General 6S-10
Tabletop Superheterodyne Receiver
<1953> |
まずは外観を観察しましょう。
天然木のキャビネットの横幅は46.5cm。あれっ、この寸法はアメリカ製の通信型受信機、
ハリクラフターズS-20R(1939)や
SX-96(1955)と全く同じです。
キャビネット寸法の標準規格でもあるのかな。 大切に使われ保管されていたと思われるこのラジオのダイヤルは、キズもなく非常にきれいです。 ダイヤルカバーは上質に成型された透明プラスチックで、やや黄ばんでいますが曇りは全くありません。 日本各地の主要都市のNHKの周波数が入れられた目盛は奥側2枚目のやはり成型透明プラスチックの裏側に印刷されており、 これも程度は非常に良好。内部に埃が見られないので、おそらく近年分解清掃されたものと思われます。 3つのつまみは左から電源スイッチ兼用3段階トーンコントロール、電蓄ポジション付き音量調整、そしてチューニングです。 チューニングつまみ、あるいは当時にならって呼ぶなら同調つまみの動きは大変スムースで、機構的に問題はありません。 スピーカ クロスにも破れや汚れはなく良好。ダイヤル枠やマジックアイの飾り窓は金色めっきですが、これは多少痛みかかっています。 外観上の最大の欠点は中央のつまみがおそらくノーマル品ではないこと。 |
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内部もこれまたきれい。やはり近年分解清掃されたのでしょう。
シャーシ表面は年代相応の酸化がありますが、腐食はありません。木製ケースの状態も良好で、虫食いは見当たりません。 出力トランス付きのパーマネント ダイナミック型スピーカ、マジックアイのソケット、 真空管やシールド ケースそして筒型中間周波トランスなど、各部品の程度も少なくとも外観上はたいへん良好です。 電源コードは短く、プラグは松下電器の一般品がついており、修理されています。 キャビネット内側には回路図と出荷検査票が貼り付けられています。 破れや剥れがないことから見ても、温度や湿度の変化の少ない場所で保管されていたのでしょう。 出荷検査票の検印は褪色してしまっていて読むことができません。 |
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鳴らないんだけど、と持ち込まれたのですから最近電源を入れられたのは明らかです。
もし長年放置されていたラジオであれば電源投入の前に念入りなチェックを行うべきですが、
本機の場合はメインテナンスが入っているようでもあるし、電源を投入してみました。 ダイヤル盤は上下からそれぞれ2個のパイロットランプで照らされるようになっていますが、下側の1個しか点灯せず。 やがて真空管のヒーターが灯りだしましたが、あれ、80BKだけ点灯しません。 なあんだ、単に整流管のヒーター断線。交換すればそれでOKでしょう。 残念ながらラボにST管の在庫はないので、どこかで手に入れることになりそうです。 整流管が動作していないのですからB電源も当然発生しません。ウンともスンとも言わないのは当然です。 ま、煙も匂いも無しですから取りあえずはいいでしょう。 ところが・・・10分ほど眺めていたら、突然80BKに火が灯りました。 あれあれ、これは一体どうしたことだ? 80BKのヒーターが擬似断線状態になっているか、ソケットが接触不良になっているか、という可能性がまず思い浮かびます。 突然点灯したのは80BKだけではなくて、上側のダイヤルランプもいつのまにか2個のうち1個が点灯しています。 回路図では4個のパイロットランプは電源トランスの6.3V系巻線で点灯されるので、80BKのヒータとは関係ないはずですが。 ともあれマジックアイを含めて全球のヒータは点灯しました。 これで動作しだすかと思ったのですが、何度かスピーカからザザッという音がした以外は無音。 マジックアイのターゲットも光りません。 それではB電圧は出ているのだろうかと思い、出力トランス1次側ターミナルの電圧を測ってみました。 すると、驚異の490V! 通常はせいぜい260V程度のはずなのに。 電源平滑用ブロック電解コンデンサ(日本製ラジオなのでキャパシタではなくコンデンサと書きます)のピーク耐圧420Vをも超えています。 これはやばいかも。そのうち一度だけパチッという音も聞こえました。 ここの電圧が極端に高いのは、B電源が無負荷状態になっているのかも知れません。やはり、シャーシの裏側を見る必要があるようです。 電源プラグを抜いた状態でスピーカをチェックしてみると、ビビリ音などはなく良い音で鳴ります。 木製キャビネットに10cmクラスのスピーカは現代のチープなラジオよりもいい音がしそうです。 |
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まずは精密ドライバを使ってノブのネジをゆるめ、フロントパネルのつまみをとり外します。 真中の音量調整つまみは、別のラジオか何かのものを無理矢理接着剤で取り付けていたようです。 フロントパネルには多分そのときにつけられたと思われるキズがあります。 |
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スピーカについている出力トランスとシャーシを結んでいるオーディオ出力ケーブルを取り外します。
ここでは配線の極性はありませんが、念のためもとの極性に戻せるよう片側に油性インクで黒くマークしておきました。
半田こてで半田付けをはずします。 マジックアイのソケットを外します。 これでシャーシとキャビネットの結合は底のネジだけになりました。 |
