NoobowSystems Lab.

Radio Restoration Projects

SideBand Engineers Model 34
SBE "SB-34"

Bilateral Amateur Radio Transceiver
(1966)

English Page

SB-34 Prototype

SideBand Engineers - The Company






Way ahead of time

    SideBand Engineers SB-34は、1966年製のHF帯 SSBトランシーバです。 米国では現在でもそれなりの数が現存しているとはいえ、さほど高い評価を得ていたわけでもなく、 いわば"Interesting Radio" の部類に入るでしょう。 つまり風変わりで興味深くはあるものの、かといってコリンズやドレーク、 またはハリクラフターズのような人気を得ているわけではありません。 が、その設計を知れば知るほど、この無線機がいかに時代を先取りしていたかがわかってきます。

    SB-34はその前身である SB-33 のコンセプトを維持しつつ、スタイルを一新し、大きく改良を加えたものになっています。 SB-34は、ファイナルとドライブ段を除いて全てトランジスタとダイオードで構成されており、 AC117VとDC12Vのどちらでも動作する電源装置を本体に内蔵しています (SB-33ではモービル運用のためのインバータは別体オプションでした)。 トランジスタ化によるコンパクトな匡体とあいまって、モービル運用に適したものに仕上がっています。 モードはSSBのみで、3.8/7/14/21MHz帯をカバーします。送信出力は80Wとなっています。

    SB-34の特徴は、何といってもあのコリンズ社製メカニカル・フィルターを採用していることと、 バイラテラル方式の回路構成にあります。 バイラテラル方式とは、 ブロック・ダイヤグラム をご覧いただければわかるように、送信時と受信時で信号の流れが逆向きになるような構成です。 これにより、回路の多くが送受信で共用でき、部品点数削減によるコストダウンと軽量コンパクト化が実現されています。


Controls

    SB-34のフロントパネルを見てみましょう。 SB-33と比較すると、基本的なレイアウトは踏襲されていることがわかります。 おそらくモービル運用での操作性が重視されたのでしょう、 使用頻度の高いコントロールはパネル左側に配置されていて、 右側の助手席に設置した際に左側の運転席から操作しやすくなっています。



周波数ダイヤル(VFO)

    パネル左上の目盛りとつまみがVFOで、送受信周波数を設定します。 つまみと目盛り盤は同心で、おそらくジャクソン・ブラザーズ社製の(もしそうでなければ同様の) 同軸ボールジョイントで減速され、VFOの小型3連バリコンを回します。 ボールジョイントは2段減速で、つまみの約4分の3回転の範囲では微調整で、 それ以上の範囲では早送りになります。

    周波数可変範囲は以下のようです。
  • 80M :  3.775MHz - 4.025MHz
  • 40M :  7.050MHz - 7.300MHz
  • 20M : 14.100MHz - 14.350MHz
  • 15M : 21.200MHz - 21.450MHz



   
BAND SELECTOR

    パネル中央、メータのすぐ下のつまみです。 約330度回転し、これで運用するバンドを切り替え、また高周波段の同調を行います。 このつまみはギア減速されて3連バリコンを回すほか、ジニーバ・メカニズム(スイスのジュネーブですね。) と呼ばれるカム機構でバンド切り替えロータリー・スイッチを回し、同時に3本の同調用コイルのコア位置を切り替えます。

METER

    パネル中央のメータは送信時のみ動作し、 ファイナルのプレート電流やRF出力を表示します。 小型の目盛り盤には0から5までの数字がふられているのみで、 したがってプレート電流の実際の値を知ることはできません。
    実用面において本機の最大の短所は、Sメータがないということでしょう。 ここにメータはついているのだから、これをSメータとして使えたらなあと誰しも思うのではないでしょうか。 メータには照明はありません。

DIAL CORRECT

    パネル上側、メータの左側のつまみです。 VFOつまみ固定のまま送受信の両方に対して周波数を微調整できます。 このつまみで、メインのダイヤルが正しい周波数を示すよう調整します。 これを行うためには、あらかじめ周波数が正確にわかっている電波を受信するか、 あるいはオプションで用意されているクリスタル・マーカを使用します。

MIC GAIN

    パネル上側、メータの右側のつまみです。 送信時のマイクゲインを調整します。 マイクアンプにはAGCはないので、過変調にならないようゲインの上げすぎには注意しなくてはなりません。 オペレーション・マニュアルには、交信している局から変調レポートをもらって、 自分のマイクと声の大きさに見合ったポジションを見つけるように、と書かれています。



VOLUME

    パネル左下のつまみで、電源スイッチ共用です。 一番反時計の位置で電源OFF。時計方向に回すと受信音量が大きくなります。
    この一見変哲のないボリュームつまみ、実はSB-34の風変わりな部分のひとつです。 何しろこれ一つでAFゲイン、IFゲイン、RFゲインそれにAGCリミッタまでもコントロールしているのです。

PITCH

    パネル左下のスライド・スイッチとそのすぐ右側のつまみは、今で言うRITです。 スライド・スイッチをONにすると、受信周波数のみ、PITCHつまみで微調できます。




USB/LSB

    パネル中央に4つ並んだスライド・スイッチの一番左側です。USBとLSBを切り替えます。

CAL/ON

    ほぼ真ん中やや左側のスイッチは、 オプションで提供されていた外付けクリスタル・キャリブレータ・ユニットのON/OFFスイッチです。 実はただ単に、クリスタル・キャリブレータ・ユニットへの電源供給をON/OFFしているだけです。

XMTR/ON

    ほぼ真ん中やや右側のスイッチで、 これでDC12V電源での動作時に、 送信用ドライブ段とファイナルの真空管への電力供給をヒーター・プレート電源とも止めることができます。 これにより受信待機時の消費電流を約600mAに押さえることができ、カーバッテリーの消耗を低減できます。 AC117V動作時にはこのスイッチは働かず、ドライバとファイナルの真空管は常に通電しています。

