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Vacuum Tubes in Wireless Communication
A Practical Text Book for Operators and Experimenters
Elmer E. Bucher, 1918,1919 Wireless Press Inc.
Reprinted by Lindsay Publications Inc. 1990 ISBN 1-55918-014-2

Vacuum Tubes in Wireless Communication
    初期のラジオ技術誌のリプリントを発行しているLidsay Publicationsの本はどれもたいへん興味深いものです。 この"Vacuum Tubes in Wireless Communication" - 「無線通信における真空管 - 通信士と実験家のための実用的なテキスト」は、1918年、大正7年出版。 真空管を使用した無線受信機・送信機の動作原理を詳細に解説しています。

    回路図やグラフなどのイラストを多数利用し、 各種の真空管の写真もたびたび出てきますが、あるメーカーの特定の型番の球の解説ではありません。 またどの回路図もたとえばコイルの巻線数やコンデンサの容量などのデータは掲載されておらず、受信機の機械構造や配線技術などには触れられていませんので、実際に受信機や送信機を組み立てるにはこの本だけでは不十分です。 受信機・送信機の実物の写真もありません。唯一の例外は、序章で掲載されているアメリカン・マルコーニ109型。電子機器というより、ほとんど機械物の同調器といえます。

    ペーパーバックで200ページにわたるリプリントは印字品質も良く、オリジナルの序文・目次から巻末の広告(Wireless Press Inc.の他の出版物の広告)までカバーしています。 
    1910年代といえば一般向けのラジオ放送が開始される前の時代。無線通信の実用性は広く理解されるところになっていますが、利用されているのはもっぱら 船舶通信など業務上最も必要とされる分野だけ。一方で多くのアマチュアがこの最先端のテクノロジーを研究していました。 多くの送信機はまだ火花式あるいは高周波発電機によるもので、真空管発振・増幅回路によるものへの移行が進行中でした。 音声を電波で伝える無線電話の技術も発展途上で、方式としては完成されていません。

    黎明期ゆえ使われている用語も現在と異なるものもいくつかあります。 キャパシタはコンデンサと呼ばれ(日本では現在もコンデンサ)、ヘッドフォンのことはテレフォンと呼ばれています。タイトルでは真空管はVacuum Tubeですが、本文中ではValveのほうが多く用いられています。 現代なら「入力信号」"incoming signal" というべきは "incoming oscillation"と書かれています。「入力振動」とか訳すべきでしょうか。

    真空管はまさに黎明期のものといえます。フレミング・オシレーション・バルブやスリー・エレクトロード・バルブ(いわゆる3極管ですがまだトライオードと いう言葉はなく、エレクトロン・リレーとも呼ばれていました)、ダイナトロン、ケノトロン、プリオトロンなどさまざま。 さらにそれらを使った実際の受信機回路となると、5球スーパーなどの技術的に完成した回路にしかなじみのない者には大変奇異に見えます。 田口達也氏の「ヴィンテージ ラヂオ物語」 (誠文堂新光社 ISBN4-416-19310-6) にでてくるラジオ受信機は、この本の時代を基準にすれば全て超高性能でスーパーモダンなハイテクマシン、ということになってしまいます。

    それまでの主流であった火花式送信機の場合、簡単な検波装置を使えばモールス信号をヘッドフォンからの音で聴くことができました。 しかし真空管を使ったCW送信機の場合は、単なる検波回路を使用したのではキーダウンされ電波が出ているときもキーアップされて電波が出ていないときも音は聞こえません。 そこでさまざまな回路が考案されます。次の2球CW受信機を見てみましょう。

Two tubes receiver


     これは受信機の発明王、アームストロングによるもののひとつ。この受信機では、送信機がキーダウンされて入力信号があるときだけ、ヘッドフォンから発振音が聞こえます。 最初の真空管V1のプレート回路には、M-1で示された低周波トランスが入っています。M-1の反対側巻線はV1のグリッド回路に入っており、V1は低周波領域で発振動作をします。 アンテナ回路から入ってきた振幅一定の高周波入力信号はV1の低周波発振動作のために音声周波数で振幅変調されます。 この信号は高周波トランスM-2を介して次段の真空管V2のグリッドに印加されます。V2のプレート信号は再生トランスM-3によってグリッドに戻され、したがってV2は再生検波・増幅動作を行い、プレートに入れられたヘッドフォンP-2を駆動します。

    ・・・・ということなのですが、実際に使ってみたらどうなるでしょうか。 B電池を3個、フィラメント電池を2個。調整ポイントはアンテナコイルのタップが2箇所、低周波発振トランスの共振周波数調整のバリコン2つ、V1のグリッド電圧調整ポテンショメータ、同調を兼ねる高周波トランスM-2のタップとバリコンC-3、グリッド カップリング コンデンサC-4とヘッドフォン バイパスのC-3、それにフィラメント電流調整が2つ。 カーペットに穴を開けながら希硫酸入りのバッテリーを用意したら、次はなんと11個のつまみを操作して受信に挑みます。 うまくいかなくても冷静に・・・・熱くなって汗でもかこうものなら、ヘッドフォンにかかっている100Vかそれ以上のB電圧に感電して気絶しますよ。

    初段の真空管V1のグリッド電圧はバッテリーB-3によって固定バイアスが与えられますが、次段のV2のグリッドは直流的に浮いていることに注意。この本に出てくる回路の多くは、グリッドは直流的に浮いています。 カソード抵抗を使ってバイアスを作るというテクニックはどこにも見当たりません。実際にはコンデンサのリークあるいは絶縁不良が大きな役割を果たしていたのでしょう。

    通常のCW受信機では、ダイヤルを回し相手局の信号に同調していくにつれ受信音の周波数が変化しますが、この受信機ではすべての信号が同一の周波数で聞こえます。 もし混信があると (単同調なので当然混信があるでしょう)、聞き分けるのは至難の業なのではないかと思われます。

    次の方式はどうでしょう。この本の著者Elmer E. Bucher氏が自ら発明した特許です。

Rotary Tuning Cap Receiver

    アンテナ同調回路を構成するコンデンサC-2はモータ駆動によって高速回転するロータリー・バリコンです。同調周波数が高速で周期的に変化するので、入力信号の強度もモータの回転とおなじ周期で増減することになり、したがって振幅一定のCW信号に変調がかかります。 これを2極管で検波し、3極管で増幅します。 段間結合トランス2次側に入ったバリコンC-3によって低周波増幅回路の周波数特性のピークを調整することができ、補助的な同調・選択機能を持っています。

    さて、この特許の目玉のモータードリブン・ロータリー・バリコンですが・・・・仮に1000Hzの音声周波数が欲しいとすると、実にバリコンのシャフトを 60000r.p.m.で超高速回転させる必要があります。こりゃあハンパな細工じゃだめだぁ。12000r.p.m.で200Hz、というのが現実的で しょうか。一回転で複数回容量が増減する構造にしておくのが現実的でしょうね。だれかトライしてみてください!


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Oct. 06, 2001 Created.
Aug. 17, 2002 Reformatted.