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シャーシはキャビネット底面の4本のネジで固定されています。
これらを外せば、シャーシを取り出せます。おっと、ネジを外すときは水平な状態でやらないと。 ネジの頭は茶色く錆びていますが、錆びていない傷が残っています。 やはり最近開けられたみたいですね。食い込みワッシャの傷跡は、もう何回も開けられた事実を記録しています。 |
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注意深くシャーシを引き出します。さあ、中身が姿を現しました。 この時代のラジオは壊れたら修理するのがあたりまえだったし、もともと構造もシンプルなので、あっという間に取り出せます。 |
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シャーシをじっくり見てみましょう。
電源トランスの上部にはヒューズ差し替え式の1次側巻線タップがあり、電源電圧が低くなったときにも対応できる(88V)ようになっています。
当時の電源事情では必要不可欠な機能でした。 ヒューズは100V側に新しいものが付けられています。 むむ、怪しい。 しかも良く見ると・・・なんと5Aのヒューズ!!! 切れるとしたら炎上するトランスの熱で切れるかもね。 |
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パイロットランプのうちすくなくとも2つは交換されています。
合計4個のランプは並列接続され6.3Vヒータ巻線で点灯されます。
調べると、正常なのは1つだけで、1つが擬似断線(振動で点灯することがある)、残り2個はアウト。
6.3V 0.15Aのネジソケット電球4個を買い物リストに追加です。 2つある中間周波トランスと、ギャング バリコンのトリマは工場出荷時のゆるみ止めがそのまま残っています。 |
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電源トランスが下側になるようにして横倒しにしました。 すると、ううう、これはひどい!
最初に電源を入れたとき煙も匂いもしませんでしたが・・・
以前にすくなくとも1度、たぶん間違いなく合計2回燃えて、出力管のプレート回路をのぞく全ての回路への電源供給が途絶えていたのです!
これによりB電源は無負荷状態となり、490Vもの高電圧になっていたのでしょう。 |
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すべてのワックスコーティング ペーパーコンデンサはひどく汚れています。
こんな様子ではとても電圧をかける気にはなりません。 適切な値の部品がなかったのでしょう、別のところでは3本の抵抗を組み合わせて1本の代わりをさせているものもあります。 |
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でも一番ひどいのは、B電源のドロッピング レジスタ。
完全に焼けています。 その周囲の部品はすすけています。 見た目には大丈夫そうなのに、その周囲がすすだらけになっているのが周波数変換管と中間周波増幅管のスクリーン抵抗。 たぶん一度猛烈に燃えて、その後交換されたものと思われます。 |
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音量調整用ポテンショメータはガリが出たのでしょう、案の定交換されています。
しかし、スイッチつきポテンショなのにスイッチには配線されていません。
ということは、電蓄接続機能は殺されているということになります。 電蓄のピックアップを接続する端子の配線はやはり切られたままになっています。 |
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激しく燃えた形跡が残る抵抗は、B電源平滑回路の平滑抵抗でした。
実物の抵抗値を測定してみると、無限大。 半波整流管80BKで整流され、最初の電解コンデンサで平滑されたB電源は、典型的なモデルではDC240V。 この電圧が出力トランスを通って出力管のプレートに印加されます。 残りの全ての回路の電源はここから2kΩの平滑抵抗を通り、二つめの電解コンデンサでさらに平滑された200Vが給電されます。 本機ではこの平滑抵抗が焼け切れていたために、出力管のプレート回路以外の電源が供給されていませんでした。 したがって、この抵抗さえ交換すればラジオは動作し始めるはずです。 しかし、この平滑抵抗がどうして焼けてしまうのでしょうか? 本当の原因が残ったままならば、交換した抵抗もまた燃え出してしまうでしょう。 |
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まず見つかったのは、6WC5のスクリーンバイパスに使われている0.05μFのワックスペーパーコンデンサのリーク。
マルチメータで1MΩを示します。