OPER/TUNE

    パネル中央に4つ並んだスライド・スイッチの一番右側です。 TUNEにすると連続キャリア送信状態となり、この間にファイナルの同調をとります。 フロントパネル中央下部に見えるのはコリンズタイプのマイクジャックです。



PA LOAD

    送信機ファイナルのロード調整つまみです。

METER ANT/Ip

    パネル右下のスライドスイッチは、送信時にメータをRF出力表示/プレート電流表示に切り替えます。

PA TUNE

    パネル右下のつまみで、ファイナルの同調を取ります。これは受信時にも有効です。




Layout
    SB-34の内部構造を見てみましょう。 外側金属ケースは筒型の一体式で、内部は基本的にスチール製のフレームにいくつかのプリント基板が取り付く構造になっています。 コンパクトに実装されていますが、 バリコンや中間周波トランス、オーディオトランスなどはまだ真空管世代の部品で、ずいぶん大きく見えます。






回路構成


    ブロック図を見ると、そのユニークなバイラテラル方式がわかります。 黄色で示したブロックは送信時と受信時のいずれの場合にも機能するものです。

    送受信切替えは、2本の制御信号によって行われます。 一方のラインの電圧は受信時に高く、他方の線は低くなっています。 送信時は電圧レベルが反転します。 一方のラインは送信時に受信専用ブロックを停止させ、 他方のラインは受信時に送信専用ブロックを停止させる役目を持っています。 この送受信切替え方式により、リレーを使う必要がなくなりました。



高周波増幅段

    アンテナからの信号は送信機のパイマッチセクションを通り、 シャーシ下面に配置されたチューナーボードに入ります。 過大入力から初段を保護するため、ここは2本のダイオードが用意されています。 信号は高周波増幅用トランジスタQ11のエミッタに加えられます。 このトランジスタはコモン・ベース・アンプ動作します。

HFミキサ

    高周波増幅された信号はQ9とQ10とからなるHFミキサに入ります。 一方Q19で構成されるHFオシレータは各バンドに応じた局部周波数を発振しており、 HFミキサの出力として3175から3425kHzの信号が得られます。

    写真に見えるのはクリスタル・ボードです。 シャーシ下側にあり、 4つのHFオシレータ用水晶発振子(各バンドに1つずつ)とトランジスタQ19(隠れています)が実装されています。




VFOミキサ

    HFミキサの出力はチューナーボードを出てVFOボードに入り、 VFOミキサ用トランジスタQ7とQ8に印加されます。 一方VFOオシレータQ15はダイヤル位置に応じて5456.9から5706.9kHzの間の周波数を発振しており、 VFOバッファQ14を介してVFO周波数をVFOミキサに注入します。
    ヘテロダイン処理の結果、VFOミキサからは入力とVFOの差の周波数である2281.9kHzの信号が取り出されます。

中間周波数ミキサ

    2281.9kHzの信号はVFOボードを出て、ミキサ用ダイオードを通じてIFボードに入ります。 IFボードには456kHzの水晶発振回路Q12(キャリア・オシレータ)と、 それにつづくダブラー、それにダブラー・トリプラーQ13があり、USBモードの時は2738.2kHz(456kHzの6倍)、 LSBモードの時は1825.5kHz(456kHzの4倍)が発振されています。 この基準周波数信号はミキサ用ダイオードに印加され、 結果としてミキサ ダイオードから456.38kHzの中間周波数信号が取り出されます。




メカニカル・フィルタと中間周波数増幅

    456kHzの中間周波数信号はコリンズ製のメカニカル・フィルタを通り、 中間周波数増幅段Q5とQ6に印加されます。 バイラテラル構成のため、このフィルタは受信時ばかりではなく送信時にも使用されます (送信時と受信時では信号の流れる向きが反対になります)。

    コリンズ メカニカル・フィルタはトランジスタソケット2つを用いて、IFボード上に実装されています。 脱落防止のため、L型の金具で押さえられています(写真では取り付けネジを緩めてあります)。

リング・モジュレータ

    中間周波数信号はついでダイオード4本からなるリング・モジュレータに加えられます。 ここにはキャリア・オシレータからの456kHzもまた印加されていて、音声信号が復調されます。





低周波増幅

    リング・モジュレータで得られた音声信号は初段低周波増幅器Q2のベースに加えられて増幅されます。
    Q2のコレクタから取り出された信号はオーディオ・ドライバQ1で再び増幅されます。
    Q1の出力は、背面パネルに取り付けられたオーディオ・パワーアンプQ20に加えられます。 パワーアンプは出力トランスを有するA級アンプで、これによりフロントパネルに取り付けられたスピーカを駆動します。

ボリューム・コントロール

    通常の受信機のボリューム・コントロールはオーディオ・アンプの入力レベルを下げる、 いわゆるアッテネータとして実装されていますが、 本機のボリューム・コントロールはまさに受信機全体のゲイン・コントロールです。
    ボリューム・コントロールつまみはHFミキサ、456kHzアンプそしてわずかながら初段低周波増幅段のゲインを制御します。 他のステージはAGC電圧がない限りフルゲインで動作します。 ボリューム・コントロールのポテンショメータは電源電圧DC12Vを分圧してゲイン制御電圧を作っており、 この電圧が制御対象のトランジスタのベース電圧を変化させます。

