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HAL's Legacy
HAL's Legacy

2001's Computer As Dream and Reality

Edited by David G. Stork
Forword by Arthur C. Clarke

The MIT Press 1997 ISBN 0-262-19378-7 Hardcover


    「・・・ドアを開けろ、ハル」
    「申し訳ありませんが、そういうわけにはいかなくなりました」

    アメリカで文化人として生活し、その文化を本当に理解しようとすると、 キリスト教とシェイクスピアの知識と理解がいたるところで必要となってくることを痛感します。 同様に、シリコンバレーで本物のコンピュータ・エンジニアになるには、やはり2つの基本的な知識、教養と理解が必要となります。 ひとつは大衆文化としての<スター・トレック>、もう一つはコンピュータ・サイエンスとしての<2001年宇宙の旅>。 たとえきちんとしたプログラムが書けても、この二つに感銘したことのない、あるいはできない人間は、 単なる職業プログラマ - 当時のシリコンバレー文化で強い軽蔑の意を含む - としかみなされません。
    「ようし、ファイルを書き直してチェックインしたぞ。コンパイルしてみてくれ。」 「申し訳ありませんが、dan、そういうわけにはいかなくなりました。メイク・クリーンしてしまったのです」 「それなら、やむを得ない、フルビルドだ。」 「ビルド・スクリプト無しでかね? 助かる見込みはまず無いな。」

    この本は、アーサー・C・クラーク原作、スタンリー・キューブリック監督による映画「2001年宇宙の旅」に出てくるコンピュータ、HAL9000に関するものです。 で白状すると私は、同書の日本語翻訳版 「 HAL伝説 - 2001年コンピュータの夢と現実 」(日暮雅通監訳 早川書房 ISBN4-15-208095-7 ) を買ってこっちで読んでしまったのです。 だってオリジナルは結構難しいんだもん。 ちなみに日本語版はオリジナルの本の倍の値段がします。 翻訳の労力があるから仕方ないとは思うけど、日本の本ってどれも高いよぉ。

    月の裏側のティコ・クレーターで検出された地磁気異常、TMA-1。 その地下に埋蔵されていた謎の物体モノリス。 モノリスが突然放射した電磁波が向けられていた木星を探査するため、宇宙船ディスカバリー1号が調査に旅立つ。 人間の言葉を理解し、宇宙船の全機能を制御する高性能コンピュータHAL9000はなぜか異常な行動を見せ、乗組員を殺害し始める・・・・。 「2001年宇宙の旅」の凄さは、それが人類初の月着陸以前に作られたSF映画でありながら、現在でも色褪せないリアリティを持っているということです。 そのストーリーあるいは真意は映画を1回見ただけでは理解できない難解なもので、小説版および映画の続編「2010年」を見てなんとか筋が見えてきます。 クラークの小説版とキューブリックの映画とでは相違点がかなりあるのも興味深いところ。

    「2001年宇宙の旅」が描いた未来である2001年が現実となり、その偉大な先見性による未来予測の当たり外れを見てみると実に興味深いものがあります。 残念ながらワイシャツで生活できる月面基地は完成していないし、宇宙ステーション往還機を運行していたパンナム航空は倒産してしまいました。 クラークはまた、小型で高性能のマイクロプロセッサによる分散ネットワーク コンピューティングを予測することはできませんでした。 HAL9000は人が中に入れるほどの記憶装置を持つ大型のスーパーコンピュータなのです。 ですから小説・映画の中で、HALが開発されたのはイリノイ州アーバナ - 当時の大型コンピューティングの中心地- であり、決してシリコンバレーではありませんでした。

    HAL9000がその後のコンピュータ科学に与えたインパクトは実に大きいものでした。 ハードウェア工学、ソフトウェア工学、パラレリズム、フォールト・トレラント設計、音声認識、画像認識、言語、プランニング、心理、認知科学そして人工知能。 何人もの専門家がそれぞれの分野の立場から、HALが見せた未来、現在の研究成果、そして今後の可能性についてこの本の中で述べています。 HALは私のようなできそこないプログラマだけではなくて、トップクラスの研究者たちをも魅了し、夢を与え、 あるいはアンチテーゼとなってコンピュータ科学に影響を与えつづけてきていたのです。 コンピュータは知能を持てるか? この単純な質問に、いまだに唯一の明確な答えはありません。 この本を読んだあとさらに知ろうと思えば、ロジャー・ペンローズをはじめとする多くの学者の本を片っ端から読む羽目になるでしょう。 こうなると私の英語力では歯が立たないから、高くても日本語訳を買うことになります。

    x86アーキテクチャのコンピュータは初期型クレイ-1をはるかに凌ぐクロックスピードとメモリを持つようになりましたが、 できることの本質はアルトが示したものからそう変わっていないようにも思えます。 やはり真の可能性は並列アーキテクチャにあり・・・・ しかしシンキング・マシンズはすでに存在せず、並列機はビジネス的にも苦しく、HALが描いた世界にはまだまだ到達できそうにありません。 で、ちっぽけな1プログラマに過ぎない私はただ未来のコンピューティングを夢見るのです。

    ので、全く新しいプロセッサをもつ次世代システムのためのGDCデバイス・ドライバを新規に書き起こす仕事を任されたとき、 このシステムが最初に表示すべき画面として私が用意したのはこれでした。 この時点では音声出力機能はまだ動作していませんでしたが・・・。     いっぽう、システムの起動・停止とシステム異常監視をおこなうスーパーバイザー・プロセスも私の担当でした。 最初の頃、フェイタル・エラーが発生するとこの画面が表示されるようにしておいたのですが・・・ あまりにもこの画面ばかりだったのでやめてしまいました。


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