Baxandall Tone Control Unit
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昨年暮れにまたまた腰痛、正確に言うと腰椎神経圧迫により左わき腹から左足大腿にかけて強い神経痛、
そしていつも筋肉が軽くつっているかのような痛み。
最終日は数回オフィスフロアで3分ほど床に寝て腰椎を伸ばす必要さえありました。 今回の冬休みは文字通り骨休め、腰椎休めだな。 大晦日にばあちゃんからもらったコルセットを着けたらかなり楽になり、また日ごと少しずつ回復してきています。 が、屋外作業はできず、静かに過ごします。 そうだ、長年懸案のトーンコントロールユニットをつくろう。 試そうと思ってからすでに10年も経つ、大プロジェクトです。 中央研究所のオーディオは、Noobow9100Eコンピュータのライン出力をオーディオテクニカAT-MX33ミキサに入れ、 そこでバス・トレブルを軽くブーストしたのち、嘉穂無線のパワーアンプとパイオニアのアクティブサブウーファに入れています。 AT-MX33の出力は同時に、昨年3月に完成したヘッドフォンアンプにも入っていて、ヘッドフォンで聴くときはこちらで。 しかしこのオーディオテクニカAT-MX33はこれまた25年は経っているだろう年代物で、ディスクジョッキー用の小型ミキサなのですが、 モーメンタリプッシュスイッチの接触不良の持病を持っていて、しかし修理には内部構造の完全分解が必要。 修理中はトーンコントロールが使えない、ということになります。 もうひとつ。 スピーカで聴くときとヘッドフォンで聴くときとでトーンコントロールのセッティングを毎回変えるのは面倒なので、 ヘッドフォンアンプ専用のトーンコントロールがあると便利です。 可愛らしいタカチのケースに組み込んだヘッドフォンアンプ がいい感じなので、揃いのケースで仕立てたら楽しそう。 コンポーネントステレオといえばその昔ならチューナ、プリメインアンプ、カセットデッキの三段重ねというところでしたが、 ちまちまユニバーサル基板でこしらえたユニットをそれぞれ小さなケースに入れて積み上げていったら楽しいかな、と。 トーンコントロールができたら次は昨年の夏頃に買った小さなデジタルパワーアンプをひとつのケースに入れてメインアンプユニットにしちゃおう。 ケースの値段が中身の7倍もするおバカなパワーアンプで、それも楽しいでしょ。 |
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このトーンコントロール回路、
EL500での試作
を考えたのは2007年03月。
でもすぐに始められなかったのは、
3300pFのキャパシタの在庫がなかったためでした。
秋葉原に行く用事もなく、それだけのために行くのも、
またそれだけのために送料のかかる通販に注文する気にもならず。
組み立て用の部品を紙箱に用意し始めてからも数年経過、
あれこの部品何だろう、何を作ろうとしていたのかなと思ったのが2017年08月。
でも最近ではアマゾンが電子部品を取扱うようになったので2017年も押し迫ってようやく注文。
ただしキャパシタ1個で400円もするオーディオ用の部品を使う気もなく、安い部品で。 基板はクラシックな茶色の紙エポキシの小さなユニバーサル基板。ちょっと窮屈かもしれません。 フロントパネルに電源スイッチを設け、 OFFのときはトーンコントロール回路をスルーできる仕組みにしておこうと思います。 手持ちに3回路の小型トグルスイッチはないので、 オムロンの超小型の中古メカニカルリレーでトーンコントロールをバイパスさせます。 電源はDC12Vとし、回路電源電圧は9Vとします。 まだ豊富に在庫がある500mA級の三端子レギュレータで9Vを生成します。 トーンコントロール回路は単電源で、回路基準電圧は9Vを2分の1にした4.5V。 データシートどおり、この回路基準電圧はシングルオペアンプで電流ブーストします。 バイパスリレーは電源入力12Vで直接コイルを駆動。 今回はブレッドボードでの試作は行わず、いきなりユニバーサル基板に実装をはじめました。 デバイスメーカーのデータシートの回路例なら再現性も良いだろうと期待して。 [2017-12-30] ボード実装開始 [2017-12-31] ボード実装作業継続 |
