Trio (Kenwood) TS-600
6m All Mode Transceiver |
毎朝の新聞配達でようやく
IC-502
を手に入れ開局にこぎつけた中学生にとって、
Trio TS-600は憧れでした。そのクールなスタイリングといい、ゴリッとしたダイヤルの操作感といい、
ゾクゾクするものがありました。
ひきつづき毎朝早起きして、さらに冬のガソリンスタンドで働いて得たお金は、 移動運用してみたいがためのスズキハスラー50に化けてしまい、 結局TS-600を手にすることはありませんでした。 現在ラボには6mでオールモード運用できる無線機がすでに2台あり、 あえていまさらTS-600を買う必要はないのですが、 このクールなスタイリングはなにしろ魅力です。 やっぱりこれで6mに出てみたいなあ。 30年経ってようやく入手したTS-600のシリアルナンバーは560097。 各コントロールの接触不良は見受けられるものの、電源をいれるとすぐに受信動作を開始し、 ベランダホイップで折りしも発生していたEスポ反射の北海道局が聞こえました。 欠品や顕著な痛みもなく、軽い清掃で現役復帰できそうです。 回路図つきオペレーション・マニュアルは mods.dk で手に入りました。 と、よく見ると、CALスイッチの配置が異なり、R-DXスイッチがついていません。 はて、海外仕向けでは仕様が異なるようです。 TS-600国内仕様でも途中でマイナーチェンジが入っている様子。 |
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調子がよさそうなので、送信機能を試してみます。
ダミーロードをつないでスタンバイ スイッチをSENDに切り替えると、
ガチガチガチとリレーが断続し、
すべてのパイロットランプもそれに合わせて点滅します。
電源回路がオーバーロードしているようです。
これはSSBを含むどのモードでも起きるし、ハンドマイクのPTTキー押下でも起きるし、
出力パワーつまみを絞っても発生します。 ようし、このくらいのトラブルがないとつまらないもんな、と鼻息が荒くなりましたが、 何のことはない、リアパネルのオプションVOXユニット接続コネクタ ジャンパープラグの接触不良。 挿し込み直したらTS-600は安定して送信しはじめました。 ON AIRインジケータもきちんと点灯しますし、 送信出力コントロールもガリなくスムースにパワーダウンできるし、 パワーダウン時はP.DOWNインジケータも正しく点灯します。 DRIVEつまみによる終段同調も問題なくスムースに動作しているようです。 SWR計(Diamond Antenna SX-200)とダミーロードで計測した出力電力読み値は右の通りです。 SWR計はSB-33のテストのために買った新品なので、精度はアマチュアレベルでなら信用していいと思います。 公称10W機ですが、元気いいですね。 これはTS-600として平均的なのでしょうか、それともひょっとして前オーナーによってスープアップされたのかな? |
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このTS-600には5つの固定チャネル ポジションが用意されており、水晶発振子を装着すれば固定周波数での運用が可能です。
水晶発振子が入っていないと、FIX.CHスイッチのランプが消灯する仕組みになっています。 本機ではFIX.CH スイッチを5つある固定チャネルのどれにしても、FIX.CHスイッチのランプは点灯したままです。 どうやら水晶発振子は全チャネル実装されているようです。 前のオーナーはどんな周波数を選んだのだろう? SWR計へのケーブルに周波数カウンタを軽くリンクさせ、 CWモードで送信させて周波数を計ってみました。 最初は出力周波数がオフバンドしていて不思議でしたが、 これはFIX.CHロータリースイッチの接触不良のためでした。 何度かまわしているうちに正しく50MHz帯で動作し始めました。 結果は右。 水晶による周波数は各バンドで使えますので、 たとえばCH.1は50.040、51.040、52.040、53.040MHzとして使うことができます。 51MHzではFM用として使えるでしょう。 TS-600が最新モデルだった頃、50.200MHzより上ではあまりトラフィックがなかったと記憶しています。 50.250より上に行くとTR-1300ユーザいじめなどと呼ばれたりしました。 |
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実際に音声入力を入れて変調の具合を見てみようと思ったら、
