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Sony ICF-1100D "The 11 D"

Portable 3 Band Receiver


(1971)


スカイセンサー前夜

    家人の RF-877 を半ば自分のものとして使い始める前に、 親戚の方から黒い横長のトランジスタラジオを借りたことがあります。 小学3年のころだったと思うのですが、 それについているSWというバンドは短波だということまでは知っていたのですが、 それは普通の人は聞いてはいけないものなのかもしれない、 免許がないと使ってはいけないものなのかもしれないなどと思って、 ドキドキしながらダイヤルを回していた覚えがあります。 奇妙な音が聞こえてくるそこは全くの未知の世界でした。

    あのとき借りたラジオがはたしてイレブンだったのか、 ワールドボーイだったのか、それともほかのモデルだったのか、 メーカー名すら覚えていません。 その後わたしがしっかりと意識を持ち始めたときはすでにクーガ/スカイセンサーの時代でしたから、 ワールドボーイ/イレブンの時代は全く知らないのです。

    1950年代末から1960年代中盤、多くのメーカーの多彩な製品が並ぶ 2バンドトランジスタポータブル の百花繚乱時代。 その後淘汰が進み、 中小メーカーが廃業撤退して大手メーカーのみが残っていった1960年代後半。 スカイセンサー前夜の製品を使ってみたい、 とは長いこと思っていました。

    なので、リユースショップの店頭で安く売られていた外装損傷の少ないソニーは即購入決定。

2024-12-02 ICF-1100D 購入






The 11 D

    このモデルは長く続いた「イレブン」シリーズの最終型。 ICF-1100 "The 11" に、FMワイヤレスマイク機能が追加された "The 11 D" です。

    TFM-110 "Solid State 11"に始まるイレブンシリーズは、 横長のトランジスタポータブル3バンドラジオの代表機種なのかもしれません。 シルバーパネルが高級感を出している縦行きスライドスケール。 その後ICが採用されたICF-110でムービングフィルムダイヤルが採用され、 さらにフェイスリフトされたブラックモデルでは精悍さがぐっと増します。

    ICF-1100になるとフロントパネルの間延び感低減のための意匠、 各部の縦横比率の審美眼的な見直しなどデザインの精悍さに磨きがかかり、 後のスカイセンサーシリーズにつながる意匠上の基本要素が揃ってきますね。 インジケータ下の〇に"D"と左右に伸びる矢印のマークも入っており、 ここでさらに電源スイッチやダイヤルヘアなどに緑色のワンポイントを入れれば、 もうそれはスカイセンサーデザインでしょう。

    ICF-1100Dはほぼ内部が変わらないままICF-5400 スカイセンサー5400としてフェイスリフトされたとのこと。 まさにスカイセンサー前夜のモデルです。






テスト開始

    SBE SB-34のAGC改善作業の途中ですが、 気分転換にイレブンをいじり始めます。 単2乾電池3本を入れようとしましたが、 はて、電池を入れてもカタついています。 どうやらマイナス極側のばねがヘタっているか、折れている様子。 これはダメだ。 アウターポジティブの外部電源ジャックからDC4.5Vを入れると、 メータが振れました。

    ダイヤルを回すとメータは放送波に反応していますが、 スピーカから音は全く出てきません。 これはきっとここ・・・イヤホンジャックにプラグを差し込み外部スピーカをつなぐと音が出ました。 接点洗浄剤をイヤホンジャックに少量噴射してプラグを抜き差しでジャックの接触不良は回復、 内蔵スピーカからも音が出始めました。

    でもまあ、これはある意味ありがたい故障でしたね。 リユースショップに持ち込まれたイレブンをテストした店員さんは電源が入らず音も出ないのを確認して、 ジャンク扱い品のなかでも低い価格を設定したでしょうから。 ちゃんと音が出ていたら、倍の値段くらいは付けられていたのかもしれません。

    ボリュームコントロールの動きはスムースで、FM/MW/SWの各バンドも正常に動作を始めました。 今夜はイレブンでラジオタイランドを聞きましょう。 短波のダイヤルには800kHz近いズレがあります。 ここは調整してあげないと。

