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Second Radio Annual Popular Science Publishing Co., Inc 1943
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この本はアメリカの大衆科学雑誌ポピュラー サイエンスに掲載されたラジオ組み立て記事をまとめたもので、"Radio Annual"の名が示すとおり年に一冊刊行された(するつもりだった?)ものです。 発行時期も Radio for the Millions と同じ1943年で、この第2版は終戦直前の1945年5月の印刷。小ぶりな製本で、使われている紙も薄いものです。 全92ページにのべ38種類(表紙には35種類と書かれているのに・・・・)のさまざまな楽しく便利なラジオの製作記事が収められています。 ラジオ修理メモ的なコラムもあります。 実はこの本の内容はRadio for the Millionsの後半と同一なので、Radio for the MillionsはRadio Annualの2年分を一挙収録したバージョン、と見るのが正しいようです。 製作するセットの多くは簡単に作ることのできる1球もしくは2球のもので、回路構成はストレートまたは再生式がほとんど。
使われている真空管はオクタルのST、GT、メタル管や電池管、さらにはエーコン管などさまざまです。
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本書は初心者向けのラジオやアンプ組み立て記事集なので5球以上の複雑なものはほとんどありませんが、おそらく中・上級者向けのものとして6球スーパーヘテロダインの通信型短波受信機の記事があります (Radio for the Millionsにも掲載されています)。 そこで、この記事を以下に示しました。日本語訳は意訳部分もありますのであまりつっこまないで下さいね。
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この受信機の回路構成は今見れば典型的なBFOつき5球スーパーヘテロダインです。が、記事中にもあるようにペンタグリッド コンバータの利用と、複合管を使った検波・低周波増幅段は当時は目新しかったのでしょう。 性能的には、ハリクラフターズ スカイバディなどのメーカー製入門者向けモデルと同等だったはずです。
短波受信機を自作するうえでもっとも難しい部分はやはり高周波コイルですが、この製作記事では市販のオールウェーブ コイル キットを使用しています。ただし記事中にはそのメーカー名や型番などは記載されていません。 このコイル キットはアンテナ コイルとオシレータ コイルの2本からなり、コイルには調整のためのスラグ等はありません。 また回路図からするとアンテナ コイル側にはトリマ キャパシタがあるようで、写真ではシャーシ上面のバリコンの近くに4つのトリマが見えます。 自分の家で誰でも簡単に作れる、といっても、シグナル ジェネレータなしに調整を行ってベストな状態を出すのはかなりたいへんだっただろうと思われます。
周波数変換はペンタグリッド コンバータ第1世代の6A8です。1930年代の受信機に使われましたが、短波帯での動作にはまだ不安定な面もあったようです。 中間周波増幅管6K7、検波・低周波増幅の6Q7といずれも管頂にグリッド キャップをもつ世代で、1935年から1938年の管です。1938年からは管頂にグリッド キャップをもたないシングル エンド管が発売され、以降主流はこれらシングルエンド管の6SA7/6SK7/6SQ7のラインアップになります。 このことから、この製作記事は1930年代終わりごろに書かれたものかもしれません。 あるいは、あえて一世代前の値段が下がった真空管を使ったのかもしれませんが。 中間周波トランスはキャパシタ調整型が使われています。
BFOの説明に、モールス信号を受信するためのものとは書かれていないのが興味深いところです。戦時中ゆえにあえて書かなかったのか・・・・。記事中にはピッチ コントロールつき、とありますが、実機の写真ではピッチコントロールはフロントパネルには出ていないようです。
いずれにせよこの受信機は部品個々の性能向上による差こそあれ、基本構成は戦前の人気モデル ハリクラフターズ スカイバディ、戦時中に唯一市販されつづけた短波受信機エコーフォンEC-1やその後継EC-1A/B、戦後リニューアルされたハリクラフターズS-38シリーズ、さらには1960年代の日本製コピーモデル デリカCS-7などとほぼ変わりません。 ロングワイヤーアンテナさえ屋外に張れば、実際に世界各地の短波放送を良好に受信できたでしょう。 おそらく多くの人が戦時中にこの短波受信機を作り、不安な気持ちでダイヤルを回していたのではないでしょうか。
この本には当時が第2次世界大戦の真っ只中であったことをうかがわせるような文章や写真はほとんどなく、かえって不思議な気がします。 浜辺でビーチパラソルを広げポータブルラジオを聞いているイラストや、アベックがヘッドフォンを2つもつポータブル機で中継放送を聞きながらフットボールの試合を観戦している写真などにはとても戦時中の雰囲気はありません。 が、はやく安心してそういった生活を楽しみたい、という願いであったのかも知れません。