Yaesu FT-620
50MHz SSB Transceiver
(1972)
Serial # 94C309127
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このFT-620、いつこのラボに来たのか全く記憶がありません。
日本に戻ってきてからどこかのハムフェストで買った物であるはずです。
2011年08月の中央研究所メインワークベンチに大型スチールラック導入作業の際の写真にはFT-620が写っていますのでそれ以前。
2002年〜2009年は育児とうつ病患者のケアとトラブル続きの仕事を回すのに必死で、
記憶にとどめる余裕も満足に記録を残す余力もなかったのですね。 そんな中でもこれを買ったのは、修理・整備で楽しみたい、いつかそんな余裕が出ることを期待していたのでしょうね。 メインワークステーションのラックに並べられて永らく整備待ちだった50MHzモノバンダー3台ですが、 SIGLENT SDG-2111X シグナルジェネレータ を新品で買って50MHzの正確なテスト信号を出せるようになり、 整備を開始。 IC-71 と FT-620B は、受信機能のみですが復旧整備を終えました。 早い梅雨明けと猛暑で電力不足のなか、 真空管式受信機いじり はいったん止めて、 どれかトランジスタ機を・・・ よし、FT-620に着手しよう。 2022-07-11 FT-620整備開始 |
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FT-620は1972年発売、八重洲無線の50MHzSSBトランシーバです。
それまでは50MHzSSBは真空管ファイナルのHF帯トランシーバにトランスバータを取り付けて運用するのが主流でしたから、
フルソリッドステートでコンパクト、DC13.8V電源で動作できるSSB機の登場は、
50MHzの移動運用を現実的なものとしてくれたのでしょう。 アルミヘアライン加工のシルバーの平面フロントパネルに端正に配置されたコントロール類はクリーンなルックスで、 いっぽう明るいグレーのキャビネットは1960年代の面影もどことなく残っており、 いかにも1970年代初頭の印象があります。 1975年の後継機FT-620B は、CWブレークイン機能の追加を除けばその機能やフロントパネルレイアウトを見る限りFT-101のデザインスキームを取り入れたフェイスリフト機であるように見えますが、 中身を見てみると、改良機というより「再設計」されたモデルといえるほどに細部が異なっています。 4ピンマイクコネクタと同じコネクタを使った電源ケーブルをつなぐと、 FT-620は受信動作を開始しました。 各ポテンショメータをくるくる回してガリが収まると、現状も見えてきました。 基本的な動作はできているようですね。 2022-07-11 初期動作テスト |
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高校生のときに買った
TS-820X
もそうでしたし、その頃アマチュア無線ショップの展示機をいじっているときもいつも不思議に思っていたのですが、
SSBトランシーバで無信号時のザーッというノイズがUSBとLSBポジションで音質がはっきりちがうことが多かったですね。
どうしてUSBとLSBとで差が出るのか、その理由はわかりませんでした。 で、このFT-620はそのUSBとLSBとでの違いが顕著ななのです。 LSBモードでのノイズは低域が太く聞こえ、それはまあいいのですが、 USBモードでは低域がほとんどなくてシャーッといった感じ。 これはバックグラウンドノイズだけでなくて、実際の音声の受信音もカン高い音質で、 とても耳障りで、正直聞いていたくないなという音です。 FT-620は50MHz機ですからLSBを使うことは基本的にはなくて、もっぱらUSBで使うわけですから、 これは深刻な問題です。 本機の第2中間周波数は9MHzで、 中心周波数9MHzのクリスタルフィルタが受信機の選択度を決定します。 いま実機についているのはSSB用のXF-90A型狭帯域クリスタルフィルタで、 これはUSB時もLSB時も同じフィルタが使われます。 いっぽうBFOは水晶発振で、USB時は9.0015MHz、LSB時は8.9985MHzです。 つまりBFOは、クリスタルフィルタの通過中心周波数から1.5kHz離れたところにキャリアを注入する設計なわけです。 (FT-620の第1周波数変換はアッパーサイドインジェクションなので、第1中間周波数以降では目的信号のサイドバンドは反転しています。) もしこのクリスタルフィルタの通過帯域のセンターが正確な9.000MHzからずれて - たとえば0.5kHzほど低くなっていたとすると、 USB時はフィルタ通過後の音声復調周波数帯域が0.5kHz高いほうにずれて音声の低域はカットされ高域が伸びます。 LSB時はその逆になって低域がはっきり出て高域はカットされます。 ・・・おそらくそういう理屈なのでしょう。 |