AGC

    本機のAGCはスピーカ電圧を基準にしたオーディオ・デリバード方式です。 スピーカ両端の電圧がAGCトランジスタQ3に加えられており、 受信音が大きくなるとトランジスタQ3のコレクタ・エミッタ間が導通するようになります。 無信号時にQ3のコレクタ電圧はほぼ電源電圧と同じ12Vですが、受信音が大きくなるにつれて次第に電圧が下がります。
こうして得られたAGC電圧は高周波増幅段のQ11と中間周波増幅段Q5およびQ6に加えられ、 それらのステージのゲインを落とします。
    AGC電圧配分は、並程度の信号受信時でも高周波増幅トランジスタをかなりカットオフするよう設定されており、 これによって以下のステージがオーバーロードしないようになっています。
    入力信号が弱くなると、AGC電圧は比較的ゆっくりと12Vにまで回復し、したがって受信機がフルゲイン状態に戻ります。
    ボリューム・コントロールを50%以上に上げると、 AGCトランジスタに接続されたダイオードがスピーカ電圧をクリップしはじめ、 したがってAGCトランジスタの入力が低くなります。 これによりAGCの効きが下がり、より大きな音量が得られるようになります。 ボリューム・コントロールをフルにすると、AGCトランジスタの入力は完全にクランプされ、 音量に関わらず全段がフルゲインで動作するようになります。


特殊な構成

    このような特殊なAGCとボリューム・コントロールの構成は、本機に明らかな欠陥をもたらしてしまっています。

  • Sメータを設けられない
    • 通常の受信機ではAGC電圧変化を入力信号強度としてとらえ、メータを振らせるのが一般的です。 しかしSB-34ではAGC電圧はボリューム・コントロールの位置によっても変わるわけですから、これを計ってもほとんど意味がありません。
  • スピーカを切り離せない
    • AGC入力はスピーカの両端から取っていますから、 もしスピーカを切り離してしまうとAGC入力レベルが変わり、AGC特性も変化します。 おそらくこれが、本機にヘッドフォン・ジャックがない理由でしょう。 本機には外部スピーカ端子がありますが、それは内蔵スピーカの両端がそのまま引き出されているだけで、 内蔵スピーカを止める方法はありません。 また外付けスピーカをつなぐと、これまたAGC特性が変わってしまいます。
  • ボリューム・コントロールの位置によってAGC特性が変わる
    • ボリューム・コントロールを下げると、スピーカ音量が小さくなってAGCが効きません。 ボリューム・コントロールを半分以上に上げるとまた、AGCの効きが低下します。



    バンド切替機構

        バンド切替は、機構面において本機の最大の特徴になっています。 このつまみは約330度回転し、これで運用するバンドを切り替え、また高周波段の同調を行います。 このつまみはギア減速されて3連バリコンを回すほか、ジニーバ・メカニズム(スイスのジュネーブですね。) と呼ばれるカム機構でバンド切り替えロータリー・スイッチを回し、 同時に3本の同調用コイルのコア位置を切り替えます。

        たとえば20M帯で運用するときは時計の時針にして9時から11時30分程度の範囲内 (この範囲内ではつまみはバリコンを回すだけで、軽く操作できます)で、 受信感度が最高になる位置にあわせます。
        40Mに切り替えるときは、つまみを12時から2時30分の範囲内にあわせます。 つまみを各バンドの範囲内を超えて回そうとすると手応えが重くなり、 このときバンド切り替えのロータリースイッチが切り替わり、 同時にコイルのコア位置が切り替わります。 容易に想像できるように、バンド切り替え時にはかなりの操作力が必要です。 そのためつまみには小さなつば状の突起が設けられていて、力が入れやすいようになっています。

        この機構により、あるバンドに設定したときに同調コイルのコアはそのバンド用の位置となり、 またバリコン位置はそのバンド用の範囲内を超えて調整できないため、 ユーザがうっかりハーモニック共振に合わせてしまうことを防止しています。



    送信機出力セクション

        スピーカのすぐ裏が送信機の出力セクションになっています。 ここは高電圧セクションのため、金網によるグリルでガードされています。 真空管は水平に配置されています。空冷のための特別な仕組みはなく、自然空冷方式になっています。

        写真ではガードグリルは外してあります。写真でスピーカ ヨークの少し上あたりに見える水平に置かれたコイルは、 TVI抑圧用のコイル。



    SB-34で使用されているトランジスタ

    SB-34 Desig. Usage Transistor Manufacturer Type Substitution Information
    Q1 AF Driver 2N2431
    PNP Alloy ACY33, AC128,AC138H, AC138, AC139K,AC139, AC142H,AC142H-K,AC142K,AC142, AC153K, AC153, NKT281 AL/1
    Q2 AF AMP 2N3638(2N1305)
    PNP Alloy BC126,BSX40, S1829, TQ63A, TQ63, 2N2927 A/1
    Q3 AGC AMP 2N3642(2N2926) (GE) NPN Silicon

    Q4 MIC AMP 2N3638(2N1305)
    PNP Alloy

    Q5 IF Amp, TX 2N2672 Amperex PADT

    Q6 IF Amp, RX 2N2672 Amperex PADT

    Q7 VFO Mixer, TX 2N2672 Amperex PADT

    Q8 VFO Mixer, RX 2N2672 Amperex PADT

    Q9 RF Mixer, TX 2N2672 Amperex PADT

    Q10 RF Mixer, RX 2N2495 Amperex PADT SUBST: NTE160
    TO72 T-PNP, Germanium for RF-IF Amplifier, FM MIxer/OSC
    Vcbo 30V, Vces -20V, Vebo -0.3V, Ic 10mA, Pd 100mW, hFE 50 typ, fT 550MHz typ

    Q11 RF AMP 2N2672 Amperex PADT

    Q12 456kHz LOC OSC 2N2672 Amperex PADT

    Q13 456kHz DBLR/TRPLR 2N2672 Amperex PADT

    Q14 VFO Buffer 2N2672 Amperex PADT

    Q15 VFO OSC 2N3564(2N706) (RCA) NPN Silicon

    Q16 Keyer, RX Bus 2N3462(386-7185P1) (Raytheon) NPN Alloy

    Q17 Keyer, TX Bus 2N3462(386-7185P1) (Raytheon) NPN Alloy

    Q18 VFO Volt.Reg. 2N2926 GE NPN Silicon

    Q19 HF OSC 2N2672 Amperex PADT

    Q20 AF OUTPUT 2N2869/2N301
    PNP Power

    Q21 Power Inverter 2N443
    PNP Power

    Q22 Power Inverter 2N443
    PNP Power

    Q23 Ext.Linear Ctrl 2N2926 GE NPN Silicon


    使用可能時間は最大30分?

