NoobowSystems Lab.

Radio Restoration Projects

Toshiba RT-4800
"ACTAS 4800"
Radio Cassette Recorder



古いけど音がいいんだよ

    親族からの修理依頼品です。 「やっぱりスピーカが大きいからね、ラジオなんかいい音で鳴るんだよ。 テープはどうでもいいから、ボリュームのガリガリが直らないかね。」 とのことで。 ゆっくりいじる時間が取れないからいつになるかわかんないけど・・・と引き受けました。

    ヘアラインシルバーのフロントパネルと2ウェイスピーカをもつこのラジカセは、 ある意味モノラルラジカセの典型といえそうな構成です。 2ウェイスピーカで音楽を楽しむだけではなく、 短波つきですから「百万人の英語」も聞けるし、 応答性の良いメカニカル キュー アンド レビューとポーズボタンを駆使してラジカセ1台つぶすつもりで英会話テープを聞けば、 ずいぶんと英語力もつくはずです。

メイン シャーシ

    修理依頼は、テープはどうでもいいからボリュームのガリを解消してラジオが快適に聴けるとよい、 という条件でした。 本当はちょいちょいで済む依頼なのですが、 テープドライブもきちんと直したいと思ってずいぶん長い間開けたままにしてあります。
    で、簡単に清掃しながら試すと、オーディオアンプはいい音で、音量も十分、 ラジオも具合よし。 シャーシ上面にあるボリュームコントロールと、バス・トレブル独立型のトーンコントロールはいずれもガリがひどかったものの、 セーフティ ウォッシュを最強噴射にしてポテンショメータ内部に吹き付け、 数10回くるくる回したらすべて快調になりました。 12cmのスピーカからは FM-10A FMトランスミッタで送信しているポップスがいい音で聞こえてきます。 やはり低価格オーディオといってもこのくらいの径のスピーカは欲しいですね。


Cleaning scratchy volume control.


テープドライブ

    テープドライブのゴムベルト類は半分以上液化しており、 一部は垂れ落ちてメカにこびりついていました。 これをセーフティウォッシュで清掃。 アイドラは円周にゴムベルトがはめ込まれているタイプで、 ここにはセーフティウォッシュが飛散しないよう慎重に作業します。
    交換用ベルトは各種秋葉原で仕入れてあり、 モータとフライウエイトをつなぐ主ベルトはφ75のぴったりのものがありましたが、 他のベルトはずばりの在庫がありません。 再購入が必要。

    フライウエイト/キャプスタンとテイクアップリールは回るはずなので、 モータに安定化電源装置をつないでまずはこれだけで単体テスト。
    モータはDC6Vで定速動作、 DC9V程度まで上げてみるとわずかに回転数は上昇します。 モータ電流はキャプスタンのみ駆動で約50mA、 再生動作で80mA、ただしかなり変動します。 テイクアップリールは正しく駆動され、再生・早送り・キュー・ポーズ動作さらにはオートストップも作動しました。

    機能を完全に復元するには、ベルトはあと2本必要。 ひとつはアイドラからサプライリールを駆動する巻き戻し用。 もうひとつはサプライリールからテープカウンタを駆動するもの。
    サプライリール駆動用は、φ20mmの輪ゴムで試したらうまい具合に動作します。 だいたいこのサイズのゴムを入手しなくては。
    リワインド用アイドラのフライウエイトと触れる部分にはゴムが巻かれていますが、 このゴムは完全に液化しているので、ここにもφ20mmかそれよりちょっと小さいゴムが必要です。

    テープ速度はいまひとつ遅く、速度調整したいところですが、 フラッターの手当てが付かないとすればやっても無駄だなあ。 とりあえずモータ内部に調整機構がないかと思いアウターケースから取り外してみましたが、 ガバナの一部がが小さい穴から覘ける以外には調整箇所は無し。 これ以上は破壊分解になってしまうのでやめておきました。 速度の遅さは、新しいベルトの径が小さくてモータプーリ側の実効半径が小さくなってしまっているためかも。

    テープヘッド出力を100円アンプで増幅して聴いてみると (NABイコライザはありませんから周波数特性は別にして) 明らかなフラッターがあるし、テープタッチも不安定。 音楽鑑賞用としては不合格。 ヘッドは交換できたとしても、フラッターはどうしたものかな。



Main drive belt was open and the most of the rubber drive belts were liquidised. Rewind idler was messed up. In the pucture a office rubber band is used as a tentative testing.


Remains of liquidised drive belt on the flyweight.