その他のコンデンサには明確なリークはありません(高電圧印加の場合は不明ですが)。 もしこの0.05μFが顕著なリークを起こすと、まず6WC5と6D6のスクリーン抵抗がオーバーロードとなって燃え始めるはずです。 このスクリーン抵抗は標準的なものでは10kΩ2Wですが、実機ではずいぶん大きな電力容量の15kΩが付けられています。 で、なぜかその抵抗の周囲はどこも真っ黒。燃えたので取り替えました、といわんばかりです。 こんどは燃えないように大きめのものにしときましたよ、というセリフも聞こえてきそう。 スクリーンバイパスを切り離しても、まだどこかリークしています。 IFT内部になると厄介だなあと考えながら、低周波増幅管6Z-DH3Aのプレート抵抗を切り離してみると、なぜかリーク電流が消えました。 こりゃ変だ。この先、本来つながるはずの部品は真空管を含めて全部取り外したのに。 いじっているうちに、どうも6Z-DH3Aの真空管ソケット自体がシャーシにリークしていることがわかりました。 おそらく埃かごみ、あるいは汚れによるものでしょう。ソケットのピンをゆすっていたらリークは消えてしまいました。 この6Z-DH3Aのプレート抵抗は、250kΩの抵抗3本が組み合わされてひとつの375kΩ抵抗として配線されています。 終戦直後の混乱期の製品ではないですからメーカー製造時のものとは考えにくいので、 いつの頃か一度焼けてオーナーか修理屋が手持ちの部品でやっつけ工作をしたものと考えてよいでしょう。 回路図によれば、本来は250kΩが取り付くはずなので、過電流を防ぐため高めの抵抗に変更したのかもしれません。 |
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傍熱型整流管80BKのヒーターはテスト開始直後は点灯しませんでしたので、擬似断線の疑いがありました。
安定化電源装置で5Vをヒーターに通電してみると、軽く叩いても途切れることなく約650mA流れ、暖かな光でヒーターが灯ります。
真空管を抜くときの手応えが妙に軽かったので、ソケットの受け金具がゆるくなっていたためと考えられます。 局発コイルは導通あり。正常と思われます。 第1IFTは1次側巻線: B-P間導通あり、シャーシへの導通なし。 2次側巻線: E-G間導通あり、シャーシへの導通なし。正常と思われます。第2IFTも同様。 電源トランスも、いままでの観測から正常と考えられます。 入手の困難なパーツがとりあえず正常そうなので朗報としておきましょう。 |
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キャビネット内の回路図と照らし合わせながら、シャーシ下の部品を全て外しました。
使用されている部品の多くは指で触るのも避けたいくらいに汚れています。
回路図には明記されていない、マジックアイ配線の色分けは以下の通り。
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トーン コントロール用のシャント コンデンサ3つ。見事な油汚れで、とても素手で触りたくありません。 |
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部品がなくなってシャーシ表面へ指が届きやすくなったので、お次はSaftyWashでの清掃作業。
何十本もの綿棒を使って、電気的に問題となりそうな汚れは除去できました。
ただし表面の仕上げはやはり痛みかかっているので、新品同様の輝きとは行きません。 真空管ソケットがネジ止めならそれも外して完全にシャーシだけにして、 清掃した後に安直にスプレーをかけてごまかす手もありますが、 ソケットやラグ板はリベット止めです。清掃以上の作業は行わないことにしました。 電源とトーン コントロールのロータリースイッチも、細部にわたって油汚れでベタベタです。 取り外してシンプルグリーン溶液を入れた超音波洗浄機で10分程度洗い、取り出してすぐにぬるめのヘアードライヤーで乾燥させました。 接点表面のわずかな残渣を柔らかなクロスでふき取り、完了。 シンプルな接点構成だったので楽でしたが、ロータリースイッチは同等品の入手が困難なので気を使います。 シャーシ中央のラグ板はカシメがゆるくなってしまっていたので、カシメを外して新品に交換しました。 真空管ソケットの受け金具接触面もかなり油汚れがありますので無理をしない範囲で清掃しました。 次はいよいよリビルドです。 |
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電源トランスで昇圧されたB電源用の高圧は、傍熱型半波整流用2極管 80BK で整流されます。
80BKは直熱型整流管KX12Fを傍熱型にしたものです。
傍熱型整流管ではカソードが暖まるまでに時間がかかりB電圧が発生し始めるのがそれだけ遅いので、
他の真空管が温まらないうちにB電圧を印加してしまってカソードに高圧がかかり痛めてしまうというトラブルを回避できます。 80BKの定格値は以下のようになっています。
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低周波出力段には低周波出力用5極管 42 が用いられています。
42は1932年発表、実質的に6F6Gと同等です。
5極管接続としてプレート電圧250Vを印加しA級動作させた場合の最大出力は3.1Wで、家庭用ラジオとしては申し分ないパワーを得ることができます。
負荷抵抗は7kΩ。 本機の出力トランスはスピーカに取り付けられているので、B電源はいったんシャーシから出てトランスを通り、 ふたたびシャーシ内に戻って42のプレートに供給されます。 本機にはフロントパネルのスイッチによって3段階に切替が可能なトーン コントロールがあります。 これは出力トランス1次巻線の両端に入るシャント コンデンサの容量を切り替えるタイプです。 HIGHポジションでは0.005μFのコンデンサだけが入りますが、MIDポジションでは0.01μFも並列接続され、 LOWポジションではさらに0.02μFも並列接続されます。 この方式は簡便ですが、コンデンサにショート故障が起きるとどのようなことになるか、 ちょっと恐ろしい回路です。 |
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次は6Z-DH3Aの配線を行います。
この管は2極・3極複合管で、2極管部で検波動作、3極管部で初段低周波増幅を行います。