        久しぶりに取れた休暇でカナダへ約1週間のドライブに出かける途中、 リヴァモアのスワップミートに立ち寄り、このSB-34を買いました。 家に帰るまで待ちきれずに、オレゴンのモーテルの室内でテスト。 HFのアンテナなどありませんが、 ラップトップ・コンピュータの電源ケーブルをゼム・クリップを使ってアンテナ端子に仮接続して試してみたところとりあえず受信できているようで、 7MHz帯で何局かCQコンテストを連呼しているのが聞こえました。

        ラボへ帰って改めてテストしてみると、音量こそ大きくないものの南米、オーストラリアなどの局が聞こえてきます。 ところがパイルアップを受けているDX局をしばらく聞いているうちに、感度が急速に低下し、 とうとうバックグラウンド・ノイズさえ聞こえなくなってしまいました。 不思議に思ってダイヤルを回すと、バンドのうち低い周波数では(たとえば14MHz帯の14.100MHz程度)ではまだ感度がありますが、 高い方(たとえば14.250MHz程度)ではすっかり感度を失っています。 仕方がなく低い周波数でCWを聞いていると、やはりそのうち感度を失ってしまい、やがてバンド内全域で無感状態になってしまいました。 やはりトラブル機のようです。

        翌日の夜再び電源を入れてみると、バンド全域で正常です。 昨日のトラブルは何だったのだろうと思いつつワッチしていると、約30分後にまたまた感度が急速に低下しだしてしまい、やがて完全に無感。 どうもこのリグの使用可能時間は最大30分のようです。 そんなことってあるの?


    原因は熱

        あれこれ試して、症状は以下のようであることがわかりました。
    • 電源を入れた直後は正常に作動。
    • 20分程度経つと、ダイヤルの最も高い周波数側から徐々に感度が「むしばまれて」行く。
    • 感度低下は実際の信号のみでなく、バックグラウンド・ノイズも消える。
    • 約30分で、ダイヤル全域で完全に無感状態になる。
    • この現象は全てのバンドで同時に発生する。
    • いったん発生した後しばらく電源を切っておくと回復する。
        どうやらこれは温度が関係してそうな不具合です。 そういえぱこの現象が出ているときはカリフォルニアは夏まっ盛りで、 ガレージ・ドアを半開きにしているのに夜になってもラボはまだ暑い状態。

        いよいよケースを開けてみました。 筒状の金属ケースにはファイナルの真空管付近以外にはあまり通気口が開いておらず、 熱がこもりやすいのは確かなようです。 ざっと内部を観察。 ほとんどノーマルであるように見うけられます。 ケースを開けたまま使用してみると、発生するまでの時間がかなり延びるものの、 やはり長時間の後に無感状態になってしまいます。 このときリグ内部にうちわで風をあてると、感度が急速に復活します。 やはり熱によるトラブルです。 シャーシ上面に常時風があたるよう電源装置用小型空冷ファンを用意してやると、 何時間連続動作しても問題は発生しません。



    問題箇所の特定

        推測するに、VFOの発振停止が真っ先に疑われました。 なぜか温度が高くなるとVFOの発振が停止し、 したがって中間周波信号を生成できなくなるというものです。 これは発生している現象をうまく説明できます。 事実、問題が発生しているときVFO基板上面だけに選択的に風をあてると感度が復活します。

        本機のVFOは、使用するバンドに関わらず 5.4569MHz から 5.7069MHz の範囲の周波数を発生します。 回路はトランジスタ2つからなっており、一つが発振用、もう一つがバッファ・アンプです。 マニュアルにも書かれている方法でVFO発振出力をチェックすることにしました。 すなわち別の短波ラジオをそばに置き、 VFO出力からリード線を引き出して短波ラジオのアンテナ端子付近に近づけるのです。 こうしてVFO出力周波数を受信すれば、Sメータの振れでVFO出力の変化をみることができます。 試してみればご名答、温度が高くなるとVFO出力信号が急速に低下し、やがてほぼ発振停止状態になります。
    いまは1998年にAGC周りをいじっていたときのまま、手持ちの小信号シリコントランジスタをAGCトランジスタQ3として使っています。 オリジナルのQ3は2N3642で、これもシリコンNPN型トランジスタ。 エミッタはグラウンド直結ですから、ベース電圧が約0.6Vを越えてはじめてオンし始めるはずなので、 室内ではうるさい音量になってはじめてAGCが感度抑制制御をはじめることになるわけです。


    抵抗1本を追加

        現象を出しやすくするため暑いというのにガレージ・ドアを開けず、 汗びっしょりになりながらVFO回路のトランジスタの各端子電圧を測定してみたところ、 発振用トランジスタのエミッタ電圧が雰囲気温度に敏感に反応し、 これがある電圧を越えると発振停止を引き起こすことがわかりました。
        エミッタ電圧を限界値以内に押さえるため、バイアス回路に抵抗を1本追加。 これでVFOは連続使用しても安定に発振し続けるようになり、問題は修正されました。 ただし何が原因で問題が起きたのかは不明なままです。 トランジスタや抵抗などのコンポーネントが経時変化を起こしたためだ、と推測しています。



    音が小さい!

