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世界初のトランジスタ式アマチュア無線機
(*1)
がラボにやってきました。
トランジスタ式、といっても、ファイナルとドライバは真空管を使用しています。
HFのトランシーバがファイナルを含めオールトランジスタ化されるのはもう少し先のことでした。 なんと元箱に入ったままのSB-33は実に良好な状態を保っており、すぐに動作しはじめ、 はるかアリゾナ州ツーソンからの信号を受信しだしました。 送信機能はチェックしていませんが、すくなくともファイナルのヒータは点火しています。 ボリューム コントロールにはスクラッチはありませんが、チューニング ダイヤルにスクラッチがあるようです。 たぶんバリコンのシャフト部の接触不良でしょう。 総じて非常にていねいに、大切に使われていた無線機のようです。 このリグの当初のオーナーのものと思われる名前とコールサインのテープライターが誇らしげです。 程度は非常に良好なので、簡単なメインテナンスだけで済むでしょう。 これでモービル運用したら楽しいな、と思ったのですが・・・・40メーターバンドのダイヤルは7.150MHzから7.350MHzまでをカバー。 あれれ、これで日本では改造しない限り使えませんね。 SB-33は、1960年代の流行のパステル カラーとシルバーのパネルがポップなルックスになっています。 各部をリファインされ、意匠的にも無線機らしさを増した SB-34 との比較も楽しみです。 (*1) もちろんSB-33以前にも全トランジスタ式のアマチュア無線機はありましたが、 受信部がすべてソリッドステート化されていて、性能的に実用になり、量産され、 かつ商業的に成功を修めたモデルという基準から見るとSB-33が世界初となります。 |
モービル運用にも使えるコンパクトさに主眼をおいたため、SB-33のトランシーバとしての機能はたいへんベーシックなものです。
が、ほとんど同時代のトリオ9R-59よりも小さく軽い筐体の中に電源装置を含む完全なSSB送受信機が入っており、
実用性十分な感度、選択度、安定度そしてパワーを発揮するのですから、
このFaust Gonset氏の作品がアマチュア無線の技術史におけるエポックメーカーだったことに間違いはありません。 |
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POWER/VOLUME | スイッチつきポテンショメータで、受信音量を調整します。 反時計いっぱいで電源が切れます。 |
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VFO | 受信/送信周波数を調整します。 内部では小型の3連バリコンが回されます。 |
LSB/USB/TUNE | LSB/USBを切り替えます。TUNEポジションにすると連続キャリア送信状態になり、この状態でファイナルのチューニングを取ります。ロータリー スイッチがパネル裏に取り付けられています。 |
MIC GAIN | 送信時のマイクロホンゲインを調整します。 |
BAND SELECTOR | 15/20/40/80メーターバンドを切り替え、またプリセレクタチューニングを行います。 |
MIC | マイクロホンジャックです。 |
PA LOAD | パワーアンプのロード調整です。長いネジ式シャフトを介して、シャーシ下面に配置されたトリマ キャパシタを調整します。つまみは8回転ほど廻り、反時計方向に回すとつまみ自体がわずかに手前に出てきます。 |
PA TUNE | パワーアンプのタンク調整です。シャーシ下面に配置されたバリコンを回します。 |
METER OUTPUT/PL.MA.x100 | メータの機能切替です。 OUTPUTポジションではRF出力を測定し、PL.MA.x100ポジションでは出力管のプレート電流を測定します。 |
部品実装のコンセプトは、まさに真空管からトランジスタへの変革期を見ているようです。
シャーシ上面には小さなプリント基板が一枚だけ使用されていますが、
それ以外のほとんどの部品はトランジスタを含めて真空管受信機と同様にシャーシに直接取り付けられ、
シャーシ下面で空中配線されています。
全てのトランジスタはソケットを使って取り付けられています。
使われているコイル類はミニアチュア真空管世代のサイズで、
トランジスタの小ささと見比べるとずいぶん大きく見えます。 Rancho Santa Feでの初期型ではプリント基板は一切なく、回路もさらにシンプルだったようです。 ひとつだけソケットに対してずいぶん小さいトランジスタがありますが、これはVFOオシレータ用の2N706。 交換されたものではないかと思いましたが、そうではなく、初期ロットからすべてのモデルがこの小さなパッケージのトランジスタを使っているとの由。 右上の、プリント基板とバリコンの間に見えているのが送受信切替リレーです。後継機SB-34ではリレーは廃止され、電子式送受信切替になっています。 左上のオレンジ色に見えるのがコリンズ・メカニカル フィルタです。 |
