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Hallicrafters S-38C

General Coverage
Shortwave Communications Receiver
(1953)


    Produced for 15 years from 1946 to 1961, S-38 series must be the most well known receivers manufactured by Hallicrafters. Production of the shortwave receivers for consumers openly resumed as the WW2 ended, S-38, designed as the entry level low priced receiver, certainly introduced many youngsters into the world of radio and electronics. Therefore it might be said that the S-38 contributed to the progress of American science and technology thereafter.
    Buying an American made equipment, however, was still a dream for the most of Japanese amateurs at that time, even for the low priced models such as S-38. Many Japanese manufactures, including a company now called Kenwood, followed or referred, if not copied, the S-38's unique and superb design and introduced to JA hams.
    This page describes the brief history of S-38 series and its feature, as well as my restoration project which is still a long way to complete.



History of S-38 Series

    ハリクラフターズ社 を代表する短波受信機の一つといって間違いないのが、1946年から1961年までの15年間にわたって発売されたS-38シリーズです。 終戦に伴い民生用短波受信機の生産が再開され、そして入門者向け低価格レシーバとして意図されたS-38 は数多くの青少年をエレクトロニクスの世界に誘い、 大袈裟に言えばその後のアメリカの科学技術の発展に寄与した、といえるでしょう。 このラジオはまた、いくつかの日本の無線機メーカーにコピーされもしました。

注: 古い日本の雑誌では「ハリクラフター」と書かれている場合が多いですが、これは完全な誤り。

    S-38の直系の先祖はエコーフォン・ブランドで発売された エコーフォン EC-1 までさかのぼれます。戦時中で唯一、民生用の短波受信機として販売されたEC-1は3バンド6球スーパーヘテロダイン。 スプレッド・バリコンはメイン・バリコンと一体になっています。

    後継機 エコーフォン EC-1A では真空管構成が変わり、S-38の原形となる特徴的な「分度器2つ」ダイヤルになります。 EC-1BはEC-1Aと同じ外観ながら、バンド・スプレッドとしてバリコンではなく局部発振コイルのスラグを動かす方式を取っています。 1946年、EC-1Bはケースやダイヤルの色およびつまみの形に変更を受けて、S-38の発売直前の短い間、 ハリクラフターズ S-41G/W スカイライダー・ジュニア として再デビューします。

    エコーフォンEC-1Aをベースに、Raymond Loewy氏の外装デザインにより再設計された 初期型S-38 は6球スーパーヘテロダイン。短波帯は3バンドに分割され、BFOピッチコントロールをフロントパネルに持っていました。 ハリクラフターズ社は低価格機を発売することによってハリクラフターズ・ブランドのイメージが傷つくのを恐れてエコーフォン・ブランドを使用していたわけですが、 S-38の発売により多くの少年が憧れのハリクラフターズを手にすることができるようになったわけです。

    初期型S-38はすぐに S-38A に置きかえられます。 BFOとANLを構成していた12SQ7が取り除かれ、5球構成になります。 BFOは12SK7中間周波数増幅管で兼用され、ANLとBFOピッチコントロールは削除されました。 S-38Aはトランスレス方式でシャシーはACプラグのどちらかのピンと直結されています。 そのため動作中にシャシーに触れると感電してしまいます。

    S-38B はS-38Aの感電対策版です。 AC電源ケーブルはバックパネルに一体化された電源コネクタで接続されており、 バックパネルを取り外すと電源ケーブルが抜けるようになっています。

    S-38C ではケースの塗装が黒からシルバーグレイのハンマートーン塗装に改められ、 中間周波数増幅とBFO用の真空管が12SK7から12SG7に置き変わっています。 内部回路のコモンはシャシーには直接接続されず、通電中にシャシーに触れても感電しないように改められています。 発売は1953年から1955年。定価49ドル50セントでした。

    S-38D からはそれまでの分度器2つダイヤルが横行きダイヤルに置き換えられるという外観の大変更。 依然としてよく売れていたようですが、魅力が大きく損なわれてしまった感があります。

