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Hallicrafters S-41G "SkyRider Jr."

Shortwave Communications Receiver
(1946)



スカイライダー・ジュニア

    性能的に大したことがない低価格モデルを発売してしまうと、 高性能受信機で名高いハリクラフターズのブランドイメージを壊しかねない・・・・ 大衆・入門者向けの安価な6球スーパーに、ハリクラフターズは自社ブランドを一切入れず、 エコーフォンEC-1 として発売しました。

    実際ユーザーはそれがハリクラフターズの設計であり、 ハリクラフターズの生産ラインで作られていることを知っていました。 だから戦争が終わって エコーフォンEC-1A が発売されると、 子供たちが一生懸命貯めたお金でなんとか買うことのできたエコーフォンは結構な数が売れたのです。

    実際エコーフォンEC-1Aは予想以上に高性能を発揮しましたが、 しかし多くの子供はハリクラフターズの名前に憧れていました。 それに応えて、ハリクラフターズはエコーフォンEC-1Bの塗色を変え、 ハリクラフターズS-41として再デビューさせたのです。 しかも憧れの名前、"スカイライダー"を冠して。

    S-41スカイライダー・ジュニアには、 写真にあるグレイとワインレッドのツートンカラーのGモデルと、ホワイトのWモデルがありました。 S-41Wはつまみの形がエコーフォンあるいはS-41Gとは異なっており、 生産量も少なく、現在ではコレクターズ・アイテムとなっています。

    もうひとつ面白いのはその型番です。 ハリクラフターズの受信機はS-またはSX-につづく数字がほぼ開発の一連番号になっていますが、 エントリー機の大ヒットモデル S-38 シリーズが発表されたのはS-41の後のことなのです。 S-38の開発がスタートしていたもののその発売までの間をつなぐモデルとして、 エコーフォンEC-1Bのフェイスリフトモデルで繋ごう・・・ と急遽企画されたとかそういう話なのでしょうか。






軽整備だけで行けそう

    ラボのS-41Gはご覧の通り汚れはあるものの、総じて程度は良好です。欠品もなく、内部も埃のみ。

    受信機はただちに動作を開始しました。 時おり単発的なノイズが出るのでキャパシタの劣化はやはりありますので点検は必要です。 が、感度・選択度・音量は50年間メインテナンスが入っていない機械とは思えないほど良好です。 さらにびっくりしたのは、短波受信時の周波数安定性が予想以上に良いことです。1時間以上も安定してVOAを聞くことができました (もっとも選択度がブロードだからだ、という説もありますが) 。

    したがってこのラジオは軽整備程度で十分、ということになります。 フロントパネルに付着した白い塗料をいかに上手に取り除くか、これはチャレンジですね。

    あれ、シャーシに空いているスライドスイッチ用の穴は何だろう。EC-1Aにはこの穴はありませんが、EC-1Bにはあります。さて? こうなると初期型S-38を調べたくなります・・・。

2001-09-14 動作確認







(ここで23年間のブランク)


全然元気ないよ

    長きにわたった CRV-1/HB Reincarnation 2 の作業を一段落させ、 スチールラックに乗せて、 さて、次はこれを整備しよう。 軽整備だけで大丈夫なはずの、スカイライダー・ジュニア。 最後に通電してから23年近くの時間が経ってしまいました。

2024-02-12 整備開始





    フロントパネルのダイヤルグラス (透明プラスチック製) はややくすんできているので作り替えも考えましたが、 本機は外装も軽く清掃するにとどめ、 また内部もヘンにいじらず、 なるべくオリジナル状態を維持する方針にしましょう。

    リアパネルはご覧の通りのボール紙製です。





    まずはメインテナンス前の状態を見ておこうと思いましたが、 あれあれ、電源コードが酷いことになっている。 これは即使用禁止ですね。 まずは電源コードを交換しないと。





    内部は修理改造の形跡はありません。 電源平滑キャパシタの交換は必要でしょうね。 電源コードを新品在庫品 (ただし1970年代のもの) に交換しました。 今回は日本仕のACコードなので極性がぱっと見にはわかりません。 ちょっと望ましくないなあ。 そうはいっても日本製のトランスレスラジオと同じなわけですけれどね。

