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飛行機は実に安全な乗り物です。 飛行機の旅の最大の危険は、実は空港までの行き帰りに車に乗らねばならないことだと良く言われます。 フライトの安全のために人類はしかし、数多くの犠牲を払ってきました。 ジェット時代の幕開けからジャンボ機の時代、そして現在のハイテク機の登場の間に、時として予期せぬ事故が起こってきました。 それらの事実を徹底的に分析し、教訓にし、より安全なものにするための改善の積み重ねこそが今日の楽しい空の旅を約束してくれているのです。 |
各章につけられているタイトルには、クルーのコクピットでの会話や航空管制官との通信の中からの言葉が選ばれてつけられています。 これだけでも緊迫した様子が伝わってきます。 下手ながら私が日本語訳した第2巻の各章のタイトルを以下に示しましょう。
1. 「エンジンが2機とも停止した!」
2. 「もうあのセスナはやり過ごしたよなあ?」
3. 「メイデイ! 空港まで届かない!」
4. 「アメリカン191便、ここに戻るか?」
5. 「いやだなあ、こういうの・・・。」
6. 「落ちるぞ、ラリー!」
7. 「信じるもんか・・・エンジン4機が全部止まっちまうなんて!」
8. 「しっかりしろ・・・高度が下がっていくぞ!」
9. 「すみませんが・・・トイレが火事です!」
10. 「JAL123便、操縦不能!」
11. 「アロハ243便、貴機はまだ飛んでいるのか?」
12. 「着陸の衝撃に備えよ!」
13. 「なんでもいいから、当機を市街地に近づけないようにしてくれ!」
14. 「逆噴射装置が作動した!」
各章は事故発生までの状況の物語り風記述で始まります。 コクピット・ボイス・レコーダや生存者の証言が得られた事故の場合は描写はより詳細です。 後半は救助活動と原因調査、解析の結果そしてその後に反映されるべき課題や対策など。 文章は平易で、かつ明確に書かれているためたいへん読みやすいものです。同型機や飛行場、事故の現場あるいは場合によっては墜落直前の目撃写真など、モノ クロながら多くの写真が掲載されており、また緻密なペンタッチの専任イラストレータによってフライト・パスや最後の瞬間の想像図などが描かれており、きわ めてビジュアルです。 事故の原因が機体故障にある場合は関連する図面や写真などもあり、技術的にもかなり詳細に解説されています。 飛行機の知識がほとんどない人でも読めるよう工夫されてはいますが、スティック・シェーカーやVORなどの言葉を既に知っていれば理解は一層深まります。 こうした著者らの努力により、この本は単なる事故調査委員会の報告書の書き直しの域をはるかに越えたドラマになっています。 第3巻が刊行されればぜひ読みたいと思いますが、続編が刊行されないことこそが著者らの真の願いなのでしょう。