    1957年発売の S-38E では、それまでのメタル・GT管構成からMT管構成に変更されます。

    1961年にS-38シリーズは、似たような回路構成ながら外観を完全に新しくした後継機、 S-120 に置きかえられます。 B電源の整流にセレン整流器を用いた4球式。 この時点で当初のハリクラフターズらしさは完全に色褪せ、 安い日本製トランジスタ受信機が台頭してゆくなかの1964年にS-120もラインアップから姿を消してしまいます。





Hallicrafters S-38C

    S-38Cは、回路構成的には家庭用の平凡なAC-DCセット (日本で言うトランスレス) と変わらない5球シングル・スーパーヘテロダイン構成であり、 使用している真空管は世代的には大戦直後と変わらない、メタル管とGT管です。 中間周波数は455kHzです。 ロータリースイッチによる4バンド切り替えで、540kHzから32MHzまでをカバーします。

    通信型受信機に欠かせないCW (モールス通信) を受信するためのBFOは、 本来ならば真空管を1本使って発振回路を設けるところですが、 S-38A以降のS-38シリーズではコスト削減を優先するために専用の発振管は省略されています。 フロントパネルのAM-CWスイッチをCWにセットすると、 中間周波増幅段にポジティブフィードバックがかかって455kHzで自励発振動作を行い、 これによってCW信号がトーン音として聞こえるようになります。




    フロントパネルの3つの赤いスライド・スイッチは以下の働きをします。

スライド スイッチの動作
C.W./A.M. C.W.にするとBFOがONになり、CWあるいはSSBを受信できます。
が、回路図を見ればわかるように、多くを期待してはいけません。
このスイッチをC.W.にしたときは、受信機のAGCは動作を止め、 受信機は常時フルゲインで動作します。
PHONE/SPEAKER 内蔵スピーカと、背面のヘッドホン出力の切り替え。
旧態依然としています。ハイインピーダンスのヘッドホンを使用します。
STANDBY/RECEIVE スタンバイ・スイッチ。となりに置いた送信機で送信するとき、このスイッチで受信機の動作を一時停止します。
スタンバイにすると中間周波増幅管12SG7のカソードが切り離され、動作を停止します。
この受信機にはトランシーブ動作用のコネクタはありません。






    チューニング機構はエコーフォンEC-1Aと同じ で、メイン・バリコンとバンドスプレッド・バリコンは一体になっており、 左右のチューニングつまみから糸掛け駆動されます。




    エコーフォンEC-1Aと全く同一のチューニング機構とダイヤル盤の構造ながら、 薄いスチール板をプレス成型してつくられたダイヤルエスカッションの意匠。 戦後の新しい時代の生産拠点としてシカゴのW 5thアベニューに建設されたハリクラフターズ社の新工場 ― そこで生産すべき新しい時代の受信機としてデザインを託されたレイモンド・ローウィ氏の作品です。

    S-38Cは1953年モデルと言われていますが、 ダイヤルにCDマークは入っていません。 動作中はダイヤルがカバーの透明プラスチックをライトガイドとして豆電球で照らされます。が、光量は全くのお世辞。





    周波数変換はペンタグリッドコンバータ管12SA7を使った自励式。 最高バンドで局部発振信号の振幅が不足しがちになるのを補うため、 12SA7のスクリーングリッド電流をバンド4の局発コイル近くに巻かれたコイルを通してフィードバック量を増やしています。


TUBES USED IN HALLICRAFTERS S-38C
TYPE ENVELOPE TUBE FUNCTION
12SA7 Metal Pentagrid Converter Frequency Converter
12SG7 Metal Semi Remote Cutoff Pentode IF Amplifier / BFO
12SQ7GT GT Twin-Triode + High-Mu Triode Detector / Audio Amplifier
50L6GT GT Beam Output Tube Audio Output
35Z5GT GT Diode Rectifier