    電源を入れてみると、 予想に反して性能はおおきく劣化していました。

  • 音量かなり小さい
  • バンド1 (中波帯) は感度非常に悪いが動作している
  • バンド2 (2〜8MHz) はダイヤル低い側で感度悪いが動作している
  • バンド3 (8〜30MHz) は完全に無感 - 局部発振器が発振していない
  • 電源ハムは少ない

  • 2024-02-12 電源投入 初期チェック 調子よくない






    B電圧が出ていない!

        音量が小さいのはもう原因は明白だよ。 音声出力管35L6GTのカソードバイパスの電解キャパシタの配線を切り離し、 10μFの新品電解キャパシタを取り付けました。 しかし音量は変わりません。 あれえ?

        ボリュームコントロールに音声信号を注入してテストしてみましたが、 音量はとても小さいです。 出力管のプレートバイパスもグリッドカップリングもリークしていませんし、 グリッドリークもカソード抵抗も10%ほどの抵抗値変化はあるものの音量が下がるような異常ではありません。

        これは初段低周波増幅管12SQ7GTのプレートバイパスキャパシタのリークでプレート電圧が落ちいているかな? マルチメータで電圧を見てみると、案の定プレート電圧はとても低くなっています。 しかしプレートバイパスを切り離してもプレート電圧は低いまま。





        さらに調べると、B電圧がたったの14Vしか出ていません。 これはやばい、どこかのキャパシタのリークでB電圧が落ちているんだ。 発火発煙の危険があるぞ。 しかししばらく動作させていても焦げ臭いにおいがするわけでもないし、 どれかの部品が異常発熱しているようすもありません。

        当然電源平滑キャパシタのリークが考えられますが、 平滑キャパシタを新品に暫定交換しても状況変わらず。 それに、B電源回路から負荷を切り離してみても電圧は低いまま。 なんと、整流管35Z5のカソードの電圧がそもそもちっとも上がっていないのです。 35Z5GTのヒータはきちんと点火しているのに、内部抵抗がとても高くなっていて、 プレート電流がちっとも流れないのです。

        そんなことってあるのだろうかと思いながら35Z5GTを在庫の中古管に交換してみたら・・・ B電圧が95V出ました!!

        切り離した配線を復旧すると、 S-41Gは大きな音で外部入力のテスト信号を鳴らし始めました。



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        35Z5GTの交換で、受信回路全段も動作を開始しました。 受信動作は良好。 バンド3も正常に動作し、 1946年2月発売の78年前のボーイズ・ラジオとは思えない良好さで 9.940MHz ラジオタイランドも聞こえています。

        でもねえ、ヒータが正常に点火しているのにプレート電流が少ししか流れだないだなんてどういう理屈なんだろうねえ。 カソード劣化によるエミッション低下というのが普通の回答なのでしょうけれど、 トランスレス機で使われる35Z5は比較的早くヒータ断線してしまうタマですから、 カソードのエミッション低下が起きるほど長時間動作し続けたとも思えず。 戦後間もなくの生産機ゆえ真空管の品質不良だった、とかいうことなのでしょうか?

        それにしても、原因調査中に新品交換してしまったものの、 オリジナルの電源用平滑電解キャパシタは78年経っても動作していたわけで、驚異です。

    2024-02-13 整流管35Z5を交換して動作開始






    AGCの動作とBFOの動作

        今夜はラジオタイランドを聞きながらAGC電圧を観測してみます。 時定数は適切に思えますし、AF成分もよく抑えられています。 強い局だと-6V以下に下がりますから、感度はけっこう出ているとみていいでしょう。

        周波数カウンタは12SA7のカソードに接続して局発周波数を表示させています。 ラジオタイランドは9.940MHzですから、局発周波数はそれより455kHz高い10.395MHzになるはず。 ご覧の通り実測値は10.390MHzなので、 現時点で中間周波トランスは450kHzあたりに調整されているようですね。