まずは低周波増幅部だけ配線しました。 36kΩと250kΩで減圧された6Z-DH3Aのプレート電圧は113.5V。 グリッドに音声信号を入れると、スピーカからはバランスの取れたいい音が聞こえてきました。 オーディオ段はゲインもパワーも十分で、アパートでは明らかにお隣りさんの迷惑になるほどの音量が得られます。 周波数特性も問題なく、シンバルやハイハットの音も自然です。 AMラジオとして使う限りは10kHz以上が伸びていてもたいしてありがたみはありませんが、 PU入力端子を使用してCDプレーヤでもつなぐのであれば、やはりバランスの良いオーディオ段は歓迎されます。 トーン コントロールをMIDにすると高音はかなり抑えられて落ち着いた感じになり、LOWポジションでは通信型受信機なみに中高音が減衰します。 ラジオ放送を楽しむのならLOWポジションはちょっと抑えすぎ、といった感じです。 ここはオリジナルのスピーカとトランスでもう一度試す必要があります。 4時間ほど連続してCD音楽を楽しみましたが、動作は安定しています。ここまでのところはすべて順調。 検波回路は6Z-DH3Aの2極管部を用いたダイオード検波です。 中間周波信号から音声成分を取り出すとともに、信号強度に応じた負の直流電圧を生成してAGC電圧とします。 検波段の配線が完了したので、中間周波増幅段の作業にとりかかります。 |
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本機の中間周波数は455kHzです。
中間周波増幅は1段構成で、6D6 が使用されています。
6D6は相互コンダクタンス1600マイクロモーのリモート カットオフ5極管で、
アメリカでは1930年代の半ば頃、初期の民生用スーパーヘテロダイン機に多く採用されました。
1930年代後半頃にはより使いやすく性能の良いメタル管、6SK7 (2350マイクロモー)に置き換えられ、
1940年代にはほぼ使われなくなっています。日本ではそれから20年たってもスーパーヘテロダイン用として現役でした。 6D6はグリッド バイアスを変化させることによって増幅率を変えることのできる、いわゆるバリμ管です。 検波回路で発生した信号強度に比例した負の直流電圧をグリッド バイアスとして印加することにより、 強い信号のときは増幅率を下げ、弱い信号のときは増幅率を上げるようにできます。 これにより信号の強弱にかかわらず一定の音量が得られるようになリます。 この回路がAutomatic Gain Control、AGCです。 日本では戦後の1950年代になっても戦前の古い言い方であるAVC、Automatic Volume Controlと呼ばれていました。 検波段と中間周波増幅段の配線が完了しました。 6D6を差し込み、入力側中間周波トランスから出ている線を6D6の頭部のグリッド キャップにつなぎます。 この線はトランス下側のG端子にも出ています。 目黒MSG-2161シグナル ジェネレータ の出力周波数を455kHzにセットし、400Hz 50%の変調をかけます。 信号を中間周波トランスのG端子に印加して出力レベルを70dBμまで上げてラジオの電源を入れると、スピーカから音が出てきました。 各部の信号を オシロスコープ でチェックします。問題なし。 シグナル ジェネレータを外部変調に切替えて音楽信号を入れてみると、かなりいい音で鳴ります。 真空管ラジオの感度を向上させる簡単な改造のひとつは、中間周波増幅管のカソード抵抗の変更。 通常は300Ω程度が使われていますが、これを100Ω程度までに下げることにより増幅管のゲインを高めることができます。 が、中間周波トランスの作りや配置・配線によっては発振してしまう場合もあります。 本機でも試しに150Ωにしてみました。 発振などの異常動作は起こらず、たしかにゲインはアップしますが、 AGC電圧をメータで見なければ気がつかない程度の向上でしかありません。 今回はオリジナルの300Ωのままにします。 |
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本機の中間周波数は455kHzです。
標準的なスーパーヘテロダイン式ラジオ受信機では中周波増幅段の前後に455kHzに同調した二つの中間周波トランスがあり、
ここで455kHz以外の信号は阻止されて目的の信号だけが通過します。
これにより、それ以前のストレート式ラジオでは得られなかった優れた選択度を得られるようになりました。 中間周波トランスの通過帯域特性は、受信機の性格によって広帯域と狭帯域のものとが使い分けられます。 狭帯域トランスは優れた選択度を得ることができ通信型受信機に向いていますが、 反面再生音の高域もカットされていまい、音楽を楽しむためのラジオには不向きです。 近距離の放送局を良い音で楽しむためには、広帯域なトランスが好まれます。 簡単に選択特性を測定してみます。 現在は入力側中間周波トランスの2次側にシグナル ジェネレータの信号を注入しているので、 選択度に寄与しているのは出力側の中間周波トランスだけです。 シグナル ジェネレータの出力周波数を変化させてみて、AGC電圧の読み値を測ってみました。 ジェネレータの出力は70dBμです。 すると、最大出力が得られる周波数は本来の455kHzではなくて、459kHz付近にあります。 そこで、出力側の中間周波トランスの調整を行ってみました。 シグナル ジェネレータを455.0kHzにセットし、AGC電圧が最大となるように中間周波トランスの上下の調整ネジを回してみます。 下側ネジの調整は効果があり、うまくピークを455kHzに持ってくることができました。 上側ネジの調整はあまり変化なし。 言い換えればトランスの1次側と2次側とでピークがずれていたわけで、調整後はピークでのゲインが目に見えて向上しました。 455kHz注入の状態で数時間CD音楽を聴いてみましたが、動作は完全に安定しています。 これで中間周波増幅段まで完成しました。 ラジオの動作に必要な5本の真空管のうち現時点で4本までが正常に動作しており、また家庭用ラジオとして十分に満足の行く性能を示しています。 |