あとベルト1本

    オリジナルのテープヘッドは磨耗による段差がひどく、 テープ接触面もデコボコになっています。 かなりの時間愛用されたのでしょう。 そこでヘッドを交換することにしました。 モノラルヘッドは在庫になかったので、 もったいない気がしますが、NOS品のステレオヘッドをモノラル接続して使用します。
    結果、テープタッチは安定し、高域の再生が復活しました。 ハイハットの音もよく聞こえます。 私が中学生になってなんとか買えたナショナルRQ-542は2万と800円もしたのに、 テープの周波数特性が8000Hzまでというひどいものでした。 当時このくらい高音が伸びていれば本当に嬉しかっただろうなあ。

    モータからフライウエイトへのφ75ゴムベルトは、 同径ながら太いものに交換したところテープ速度がほぼ許容できるものになりました。 やはり適切なベルトを使用しないと速度偏差の原因になるのですね。 サプライ リールからテープ カウンタまでのベルトはφ45の新品を使い、良好に動作するようになりました。

    リワインド アイドラの円周ゴムは、 水道栓(蛇口)用のNo.4平パッキン (内径φ17 外径φ23)をむりやり取り付けたところこれが案外にうまく働くので、 これで行きます。

    残っているのはリワインド アイドラからサプライ リールを駆動するためのもので、 適当な径のものがなく(φ35では大きすぎ)、φ20の普通の輪ゴムで応急処置をしてあります。 正常にリワインドもレビューもできるのですが、 数ヶ月のうちに痛んでしまうのは明らかなので、φ30またはφ25を入手して再トライが必要。

    とりあえずはこれでテープ動作はすべて正常になりました。

テープヘッド接続。



音が濁りだした

    いい感じのテープ音楽を聞いていたら、なんだか音がにごり始めてしまいました。 あれあれ。 やっぱりこの手の修理は、納期や工数なんてものに縁のないアマチュアならばすぐに組み込んで完了にせず、 しっかりテストランをするべきです。
    新しいヘッドにした直後は調子がよかったので、 なにか原因があるはずです。 電解キャパシタ類の劣化で初段のアンプやNABイコライザにハムが出始めたのかもしれません。 しかしヘッドから直接取り出した信号を100円アンプで増幅して聴いてみると、 やはり音の濁りがあります。 また、FMラジオの音声は正常。 このことから、問題はエレクトロニクスにあるのではなくて、 なにかメカニカルな問題です。

    ヘッドの接触面とキャプスタンをクリーニングしたものの変化はなし。 音の濁りは、おそらくテープ速度が10Hz前後で変動しているためと思われます。 キャプスタン・フライウエイト アセンブリは何べんか取り外したので、 これをわずかに曲げてしまった可能性が考えられますが、 指先でキャプスタンに触れても回っていることがわからず、したがってシャフトのブレではありません。 速い周期でテープ速度に影響を与えそうなのはテイクアップ リール駆動のアイドラですが、 このアイドラを一瞬テイクアップ リールから離してテープが巻き取られないようにしても (2秒以上続けるとテープを巻き込むので手短にチェック)、 やはり濁りは消えません。 したがってテイクアップ リールの巻き上げトルクの変動でもなし。 さて、そうなると・・・

    しばらく悩んで、やはりいろいろ試していくしかないと思い、 要因を減らすためにテープカウンタベルトを外したら・・・ おお。濁りが消えた。

    テープカウンタプーリーはゆっくりと回るものなので速い周期のトルク変動の原因とは思いにくいのですが、 濁りが出ているときにテープカウンタプーリーをつぶさに見ると、 まるでステッピングモータのように非常に小刻みに震えながら回転しています。 結果としてサプライ リールの負荷トルクが速い周期で変動し、 ヘッドタッチまたはテープ速度そのものが変動してしまうのが音の濁りの原因です。 このためサプライ リールの実効半径が小さくかつテープカウンタの回転速度も高いテープの終わりのほうで濁りが顕著です。

    ベルトを外した状態ではテープカウンタプーリーはとても軽くスムースに回ります。 ほぼ同径の平ベルトや、細めの各ベルトに交換しても傾向は同じ。 プーリーとベルトのスリップに起因するものかと思いベルトにわずかな量のタルクパウダーを塗布しても変化なし。
    プーリーにベルトが掛けられてテープカウンタシャフトに曲げモーメントがかかった時に限りシャフトの回転がスムースでなくなるようです。 シャフトにミシン油を注油してみたところ、顕著なステップモータ状の動きは見られなくなりました。 シャフトは曲げモーメントを受けながら回転するので、シャフトを受ける側(テープカウンタボディのプラスチック)に長年の使用で磨耗が発生した、 のかな。