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中央のバンド切替兼プリセレクタチューニングつまみは、
バンドに応じてロータリー スイッチと3本のコイルスラグ位置を切り替え、また無段階にバリコンを回します。
ジニーバ・メカニズムを応用したこの構造は、後のSB-34にもリファインされて受けつがれています。 使用されているバリコンはAMラジオ用のようにも思える大き目のものです。 案外当時の汎用品なのかもしれません。 |
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ジニーバ・メカニズムは実際に見ると一目瞭然なのですが、言葉で動作を説明するのはちょっと難しいです。
ムービーを用意してみました。 小さくて見えにくいかなあ? |
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内部には2つのランプがあります。 1本はダイヤル盤を内側から照らしますが、
メータの後ろにあるランプの目的は不明です。
なにしろメータ ボディは黒色プラスチック製なので、いくら後ろから照らしてもメータは明るくはならないのですから。
メータは日本製です。 実はRancho Santa Feで生産された初期ロット品ではメータは日本製ではなく、 メータボディに穴が開いていて背後のランプでメータ盤が照明されていたとのこと。 送信出力部はコの字型に曲げられたアルミニウム板に囲われた中に収められており、 真空管は横置き(写真の右上部にちょっとだけ見えています)。 出力管はソケットで支えられているのみで、車載した場合など振動で脱落してしまうのではないかと不安です。 実際にはケースにぶつかるのでソケットから抜け落ちることはないようですが。 |
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DESIGNATION | TYPE | FUNCTION | Tx/Rx | LOCATION | ACTUALLY USED |
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Q1 | 2N1305 | Audio Driver | Rx | Audio Board | --- |
Q2 | 2N301 | Class A Audio Power Amplifier | Rx | Rear Panel | 2N2869 |
Q3 | 2N2672 | HF Oscillator | Tx/Rx | OSC Board | --- |
Q4 | 2N1305 | Microphone Amplifier | Tx | Audio Board | GE Black Can |
Q5 | 2N1305 | Audio Pre Amplifier | Rx | Audio Board | --- |
Q6 | 2N2672 | 456kHz IF Amplifier | Tx | Chassis | --- |
Q7 | 2N2672 | 456kHz IF Amplifier | Rx | Chassis | --- |
Q8 | 2N2672 | VFO Mixer | Tx | Chassis | --- |
Q9 | 2N2672 | VFO Mixer | Rx | Chassis | --- |
Q10 | 2N2672 | HF Mixer | Tx | Chassis | --- |
Q11 | 2N2495 | HF Mixer | Rx | RF Board | --- |
Q12 | 2N2672 | RF Amplifier | Rx | RF baord | --- |
Q13 | N/A | (not used) | --- | N/A | N/A |
Q14 | 2N1305 | 456kHz Oscillator | Tx/Rx | Chassis | GE Black Can |
Q15 | N/A | (not used) | --- | N/A | N/A |
Q16 | 2N2672 | Doubller/Tripler | Tx/Rx | Chassis | --- |
Q17 | 2N2672 | VFO Buffer | Tx/Rx | RF Board | --- |
Q18 | 2N706 | VFO Oscillator | Tx/Rx | Chassis | --- |
Q19 | 2N1304 | AGC Amplifier | Rx | Audio Board | RCA |
Q20 | 2N301 | Voltage Regulator | Tx/Rx | Rear Panel | 2N2869 |
V1 | 12DQ7 | Transmitter Driver | Tx | Tx Amplifier | Raytheon |
V2 | 27GB5 (PL500) | Transmitter Power Amplifier | Tx | Tx Amplifier | Raytheon |