    今冬9.940MHzのラジオタイランドは信号が弱くノイズに埋もれる日が多いですが、 イレブンはしっかり受信してくれています。 AGCもきちんと動作していると見えて、メータの針の動きも自然です。 ダイヤルのバックラッシュは無視できませんね。 改善できるといいのですが。

    音量は十分に実用的だしFMを聞くと低音も高音も良く出ていますが、 音にはなにか雑味のようなものを感じます。 明確に歪んでいるというわけではないのですが、 なにかザラザラしたものが混じっている感じ。 電解キャパシタの全交換も実施した方がよさそうです。

2024-12-03 ラジオタイランドを聞く



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内部を観察

    リアパネルを開けると、劣化したスポンジの粉がこぼれてきました。 内部の各所にスポンジ粉が付着しています。

    大きめの電解キャパシタは空きスペースに押し込みましたという風情。 接着剤とスポンジで固定されていますが、 このスポンジも完全に劣化しています。





    タバコのヤニやキッチンの油の付着はありませんが、 内部はスポンジの粉に加えておそらく部屋のジュータンの繊維ホコリが各所にたっぷり絡んでいました。 内部はサービスの手が入ったようには見受けられず、 ラインオフ当時のままのように見えます。

    バンドセレクタは上面パネルのレバーを左右に倒して切り替えますが、 バンドセレクタスイッチそのものはプリント基板の上に実装されたスライドスイッチ。 このスイッチには接触不良がなく、切り替えは安定しています。 とてもありがたいこと。




    このラジオには2SC710が多数使われています。 ソニーラジオの2SC710はよく劣化故障すると聞きますが、 本機ではいまのところ大丈夫そう。





    オーディオパワーアンプは入力・出力トランスをもつトランジスタプッシュプル。 出力トランジスタはアルミダイキャストのヒートシンクで挟まれ、 ヒートシンクにはスチール板金の延長放熱板がついています。 このヒートシンクを取り外すにはネジを1本緩める必要がありますが、 そのネジを回すためにはフェライトバーアンテナを取り外さなければなりません。 いっつ・あ・そにー。

    写真右下に見えているのはダイヤルライトスイッチ。 シンプルな機械接点のスイッチですが、 東芝トライエックス 1600 のウルトラチープなスイッチと異なり、コストをかけてしっかり作られています。




    バリコンを回すチューニングホイールは見たところ66ナイロン成型品のようですが、 歪んでしまっており、コードのスムースな動きに影響しています。 幸いに他の構造への接触はなく、 コードは外れることなくなんとか動いていますが、 パーフェクトを望むならゆがみを修正したいですね。

    ICF-1100はムービングフィルムを回す上側シャフトについているナイロン製の小さなプーリーが弱点らしく、 破損している例を複数件見ました。 本機ではあきらかな変形が見られますが、 破損にまでは至っていません。





    基板のはんだ面はさほど汚れてはいません。 本機はワイヤレスマイク昨日が追加された"D"モデルですが、 ワイヤレイスマイクスイッチはSPCC曲げ板金の追加ブラケットで取り付けられています。 ベースモデルのシャシー金型に対して大きな変更をせずに済む方法ですね。





    ICF-1100Dに使われている唯一のIC。 8ピンのDIPパッケージで、低周波初段増幅を受け持ちます。 当時の広告によると中身はトランジスタ2個と抵抗3本だとかで、 民生用初期の、とても素朴なアナログICですね。 幸いにいまも正常に動作している様子。

    "IC+FET"のうたい文句のFETは、FMの高周波増幅段に使われています。 中波と短波のAMを受信する回路にはFETは使われていませんし、 オーディオプリアンプのICも小型軽量低生産コストには寄与しても性能にはほとんど影響がありません。 当時のマーケティングとして "IC+FET" で高性能をアピールする必要があったわけですが、 短波受信機としてみる限り、ほぼなんの恩恵もありません。

