SideBand Engineers Model 34
SBE "SB-34"
Bilateral Amateur Radio Transceiver
(1966) |
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SideBand Engineers SB-34は、1966年製のHF帯 SSBトランシーバです。
米国では現在でもそれなりの数が現存しているとはいえ、さほど高い評価を得ていたわけでもなく、
いわば"Interesting Radio" の部類に入るでしょう。
つまり風変わりで興味深くはあるものの、かといってコリンズやドレーク、
またはハリクラフターズのような人気を得ているわけではありません。
が、その設計を知れば知るほど、この無線機がいかに時代を先取りしていたかがわかってきます。 SB-34はその前身である SB-33 のコンセプトを維持しつつ、スタイルを一新し、大きく改良を加えたものになっています。 SB-34は、ファイナルとドライブ段を除いて全てトランジスタとダイオードで構成されており、 AC117VとDC12Vのどちらでも動作する電源装置を本体に内蔵しています (SB-33ではモービル運用のためのインバータは別体オプションでした)。 トランジスタ化によるコンパクトな匡体とあいまって、モービル運用に適したものに仕上がっています。 モードはSSBのみで、3.8/7/14/21MHz帯をカバーします。送信出力は80Wとなっています。 SB-34の特徴は、何といってもあのコリンズ社製メカニカル・フィルターを採用していることと、 バイラテラル方式の回路構成にあります。 バイラテラル方式とは、 ブロック・ダイヤグラム をご覧いただければわかるように、送信時と受信時で信号の流れが逆向きになるような構成です。 これにより、回路の多くが送受信で共用でき、部品点数削減によるコストダウンと軽量コンパクト化が実現されています。 |
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SB-34の内部構造を見てみましょう。
外側金属ケースは筒型の一体式で、内部は基本的にスチール製のフレームにいくつかのプリント基板が取り付く構造になっています。
コンパクトに実装されていますが、
バリコンや中間周波トランス、オーディオトランスなどはまだ真空管世代の部品で、ずいぶん大きく見えます。 |
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ブロック図を見ると、そのユニークなバイラテラル方式がわかります。
黄色で示したブロックは送信時と受信時のいずれの場合にも機能するものです。 送受信切替えは、2本の制御信号によって行われます。 一方のラインの電圧は受信時に高く、他方の線は低くなっています。 送信時は電圧レベルが反転します。 一方のラインは送信時に受信専用ブロックを停止させ、 他方のラインは受信時に送信専用ブロックを停止させる役目を持っています。 この送受信切替え方式により、リレーを使う必要がなくなりました。 |
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このような特殊なAGCとボリューム・コントロールの構成は、本機に明らかな欠陥をもたらしてしまっています。
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スピーカのすぐ裏が送信機の出力セクションになっています。
ここは高電圧セクションのため、金網によるグリルでガードされています。
真空管は水平に配置されています。空冷のための特別な仕組みはなく、自然空冷方式になっています。 写真ではガードグリルは外してあります。写真でスピーカ ヨークの少し上あたりに見える水平に置かれたコイルは、 TVI抑圧用のコイル。 |
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久しぶりに取れた休暇でカナダへ約1週間のドライブに出かける途中、
リヴァモアのスワップミートに立ち寄り、このSB-34を買いました。
家に帰るまで待ちきれずに、オレゴンのモーテルの室内でテスト。
HFのアンテナなどありませんが、
ラップトップ・コンピュータの電源ケーブルをゼム・クリップを使ってアンテナ端子に仮接続して試してみたところとりあえず受信できているようで、
7MHz帯で何局かCQコンテストを連呼しているのが聞こえました。 ラボへ帰って改めてテストしてみると、音量こそ大きくないものの南米、オーストラリアなどの局が聞こえてきます。 ところがパイルアップを受けているDX局をしばらく聞いているうちに、感度が急速に低下し、 とうとうバックグラウンド・ノイズさえ聞こえなくなってしまいました。 不思議に思ってダイヤルを回すと、バンドのうち低い周波数では(たとえば14MHz帯の14.100MHz程度)ではまだ感度がありますが、 高い方(たとえば14.250MHz程度)ではすっかり感度を失っています。 仕方がなく低い周波数でCWを聞いていると、やはりそのうち感度を失ってしまい、やがてバンド内全域で無感状態になってしまいました。 やはりトラブル機のようです。 翌日の夜再び電源を入れてみると、バンド全域で正常です。 昨日のトラブルは何だったのだろうと思いつつワッチしていると、約30分後にまたまた感度が急速に低下しだしてしまい、やがて完全に無感。 どうもこのリグの使用可能時間は最大30分のようです。 そんなことってあるの? |
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推測するに、VFOの発振停止が真っ先に疑われました。
なぜか温度が高くなるとVFOの発振が停止し、
したがって中間周波信号を生成できなくなるというものです。
これは発生している現象をうまく説明できます。
