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Invisible Universe Revealed: Click here for larger image
The Invisible Universe Revealed

The Story of Radio Astronomy
Gerrit L. Verschuur
(1987)

Springer-Verlag
ISBN 0-387-96280-8

「ついで買い」のヒット

    古本屋さんをサーチして読みたい本が見つかって注文するとき、 1冊だけ買うと一番安い船便でも送料のほうが本の価格よりも高くなってしまう場合が多いものです。 ので、同じ本屋さんをもうちょっとサーチし、ついでに何冊か買えばずっと割安感があります。
    この本もそうした「ついで買い」。 ウェブでサーチできる古本屋さんは、装丁の程度についての記述はしっかりしていますが、 本の内容が自分の希望に合っているかどうかはほぼ確信できません。 立ち読みできるウェブ古本屋さんの出現が待ち遠しいです。 届いたこの本はきれいな写真印刷のハードカバーをもち、程度は良好。 中身は、むむ、確かに時代遅れだけれど、文章も読みやすいし、とても面白い! あとで調べてわかったことですが著者の Gerrit L. Verschuur はこのほかにも何冊かの一般読者向け科学解説書を書いているプロのライターのようです。 どうりで読みやすいわけだ。 これはヒット。
    現代天文学の発達はめざましく、現在では常識あるいは当然とされていることがらも15年も前の本の中では全くの未知数かもしれません。 ま、「ついで買い」ですから。


見えない宇宙を見る

    この本は1974年に同じSpringer-Verlag社から刊行された The Invisible Universe - The Story of Radio Astronomy" を全面的に改訂したもの。 電波天文学とはなにか、にはじまり、何が見えて何がわかるのか、 現在までに発見されているさまざまな宇宙電波源の正体、電磁波の発生メカニズム、 電波によって解明された天体の驚くべき姿が一般読者にも理解できる形で平易に解説されています。 すべてモノクロながら、ラジオグラフ (電波による観測結果を画像化して天体の姿が見られるようにしたもの) や各種のグラフ、電波発生メカニズムのイラストなども豊富に掲載されています。 著者は 「最近発行された別の書物で詳細に記述されているからあえて要約のみとした」としながらも、 電波天文学の歴史をしっかりと解説してくれています。

    電波天文学が芽生え始めた頃、可視光望遠鏡を使う従来からの天文学者、理論物理学者、 そしてアンテナと受信機を使う電波天文学者の間ではお互いの情報交換が乏しかったようです。 理論物理学者が、ビッグバンの名残として宇宙の背景には10Kかそこらのマイクロ波背景放射があるはずだと論文を書いている間、 電波天文学者はアンテナで検出されるノイズの原因を探ることに苦心していました。
    ベル研究所で研究していた Arno Penzias Robert Wilson は1961年、地球大気、大地、ケーブルそして受信機そのものから発生するノイズの量を調査しましたが、 説明のつかないノイズが10Kほど残ってしまうことに悩んでいました。 さらに調査を進めたところ、ホーン アンテナの中に2羽の鳩が巣を作っていて、それがノイズとなっていたことを発見しました。 鳩を町外れまで運んで逃がしましたが、その鳩は伝書鳩だったのか、 ふたたび古巣のホーンアンテナに戻ってきてしまったのです!
    鳩が入らないように新たにアンテナに網を取り付けて鳩問題は解決しましたが、それでも説明のつかないノイズは3Kほど残っていました。 これが後の1963年に、ビッグバン宇宙論で予言されていたマイクロ波宇宙背景放射の直接的観測となったのです。

注記: ベル研究所のウェブサイト によれば、マイクロ波宇宙背景放射の発見は1965年で、両名は1978年にノーベル賞受賞、とあります。 私の読み違いだったのか、本を再度読み直したいのですが、本はラボのどこかにうずもれて再発見できていません。

注記(2): 本書によると、両名がベル研で活動開始したのが1961年、3Kの背景放射を実在のものとして認識したのが1963年、 背景放射について論文を発表したのが1965年、となっています。

    ラジオ受信機とアンテナはビッグバン宇宙論を証明しましたが、疑問はさらに続きます。 原始宇宙が本当に一様であれば、現在のように星や銀河系の分布に偏りのある宇宙にはならなかったはずだ、 今のような宇宙であるためには原始宇宙にもなんらかの偏りやゆらぎがあるはずで、 したがってマイクロ波宇宙背景放射強度の観測結果も全天一様ではなくゆらぎがあるに違いない、と理論から予見されていたのです。 この本の刊行の時点では、世界の最先端の機材をもってしてもこの背景放射のゆらぎは検出できていませんでした。 しかし今では、COBEの観測結果によってわれわれはこの結果を知っています。

Nobeyama Radio Observatory

臼田宇宙空間観測所 のパラボラアンテナ
(2000年04月撮影)

これは衛星追尾用の設備ですが電波望遠鏡としても使われているとのこと。
    この本は電波天文学そのものの解説書なので、電波望遠鏡に実際に使用されている、 あるいはされていた受信機の技術に関してはほとんど触れられていません。 はるか宇宙の果てからとどくか細い電波を捉えるにはきわめてローノイズな受信機が必要で、 このあたりの解説が読みたかったのですが。
アンテナに関してはパラボラアンテナの簡単な説明があり、また位置分解能を向上させるための干渉計、 合成開口レーダーやVLBIなどについての解説があります。

    最新の電波望遠鏡の紹介としてはニューメキシコのVLA (アーサー・C・クラーク原作「2010年」の映画版の冒頭でフロイド博士がメインテナンスしていたパラボラアンテナ) があり、また「いままでぱっとしなかったが、とうとう日本が最新の設備で電波天文学の仲間入りをした」との紹介で 野辺山の45メートル電波望遠鏡 が登場しています。