    大量生産で低価格を実現するために、キャビネットは薄いスチール板のプレス成形で作られています。 そのためうっかりすると作業中に指に切り傷を作ってしまいかねません。

    スピーカはケース上面に取り付けられています。 が、音質を考えればぜひ外部スピーカを使いたいところ。

    以前のオーナーはアンテナ・ターミナル脇に穴を開けていますが、この意図は不明。






Restoration


    ヨメが日本に帰っているときにリバモアを車で走っていたら、なにやら大きなスワップミートが。 中に入って見るとそれはいわゆる旧車ファンのためのスワップミートで、 100軒以上のセラーが店を並べて部品やら何やらを売っており、みんな鉄屑を手に取り楽しそうに談義しています。 私は幸か不幸か、四輪車、特にアメ車にはほぼ興味がないのですが、 美しくレストアされた車のコンクールもあり、 ぴかぴかのマスタングやらクロームメッキが輝くスーパーチャージャ付きフォードトラックやらがそれこそ何百台も、 ずらりとならんでいます。 アメ車に興味がない(自分の車はシェビーだけど)とはいえ、これは圧巻。 ビール片手にしばらく青春時代のアメリカと、それを愛する人々を見て楽しみました。

    さて、そんな中に古いジュークボックスを売っている店が。 よく見ると、S-38Cがありました。 程度は決してよくなかったものの、楽しい雰囲気につい財布を取り出してしまいました。

    バックパネルなし、底板もなし。 バンドセレクタノブはやはりサトーパーツ製の矢型に交換されています。 写真では一見きれいなようですが、よく見るとそうでもなし。 トランスレスなのに、シャーシとケースを絶縁する部品が失われており、 したがって電源を入れてケースを触ると感電するというありさま。

    真空管はすべて生きており、電源ケーブルの新品交換だけで鳴りだしました。 しかし全体的な性能はというと、エコーフォンEC-1Aに劣っています。 どうやらトラッキングを含めて調整が狂っているようで、 短波の6MHz台で感度がよくなるように調整すると9MHz台が聞えなくなったり。

    電源平滑用のブロック電解キャパシタは古いものがついていますが、 タイラップで止められているところを見ると以前に修理されて別のものに置き換わっているものと思われます。 が、それ以外のキャパシタはおそらく純正のまま。 交換の必要があるでしょう。 面白いのは、小型の白いチューブラ型キャパシタは日本製。 EC-1Aではすべてシカゴ製でしたから、この時代には部品レベルながら日本製品の進出が始まっていたようです。 内部配線は雑然としています。

    EC-1Aと同様のダイヤル機構ながら、操作感はあまりスムースではありません。 ひょっとしたらEC-1Aよりもバリコンの工作精度が悪いのかも。 スムースにできるかどうか、今後の作業待ち。

    ともかくこのラジオは電気的・機械的に、かなり時間をかけてレストアする必要があります。 最低でもシャーシとケースを絶縁して、感電しないようにしなくてはなりません。

    シャーシ上面はかなりひどくサビで汚れていたため、 旧車スワップミートで買った「これで磨けばあなたのポンコツもコンクールで入賞できます」なる宣伝文句の研磨剤で一通り、 たぶん6時間ぐらいかけて磨きました。が、コンクール入賞はまだまだ先のようです。

1998-06-07 S-38C入手 シャシー清掃






(ここで24年間のブランク)


24年お待たせしました

    最後にいじっていた時は性能は今一つながらとりあえず鳴っていたのですが・・・ ナショナルNC-57 の修理を終えておつぎはこれ、 と夢と時空の部屋のワークベンチの上に置いて電源を入れたら、 あれまあ、ひどいハム音が出るばかりでまったく使い物になりません。 それもそうか・・・ 最後にいじっていたのはまだラボがクパチーノにあったときだったね。 たぶん24年は経ってる。

    キャビネットからシャシーを取り出し、整備中に痛めないようにダイヤル盤とダイヤルポインタを取り外しておきます。 さて、このシャシーをどうやってサービスポジションにセットしようか。 たまたまシャシー上面には何も取りついていない面がありますので、 頑丈なL字ブラケットと両面テープを使って回転テーブルに取り付けて、 作業準備完了。




    電源平滑の電解キャパシタはもちろん、モールドキャパシタは無条件に全交換しましょう。 いくつか測ってみたらソリッド抵抗はみな20%程度の抵抗値増大を示していましたので、 ソリッド抵抗も基本的に全交換の方針で行きます。 作業開始。 おまちどうさまでした。