最初と同じく送信にするとリレーがガチガチいって全ランプが点滅する不具合が再発しました。
またダミーVOXプラグの接触不良かと思いましたが、何度抜き差ししてもダメ。
それにダミーVOXプラグの配線を見ると、全く送信リレーがONしないトラブルにはなりえますが、
リレーが断続することはありえなさそうです。
すると、どこか別のところに再発性のトラブルがあるということになります。 不具合の状況からすると内部12V系電源のオーバーロード。 送信すると12V系電源が電圧を維持できなくなって送信リレーが復帰し、 12V電源が回復すると再度送信リレーが吸引する、 を繰り返している様子です。 送信時にのみ動作して電力を消費する最大の候補は、送信用パワーアンプ。 そこで、ファイナル ユニット ボードへの12V電源を切り離してみることにします。 ボードへの12V系電源結線はラッピングで行われており、これを取り外し、 ドライブ入力のRCAプラグも外しました。 すると、スタンバイ スイッチをSENDポジションにしてもリレーの断続は発生せず、 安定して送信状態を維持しています。 ここで次の2つの可能性が考えられます。
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ファイナル ユニットの消費電力が過大になるとしたら、
どのような原因が考えられるでしょうか? ファイナル ユニットは、シングル構成のドライバ段と、 プッシュプル構成のファイナル段からなります。 これらのトランジスタのコレクタ電圧は12V系電源ラインからインダクタンスを介して供給されており、 エミッタは直接グラウンドされています。 したがって、トランジスタのショート故障(ONまま)が発生すれば即12V系電源の過電流となります。 しかしその場合、受信時であっても過電流となるはずなので、今回のトラブルとは一致しません。 送信時にのみ発生するということは、TXB電圧が印加されたときにのみ発生するということです。 TXB電圧は、ファイナル ユニットの中ではドライバ段とファイナル段のトランジスタのベース電流を供給することに使われます。 もしドライバあるいはファイナルのベース電圧がトランジスタがフルONとなるほど高くなれば、 結果として消費電力過大となるでしょう。 ファイナル ユニットから12V系電源を切り離したまま、 各段の送信時ベース電圧を測定してみます。 結果は右表。 あれ、推測していたような過度な電圧ではありません。 一歩戻って、ファイナル ユニットの実際の消費電流を計測してみます。 別の安定化電源装置を用意し、ファイナル ユニットの12V電源はこちらから供給するようにセットアップし、 ドライブ入力を接続して送信開始。 すると動作は安定していて、出力は10W出ているし、 消費電流は全く妥当な2A。 これは不具合が治ったのかなと思い本体電源で動作させると、相変わらずリレーがガチガチ。 ちょっとトラブル切り分けの手順が前後してしまいましたが、電源回路側の問題だったようです。 受信動作だけのときは出力は12.5Vで安定していますが、さらに2Aの負荷がかかるとオーバーロードしてしまうようです。 |
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本機各部に電力を供給する12V系電源は、本体上面 メーター奥に位置するパワーサプライ ユニット ボードにより生成されます。
このボードは9V系電源も生成しますが、回路的には12V系と9V系は独立しています。
12V系電源回路の出力にはオンボードの3Aヒューズがあります。
設計値は不明ですが、10W出力機ですから3A近くまでは安定給電できて当然のはずです。
ここでは次の2つの可能性を考えます。
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12V系電源回路は、トランジスタ4石を使ったシリーズ・パス フィードバック型のボルテージ レギュレータで、
そのうち2つのパワートランジスタ2SD235 (Q5/Q6) はパラレルに接続されて電流容量を稼いでいます。
ふうん・・・もしどちらかのトランジスタが不調になれば、電流容量は半分になるわな。
送信状態にすれば、ローパワー出力あるいはSSBの無変調状態でさえ装置の全電流は2Aを超えることがわかっているので、