V3 | 27GB5 (PL500) | Transmitter Power Amplifier | Tx | Tx Amplifier | Raytheon |
PL | TL47 x 2 | Pilot Lamp | Tx/Rx | --- | ---- |
TYPE | SPEC | SUBSTITUTE | REMARKS/PRICE |
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2N1304 | Germanium NPN 25V 0.3A 0.15W 10MHz |
2N635A, 2N636A, 2N1306, GE-5, SK3011, SQ7 | $1.25 |
2N1305 | Germanium PNP 0V 0.3A 0.15W 5MHz |
2N440, 2N440A, 2N1307, 2N1349, 2N1351, GE-1, 30V-HG | $1.40 |
2N2495 | Germanium PNP 40V 10mA TO-12 |
2N2654 | |
2N2672 | Germanium PNP TO-5 hfe=40 |
GE-9, J6 | $1.99 |
2N2869 | Germanium PNP 50V 10A TO-3 |
2N301,GE-3, SK3009 |
パワーメータとダミーロードを引っ張り出し、送信テストを試みることにしました。
SB-34などではパワーが出ないというトラブルがずいぶんあるようだし、
そもそもカタログスペックは信用せずにテストをはじめます。 SB-33のアンテナ端子は単なるRCAジャックで、ここから本当にパワーが出るのかしら、と不安になります。 TUNEポジションに切り替える瞬間にはスピーカから大きなポップノイズが出るので最初はびっくりしました。 TUNEポジションで連続キャリア出力にした場合の、各バンドでのパワーメータの読み値は表のようでした。 とりあえず送信はできているようです。 たぶんパワーはこの程度が正常なのだと思います。 フロントパネルのメータの読みを信じるなら、TUNE送信時のプレート電流は300mA。 一方、メータをOUTPUTにしたときのメーター指示値は表に示すとおりで、 バンドごとにメータ感度が異なり、 出力の絶対値を知るには不適切です。あくまでもチューニングのための参考にすべきでしょう。 |
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送信を始めると、出力管とその周囲の温度が急激にあがってキシッという音がし始めます。
SB-33の出力管は自然空冷のみで、しかもケースの通気性はあまりよくありません。
左の写真では上側カバーを取り付けています。
ファイナルの部分には大きく穴が開いていますが、これにさらに外装ケースがつくわけです。 この黒いカバーは初期型SB-33にはありません。 初期型ではケースの放熱穴も広く取ってあり一見放熱性は良さそうなのですが、 後期型SB-33 SF-1ではおそらく終段部のみに通風を行い、終段の熱が他の部分に伝わりにくいように変更されたものと思われます。 15mバンドではチューニングを取ってもパワーは10Wしか出ません。この状態では、30秒ほどで27GB5の内部電極が真っ赤になります。 好ましくない状態ですね。 SB-33はSSB音声専用モデルで、連続キャリア送信では負担が重過ぎます。 テストは短時間でとどめるべきでしょう。 |
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>次に、PTTスイッチとマイク入力からのテストを行います。
SB-33のリアパネルにはPTTジャックとマイク ジャックがあるのでこれを使いましょう。
PTTジャックはΦ2.5のミニジャックで、ここにプラグを差し込んで2本の線をショートすると、
ガチンと大きなリレーの音がして送信状態になります。 マイクジャックにテスト用のオーディオ信号を入れてみると、おおむね期待できる音質とパワーが観察されました。 MIC GAINコントロールには最初ガリがありましたが、何回か回すとほぼ解消。 音声ピーク時のパワーは上記のTUNEポジションで調整時のパワーを超えることはありません。 ゲインを上げすぎるとうるさいだけですので、うるさくない程度にマイクゲインを落とします。 このとき、音声ピークパワーは30Wから40W程度。 この状態で1時間ほど連続送信テストをしました。 27GB5のスクリーンは軽く赤熱していますが、実際の運用ではコンテストでのCQ連呼やロング ラグチューでない限りは大丈夫でしょう。 送信音質はというと、受信音質と同様に乾いていて、いかにも通信機風です。 右の写真をクリックするとムービーを見ることができます。 これからわかるとおり、メータはかなりのアンダーダンプで、針の動きはスムースさに欠けます。 プレート電流の微妙なディップがよくわからないことがあるので、 きちんとチューニングを取るには外部のパワーメータに頼るのが良さそうです。 なおこのムービーでは、テスト音声で送信中のSB-33の信号をモニタしているコリンズ51S-1の音が聞こえています。 |