2022-04-26 サービス開始






電源回路と音声出力段を整備

    オリジナルのブロック電解キャパシタは撤去し、 電源回路と音声出力段のコンポーネントを新品交換。 ジャンク在庫部品のユニバーサル基板の切れ端をノコギリで切って新品電解キャパシタを取り付け。 ブロック電解キャパシタは4個入りで、そのうちひとつはビーム出力管のカソードバイパスですが、 これは単独のキャパシタを使用しました。 配線引き回しが短くなりました。




    電源を入れると、電源平滑不良由来のハムはすっきり消えましたが、 まったく受信できません。 ボリュームつまみをフルにするとハム音がしっかり出ているので低周波増幅段は動作しています。 でもバンドセレクタを切り替えてもショックノイズが出ません。 これは中間周波増幅段が動作していないな。 シャシー内で1本外れている線があって、これはスタンバイスイッチの配線。 これだこれだ。 これが切れていれば中間周波増幅管のカソードがつながらないから動作しなくて当然。 はんだ付けして、受信機は受信動作を始めました。 お、けっこう感度良く受信できてるよ。

2022-04-30 電源回路・音声出力段コンポーネント新品交換 受信動作開始



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安全設計

    ひきつづきコンポーネント交換作業。 実機と回路図を見比べつつ、ゆっくり作業。 検波段・初段低収増幅段にはカスタム集合キャパシタが使われていますね。 動作に異常がないのならこのカスタムパーツはそのまま継続使用することにしましょう。

    じっくり作業を進めて、ようやく今になって気がつきました ― なぜこの受信機ではシャシーをさわっても感電しないのか。 今の今まで、S-38CはS-38A/Bに対して12SK7を12SG7に置き換えただけの変更だと思っていました。 が、そうではなく、S-38Cはどうやらシャシー感電対策が入っているのです。

    S-38Cの回路図をよく読むと、シャシーグラウンドと信号コモングラウンドには違う記号が使われていて、 両者は470kΩの抵抗1本と0.05uFのキャパシタでつながっています。 バンドセレクタ/アンテナコイル/局発コイル/バリコン等はシャシーグラウンドに対して接続されていますが、 周波数変換段以降の回路とはDC的には470kΩ1本を除いては接続されていません。 そうか、回路コモンはAC電源ラインに直接つながっているけれど、 シャシーはACラインからは切り離されているんだ。 だからシャシーに触れても感電しないんだ。

    シャシーグラウンドの回路コモンを唯一つなぐ470kΩと0.05uFは、 初段低周波増幅管12SQ7のシールドピンとその隣のNCピンを使って配線されています。 ノイズやハムに一番敏感な部分で両者のAC電位をつないでいるわけですね。 回路図からでは読めない、実装上の工夫です。

    いっぽうで、この0.05uFとほかのいくつかのキャパシタは、 シャシーをAC電源電位から切り離す役目を持っているわけで、 ということはこれらのどれか一つがパンクあるいはリーク故障したらホットシャシーになってしまうわけですね。 S-38Cのシャシーは触れても感電しない設計になっているとはいえ、 シャシーとキャビネットはラバーマウントで絶縁されるのが本来のようです。 これはS-38A/B時代には絶対的に必要だったもので、 S-38Cでは必要性は大きく下がったものの、 安心のためにひきつづき絶縁マウントが使われた、 のでしょう。

2022-04-30 S-38Cのシャシー感電対策に(ようやく)気づく




The S-38C got a design change in the power circuit - or rather, fixed the design flaw toward safety found in the S-38A. Its chassis is not directly connected to the AC power line, greatly reducing the risk of electric shock. Chassis and circuit common line are connected via 470 kOhm and 0.05uF capacitor. This connection is done right at the shield pin of the 12SQ7 - where the circuit is the most sensitive to the noise and hum.


5球スーパーでFT8は受信できるか?

    さて今回S-38Cを復活させたのは、「5球スーパーでFT8は受信できるか?」という、 なんともアレな研究課題のため。 短時間の復調周波数安定度を5Hz以下に抑えなければならないデジタル通信モードFT8の受信は、 いつも周波数がふらふらする真空管受信機では困難なこと。 第1局発とBFOがいずれも水晶発振の コリンズ75S-1 は見事に受信できますが、 第3局発PTOの可変幅が大きい コリンズ51S-1 にはそれなりのチャレンジ (2022-11-13追記 51S-1はFT8を安定して受信できるようになりました) 。 1939年設計の高1中2の ハリクラフターズS-20R では「デコードできることがある」 程度でしかなく、 放電安定管で電源電圧変動の影響を抑えた高1中2 ナショナルNC-57 では「調子が良ければ結構受信できる」 という感じでした。

    本機ハリクラフターズS-38Cは、 中間周波段・周波数変換段までの周波数安定性に寄与しそうなコンポーネントを交換した現状では、 局発の周波数安定性はシングルスーパーにしてはかなり優秀な部類に入りそうに思えます。 案外に行けるかもよ?