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        モードスイッチを "CODE" に切り替えて7MHzの電信を受信してみました。 BFOも動作しています。

        チャープは感じられませんが、 BFO動作時はAGCは切れてしまうので強力な信号の時はBFOが負けてしまいます。 本機にはゲインコントロールもアッテネータもありませんから、 信号が強すぎる時は短いアンテナに切り替えるとかアンテナ入力にアッテネータを入れるとかの工夫が必要です。

        CW復調音は濁っていますが、これは電源ハムの影響でしょう。

        選択度は混んでいる7MHzの電信には絶対的に不足 --- これは致し方ありませんね。

    2024-02-14 BFOの動作を確認



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    カサカサノイズ

        電源を入れてボリューム絞ったまま放置していたら、2時間半程度たったあたりでスピーカからカサカサ音が出始めました。 さあておいでなすった。

        すでに電源平滑や出力管カソードバイパスは交換してありますから、 出力管と初段低周波増幅管の周辺で怪しそうなキャパシタを一つずつ交換していきます。

        すぐにビンゴとはならず・・・ 結局、シャシーとキャビネットをつないでいる0.02uFを交換したらカサカサ音は消えました。 同じ型のモールドキャパシタはもう一つあるのでそれも交換。

    2024-02-15 カサカサ音対策修理






    IFT調整とトラッキング

        5kHzほどずれていると思われる中間周波トランスのセンターを調整。 シグナルジェネレータで455kHzを発生させて12SA7のRF入力グリッドにキャパシタを介して注入し、 IFTのトリマを調整します。 この受信機の中間周波数トランスはトリマキャパシタ調整型で、 それぞれのトランスの1次側・2次側のいずれもシャシー上面から調整しますから作業は楽です。

        調整はAGC電圧をオシロで見ながら行いましたが、 調整後はAGC電圧比にして150%ほどになりました。 感度アップ、よしよし。

        ところでこの受信機の中間周波トランス、 シャシー取り付け側はターミナル式ではなくてリード線が引き出されているタイプなのですが、 トランスの中には何やら紙が詰め込まれているように見えます。 これは何なんでしょうかね。 EC-1A/EC-1Bではこんな紙は見えていなかったように思うのですが。 ひょっとして前ユーザがへそくりを隠している? まさかね。 そうだったとしても10ドル紙幣とかかな? それともなにか秘密の、宝の隠し場所が示された地図とかだったら楽しいな。 タネあかしはいつかの楽しみに取っておきましょう。





        トラッキング調整も実施。 局発コイルのコアが可動するタイプなのでちょっと手順が変わってきますが、 さほどに狂っているということはなく、 でも確実に感度はアップしました。 納得できるほどの正確なトラッキングとは行きませんでしたので、 いつかまたチャレンジしてね、自分。

        この受信機は入手後内装清掃はしていなかったので、 電源を入れるとかすかに古いラジオの匂いがします。 でも甘い香りが漂ってくるということはなく、 ということはこの受信機の当初のオーナーはジュニアハイの子供だったのでしょう。 ハイスクール以上のオーナーならばきっとタバコのにおいが真空管に残っていたでしょうから。

        真空管とシャシー上面を軽く清掃し、 チューニングシャフトの軸受け部に軽く注油しておきました。 ダイヤルコードはそろそろ寿命に近いかな。

        パイロットランプへのリード線の被覆も傷んできています。 とりあえずはそのまま使えますが、 あと10年も経過したら交換が必要かも。

    2015-02-15 中間周波トランス調整 トラッキング調整 内部軽清掃






    電源投入直後のカサカサノイズ

        昼間のBGM機として使用。 電源を入れた直後はやはりカサカサノイズが出ていることに気がつきました。 ボリュームを絞っている状態でも同じ音量でカサカサ言います。 そのままにしておいて3分ほど経つと、ポツッという音ともにノイズが出なくなり、 そのあとはノイズが出ません。 何回試しても同じ症状。 まだどこかに何かありますね。

