Lafayette HA-63A
General Coverage
Shortwave Communications Receiver (1966) |
Lafayette HA-63A は日本製。
トリオによる設計製造の、7球スーパーヘテロダイン方式のゼネラルカバレージ短波受信機です。
1966年発売、定価60ドル。
世代的にトリオ9R-59と同じで、
9R-59に比べひとまわり回路と機構を簡素化した、低価格入門機です。 サンノゼのラボにやってきたこのモデルは欠品もなく外観は良好ですし、動作もします。 が、容易に想像できる大きな問題−感度が大変悪いのです。 前のオーナーによってリキャップを含めたメンテがされているのですが、 何しろ7球(電源平滑は半導体ダイオードで行われていますから8球相当とも言えます)も使っていながら、 エコーフォンEC-1Aより感度が悪いのです。 また安定度も悪く、手放しでCWの受信を行うのはほぼ不可能です。 オーディオアンプなみに高域が伸びる音質のため、ノイズがひときわ強調されてしまっています。 また外来雑音に対しても弱いようです。 これが調整不足によるのか、なんらかのトラブルのためなのか。 安物メーカーのイメージが常につきまとってしまって評判のよくないラファィエット機とはいえ、 これはあのトリオ9Rファミリーのメンバーです。はたして性能改善はできるのでしょうか? 1998-11-20 HA-63A 入手 |
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感度
全般的に感度がかなり悪いものの、特にバンドD、
すなわち10.5MHzから31MHzをカバーする最も周波数の高いバンドがほぼ無音で、信号はおろかノイズすら聞こえません。
バンドC、4.5MHzから14.5MHzをカバーするバンドでは6MHz付近でそこそこ聞こえるものの、周波数によって感度のばらつきが大きくなっています。
バンドCについては高周波増幅段のトリマを少し動かしたところ感度がずいぶんよくなりました。やはり再調整が必要なようです。
バックグラウンド・ノイズがあまり聞こえないことを考えると、局部発振の出力不足も疑ってみる必要があるかもしれません。 選択度
9.835MHzのラジオ・ジャパンを受信してみると、すぐ隣の中国語放送がかぶってしまいます。
一方エコーフォンEC-1Aは両局をきれいに分離できます。
エコーフォンの選択度もたいしてよいわけではありませんので、
現状のHA-63Aの選択度はアマチュア無線受信などもってのほか、海外放送受信ですら落第です。
ラジオ・ネダーランドとBBCワールドサービスの英語放送を同時に聴くことができ、会議室モードの英会話ヒアリング強化マシンと化しています。
受信音の高域がかなり伸びていることを考えると、中間周波トランスのアライメントの狂いの可能性もあります。 BFO
カリフォルニアの朝の7MHz帯はラグチューするOMさんで賑わいますが、本機ではある程度強い局になるとSSBの復調が困難です。
方式からして逆サイドバンド混信に悩まされるのは仕方がないにしても、BFOの出力が不足しているのではないかと思われます。
トラッキング
バンドCで5MHzと10MHzのWWVを受信してみたところダイヤル指針位置はほぼ正確で、このクラスとしては合格です。
AGC
小型のSメータは、強力なローカルAM局を受信すると確かにS9程度まで振れますから、AGCはそれなりに動作しているようです。
AGCの回復時定数はかなり強く、いったん強い局を受信するとフルゲインになるまで結構時間がかかります。 私の好みとしてはもう少し早く回復して欲しいところです。 電源からのノイズの回り込み
電源ラインからのパルス性ノイズ除去はエコーフォンより優れています。
エコーフォンはトランスレス方式のためこの手のノイズには弱く、ヨメさんがキッチンのディスポーザーを回すと猛烈なノイズを拾ってしまいます。
HA-63Aではほとんど気になりませんでした。
メカニカル・ハム
電源トランスは明確な60Hzの振動を出し、ケース自体が機械的にハム音を出してしまいます。何らかの対策が望まれます。
電源トランスの1次側には100Vと117Vのタップがあり、北米仕様のため当然117Vタップが使われています。
このラジオを日本に持ってかえった際は簡単にAC100V仕様にできるでしょう。
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低周波増幅は検波管兼用の6AV6 双2極・高μ3極管で行われ、ついで松下製 6AR5出力用5極管で出力されます。
回路図なしで簡単にテストできる事項として、低周波増幅段のテストを行ってみました。 例によってCDプレーヤの音声信号をボリューム・コントロールのホット側に注入してみます。 すると、最大出力はやや控えめながら、音質は大変美しいことがわかりました。 低音はやはり頭打ちになってしまっているようで音楽用アンプとしては問題がありますが、短波ラジオ用としては申し分ないものです。 前のオーナーはリキャップを行っていますが、おもにセラミック・キャパシタの交換です。 電源平滑用電解キャパシタや低周波段のチューブラ・キャパシタは製造時のまま。今後注意が必要です。 |