    それから50年、FM/AMマルチバンドラジオはそのほぼすべての回路がワンチップICに収まるようになったのですから、 その進歩はすごいな、と思います。




    基板半田面には空中配線の部分があります。 ICF-1100DはICF-1100にワイヤレスマイク機能を追加したものですから、 1100のオリジナル回路の量産時工程内対応だったのならば基板の再設計時に修正されたはずで、 これは1100Dの基板でのものなのでしょうね。






リキャップする

    休日を使い、電解キャパシタ全交換の作業を始めます。 実装密度の高い部分に取り付けられたキャパシタを交換するのは意外に面倒で、 ひとつ交換するのに30分以上かかることも。

    ひとつ交換しては動作チェックを行い、状況変化の有無や作業ミスの有無を確認しながらの作業。 大きなものから作業を始めます。 大きなものは電源平滑でしょうから、 安定化電源で動作させている限り変化を感じないのも当然かもしれません。 7つめを交換したところまではどれも機能性能に変化は感じられませんでしたが、 8つめ ― 写真に見えているラベンダー色外装のもの(交換後のものです) ― を交換したら音量が明確にアップし、 音質もずっと自然なものになり、 当初感じていた音の雑味はなくなりました。






ダイヤルアライメント

    このラジオはどうやら以前にサービスの手は入っていないと見えたので、 となるとダイヤルのズレはフィルムダイヤルユニットの取り外し再組付けの際の作業不良によるものではなさそうです。 であれば、ズレ修正は局発周波数調整で行きましょう。

    サービスマニュアルはありませんが、 基板を眺めてMW/SWとFMの局発コイルと局発トリマがどれであるのかがわかりました。 シグナルジェネレータを使って、 MWは700kHzと1200kHzで、SWは5MHzと10MHzで調整しました。 結果うまくいき、短波でのダイヤル誤差は100kHzほどに収まりました。 FM局発発振コイルの調整はすごくクリティカルで、 調整のためにもともとついていた固定ワックスは除去してしまいましたが、 グルーガンでも買ってきて固定した方がいいかな?

2024-12-07 ダイヤル目盛り合わせ






ダイヤルずれの原因

    電解キャパシタリキャップ作業はプリント基板の部品面を見て行っていたのですが、 ダイヤルを合わせの作業の時に、基板のはんだ面にも2つの電解キャパシタが残っているのに気がつきました。 ここは部品面からだと電池ケースにさえぎられて見えないのです。 この2つも新品交換しました。 すると、あれ? ダイヤルが狂っている。

    ダイヤル目盛りの狂いは、右の写真に見えている2つのキャパシタのうち、 右側のものを交換したときに起きました。 回路を追っていないのでわかりませんが、 ひょっとしたらこれは局部発振回路の電源ラインのデカップリング用で、 これがリークして発振トランジスタの出減電圧が下がっていたとかなのかもしれません。 ともかくキャパシタ交換後に再度ダイヤルのアライメント取り直し。

    もしかすると本機入手時にダイヤルが狂っていたのは、 このキャパシタの劣化が原因だったのかもしれません。 再調整などせずとも、キャパシタを新品交換しただけでダイヤルずれは直ったのかも。

    もうひとつ気づいたのは、このキャパシタを交換した後に受信機の全電流が減ったこと。 それまでは0.04A ( 電源装置 のデジタルメータ読み) だったのが、 交換後は0.03Aないし0.02Aに減りました。 電源ラインでリークしていたのは確かなようです。

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バッテリスプリング修理

    このラジオはむかししっかり液漏れしたと見えて、 乾電池ばねは腐食し、途中で折れていました。 幸いに漏れた液は内部機構には達しておらず、 乾いた電解液の清掃だけで済みました。

    教材用電池ボックスの在庫品に使われていた電池ばねが径・長さともにぴったりだったのでそれを取り外し、 ちょっと加工して、1100に組付けました。 いい感じに修理でき、これで乾電池でも動作開始。

2024-12-07 電池ぱね新品交換






仕上げ

    キャビネットとリアカバーをシンプルグリーンで清掃し、組み立て。 このラジオはとても組み立てしやすいです。 スピーカとフロントパネルはなんの固定もなく、 押し付けられているだけ。 リアパネル内側に取り付けられたスポンジでスピーカをフロントパネルに押し付けているのですが、 このスポンジは完全劣化していたので、 手持ち材料のスポンジを両面テープで貼り付け。

