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Those Great Old Handbook Receivers

Techniques of Early Vaccum Tube Shortwave Receiver Construction
Chapters from the 1929 and 1934 ARRL Radio Amateur's Handbook
Lindsay Publications Inc.
ISBN 1-55918-171-0 (1996)

爆発的な技術革新

Those Great Old Handbook Receivers
    短波を利用すれば、手作りの小さな機械で地球の裏側の人とも交信できる・・・・興奮しないはずがありません。 1920年代後半、多くの人がこの興奮を求めて毎晩ハンドドリルや半田こてをにぎりました。 回路は再生検波と低周波2段の3球式。それでもコンディションがよければ世界中を聞くことができたのです。
    1932年から1933年にかけ、まるで誰かがモノリスに触れたかのように爆発的な技術革新が起こります。 スーパーヘテロダイン方式による感度と選択度の飛躍的向上、AGC、BFO、 クリスタル フィルタ、バンド切替機構、シャーシとシールドボックスによる高周波特性の改善、 スピーカを大音量で駆動する出力回路、電灯線電力を利用した電源回路と、なによりも高性能な真空管の登場。 そして、いよいよ出現し、急速に普及し始めたメーカー製通信型受信機。

    Lindsay Publications によるこの本は、1929年と1934年のARRL Radio Amateur's Handbookから受信機に関するページを抜粋したリプリントです。 小ぶりなサイズで、オリジナルのページ番号しか印刷されていないので全ページ数は不明(数えるのが面倒・・・・) ですが約90ページあります。1929年と1934年でわずか5年間しか離れていないというのに、技術革新の前後の違いはまさに驚異。
1929年 3球式受信機

    1929年の記事では2球式が1例、3球式が2例、そして4球式が1例掲載されています。 ここに示したのは3球式の2例目、再生検波ピークド アンプリファイア式受信機です。 135V、 67.5V、 45Vの3種類のB電池と、フィラメント点火用の6V電池で動作し、ハイインピーダンス ヘッドフォンで受信します。

真空管構成

V1 : UX-201-A 再生検波
V2 : UX-222 低周波増幅
V3 : UX-201-A 低周波出力

3tube receiver circuit
    組み立て構造はシャーシ方式ではなく、厚手の木の板の上に部品を並べてその間を直線と直角できれいに電線で結んだ、 いわゆるブレッドボード スタイル。 1920年代ならではの、工芸的に非常に美しい、だけれど高周波性能はあまり考慮されていない技法です。

    受信周波数帯は 1.715MHz帯、3.5MHz帯、7MHz帯、14MHz帯そして28MHz帯。 バンド切替えはプラグインコイル方式。真空管と同じソケットを持つコイルを各バンド用に複数用意しておき、差し替えて使います。
    再生の強さは、再生検波管UX-201-Aのプレートに挿入された可変抵抗器で調整します(左側のつまみ)。 右側のつまみはフィラメント電流を調整するためのレオスタット。 本機にはいわゆるボリュームコントロールはありません。
    この受信機の最大の特徴は、初段低周波増幅にピークド アンプリファイアを用いていることです。 UX-222 スクリーン グリッド管のプレートに入っているコイルL3は"フォード コイル" と呼ばれる部品。 はて、フォード コイルとは初耳です。 実はこれ、フォード製自動車のイグニションコイルを分解して2次側巻線だけにしたものなのです。 このコイルに並列に0.01μFのコンデンサが入っていて共振回路を形成しており、 これによって低周波増幅段は1000Hz付近に強いピークをもつ特性になります。これにより通常の再生検波式をしのぐ優れた選択度を得ています。 一方この特性により、この受信機は電話つまりAM音声の受信には向かず、電信専用となっています。
1929 3tubes receiver
    面白いのは同調用バリコンの工夫です。 この受信機のバリコンは周波数直線型で、ステータとロータを各1枚残して他は抜いてありますが、 ロータはバリコンのシャフトに金属カラーとセットスクリューを用いて固定されています。 このセットスクリューを緩めることにより、ロータとステータの間隔を調整できるのです。 これによって、各バンドにおいてチューニング ダイヤルがそのアマチュアバンド全域をうまくカバーするよう調整できるのです。

    各バンド用にちょうどいい間隔が見つかったら、 バリコン シャフトにドリルの刃先でセットスクリューの先端を迎えるための小さな円錐穴を開けておきます。 こうしておけば、バンド切替の際のバリコン間隔の再調整も容易になります。 記事には、「この工夫によりバンドの切替はたいへんすばやく行えます」と書かれています。 が、電池を切り離し(プラグインコイルのティクラー巻線には最大45Vかかっています)、 プラグインコイルを差し替え、セットスクリューをゆるめてバリコンのロータ位置を変えてネジを締めなおして電池をふたたびつなぐ・・・。 いま製作者にバンド スタッキング レジスタの使い方を教えたら、感涙にむせぶでしょうか、 それとも至福のひとときが奪われたとして憤慨するでしょうか・・・・。
Sliding Tuning Capacitor