    これで一件落着かと思いきや・・・音の濁りは大幅に減ったものの、やはりテープの終わりのほうでフラッターが大きくなります。 もともと歪だらけの複雑なロックなら我慢できても、スローなピアノではとても楽しめません。

    もういちどラボを見回すと、細めのφ55のベルトが見つかりました。 いままでテープカウンタに使っていたφ45のベルトをこのφ55に変えてみます。 すると、テープの終わり近くでも普通のラジカセレベルにまでフラッターは減りました! 最初に分解したときの写真を見なおすとテープカウンタベルトは付いていましたから、 このベルトはオリジナル品かも (なにしろバラバラで1年近く放置してしまったので、もう何がなにやら)。

    しかしベルトがきついとこんなにも音質に影響するとは。 まったくテープメカとはデリケートなものです。

Too tight drive belt replacement made the tape counter shaft rotation sluggish, caused distorted audio.


メータが振れない

    本機のレベルメータは、ユーザーズマニュアルがないので正確なところはわかりませんが、 テープ再生時はバッテリ インジケータ、 ラジオ受信時はバッテリ インジケータ兼チューニング インジケータ、 テープ録音時はオーディオ レベルメータとして動作するようです。 録音時のレベルメータの動作は正常なように思えますが、 バッテリ インジケータ兼チューニング インジケータでは針がほとんど振れません。
    このメータはこの時代のトランジスタラジオによくある方式で、無信号時にメータが大きく振れ、 その触れ方でバッテリ電圧をモニタします。 ラジオを受信して信号強度が高まると、メータの振れは少なくなります。

    本機では信号強度に応じて針は動くので、AGC信号(またはそれ相当)はきているようですが、 無信号時の振れ方がとても小さい、という感じです。 回路図があればトラブルシューティングはずいぶん楽でしょうけれど、 そんなものはないので、音のよいラジオを聴きながら実機の配線を追いかけてみます。 基板は両面配線で、部品面にはプリント抵抗もところどころ使われています。 パターンは他の部品の下を通っていたりするので、 必要に応じて部品を取り外してその下のパターンを確認していきます。

    メータのマイナス側はプリント基板のグラウンドパターンに接続されており、 プラス側リードは録音切り替えスライドスイッチに入って、オーディオレベルとチューニング インジケータに切り替えられます。 チューニング インジケータの配線は、 プリント基板部品面のパターンを通じて基板ほぼ中央のメータ アンプ トランジスタ(TR9)のエミッタに接続されています。 メータ アンプ トランジスタのベースにはおそらくAGC回路からのダイオード(D5)が入っていて、 通常は固定バイアスでエミッタ電流が流れるものの、 AGCからの電圧が下がるとダイオードを通じてベース電圧を下げ、 それに応じてエミッタ電流が低減してメータの振れが下がる、という仕組みのようです。

    ダイオードを取り外してアナログテスタで点検してみると、整流動作は行われており、 ショート故障やオープン故障があるようにはみえません。 またダイオードなしの状態ではメータはほぼ振り切れるので、 メータトランジスタも直流増幅は行っているように思えます。

    ダイオードなしではメータは信号強度に反応しないはずですが、 実際にはときたまピクッと針が動きます。 このときベース電圧はきちんと安定しています。 ところがコレクタ電圧は2V以下に下がったかと思うと6V以上に上がったり、 受信状態やボリューム操作などにまったく無関係な、ランダムな不安定挙動を示しています。 とくにコレクタ電圧が1.4V近くにまで下がると、メータは完全な振り切れになります。 はて、供給電圧が下がったのであればメータの振れも下がりそうなものなのに。 そうなると、トランジスタそのものが不安定になっている可能性あり。

    使われているトランジスタは2SC1000GR。 見つけたかな? と思いつつこれを取り外し、アナログテスタでチェックしてみると故障しているふうではありません。 新品の2N2222(ピン配置が違うけれど)に交換してみましたが、 あれあれ、コレクタ電圧の不安定さは変わりません。 トランジスタの問題ではありませんでした。 もう一度ベース電圧を見ると、完全に安定ではなく、わずかに不安定変動が見られます。 やはり問題はベース側かな?