    ただし、中間周波増幅管をポジティブフィードバックさせるという粗末なBFOではまともに復調なんかできるわけはありません。 そこで、S-38CのBFOは使わず、SIGLENT SDG2122XシグナルジェネレータでBFO周波数を発振させて、 受信機内部に静電結合で注入して復調を試してみます。

    すると・・・おおお、案外に復調できているね。 安定して毎回確実にデコードできるなどということはありませんが、 想像以上の成果です。





    でもやはり外部BFOに頼って受信したというのはあまり胸を張れませんね。 ものは試し、S-38CのBFOで受信してみると・・・ 「たまにデコードできることがある」 という感じ。 USBもLSBもなく、入力信号どうしのビートも入り込んでしまうめちゃくちゃな状態なのですが、 そのなかからWSJT-Xはがんばってデコードしてくれています。 1分間に1回くらいはデコードできることがあるよ、 といった感じでしょうか。

    ともあれ掛け値なしで、真空管を5本しか使っていない受信機でFT8をデコードすることに成功しました!

    S-38CのAM-CWスイッチは中間周波段のポジティブフィードバック有効/無効を切り替えるわけですが、 CWポジションにしたときは自励BFO動作が始まるだけではなくて、 受信機のAGCを止めてフルゲイン動作になります。 本機にはRF GAINコントロールはないので、 強力な信号に対してはCWもSSBも復調が困難になります。 回避するためにはアンテナアッテネータでも併用するしかありません。

2022-05-01 FT8受信トライ






コンポーネント新品交換完了

    ペーパーキャパシタとソリッド抵抗をほぼすべて交換しました。 ヘッドフォン用アッテネータ抵抗など3本の15Ω抵抗は影響のある抵抗値変化を示していなかったので交換しませんでした。 マイカキャパシタもオリジナルのままとしてあります。

    交換したソリッド抵抗は、ほぼ全数が20%前後の抵抗値増大を示していました。 キャパシタは無条件交換としましたが、 顕著な容量低下やリークを示していたものはなく、 1950年代前半の日本製ではありますが優秀な製品であったようです。

2022-05-02 コンポーネント新品交換完了





中間周波トランス調整

    中間周波トランスを調整。 この受信機を入手した1996年ころはまだラボにはシグナルジェネレータがなかったので、 当時は正確な再調整はできなかったはず。 いま再調整を試みると、多少のズレはあるものの極端にズレているとか455kHzではない偽のピークに間違って調整していたということはなかったのですが、 中間周波増幅段出力側のトランスの上側コアの調整溝が削れていて、 マイナスドライバーでは回すことができませんでした。 はてこれは入手時からそうだったのか、 それとも当時の自分が誤って溝を痛めてしまったのか。

    実際コアは固くて回しにくいので、いま小さめの精密ドライバーで回そうとしたらやはり溝をナメてしまったでしょうね。 数多くの特殊ビットがそろっているドライバーセットを試したら、 うまく残りの溝に引っかかって回せるビットがありました。 結果、すべてのコアをただしく455kHzにピークできました。

    中間周波トランスは正しく調整できましたが、 選択度は決して良くありません。 中間周波段が1段しかないため中間周波トランスも2つしかない、 ということもありますが、 基本的に低価格5球スーパーであるS-38シリーズにおいては少ない増幅段でできる限りのゲインを稼ぐことが最優先。 このため中間周波トランスも結合度が高くて電圧ゲインを稼げるタイプのものが使われています。 結果として中間周波トランスの選択度はブロードになってしまいます。 感度を優先するため、選択度を犠牲にしているわけです。

