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Signal Corp Code Oscillator
Model Unknown


敬老会に参加する

    サンタ・ローザという、サンフランシスコから北に数10マイル行ったところの町でアマチュア無線クラブのスワップミートがあると聞き、 ドライブがてらはるばる出かけました。 1995年のことです。 クラブ主催のローカルイベントに参加するのは初めて。 会場は公民館のようなところで、驚いたのは参加者がみなおじいさん。あたかも敬老会に来てしまったようです。 後で知ったのですがアメリカのハムの平均年齢はすでに50歳の半ばを超えているそうですね。 会場の前に新型のリンカーンが止まったかと思うと助手席からおじいさんがよろよろと降りてきて、 運転席のおばあちゃんが「先に行ってらっしゃい、私は車を駐車場に停めてからいくからね。 早くしないといい出物が売れちゃうわよ」と声をかけています。 かと思うと、おそろいの派手なピンクのTシャツを着た老夫婦がテーブルの上にドレーク4ラインを並べて、通り過ぎる人に声をかけています。 おじいちゃん・おばあちゃんがこんなに楽しそうにしている姿は日本ではあまりお目にかかれません。 いいなあ!

これは何だ?

    スワップミートはしかし、まさにジャンクばかりで特にめぼしいものはありませんでした。 やがてオークションが始まり、いろいろなジャンク品が3ドルとか10ドルとかでせり落ちています。ここまで来たんだから何か買って帰ろうかな。 で、なにやら軍用の無線機のようなものが出ました。 あまり人気のあるものではなさそうで、値段も数ドル。 適当に値をつけたら、せり落とすことができました。

    ガレージに戻って、この鉄の固まりを調べ始めました。 かすれてしまっていますが、アメリカ軍通信部隊のものであること、 一度大掛かりなメインテナンスを受けていることがパネルから読みとれます。
    パネルにはパワー・スイッチ、周波数調整つまみ、ボリュームつまみ。スピーカのようなものと、KEYと書かれた端子。 マジックアイのようなガラス管。 どうやらCWのトランシーバのようです。 で、どこにアンテナをつなぐのかな、とみると・・・そんな端子はありません。 ただKEYターミナルがあるだけ。 思わせぶりなカバーがフロントパネルにあり、それを開けてみると、ただヒューズホルダがあるだけ。 この機械は一体何だ?

まさか、それだけのために・・・?

    フロントパネルにネジ止めされているオペレーティング・インストラクションにしたがって、電源を入れてみました。 STタイプの真空管が3本あり、いずれもヒータが灯りました。 インストラクション通り、KEYターミナルをジャンパーコードでショートしてみました。すると・・・ スピーカからピーと小さな音が出ます。 ボリュームを上げると発信音も大きくなり、周波数調整つまみを上げると発信音が高くなります。 ひょっとしてこの大きくて重たい鉄の固まりは・・・ モールス練習機!?

    底板を開け、内部配線を見て確信しました。 これは本当に、電波など出ない、単なるモールス練習用のコード・オシレータなのです!
    もう一度パネルの消えかかったスタンプを見ると、Cxxx xxAIxING xxNxxxxx が、CODE TRANING なんとか であるように思えます。

高級オシレータ

    この単なるコード・オシレータにはもう一つ機能があります。 周波数つまみを最低に絞ると、音が出る代わりに、フロントパネル中央のネオン・ランプがキー操作に応じてオレンジ色に光るのです。 そういえば船では光で信号を送ることがありますね。 しかし、これなら乾電池と豆電球で済むのでは・・・。
    スピーカはマグネティック式で、むしろブザーといったほうが良いような仕組み。 真ん中にあるネジでアーマチュアの間隔を調整し、音がもっとも大きくなるようにします。 しかしポケットラジオ程度の音量でしかありません。
    もう一つのすごいしくみは、動作電源がなんと 6VDC、12VDC、24VDC、115VDC、115VACそして230VACのどれでも良いこと。 フロントパネル中央のロータリースイッチで切り替えます。 このスイッチは指ではまわすことができず、電源プラグを差し込んでまわすのです。 なるほど、こうすれば電源プラグをつないだままうっかり切り替えてしまう事故が防げます。 でも、どうやってDC6Vで真空管を働かせるのだろう?

信じられない作り

    頑丈なシャーシの内部を見ると、ほぼ3分の2が電源回路で占められています。 大型の電源トランス、大きなオイル・コンデンサ、そしてソケット差し込み式のバイブレータが6V用と115V用の2個。 直流電源のときはこの機械式バイブレータで交流を作り、低圧電源のときはトランスで昇圧するのです。 その後、6X5GT (VT-126) 全波整流管でB電源が作られます。
    シャーシの内部、電源回路と発振回路は金属板で完全に仕切られており、B電源とヒータ電源の線だけが仕切り板を貫通しています。 バイブレータのノイズを極端に嫌った設計なのでしょう。
    発振回路には2つの6G6G (VT-198-A9) 出力用5極管が使われています。 配線をしっかり追いかけたわけではありませんので推測ですが、おそらく1本が発振用、もう一つが出力用でしょう。
    シャーシ内部の配線はこれ以上はない丁寧な仕事ぶりで、さらに念入りに防湿ニスを塗られています。 真空管は抜け止めの金具でシャーシに固定されています。 これが軍用の電子機器なんだな、と感心させられました。 たかがモールス練習機なのに! かなりのコストがかかっているはずのこの機械は、 しかし結局乾電池とブザー、それに豆電球でこしらえた子供のおもちゃ以上のものではありません。
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どうしようもなく

    で、この機械をどうしたらいいのでしょう。 まさかこれでもう一度モールスの練習をするわけでもないし、骨董品の価値がある訳でもなし。 結局何もできず、今に至っています。 やはり二束三文でスワップミートで売るしかなさそうです。
    それにしても・・・。 明らかに第二次世界大戦以前のこの機械は、いかに当時のアメリカが豊かであったかを (あるいはいかにミリタリー品が過剰品質であったかを)思い知らせてくれました。


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