事実、問題が発生しているときVFO基板上面だけに選択的に風をあてると感度が復活します。 本機のVFOは、使用するバンドに関わらず 5.4569MHz から 5.7069MHz の範囲の周波数を発生します。 回路はトランジスタ2つからなっており、一つが発振用、もう一つがバッファ・アンプです。 マニュアルにも書かれている方法でVFO発振出力をチェックすることにしました。 すなわち別の短波ラジオをそばに置き、 VFO出力からリード線を引き出して短波ラジオのアンテナ端子付近に近づけるのです。 こうしてVFO出力周波数を受信すれば、Sメータの振れでVFO出力の変化をみることができます。 試してみればご名答、温度が高くなるとVFO出力信号が急速に低下し、やがてほぼ発振停止状態になります。 いまは1998年にAGC周りをいじっていたときのまま、手持ちの小信号シリコントランジスタをAGCトランジスタQ3として使っています。 オリジナルのQ3は2N3642で、これもシリコンNPN型トランジスタ。 エミッタはグラウンド直結ですから、ベース電圧が約0.6Vを越えてはじめてオンし始めるはずなので、 室内ではうるさい音量になってはじめてAGCが感度抑制制御をはじめることになるわけです。 |
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現象を出しやすくするため暑いというのにガレージ・ドアを開けず、
汗びっしょりになりながらVFO回路のトランジスタの各端子電圧を測定してみたところ、
発振用トランジスタのエミッタ電圧が雰囲気温度に敏感に反応し、
これがある電圧を越えると発振停止を引き起こすことがわかりました。 エミッタ電圧を限界値以内に押さえるため、バイアス回路に抵抗を1本追加。 これでVFOは連続使用しても安定に発振し続けるようになり、問題は修正されました。 ただし何が原因で問題が起きたのかは不明なままです。 トランジスタや抵抗などのコンポーネントが経時変化を起こしたためだ、と推測しています。 |
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安定して受信できるようになったとはいうものの、どうにも音量が小さいままです。
使用しているアンテナが屋外に張った単なるランダム・ロング・ワイヤーであるとはいえ、
MFJのアンテナ・チューナ・プリアンプを通していますから、それなりに聞こえてもいいはずです。
マニュアルには、ボリューム・コントロールは50%の位置で室内で聞くのに十分な音量がでる、とあります。
しかし実際にはボリューム・コントロールをほとんどいっぱいにしてなんとか普通の音量が得られる状態。 オーディオ段のゲイン不足だろうかと思いましたが、サンノゼのローカル局が出てくると猛烈な音量で鳴り、 あわててボリュームを絞らねばなりません。オーディオ・パワーアンプは正常なようです。 またオーディオ・ドライブ段の入力に例によってCDプレーヤの信号を入れてみると、 オーディオ・アンプは正常に動作していることがわかります。 スピーカから聞こえる音質はかなり乾いており、まさに通信機風です。 もっとも国際放送を聞くためのものではないし、問題ありません。 |
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SBE独自の、風変わりなAGC回路およびボリューム・コントロール回路になにかトラブルがあるのではないかと思われました。
どのみちこのままではアマチュア無線機としては実用になりませんから、いよいよ各部をいじりだすことにしました。 本機のボリューム・コントロールは、単にオーディオ・ゲインだけではなくて、 中間周波増幅段のゲインおよびRFミキサのゲインをも制御します。 AGC信号もまた、RFミキサーのゲインを制御します。 高周波増幅と第一周波数変換 (RFミキサ) はシャーシ下側に独立したプリント基板として実装されています。 そこでこのRFボードが常時フルゲインで動作するよう、AGC信号とボリューム・コントロール信号を切り離し、 固定抵抗で一定の電圧を供給するようにしてみました。 するとローカル局の信号が完全に飽和してしまいますので、 フルゲインで動作していることは間違いないようです。しかし通常の信号に対して十分な音量は得られません。 |
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AGC電圧の測定を容易にするため、RFボードの取り付けネジを利用してラグ板を追加し、
ここにIFボードのAGC回路から信号線を引き出しました。
AGC電圧の平均化のための電解キャパシタの容量抜けの可能性もありますから、
オリジナルのキャパシタを外し、代わりに未使用の同一容量品をこのラグ板に実装してみました。 ところが半田付け作業中、こて先からパチっと小さな火花が飛ぶのが見えました。 リグの電源を入れてみると、あれあれ、全く受信できません! そのときリグの電源ケーブルは当然抜いてあったのですが、 シャーシはポンコツオシロにつながったままで、どうやらこて先がリークしていて電流がこてからオシロに流れてしまったようです。 なんともトホホな。 吹き飛んだのは受信RFミキサ用のトランジスタ、2N2495 でした。 型番は異なりますが、送信用のRFミキサ・トランジスタと入れ替えてみると、感度は低いながら受信できています。 2N2495 または代替品を手に入れなければなりません。 ハルテッド・スペシャルティ には同一品はありませんでした。 似たようなPNPゲルマニウムトランジスタを何種類か買って試してみましたが、どれも本来の性能が出せません。 トランジスタ互換表を調べたら、2N2495 には互換品なし。 ウエブのサーチエンジンも試しましたが、2N2495 に関するページあるいは取り扱っているサイトはみつかりませんでした。 そうなると頼みは NTE 。独自の型番で多くのリプレースメント用トランジスタを販売しています。 2N2495の代替は NTE160。 ハルテッドに在庫があり、1つ買いました。値段は約4ドル、高いながらも背に腹は代えられません。 互換品とはいいながらパッケージが異なるので、RFボードのトランジスタ・ソケットには取り付かず、基板に直接半田付け。 受信感度は元の状態に戻りました。 それにしても今後は要注意。 こてを当てるときは、リグの電源ばかりではなく測定用の配線も全て外すようにしましょう。 いい半田こてに買い替える、というのが本来の対策なんでしょうが。 |
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さて問題の音量不足です。
各部の電圧を測定してみたり、信号波形を見てみたりしてみましたが、いっこうに原因が絞れません。
高周波段なのか中間周波段なのか、はたまたバランスド・ミキサが悪いのか。それともコリンズのメカフィル不良?
