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インターネットの発展が遠い地球の裏の人とのコミュニケーションを当たり前のものに変えてしまった今、
遠くの人と話ができるということ自体はなんらの目新しさもないし、
人々は新製品を安く買うことにだけ気を払うのみで、どうして電子メールが相手に届くのかを不思議がることもなくなってしまいました。
し、もし不思議に思っていろいろな機械を分解したとしても、そこにはたいてい黒くて薄い樹脂があるだけではなにか神秘的な魅力を感じることもないでしょう。
しかし携帯電話の普及とともに迷惑な連中が去ってV/UHFは閑散としてきたものの、
HFは相変わらずの混雑だし、アマチュア無線家の活動は予想されたほどには衰えているふうではありません。
となると、電話代を浮かすためでもなく、お金をもうけられるわけでもなく、
ましてやいい女を引っ掛けられるわけでもなく、
いったいぜんたいアマチュア無線家はなにが楽しくて無線機に向かっているのだろう?
一日中「ミチノエキー、ゴトキュウー、ドウゾーイ!」と叫び続けるお年寄りがいるのはどうして?
激しい船酔いに苦しみながら凍てつく極地の岩場を目指す人がいるのはなぜ?
性能的にも機能的にも使い物にならない錆びた機械を真剣に磨きはじめる人がいるのはどうして?
この本はアマチュア無線と呼ばれる独特な世界と、それを構成している人々の文化を捉え、記述しているもの。
アマチュア無線の歴史を技術開発史という視点から書いた本は何冊もありますが、
このソサエティを支えている構成員の心や考え方あるいはライフスタイルを文化という視点から書いた本はほとんどなかったのではないかと思います。
表紙は1950年代の雰囲気のあるデザインですが、内容は2007年発行の最新刊。
アマチュア無線のソサエティにはたしかに自我を持った集団意識があるし、
私自身は子供のころからそのソサエティの一員であるという意識を無意識のうちに持っています。
それゆえ私はこの本を読んでも「うん、そうだよね」で終わってしまうかも。
いっぽうこんな世界には興味すらない人々はこの本は読まないだろうし。
するとこの本は、いったい誰が誰のために書いたのだろう?
この本の発行元はMIT、著者はハーバードで科学史の博士号、技術史学会から表彰もされている・・・
となれば、なるほど、今日の電子技術の発展のいたるところにアマチュア無線家でもある人々の活躍と功績があることが認知されていて、
そして近代技術発展の歴史の一分野としてアマチュア無線家の文化が研究対象となっているのだ・・・と理解できます。
この著者・研究者が美しい女性、というのもなおさらびっくり。
そう、ハムの皆さん、我々は学問の研究の対象でもあるのです。
今後アマチュア無線界がより誇れるものになるために、
そして願わくば平和で豊かな世界を築く一助となるべく、
アマチュアの誇りと自負を持って最大限有意義に活動したいものです。
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