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回路図付きオペレーション・マニュアルがmanualman 氏から届きました。
同氏はメモに、すべての HA-63A にはマイナーチェンジ前のモデルである HA-63のマニュアルが同梱されていたこと、
またHA-63 と HA-63A の相違はダイヤルノブ形状を含む外観のみであること、を書いてくれました。 回路図から書き起こしたブロック・ダイヤグラムをここに示します。 回路構成は高1中1のシングルスーパーです。 7球プラス半導体整流器を使用しているとはいえ、構成的にはエコーフォンEC-1Aに対して高周波増幅段が追加されているだけだ、とも言えます。 であればなおさら、エコーフォンよりも感度が良くて当然のはずです。 さあて、どこから調べようか・・・。 |
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小学生のころ親父に秋葉原に連れていってもらって買ってもらった
サンワのテスター。
新品の計測器としては実にそれ以来の、じゃーん、
デジタル周波数カウンタ付きシグナル・ジェネレータ
がラボに配備されました。
台湾製の安物だけど。 で、このジェネレータでまず何をやろうかなあと考えて、HA-63Aをひっぱりだすわけです。 中間周波トランスの調整
このHA-63Aはすでに記したとおり選択度が極めて悪く、
また最大の受信音量を得られるダイヤル位置がわずかに離れて2個所あることには気がついていました。
したがって中間周波トランス (IFT) のアライメントが狂っているのであろうと思われました。
シグナル・ジェネレータを455kHzにセットし、出力レベルを最低に。 0.1μFのセラミック・キャパシタを通して、周波数混合管6BE6の第3グリッドに注入します。 スピーカ出力をオシロで見られるように用意しました。 マニュアルに書かれているとおり、まず後段のIFTの下側、次に上側。つづいて前段のIFTの下側、最後にその上側の順番で調整していきます。 するとお見事、瞬く間にスピーカ出力は最初の10倍以上にもなりました。 手順を何度か繰り返し、調整終了。 試しに短波を受信してみると・・・国際放送帯で隣の局がきれいに分離できていますし、チューニングのセンターもはっきり出ています。 感度も目覚しく向上。 ローカルAM局ならボリュームコントロール20%程度で十分な音量が得られます。 やったあ。 1999-02-06 IFT調整 ローカル・オシレータとアンテナ回路の調整
次はローカル・オシレータのトラッキングと、アンテナ回路のチューニング。
マニュアル通りの手順で進めます。
当初からダイヤル目盛りに狂いはあまり見られませんでしたから、あまり効果ないかなあとも予想したのですが、
うれしいことに、調整が進むにつれ感度はさらに良くなっていきます。
完了してみれば驚き。 いまやHA-63Aは元気いっぱいです。 1999-02-06 コイルパックトラッキング調整 BFO周波数の調整
BFOポジションにしてみたところ、まったく動作していないことがわかりました。
マニュアル通りBFO周波数を調整してみたら、そもそも10KHz近くもずれていました。
逆にいえば、それだけ中間周波数が狂っていたということになります。
1999-02-06 BFO調整 |
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本日の作業はこれで終わり。 ケースを閉めて、さて実際に使ってみましょう。
バンドAの中波では、最初はローカル局しか聞えなかったのに、いまでは数多くの局が受信できます。
バンドBでは 1600kHzの少し上にローカルコミュニティ放送、1680kHz 付近に音楽局。
そこから上は、いままではほぼ無音だったものが今度はダイヤル一面に空電が入ります。
バンドCでは5MHz程度の感度がやや劣るものの、以前に比べたら大幅に改善。
国際放送帯ではSメータが常時9+まで振れています。
バンドDの感度は依然良いとはいえませんが、それでも27MHz帯のCBが聞こえます。
総合的な感度はいまやエコーフォンを上回るほどです。危うし、エコーフォン! |
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10ドルのポケットラジオより感度が悪く、一時は見かけ倒しのゴミ呼ばわりされたこのラジオ、