        残りのキャパシタのどれかがおかしくなっているのは間違いないでしょうからひとつずつ交換していきますが、 あれえ、可能性のありそうなものはすべて交換したのに、現象は消えません。

        初段低周波増幅管12SQ7GTのグリッドをシャシーグラウンドに落としておいても、 オシロで見てみると12SQ7GTのプレートにはノイズ波形が見えます。 初段低周波増幅段で何かが起きていることは明らか。 でも電源回路やB電源ラインに入っているバイパスキャパシタの類、 さらにはAGC時定数キャパシタを交換しても症状は変わらず。





        いよいよもって可能性が思いつかなくなってきました。 よもやと思って、本機に使われているもうひとつの12SQ7GTであるBFO管と真空管を入れ替えてみたところ・・・ ノイズが消えました!

        在庫の中古12SQ7GTを取り出して使ってみると、ノイズなし。 でももともとついていたタマに交換するとノイズが発生します。 これだ・・・ 12SQ7GTの真空管不良。

        どうしてこのような現象が起きるのでしょう。 12SQ7GTのカソードの劣化か、 あるいはカソードの管内配線の接触不良。 カソード〜ステム引き出し線の取り付けが緩くなっていて、 ヒータが点火されて温度が上がるとカソードが膨張して、 接触が回復する・・・というシナリオなら、ありそうに思えますね。 それにしてもこれは初めて体験するパターンです。

        在庫していた中古球は、 おなじ12SQ7GTですが、内部電極の構造はけっこう違いますね。 3極管部プレートの放熱部が片側しかないものと、両側にあるもの。 2極管部がおそらくシールドプレートのようなもので囲われているものと、囲われていないもの。 オリジナル設計をコストダウンしたのか、 オリジナル設計の弱点に対策を打ったものなのか。 カジュアルな5球スーパーなら気にするような違いではないでしょうが、 調べて事情を知っておけば、どこかでウンチク垂れることができるかな。

        ともかく真空管を交換して、カサカサノイズは完治。 ほとんどのキャパシタは、交換しなくても良かったというオチになりました。

    2024-02-16 12SQ7GT交換 カサカサノイズ治癒






    整備完了

        1週間 BGM機として1日16時間使用し、ノイズ発生などの異常はなく、動作は安定しています。 なので本日、軽くBFO周波数の微調をして - ほとんどいじる必要はありませんでした - 、 整備完了ということにします。

        まったく、 23年前に 「したがってこのラジオは軽整備程度で十分、ということになります。」だなんて書いたのはどこのどいつだよ。 けっこうな時間と工数を費やしたぞ。

        でもまって。 原因調査に時間と工数を費やしたのであって、 修理として行ったのは0.02μFのモールドマイカキャパシタ交換と、2本の真空管の交換だけ。 予定外だったのは電源ケーブル交換くらいのものでしょ。 最初から分かっていたなら、 やはり軽整備だけで済んだんだよ。

        確かにその通りで、電源平滑のブロック電解キャパシタをはじめ、 劣化で交換が必要だったのはキャパシタ1本だけ。 信じられないほどにキャパシタが良好な状態を維持していた個体でした。 まあもっともそれらもこの先使用数10時間で劣化するでしょうから、 予防保全として交換した作業は無駄ではありませんけれどね。

        そう、良好な状態といえば、 本機はバンド切り替えのロータリースイッチもボリューム調整用のポテンショメータも接触不良やガリがなくて、 良好な状態を維持していました。 なにがこの個体の保存状態の良さに聞いていたんでしょうね。

        ともかくもS-41Gスカイライダー・ジュニア、 ハリクラフターズの名に恥じない高性能ボーイズ・ラジオとしてしっかり復活しました。

    2024-02-23 整備完了



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    2001-09-07 Created. Radio arrived. Initial check performed.
    2001-10-05 Published.
    2002-07-27 Revised links.
    2004-05-15 Reformatted.
    2005-01-21 Reformatted.
    2024-02-18 Updated. [Noobow9100F @ L1]
    2024-02-23 Updated. [Noobow9100F @ L1]
    0224-02-25 Updated. [Noobow9100F @ L1]