        安定して受信できるようになったとはいうものの、どうにも音量が小さいままです。 使用しているアンテナが屋外に張った単なるランダム・ロング・ワイヤーであるとはいえ、 MFJのアンテナ・チューナ・プリアンプを通していますから、それなりに聞こえてもいいはずです。 マニュアルには、ボリューム・コントロールは50%の位置で室内で聞くのに十分な音量がでる、とあります。 しかし実際にはボリューム・コントロールをほとんどいっぱいにしてなんとか普通の音量が得られる状態。
        オーディオ段のゲイン不足だろうかと思いましたが、サンノゼのローカル局が出てくると猛烈な音量で鳴り、 あわててボリュームを絞らねばなりません。オーディオ・パワーアンプは正常なようです。 またオーディオ・ドライブ段の入力に例によってCDプレーヤの信号を入れてみると、 オーディオ・アンプは正常に動作していることがわかります。 スピーカから聞こえる音質はかなり乾いており、まさに通信機風です。 もっとも国際放送を聞くためのものではないし、問題ありません。


    いよいよいじり出す

        SBE独自の、風変わりなAGC回路およびボリューム・コントロール回路になにかトラブルがあるのではないかと思われました。 どのみちこのままではアマチュア無線機としては実用になりませんから、いよいよ各部をいじりだすことにしました。
        本機のボリューム・コントロールは、単にオーディオ・ゲインだけではなくて、 中間周波増幅段のゲインおよびRFミキサのゲインをも制御します。 AGC信号もまた、RFミキサーのゲインを制御します。 高周波増幅と第一周波数変換 (RFミキサ) はシャーシ下側に独立したプリント基板として実装されています。 そこでこのRFボードが常時フルゲインで動作するよう、AGC信号とボリューム・コントロール信号を切り離し、 固定抵抗で一定の電圧を供給するようにしてみました。
        するとローカル局の信号が完全に飽和してしまいますので、 フルゲインで動作していることは間違いないようです。しかし通常の信号に対して十分な音量は得られません。


    半田こてがリークしてる!

        AGC電圧の測定を容易にするため、RFボードの取り付けネジを利用してラグ板を追加し、 ここにIFボードのAGC回路から信号線を引き出しました。 AGC電圧の平均化のための電解キャパシタの容量抜けの可能性もありますから、 オリジナルのキャパシタを外し、代わりに未使用の同一容量品をこのラグ板に実装してみました。

        ところが半田付け作業中、こて先からパチっと小さな火花が飛ぶのが見えました。 リグの電源を入れてみると、あれあれ、全く受信できません! そのときリグの電源ケーブルは当然抜いてあったのですが、 シャーシはポンコツオシロにつながったままで、どうやらこて先がリークしていて電流がこてからオシロに流れてしまったようです。 なんともトホホな。

        吹き飛んだのは受信RFミキサ用のトランジスタ、2N2495 でした。 型番は異なりますが、送信用のRFミキサ・トランジスタと入れ替えてみると、感度は低いながら受信できています。 2N2495 または代替品を手に入れなければなりません。

        ハルテッド・スペシャルティ には同一品はありませんでした。 似たようなPNPゲルマニウムトランジスタを何種類か買って試してみましたが、どれも本来の性能が出せません。 トランジスタ互換表を調べたら、2N2495 には互換品なし。 ウエブのサーチエンジンも試しましたが、2N2495 に関するページあるいは取り扱っているサイトはみつかりませんでした。
        そうなると頼みは NTE 。独自の型番で多くのリプレースメント用トランジスタを販売しています。 2N2495の代替は NTE160。 ハルテッドに在庫があり、1つ買いました。値段は約4ドル、高いながらも背に腹は代えられません。 互換品とはいいながらパッケージが異なるので、RFボードのトランジスタ・ソケットには取り付かず、基板に直接半田付け。 受信感度は元の状態に戻りました。

        それにしても今後は要注意。 こてを当てるときは、リグの電源ばかりではなく測定用の配線も全て外すようにしましょう。 いい半田こてに買い替える、というのが本来の対策なんでしょうが。
    SB-34 Testing

    2N2495

    究極の調査方法

        さて問題の音量不足です。 各部の電圧を測定してみたり、信号波形を見てみたりしてみましたが、いっこうに原因が絞れません。 高周波段なのか中間周波段なのか、はたまたバランスド・ミキサが悪いのか。それともコリンズのメカフィル不良? あるいはこれがSBEの実力なのかも?
        毎晩努力し続け、なおも不明。 完全にスタックしてしまいました。疲れ果てた脳ミソが思い付いた究極の調査方法は・・・ 正常なリグと比較する! でもどうやって? SB-34なんか持ってる人、身近にはいないよ・・・。 そう思いながらインターネットをうろつていたら完動品の出物が! ヨメの承諾も得ずに、疲れ果てた私の指はマウスのボタンをクリックしたのでありました。
        2週間後、ラボのベンチには2台のSB-34が並びました。


    2号機の改造

        1号機よりも高い額で買ったSB-34 2号機は、SBE純正のハンドマイクとマニュアル付きで外観も完全ノーマル。 十分な音量できちんと作動します。

        カバーを開けてみると、この2号機はあちこちに手を入れられた跡があります。 まず目につくのは、どこぞのクリスタル・キャリブレータ・キット基板が組み込まれていること。 SB-34純正オプションのキャリブレータ・ユニットは背面パネルに取り付けますが、それと電気的には等価な配線がなされています。 受信回路各部の電解キャパシタはほぼ全てが交換されており、特にAGC回路周辺はほぼすべてのポイントに半田し直しの跡が見受けられます。 前のオーナーも同様の努力をしたようです。そしてこのリグは正常に動作しています。 お手本としてこれ以上のものはありません。

        これまで1号機の作業中に、回路図と実機で部品の定数が異なっている部分が数多く発見されていました。 2号機に付いてきたマニュアルの回路図をみると、それは1号機に付いてきた回路図よりもリビジョンが新しく、 そして各部品の値は実機と一致します。 つまり1号機と2号機はほぼ同じリビジョンで、1号機に付いてきた回路図のコピーが古かったわけです。
    SB-34 Microphone

    サイド・バイ・サイド

        正常なものと比較する、というのは予想していた以上に強力な方法です。 なにしろ正解が目の前にあるのですから。 あとは根気良く間違い探しをやるだけ。

        大胆なテストとして、各基板を相互に入れ替えることを試してみました。 入れ替えるといっても基板をシャーシから外すのではなくて、基板相互の接続を切り離して、ジャンパー線でお互いをつなぐわけです。 この結果、問題は1号機のIFボードにあることがはっきりしました。 2号機のVFOボード出力、すなわち中間周波数信号を1号機のIFボードに注入すると音量は小さく、 逆に1号機のVFOボードと2号機のIFボードの組み合わせでは正常です。