いまではラボのメイン・レシーバの座を揺るがすまでになりました。 しかしながら問題はなくなったわけではありません。 もう少し選択度が良くあって欲しいところですし、なにより高音が出過ぎています。 これが単に低周波段の周波数特性のためなのか、選択度がブロードなためなのかは今後引き続き調査要。 いずれにせよ、長時間のバックグラウンド・リスニングは今のところエコーフォンに分があります(同じスピーカでテストしました)。 ということは、適度に押さえられた高音がエコーフォンEC-1Aの特徴なのかも。 SSB復調はやはりうまく行きません。 強力な局に対しては復調困難、またそうでなくてもかなり音が歪みます。 AGCの戻りがかなり重いのも不満。キャパシタ容量変更でチューンし直したほうがよさそうです。 この辺の問題が解決できればおそらく常用リグになりそうです。 そうすれば今度はエコーフォンを分解してペイントし直す番だなあ、きっと。 1999-02-06 整備完了 |
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CRV-1/HB第2輪廻
の機能性能改善が一段落。
パネル再塗装の時間がとれる休日がくるまで受信機は20メーターバンドFT8の連続受信チャレンジ中。
その間、手短にできる作業として、そうだHA-63Aの再整備をしよう。
長期保管状態にあったとはいえ最後は完動状態だったのだからそんなに手間はかからないでしょう。 と思いきや、さすがに25年間のブランクは長い。 いろいろと不調です。 2023-12-25 HA-63A第2期整備開始 |
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バンドセレクタはロータリースイッチに接点洗浄剤を噴射してカチカチまわして回復。
バンドDは接触不良の気が残っていますけれども。 まずは音量不足と低音の濁り。 音声出力管6AR5のカソードバイパスはなぜか前オーナーは交換していませんでした。 無条件に新品電解キャパシタに交換。 音量は増しましたし低音の濁りも大きく減りましたが、 低音の濁り感は皆無にはなっていません。 なにかほかにあるのかな。 2023-12-26 カソードバイパスキャパシタ交換 |
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強力な信号をいったん受信すると信号がなくなっても感度が回復せずSメータが大きく振れたまま。
まあ原因は一発確定ですね。
AGCフィルタキャパシタも前オーナーは交換していませんでした。
C2 0.05uFを0.047uF新品フィルムキャパシタに交換して快癒。
AGC時定数は適切なものでした。 この症状は1999年にもすでに出ていましたが、 これほどひどくはありませんでした。 25年の間にキャパシタの劣化が進んだのですね。 HA-63AではAGCは高周波段と中間周波段に掛けられていて、 周波数変換段は固定ゲインです。 オシレータプルインを低減するためですね。 さらに混合管と局発管を独立させている点は、 家庭用オールウェーブ5球スーパーにRFアンプを追加しただけのものとは違うひとまわり本格的な設計といえます。 HA-63AのSメータはAGC制御されている高周波増幅管6BA6のカソード電圧変化を読む方式。 ゼロ点調整のためのポテンショメータがリアエプロンにあります。 このポテンショメータもひどいガリが出ていましたのでDeoxItを噴射して回復、 ゼロ点調整を取っておきました。 Sメータ回路には逆振れ防止の工夫はなく、 また電源整流はシリコンダイオードを使っているため、 電源投入時は真空管が動作を開始するまでメータは音を立てて振り切れます。 2023-12-26 AGCフィルタキャパシタ新品交換 |
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ふたつのキャパシタ交換でHA-63Aは快調になりました。
電源平滑キャパシタはオリジナルのままですが、ハムは不快なほどには大きくありません。
やはり低域の音はすこし濁っているし、
バンドDの低い周波数のほうは元気がありません。 もうすこしいじってみましょう。 |
テスト音源はついったー東方部さんのアルバム "Ex-press"からトラック1 「感情の摩天楼 〜 Cosmic Mind」 |
1999年にこの受信機を入手したときはとんでもなく酷い性能でしたが、
それはIFTとコイルパックの調整不良でした。
当時それを調整して完調になったのだから今回は再調整は不要だろうと考えたのですが、
念のために点検してよかった。
IFTはNo.1もNo.2も、1次側も2次側も460kHzに調整されていました。
当時は精度は良くないとはいえデジタル表示のシグナルジェネレータを使ったので最低でも1kHzの精度は出ていると思ったのですが。 今回再調整を試みても、あれ? 455kHzに合わせたつもりがやはり460kHzに合ってしまいます。 あ、そうか、このタイプのIFTでは金属シャフトのドライバーだと同調周波数に影響が出て正しく調整できないんだ。 それに気づいてグットのコアドライバーCD-10を使い、 正しく455kHzに調整できました。 ついでコイルパックを調整。 HA-63Aのコイルパックはこの間まで格闘していた松下電器の短波受信機用コイルパックに比べてふたまわり大型、 段間の間隔は広く、また各バンドのコイルも間隔を置いて設置されています。 扱いやすく、そしておそらく段間・バンド間の不要な結合も低いのではないかと思われます。 調整はスムースに行きました。 けれどやっぱりバンドDは低い周波数のほうがすこし元気がないかな? この受信機にはフロントパネルにANT TRIMつまみがあり、 アンテナをベストマッチな状態で使えます。 きれいにインピーダンスマッチングがとれたアンテナを用意できないアマチュアにはとてもありがたい機能です。 というより、これがついてない方が不思議だなあ。 アンテナトリマがフロントパネルにある関係で、 コイルパックのアンテナセクションには調整トリマはありません。 2023-12-26 IFT コイルパック 再調整完了 |
