Ramsey
AM-1 は、電子工作の初心者向けのAMミニ送信機キット。
プリント基板と必要な部品一式、組み立てマニュアルのセットです。
完成したら別売りのケースに組み込めばカッコいい送信機の完成、さあキミも今日からディスクジョッキーだ!というわけ。 AM-1は全トランジスタ式。6個の2N3904小信号NPNトランジスタが使用されています。 送信周波数はコイルのコア調整とキャパシタの容量(何種類かの容量から選択して組み付け)で決定され、トランジスタ1石で発振されます。 発振回路出力はバッファ・アンプを通じて、2個のトランジスタを並列につないだファイナル・パワー・アンプを駆動します。 一方オーディオ入力はトランジスタ1石によるアンプで増幅された後、ドライバ・トランジスタを駆動します。 ドライバはパワーアンプのコレクタ回路に直接入っていて、ファイナル出力を直接AM変調します。 この構成のため全回路の消費電流は意外と大きく、 組み立てマニュアルでは9V積層乾電池ではなくてもっと容量のある電池か安定化電源を使用するよう勧めています。 実測では全電流は80mAとちょっと。たしかに006Pではきついでしょう。 |
組み立て自体はちょいちょいと完了。同調回路のキャパシタを適当にえらび、1400kHz前後でチューニングがとれるようにしました。
送信出力は、まあ想像されるレベル。強力すぎてはFCC規制に違反してしまいますから当然のこと。
発振周波数は電源電圧によってすこし変化しますので、安定した電源がのぞましいところです。 さて、パワーの話は別にしても実用上の問題は音質です。 これが・・・はっきりいってかなりひどい。いくらAMラジオといっても、もうちょっと改善しないと音楽を楽しむにはつらいところです。 ラジオを発振周波数ぴたりに合わせると再生音はむしろ小さくなってしまい、すこし同調をはずしたほうがよく聞こえます。 ということは・・・? さあ、お楽しみの始まりだ。 |
RF Output Waveform / No Modulation
まずはアンテナ端子に
自慢のヒューレット・パッカード製オシロスコープ
をつないで、高周波出力の波形を見てみます。
2個で8ドルのHP1200A オシロスコープの最高測定周波数を上回っているものの、
スイープ拡大ポジションを使えば波形がきれいに見えました。ご覧のとおりきれいなサイン波です。
周波数はだいたい1400kHz程度でテストしました。
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RF Output Waveform / 400Hz Modulation
つぎにオーディオ入力から400Hzのサイン波を入力して変調のかかりぐあいを見てみます。
すると、ご覧のようにRF出力波形の上下でずいぶんと変調の深さが違います。
写真の状態で、上側の変調度は80%に近いのに、下側は40%前後といったところでしょうか。
また上側だけ見ても、直線性はよくないことがわかります。む、ちょっと待てよ・・・
これって教科書で見るAMの波形と違ってない?
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RF Output Waveform / 400Hz Modulation (2)
変調異常は、RF出力波形の下側に顕著です。
発振コイルのコアを調整してみると、発振周波数によってはご覧のとおり下側の振幅がほとんど変化しません。
この異常はオーディオアンプやドライバ段ではなく、ファイナルパワーアンプで発生しています。 そして、波形はアンテナ負荷によって大きく影響を受けることがわかりました。 |
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RF Output Waveform / 400Hz Modulation (3)
ここまでアンテナとして70cm程度のビニール線を使ってましたが、これを5m程度のビニール線に換えてみます。
アンテナ側ターミナルだけではなくて、反対側をアース側ターミナルにもつなぎます。
そしてビニール線を巻き取って空心のループコイル様にしてみると、波形は教科書に出てくるAM変調のそれになりました。
この時点で受信音質はかなり改善されました。 |
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さて、適切な負荷を使用すれば出力波形はあるべき姿になることがわかりました。
きちんとループアンテナを作るとか、固定されたキャパシタとコイルによるファイナルタンク回路のマッチングをとったり、