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いよいよ最後の周波数変換回路、スーパーヘテロダインの心臓部に取り組みます。
本機の周波数変換回路もまたごく標準的な国産ST管5球スーパーヘテロダイン式のものです。
使われている真空管は6WC5。
アメリカで1930年代後半に開発され1950年代まで使われつづけたペンタグリッド コンバータ 6SA7をモデルにして日本で設計された、純国産の周波数変換管です。 自励式の局部発振回路はギャング バリコンの片側と、シャーシ下面に取り付けられた局部発振コイルにより構成されており、 局発コイルのタップが6WC5のカソードに接続されます。 6WC5の第2・第4グリッド、つまりスクリーン グリッドは局部発振回路のプレートとしての動作を行います。 局部発振回路は、受信しようとする周波数に対して455kHzだけ高い周波数を発振します。 いっぽう、アンテナから入った高周波信号はギャング バリコンの片側とシャーシ上の同調コイルとで構成された同調回路で目的周波数だけが選択され、 6WC5の第3グリッドに印加されます。第3グリッドには直流的には同調コイルを通じてAGC電圧が印加されています。 つまり、6WC5のゲインはAGC制御されています。 6WC5の内部の電子流は局部発振周波数で振動していますから、 第3グリッドから入力された高周波信号は増幅されるとともに局部発振周波数で変調されることになります。 これにより、6WC5のプレートには2つの信号の和と差の周波数、 つまり局部発振周波数+入力信号周波数、および局部発振周波数-入力信号周波数の2つの周波数が現れます。 ここで局部発振周波数は入力周波数よりもつねに455kHzだけ高くなるように工夫されているので、差の周波数はいつも455kHzになります。 6WC5のプレート回路には中間周波トランスが接続されており、ここで455kHzの周波数成分だけが取り出されて次段に導かれます。 このしくみにより、アンテナからの信号は455kHzの中間周波数に変換されます。 |
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局部発振回路の配線を完了し、目視チェックを済ませて6WC5を差し込んで電源を入れました。
近くにトランジスタラジオを置いて1455kHzにダイヤルを合わせておき、本機のダイヤルを1000kHz近辺で回すと、
サーッという音とともにトランジスタラジオのチューニングメータが強く振れました。
これで局部発振回路の動作が確認できました。 ふたたび電源を切り、アンテナ回路の配線を行います。 作業完了して電源を入れ、1000kHzにセットしたシグナル ジェネレータの信号を同調コイルのアンテナ側ターミナルに接続すると、 本機のダイヤルの1100kHz程度で信号が受信できました。 周波数変換動作が確認できたわけで、いよいよラジオ受信機として動作しはじめた瞬間です。 ベランダに張ったワイヤーアンテナに切り替えてみると、ラジオはいよいよラジオとして動作し、NHK東京を受信しだしました。 関東平野からはずれた鉄筋アパートでの中波放送受信環境は本当に劣悪でコンピュータ ノイズをかぶってしまいますが、 ラジオ深夜便の再生音は実にクリアです。 すっきりと伸びた高音は通信型受信機では味わえないものです。 |
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局部発振用バリコンに直列接続されるパディング コンデンサは局発周波数を受信周波数よりも高くするためのものですが、
回路図どおりの容量(420pF)のものがなく、400pFを取り付けました。
シグナル ジェネレータを使って簡単にトラッキング調整を試みると、
局発コイルのコアをちょっと回すだけで受信周波数をダイヤル目盛にほぼ正確に合わせこむことができました。 ダイヤルを回してみると、周波数の高いほうの感度がかなり低下しています。 バリコンのトリマは赤い樹脂で固定されていますが、これを取り除いて再調整を試みます。 細いドライバなどを使って赤い樹脂を取り除くと、トリマ コンデンサとその調整ネジが現れました。 一度ネジを取り外して、精密ドライバで樹脂の残りを念入りに取り除きました。 このトリマには雲母板が2枚使われていますが、局発側の雲母板が一枚割れてしまいました。 このトリマを使うのをやめてシャーシ下に安定度の良い新品のトリマを取り付けることも考えましたが、 とりあえず仮調整してみたところ使用可能な範囲だったのでこのままでいきます。 局発コイルのコア、局発バリコンのトリマ、そして同調バリコンのトリマを繰り返し調整し、 おおむね満足の行く性能とダイヤル精度が得られました。感度は鳴りはじめの時に比べれば大幅アップ。 シグナル ジェネレータを使った簡単なテストでは800kHz近辺に感度の落ち込みがあります。 短いビニール線をつないで実際に電波を受信してみると、 ダイヤルの低い側に比べ高い側ではやや感度が低下してしまいます。 このあたりは廉価なアンテナコイル回路の設計に起因するものではないかと思われます。 |
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ここで周波数変換段と中間周波増幅段との間の中間周波トランスの調整を行います。