    1929年の受信機のもう一例、4球式受信機は、上記の3球式にUX-222による高周波増幅段を追加したもの。 ただしアンテナ回路は非同調で、UX-222のコントロールグリッドに単純に直結しています。 操作が煩雑になるのを嫌った設計ですが、高周波増幅回路の利点の一つが生かされていません。 ギャングバリコンによるシングルノブ操作はアマチュアにとってまだ現実的ではありませんでした。
    バリコンはしたがって1つしかないものの、 この受信機では3球式の間隔調整機構つきバリコンに代わってなんとプラグイン バリコンが用いられています。 各バンドに最適となるよう羽の数を変えたミゼット バリコンにはバナナ プラグ型の端子が2個ついており、 プラグイン コイルとともに簡単に交換することができます。が、シャフトはやはりセットスクリューを締めなおさなくてはなりません。
    初段低周波増幅はやはりフォード コイルを用いたピークド アンプです。 高周波段の追加によって感度が向上しているので、フォード コイルを通常の段間トランスに換えればAM電話用として使えます、とあります。 またピークド アンプの特性をさらに鋭くすれば選択度が向上するけれども、 送信周波数の ドリフトにつれ聞こえなくなってしまうので不都合です、と書かれています。 それでも選択度を上げたい人のために、直流抵抗値の大きなフォード コイルの代わりに用意するコイルの巻きかたが掲載されています。

1934年

    1934年のアーティクルには、2球および3球の再生式受信機、そして5球のスーパーヘテロダインが掲載されています。 入門機はやはり再生式ですが、「いまや高周波増幅回路のない受信機を使用するアマチュアは稀である」とあり、 ハマーランド製ミゼットバリコンを2連ギャングにして使っています。 が、それぞれの同調回路にはバンドセット用のバリコンがあり、ギャング バリコンはバンドスプレッド的に用います。 バンド切替え時には高周波段と検波段のそれぞれのプラグイン コイルを交換し、バンドセット用バリコンを調整しなおすことになります。 したがって、バンド切替えの手間は相変わらず大きなものです。
    ただし同じ再生式といっても、傍熱型5極管の採用、同調点がずれにくい安定な再生回路、単一のB電源での動作、 RFゲイン コントロール、アルミシャーシの採用、高周波段と検波段をそれぞれアルミシールドケースで囲った配慮など、 1929年式に対して大きな改善が見られます。電源は別体式。

    さらにつづく5球式は、上記の3球高一式のシャーシに別シャーシを継ぎ足してスーパーヘテロダインに改造するプロジェクト。 ギャング バリコンを含む同調メカニズムは3球式と同じですが、高周波増幅段は第1検波(いまでいうミキサ)、 再生検波段は局部発振回路に変更されています。 背面に継ぎ足されたシャーシ上には再生式中間周波増幅段とBFO。 中間周波トランスはハマーランド製バリコンと市販コイルを手作りの銅板製ケースに組み込んだもので、 入力側のトランスには再生用ティクラーコイルが設けられています。 再生用可変抵抗器とBFOピッチバリコンは、フロントパネルから調整できるよう長いシャフトで回されます。 1929年の頃と異なり、回路図にはアースの取りかたがいろいろ指示されています。
    この5球スーパーにはクリスタル フィルタやAGCはなく、それらの例は続くメーカー製モデルの紹介で取り上げられています。

    「いまや多くのアマチュアが自作ではなくメーカー製スーパーヘテロダインを買うようになってきているので、以降にそれらの例を紹介します・・・・」 1932年頃の技術革新でスーパーヘテロダイン化が急速に進み、競争力のある受信機は簡単に自作できなくなってきていることがわかります。 で、取り上げられている最初のモデルはナショナルFB7A。アマチュア向けに低価格を狙った7球、高周波増幅なし・中間周波増幅2段構成で、AGCはついていません。 二つ目はハマーランド コメット プロ。 増幅型AGCとクリスタル フィルタを持ち、電源回路を内蔵した9球。 最後は再びナショナル、AGSXの登場です。 外部電源による9球式は厳重にシールドされたコンポーネントをもち、増幅型AGCと選択度可変のクリスタル フィルタを持つ高一中二。 1960年代のトリオ9R-59と変わらない、あるいは上回っている構成です。

5年間の技術革新

    1934年に紹介されている受信機は高性能を発揮したとはいえ、バンド切替えはプラグインコイル式でダイヤルからは周波数が読み取れず、 Sメータがないなど使い勝手には不満が残っていました。 しかしこれらも1934年から1937年頃までにかけてハマーランド スーパープロSP-10、ハリクラフターズSX-16スーパースカイライダー、 ナショナルHROなどが出揃い(ナショナルは古典的なプラグインコイルとバーニアダイヤルに固執しましたが)、 近代的な通信型受信機の骨格が完成します。 1929年と1934年の間の5年間が、かくも受信機技術の革新期にあったことがこの本からよくわかります。
    同じような規模の技術革新がその60年後、1989年から1994年に起こったといっていいと思います。 それはパーソナル コンピュータの急激な進歩。 スタンドアロン・シングルタスクのキャラクタ・インターフェイスから、ネットワークで接続されたマルチタスクのグラフィカル・インターフェイスへの進化。 今から60年後には、どのような急激な技術革新が起こるのでしょうね?


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Aug. 31, 2001 Created.
Aug. 17, 2002 Reformatted.
Dec. 26, 2004 Reformatted.