    The 11の広告を見ると音質も重視して作られていることが紹介されていますが、 キャビネットとスピーカの取り付けはいかにもチープで、 だけれども幸いに、大音量で鳴らしてもスピーカのビビリはありません。

    ダイヤルライトボタンが欠落していますが、 これは手を打たず。 ムギ球をLEDに変えて常時点灯することも考えましたが、 電池駆動のポータブル機として使いたいので、 消費電流増となるLED常時点灯は止めました。 このうちライトボタンを何とかしてあげたいところ。

2024-12-07 キャビネット組み立て






テストラン

    このラジオ、ムービングフィルムダイヤルではありますが、 フィルムとダイヤルベゼルグラスとの間隔が広めで、 視線誤差がそれなりにあります。 普通の使い方 ― ちょっとラジオを見下ろす角度 ― でちょうどいい具合にしましたので、 写真を撮るためにカメラを真正面から向けるととょっと周波数が低めに読めてしまいます。 それは致し方ないこととあきらめれば、 当初800kHz近くずれていたダイヤルはほぼ満足できる精度になりました。


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    受信感度はとても良好です。 ホイップアンテナを伸ばさずとも強力な短波放送は良好に聞けます。 これは室内の各種機器からの放射ノイズも拾ってしまうということですから、 ノイズはどうしても大きめ。

    9.974MHzのKTWR フレンドシップラジオも冬になって信号強度は下がりノイズが気になりますが、 それでも良好に聞こえています。 ただこのテストでは外部アンテナを背面のアンテナ端子につないでいるのですが、 入力レベルが高すぎてバンド内に混変調によるゴーストが表れ始め、 また受信音もピューピュー音が混じっています。 外部アンテナは欲を描かずに短いものを使うか、 適宜アッテネータを入れてあげる方がよさそうです。

    AMの選択度も良好。10kHz近接はきれいに落としてくれます。 周波数安定度はというとやはり室温には反応してしまい、 10MHz受信時に2時間で30kHzほど動くこともあり、 短波帯ではたびたびダイヤルを合わせなおす必要はあります。

2024-12-08 KTWRを聞く



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    トップパネルにはスライド式電源スイッチ、 トーンコーントロールとバンドセレクタスイッチが並びます。 BASS/TREBLE独立のトーンコントロールはICF-1100自慢の装備ではありますが、 BASSは低周波アンプの低域フィードバック量調整、 TREBLEは低周波初段入力での高域キャパシタシャント量調整。 バクサンドール式ではありません。 少ない部品点数で実現できますが、 Hi-Fiとは言い難く、またフラットな特性を得るのも困難。 ポータブルラジオに適した方式と言えます。

    高音質を狙いましたと広告で謳われていても、 スピーカ口径の小ささとキャビネット容量はいかんともしがたく、 1100の音は小型ポータブルラジオのそれです。 本機のイヤホン端子には抵抗は入っておらずスピーカ直結ですので、 外部スピーカを簡単につなぐことができます。 それでも音はやはりトランジスタポータブル機のそれです。

    アンプでがんばって低域を出しても小型スピーカから豊かな低音は出てこないし、 電池の消耗が増すばかり。 小型ポータブル機ならば重低域はあらかじめカットしておいた方が賢明ですね。 本機のオーディオアンプは小型ポータブルにふさわしい設計になっている、 と考えておくべきでしょう。

    据え置きでいい音で楽しみたいならば、 MPX OUTジャックにFM検波・AM検波出力が出ていますから、 そこに外部オーディオアンプと外部スピーカをつなげばOK。 本機にはREC OUTジャックもあるのですが、 REC OUTはMPX OUTの信号レベルを34分の1にまで落とされていて、 レベルが低すぎてノイズを拾いがち。 それにTREBLEのシャントも効いてしまいます。 音質よく楽しみたいならMPX OUT一択です。







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2024-12-16 Editing. [Noobow9100F @ L1]
2024-12-18 Page published. [Noobow9100F @ L1]