NoobowSystems

Go to Books That Stack index page

The Grumman X-29
Steve Pace
Aero Series 41 TAB Books 1991 ISBN 0-8306-3498-3

The Grumman X-29 Cover
かっこ悪いなあ、ハネがさかさについてる

    子供の頃一緒にテレビを見ていた父親が、トレーシー島のカタパルトから発進するサンダーバード2号をみてそういいました。 私もたしかにかなりの違和感を覚えていたのですが、でも天才エンジニア・ブレインズの設計なのだからなにかワケがあるに違いない、と信じていました。
    最大積載量120トン、最高速度マッハ6.6の垂直離着陸可能な極超音速大型輸送機を開発するにあたり、 ハイラム・ハッケンバッカー博士はやはり前進翼がもつ可能性に着目したのでしょう。

    コンセプト的には第二次大戦中のドイツ機にも実用例が見られる前進翼 - フォワード・スゥエプト・ウイング - FSW - は、 特に遷音速域において少ない空気抵抗で高い揚力が得られ、大きな迎え角でも失速しにくく、また失速時のコントロール性が良く、 低い離着陸速度を実現できる可能性を持っています。
    反面その形状ゆえ、大きなふたつの欠点 - 本質的に空力安定ではないこと、 また高速においては、いったん迎え角がついて翼への荷重が増すと翼は捻られ、さらに迎え角がつき、さらに捻られ・・・ 翼は胴体から引きちぎられてしまうことになります。 それゆえ、実用的な性能を持つFSW機は事実上存在しませんでした・・・1984年12月14日にモハベ砂漠でX-29の1号機が飛び立つまでは。

TAB Books : The Grumman X-29

    マサチューセッツの古本屋Goose Cove Booksで買ったこの本は全86ページのコンパクトサイズで、 グラマンX-29 FSWの開発とテストフライトを平易な文章と豊富な写真で解説しています。 カラー写真のページにはモハベ砂漠の青空を飛ぶX-29やコクピットの写真もあり、 また技術解説のページには前進翼のメリットなどが図解説明されています。 出版の時点では2号機のテストはNASAにより依然継続中だったようです。 最後の章にはこの魅力的な機体を駆る幸運にめぐり合えたテスト・パイロットの人々のコメントが掲載されています。 デザイン・コンペティションで不採用となり実現されなかったものの、 ゼネラル・ダイナミクスのF-16FSWやロックウェルのX-FSWセイバーバットも魅力的な写真が掲載されています。

テクニカル デモンストレーター

    X-29は2機が製作され、 カリフォルニア州のモハベ砂漠にある エドワーズ空軍基地 内のNASAドライデン・フライト・リサーチ・センターでテストが行われました。 グラマン社はX-29を短期間に、そして低コストで開発するため、機体各部を既存の量産機種から流用しています。 機首はF-5Aフリーダム・ファイターのものを、エンジンはF/A-18ホーネット、 動翼アクチュエータやエンジン補機類およびメイン・ランディング・ギアはF-16ファイティング・ファルコン、 油圧リザーバはEA-6Bプロウラーから・・・など。 量産実績のある部品を使用したことは、X-29をもっとも信頼性のあるXプレーンたらしめました。 実験機でありながら、200回を超えるフライト中に大きな事故は一度もなかったのです。

    NASAのテクニカル・デモンストレーターとして、X-29は数々の新技術を取り入れています。 いうまでもなく最大の特徴はその前進翼。 高速でめくれあがって破壊してしまわないよう、特別に考慮された複合材料によって作られています。 これによりX-29は、超音速で飛ぶことのできる初めての前進翼機になりました。
    ピッチ制御は3つの翼面によって行われます。 一つは主翼の前、コクピットのすぐ後ろに取り付けられたクロース・カップルド・カナード。 二つめは主翼後縁のフラッペロン、 そして三つめはエンジンノズル部左右のストレーキ・フラップです。 主翼後縁はバリアブル・キャンバー機能をもち、 スーパークリティカル構造の主翼断面形状を飛行中に最適の形状に変化させることができます。


NASAドライデン研究所で屋外展示されているX-29の2号機。 エンジンは取り外されていますが、垂直安定板の下部にスピン・リカバリー・シュートが取り付けられているのが見えます。

X-29 Computer displayed in Smithonian museum

スミソニアン博物館に展示されているX-29のコンピュータ。
    前進翼とこれらの動翼の配置は、X-29を空力的にたいへん不安定にしています。 飛行中に生じた姿勢の乱れは収束せず、たちまち壊滅的な異常姿勢になってしまいます。 にもかかわらずX-29が飛べるのは、 デジタル・フライ・バイ・ワイヤ飛行制御システムが1秒間に40回のペースで動翼制御を行っているからです。

    3重に冗長化されたフライト コンピュータは、 3つのユニットがそれぞれデジタル コンピュータとアナログ コンピュータ、それに独立した電源装置を持っています。 もしひとつのデジタル コンピュータが故障しても残りの2台で飛行します。 もし2台のデジタル コンピュータが故障した場合はシステムはアナログ モードに移行し、 アナログ コンピュータにより制御が続けられます。 さらにアナログ コンピュータのうち1台が故障しても残りの2台で飛行が可能。

    機体がスティックの操作にどのように反応するかはソフトウェアで設定することができます。 X-29の1号機はテスト初期のため穏やかな挙動しか取らないようにセットアップされていましたが、 テスト後期の2号機では最大70度という驚異的な迎え角を許容するプログラムが用意されています。
    本来不安定な機体を無理矢理飛ばすこの技術の開発は、後のF-117ナイトホークのように特異形状をした航空機の実用化に寄与したといえるでしょう。


    X-29はあくまでも小型軽量のデモンストレーターであり、戦闘機のプロトタイプではありません。 そもそも最高速度を狙った設計でないことは、固定式のエア・インテークに代表されます。 このため、X-29が記録した最高速度はマッハ1.48にしかすぎません。

    現代の戦闘機は純粋な空力性能よりもレーダー・シグネチャの低減が優先されますから、 X-29がこのスタイルで戦闘機としてデビューすることはもはやないでしょう。 しかし幻の傑作機ノースロップF-20タイガーシャークを強く思い起こさせるそのシルエットはきわめて魅力的であり、 歴史を作った航空機であることに間違いはありません。

X-29 Mockup

スミソニアンの航空博物館に展示されているX-29のモックアップ。シャープなシルエットです。


モハベ砂漠で、X-29はその技術の先駆者である2機と並んで展示されています。 奥はスーパークリティカル・ウイングの実験機F-8ASCW、真中はデジタル・フライ・バイ・ワイヤの実験機F-8C DFBW。


Go to Books that Stack
Go to NoobowSystems Lab. Home

http://www.noobowsystems.org/

No material in this page is allowed to reuse without written permission. NoobowSystems has no business relationships with the companies mentioned in this article.

Copyright (C) NoobowSystems Lab. Tomioka, Japan. 2000, 2002, 2004.

Jun. 18, 2000 Created.
Aug. 16, 2002 Reformatted.
Sep. 05, 2004 Reformatted.