あるいはアンテナチューナを併用したりすれば、正常な波形のまま少ないパワーをロスなく放射できるようになるでしょう。
現状のサービス エリアはわずか10m程度ですが、それでも我がラボを完全にカバーしてしまいますから電界強度は実用上問題ありません。 それでも音質は不合格レベル。 オシロスコープでリサージュ図形を描かせながら各部の入出力波形を見てみると、オーディオ入力段のアンプでかなり信号が歪んでいることがわかりました。 入力段をバイパスしてドライバ トランジスタに直接オーディオ信号を入れると、音質はよくなります。 入力アンプは簡単な一石アンプなのにどうしたことかな、と組み立てマニュアルを見てみると・・・ごめんなさい、私が間違ってました。 本機はオーディオ機器のラインレベルの信号を受け付けるようになっていますが、 マイクロホンをつなぎたいユーザのためにトランジスタのエミッタ抵抗をバイパスする10μFのキャパシタが取り付けられるようになっています。 私はこれを取り付けていたのでした。このキャパシタがあるとアンプのゲインは大きくなりますが、反面歪が発生する原因となっていたのです。 キャパシタを取り外すとひずみはかなり減りました。 |
小さなスピーカをもつポケットラジオであれば音質はさほど気にならなくなりました。
が、ちょっとましなスピーカをもったきちんとしたラジオで聴くと、依然として低音域の濁りが気になります。
受信側できちんと同調を取ると受信音がかえって小さくなってしまう現象も依然として残っているし、だいたいハム音が残っています。 ハムは安物のACアダプタのせいだと思い、ずっとリップルの少ない安定化電源にしました。が、受信音は変わらずにブーンと唸っています。 さらに乾電池動作にしても相変わらず。 ああこりゃオーディオ側だったかと思い、オーディオ入力を切り離しました。 にもかかわらず、ハム音は消えないのです! あわてて手近にあった鉄製の箱に入れてみましたが、やはりハムは消えません!! 電池で動作させ、鉄の箱に入れているのに、いったいぜんたいどういう理屈でRFにハムが乗るというのだろう?! どこかにヒントがないものかなあと思いUsenetをちょいとサーチしたら、いくつかこのキットにトライした人のポストがありました。 が・・・・どれもみな、めっぽう酷い評価です。 周波数が安定しない、音がひどい、パワーが出ない、どうやってもハムが止まらない、クズだのカスだのいじるだけ無駄だの。 「30年以上の経験をもつベテラン電子エンジニアが何人かトライしたが誰もまともに働くようにできなかった。 仕方がないのでRamseyに送り返して直すよう頼んだが、 彼らでさえ 直せなかった!」 ううむ、こりゃ本物のダメダメキットだ!!! しかもカタログでうたっている出力100mWというのはとんでもない大ウソだそうで。 もちろんRamseyファンの人もいて、擁護する意見もあるのですが、 それは「値段が値段なんだからあんまり期待するなよ」といったもので・・・どうやら、この世にマトモに動作するAM-1は存在しないようです。 |
受信音に電源ハムが入る問題は不思議です。
オーディオ プリアンプとドライバ トランジスタのベースを切り離してもハムが残っています。
いろいろ試してみて、これはラボの環境にまず問題があることがわかりました。 我がラボでは、AC115Vで動作する米国製機器 (Noobow9000/Noobow8000コンピュータや受信機など) を動作させるためにユニバーサル ステップアップ/ステップダウン トランスを使用しています。 一方でAC100V仕様の機器はごく普通に部屋のACアウトレットに接続しています。 おそらくこのため、ラボの機器間のグラウンド電位が50Hzで変動しているようです。 AM-1のアンテナ回路は直流的には内部回路からは浮いていますので、室内に這わせたワイヤーアンテナにはAC電源の50Hzが結構な電圧で誘起されます。 この電圧がどういうわけかAM-1のパワーアンプの動作に影響を及ぼし、RF出力に変調をかけてしまうようです。 ベンチのオーディオ系信号のグラウンドを建物のグラウンドに接続したところ、どの他の機器とも接続されていないAM-1からの信号のハムは大幅に減りました。 どうやらラボの電源とグラウンドの処理はそのうちきちんと確認する必要がありそうです。 |
多少なりともアンテナマッチングができるよう、出力回路をいじってみました。
いつかラジオでも作ろうと思って買っておいたトリオ5S-L 5球スーパー用アンテナコイルのレプリカ品があるので、これを試してみます。
オリジナルの回路ではローパス フィルタとして10μHのコイルと2200pFのセラミックキャパシタが使われていますが、