    通信型受信機では中間周波増幅段は2段あるのが普通、3段以上持つものもあります。 これはもちろんより良い感度を求めるからなのですが、 それ以上に選択度向上を意図してのことです。 選択度を良くするため疎結合の中間周波トランスを使う、 疎結合のトランスを通して落ちてしまった信号レベルを回復させるために増幅する、 ということ。

    エコーフォンEC-1シリーズやハリクラフターズS-38シリーズは、 基本的に5球スーパーにしか過ぎないのに、なかなかにいい感度。 でもそれは「感度に全振り」した設計の成果であって、 選択度とイメージ抑圧比はその犠牲になっている、のです。 貧乏人向け格安機の設計、などと言うなかれ。 短波ラジオが欲しくて毎朝毎朝新聞配達に励む子供たちに最高の価値を提供する ― ダイヤル盤にラジオ少年のイラストを入れた5-T SkyBuddyへの回帰 ― それがウイリアム・J・ハリガン氏がS-38シリーズに込めた願いだったのですから。






バンドアラインメント

    ダイヤル盤とポインタを取り付けて各バンドのアラインメント。 そういえば今回作業を始めたときにダイヤルランプは取りついていませんでした。 変だな、入手したときはランプはあったはずなのに。 ランプの在庫部品を見ると、ちょうどよいNo.47がひとつ。 ひょっとしてこれはもともとこのラジオについていたものだったのかもね。 ケースに組み戻すときに取付忘れて、そのままにしていたとか。

    さてアラインメントですが、 調整点も簡略化されていて局発コイルのコア調整はありません。 このためダイヤル目盛りの合わせ込みはパーフェクトとはいきませんでした。 Sams Fotofactに記載の調整手順にこだわらず、 バンド内での感度偏差が大きくなり過ぎないようにチューニングしました。

    S-20R スカイチャンピオン では、 局発周辺のキャパシタの交換が困難でそのままにしてあるせいだとは思うのですが、 30MHzでは周波数変換管6K8が安定して局部発振周波数を作り出せず、 動作はすれども不安定でした。 新しいペンタグリッドコンバータ管12SA7を使い、フィードバック補強リンクコイルを備えたS-38Cでは、 30MHzも実に安定して受信できます。 周波数の安定性もとても良好。 15分ほどのウォームアップが済めば、 ダイヤルに全く触れることなくシグナルジェネレータでつくった30.000MHzのBGM音楽信号を一日じゅう安定して楽しむことができます。

2022-05-02 バンドアラインメント調整





惨めに失敗

    ボトムカバーがないままというのはアレなので、 適当にカバーを作りましょう。 ダイソーのアクリル板が長手の長さがぴったりで好都合。 厚さ2mmの白色アクリル板をプラスチックカッターとノコギリで切り出し、 ドリルでネジ穴開け。

    でもね、ワタシこういう工作はほんと苦手なのですよ。 注意して開けたつもりが穴位置寸法間違えてて、 穴をあけなおしたら穴の周囲がバキッと割れちゃって。 とりあえずカバーとして機能するものはできましたが、 写真に撮る気にもならない、惨めなできばえ。 元気が出たらもう一度チャレンジしようかねえ。

2022-05-09 ボトムカバー製作 見事に大失敗して惨めなできばえ





安定しているね

    コールドスタートからの15MHzでの周波数安定度を測ってみました。 BFOをONにして (CWポジションにして) ゼロビートとなるようにシグナルジェネレータ側で周波数を変えて追いかける方法。 結果は右。 コールドスタートから2時間で7kHz、 その後は±1kHzに収まっています。 予想以上にいい成績ですね。 ほかの高1中2よりも安定しています。

    都合5時間テストしたころに、突然スピーカからバリバリノイズが出てきました。 いままでたぶん100時間以上は連続で安定して動作していたんだけれどねえ。

    ノイズが出ている間も同じ音量でBFOのビート音は聞こえていて、 ボリュームつまみを動かすとノイズ音量は小さくなりますが、最小に絞ってもノイズは出続けています。 となると電源回路でしょうか、あるいは低周波初段と出力段の間とか。 まだ交換していないマイカキャパシタや、カスタム集合キャパシタや、 あるいはAC電源ラインのノイズ吸収に使われているSprague BumBleBeeキャパシタあたりの不安定なリーク/スパーク故障なのでしょう。 ひょっとすると ハマーランドHQ-170 と同じような、 IFT内部の雲母キャパシタの故障なのかもしれません。 10分ほどでノイズは消え、その後は出なくなりました。 このまま様子見でしょうね。