        両機のメカニカル・フィルターを入れ替えてみましたが、変化ありません。 したがってIFボード上のメカニカル・フィルターは正常で、一安心。 もしこれが壊れていたら、部品代は(もし手に入ったとして)おそらくトランシーバ自体の価格の半分以上になってしまうでしょう。 値段からすれば、SB-34は全ての周辺回路付きメカニカル・フィルターみたいなものです。

        ダイオード4本で構成されたリング・モジュレータの検波出力を2台の間で比較するに、大きな違いはありません。 むしろ1号機のほうが高出力であるほどです。 オーディオ・ドライバ段以降の音声増幅および出力段の動作にも差は見られません。 これらの結果から、問題点はリング・モジュレータの検波出力を増幅する低周波増幅初段にあることがほぼ確定的になりました。


    たかが1石アンプ

        初段低周波増幅段は、要するに1石アンプです。 こうなればしめたもの、特に難しいこともないはずです。 なのに、なぜこのアンプのゲインが不十分なのかわかりません。 簡単なアンプというものの回路的には別系統のマイク・アンプとつながっていますからそれと切り離してみたり、 送受信を切り替えるキーイング・コントロール信号を調べてみたり、違うトランジスタを試したり、キャパシタを交換したり。 はたまた全く別の1石アンプをこしらえて置き換えてみたり。 実に土日の2日間のほとんどを費やしながらも、まだ原因がわかりません。 私はいまだかつてアナログ回路の正しい教育を受けたことがなく、あらためて勉強不足を痛感しました。 トランジスタの基礎みたいなテキストをあらためて読み直し、また何か試し、違うテキストを読み・・・。

        たかが1石トランジスタ・アンプを修理できない挫折感のなか、取り外したいくつかの電解キャパシタをながめ、テスタをそれらに当ててみました。 品質のよさそうな黒いプラスティック・モールドの電解キャパシタは、俺はまだいかれてないぜといわんばかりに、テスタの針を一瞬振らせます。 ところが、そのうちのひとつはテスタの針を全く振らせません。 定格容量は10μF、少しくらい充電電流がながれそうなものです。これは・・・?
        リグを見直すと、このキャパシタは外したままで代わりのものは取り付けていません。 パーツ箱から取り出した別のキャパシタを取り付けてみたら---アンプは正しく増幅するようになりました!

        そのキャパシタの回路には0.1μFがパラに入っているし問題無いと思いこんでいたのですが、 それはエミッタに入った低周波バイパスで、これがないとアンプ出力が十分に出なかったわけです。 わかってみればなんとも基本的な! 無教養なアマチュア作業を恥じつつも、ガレージに響き渡るような豊かな音量に感慨無量。
        これはまた、どのアンティーク・ラジオ・レストレーションの本にも書かれている鉄則を立証するものでもあります。 つまり、「すべてのペーパー・キャパシタと電解キャパシタは新品に交換せよ。もしそれらが現在でも正常なら、それらは明日だめになる。」
    SB-34 REC AF Amplifier


    今後の作業

        いじくりまわした暫定的な配線を元に戻し、RFオシレータの調整だけを取り直して作業を一段落させました。 1号機の感度はずいぶん改善されましたが、2号機と比較するとわずかに劣っています。 これは交換したRFミキサ用トランジスタに原因があるやもしれませんが、全体のアライメントを取り直す必要もあるでしょう。

        AGCの動作も気になります。 受信している信号の強弱に応じて頻繁にボリューム・コントロールをいじる必要があり、実用面で不便です。 これについては2号機もほぼ同じような状態なのでSB-34の本来の特性であると思われますが、 現状のままではどうにもメイン・リグとして使うには不満がつのります。 それがSBEの設計意図だったという見方もありますが、 私は完全オリジナル再生を旨とするコレクターよりはむしろ、機械は使うことに意義がある的なほうです。 し、手元に2台あるわけですから、1台を実用機に仕立てて、もう1台をオリジナル保存としておいても良いわけです。

        SBE独自のAGCとボリュームコントロールに見切りをつけてオーソドックスなオーディオ・デリバードAGCにし、 ボリューム・コントロールは通常のオーディオ・アッテネータにする。 別基板でAGCアンプを追加し、またSメータアンプを設ける。 内蔵スピーカを止め、外部スピーカあるいはヘッドフォンを使えるようにする。 ざっとこんなところがリストアップされそうです。どれも外観変更を伴わずにできそうです。

        アップルコンピュータ本社にほど近いわがラボには、マトモな送信アンテナはありません。 それゆえ送信部のテストはしていません。 一瞬だけPTTスイッチを入れた限り、送信動作はしているようです。が、どの程度のパワーが出ているのかは不明。 ボートアンカーのニュースグループなどを読んでいると、 SB-33/34系は送信部のパワー不足、またはパワー出ずといったトラブルが発生しやすいようです。 また、送信時の周波数ドリフトも問題のよう。これはひとつには冷却不足もあるでしょう。 実際にこのリグでオンエアするとしたら、こういった点もよくチェックする必要があります。

        ・・・それからすでに6年たち、復活プロジェクトは進展していませんが、止まったわけではありません。 このSB-34のテストのためだけに、新品のダミーロードとSWR/パワー計を買ってあるのです!
    SB-34 at San Jose Lab

    16年前の続き

        SB-34は1998年にいったん作業終了したあとほぼ16年間保管されたままでした。 引越しの際に電源ケーブルがどこかに紛れてしまったために作業を再開できず、 1号機・2号機を積み上げた形で中央研究所ベンチのスチールラックの飾り状態。 しかし数ヶ月前にSB-34の修理相談を受け、実機で確認してみたくなって、1号機をベンチに乗せました。 「xx年前の続き」はどこか別のページの小見出しでも使ったフレーズですが… わがラボの研究は万事こんな様子。

