Go to NoobowSystems Lab. Home

Go to Kits, Gadgets and Projects page

CIC 21-020 Shortwave Receiver Kit
CIC 21-020 Shortwave Receiver Kit

ショッピングは楽し

    ロードアイランドのパーツ屋さんでオンラインショッピングしてして、安価な短波ラジオキットを見つけました。 性能は期待できませんが、その値段でしばらく遊べたらハッピーになれそうだったし、 そのショップは船便での発送をしておらず送料の割高感があったので他のパーツを買い込むついでに買ってしまいました。 届くまでの待ち遠しさは、オモチャ屋さんで買ったプラモデルの箱を抱えて家に向かう足取りの楽しさと同じ。ちゃんと作れるかなあ? 失敗しないかなあ?

    届いたキットは、ホビーショップで吊るして展示できるように考えられた透明ビニールバッグに入っています。 内容は1枚ものの組み立てマニュアル、プリント基板それにスピーカを含む必要な部品。 マニュアルには CIC(R) Education & Hobby Kits とあるだけで他にメーカーを知る手がかりはなく、またマニュアルの片隅に Made in Taiwan R.O.C. と青インクのゴム印が押されています。 そこでウエブをサーチしてみると、これは台湾の CIC Components Ind. Co. Ltd. の製品であることがわかりました。
    同社のウェブサイトによれば同社は1980年にスイッチ製造工場としてスタートし、1994年に教育用キットの販売を開始した、とあります。従業員数は37名。 同社のサイトは輸出企業らしくホームページを含めてすべて英語で書かれています。 サイトにはキットのカタログがあり、楽しそうなロボット キットやエレクトロニクスホビー キットが多数掲載されています。 が、同社は直販は行っていないようです。

回路構成

    パッケージを開けて組み立てマニュアルを取り出し、まずは回路構成を見てみましょう。 カタログの写真から推察したとおり、高周波一段増幅・ダイオード検波・低周波増幅のストレート受信機です。
    高周波増幅は非同調で、アンテナからの信号はそのままNPN小信号トランジスタBC548で増幅されます。 コイルとバリコンからなる並列共振回路で目的周波数が選択された後にゲルマニウムダイオードで検波され、 ICによる低周波アンプに入ります。 最終のアンプの出力は低周波トランスを介して小型のスピーカを駆動します。 つまり、ゲルマラジオに高周波増幅と低周波増幅を追加しただけの回路です。

    同調用バリコンはAMラジオ用の2連ポリバリコンで、プラスチックのダイヤルつまみが付属しています。 同調コイルは2mHの小さな高周波チョークコイルを使用。 マニュアルには2.2MHzから7MHzをカバーすると書かれています。 単同調ですから選択度はかなり悪いだろうと思われます。 また、本機を短波ラジオたらしめているのはこの同調コイルだけですから、これを中波用のバーアンテナコイルに交換すればそれだけで中波ラジオになります。 あとで2バンドラジオにでもしようかな。
CIC 21-020 Block Diagram

これってロジックじゃん

    当初ICはいわゆるオーディオアンプICだろうと思っていましたがそうではなくて、3段の増幅回路が入ったオペアンプのようです。 使われているICの品番を見ると、4007となっています。 ん? これってC-MOSロジックじゃなかったっけ? 資料で4007を調べるとやはりこれはC-MOSロジック ファミリで、デュアル コンプリメンタリ ペア プラス インバータとなっています。 ええっ、ロジックICで増幅するの?
    キットのマニュアルを読むと、動作原理解説のところにたしかに書いてあります。 「ICは、かなり面白い使い方になっています。 使用しているのは通常デジタルICと呼ばれる種類のものです。 このラジオでは普通とは全く違った使い方、つまりアンプとして使っているのです。」 そんなのってあり??

    実際に使用されているのは東芝TC4007UBPで、データシートをみて納得しました。 これはロジックICとはいいながら、中には3つのPチャネルMOS FET と3つのNチャネルMOS FETが入っているだけで、内部相互結線は多くなく、 それぞれを単なるFETとして扱うことも可能なのです。 確かにデータシートには「結線によってリニア アンプとして使える」とあります。 言い換えれば、これはロジックICというよりFETが計6個入った単なるパッケージなのです。 ウエブで調べると、4007をオーディオアンプとして使用した例は有名メーカー製の機器にも存在しているようです。ほおお。

    本機ではPチャネルMOS FETとNチャネルMOS FETをペアとし、これを3組使用しています。 組み立てマニュアルには、「このICには4つの回路があるが本機では3つだけ使用している」との記述があります。 が、これは間違いでしょう。