このコイルの代わりに5球スーパーコイルをつなぎ、2200pFの代わりにジャンクラジオのバリコンをつないでみました。
アンテナは5球スーパーコイルのアンテナコイルにつなぎます。 バリコンを同調点にあわせると当然アンテナからの放射が強くなり、同調をはずせばほとんど電波は出ません。 が、このアンテナ回路の同調によって発振周波数も変動します。 本来は発振回路の周波数は変動しないはずですが、やはり出力段と発振段に結合があると見えます。 しょっちゅう周波数を変えるわけではありませんから、基板の上にラグ板を追加して39pFのマイカ キャパシタと小型トリマをつなぎ、 バリコンの代わりに使うことにしました。 トリマの調整はクリティカルで、同調点近辺で出力はぐっと強くなりますが、送信周波数が数10kHz程度飛び跳ねます。 発振コイルと、トリマと、受信機のダイヤルを交互にいじりながら最良と思われるポイントを見出しました。 出力は安定し、窮屈なアパートの部屋をカバーするに十分な電界強度を得ることができました。 アンテナ回路をいろいろいじっているとハムが乗りやすい場合とそうでない場合があります。はて、どういう理屈なんだろう。 ちなみに、ここでの最大の問題は、秋葉原で買ったレプリカの新品5球スーパーコイルはこのAM-1本体とほとんど同じ値段だということ。 この手のキットにそんな高い部品は似合いませんから、そのうち自作してみたいと思います。 |
受信機をゼロインさせると音が小さくなる問題は相変わらずで、音質はひどいまま。
ポケットラジオでは実用になるものの、まともなラジオではすぐにボロが出てしまいます。
えらく時間をかけていろいろいじってもなかなか改善されず、プライベート音楽番組放送局の送信機としては依然として不合格。 お試しに Lafayette 80-in-1 で2石ワイヤレスマイクを組み立ててみました。 2石のマイキットよりも性能が悪かったら、このAM-1はすぐに捨てて、こんなキットには手を出すな、とこのページにはっきり書こうかと思ったからです。 が、さすがにそこまでひどくはありませんでした。 マイキットのワイヤレスマイクは出力も周波数安定度もまったくのオモチャレベルだし、だいたい高調波が出まくっているので常用するのは好ましくありません。 ゼロイン時の音量低下も見受けられるものの、音質的にはAM-1よりもやや良好。あれれ。 さあ、どうしよう。 さらに実験と改造に時間を費やすか、それともあきらめてもう少しまともなキットでも探すか・・・。 |
キャリア周波数発振回路はエミッタ・フォロワ構成のバッファアンプを介してパワーアンプを駆動しています。
ということは、このバッファがバッファとして作動していないということなのでしょうか。
もう一段バッファを入れてみて試すといいかもしれません。それでもFMがかかるのなら、回り込みが原因ということになりそう。
そこで、ジャンク箱のパーツでバッファ アンプを作ってみました。 再利用のユニバーサル基板に組み立てた、トランジスタ1石のエミッタ・フォロワです。 でき上がったバッファを本来のバッファとパワーアンプの間に入れて、オリジナルの発振回路で動作させてみます。 と、やはりFMがかった音のまま。 どうやらバッファを逆流した音声信号が発振回路に影響を与えているわけではないようです。 ああ、たった29ドル95セントなのに、マジでいやになるほど楽しめちゃいます。 やっぱりRamseyのキットはお得なのかも。 |
となると、やはりRFの回り込みが原因なのかもしれません。
バッファ アンプ基板に発振回路を追加してエキサイタ基板にしてみましょう。
回路は簡単なLC発振です。発振コイルは最初ジャンク箱のものでいくつかトライしましたが1500kHz近傍でうまく動作するものがなく、
レプリカ品の5球スーパー用局発コイルを使い、トリマで周波数を微調できるようにしてみました。 とりあえず動作するようになったエキサイタ基板をみの虫クリップでパワーアンプにつなぎ作動させてみると、おお! いい音です。 次にこの基板をL字金具でAM-1の基板に直角に固定し、みの虫クリップをやめてビニール線で接続しました。 すると・・・FMが発生しています!! やはりRF回り込み、もしくは発振コイルの結合があるようです。 発振回路とパワーアンプを7〜8cm程度にまで近づけると、音声信号によってFMが発生して音質が劣化しますが、少し離すと音質は復活します。 出力コイルと発振コイルを直角な配置にすれば劣化は少なくなります。 |
本来の内蔵発振回路でFMがかかる原因として、部品レイアウトまたは配線パターンの問題による出力回路からの回り込みの可能性が大です。
