Kikusui AVM23
AC Voltmeter
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廃棄品の譲り受けだったのこのACボルトメータは、
入手後まもなくは中央研究所のメインワークステーションでオーディオレベルメータとして使っていましたが、
その後たぶん10年以上も電源をいれずにラックの飾り。
いつだったか電源を入れたら動作がおかしくて、すぐに使うのをやめたような気もします。 2024年10月、 SBE SB-34バイラテラルトランシーバのAGC特性改善作業 を進める中、 オーディオ信号レベルを正確に測定しようと思ってこのACボルトメータを夢と時空の部屋に持ち込んでみたのですが、 ありゃりゃ、チャネル1もチャネル2も動作がおかしい。 無信号なのに針が大きく振れたり、 高電圧レンジなのにすごく針が敏感に振れたり。 もう何がなんだかわからないといった状態。 なんとなく正常に動いていると思えるチャネル2のAC1VレンジとAC300mVを使って作業を続けていましたが、 やっぱりこのメータを信じる気になれません。 ここのところずっとSB-34をいじってて疲れたから、 こっちを先に修理してみようか。 2024-10-07 使用開始 異常に気づく |
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チャネル1ボードのDC+5V電源ラインの様子をひきつづき見てみると、
あれ? 正しくきれいな5Vになった。
さらにいろいろいじっていると、
フロントパネルの測定レンジによって5Vラインが正常になったり、
あるいは酷いリップルが乗ったりします。
フロントパネルの測定レンジによってボード上の小さなリレーがカチンと切り替わるのですが、
そのリレーがブザーのように音を立て始めました。
うーむ、これは3端子レギュレータの故障なのだろうか。
出力電流の余裕が極端になくなっちゃっている、といった感じの。 78M05を取り外して 安定化電源装置 でDC5Vを供給してみると、 メータは正常に動作し始めました・・・ と思ったのですが、いやそうじゃない。 正しく動作しているのはAC3V以上のレンジだけです。 3端子レギュレータ以外にも何か壊れているということか。 そして気が付きました。 AC1Vとそれ以下の測定レンジでは、電源装置の出力電流計が1A近くを示しています。 本機に使われている3端子レギュレータは78M05で、最大出力500mA品ですから、 定格の倍近い電流が流れていることになります。 どうやらAC1V以下のレンジでは3端子レギュレータが過負荷になり、 レギュレータ内部の保護回路が動作して電源出力が切れ、 再度出力がONする、を繰り返していたのでしょう。 電源ラインのリップルは、AC100Vの50Hzのリップルではなかったのです。 オシロで波形を見たときに波形の周期をチェックしていれば気づけたんでしょうけれど。 2024-10-10 チャネル1ボード AC1Vレンジ以下でDC+5V電源系が過負荷になっている |
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これはAC1Vレンジ以下で使われる回路のどこかで電源ショート故障が起きているに違いない。
それはいったいどこだろう?
回路図もなしにそれを追うなんてできるかな?
どこか熱でも持ってくれていればわかりやすいんだけど。 そう思いながら基板のあちこちを触ってみると、 おお! DM74LS154 ラインデコーダ/デマルチプレクサが明らかに熱を持っています。 このICの内部故障でICが発熱しているのか、 あるいはこのICの出力を受けている回路がショート故障してこのICがオーバーロードしているのでしょう。 2024-10-10 DM74LS154Nが発熱していることに気が付く ボードを眺めて、本機の仕組みを推測してみました。 本機は入力レンジが12段階あって、切り替えつまみは4ビットのデジタルエンコーダを回しています。 LS154Nで4ビットの組み合わせを16ビット(使われているのはうち12ビット)のどれかひとつにデコードして、 どのレンジが選ばれているかを得ています。 選ばれた特定のレンジラインはそのあとダイオードマトリクスとスイッチングトランジスタにより、 アッテネータやプリアンプのON/OFFを切り替えて、合計12チャネルを実現しているものと見えます。 |
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LS154NがIC内部故障で発熱しているのか、
それともIC出力端子につながっている負荷がショートなどしていてICが過電流になっているのかを切り分けなくてはなりません。
ICを取り外して単体で調べるのが正統な調査手順でしょう。 はんだ吸い取りウィッグを使ってチャネル1ボードからLS154Nを取り外します。 基板にもICのピンにもダメージを与えずうまく作業できました。よしよし。 2024-10-14 チャネル1ボード LS154N取り外し |