        SB-34の電源ケーブルはAC117V用とDC12V用ケーブルが用意されており、 どちらかを背面の電源コネクタに差し込んで使います。 1号機・2号機ともAC117Vケーブルが付属していましたので、 以前テストしていたときはどちらもAC電源で動作させていました。 今回はAC117V電源ケーブルが相変わらず見つかっていないので、 回路図を参照して、仮配線でDC12V動作させてみます。

        受信機だけテストするのなら、 いちばんシンプルなのは本体背面の電源コネクタの4ピンにDC12Vを、10ピンをGNDに接続する方法。 この方法だとフロントパネルのXMTRスイッチをOFFにしたのと等価で本体内のパワーインバータには電源は行かず、 また本体フロントパネルの電源スイッチに関係なく電源が入ってしまいますが、 みのむしクリップ2つで済みます。 試してみるとSB-34は16年ぶりに目覚めました。 回路全電流は650mA。 マニュアルにはXMTRスイッチOFFの際の全電流は0.6アンペアと書かれていますので、ほぼ期待通りです。

        寒い冬の朝ですが、VFOは安定しています。 起動直後にあわせた7MHzのラグチュー局が1時間後も正しいピッチで聞こえ続けています。 ただしこの受信機、コンバータノイズがかなり高めです。 強力な局の場合でもバックグラウンドノイズが小さくなりません。 この時代のトランジスタコンバータはやはりノイジーなのかな。

    SB-34 interior overview from rear


    VOLUME制御

        現時点でVOLUMEコントロールはいい感じで動作しています。 でもつまみ位置に対する音量の変化は通常のボリュームコントロールとは異なり、 50%くらいの位置でようやく音が出始め、60%くらいで室内でちょうどいい音量、70%まであげると室内ではうるさすぎの音量。 AGCの効きは弱く、強力な局と弱い局とでは音量の差が結構あります。 やはりVOLUME回路とAGC回路の研究は進めるべき。

        ので、SB-34独特のそのコンセプトを整理して理解するために、 回路図からVOLUME回路とAGC回路を抜き出して書き出してみました。 右図参照。 すでにこのページの↑のほうで説明を書いていますが、もういちど復習のために回路の動作を述べてみます。

        フロントパネルのVOLUMEポテンショメータは、回路電源電圧のDC12Vを分圧してVOLUME制御電圧を生成しています。 受信時はこの電圧で受信音量を調整するわけですが、 つまみを反時計いっぱい(=音量0%位置)で制御電圧は12V、 つまみを時計いっぱい(音量100%位置)で制御電圧は0Vになります。 この制御電圧は抵抗を介してHFミキサ、456kHz中間周波数増幅、そして初段低周波増幅の3つのPNP型トランジスタのベースにつながれています。 つまり電圧が下がればトランジスタのベース電流が増えて、各段のゲインが上がる仕組み。 このVOLUME制御電圧は受信信号の強度には影響を受けません。

        1号機実機でVOLUMEコントロールラインのようすを調べてみます。 トランシーバを電源電圧DC12.8Vで動作させてVOLUMEポテンショメータ端子の電圧を測定してみると、
                VOLUME=   0% : 12V
                VOLUME=  50% :  8V (almost silent)
                VOLUME=  60% :  7V (adequate volume in a quiet room)
                VOLUME=  70% :  6V (too laud in a quiet room)
                VOLUME= 100% :  0V
                
    となっています。

        VOLUMEポテンショメータの片側はTX BUSにつながっていますが、 これは受信時に0Vポテンシャルとなるキーイング・バス。 TX BUSは送信時にはDC12Vになるので、送信時はVOLUME制御電圧も12Vになります。 これはVOLUMEつまみを0%に絞り切ったのと同じ。 この仕組みによって、 送信時は3つの受信用トランジスタがいずれもカットオフ状態になって音がしなくなります。 受信用高周波増幅段用PNPトランジスタのベースもTX BUSにつながっているので、 送信時はカットオフ状態になり受信動作を停止します。

    SB-34 Volume Control and AGC Concept

    AGC制御

        受信機の感度を制御するもうひとつの系統がAGCライン。 これはQ6 456kHz中間周波数増幅段トランジスタのエミッタに接続された抵抗R32とR36によって吊り上げられ、 電源電圧DC12.8Vで動作させたときに実測DC11Vになっています。 いま受信音が大きくなってスピーカ端の電圧が高まると、 抵抗R21によって、スピーカ電圧がAGC制御トランジスタQ3のベースに加わります。 トランジスタQ3 2N3642は汎用の小信号シリコンNPNトランジスタなので、ベースの電圧が約0.6Vを越えるとトランジスタがONし始め、 AGCラインの電圧を下げます。

        AGCラインはQ11 高周波増幅トランジスタとQ6 456kHz中間周波増幅トランジスタのエミッタにつながり、 受信信号が強力な時はこれらの電圧を落として増幅段のゲインを下げます。

        16年前に音量小さいトラブルの修理を終えてひとまず終了したその直前は、 AGC回路の動作を調査しようとしていました。 AGCトランジスタを取り外し、電圧測定しやすいようにラグ板に取り付けたトランジスタまで結んでいて、 今もその時のままにいます。 もし当時このページを書いていなかったらはたして何をやっていたのか思い出せなかったでしょう。

        Q3としてオリジナルの2N3642の代わりに手持ち在庫品の小信号NPNトランジスタを使ったままでAGC電圧を実機実測してみると、 スピーカ出力が小さい時は約11V。 この電圧は室内でふつうに聞く程度の音量では変化しません。 室内ではうるさいと感じられる程度の受信音のときにスピーカ電圧は1Vp-p程度で、 このときようやくAGCラインの電圧が11Vから下がり始めます。 つまり室内使用の場合は、うるさいと感じられるほどの音量にならないとAGCによる感度抑制は働かず、 よってほとんどの場合でAGCは効いていないのです。 なるほどこれじゃ頻繁なVOLUME調整が必要なわけだ。