しかし、発振回路と変調・出力回路との間に金属板を置く程度では全く変化がありません。 そこで思いきって、プリント基板を2つに分割してみることにしました。 カッターナイフを入れ、発振回路とバッファ・アンプ部を残りの回路から切り離しました。 これで発振回路は出力回路から離すことができるし、シールド ケースに入れることもできます。 配線しなおしてテストしてみると、しかし、FMは相変わらず明確です。 発振回路を離そうが金属ケースに入れようが改善されません。 あれあれ!! これじゃ何のために基板をぶった切ったんだろう!? |
基礎知識が不足していることをまたまた痛感したので、本屋に出かけてトランジスタ発振回路や高周波回路に関する本を買い込みました。
これらの本を参考にしてフルスクラッチで送信機を製作してみたくなりましたが、ここはまず、AM-1の改善作業をすすめましょう。
> AM-1オリジナルの発振回路を、若干変更したバッファ アンプと組み合わせてユニバーサル基板に作り直してみました。 発振コイルはオリジナルのものです。 が・・・・どうにも調子が出ません。 発振するにはするのですが、やはりFMがかかってしまってオリジナルの性能を超えることができません。 どこか間違っている箇所があるのだとは思いますが、発振波形もきれいでなく、受信音はノイジーです。 |
このお試しボードは実験用にと思っていいかげんに組み立てたので小さくないし見栄えも悪いのですが、
数週間連続稼動させてみても周波数変動は1.5kHz以内、長期間の経時変化はみられず、
実用上ほとんど問題がないと思えました。ので、この基板を割ってアルミケースに組み込みました。
要するにこれで完成にしちゃえ、ということです。 アルミ ケースに入れて写真のようにまとめたら、FMはほとんどありません。 ただし、低域を増強してあるソースの場合はその低音ピークでミニコンポのAMステレオが誤動作します。 AM-1のオーディオ入力にはカップリングとして10μFのキャパシタが入っていますが、これを0.22μFにまで小さくしたところ誤動作はなくなりました。 今まではソース側で低域をかなりカットする必要がありましたが、この変更により、調整していないCDオーディオを直接入れても問題なくなりました。 Ramsey AM-1はこれでようやく完成。あとは見栄えのするケースに入れるとか、 ステレオピンプラグを受け付けられるようにバッファを設けて左右信号を混合するとか、入力レベルメータをつけるとか。 それにしても、ずいぶん楽しめたキットでした。オリジナルの発振回路とバッファは結局使い物にならず捨てたわけです。 スクラッチビルドの発振回路とバッファはすべてサープラスまたはジャンクパーツの再利用なのでいいとしても、 新品の和風5球スーパーコイルのレプリカ品や新品のリードのアルミケースを使い、 さらに発振回路を理解するために1万円以上もCQ出版社に支払ってるのですから、ずいぶん高いものになってしまいました。 が、間違いなく勉強になりました。 5年前にはとても考えられなかったことですが、今ではお気に入りのCDを全部MP3ファイルにしておいてPCで連続再生なんてことが気軽にできます。 村松 健のピアノ音楽をNOOBOW8000 Linux/Sambaサーバに収め、NOOBOW9000コンピュータのオーディオ出力をAM-1に入れて、ラジオぬ〜ぼ〜の本開局です。 枕もとのゼンマイタイマーつきスカイセンサー5500、玄関のきらびやかで音の良いジェネラル・エレクトリック、キッチンのソニー・スタジオ1980、 ラボのコリンズ51S-1、ベランダではポケットに入れた 100円ラジオ 。 さらに駐車場で車両メンテ作業中でさえ、いつでもどこでも、お気に入りの音楽が楽しめます。こりゃいいや! |
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しかしなにより、リビングに置いた
Lafayette 80-in-1
(学研マイキット80)の2石ラジオが実にいい感じなのです。
村松 健のピアノ音楽が、マイキットのちいさなスピーカから静かにそれとなく流れている・・・・
オーディオといえば原音に忠実で迫力のあるサウンドをつい追い求めてしまいますが、
存在を主張しない空気のようなバッククラウンド・ミュージックは実にいいものです。
なによりヨメがこれを気に入ってしまい、ラジオぬ〜ぼ〜仮放送の間も、AM-1の実験のために停波するのに許可が必要でした。
マイキットをしまうことも違う回路に組替えて遊ぶこともできません。
マイキットに代わる、「空気のような音楽」を楽しめる小さなラジオを作ってみたくなりました。 |
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