Hattori Tokeiten / Fuji Denshi Kogyo
IC-70
Timegrapher
(1972)
服部時計店 / 富士電子工業
IC-70 タイムグラファー (1972) |
IC-70の電源を入れると、
すぐに問題が再現しました。
たしかに18000でローラが回らない。
そしてそのとき、36000でも回りません。
19800にするとすぐにローラが力強く回りだしました。
28800にしてもきちんと回ります。
これはスイッチの接触不良ではなくて、
分周回路の問題だ。 しかしスイッチを18000のままにしておいたら、 じきにローラが回り始めました。 36000でも回っています。 不安定さがあるらしく止まりかかったこともありましたが、 じきに全ポジションでローラが回るようになりました。 これはやはりスイッチの接触不良かなあ。 それとも電解キャパシタの劣化が起きていて、 通電とともに再化成が起きてキャパシタの機能が復活しつつある? 症状は発生している・発生していないが明確に分かれるので、 キャパシタの劣化で起きるものとは思いにくいです。 でも60Hzポジションだけで起きるというのは、 キャパシタ等の素子劣化で、 駆動周波数が高いときに回路余裕度が不足して・・・という可能性もあります。 もしシンクロナスモータドライバモジュール内部の性能劣化故障だとしたらコトだ、 代わりの部品なんか手に入らないんじゃないかな。 ともかく症状は消えてしまいましたので電源を切り、休ませて再発を待ちましょう。 再発したら分周回路出力・シンクロナスモータドライバモジュール入力の信号を見て、 どちら側に問題があるのかを切り分けるのが次のステップです。 |
初代IC-70とランチェン機IC-70Nでは、
シンクロナスモータドライバモジュールも別物です。
しかし基本的なコンセプトは同一と見えます。
分周回路からモータドライバモジュールへの接続を追いかけると、
初代では1本のアナログ線だけだったのに、
IC-70Nでは2本の互いに反転したクロック信号に変わっていました。
なるほど、1本のアナログ波形では外部からのノイズや強力な妨害電波で誤動作してしまう危険性がありますが、
相互に反転したロジックパルスなら外来妨害を受けても同相の入力になりますから誤動作の危険性が大きく減り、
安心・安全ですね。 ここを オシロスコープ で見てみると、 モータードライブ信号の周波数は初代取扱設計書にあるのと同じで、 48 / 55/ 60Hzです。 テストをするうちに症状発生。 やはり18000振動ポジションでスパイラルローラが起動しない症状が出ているときは、 この信号が出ていません。 問題があるのは分周回路側であり、 シンクロナスモータドライバモジュールは正常です。 これは朗報、標準TTLを使った分周回路ならどこが壊れてもどうとでもなる。 2023-03-06 モータドライバは正常 |
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いじっているうちに、安定して故障状態が継続するようになりました。
ありがたい、どこが痛いのか言ってもらわないと診断がつかないからね。 シンクロナスモータ駆動信号を引き出して、 すぐ近くで動いている 真空管アンプ につなぎ、 スピーカで音を聞けるようにして故障個所特定作業を始めます。 正常時にはスピーカから60Hz矩形波のブザー音が聞こえるはず。 症状からしてクロック分周回路の60Hz生成にかかわるところに問題があるのは明らかなので、 そのへんを重点的にチェック。 消しゴムえんぴつでの加圧に敏感に反応する場所がみつかりました。 ただし回路上は関係ない離れたところを押しても反応するので、 基板のわずかなたわみで接触状態がかわるようです。 2023-03-06 故障個所特定作業開始 |
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加圧テストで敏感に反応したICは、
SN7400N 標準TTLロジックシリーズの4回路入りORゲートです。
写真に見える右側下側のあたり、8ピンから12ピンのあたりに接触不良、
もしくはIC内部でのボンディング外れ等がありそうです。 本機に付属してきた取扱説明書の回路図と本機実機の回路は大きく異なりますが、 回路構成コンセプトはほとんど初代を踏襲しているように見えます。 基板パターンを正確に追ったわけではありませんが、 このICの写真右側下側に見えている3番ゲートは2つの入力が直結され4番ゲート出力をバッファするようになっていて、 右側上側の4番ゲートが60Hzポジションの時にだけ動作するような構成になっています。 3番ゲート・4番ゲートが動作不良になれば、 60Hzポジション (18000振動ポジション) のときだけ装置動作に支障が出るはず。 触診での観察と実機の故障パターンは整合していて説明がつきます。 7400ならいまでも容易に入手可能だし、 ラボにも新品在庫があります。 IC不良が確実なら交換してしまえばOK。 7400の足は硫化も進んでいるし、 端子間の汚れも目立ちます。 はんだクラックの可能性が大ですが、 汚れとエレクトロマイグレーションによるショートの可能性もあります。 |
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このICの端子の硫化を除去して周辺を清掃したところ、
60Hz出力不能の症状は消え、
スパイラルローラは毎回安定して回るようになりました。
む、
周波数カウンタの修理
のときと同じように「ハブラシで磨けば直る」パターンなのかな?
いやそんなことはないだろうなあ、
きっと一時的に接触不良が回復しただけなんだよ。 2023-03-06 分周回路IC端子清掃 |
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ビートレート18000設定で安定に動作しはじめたので、
ローラ回転数をみてみます。
周波数カウンタ
をシンクロナスモータ駆動信号につないでみると、
安定して周波数が読めました。
IC-70はビートレート18000に設定してあるので、
モータ駆動信号は60Hzぴったりが正解。
わずかに遅くなっているようですね。
その差は221マイクロヘルツ。
これは1日に0.31824秒の狂いに相当します。 これは機械式腕時計の調整にはまったく文句ない精度ですし、 そもそも使っている周波数カウンタの基準周波数はアマゾンで買った中華製TCXOのそれですから、 このズレは周波数カウンタの確度によるものなのかもしれません。 まあ50年前の発振器と2年前の新品中華製TCXOのどちらがより確からしいだろうか? と考えて、 発振回路のトリマキャパシタをごくわずかに回して、 IC-70の周波数を60.000000Hzに調整しなおしました。 基準周波数発振回路や分周回路でパルスの歯抜けがあるかも? と思い周波数変動のようすをしばらく観察しましたが、 周波数に不安定な変化はみられません。 しかし周波数は電源変動後ゆっくりと変化します。 温度による周波数変化はあるようですね。 ±20マイクロヘルツ程度は変化してしまいます。 これは時計の精度に換算すると1日に±0.03秒に相当します。 まあ装置の使用目的を考えれば十分すぎる安定度でしょう。 ビートレート19800 28800ポジションでもそれぞれに対応する周波数が得られていますので、 分周回路も正常に動作しています。 2023-03-06 基準周波数発振器周波数調整 |
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