    TC4007UBPは1998年4月に保守化、1999年4月に廃止となっており、 したがって最新のカタログあるいは東芝のウエブサイトにはもはやデータシートはありません。 し、代替品も設定されていません。市場在庫がなくなったら終わりです。 が在庫は結構あるようで、小売での部品単価も20円とかいったもの。 とにかく安くICを使ったラジオを作りたかったのでこのチップを選んだのだろうと思います。
TC4007UBP Internal Circuit

さっそく組み立て

    それじゃ半田ごてを入れて、組み立ててみましょう。 プリント基板には部品番号を示すシルク印刷がありますが、どの部品を取り付ければいいかは回路図を参照しなくてはなりません。 初心者向けキットにはたいてい 「R1にxxkΩを取り付ける、C1にxxμFを取り付ける・・・」といった手順の一覧があったりしますが、 このマニュアルにはそういった記述はなく、かわりに抵抗のカラーコードの読み方やキャパシタの数値の解釈の仕方が書かれているだけです。 私はさすがにそれを参照する必要はありませんが、このマニュアルは本当の初心者には厳しく、不親切だともいえます。 が、回路図を参照し、部品の表示の読み方のトレーニングになりますから学習キットとしてはこの方がかえって好ましいのかも知れません。 親切すぎる組み立て手順の説明は、ともするとキットをはんだ付けトレーニング教材にしてしまう可能性もあります。

    基板のアートワークは古典的なデジタル回路用のCADで設計されたと見えて、パターンは細く、アースラインも細いまま。 ベタアースもなく、高周波回路のアートワークとしては不適切な感があります。ま、安いキットですから。 はんだ付けランドもIC用の小さいままで、先の細いこてであればいいでしょうが、私のこてはちょっと太めなので作業はしやすいとはいえません。 抵抗やキャパシタを取り付ける穴のピッチは使用する部品に対して少しばかり狭く、抵抗は基板に密着した形で取り付けることが困難です。 また、バリコンが抵抗に干渉してしまう部分があります。 組み立てに支障はないものの、総じて仕上がりには改善の余地あり。

    ちなみに、ベンダーのカタログやCIC社のウエブサイトにある写真と実機を見比べると、部品のレイアウトがずいぶん違うことがわかります。 実機の基板には"21-020 NEW" と表示があり、なにか設変を受けていることがわかります。

    当惑したのは、基板上に同じ部品番号が2つあるものがあること。 さらに、回路図では20MΩの抵抗を使うことになっているのに部品がなく、かわりに10MΩの抵抗が多く入っています。 よく基板を見ると、10MΩの抵抗を2つ直列に接続して20MΩにするようになっていたのでした。

    結果としては部品の不足や不良はなく、大きな困難はなく30分ちょっとで組み立て完了。
Content of the kit

9V電池は別売りですよ。


き、聞こえない

    一通りはんだ付けや結線を再確認し、9V電池スナップに9V積層乾電池をつなぐとスピーカからサーッというノイズが聞こえてきました。 アンプは動作しているようです。回路の全電流は実測15mA。
    MFJアンテナチューナからの信号をアンテナ線につないでみると、しかし、コンピュータノイズしか聞こえません。

    夜の夜中にノイズのない山の中まで出かけて、長いビニール線をアンテナとしてみると、中波AM放送がダイヤル中に広がってしまいます。 そのなかにかすかに中国の歌謡曲が聞こえます。 はて、これは短波なんだろうか、それとも中波局の混信なんだろうか?

    もう一度ラボに戻りトライしてみると、アンテナチューナのセッティングによってずいぶん動作が影響を受けることがわかりました。 使用しているアンテナチューナにはプリセレクタ機能はありませんが、本機のアンテナ入力は全くの成り行きなので、 チューナが多少の同調作用をしているのでしょう。 チューナのアンテナ側バリコンと受信機側バリコンである程度の選局を行うことができます。 混信はひどく、いくつもの信号が交じり合っていますが、中に英語のアナウンスが聞き取れました。 ラジオ韓国のワールドサービスのようです。 たぶん、これは短波、だよなあ?
Circuit Board Top View

ロジックアンプの能力

    C-MOS IC使用でスピーカが鳴る、というのがこのキットのウリです。 たしかにスピーカは鳴りますが、音量はやはり不足。 テスト信号を検波段出力に注入しスピーカ両端の電圧をオシロで見てみると、無歪ピークで0.2V(0.4Vp-p) 程度です。 静かな部屋で聴くならかろうじて実用になる音量でしかありませんし、音質はキンキンしています。
    これは付属の外形5cm小型スピーカが効率が悪いのが最大の原因。 スピーカユニットをきちんとエンクロージャに入れれば良くなるでしょう。 いつも使っている小型ブックシェルフスピーカにつないでみたらほどよい音質になりましたし、 音量も室内でちょうど良いレベルまで得られます。 PC用の安物スピーカでもOK。