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FT-620のBFO発振回路を見ると、USB用とLSB用の水晶発振回路がそれぞれ用意されています
(水晶だけ切り替えるのではありません)。
発振回路出力コイルもそれぞれに用意されています。
ためしにコイルのコアをいじると、
うまい具合にBFO周波数を微調できることがわかりました。 本機のオーディオ出力を Noobow9100F Windows10 PC のオーディオ入力に入れ、WSJT-Xのスペクトログラムを見ながら、 音声通過帯域が最適となるように - およそ300Hz〜2700Hzとなるように - つまり通過帯域のセンター周波数が1.5kHzとなるように - BFO周波数を調整しました。 結果はうまくいき、 USBとLSBとでバックグラウンドノイズの音調が全く一緒とまでは行きませんでしたが帯域的にはほぼ同一にできました。 SSBの受信音はバックグラウンドノイズの音調も電話の音声もいい感じになりました。 うしし、やったね! 中学生のときからの疑問をひとつ自力で回答できたよ! なおクリスタルフィルタの通過帯域センターが設計値からわずかにずれているということであれば、 第2中間周波数トランス L201 / L202 / L203 を再調整することによって感度と選択度をさらに詰められそうです。 が、現状 感度も選択度も良好なので、再調整は見送りました。 2022-07-13 BFO調整 パスバンド最適化 |
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東京ハイパワーHX-640トランスバータをつないで7MHzのFT8を受信すると、
パスバンド最適化調整の効果も明らかで、いい感じで動作しています。
太陽活動も高まった2022年の7月、FT8は多数の局がいっせいにオンエア。 で、そんな多数局一斉送信のFT8を聞いていると、ときおり受信音が歪っぽくなることがあります。 どこかでオーバーロードしているような。 IF段やAF段で実際に信号レベルが過大となっているというわけではなさそうで、 原因を突き止めるのは難しそう。 あまり期待はせず、 だけれども音質や動作に若干の影響は出ているかもしれないと思い、 IFボードの電解キャパシタを全交換しました。 結果は・・・ まあ期待通りというか、変化は感じられませんでした。 ほとんど同じ年代の 1974年製のソニーのラジカセ ではケミコンひとつ変えるたびに音質が正常になっていく感じでしたけれどね。 使われている電解キャパシタのサプライヤと品種によってずいぶん劣化傾向には差があるみたいです。 同じサプライヤでもグレードの差が影響しているのかもしれません。 |
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IFボード半田面には、AM用クリスタルフィルタ取り付け前のバイパスキャパシタのほか、
いくつかの追加が見られますね。
右の写真で左下に見えている、バスバーの追加も興味深いところ。
最終の中間周波トランスのシールドケースのグラウンド配線を補強しています。
グラウンドパターンの這いまわしでなにかトラブルが出ていたのでしょうか、
それともシールド効果の補強を狙ったのかな?
第2中間周波数段出力が入力に戻ってしまって発振気味になってしまったので対策した、とか? FT8の復調音歪みは受信内部のどこかで出ているものと思いましたが、 歪んで聞こえる時とそうでないときとあるあたり、 ひょっとして送信局側ですでに歪んでいるのかもしれませんね。 US接続の新しい無線機ではなく、 WSJT-Xのオーディオ出力をトランシーバのマイク出力に接続しているクラシックな機器の局で、 マイク入力が過大になって送信機のALCが効いてしまっている、とか。 2022-07-14 IFユニット 電解キャパシタ全数新品交換 |
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