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取り外したDM74LS154Nを
Maxitronix 500 in One
を使って単品テストしてみると、
ほどなく故障個所が特定できました。
このICには4つの入力ポートと2つのストローブゲートがありますが、
このうちポートDの入力ピンが、IC内部であたかもVCCラインにレアショートしていると見えます。
このためポートDをローレベルに下げようとすると500mA以上の大電流が流れて発熱してしまうし、
IC内部ではそれでもポートDはローレベルにはならないため、
レンジ切り替えがうまくいっていなかった、という理屈です。 |
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ということは、このICを交換すれば直るぞ。
部品の在庫はありませんから、注文しておきましょう。
古い部品ですが、これは標準TTLロジックのありがたさ。
部品は苦労せずに今も入手可能です。 2024-10-15 チャネル1はDM74LS154Nの内部故障と確定 |
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つづいてチャネル2ボードの調査。
こちらは電源ラインは正しく±5Vが出ています。
チャネル2についてもどうやらレンジ切り替えがうまくいっていない様子。
DM74LS154Nの仕組みがわかったところで、
レンジ切り替えダイヤルの位置と154Nの4つの入力ポートのレベルの関係を
アナログテスタ
を使って調べてみました。 ほどなく異常が見つかりました。 レンジダイヤルを回しても、 DM74LS154の20ピン INPUT Dポートの電位がHレベルに上がりません。 どうやらIC内部でこのピンがグラウンドにレアショートしているものと見えます。 えーまたポートD? チャネル1ボードと同じだよ? 症状は違うけれど。 レンジ切り替えダイヤルを回してロータリーエンコーダがプルアップ抵抗を介してこのピンを吊り上げようと思っても、 ポートD入力ピンが内部でグラウンドに落ちているため、 ハイレベルにならない (1Vちょっとまでしか上がらない) のです。 このため3Vレンジにセットすると0.3mVレンジとして動作し、 10Vレンジは1mV、30Vが3mV、100Vレンジが10mVレンジとして動作してしまうのです。 本機に使われている2個のLS154が2個ともINPUT Dポートの故障 (だけれども症状は異なる)。 IC内部 INPUT Dポート入力バッファ部のシリコンが腐りやすいような欠陥が製造時から存在していたのでしょうか。 チップ製造工程のミスでチップ上の特定のゲートが時間経過後に壊れる (でも故障モードはまちまち) という量産不具合は、 自分がかかわった仕事でも経験があります。 その節は多くのユーザ様に迷惑をおかけしました。 2024-10-17 チャネル2 故障原因判明 |
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ところでこの機械で面白いのは、
チャネル1ボードとチャネル2ボードはほとんど中身が一緒なのに共通基板にせず、
鏡像対称の部品レイアウトになっていること。
組み立てやすさや最終調整工程の作業性を重視したのかな。
いまならこんな贅沢は許されないと思うのですが、
菊水ならではのこだわり、なのでしょうか。
まるで左右対称レイアウトをウリにしたマニア向けオーディオアンプを見ているかのようです。 |
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DM74LS154Nを2個とも交換するわけですが、
パーツショップに注文した品物とてきっと長期在庫品。
正規メーカー品であっても保管中にマイグレーション等で単品故障してしまっているかもしれませんし、
取付作業にミスして破損させてしまうかもしれません。
保険と思って4個注文しました。 注文したLS154Nが届きましたのでチャネル1ボードに新品ICを取り付け。 みごとに復旧! 全レンジで正常に動作! 2024-10-24 チャネル1修理完了 |
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チャネル2ボード上のDM74LS154Nも新品交換。
すんなり正常動作を開始しました。
やったね!
しばらくは2本針のメータの優雅な動きを眺めて楽しみましょう。 電解キャパシタの劣化でないことがわかったときはサービスマニュアルも回路図もなくては修理なんかできっこないとあきらめかけましたが、 指先に伝わる温度で不良個所が急速に絞り込めて、 プリント基板のパターンから回路図を書き起こさずとも原因が特定できました。 なんだか久しぶりにすっきりした達成感が味わえました。 さーて、そもそもお願いしたかった SB-34のAGC特性の改善と評価の仕事 をお願いしますね、菊水さん。 2024-10-25 両チャネル修理完了 |
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