    メータのフルスケール調整用トリマ(VR1)を回すと、メータの指針はそれを追いかけるようにゆっくり変化します。 これはトランジスタのベースに10μFの電解キャパシタ(C43)が入っていて、応答速度を下げているから。 このキャパシタを外してみると・・・メータ指針はピタリと安定しました。 キャパシタをアナログテスタでテストしてみても充放電しているしリークは見つけられないのですが、 このキャパシタがメータの振れの不安定さを招いていたのは確実。 しかしこのキャパシタを外したままでもメータの振れそのものはよくならず、 メータの振れが小さいという症状に対する原因ではありません。

    やはりダイオードから上流側なのだろうかと思いあちこちの電圧を測ったりパターンを追いかけてみましたが、 どうも理解できません。 ふう、と一服して考えると、まてよ、これはちょうど電流計の感度が下がっているみたいな振る舞いなわけだ。 メータに直列に抵抗が入っているみたいな。
    オーディオレベルメータモードではうまく振るのだからメータそのものは正常そうだけれど、 メータ アンプ トランジスタのエミッタからメータ切り替えスライドスイッチまでの配線はどうなんだろう? いままでこの間は基板上のパターンのみで直結だと思っていたけれど・・・。

    計ってみると、トランジスタのエミッタ電圧と、スライドスイッチ入り口での電圧は明らかに違う!! エミッタからスライドスイッチまで直接ジャンパー線をとばしたら、 ほぼ正常と思われる動きになりました。 はて、この間にはプリント抵抗はなさそうだし、どういう理屈なんだろう。 プリント基板の表裏のパターンはスルーホールのような工作で接続されるようになっていますが、 この導通が悪くなったのだろうか。

    ともあれトランジスタをオリジナルの2SC1000GRに戻し、取り外したキャパシタ類を戻し、 ダメになっていたC43 10uFは新品を取り付けました。 メータ フルスケール ポテンショメータVR1でラジオ無信号時のメータの振れを100%ぴったりに調整しました。 FM/AMのいずれも、強力な局の場合にメータ振れは30%程度、つまり指示範囲の70%を使って信号強度表示されています。 ただでさえ強いChina Radio Internationalをプリアンプ最大ゲインで受信するとメータ振れは10%まで落ちます。 動作的にはこんなもんでいいでしょう。

    故障機序が確定できていないのが心残りですが、メータ修理はこれで完了とします。 結局ジャンパー線1本だけだった・・・。


Tuning meter did not move well, although the meter itself worked fine in the REC mode in which the meter worked as an audio level indicator.
This is the solder side view of the main circuit board. Meter amplifier transistor and its surroundings are noted.



Component side view of the main circuit board, vicinity of the meter amplifier circuit. The meter amplifier transistor is a black one with "GR" noted at the center of the picture. Printed resistors are seen on this side. Both side has printed patterns. The trimmer shown above the transistor is to adjust the meter full scale for the fresh batteries.



After all just a jumper wire solved the problem - a blue wire seen in this picture. It seems like a through hole or a PCB pattern lost its conductivity which caused the low sensitivity of the tuning meter.


いい音で短波を楽しむ

    Sメータが動くので短波を聞くのがいっそう楽しくなりました。 本機の短波受信機能はシングルバンドで3.8MHzから12MHzをカバーする一般的な家庭用。 シングルスーパーなのでイメージ混信は明確だし、 受信用プリアンプをフルゲインにすると9MHz以上での混変調が顕著になってしまいます。
    ダイヤルは普通の糸掛けで、プーリーとバリコンのシャフトは簡単なはめ込み方式。 高精度なダイヤル操作はとても期待できませんし、実際操作は重く、バックラッシュも大。 それでも国際放送のチューニングならなんとかなります。 ただしダイヤルスケールのロギング目盛は荒すぎて、元の周波数に戻るのは極めて困難です。

    国際放送受信用として感度は十分、 安定度もこの手としては良好な部類---30分に1度程度ダイヤルに触れれば済みます。 選択度はややプロードなので10kHzのビートが絶えず聞こえていますが、 強力な局の復調音はとても豊かで自然。 7.350MHzの東南アジア向けドイチェ・ヴェレがとても良好に、すばらしい音で聞こえています。 こういった音でゆっくり放送を楽しむのは、通信型受信機ではなかなかできませんし、 現在でもどうにかマーケットに残っている短波ラジオはどれも海外出張向けのポケットサイズで、 とてもいい音がしそうにはありません。

    今後、音のよい短波ラジオなんて・・・もう作られないのかな。

MOVIE: Receiving Deutsche Welle on Shortwave
(10seconds MPG 927KB)
Now the tuning meter works just fine. Because of the wider selectivity (conpared to communication receivers) and its large woofer, sound quality is good even in shortwave listening.



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Sep. 04, 2006 Page created.
Sep. 05, 2006 Updated. Potentiometers cleaned.
Sep. 18, 2006 Updated.
Sep. 27, 2006 Updated.