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うっかりしてました。
この受信機のケースは上下分割式の分厚い鉄製で、
ボトムカバーにはコイルパック調整用の穴が開いています。
カバーを取り付けると調整店が狂ってしまうわけですね。
元気を出して、ケース組み込みの状態でコイルパックを再調整します。 作業中にバンドDの局発コイルをまちがってぐるぐる回してしまいました。 そのために、バンドDを調整手順通りに調整すると18MHz以上で感度不良・音質不良・動作不安定になってしまいました。 30分以上いろいろ試しておおむねのもとの位置を探し、 そこから今度は手順通りに調整。 今度はうまくいった…やれやれ。 バンドDはサービスマニュアルでの調整ポイントは12MHzと26MHzなのですが、 無理にダイヤル目盛りの精度を合わせ込もうとせず、 12MHzと18MHzの2点で調整し、動作安定性も重視しながら調整しました。 結果、ダイヤルの低い方での感度の落ち込みが緩和され、 15MHz帯での性能が良くなりました。 よかった。 2023-12-27 コイルパック再調整 |
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ボリュームをいっぱい絞ってもスピーカの音にはハムが含まれていますし、
受信音の低域が濁るのも局発周波数が50HzでAM/FM変調されているためかもしれませんし、
あるいは
混合管のスクリーングリッドに電源リップルが乗っているため
なのかもしれません。
もう電源平滑用電解キャパシタを交換してしまいましょう。 オリジナルのキャパシタは切り離して、 だけど外観維持のために取り付けはそのまま。 シャシー内部に2個の電解キャパシタを追加。 結果はこれですっきり・・・ とは行かず、ほとんど変化なし。 ちょっとがっかりです。 でもまあ、50年以上経過しても問題なく動作しているオリジナルの電解キャパシタは優秀な製品ですね。 EC-1のとき のように、局発管と混合管のB電源にもう一段平滑回路を附け加えるのはローコストでできる改善案かもしれません。 今回はオリジナルの性能回復を目的にすることにして、 改造はいつか次の機会に持ち越すことにしました。 2023-12-27 電源平滑電解キャパシタ交換 変化なし |
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1999年2月の整備作業の残り課題を25年も経って実施できました。
バンドDのバンドセレクタがいまだ接触不良気味なのはちょっと心残りですが、
またおおむね新品の性能回復ができた、はずです。 HA-230 に比べるといろいろなところでコストダウンされているHA-63Aですが、 中間周波増幅段が1段削られたというのはあながち短所ばかりではないのかもしれません。 IFTがひとつ少ない分選択度はブロードですが、 それゆえ復調音は高域がすっきり伸びていて、 同調操作も楽になっています。 AGC制御対象段が2段しかないためにAGCの効きは不足気味。 これは、強力な局でちょうどよいようにボリュームを合わせると局間のノイズは音量が小さくなるわけで、 ノイズが少ない静かな受信機であるように感じられます。 ANL回路を簡易型にしたことは、AM検波回路2極管のAC負荷を軽くすることにもなり、 これが本機のAM復調音質の良さをもたらしているのではないかと思います。 もうひとつ本機の美点は、アンテナをつながないとバックグラウンドノイズがほとんど出ず無音に近いこと。 こわれたのではないかと思うくらい。 キャビネットの背面は大きく穴が開いていてケースのシールドはさほど良くないはずですが、 ほかの部分のつくりがいいのでしょうね。 すごく好感が持てます。 高1中1は、要するに5球スーパーに高周波増幅段を追加しただけなわけですが、 回路構成からしても本格的な通信型受信機と家庭用ラジオの中間に位置しているとも考えられます。 それゆえ、比較的強力な国際放送の番組をゆっくり楽しもうとするなら、 高1中2よりも適したものになりそうですね。 そしてLafayette HA-63Aはそんなニーズにぴったりの、 良くできたリスニング・レシーバだなあ、 と再認識できました。 2023-12-27 作業完了 |
後半のテスト音源はSJV-SCさんのアルバム"Crossing"からトラック5 「稲田姫様に叱られるから」(原曲: 「稲田姫様に叱られるから」) |