    SB-34 IF Board - AGC Circuit and Vicinity

    コンベンショナライゼーションの試み

        SB-34はモービル用途を狙っていますから、 静かな室内ではなくて走行中の車室内での受信音量のときに最適な動作となるようにチューニングされているとして不思議ではありません。 でもいっぽうQST誌の広告では専用リニアを併用してのデスクトップ運用風景が掲載されているんだけどなあ。 ともかくVOLUMEコントロールによる受信機のゲイン制御・音量調整は具合よく動作しているのですが、 静かな室内で聞く音量ではAGCが全く動作していないという点は改善すべきですし、 「VOLUMEコントロールを上げていくにつれAGCが効かなくなる」という動作には価値を見いだせないので、 この挙動はやめさせたいところ。

        オーディオ段に普通のポテンショメータを入れて音量調整し、前段は基本的にフルゲインで動作させ、 信号レベルが高まったらゲインを下げるというコンベンショナルな構成に近づけてみようと思います。 信号レベルは中間周波段出力をAM検波して作ることになるかな。

        まずはAF GAINポテンショメータを仮配策で追加して動作を見てみます。 RX AF AMPとAF Driverの間はキャパシタでつながっているので、ここに入れます。 RF AM AMPのコレクタ抵抗は3.3kΩが使われているので、10kΩのポテンショメータではバイアスの狙いが狂うでしょうから、 東京コスモス製の新品100kΩを奢ります。 RX AF AMPとAF Driverをつなぐキャパシタは1998年の修理で交換したものですが、あれ、なんか極性が間違っていたなあ。

        さて追加したAF GAINポテンショメータで音量を下げ、VOLUMEコントロールを上げていくと、 強い局を受信すると前段がオーバーロードします。 これはAGCが効いていないので当然の成り行き。 でも別の問題にも気がつきました。 ほぼノイズしか聞こえない深夜の7.175MHz付近でVOLUMEコントロールを70%くらいまで上げると、 音が割れはじめ、数秒後に激しい連続ノイズになってしまいます。 これは7.200MHzより上にひしめく大陸の短波放送局の強力な信号がVFO MIXERの入力帯域内に入ってトランジスタQ8 2N2672が飽和状態になり (あるいは同等のことが発生し)、混変調をもたらしてしまっているためと思われます。 VOLUMEコントロールを50%程度にまで戻すとこのノイズは数秒して収まります。

        フロントパネルのチューニングつまみで回されるVFOバリコンは3連で、 1つのセクションはVFO発振回路のLC回路の共振周波数を変化させますが、 あとの2つのセクションはVFO MIXER上流(受信時において)の中間周波トランスT6の同調点を変化させ、 目的周波数にあわせて通過中心周波数を変化させるようになっています。 この工夫があるにもかかわらず、大陸からの強力な電波には敵わずにいるということでしょう。 さしずめこれは北京問題とでも呼ぶべきか。 あの国の人々はとにかく声が大きいですからね。

        しかしこれは厄介だな。 VOLUMEコントロールの上限値に制限をつけてしまうと、 帯域内に強力な信号がない21MHz帯の場合にも前段のゲインが上げられないということだし、 BFO MIXERの後の信号レベルでAGCを効かせる場合は北京問題を解決できません。
        この問題は要するに受信回路のダイナミックレンジが不足しているということで、 ごく初期のトランジスタ受信機の技術的限界だということなのかもしれません。 もしかしたらそれゆえ、本機の特殊なVOLUMEコントロール方式 --- 普通の信号を普通の音量で受信しているときは前段ゲインをかなり落とす --- が必要となったのかもしれません。
        VFO MIXERのダイナミックレンジを拡げるのが原理的な解決策ですが、 これはさすがに手に余ります。 VFO MIXER後の信号レベルをモニタして、オーバーロードしそうになったらRF HF MIXERのゲインを落とす補助AGCあるいはオーバーロードリミッタが必要なのだろうか。

        送信品質にじゅうぶん気を配っている7MHzの強力なラグチュー局を聞いてみると、 VOLUMEコントロール70%程度ではすでに復調音質が歪んでいることに気がつきます。 これもVOLUMEコントロールを50%程度にまで落とすと歪が消えます。

        コンベンショナル化するといっても本機の受信回路ゲインコントロールにはVOLUMEラインとAGCラインの2系統があるわけで、 この2つをどうバランスを取って制御するか…は結構なチャレンジと思います。 ともかくも次に試すべきは、現時点では全く動作していないAGCトランジスタを働からせてみることです。 オリジナルSB-34の動きに近くするのならAF GAINポテンショメータ上流、つまりRX AF AMPの出力から音声周波数信号を取り出して、 簡単なアンプを入れ、音声信号のレベルでAGCを動作させてみるようでしょう。 いっぽうよりコンベンショナルな動作に近づけるのであれば、456kHz出力をバッファアンプで取り出してから整流し、 キャリアレベルに比例した電圧を取り出すようでしょう。 どちらにしてもブレッドボードの出番かな。

    SB-34 IF Board - AF Driver and Vicinity


    つづく…


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    Sep. 16, 1998 Created.
    Nov. 22, 1998 Divided into multiple pages.
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    Sep. 14, 2001 Retouched.
    Jan. 31, 2015 Reformatted.
    Feb. 02, 2015 Updated. AGC&VOLUME circuit concept studied. [Noobow7300 @ L2]
    Feb. 04, 2015 Updated. [Noobow7300 @ L3]
    Feb. 21, 2015 Updated. An AF GAIN potentiometer is added externally to see the improvement possibility. [Noobow9100D @ L1]
    Feb. 22, 2015 Updated. [Noobow7300 @ L2]
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