短波を利用すれば、手作りの小さな機械で地球の裏側の人とも交信できる・・・・興奮しないはずがありません。 1920年代後半、多くの人がこの興奮を求めて毎晩ハンドドリルや半田こてをにぎりました。 回路は再生検波と低周波2段の3球式。それでもコンディションがよければ世界中を聞くことができたのです。 1932年から1933年にかけ、まるで誰かがモノリスに触れたかのように爆発的な技術革新が起こります。 スーパーヘテロダイン方式による感度と選択度の飛躍的向上、AGC、BFO、 クリスタル フィルタ、バンド切替機構、シャーシとシールドボックスによる高周波特性の改善、 スピーカを大音量で駆動する出力回路、電灯線電力を利用した電源回路と、なによりも高性能な真空管の登場。 そして、いよいよ出現し、急速に普及し始めたメーカー製通信型受信機。 Lindsay Publications によるこの本は、1929年と1934年のARRL Radio Amateur's Handbookから受信機に関するページを抜粋したリプリントです。 小ぶりなサイズで、オリジナルのページ番号しか印刷されていないので全ページ数は不明(数えるのが面倒・・・・) ですが約90ページあります。1929年と1934年でわずか5年間しか離れていないというのに、技術革新の前後の違いはまさに驚異。 |
1929年の記事では2球式が1例、3球式が2例、そして4球式が1例掲載されています。
ここに示したのは3球式の2例目、再生検波ピークド アンプリファイア式受信機です。
135V、 67.5V、 45Vの3種類のB電池と、フィラメント点火用の6V電池で動作し、ハイインピーダンス ヘッドフォンで受信します。
真空管構成
V1 : UX-201-A 再生検波 V2 : UX-222 低周波増幅 V3 : UX-201-A 低周波出力 |
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組み立て構造はシャーシ方式ではなく、厚手の木の板の上に部品を並べてその間を直線と直角できれいに電線で結んだ、
いわゆるブレッドボード スタイル。
1920年代ならではの、工芸的に非常に美しい、だけれど高周波性能はあまり考慮されていない技法です。 受信周波数帯は 1.715MHz帯、3.5MHz帯、7MHz帯、14MHz帯そして28MHz帯。 バンド切替えはプラグインコイル方式。真空管と同じソケットを持つコイルを各バンド用に複数用意しておき、差し替えて使います。 再生の強さは、再生検波管UX-201-Aのプレートに挿入された可変抵抗器で調整します(左側のつまみ)。 右側のつまみはフィラメント電流を調整するためのレオスタット。 本機にはいわゆるボリュームコントロールはありません。 この受信機の最大の特徴は、初段低周波増幅にピークド アンプリファイアを用いていることです。 UX-222 スクリーン グリッド管のプレートに入っているコイルL3は"フォード コイル" と呼ばれる部品。 はて、フォード コイルとは初耳です。 実はこれ、フォード製自動車のイグニションコイルを分解して2次側巻線だけにしたものなのです。 このコイルに並列に0.01μFのコンデンサが入っていて共振回路を形成しており、 これによって低周波増幅段は1000Hz付近に強いピークをもつ特性になります。これにより通常の再生検波式をしのぐ優れた選択度を得ています。 一方この特性により、この受信機は電話つまりAM音声の受信には向かず、電信専用となっています。 |
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面白いのは同調用バリコンの工夫です。
この受信機のバリコンは周波数直線型で、ステータとロータを各1枚残して他は抜いてありますが、
ロータはバリコンのシャフトに金属カラーとセットスクリューを用いて固定されています。
このセットスクリューを緩めることにより、ロータとステータの間隔を調整できるのです。
これによって、各バンドにおいてチューニング ダイヤルがそのアマチュアバンド全域をうまくカバーするよう調整できるのです。 各バンド用にちょうどいい間隔が見つかったら、 バリコン シャフトにドリルの刃先でセットスクリューの先端を迎えるための小さな円錐穴を開けておきます。 こうしておけば、バンド切替の際のバリコン間隔の再調整も容易になります。 記事には、「この工夫によりバンドの切替はたいへんすばやく行えます」と書かれています。 が、電池を切り離し(プラグインコイルのティクラー巻線には最大45Vかかっています)、 プラグインコイルを差し替え、セットスクリューをゆるめてバリコンのロータ位置を変えてネジを締めなおして電池をふたたびつなぐ・・・。 いま製作者にバンド スタッキング レジスタの使い方を教えたら、感涙にむせぶでしょうか、 それとも至福のひとときが奪われたとして憤慨するでしょうか・・・・。 |