6WC5の第3グリッドに455kHzを注入し、AGC電圧を測定しながら下側および上側ネジを回します。
やはりセンターは455kHzからややずれていたようで、感度はアップしました。 不思議なのは、上側ネジをかなりねじ込んでも感度が上がりつづけることです。 トランス内の同調コンデンサの容量がかなり変化してしまっているのかもしれません。 現状でもほぼ左右対称な選択度特性が得られていますので今回は分解して内部を調べるところまでは手を出さないでおきますが、 もう少し性能向上を狙えるでしょう。 強力な隣接局の場合は2チャンネル分、つまり18kHz離れていても混変調を受けますが、 通常の信号強度の局なら1チャンネル 9kHzだけ離れればほぼ分離できます。 |
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入力信号強度とAGC電圧の関係を調べてみました。
実際に放送音楽を楽しむのであれば、60dBu程度の入力信号があれば十分なS/N比とパワーが得られます。 家庭用ラジオなので気を配る必要はほとんどありませんが、AGCの応答速度は適切なもので良好に反応します。 AGCラインに音声信号はほとんど重畳しておらず、したがって不要なフィードバックもありません。 ただしAGCの効き自体はそう強くなく、-0.5Vと-6Vではかなりの音量差があります。 |
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測定部位 | 測定結果 | 備考 |
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整流管80BK直後のB電圧 | 292V | 平滑抵抗消費電力1.25W (2W抵抗器使用) |
出力管42 プレート電圧 | 286V | |
出力管42 スクリーン電圧 | 243V | |
出力管42 カソード電圧 | 16.6V | カソード抵抗消費電力 0.552W (1W抵抗器使用) |
出力管42 グリッド電圧 | 0.0V | |
低周波増幅管6Z-DH3A プレート電圧 | 98.5V | プレート抵抗消費電力0.068W (1/2W抵抗器使用) |
低周波増幅管6Z-DH3A プレート抵抗B電源側電圧 | 228V | |
低周波増幅管6Z-DH3A カソード電圧 | 0V | |
低周波増幅管6Z-DH3A グリッド電圧 | -0.6V | |
中間周波増幅管6D6 プレート電圧 | 240V | |
中間周波増幅管6D6 スクリーン電圧 | 95.2V | スクリーン抵抗消費電力 1.4W (3W抵抗器使用) |
中間周波増幅管6D6 カソード電圧 | 2.4V | カソード抵抗消費電力 0.02W (1/4W抵抗器使用) |
中間周波増幅管6D6 グリッド電圧 | 0V-7V(AGC) | 受信信号強度によって変化 |
周波数変換管6WC5 プレート電圧 | 239V | |
周波数変換管6WC5 スクリーン電圧 | 95.2V | |
周波数変換管6WC5 カソード電圧 | -0.02V | 局発信号 0.12Vp-p |
周波数変換管6WC5 第1グリッド電圧 | -2V - -7V | 局発信号 5 - 7Vp-p |
周波数変換管6WC5 第3グリッド電圧 | 0V-7V(AGC) | 受信信号強度によって変化 |
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平滑用電解コンデンサを取り付けたラグ板に平滑抵抗も取り付けていましたが、
そのすぐ近くにマジックアイへのケーブルをはわせる必要があり、熱を出す抵抗とケーブルが接触してしまいます。
ので、平滑抵抗の場所を変更しました。
今まで使っていた2Wの1%品は足を短く切ってしまっていたので、もうひとつ買っておいた3W品を使うことにしました。
電力容量に余裕が出る方向ですから良いでしょう。
マジックアイのターゲット抵抗も取り付けたし、あとはキャビネットへの組み込みを残すのみ。 使用した部品はどれも昔のものに比べると小型になっているので、完成したシャーシ下側は前よりもずっとあっさりしています。 配線も色分けしたので、ススと油汚れで真っ黒だったリビルド前にくらべるとずっとカラフルになってしまいました。 が、特にコンデンサの類は当時のものよりずっと特性がよくなっていますので、5球スーパーの本来の性能を引き出せているはずです。 ここまで性能が出せれば、木造家屋なら夜は数多くの放送局が聞こえるのでしょうが・・・ ラボでは聞こえるのはNHKだけ。 まあ聞こえたとしても、民放のくだらないトークショーでは幻滅です。聴くべき番組がないというのは実に残念。 ので、シグナル ジェネレータでCD音楽を楽しむことにします。 ラジオ受信機として復活してからすでに10時間近く動作させていますが、動作は完全に安定しており、 1970年代の"AM GOLD"オールディズをいい音で聴かせてくれています。 |
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調子よく鳴っているので、キャビネットに組み込んでマジックアイが光るかどうか早く見てみたいものです。
が、ひとつ納得できないことがあります。
どうして周波数変換段直後の中間周波トランスの上側ネジの調整が取れなかったのか。 このまま組み込んでも依頼主には満足してもらえるだろうし、多少感度が悪くても、古いラジオのことだから、とがめられはしないでしょう。 でも・・・・。 すっきりしないままでいるのもいやだなあと思い、その中間周波トランスを取り外してみることにしました。 配線を外し、グリッド キャップを外し、シャーシに固定するための2つののM3ナットをゆるめます。 中間周波トランスの取り付けネジは円筒形アルミケース側についており、 クリップ ピンを外すだけでなんら乱暴なこともせずに簡単にシールド ケースを開けられました。 ベースは良質の黒色プラスチックで、それにエボナイトのようなパイプが植えられており、そこにコイルが2組巻かれています。 上側コイルは出力側巻線、つまり中間周波増幅段の入力コイルです。各コイルには、250pFのチタコンがパラに半田付けされています。 |