2022-05-10 周波数ドリフト測定 バリバリノイズ発生 その後自然回復






けっこう使える

    自己発振型のなんちゃってBFOは、どっこいCWもSSBもしっかり聞けます。 入門用受信機が具備するべき機能として立派に働いてくれていますね。 さすがにFT8受信には絶対的に不足でしたが。

    CWポジションでダイヤルを回していたら、JMHの気象ファクシミリがいい感じの音調で聞こえてきました。 KG-FAXを起動して受像してみたら、へえ、案外に画像が出てきました。 なんちゃってBFOでここまで受像できるとは思いませんでした。

    検波段と初段低周波増幅段でのハムが、画像に木目のように見えてしまっています。 これはもうすこし改良できるかもしれませんね。 15分の間の周波数変動は±100Hz程度。 KG-FAXはしばしば同期を外してしまいます。 ファクシミリの場合は画像の濃淡が揺らいでしまいますが、 なんとかなってます。






これであんしん

    ボトムカバー製作に再チャレンジ。 ダイソーの厚さ1.4mmの半透明ブルーグレーアクリル板。 こんどはうまくいきました。 相変わらず小学生の工作レベルの仕上がりですけれど。

    ↑ で示したJMHのファクシミリ、実は受信中に奇妙なことに気がついていました。 7.795MHzを受信したのですが、ダイヤル位置6.9MHzあたりのイメージのほうが良好に聞こえています。 というより、こっちが本物なんじゃないのかな? ダイヤル目盛をイメージ周波数に合わせてしまっているみたいです。 実際、12MHzあたりではどこを受信しているのかよく分からない状態だったし。 調整に失敗していますね。 もう一度調整しなおそう。

    今度はPhotofact記載の手順ではなく、ほかの受信機 - 実際にはアイコムIC-T90 - を使い、 局発周波数を測定しながらS-38Cのダイヤル目盛を合わせこんでみます。 S-38Cの局発信号は、発振増強用フィードバックコイルがあるせいか、かなり強く漏れています。 さらに、発振波形の純度も良くないのでしょう、本来周波数でない周波数成分も多く出ているようす。 なお最初はホムセン短波ラジオ - 朝日電器扱いのER-21Tを使ってみたのですが、 910kHzのイメージがひどくて、何を測っているのかまったくわからない状態でした。 アイコムIC-T90なら、本来波以外も多く聞こえるものの、本来波だけあきらかに強いので、騙される心配はなさそう。

    結果、5〜14MHzをカバーするバンド3ではハイサイド・インジェクション、 14〜30MHzをカバーするバンド4ではローサイド・インジェクションとしたときにダイヤル指針のずれが小さくなりました。 両バンドとも、まずは局発周波数-ダイヤル目盛を合わせこんで、 つぎにRFトリマを合わせました。 バンド3のRFトリマは、ネジを緩めてトリマ容量を大きく減らすと、強く受信できるようになります。 が、これはRF同調回路の同調点が大きく外れて、いろいろな周波数がいっしょくたに受信できてしまっている状態。 正しくはここではなく、トリマを締めこんだ最大容量に近いところに調整点が - そこで感度が最大、というより、 そこでだけ聞こえる、といった感じの点があります。 「感度を最大にする」というより、「その周波数以外が聞こえないようにする」感じですね。

    バンド4のRFトリマは独立したコイルに取り付けられていますが、 トリマを一番締めこんだ場所が最良。 トリマに並列にごく小さなキャパシタを追加すればピークをとれるかもしれませんが、 そこまではせず。

    結果として、ダイヤル目盛はこのクラスとしておおむね満足できる程度に合いましたし、 イメージ混信も納得のいくレベルまで減りました。

2022-05-12 バックパネル 再製作 / バンドアライメント再実施






バンブルビー交換

    バリバリノイズ発生から3日後、再発しました。 前回と同じ、電源投入後約5時間後、午後一番での発生です。 筐体内温度上昇が関連しているかもしれません。 昨日とおとといは、そういえば肌寒い日だったなあ。 だいたい見当はついているんですよ・・・AC電源のノイズ吸収として用いられている、 Spragueの0.002uF。 これはまだ交換していなかったのです。