電源回路の最大電流設計値が3Aだと仮定すると、その半分の1.5A容量では送信状態を維持できないでしょう。 Q5/Q6それぞれのエミッタ電流値を測定するため、エミッタ出力に入っている0.22Ωの抵抗の両端の電圧を測定してみます。 結果は右表。 0.22Ωの抵抗値が変化してしまっている可能性もありますが、 そうでないとすればフロントパネルよりのトランジスタ、Q5のエミッタ電流値が、 Q6のそれに比べ1/4程度しかありません。 一方で、2日前は安定して送信状態を保てていたのですから、 トランジスタの劣化故障というよりも、この部分に接触不良や半田クラックなどがある、 と仮定するほうが自然でしょう。 なにしろこれらはパワートランジスタ、熱負荷の大きいところです。 そこでパワーサプライ ユニットをシャーシから外して、 基板下面の半田付けを目視しましたが、 基板表面は新品同様のきれいな状態で、 クラックなどは見つけられません。 再度ユニットをシャーシに戻し、 基板上面の埃をブラッシングしながら目視しましたが、 焼けたり破損したりしている部品も見つかりません。 もういちど各部の電圧をデジボルとオシロスコープで見ながら調べると、 おおっ、2つのパワートランジスタで放熱フィンにかかっている電圧が明らかに違う! 奥側トランジスタのフィンには、入力電圧17.6Vがかかっていますが、 手前側トランジスタQ5のフィンは出力電圧と同じ12.6Vです。 フィンはトランジスタ内部で3本の中央のコレクタ端子と接続されているはずで、 コレクタ端子にはしっかり17.6Vが来ています。 ということは、トランジスタQ5の内部故障に間違いがありません。 見つけたぞ!! と思いきや・・・ この直後、Q5フィンの電圧が17.6Vになり、送信を試すと安定してフルパワーが出るようになりました。 どうやらコレクタ端子の電圧を測定するためにICクリップを接続したとき、コレクタ リードに力が入り、 接触不良が治ったのではないかと思われます。 再度パワー サプライ ユニットの基板下面の半田付けをじっくり見ると、 半田クラックと思われる様子が確認できました。 これこそ本物!! 半田こてに火を入れ、Q5とQ6のすべてのピンの接続部にフレッシュな半田を盛りました。 原因がわかれば、わずか一瞬の半田付けで修理は完了です。 TS-600は再び、安定してダミーロードに10Wを供給できるようになりました。 パワーサプライ ユニットにはもうひとつ2SD235Yがあり、 こちらは9V系電源のシリーズ ドロップ用パワートランジスタです。 構造上ここも同じ現象が起こりえますが、9V系の消費電力は12V系に比べて小さいと思われるので、 おそらく熱負荷も小さいでしょう。 こちらには手を入れずにおきます。 |
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RF POWERの内部トリマを調整し、パワーを0.1W以下まで絞れるようにしました。 ダミーロードをつかってミニマムパワーからフルパワーまで連続送信テストを行いました。 結果は各バンド・各モードとも良好な変調で、動作も安定しています。 後はフロントパネルとパネルトリムを軽くクリーニングすればパーフェクトでしょう。 移動運用にも使えるよう、もうひとつ電源コネクタをさがしておくことにします。 |
久しぶりに電源を入れてみると、PTTを押しても送信しないことがあり、再発したかと焦りました。
いちばんありそうなシナリオは、ハンドマイクのコネクタ付近でマイクケーブルが内部断線してしまうこと。
が、オバQマイクはTS-820では正常に動作します。
いろいろいじってみると、SQUELCHノブと一体になっているCAL ONスイッチをON-OFFすると直ります。 CAL ONスイッチは内蔵クリスタルキャリブレータを作動させるスイッチですが、 これをONポジションにすると送信リレーコイルの回路が切り離され、送信できないように工夫されています。 おそらくこのスイッチがキャリブレータOFFのポジションでもうまく導通しなかったのでしょう。 |
TS-600背面のKEYジャックには、約11Vのキー電圧が出ています。
高インピーダンスなのでアナログテスタで読むと約3V。
端子間を指で触る程度でサイドトーンが鳴り出します。
サイドトーン音量はトリマで調整可能ですが、周波数は固定。
実際に打ってみると、サイドトーンがあまりにも安っぽくてチャーピーなのでびっくりしました。
そういえば入手当初はCWのテストはしていなかったなあ。
送信信号そのものは普通にキーイングできているようで、
トランジスタ1石でできているサイドトーン発振回路の問題。
そのうちなにか手を打ちたいです。 TS-600は背面にオプションのVOXユニットを取り付けられるようになっています。 私の個体にはVOXユニットはないので、 CW送信の際には手動でスタンバイスイッチを操作しなくてはなりません。 せめてセミブレークインくらいできるように、外付け回路を自作してみたいなあ。 |