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調整できなかった方のチタコンの足を外し、抵抗値を測定してみました。
が、マルチメータの指示は無限大。
リークしているかもしれないという推定は外れていました。
ともかく、2つの250pFはその表面コーティング膜が割れかかっていたので、ディップドマイカに交換します。
250pFジャストのものは手持ちにはないので、270pF品を取り付けました。 ベース プラスチックの表面はシャーシ内部と同様に真っ黒で(もともと真っ黒ですけど)、 綿棒でかるくなでただけで油ほこりがたっぷり取れます。 ベース周辺とコイル表面の汚れを綿棒でていねいに落とし、シールド ケースをシンプルグリーン原液とお湯で洗いました。 この中間周波トランスは例の6WC5と6D6のスクリーン抵抗の真上にあり、 使用中は絶えずスクリーン抵抗で熱せられた空気の対流が油ほこりをベースの隙間から内部に持ち込んでいたのでしょう。 再組み立ては実に簡単。配線をもどし、電源を投入します。 同調コンデンサを250pFから270pFにしたのですから当然再調整が必要です。 シグナル ジェネレータからの455kHzを6WC5の第3グリッドに注入して、 AGCライン電圧をマルチメータとオシロスコープで観測しつつ、調整ネジを回します。 |
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下側ネジは、数回転程度回した位置できれいにピークが取れました。
上側調整ネジは分解組み立て直後なので、コアはコイルから最も離れた位置にあり、
ここからネジを締めこんでいってダストコアをコイルに近づけていきます。
するとAGC電圧はぐんぐん下がり、たちまちオシロのラスターは管面の下に飛び出してしまいました。 シグナル ジェネレータの出力を落とし、ボリュームを絞り、オシロスコープの入力レンジも上げてひきつづきネジを回します。 AGC電圧はますます下がり、やっとピークに達したときには見違えるような性能が出ています! やはり今までの性能は本来の姿ではなかったのです。 気をよくして、もうひとつの中間周波トランスについても同様のメンテとコンデンサの交換を行いました。 こちらは100pFのコンデンサが使われており、最初のものほどひどくはありませんが、やはりかなり汚れていました。 100pFのマイカに交換し、清掃して組み付け、再調整を行いました。 予想通り、こちらは性能的に大きく変わりませんでした。 IFT内部手入れ前にはAGC電圧が-0.6Vとなるためにはシグナルジェネレータの出力は60dBμ必要でしたが、 今では36dBμしか必要としません。実に24dBもの感度向上がみとめられます。 |
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受信周波数:1000kHz
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信号が判別可能な入力レベルも、かなりアップしているはずです。
しかし現状では、ジェネレータからの同軸ケーブルをみの虫クリップのついたジャンパーコードでアンテナコイルにつないでおり、
ここで近くのコンピュータ ノイズを拾ってしまいます。
もし外部雑音が減れば、右の表の最小入力レベルはもっと小さい値になるはずです。 これでシャーシのリビルド作業は完了。 長時間にわたってのテストでも動作は安定しています。 次はキャビネットへの組み込みです。 キャビネット底面に近い部品の温度も高くはなく、問題はないでしょう。
追記: 今回は中間周波トランスをすべて所定の中間周波数に正しく調整しましたが、
放送用受信機の場合は故意にトランスのセンター周波数をずらし、
広帯域にすることによって音質向上を狙ったものがあったようです。
本機の場合、完成後にヘテロダイン ホイッスルが発生しましたが、
調整をずらして結合を疎にすれば収まったのかもしれません。
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組みあがったラジオは音量も感度も選択度も十分ですが、しかし、あれぇ、マジックアイは光りません。
いや、実は緑色に光っているものの、部屋を暗くしないと見えないくらい光が弱いのです。 配線を間違えたのだろうかと思い、ソケット部で電圧をチェック。しかし、配線は正しいはず。 こんどはマジックアイ本体をキャビネットから取り外してみます。 このマジックアイはトーヨー製のEZ-6E5で、管自体は埃でひどく汚れていました。 汚れで表示がよく見えなかったのかとも思いましたが、 軽く水ぶきしてから再度電源を入れてもやはりターゲットの発光は弱々しく、かつ不均一です。 おそらく長い間日光にさらされ、蛍光材料が劣化してしまったのでしょう。残念、交換の必要があります。 じっくりと6E5を観察していて、ターゲットのすぐ内側のグリッドがなんだかちぢれたように変形していることを見つけました。 これは? グリッドが機械的に痛んでいて、それでうまく発光しないのでしょうか。 試しに6E5の頭部を指先で軽くはじいてみたら、うわわっ、パチッと青白い火花が6E5の中で飛び、ラジオの音が消えてしまいました! あわてて電源OFF。 6E5を外して電源を入れると、ラジオは鳴り出しました。