    電波天文観測では大規模なアンテナや高感度・ローノイズの受信機がもちろん一番重要ですが、 ノイズだらけの膨大なデータのなかから意味のある情報を引き出すためにはやはり膨大な量の計算が必要になります。 この本が書かれた舞台となった National Radio Astronomy Observatory で当時使用されていたVAXコンピュータではやはり能力不足で、 当時最強のスーパーコンピュータCRAY-1をハリウッドのスタジオで借り、それまでに得られなかった鮮明な画像が得られた、とあります。
    いまや家庭の一般ユーザですら当時のスーパーコンピュータをしのぐ計算能力、 記憶容量そして高速ネットワークを使える時代となりました。 これらのコンピューティング パワーが電波天文学にもたらした恩恵は計り知れないものがあるでしょう。 その結果は National Radio Astronomy Observatory をはじめとする電波天文学ウェブサイトで美しいラジオグラフとして見ることができます。

美しい星空を

    天文台がアリゾナのキットピークにあるのは、晴天の日が多く空気が乾いて澄み切っているからだけではありません。 人の住む街から遠く離れていて、人工の光による 光害 がほとんどないからです。 それでも 理想の天体観測環境を守る ため、近くの町では街路灯にシェードをかぶせて上空への光の放射を減らすなど、市民の協力により多くの努力が払われているのです。

このことを考えると、最近の自動車のヘッドライトは用もないのに大きく上面までガラス部が伸びていて、 天文学のことに全く無神経であるといえます。 (その点私のアレクセイ・レオーノフ号は規格サイズの角目4灯、しかも車両前面より窪んで取り付けられています。 なんと星空思いなんでしょう!)

    これと全く同様に、電波天文観測においても人工電波による 観測妨害はますます深刻 になってきているようです。 この本にも、スプリアス放射に無神経な設計の送信機をもつ人工衛星による妨害がひどくなってきていることが書かれています。 稼動を開始したNAVSTAR (いわゆるGPS衛星) はまるで夜空にこうこうと輝く照明灯のようである、とあります。 当時はあまり普及していなかった1GHz以上の周波数も、いまや携帯電話やら無線LANやらでまるで騒々しくなってしまっています。 野辺山宇宙電波観測所のオープンディに行ったら、訪れていた多くの観光客が無神経にもあちこちで携帯電話を使っていました。 が、場内には携帯電話の使用を禁止する張り紙があるわけでなし。 野辺山の観測は115GHz帯なので1.5GHzの携帯電話は大丈夫、だとしても、 あまり遠くない未来に普及しそうな自動車の衝突予測レーダーからの76GHz帯はどうでしょうか? 美しい夜空を守りたいという声は、残念ながら多数の人の無知と利便性追求の商業主義の前には訴求力に乏しいようです。


地球外知的生命からのメッセージ

    大きなアンテナと高感度な受信機を遠い星に向けていれば、そのうち知的生命からの信号を受信できるのではないかと思うのも当然。 1967年に Jocelyn Bell が学生たちの手作りアンテナで受信された信号のペンレコーダ記録紙を眺め続けているうちに、 説明のつかない規則性を持った信号を発見しました。 これは後にパルサー - 超新星爆発の中心に残った中性子星の高速自転による周期的な電波放射 - であることが判明しましたが、当初はそのあまりの正確さに知的生命文化からのビーコン信号ではないかと思われたのです。 この本では後半に属する1章を割いて、地球外知的生命からのメッセージを探す活動、主にSETI の活動を述べています。 ETIは存在するのだろうか? どの周波数を、どちらに向けて耳を澄ませばよいのだろうか? それとも、それは無駄な努力なのだろうか? ETIが存在するとすれば、今までまったく受信できていないのはどういうわけなのだろう?

    ひょっとするとわれわれは、静かな6mSSBバンドを聞いているようなものなのかも知れません。 静かなノイズしか聞こえないのは、世界のアマチュア無線家がすべて息絶えてしまったのではなく、 みんながみんな、DXが聞こえるかもしれないと思って息を凝らして耳をそばだてているだけかもしれないのです。 誰かがCQを出せば、たぶん別の誰かが応答してくれるはず。 でもあまりの遠距離ゆえに自分が生きているうちに応答を得ることは不可能だと知ったら、誰が送信ボタンを押すでしょうか?
    それでも、無線局免許状がとどいたあの日に私が震える手で握ったマイクにしゃべった初めてのCQ呼び出しは、いまや26光年先まで届いているはず。 実際には私の ICOM IC-502 のホイップアンテナからの出力3Wの信号はもう3K背景放射にうずもれてしまっているでしょうけれど。 でもあなたがハイパワー運用をしていたなら、地球から13光年以内にある23個の恒星系にいる誰かが応答していないとどうして言い切れますか? さあ、可能性を信じて受信機の電源を入れてみましょう。 うまくすれば、生きているうちにもう一往復、シグナルレポート交換とQSLカードの約束ができるかもしれませんよ!


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Oct. 14, 2002 Created.
Nov. 01, 2002 Revised.
Nov. 05, 2002 Revised and uploaded.
Jul. 25, 2003 Fixed incorrect Japanese usage.
Jan. 16, 2005 Reformatted. Added comment on the discovery of the cosmic background radiation.
Nov. 26, 2005 Lost book rediscovered. Added comments on the Microwave background radiation discovery.
May. 29, 2006 Added a link to IC-502.
Nov. 23, 2006 Japanese typo Correction.