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肝心のトーンコントロール回路ですが、これは
P. J. Baxandall氏がWireless World誌1952年10月号で発表した回路
[外部リンク]
。
テキサス・インストゥルメンツ社のアプリケーションレポートSLOA042
[外部リンク]
でオペアンプを使ったバクサンドール型トーンコントロール回路が掲載されていますので、
今回はこのアプリケーションレポート通りに作ります。
ただし使うオペアンプは手持ちのLM324ですが。 バクサンドール氏の回路が発表される前にもさまざまなトーンコントロール回路が考案され使われていましたが、 バクサンドール型トーンコントロール回路はコイルは使わず、バスとトレブルの増強・減衰がお互いに干渉せずに連続的に行うことができ、 トーン補正が不要な時はそれぞれのつまみを中点にすればフラットな周波数特性が得られる、という点で機能として理想的なもの。 この回路は1953年以降トーンコントロールのスタンダードとなり、ほとんどすべてのオーディオ機器で使われるようになりました。 バクサンドール型トーンコントロール回路は、すごく簡単に言えば、 抵抗とキャパシタとポテンショメータで構成されたフィルタネットワークを増幅器のネガティブフィードバックループ中に入れる、 というものです。 この回路、なんだかややこしくてその動作原理は小学生の時以降ずっと理解できないままだったのですが、 今回改めてオリジナルの文献を読み、解説ページを読み、自分で回路図を描きそして自分で部品を一つ一つユニバーサル基板の上に配置していったら、 ああなるほど、そういう仕組みなのか、と飲み込むことができました。 キットを買ってきて部品をでき合いのプリント基板にはんだ付けしていっただけでは回路の動作を理解することはできないでしょうから、 ユニバーサル基板の手作りは勉強の方法としても優れています。 すくなくともワタシ的には。 [2018-01-02] Wireless World誌他文献閲覧 |
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ただし、手間はかかりますよ。
しかも腰痛を抱えていて長時間の作業ができないとか、
ベンチ周辺がすごいことになっていて部品一つ探すのに小一時間かかるとかいう状況ですし。 [2018-01-02] ボード実装完了 ポテンショメータを接続し、基板単体の状態で動作開始したのが01月03日午前11時。 トーンコントロール回路そのものはトラブルなく一発で動作し始めました。 効きも良く、いい感じです。 ところが例のテスト曲 ( Logical Emotion の "Pops Arranged Instruments 1" [外部リンク] からトラック7、 「亡き王女のためのセプテット」の2分55秒以降のベースソロ部) では無惨に低域がひずみます。 原因はわかっていて… 回路電圧は9Vとして設計したのですが、勘違いして5Vの3端子レギュレータを使っていたためでした。 この回路では初段のオペアンプがゲイン2倍で増幅動作していることもあり、基準電圧2.4Vではさすがに大振幅は扱えません。 ので9Vのレギュレータに交換し、低域大振幅の余裕度問題は解決。 しかし別の問題が残っていました。 ジャズロックを聴いている限りあまり気にならないのですが、 正弦波のテスト信号を入れて出力をオシロで見ると、きれいな正弦波になっておらず、 ゼロ近傍で不連続な変化が見てとれます。 うわあ、そうだった、やっちゃった、忘れてた。 今回使ったオペアンプはLM324。 汎用性の高い普及品のクワッドオペアンプなのですが、このオペアンプは出力段にちょっとしたクセがあって、 出力電流をある程度吸いだしてクラスAバイアスをしっかりかけてやらないとクロスオーバーひずみがはっきり出てしまうのです。 この問題はヘッドフォンアンプ作った時に気づいていたはずなのに、忘れていました。くそう。 今回はICは基板直付けにしましたので別のオペアンプで試すのは無理。 まあ通常使用では気にならないので (鈍感な耳でよかった…)、今回はこのままにしちゃえ。 いつか2号機を作ることがあったらそのときはこの部分もよく考えて、またオペアンプはソケット実装にしよう。 [2018-01-03] ボード完成 |