ああよかった、シャーシは無事です。 おそらく切れたグリッドがカソードに触れてしまい、 6CW5と6D6のグリッド回路が接地されてしまったために聞こえなくなってしまったのでしょう。 仮にこの切れたグリッド線がカソードとターゲットとをショートさせてしまったら、 B電源回路の過電流焼損につながります。が、現品を観察する限りそういったことはなさそうです。 ともかく、オリジナルの6E5は完全に使用できない状態になってしまいました。 指先で弾かなければしばらくは問題を起こさなかったでしょうが、 いずれそのうちキャビネットを軽く叩いた程度で同じことが起きたでしょう。 納品前に気がついてよかったといえます。 この6E5はほぼ間違いなく工場出荷時についていたオリジナル球と思われますが、 それには"28.3"とマーキングが入っています。 たぶん昭和28年3月製造を意味しているものと推測されます。 であれば、このラジオの製造はおそらく1953年だろうということになります。 |
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通称マジックアイは電圧変化を目で見るために用いられる表示管です。
代表的なマジックアイである6E5は1935年発表。
管の頭部にターゲットと呼ばれる円錐形の金属部品があり、
ここにプラスの高電圧(200V-250V程度)を印加しておきます。
中央に配置されたカソードから飛び出した電子はプラス電圧にひきつけられてターゲットにぶつかります。
ターゲットの表面には蛍光物質が塗布されており、電子がぶつかると光を出します。 カソードの近くには電子線制御用電極が置かれています。 ここにターゲットより低い電圧をかけると、電子は制御用電極を避けるように流れるので、 制御用電極の後ろのターゲットには電子がぶつからず、影ができます。 制御用電極の電圧が変わると、影の大きさが変化します。 ラジオ受信機では、AGC電圧をマジックアイにつなぐことによって受信信号強度を表示でき、 便利なチューニング インジケータになります。 マジックアイはメーターよりも安く作れたし、回路への負荷が少なくてすむので、 米国では1936年頃から数年間はRCAやハリクラフターズなどの通信型受信機にも使用されました。 が、通信型受信機ではやはり読み取り精度のよい機械式のSメーターのほうが好まれ、 1930年代終盤以降では使用例はほとんどありません。 米国の家庭用ラジオでは木製キャビネットの大型コンソール ラジオではよく使われましたが、 1930年代の後半以降は家庭用ラジオの主流はすでにプラスチックケースの低価格モデルになっており、 それらのモデルの大半はマジックアイを持っていません。 マジックアイにはその動作パターンでいろいろなタイプがあり、 緑色や青などの光で1960年代頃までラジオやオーディオ機器の顔を美しく演出しました。 マジックアイの蛍光材料は長い時間の間に劣化して暗くなってしまい良好な状態のものは少なくなっており、 したがって現在では貴重品です。 |
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ラボのストックパーツを調べたら、6U5マジックアイの中古品がありました。
6E5と6U5は同一形状・同一ピン配置なので、そのまま置き換えができます。
6U5をソケットにつないで電源を入れてみると、6U5は暗いながらも均一に発光し、また
影の大きさは受信信号の強度によってきちんと変化します
。
6E5および6U5は内部に3極管を内蔵しており、これが入力電圧を増幅して制御電極の電圧を変化させます。 6E5はこの特性がシャープカットオフで、入力電圧とシャドウ アングル(影の開き具合)はリニアな特性です。 発光部は入力約-8.0Vでシャドウ アングルが0゜になります。 このため、たいへん強力な信号を受信した場合には扇型の両端がオーバーラップしてしまうケースが発生し、好ましくありません。 |
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6U5動作状態ムービー (348KB MPG 17sec) |
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いっぽう6U5はリモート カットオフ特性になっており、入力電圧が強まるにつれ変化量が小さくなり、
-22Vにならないとシャドウ アングルは0゜にはなりません。
それゆえ、微弱な信号から強力な信号まで幅広く対応することができます。
実際にこの6U5では、AGC電圧が-10Vとなるような強力な信号の場合でもシャドウ アングルは30゜ほど残っています。
1950年代の日本製スーパーでは6E5は大人気でしたが、
Radio Designer Handbookには上記の理由により "主流は6U5あるいは6G5で、6E5は計測用に使われる程度である" と書かれています。
大電力の放送局が多かったためでしょうか。 とりあえずこの中古6U5を使うことにしますが、さすがに中古球なので発光は薄ぼんやりしています。 やはり蛍光体の状態のよい6E5が欲しいところです。 マジックアイの交換はマイナスドライバー1本あれば簡単にできますから、後日どこかで入手できたらそのときに交換することにしましょう。 それにしても右の写真はなんでだか怖いよね。 このページを見せたらヨメが「悪い夢見そうだ〜っ!!!」と逃げ出してしまいました。実物はそんなにホラー映画していないのに。 シャーシをキャビネットにネジで固定し、つまみを取り付けて、八歐無線6S-10スーパーラジオの修理は完了です。 |
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