あるいはこれがSBEの実力なのかも? 毎晩努力し続け、なおも不明。 完全にスタックしてしまいました。疲れ果てた脳ミソが思い付いた究極の調査方法は・・・ 正常なリグと比較する! でもどうやって? SB-34なんか持ってる人、身近にはいないよ・・・。 そう思いながらインターネットをうろつていたら完動品の出物が! ヨメの承諾も得ずに、疲れ果てた私の指はマウスのボタンをクリックしたのでありました。 2週間後、ラボのベンチには2台のSB-34が並びました。 |
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正常なものと比較する、というのは予想していた以上に強力な方法です。
なにしろ正解が目の前にあるのですから。 あとは根気良く間違い探しをやるだけ。 大胆なテストとして、各基板を相互に入れ替えることを試してみました。 入れ替えるといっても基板をシャーシから外すのではなくて、基板相互の接続を切り離して、ジャンパー線でお互いをつなぐわけです。 この結果、問題は1号機のIFボードにあることがはっきりしました。 2号機のVFOボード出力、すなわち中間周波数信号を1号機のIFボードに注入すると音量は小さく、 逆に1号機のVFOボードと2号機のIFボードの組み合わせでは正常です。 両機のメカニカル・フィルターを入れ替えてみましたが、変化ありません。 したがってIFボード上のメカニカル・フィルターは正常で、一安心。 もしこれが壊れていたら、部品代は(もし手に入ったとして)おそらくトランシーバ自体の価格の半分以上になってしまうでしょう。 値段からすれば、SB-34は全ての周辺回路付きメカニカル・フィルターみたいなものです。 ダイオード4本で構成されたリング・モジュレータの検波出力を2台の間で比較するに、大きな違いはありません。 むしろ1号機のほうが高出力であるほどです。 オーディオ・ドライバ段以降の音声増幅および出力段の動作にも差は見られません。 これらの結果から、問題点はリング・モジュレータの検波出力を増幅する低周波増幅初段にあることがほぼ確定的になりました。 |
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いじくりまわした暫定的な配線を元に戻し、RFオシレータの調整だけを取り直して作業を一段落させました。
1号機の感度はずいぶん改善されましたが、2号機と比較するとわずかに劣っています。
これは交換したRFミキサ用トランジスタに原因があるやもしれませんが、全体のアライメントを取り直す必要もあるでしょう。 AGCの動作も気になります。 受信している信号の強弱に応じて頻繁にボリューム・コントロールをいじる必要があり、実用面で不便です。 これについては2号機もほぼ同じような状態なのでSB-34の本来の特性であると思われますが、 現状のままではどうにもメイン・リグとして使うには不満がつのります。 それがSBEの設計意図だったという見方もありますが、 私は完全オリジナル再生を旨とするコレクターよりはむしろ、機械は使うことに意義がある的なほうです。 し、手元に2台あるわけですから、1台を実用機に仕立てて、もう1台をオリジナル保存としておいても良いわけです。 SBE独自のAGCとボリュームコントロールに見切りをつけてオーソドックスなオーディオ・デリバードAGCにし、 ボリューム・コントロールは通常のオーディオ・アッテネータにする。 別基板でAGCアンプを追加し、またSメータアンプを設ける。 内蔵スピーカを止め、外部スピーカあるいはヘッドフォンを使えるようにする。 ざっとこんなところがリストアップされそうです。どれも外観変更を伴わずにできそうです。 アップルコンピュータ本社にほど近いわがラボには、マトモな送信アンテナはありません。 それゆえ送信部のテストはしていません。 一瞬だけPTTスイッチを入れた限り、送信動作はしているようです。が、どの程度のパワーが出ているのかは不明。 ボートアンカーのニュースグループなどを読んでいると、 SB-33/34系は送信部のパワー不足、またはパワー出ずといったトラブルが発生しやすいようです。 また、送信時の周波数ドリフトも問題のよう。これはひとつには冷却不足もあるでしょう。 実際にこのリグでオンエアするとしたら、こういった点もよくチェックする必要があります。 ・・・それからすでに6年たち、復活プロジェクトは進展していませんが、止まったわけではありません。 このSB-34のテストのためだけに、新品のダミーロードとSWR/パワー計を買ってあるのです! |
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