    なんでもこのキャパシタはBumBleBeeと呼ばれるタイプらしくて、 ギター屋さんはこの古めかしいキャパシタを信じられないような値段で取引しているとのこと。 まあたかがACノイズ吸収ですよ、こんなものは中華メタライズドポリプロピレンフィルムで十分です。 とっとと交換してしまいましょう。 ボトムカバーを外してニッパでキャパシタの線を切ろうとしたら、 うわあ、これ液漏れ起こしてる。

    滴下するほどの量ではありませんでしたが、 キャパシタはオイルまみれでした。 仮にいまだ性能を維持していたとしても、間違いなく交換ですね。 この様子では、バリバリノイズはやはりこれが原因だったのでしょう。

2022-05-13 バリバリノイズ再発 C17 Sprague BumBleBee 0.002uF 交換





    交換して、連続動作テストを再開。 ところがやはり電源投入後8時間くらいでバリバリノイズ発生。 うわーごめんなさい、Spragueのキャパシタのせいではありませんでした。

    今回は2〜3分経っても症状が消えないので、 急いでボトムカバーを外し、オシロのプローブを当て始めました。 B電源にはノイズは乗っていません。 未交換のキャパシタとして整流管35Z5GTのプレートとカソードの間に入っているセラミックキャパシタがあるのですが、 B電源ラインにノイズが見られないところを見ると、 このキャパシタの不安定なリークあるいはショート故障の可能性はなさそうです。

    中間周波増幅管のプレートには不安定なスパイクノイズがはっきり。 中間周波増幅管グリッドにもノイズがしっかり乗っています。 では周波数変換管プレートを見ると、ノイズは乗っているのですが、 ボリュームを絞るとノイズの量はかなり落ちます。 つまり周波数変換管プレートのノイズは、 スピーカから大きな音が出るときに回路電流が増えることによる変化です。 となると中間周波段が怪しいな。

    オシロをもう一度つなごうとして12SG7のソケット周りをよくよく見ると・・・あれ? グリッドピンとカソードピンが触れている。

    どうやら原因は私の作業ミスでしたね。 ピンを離し、ソケット周辺の汚れをアルコールと綿棒で清掃。 綿棒はけっこう汚れました。 その途中で、どこからか短い極細のワイヤ芯線が1本。 これがショートを引き起こしていた可能性もあるなあ。

    さてこれでどうだろうね。 連続動作テストを再開。

2022-05-14 バリバリノイズ再発 12SG7ソケットピン不正接触を修正 ソケット周り清掃





全国GLスクエア制覇ならず

    昨日はバリバリノイズ発生で中断してしまったのですが、金曜日は朝からS-38CでFT8聞いていました。 たまにしかデコード成功できない周波数安定性ですが、 それでも一日7MHzを受信し続けていればひょっとして日本のグリッドロケータスクウェアの大半を受信できるのではないだろうか。

    バリバリノイズの修理後も継続してみたところ、1日でだいたいのスクウェアをカバーできました。 でも残念、8エリアがほとんど聞こえていないね。

    バリバリノイズが完治したか確認するための連続動作テストであり、 バリバリノイズはB電圧がかかっているキャパシタのリークの可能性もあるので、 電源入れっぱなしにするのはまだ危険。 外出から帰って日曜日も続けましたが、 8エリアはなかなか聞こえませんね。 2日間の成果はこんなもの、ということにしてチャレンジは終了。

    予想外の驚きだったのですが、 なんちゃってBFOは入力信号のレベルを調整すればけっこういい感じで復調できていますね。 FT8のデコードがたまにしかうまくいかないのは、 局発周波数の変動です。 電源電圧の変動を直接受けてしまい、 また入力信号のレベルでも簡単に変化してしまいます。 このゲーム、外部機器のサポートを認めていいのなら、 安定したAC100Vを発生する正弦波パワーインバータで動作させてみたいところです。

2022-05-14〜15 FT8 オールJAグリッドスクウェア受信チャレンジ






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