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さてケースに実装。
BASS / TREBLEのポテンショメータはセンタークリック付きのものがあればいいのですが、普通の100kΩBカーブの2連品。
もはやポテンショメータなんて一般家庭用の家電品には使われなくなってしまいましたので、
こんな基本的な部品ですが、遠くない未来に入手は次第に難しくなるか、
あるいは高級なものになってしまうのでしょう。 買ってあったはずのパネルマウントRCAピンジャックが見つからず、ベンチ周辺の整理を始めて、1日後に発見。 リアパネルのEIAJ電源ジャックは ヘッドフォンアンプ と揃えてアウター・ポジティブ。 匡体組み込みが完了したのは01月04日22時。 冬休みの課題、できたー。 腰の神経痛も痛み止めなしで過ごせるほどに回復してきました。 冬休みの最後は手作りバクサンドール型トーンコントロールユニットで音楽を楽しもう。 聴くのは SNUG SPACEのC93冬コミ新譜のオリジナルアルバム、「春風のグラデーション」 [外部リンク] 。 「うう腰痛がひどくて買いに行けないよう!」との私のツイートをみたフォロワーさんが哀れんで買って送ってくださいました。 SNUG SPACEの鈴丸さんご本人からも 「お大事にしてくださいね」とのリプをいただきました。 ありがたき! ありがたき! 手作り回路から手作りの素敵な音楽が流れる、一足早く春の風が吹いてきたようなラボ。 もう一杯コーヒー淹れよう。 [2018-01-04] 匡体実装 ケースはタカチKC4-10-8GS |
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トーンコントロールユニットへの入力をAC電圧計読みで-18dBVにしておいて、
まあだいたいの程度とか傾向とかが分かればいいや、くらいの精度で周波数特性を簡単に測ってみました。 BASS / TREBLE をそれぞれFLATにセットしたときが黄色。 測定値はすこし高めにオフセットしちゃってるかもですね。 周波数特性はほぼフラット・・・ わずかに低域で下がる傾向です。 1930年代・1940年代のトーンコントロール回路では補正を必要としないときにフラットにならず、 バイパススイッチと、バイパス時と補正時とでの音量レベル合わせのためのアッテネータとかも必要でした。 調整つまみを中点にすれば簡単にフラット特性が得られる、というのはバクサンドール回路の美点ですね。 私が音楽を聴くときはBASS / TREBLE とも減衰方向にすることはありませんが、 低域側は20Hz、高域側は20kHzでおよそ-18dBの減衰です。 電圧レベルにして約8分の1ですね。 BASS をフルブーストにした場合は、 低域側は20Hzで+18dB増強されます。 減衰時の-18dBときれいな対称になっていて、いい感じ。 このテストは入力を-18dBVにしていますから、 低域フルブーストにして出力が0dBVになっても回路内部でのクリッピングは起きていない、ということです。 別の言い方をすると、入力が0dBVだったとすると低域フルブーストで出力は電圧にして8倍に増幅されるわけで、 この場合は実測するまでもなくクリッピングが起きます。 TREBLEをフルブーストにしたときは問題が顕著に表れます。 青色の線が、10kHzより上で奇妙に曲がっています。 これは出力波形に顕著なひずみが発生しているため。 ここまでハイブーストすることはないので実用上の問題とはなりませんが、 もし2号機をつくることがあるなら対策を考えるべきでしょう。 深くは追っていませんが、LM324オペアンプ出力段のクロスオーバー歪が主要因だと考えられます。 BASS / TREBLE ともに+50%の位置にセットしたときは緑色。 低域20Hzで+6dB、つまり電圧にして約2倍。 高域20kHzで+3db、電圧で約1.4倍。 このとき出力レベルが一番低くなるのは400〜600Hz程度で、 やや理論値からのずれが見えます。 これも私にとってはさほどの問題ではありませんので放置します。 でも今考えると、この+50% / +50%の測定中にポゴから 出先で自爆した という電話が入って途中で中断し、 救助活動終了後に再開しましたので、その影響があるかな。 もういちど測りなおすべきかも。 この測定はお手軽に菊水のミリボルで測ったものですが、 ラボにはGP-IBで制御できるファンクションジェネレータとデジタルオシロがあるので、 自動測定システムをつくるというのはネタとしては面白いかも。 この測定結果を見ると、私が常用する BASS = +30% TREBLE=+20%あたりでは、 入力レベルを-3dBV以下に抑えておけばこのトーンコントロール回路の破綻による音質劣化は防げるだろう、 と思えます。 [2018-01-05] 周波数特性ベンチテスト |
