機能・・・ OFFタイマーを持っていません。 低コストを追求したのはわかるけれど、 実際のターゲットユーザは普通の深夜放送リスナーの受験生だったとしたら、 やりすぎだったのでは? 実はタイマーは外付けオプションとして設定されていて、 本機側面にはタイマー接続用ジャックがあります。 ん? まてよ、タイマー接続ジャック? ここにつないだ外部スイッチで本機をON-OFFできる? もしや? タイマー接続ジャックにプラグを差し込んでいないときにジャックをショートさせるための可動片接点にセーフティウォッシュを吹きかけたら・・・ おおお! チューニングインジケータが反応した! ダイヤル操作に応じて針が動く! スピーカをつなぐと、1600は元気に鳴り出しました。 |
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短波が聞けない、みすぼらしく汚れた短波国際派ラジオ。
FMもAMもしっかり鳴っているガラクタは捨てるに捨てられず、
しかし組み戻しもしないまま22年間・・・
ラボの中に溶け込んで存在し続けてきました。
メインシャシーはジャンク品ダンボールの中、
スピーカはスピーカ箱、ロッドアンテナは工具立てガラス瓶、
つまみはつまみ類パーツストック箱の中。
ハリクラフターズS-20Rスカイチャンピオン
のスピーカ再取り付けの時に小物金属部品在庫のなかにちょうどいいスピーカ固定金具があったのでそれをひとつ使ったけれど、
あれはたぶん1600の金具だったんだろうなあ。 20年前に書いたこのラジオの作業ノートページを読み返しながら、 やっぱり短波が聴けるところまでは戻してあげたいね。 代わりのコイルを作ってみようか。 でも私はいままで自分でコイルを巻いたことはなく・・・ そういう作業がとても下手なので・・・ できる自信はありませんけれど。 ACケーブルを差し込んで20年ぶりに通電。 当時と同じく、FMとAMは元気に鳴りだしました。 電源の平滑キャパシタは正常で、ハム音は出ていません。 2022-07-21 作業開始 |
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TRY X 1600の見開き広告。
「発振回路」を「発信装置」と書くあたり、いい感じです。かっこいいよ! あこがれちゃうよね!! でも残念ですね、小学5年生の私はすでに「発信」と「発振」の言葉の使い分けは身についていましたから、 この一言だけで製品が素人狙いであることは見え見えでした。 フロントパネルのCALスイッチを上げると、受信機の感度が下がってキャリブレータが動作し、 メインダイヤルの1MHzおきにキャリブレータ信号の発信音が聞こえます。 メインダイヤルをキャリブレータが聞こえる位置にセットし、 ダイヤルつまみ位置をそのままにしてダイヤルリングだけを回して、 たとえば10MHzの位置にセットします。 CALスイッチをOFFにしてダイヤルを回せば、 リングの目盛で10〜20kHz程度の確度で周波数がわかる、という仕組み。 TRY X 1600のキャリブレータは水晶発振ではなく、単なるLC発振です。 低コスト最優先の企画商品だったから、なのでしょうけれど、これはさすがに・・・ですね。 製造から50年近く経った今、キャリブレータの周波数は大きく狂っていました。 ICF-5900やRF-2200で較正をするときはクリスタルキャリブレータがONするだけでなく、 BFOも同時にONになります。 キャリブレータの受信音のゼロビートを取ることによって、 キャリブレータの信号周波数に対して数10Hz程度の確度で合わせこむことができます。 これに対して1600にはBFOがありません。 BFOなしにキャリブレータ信号が聞こえるようにするため、 キャリブレータ信号には音声周波数で変調が掛けられています。 しかしこれはキャリブレータへのゼロインをチューニングインジケータの針の指示か あるいは受信音の音の大きさで判断することになるので、 ゼロイン確度はやや落ちてしまいますね。 |
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仮にキャリブレータが水晶発振で、BFOを装備して正確にゼロビートを取れたとしても、
ダイヤルリングの目盛は11MHz帯ではずいぶん細かくなってしまっています。
サブダイヤルにはへアラインカーソルもないので、目盛の目視読み取り誤差だけでも20kHz近く出てしまいそう。 さらに致命的なのがダイヤル機構で、 バックラッシュが大きくフリクションも大きいため、 サブダイヤル指示だけで目標の周波数に合わせるのはほとんど不可能なのです。 これらの「稚拙な造り」が総合された結果として、 「耳だけがたよりでしょうか? 短波受信。」の広告のキャッチフレーズの問いに対しては、 「他に何を頼れと?」と答えることになってしまいます。 メインダイヤルに精密なロギングスケールが刻まれていて視線誤差の少ないへアラインカーソルがあり、 ダイヤルがスムースでバックラッシュが少ない「良く造られた」ラジオなら、 較正グラフを描く手間はありますが、1600以上の確度で周波数合わせができたでしょう。 |
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作業中のBGM機として快調に鳴っていた1600ですが、
なんだかFMの受信音がノイジーになってきました。
TW-172Dトランスミッタ
の問題かな? と思ったのですがそうではなく、
1600のボリュームを目いっぱい絞ってもカサカサパリパリとノイズが出続けています。
あー、これはオーディオアンプの電解キャパシタ劣化だね。 ケースを開けて、真っ先に目についたトーンコントロールのシャントキャパシタを新品に交換。 お、いきなりのビンゴ? ノイズは全く出なくなりました。 でもケースを開けたついでですから、 メイン基板をシャシーから取り外さずに簡単に交換できる電解キャパシタはひととおり新品に交換しておきました。 心なしか音が良くなった気がします。 特に低音の豊かさが増したかな。 キャパシタ交換作業中に、 チューニングメータが振れなくなりました。 正確に言うと、電源を入れるとメータ指針は左側のフルスケール近くまで振れるのですが、 ラジオの信号強度に反応しなくなっています。 あたこちつついて、これはチューニングメータのゲイン調整の半固定トリマの接触不良であることがわかりました。 FaderLubeを吹いて、トリマをくるくる回し、メータゲイン調整を取り直して復活。 これが直ったら今度はチューニングダイヤル回しても受信周波数が変わらず。 フィルムダイヤルサブシャシー上のチューニングホイールがバリコンシャフトから外れてしまったため。 ダイヤルメカの組み外し組み戻しで復旧。 2022-09-12 パリパリノイズ発生 2022-09-12 電解キャパシタ複数個所新品 ノイズ消滅 チューニングメータトリマ再調整 |
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