    本機の音量調整は基板上に取り付けられた半固定トリマで行います。 これではとても不便ですから、実用とするにはケースに入れてパネルにポテンショメータを用意することになるでしょう。

    さて、このような小さな受信機で耳を澄ませて短波を聞くならやはりヘッドフォンのほうが似合っています。 ヘッドフォンで使うならこのアンプは十分すぎるパワーを持っており、ボリューム コントロールを10%以下に下げておいても十分です。
C-MOS Logic Amplifier

いろんな電波

    ラボで使っているアンテナは単なるベランダからの突き出しホイップですから、そのままではほとんど何も聞こえません。 が、MFJのプリアンプを入れ、耳を澄ませてアンテナチューナのチューニングをとると、おお! 案外にいろいろな電波が聞こえています。 アンテナチューナを利用することにより、中波帯の混信はほとんどなくすことができています。
    日本語、英語、中国語。 デジタル信号にモールス信号、どこの言葉かわからない放送、それに中国の時報局BPMも聞こえています。 うまくチューニングが取れれば音量はいきなり大きくなったりします。
    実際チューニングするにあたり、本機のバリコンはほとんど役に立っていません。 ううむ、どういうことだろう? いくら選択度が悪くても多少はチューニングが効いて欲しいのですが。
Radio Netherlands is in! Click here to listen

エアバリコンに換えてテスト中。
ラジオ ネダーランドが大きな音で聞こえています。
(クリックすると音が聞けます。MPG 126KB)

コイルを換えてみる


    減速機構内蔵の小型エアバリコンが手元にあるので、これを試してみます。 しかし、バリコンはロータを抜いた状態で感度が最大になるだけで、選択動作をしてくれません。 オリジナルのポリバリコンと同じ状態です。
    それではコイルを変えてみましょう。 オリジナルの小型高周波チョークコイルの代わりに、ポンコツラジオから取り出したAM用バーアンテナをつないでみます。 すると、バリコンを回すことによって正常に中波帯で同調を取ることができます。 つぎにパーツボックスから小さなコイルをみつけて取り付けてみると、短波帯でうまく同調がとれるものがありました。 およそ9MHzから15MHzをカバーしています。 これを使い、ベランダに出てアンテナ線をエアコンの室外機フレームにつないでみると、さまざまな短波放送が飛び込んできました。 ボリュームを10%以下に下げてあるものの、ヘッドフォンがガンガン鳴ります。 あれえ、調子いいぞ。
    元のオリジナルコイルに戻してみると、やはり芳しくありません。 どういうことだろう。 コイルの導通はあるので切れているわけではありませんが、このコイルを使うと明確な同調動作をしてくれません。

    ともかくコイルを換えれば、アンテナチューナをスルーにした状態でもベランダホイップだけでスピーカで短波が聞けます。 判別可能な最小信号強度は30dBuで、案外に良好。 駐車場で7m程度のビニール線を使いアンテナにし、車のボディをアースとしてつなぐと、たくさんの国際放送が飛び込んできました。 ただし選択度はゲルマラジオ相当ですから、強力な局がそのバンドをほとんど覆い尽くしてしまいます。 BBCのワールドサービスがよく聞こえる位置にダイヤルをセットしておくと、フェーディングによって今度は中国語の局が、 その次にはドイツ語が・・・と、各国語がつぎつぎに聞こえてきます。 まるで国際会議の後のパーティ会場のよう。 「短波が聞こえる」という成果はばっちり出ましたが、このままでは残念ながら実用性はかなり限定されてしまいます。 選択度を改善するためには・・・高周波増幅段にも同調回路を追加するか、あるいは再生をかけるか?

    なお本機は電源電圧が4Vまで低下してもあまり性能劣化なく動作します。 暗くなってしまった自転車のヘッドライト用の電池が流用できるので経済的。

つづく・・・


Return to Kits, Gadgets and Projects
Return to NoobowSystems Lab. Home

Copyright (C) NoobowSystems Lab. Tomioka, Japan 2002, 2004, 2005, 2009

http://www.noobowsystems.org/

No material in this page is allowed to reuse without written permission. NoobowSystems has no business relationships with the companies mentioned in this article.
Circuits appearing this page are for reference purpose only. They are designed by an amateur engineer - may contain error or may not work in certain conditions.

May. 11, 2002 Kit delivered.
May. 16, 2002 Circuit board built.
May. 18, 2002 Page Created.
May. 25, 2002 Updated. Receiver works fine after replacing the tuning coil.
              Sensitivity more than expected, selectivity not enough for practical use.
Aug. 17, 2002 Reformatted.
Sep. 07, 2004 Reformatted.
Jan. 01, 2005 Reformatted.
Aug. 08, 2009 Reformatted. Adapted Japanese text rendering behavior of Google Chrome 2.0.