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しかし実際には、入力レベルをピーク-6dB程度に落としておいても歪が出ます。
はっきりわかるテスト曲は
ついったー東方部さんのアルバム "Further Current"
[外部リンク]
からトラック10、「懐かしき東方の血〜Old World」。
ピアノを打鍵した瞬間のひずみが顕著。
とても楽しめるような音ではありません。 いっぽう同じ 「懐かしき東方の血〜Old World」でも 狐の工作室さんのアルバム "東方幻想界 永夜抄の音" [外部リンク] のトラック05 「懐古の知識と歴史」では入力レベルが+3dBまで上がっても歪はほとんど感じられません。 また DDBYさんの"Cafe de Touhou 4" [外部リンク] のトラック4 「微笑みの歴史少女」も「懐かしき東方の血〜Old World」で、 これもレベルメータがしょっちゅう0dB越え状態で聴いてもとってもいい音。 この違いは、ついったー東方部さんのトラックはジャズクラブでのピアノソロのライブ録音であるのに対し、 狐の工作室さんのトラックは打ち込みオーケストラアレンジ。 DDBYさんのトラックも実は狐の工作室の水橋ゆっきーさんの作品。 多楽器構成の楽曲では大太鼓やベースの大振幅が上限となるからピアノ単体のレベルは相対的に下がっているからなのでしょうか? それとも生楽器と電子音源ではやはりなにか違いがある? いずれにせよ、 このトーンコントロールユニットはライブピアノソロが苦手だ ということになります。 そう気がついて まらしぃ [外部リンク] さんのピアノソロアルバムを聴くと、こりゃあ全滅だ!! もちろん対策は入力レベルをピークでも-9dB程度にまで下げてやればいいだけ。 相対的にS/N比が悪化してしまいますが、ピアノソロでバリバリ言われちゃうよりもずっとマシ。 でもねえ、イケてないよねぇ。 むー、ピアノは難しい。 [2018-01-06] ピアノソロライブ問題に悩む |
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"Further Current"を楽しめないなら、このトーンコントロールは単なるジャンクです。
本質的になぜピアノのアタックが歪むのかの調査はちょっと時間がかかりそう。
実用にするにはトーンコントロール入力レベルを下げればいいだけですが、
ラインレベルを直接入れられないというのはアレなので、
暫定の回避策を取ります。
トーンコントロールボード入力にはレベル調整トリマを入れてあるのでこれで入力レベルをぐっと下げておいて、
トーンコントロール出力をラインレベルまで増幅するポストアンプを追加することにしました。
もともとのユニバーサル基板には部品を追加するスペースはないので、小さなサブボードを増設する形で。 ポストアンプはごく基本的な反転増幅回路。 手持ち在庫のデュアルオペアンプLM358を使い、電圧増幅度を10倍に。 できあがってみると、狙い通りレベルメータが0dBを示すレベルでもピアノソロ演奏がじゅうぶんに楽しめます。 回避策はOK。 ただし、容易に想像できる通り… バックグラウンドのヒスノイズがかなり大きく、目立つようになってしまいました。 とても質の良いカセットテープで聴いているような感覚。 それもまた、1970年代風でいいか。 ということで、手作りトーンコントロールユニットはこれで完成。 さーていっぱい音楽聴こう。 [2018-01-08] ポストアンプ追加 ピアノソロライブ問題を暫定的に回避して完成扱い。 |
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